●リプレイ本文
ドンドンとM1戦車の砲声が海岸に響き渡る。
海岸に上陸した水陸両用型ゴーレムの迎撃に出た戦車隊はタートルワームのプロトン砲も射程外に布陣し、砲火をゴーレム自体ではなく、ゴーレムの足元へと集中させた。
そうしてゴーレムの体制を崩した後に本体に当てて転倒を促し、少しでも進行を遅らせる。完全に足止めを主体とした戦術を行っていた。
なんとも消極的戦術ではあるが、これがゴーレムのフォースフィールドを貫く事が不可能な戦車隊にできる最上の策なのだ。
しかし、そんな戦術で戦線を支えきれる訳もなく、戦車隊はじりじりと後退を余儀なくされていた。
「くそっ! 援軍はまだかっ! もうこれ以上は持ちこたえられないぞ!!」
戦車兵の1人が叫んだその時。
「やっほー、騎兵隊の参上だよー」
無線機からクリア・サーレク(
ga4864)の元気な声が響き、上空を6機のKVが飛来し、2機のKVが戦車隊の後ろから姿を現す。
「後は私達が引き受けます。戦車隊は後ろに退がってください」
「了解した。健闘を祈る」
戦車隊は平坂 桃香(
ga1831)の指示に従って、ゴーレムに砲火を放ちながら後退。
戦車隊がいたスペースに新居・やすかず(
ga1891)のS−01Hが上空から変形しながら降下。
着地するとすぐに機体を伏せさせ、スナイパーライフルRを構えて射撃体制に入る。
「選手交代です。早速、我々は我々の仕事を果たすとしましょうか」
「水陸両用のゴーレムと亀ですか‥‥。もし量産などされると厄介かもしれませんな。あっさり倒してしまえば『使えない』と判断してくれるかもしれませんので、全力でいきましょうかね」
飯島 修司(
ga7951)は言葉どおりに、いきなりディアブロに内臓されたブーストを発動。
猛烈に加速した愛機のGに耐えながら、ゴーレムの手前で変形。
ハイ・ディフェンダーを盾にしながら自由落下でゴーレムに突っ込んでゆく。
当然、ゴーレムからは拡散フェザー砲で狙い撃ちされるが、ハイ・ディフェンダーのお陰でほとんどかすり傷だ。
そして着地の衝撃で大量の砂を巻き上げながら、まず目の前のゴーレムに『機槍ロンゴミニアト』を突き立てる。
ロンゴミニアトは鈍い破砕音を響かせてゴーレムの装甲を突き破ったが、これで終わりではない。
「喰らえっ!」
修司が手元のスイッチを入れると、ロンゴミニアトの先端からゴーレムの体内に流し込まれた液体火薬が発火。
ゴーレムは内部から自らの装甲を弾け飛ばしながら爆発した。
この一撃でゴーレムはグラリと身体を傾け、そのまま倒れるかと思われたが、なんとか踏ん張り、体制を立て直す。
「意外と頑丈ですな」
確かな手ごたえを感じていたため、てっきり倒せたものと思っていた修司に傷ついたゴーレムが爪による反撃を仕掛けてくる。
だが、修司はその攻撃冷静に見極め、左足を踏み込んで間合いを詰めつつ、左手でハイ・ディフェンダーを途中まで鞘走らせると、左手と鞘を支点にして刀身でその一撃を受け止めた。
ゴーレムの爪と刀身との間で火花が飛び散り、甲高い金属音が響き渡るが、攻撃の勢いは完全に削ぐ事に成功し、敵は完全に無防備だ。
修司はその隙を逃さず、ハイ・ディフェンダーを引き抜き、上段から振り下ろす。
ハイ・ディフェンダーの一撃はゴーレムの装甲を断ち、深く傷つけたが、敵はまだ倒れる様子がない。
しかし今度は敵に反撃する暇も与えず、再びロンゴミニアトを突き刺す。
しかも『アグレッシブ・フォース』まで使った必滅の一撃だ。
修司が手元のスイッチを入れて液体火薬を発火させると、ゴーレムは頭まで吹き飛び、今度こそ確実に爆散した。
「思っていたよりも手こずりましたな‥‥」
タートルワームよりは組み易いと思っていたゴーレムの意外な強さを認識していると、不意に機体に衝撃が走った。
「うおっ!?」
咄嗟に操縦桿を操って転倒だけは避け、衝撃が走った方向に機体を向けると、すぐ傍まで別のゴーレムが接近しており、爪を振り上げていた。
修司はその2撃目も避ける事はできず、彼のディアブロは前面と背面の装甲をかなり削られ、内部機器にも少なからずダメージを負った。
しかも、3機目のゴーレムも接近中。
一人ブーストを使って先行したため、修司は敵に囲まれつつあった。
しかし、その前に熊谷真帆(
ga3826)がロケット弾をゴーレムの足元に撃ち込んで動きを抑え、D−02を放ちながら援護に駆けつけてくれる。
「飯島さん、1人で突出しすぎですよ。ちゃんと歩調を合わせください」
「いや、すまない‥‥」
一回り以上も年の離れた少女に叱られて、かなり情けない気分になりながら修司は2機目のゴーレムは真帆に任せ、自分は3機目と正対する。
「一機たりとも逃しはしませんよ。このロンゴミニアトで一気に畳み掛けます」
真帆はバイパーにロンゴミニアトを構えさせるとゴーレムに突きつけた。
その頃、ジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)と、桃香とタリア・エフティング(
gb0834)はゴーレムを他の5人に押さえてもらっている間にタートルワームへの接近を試みていた。
彼らの眼前に自ら噴いた潮に包まれて全体像が掴みにくくなっているタートルワームの姿が徐々に近づいてくる。
「亀のくせに、鯨の真似なんて気に入らねえなっ!」
ジュエルはテンタクルスのブーストを発動させ、他の2人よりも前に出た。
それは2人よりも足の遅い自機が遅れないようにするためであったが、桃香とタリアがタートルワームに狙われないようにする意味もあった。
『女性の扱いに対しては紳士たれ』
それが彼の信念なのだ。
そして彼の思惑通り、タートルワームは照準をジュエルに向けてくれた。
タートルワームのプロトン砲に危険な光が灯り、それが一気にジュエルのテンタクルスを包み込む。
「ぐわぁーー!!」
コクピットを激しい衝撃が襲い、ダメージ表示モニターのアチコチが赤く点灯、危険を知らせる警報がガンガン鳴る。
「ジュエルさん!!」
「ジュエルさん、無事ですか? 応答してください」
「あぁ、俺は平気だ。これぐらい全然なんともないぜ〜」
心配そうな桃香とタリアの無線に明るい口調で応えるジュエルだが、実際はそれほど平気ではない。
しかし、たとえ機体が爆発寸前だったとしてもジュエルは女の子に弱音を吐いたりはしないだろうし、女の子を笑顔にするためならどんな無理だってする。
そういう男だ。
それに、機体の方も機動不能になるような深刻なダメージだけは負っていないし、警報もモニターと各部のコンパネの操作で止んだ。
「よし! まだまだいけるぜ」
だが、さすがに2撃目を受けても平気でいられる自信はジュエルにもなかった。
そんな時、彼らの目の前が不意に煙で包まれる。
クリアがみんなをタートルワームのプロトン砲から守るため煙幕を張ってくれたのだ。
「サンキュー、クリアちゃ〜ん」
「ゴーレムはボク達がおさえてるから亀の方は頼んだよ〜」
「はい」
「了解です」
そんな軽口を言い合っているところにプロトン砲の第二射が煙幕を貫いて桃香のKF−14の脇を通過。
どうやら煙幕はうまく機能してくれているらしい。
3機は煙幕を上手く隠れ蓑にしながらタートルワームに接近。
ジュエルと桃香は遂に海にまで辿り着き、潜航を開始する。
タリアは上空を旋回し、タートルワームに向けて煙幕弾を発射。
もともと薄い霧に包まれていたタートルワームが煙幕に覆われてますます見え辛くなった。
それから自分も海中に向かうべくアンジェリカを急降下させる。
だが、その最中に煙を突き抜けて白色の光がタリアのアンジュリカを襲い、視界が真っ白に染まる。
「っ!?」
一瞬、『死』の一文字が脳裏をよぎったタリアだったが、幸いプロトン砲はアンジェリカの翼の先をわずかに掠めただけで外れてくれた。
だが、もし煙幕を張っていなかったら確実に直撃していただろう。
その事実に戦慄を覚え、微かに身体を震わせながらタリアはアンジェリカを海中に突入させた。
その頃地上でもゴーレムとの戦闘は続いていた。
だが、ゴーレムと互角の戦いが出来ているのは修司だけで、他は意外な苦戦を強いられていた。
真帆のメインウェポンも修司と同じくロンゴミニアトだが、彼女のは試作型で取り扱いが難しく、彼女のバイパーはいつもより動きに精細を欠いていた。
それにゴーレムの装甲が思ったよりも厚い事も苦戦している要員の一つだ。
ガッチリ防御を固めて攻めこまれるとロンゴミニアトでも大ダメージを与えるのは難しく、逆に敵の爪によって真帆のバイパーに幾つも傷がつけられてゆく。
今のところ致命的なダメージは負っていないが、このまま消耗戦になれば真帆の方が不利になる可能性もあった。
だがそこに、足の遅さが一番の欠点であるディスタンを駆るセラ・インフィールド(
ga1889)が援護に駆けつけ、スパークワイヤーを発射。わずかな時間ではあるがゴーレムに隙を作った。
「いったん退がってください。それ以上ダメージを負うと危険です」
その間に真帆の代わりに前に出ると、ゴーレムに向けてシールドスピアを構える。
「いいえ、あたしはまだやれます」
だが真帆は退がらず、セラのディスタンの隣にバイパーを進めると共にゴーレムと正対する。
「では、私がディフェンス。あなたがオフェンスで」
「了解です」
セラはディスタンにシールドスピアを構えたまま突っ込ませ、ゴーレムの攻撃を誘う。
誘いに乗ってきたゴーレムの爪をシールド部分で受けて動きを止め、その間にゴーレムの脇に回り込んだ真帆がロンゴミニアトで攻撃。
液体火薬の爆発力でゴーレムの体勢が崩れた所をさらにセラがシールドスピアで突き刺す。
そうして2人でゴーレムの身体を次々と穴だらけにしてゆく。
もちろんゴーレムもやられっぱなしでいたわけではない。
拡散フェザー砲で真帆のバイパーを牽制しつつ、セラのシールドを掻い潜ってディスタンの装甲を爪で引き裂いたりもした。
それでも2対1では勝ち目がある訳もなく、最後には真帆のロンゴミニアトでトドメを刺されて砂浜の倒れ伏したのだった。
そして2人がゴーレムを倒した頃、修司もロンゴミニアトで2体目のゴーレムを倒していた。
残る1体のゴーレムはやすかずがたった1人で引き付け、戦っていた。
常に移動を続けて遮蔽物からゴーレムを射撃。そこからすぐに移動。移動中にリロードし、また遮蔽物から射撃。
それをずっと繰り返し続け、着実にゴーレムにダメージを与えていたが、スナイパーライフルRの火力だけでは決定力に欠けるのも確かであった。
だが不意にゴーレムの背後に黒い影が立ち、ゴーレムに斬りかかった。
「待たせたね。さぁ、ここから先には一歩も行かせないんだよ!」
煙幕を張り行っていたクリアの雷電が戻ってきたのだ。
新たに現れた敵にゴーレムは向き直ると爪で反撃してくる。
クリアはその攻撃をセミーサキュアラーで受け、さらに斬撃を繰り出すが、ゴーレムも腕をクロスさせて受ける。
こうして共に重量級の機体同士の壮絶な殴り合いが始まった。
轟音を伴って繰り出される1撃ごとに、両者の装甲が弾け飛び、内部機構が剥きだしになる。
そして次第に内部機構にもダメージが及び始め、各所でスパークが発生。
コクピットにもダメージランプが幾つも点灯し、警報もビービーと鳴り始めるが、クリアは一歩も引かずに斬撃を繰り出し続ける。
「これ以上、ボクの故郷に侵攻させないんだよ! ここで絶対倒す!!」
もしこれが1対1だったら共倒れなっていたかもしれないが、クリアにはやすかずの援護があった。
やすかずは誤射を避けるために両者の動きを予測し、同時に射線を通すため小まめに位置を変更しながらゴーレムの膝関節などを狙って射撃。
その精密かつ正確な射撃は何度となくゴーレムの隙を作り、その度にクリアはゴーレムに致命的な一撃を与えた。
そして最後にはゴーレムの身体を突き抜けるほどの深い斬撃を見舞って仕留めたのだった。
一方、海中の3人はタートルワームの腹に変な出っ張りがくっ付いているのを発見していた。
「アレってなにかな? 給水口じゃないですよね?」
桃香が頭を悩ませていると、不意のその出っ張りが開き、何かが射出される。
「魚雷か!?」
ジュエルは咄嗟にディフェンダーで防いだが、桃香のKF−14には直撃し、コクピット内が激しく揺れる。
「キャーー!」
「大丈夫か桃香ちゃん?」
「はい。浸水もないし、まだいけます!」
なんとか機体のコントロールを取り戻した桃香が各部をチェックしながら答える。
「よし。なら俺がコイツの前に出て注意を引いている間に2人はレーザークローで切り刻んでくれ」
「了解。今の痛みを倍返しにしますね」
「了解です。アンジェの力を最大限に発揮してみせます」
「じゃ、行くぜ!」
ジュエルは操縦桿を引くとテンタクルスを海面まで上昇させる。
それに合わせて桃香はホーミングミサイルを撃ち込みながらタリアのアンジェリカと共にタートルワームに接近。
桃香はブーストを使ってタリタとタートルワームを挟み込む位置につける。
「水膜の正体を見極めてやるぜ」
海面に出たジュエルはテンタクルスを人型に変形させてタートルワームの纏う霧の中に突進。
タートルワームの鼻先にディフェンダーを叩きつけた。
この攻撃ではダメージはそれほど与えられなかったが、意識をこちらに向ける事には成功したようだ。
「突っ込んでみたが機体はなんともねぇな」
かなり覚悟して飛び込んだのに何の異常もなくて、かなり拍子抜けなジェルだった。
その時、不意にタートルワームが咆哮を上げ、もがき苦しみ始める。
「始めたな」
その頃海中では桃香とタリアがタートルワームの腹をレーザークローで縦横無尽に切り裂いていた。
「やっぱり知覚兵器には弱いみたい。どんどんいくよアンジェ」
タートルワームもヒレやしっぽを動かして攻撃してくるが、2人は巧みに避け、間断なく攻撃を続ける。
そして海水がタートルワームの体液で真っ赤に染まる頃、タートルワームはその活動を完全に停止した。
「なんか機体はボロボロになっちゃったけど、とりあえず怪我人が誰も居なくてよかったよね」
作戦も終わり、帰還途中にクリアが苦笑混じりに言う。
「はい。アンジェで実戦に出るのは初めてでしたが、やっぱり私とアンジェの相性はバッチリの様です。これからも宜しくアンジェ」
「それにしても、結局亀の潮にはどんな効果があったんでしょうか?」
「さぁな。酸とかでもなかったし、本当にただの海水みたいだったぜ」
真帆の疑問にジュエルが曖昧な答えを返す。
「もしまた今度出会ったら確かめるとしましょうか。ま、会いたくはありませんが」
修司がそう締めくくり、一行は疑問を残したままラストホープに帰還した。