●リプレイ本文
アメリカ南部に広がる森林地帯。
バグアの勢力圏になって久しい森の上空を8機のKVが飛ぶ。
「前回の防衛戦に勝った余勢を駆って一気に行けたらよかったんですけど‥‥敵もさるもの、ですね」
眼下を流れてゆく森林群を眺めながら九条院つばめ(
ga6530)が呟く。
「あと120秒で目標地点に到着」
ウーフーの索敵レーダーで現在位置を追っていたルーシー・クリムゾン(
gb1439)が静かに告げる。
「では予定通り、ミア機と緋霧機は低空から突入し、ゴーレムの相手を頼みます」
「了解です」
「オッケー、それじゃぴっと気を引き締めて取り掛かろーか!」
飯島 修司(
ga7951)の指示を受け、ミア・エルミナール(
ga0741)の阿修羅と緋霧 絢(
ga3668)の岩龍が編隊から離れて行く。
そして編隊を3組のロッテに組み直した頃、ルーシーのレーダーに反応が映った。
「レーダーに感。数4。機種検索‥‥全機ヘルメットワームと確認」
「おっと!! ヘルメットワームか。だが、そうそう空じゃ遅れをとるつもりは無いッスよ」
六堂源治(
ga8154)が嬉しそうに笑いながら、ぎゅっと操縦桿を握り直す。
「4機ですか? 報告よりも多いですね。まぁ、何時も予定通りに事態が進む訳ではないって事ですね」
新居・やすかず(
ga1891)はルーシーから送られてきたデータの方角へ目を向ける。
すると、視線の先の木々の間から4機のヘルメットワームが浮かび上がってきた。
その間もルーシーはレーダーを注視したまま、手元では的確な操作を行い、ヘルメットワームにHW1〜4とナンバリングすると同時にウーフーのECM等も立ち上げてゆく。
「ECM開始。パターンは乱数変化」
「よし! 全機突入。一機たりとも逃すな!」
榊兵衛(
ga0388)は各機にそう告げるとスロットルを開き、愛機の雷電を敵編隊に突入させた。
一番槍は修司のディアブロ&源治のバイパー。
修司は散開したヘルメットワームのうち、最も近いHW1に狙いをつけ、長距離バルカンをばら撒きながら接近する。
対するHW1もフェザー砲とフォトン砲で応戦してくるが、修司のディアブロにはかすり傷しか負わせる事ができない。
ヘルメットワームは修司の射線から逃れるように進路を変えたが、そこへ右から旋回してきた源治のバイパーが狙う。
「吼えろバイパー!! ヘルメットワームを喰らい尽くせ!!」
源治は自身が吼えながら操縦桿のトリガーを引き、ホームミングミサイルを2発放った。
1発はヘルメットワーム特有の慣性機動で避けたが、2発目が命中。
爆炎に包まれたHW1が体勢を崩した所へ修司のディアブロがバルカンを放ちながら突撃。
すれ違いざまにリニア砲を叩き込んで撃墜する。
「やりましたね修司サン。1機撃破ッス」
機体を隣り寄せてきた源治がキャノピー越しに親指を立ててきたので修司も同じようにして見せる。
「さぁ、次いきますよ」
「はいッス」
修司と源治は今度はHW4に狙いをつけ、機体を旋回させた。
兵衛とルーシーのロッテは兵衛を前衛とし、ルーシーを上空後方で援護する布陣を組んでHW2と戦闘状態にあった。
兵衛はG放電装置にエネルギーを蓄えながら左旋回をして向かって来るHW2の動きに合わせて自機と照準を動かしていた。
しかしHW2は兵衛の照準内に収まる直前に慣性機動で斜め後ろに逃れ、兵衛の射線から外れると、そのまま兵衛の雷電を迂回するように移動しながらルーシーに接近してきた。
「そっちに行ったぞルーシー!」
兵衛は無線機に叫ぶと操縦桿を倒し、スロットルを噴かしてHW2の追撃にはいる。
「了解。迎撃開始」
ルーシーは冷静に前方から接近してくるHW2に照準を合わせてロケット弾を発射。
だが、ロケット弾はHW2に楽々と避けられる。
しかしルーシーはHW2の回避コースにR−P1マシンガンを掃射し、HW2の装甲に幾つもの穴を穿ってゆく。
HW2もフェザーを撃ち返してルーシーのウーフーに傷をつけ、2機は痛み分けですれ違う。
そしてルーシーは自機をそのまま逃走ルートに乗せた。
もちろのHW2は後を追ってくるが、それこそがルーシーの狙いだ。
HW2の後ろにはさらに兵衛が追いすがって来ている。
ルーシーはHW2に照準から逃れる様に機体を左右に小さく振りながらもHW2の注意を引く。
そしてHW2のフォトン砲に光が灯った直後、HW2は強力な放電に包まれた。
それはもちろん兵衛のG放電装置の攻撃だ。
「俺の攻撃はこれぐらいでは終わらんぞ。喰らえっ!」
兵衛はさらに螺旋弾頭ミサイルを撃ち込んでHW2を内部から爆発させ、トドメとばかりにヘビーガトリング砲も御見舞いする。
この攻撃でHW2は完全にバラバラになり、破片を撒き散らしながら森へ落下していった。
「かつての人類と同じと考えていたら、痛い目を見る。すでにおぬしらの高みまでは我々は辿り着きかけているのだからな」
やすかずとつばめのロッテはHW3と交戦中だった。
やすかずはHW3の側面に回り込む機動をとったが、HW3は一直線に進んでいる。
どうやらHW3はつばめのディスタンの方を標的に定めたらしい。
つばめもその事に気づいたらしく、HW3を真正面から捉えてロケット弾を発射。続いてスナイパーライフルRで狙撃する。
やすかずもつばめの攻撃に併せてHW3の右側からスナイパーナイフルRで狙撃した。
2人の攻撃は全て命中したがHW3は怯む事なく前進を続け、つばめのディスタンにフォトン砲を放ってくる。
フォトンはディスタンに命中したが、その厚い装甲のお陰で軽傷で済んだ。
HW3はそのままつばめの周りを迂回するように動き始める。
「つばめさん! そいつはアナタの後方に回り込むつもりです」
「はい!」
つばめは敵を振り切るためスロットルを全開にしたが、機動力に欠けるディスタンでは逃げられず、フェザー砲を撃ち込まれてしまう。
幸い今度も軽傷で済んだが、このまま攻撃を受け続けていれば何時かは撃墜されてしまうだろう。
やすかずはつばめの後ろを取ろうとしているHW3のさらに後ろに廻り、フルスロットルをかけて加速。
急速に接近するHW3にスナイパーライフルRと対戦車砲を連続して放ち、最後はすれ違う寸前にリニア砲を撃ち込んで離脱した。
だが、それでもHW3は未だ健在で、しつこくディスタンに攻撃を続けている。
(「このままじゃ振り切れない‥‥。だったら‥‥」)
つばめは後方のHW3を冷静に観察しながら、少しずつ敵との距離を縮めてゆく。
その間もHW3から攻撃が命中するが、愛機の性能を信じて我慢する。
「‥‥いまだ!」
そして、今までで最もHW3が接近した所で限界までスピードを緩め、相手に自分を追い抜かせた。
「当たって!!」
つばめは逆Gに耐えながら前方のHW3にレーザー砲を3連射。
レーザーは全弾当たり、HW3は炎を上げて揺らめいたが、まだ墜落したりはしなかった。
「ダメ、倒しきれなかった!」
HW3がフォトン砲がディスタンのコクピットの照準をつける。
だが、フォトン砲が放たれる前にやすかずの放ったスナイパーライフルがHW3を貫通し、HW3はふらふらと揺れながら森の中に落ちていった。
「ありがとうございます、新居さん。お陰で助かりました」
「いえ、無事でなりよりです」
そうして空でヘルメットワームと戦闘が行われている頃、地上でもゴーレムとの戦闘が行われていた。
ヘルメットワームが戦端を開くのに併せてじっと岩のように身を伏せていたゴーレムがムクリと立ち上がる。
その姿はまるで、剣と魔法の世界に出てくるロックゴーレムの様であった。
ゴーレムは腕を地面を手を突っ込むと細長い武器を取り出し、空に向けた。
そこにブーストを使って加速した絢の岩龍が強襲し、ゴーレムの手前で変形しながら『悪夢の再来』を上段から思いっきり振り下ろす。
高速回転するエッジの金切り音を響かせ『悪夢の再来』はゴーレムの表面に貼り付けていた岩を易々と砕き、内部装甲との間で激しく火花を散らしながらゴーレムを切り裂いていった。
「ただの岩龍だと思ったら大間違いです。単純な性能面では最新鋭の高級機に引けはとりませんよ」
絢は喰い込んだ『悪夢の再来』を引き抜き、再度上段に振りかぶる。
そんな絢にもう一体のゴーレムが武器を向けるが、そのゴーレムにも横合いから銃弾が叩き込まれる。
獣型に変形したミアの阿修羅からの攻撃だ。
「アンタの相手はあたしだ! さぁ、かかって来な!」
ゴーレムは絢に向けていた武器をミアに向け直して発砲。
拡散型のフェザー砲がミアの阿修羅に無数の傷を刻んでゆく
「やったな、お返しだ!」
ミアはフェザー砲を撃ちながら迫ってくるゴーレムに3門全てのガトリング砲を向けて一斉発射。
ゴーレムの身体から岩がボロボロと剥げ落ち、剥きだしになった内部の装甲にも無数の弾痕が穿たれる。
さらに、ゴーレムの武器も爆発し、ゴーレムは爆炎に包まれた。
「どうだっ!」
空になって自動排出されたガトリング砲のカートリッジをリロードしていると、ゴーレムは爆炎を突き抜けて一気に阿修羅の懐にまで接近してきた。
そしてハンマーの様な手で阿修羅の横っ腹を殴打する。
「うわぁ!」
その衝撃にコクピット内が激しく揺れ、複数のダメージランプが点灯する。
ゴーレムはそのままもう一撃喰らわせ、阿修羅を吹っ飛ばす。
地面をバウンドした阿修羅は装甲がひしゃげ、アチコチでスパークも発生している満身創痍な状態だ。
被害はコクピット内にも及んでおり、ミア自身も少なからず傷を負う。
「くっそ〜、これぐらいで負けるもんかっ!」
それでもミアはどうにか阿修羅を立たせると、間近まで迫っていたゴーレムにサンダーホーンで奇襲をかけて動きを止め、再びガトリング砲を一斉発射した。
「喰らえぇーー!!」
周囲に薬莢をばら撒きながら無数の火線がゴーレムに吸い込まれてゆく。
そして、ガトリング砲が弾切れになって空転し、自動排出されたカートリッジが地面に落ちるのと同じ速度で、ゴーレムも地面に倒れた。
そして、もう一体のゴーレムも『悪夢の再来』を攻防巧みに使い分けた絢の岩龍に袈裟斬りにされて倒された。
上空から全てのタートルワームを倒し終えた6機のKVが舞い降りてくる。
「ミアさん、大丈夫ですか?」
傷ついたミアの阿修羅を見て、つばめが心配そうに尋ねる。
「うん、大丈夫だよ。武装は無傷だから後ろから援護射撃ぐらいならできるし、あたしは地殻変化計測器の担当だからね。置いてゆくなんて言わないでよ」
「では行くぞ。ルーシー、緋霧、ミアはセンサーに特に注意しててくれ」
傭兵達は絢のグレネードランチャーで入り口のシャッターを破ると、修司を先頭に、つばめ、ミア、源治、ルーシー、やすかず、絢、兵衛の順で交互に並びながら通路を進んで行く。
時節、ミアが計測器を地面に落とし、索敵繰り返してたが今のところ異常はない。
そして結構な距離を進み、正面に明かりが見えたところで3人の索敵網に敵が引っかかった。
「レーダーに感。大型1。距離100」
「こちらでも確認しました。おそらくはアースクエイク」
「でも、位置は地下じゃない。高低差はほとんどないよ」
3人の報告が飛び交う中、不意にガリガリという音が響き、正面に見えていた光が陰る。
そして何か巨大なモノが猛スピードで通路を突き進んできた。
「来たっ! アースクエイクです!」
「こんな狭い所でアイツとやり合うんッスかぁ!?」
「戦闘に時と場所なんて選べないよ、つべこべ言わずに迎撃準備!」
傭兵達は狭い通路の中、緊張感をみなぎらせながら迎撃準備を整える。
「まずは動きを止めます」
「アクセル・コーティング起動!!」
先頭にいる修司のディアブロとアクセル・コーティングをかけたつばめのディスタンが突撃する。
ガァン!!
と激しい衝突音が響き、強い衝撃が機体越しに修司とつばめを襲う。
だが、敵の突進を止める事は成功し、2機は手とディフェンダーを使って相手の身体を固定した。
「今です!」
やすかずの合図で後衛からライフル、ガトリング、リニア砲、レーザー等が撃ちこまれてゆく。
アースクエイクの体表で無数の爆発や火花がおこり、薄暗い通路の中が色とりどり光が明滅する。
だが、アースクエイクもただやられてはいない。
自らの体を回転させ、押さえつけられている手やディフェンダーなどを削っていった。
「呑み込まれるなよ! どんなKVでも喰われたら一撃でアウトだ!!」
「手がなくなりました! もうあまり長くはもちそうにありません!」
兵衛の言葉にディフェンダーを半分近く失い、腕も手首まで削られ始めたつばめが悲痛な声で応える。
「くそっ!」
自機もつばめとほぼ同様な状態になっている修司が無傷の方の腕でロンゴミニアトを何度も突きたてる。
そして2機の腕が肘までなくなり、いよいよ後退しなければ危なくなった頃、やっとアースクエイクの回転に衰えが見え始めた。
「あと一息だ!」
傭兵達は残った弾丸を全てアースクエイクに叩き込む。
そして最後は修司のロンゴミニアトの一撃でアースクエイクは完全に動かなくなった。
「これは‥‥」
アースクエイクの死骸を乗り越え、先に進んだ一行の目の前には想像以上に広くて整った空間が広がっており、傭兵達を驚かせた。
傭兵達はお互いに背中を庇いあいながら大広間の探索を始める。
適度な光量の照明に照らされたその空間の中央には円柱状の機械が1本そびえ立ち、その周りにはヘルメットワームの発着場と思われる窪みが並んでいた。
壁際にはゴーレム用の格納庫らしきものも見える。
床には大穴が開いており。そのサイズからアースクエイク用の収納口ではないかと推測された。
大広間のちょうど東西と南の位置には穴が開いており、その先には通路が伸びていた。
それらが大広間にあったものの全てである。
敵の姿は無く、中央の円柱状の機械から静かな駆動音が響くだけだ。
「敵はもういないみたいですね」
「だが、この通路の先にはまだいるかもしれんぞ。どうする? この先も調べるか?」
「‥‥私のセンサーではどの通路の先にも敵の反応はありません。ルーシー様の方はどうですか?」
「こちらのセンサーもネガティブです」
「地殻変化計測器にも感はないよ」
岩龍、ウーフー、地殻変化計測器、その全てが何処にも敵はいないと告げていた。
「なら、俺達の仕事はもう終わりって事でいいんじゃないッスか?」
「‥‥軍司令部に指示を仰ごう。それまでは警戒したまま待機だ」
通信を受けた軍は傭兵達に制圧部隊を到着までの間その場の確保を指示してきた。
その後も何も起こらず、戦術歩兵師団が無事に大広間に到着し、調査と制圧が開始された。
こうして南部森林地帯方面軍は敵の地下基地を手に入れたのだった。