タイトル:秋の紅白対抗旗取り大会マスター:真太郎

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 16 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/31 17:04

●オープニング本文


 ポン ポンポン

 秋晴れの空に白い煙の花火が上がる。
 その花火の下にあるラスト・ホープの競技場は熱気に包まれていた。
 観客席には能力者、非能力者に関わらず、一般市民から軍関係者まで、たくさんの観客が詰めかけていた。
 そして競技場内では紅白に分かれた能力者達が互いに睨みを利かせている。
 そう、今日、この競技場では『秋の紅白対抗旗取り大会』が行われているのである。
 ルールは至極単純明快。
 選手は近接戦闘を行う『アタッカー』と、飛び道具を使って主に防衛を行う『シューター』となり、
 それぞれ武器で敵を打ち倒して前進し、敵の基地にあるフラッグを先に手にしたチームが勝利する。 
 そんな彼らが手にする武器とは!!
 
 しなやかに湾曲し、相手に動きを読ませない変幻自在の斬撃を繰り出し翻弄する夢幻の刃 『エアーソフト剣』

 ノコギリの様に触れただけで切れそうな凹凸をその身に刻み、打ち据えれば全ての者を平伏させる快音を響かせる脅威の凶器 『ハリセン』

 握りの先で大きくせり出した頭頂部は何人もの生き血を吸ったかの様に真っ赤に染まり、叩きつけるだけで不気味な音を奏でる狂気の鈍器 『ぴこぴこハンマー』

 腹の中に大量の赤い実を詰め込まれ、他の武器の間合いの外から突如として襲い掛かかってくる、血の紅と、雪の白に染め上げられた東洋の弾丸 『紅白玉』

 それらの凶悪な武器と仲間達を頼りに歴戦の勇者達が熱き戦場を駆け抜ける。
 フィールドの広さは、縦9×横30ヘックス。
 旗の位置は、それぞれ 縦5横1 縦5横30 の地点。

 勝利したチームには全員に賞金2万Cが進呈される。
 これが『秋の紅白対抗旗取り大会』が全容である。

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / メアリー・エッセンバル(ga0194) / 新条 拓那(ga1294) / 聖・真琴(ga1622) / 月影・透夜(ga1806) / 新居・やすかず(ga1891) / エレナ・クルック(ga4247) / UNKNOWN(ga4276) / キョーコ・クルック(ga4770) / シーク・パロット(ga6306) / 九条院つばめ(ga6530) / 八神零(ga7992) / フィオナ・フレーバー(gb0176) / 文月(gb2039) / リヴァル・クロウ(gb2337) / ヴィンセント・ライザス(gb2625

●リプレイ本文

 競技場の左右の入場口から紅白それぞれの選手が次々に現れる。
 そして解説席では何故かフィオナ・フレーバー(gb0176)が聖・真琴(ga1622)からわざわざ借りたオペレーター服まで着こんで座っていた。
 本来なら司会はリサ・クラウドマン(gz0084)が行うはずだったのだが、フィオナがどーしても司会がしたとリサに頼み込み、代わって貰ったのである。

『さ〜て、いよいよ始まります『秋の紅白対抗旗取り大会』。司会はフィオナ・フレーバーがお送りします。あぁー嬉しいなぁ〜。私一度でいいから司会ってやってみたかったのよねぇ〜。え? さっさと選手紹介を始めろ。あ〜、はいはい』
 フィオナが解説席の脇に出されたカンペを読み、改めてマイクを握る。
『じゃあ、まずは白組。トップバッターはメアリー・エッセンバル(ga0194)選手。ガーデンの隊長さんです。ハリセン持って不敵に笑って気合十分って感じだけど、頭ん中ではラーメンの事を考えてるんだと思いまーす」
「えっ? いや、確かに考えてたけど、べ、べつにラーメンの事ばっかり考えてたわけじゃないわよ」

『次は新居・やすかず(ga1891)選手。相手の動きを未来予測して狙撃ができるらしい凄腕のスナイパーさんです。でも、そんな事より今一番気になるのは、手にはめられたとってもラブリーなねこぐろーぶの方よね』
「これは僕のお気に入りなんです。こんな機会でもないと使えないんで、今日ははめてきました」
 実は猫大好き人間なやすかずが照れくさそうにしながらねこぐろーぶをニギニギする。

『続いてはキョーコ・クルック(ga4770)選手。なんとメイド服を着て登場してくれちゃってます。観客席の一部の男性は大興奮。サービス満点ですね〜。しかも彼女は本職のメイドさんなのです!! 私、本物のメイドさんって初めて見ました」
「エレナに付き合わされて参加したんだけど、やるからには勝つよ〜。エレナは敵になっちゃったけど手加減なんてなしでね〜」

『お次はシーク・パロット(ga6306)選手。相変わらずおっきい身体をしていますが、実はこれは仮の姿で本来は小さくて可愛い白猫の姿をしていると言う噂がある謎なお人です。私、その白猫に会った事あるんですけど、あれホントにシークさんだったのかな‥‥?』
「それは秘密なのです」

『次は九条院つばめ(ga6530)選手。女子高生です! キリリと結んだポニーテールを揺らして元気いっぱいの現役女子高生です! わざわざ自分の通っている学校のジャージで参加してくれています。うんうん、健康的で可愛いわ〜。ところで九条院さん、そのジャージの下ってブルマ?』
「えっ? いえ、違います。短パンです」

『そうなんだ‥‥。う〜ん、残念。じゃあ次は八神零(ga7992)選手。左右の手にそれぞれエアーソフト剣を持ってます。どうやら二刀流で戦うみたいですね。ところで二刀流って反則じゃないの? あ、反則じゃないんだ。え、司会ならルールぐらい覚えとけ? も〜、それぐらいいいじゃない』
「たまには刀を使わない戦いがあってもいいか‥‥」
 八神は普段の愛刀とはまるで重みの違うエアーソフト剣の握り具合を確かめながら呟いた。

『そして、おーーっと、ごく一部で噂されているリヴァル・クロウ(gb2337)選手とリサ・クラウドマン(gz0084)選手のお二人さんの登場だぁあ! お二人の関係は? と聞いても友達です。ぐらいの回答しか返ってこないこの二人っ! 本人達は否定しているが周りから見たらじれったい事この上ない!』 
「お、おいフィオナ!! な、な、なんなんだその選手紹介はっ! ま、真面目にやれ真面目にっ!!」
『えぇ〜、私大真面目よ〜。で、どうでしょう、この二人は? 解説の体育委員さん?』
「誰だ、その体育委員って!? そんな人間どこにもいないだろうがっ!」
『リヴァルってば細かい事気にし過ぎ〜。リサさ〜ん、美人オペレーター役はどーんと私に任せて試合楽しんでね〜。ちゃーんと2人の事もフォローしてあげるからね〜。むふふっ♪』
「えっと‥‥。ホントに司会代わってよかったのかしら? そこはかとなく不安を感じるのだけど‥‥」

『白組はこれで終わりね。じゃあ次は紅組! まずは石動 小夜子(ga0121)選手。巫女さんです! 正真正銘本物の巫女さんです! 巫女服の袖が邪魔にならない様に襷掛けをし、両手にピコピコハンマーを持って登場です。やっぱり巫女さんといえば楚々とした黒髪の女の子ですよね〜。その点でも石動さんは100点満点です』
「あの、私、巫女は本職じゃなくて、ただのバイトなんですけど‥‥」

『続くは、新条 拓那(ga1294)選手。なにやら妙に張り切っている様に見えますが、きっと恋人の石動さんにいいところを見せようとか思ってるんでしょうね〜。もぉ〜ラブラブで羨ましいぃ! でもどうせなら服も2人で合わせてきて欲しかったですね〜。例えば神主の服を着るとか‥‥』
「あ〜、そういう発想はなかったなぁ〜。でも神主の服じゃ走りにくそうだよね」
「拓那さん、そういう問題じゃないと思いますよ」

『次は聖・真琴(ga1622)選手。おぉ〜っとブルマです!! 前回に引き続きまこっちゃんはまたもブルマを直用しておりますっ!! しかも体操着にはご丁寧に『ひじりまこと』とひらがなで名前が刺繍されているぅ!! 観客及び選手、そして恋人の透夜さんを悩殺する気まんまんだーー!!』
「今回も『体操着&ブルマ』で釘付けよぉ〜ん☆ きゃぁ〜ん!」

『続いては現在悩殺真っ最中の月影・透夜(ga1806)選手です。あっ、目を反らさずちゃんと真琴さんのブルマ見てくださ〜い。それで『僕のために履いてくれたんだね。似合ってるよ真琴』とか言ってむちゅーとかブチューとかしてくださいよぉ〜』
「誰がするかぁ!!」
 微かに頬を赤らめた透夜がフィオナに向かって怒鳴る。
「えぇ〜してくンないの〜?」
「お前も一緒になって悪ノリするな」
 そして不満気に口を尖らせている真琴にも持っていたハリセンでつっこんだ。

『さ〜て夫婦漫才も終わった所でお次はエレナ・クルック(ga4247)選手です。女医さんです。白衣姿がとっても愛らしい女医さんの登場です! 巫女さん、ブルマに続いて女医とは、相変わらず紅組はサービス満点ですね〜』
「あんのんお兄様どこですか〜? えぅぅ〜‥‥。お兄様が参加しておられると聞いてきたのに何処にもいらっしゃいません。いったい何処に行かれたのですか? あんのんお兄様〜!」
 まるで迷子の子供の様に愛しのUNKNOWN(ga4276)の姿を探すエレナだった。

『続きましては文月(gb2039)選手。スパッツを履いております。うんうん、ブルマもいいけどスッパツもいいよね〜。ま、それはさておき、今回はリンドヴルムの使用を許可されているのに、あえて生身で参加です。もー気合の入り方からして違うわ〜。前回負けたのがよっぽど悔しかったのかしら?』
「もちろん気合十分で挑ませてもらっています! 今度こそ勝ちますっ!!」
 文月は闘志に燃える瞳でそう言うと肩に羽織っていたジャージの上着を投げ捨てた。

『え〜、次はヴィンセント・ライザス(gb2625)選手。ん〜‥‥なーんかこの人ってリヴァルとキャラかぶってる気がするのよねぇ〜。という事は自動的に私の敵って事よね』
「お前さん、ずいぶんと失礼な奴だな。俺をリヴァルの様なヘタレと一緒にしないでもらいたい。俺は奴よりも遥か上だ。そんな事も分からないザ・キングオブドジッコは黙っておくことをお勧めする」
『むむむっ! 今のでアンタは今完全に私の敵になったわ! 試合中はぜーったい邪魔してやるぅ〜〜!!』
「司会ごときに何ができるのか楽しみにさせて貰おう。ただし、何もないところで転ばないでくれよ? キングオブドジッコ」
 激昂するフィオナを更に鼻で笑うヴィンセントだった。

『くぅぅ〜〜!! 言わせておけばぁ!! え! なに? 選手紹介を続けろ? もぅ! 分かったわよ。え〜と、後残ってるのは‥‥らいおんさん? 誰よコレ? こんな人私知らないわよ。いったい何処のどなたさん?』
「らいおんさん?」
「それってまさか‥‥」
 一部の者が『らいおんさん』と聞いてある人物を思い浮かべた、その時。
「フフフフフッ、ハハハハハッ」
 突如として重々しい声の高笑いが競技場内に響き渡り、『なんだこの声は』と観客達が騒ぎ始める。
 そして観客の一人が『あそこだ!』と観客席の最後尾に悠然と立っている人影を指差す。
 逆光になっているのでよく分からないが、確かに高笑いはその人影から響いていた。
 やがて、その人影は高笑いを止めると、勢いよく観客の間を走り抜け、
「トウッ!」
 と、叫んで観客席から競技場に向けて、軽やかにバク転をしながら跳躍。
 そして音もなく着地を決めると、腕を組み、斜に構えて格好よくポーズ付けて
「――らいおんさん、参上!」
 と、重々しく自らの名を名乗った。
「‥‥」
 しかし、それに対する反応は無であった。
 なぜなら皆、いきなり現れたその『バニーガール』の格好をして『ハイヒール』を履き、『らいおん』のお面をかぶった、その姿に呆気にとられていたからだ。
「おい‥‥なにしてるんだUNKNOWN?」
 ようやく茫然自失状態から立ち直った透夜がおずおずと尋ねる。
「私はUNKNOWNなどではない。らいおんさんだ」
 UNKNOWNと呼ばれたその人はバレバレにも関わらず、そのダンディズムを崩す事なく自らを『らいおんさん』だと言い張った。
「あっはははっ!! あんのんさん、それっさいっっこうっ!! 面白すぎるぅ〜〜〜!!!」
 そして真琴がお腹を抱えて大爆笑するのをキッカケにして競技場のアチコチから笑い声が響き始める。
「あの‥‥男性がその様なものを履かれるのはどうかと‥‥」
「は、恥ずかしくって見れないですっ」
 小夜子とつばめのは、褌を締めていないので下半身の一部が普段よりも強調されているらいおんさん(?)の目のやり場に困って顔を赤らめていた。
「くっそ〜! 絶対、褌一丁で来ると思ってたのに、その斜め上をいかれたわ〜!」
 メアリーはなにやら思っていた事と違ったらしく悔しそうにしている。
「なに言ってるんですかっ! こんっっな事するのはUNKNOWNさん以外に考えられません! もっと真面目にしてくださいっ!」
 リサも目のやり場には困っている者の一人で、少し顔を赤らめながらそこを直視しない様にして、らいおんさん(?)に怒る。
「大丈夫、だ。リサ、私は常に真面目だよ。うん」
 らいおんさん(?)はそう言って、お面のせいでリサには見えないが不敵に笑うと、今度はエレナの前で片膝をついた。
「君なら分かってくれるだろう。私は『らいおんさん』だ。そうだね」
 そしてエレナの手をとり、その瞳を真っ直ぐに見つめながら甘く囁くように尋ねる。
「は、はい‥‥。あんの‥‥いえ、らいおんさん。アナタは間違いなく『らいおんさん』です‥‥」
 すると、エレナはぽーっと顔を赤らめ、瞳を潤ませながら目の前の人物を『らいおんさん』だと認めてしまう。
「では、今から君は子らいおんさんだ。いいね、子らいおんさん」
「‥‥はい。私はらいおんさんの子らいおんさんです」
 そして、うっとりとした表情のままエレナは自ら『子らいおんさん』になった。
「はぁ〜‥‥。あの子もなんであんな変人がいいんだか‥‥」
 そんな妹の姿を見て、キョーコは額を押さえて呻いた。
『あははっ! ま、面白ければ、あんのーんさんでもらいおんさんでもどっちでもいっか。じゃ選手も揃ったし、そろそろ始めるよー』
 フィオナがそう言うのを聞いて、紅組の面々が円陣を組み、その真ん中に透夜が手を出す。
「勝負としても楽しんだもの勝ちだからな。思う存分やって楽しんで、それで勝てたら最高ということで」
「ふふ‥‥勝ち負けはあるようですけれど、折角の遊びですもの。私も楽しみたいと思います」
 小夜子もそう言って微笑み、手を重ね残りの人達も次々と自分の手を重ねる

『勝つぞー紅組〜〜! ファイトーー!! おぉーーー!!!』

 そして予め決めておいたセリフを唱和して気合を入れた。


 一方の白組も同じ様に円陣を組み、手を重ねている。
「さぁ、ボス。また気合の入った掛け声頼むわよ〜」
「‥‥また俺が掛けるのか?」
「そりゃそうでしょ。なんたってリヴァルさんは私ら白組のボスだからね〜。ボスが掛け声かけないと始まんないよ〜」
 嫌そうな顔をしているリヴァルにメアリーが面白そうにニヤニヤと笑いかける。
「あの〜、クロウさんが嫌なら私がしましょうか?」
 実は競技場の雰囲気が体育祭の空気にそっくりで、妙に気分が高揚していたつばめは是非とも自分がやりたいと思って、うずうずしていたのだ。
「頼む!」
 そんな思わぬ助け舟にリヴァルはすぐさま飛びついた。
「皆さんもいいですか?」
「いいよ〜」
 つばめが尋ねるとリヴァルの事を推していたメアリーもあっさりと頷く。
 どうやら、ただリヴァルをからかいたかっただけらしい。
「では、僭越ながら私が‥‥。あ〜、コホン」
 つばめは軽く咳払いをすると、す〜と息を吸った。
「白組〜〜!!2連勝だーーー!! 白組ファイト、おー!!」

『白組ファイト、おー!!』

 つばめの可愛らしい掛け声に続いて他の者も声を上げる。
 こうして紅白共に準備は整った。


 
 競技場に引かれた長方形の白線の両側に立てられた赤と白の旗の両脇に、紅と白の選手がそれぞれの武器を持ってズラリと並ぶ。
『それでは、秋の紅白対抗旗取り大会、開始ですっ!!』

 パーン 

 審判がピストルを鳴らして開始の合図を告げると同時に紅白の選手が一斉に走り出す。
「こい、エレ‥‥子らいおんさん!」
「はい、あんの‥‥らいおんさん!」
 言い間違いそうになったらいおんさんの後に続いて、こちらも言い間違いそうになったエレナが続く。
 紅組はらいおんさんがシューターの移動限界ギリギリで止まり、その少し先で文月も止まる。
(「味方とはいえ、この人に背中を向けるのは嫌だなぁ〜」)
 文月は背後のらいおんさんを気にしつつ、エアーソフト剣を構えて立っていた。
「フフフフフッ」
「ひぃ!」
 そんな事を思っている時に、いきなりらいおんさんが含み笑いをしたので、文月はビクリと身体を震わせ、瞬時に振り向く。
「どうした文月? ちゃんと前を見ろ」
「は、はい‥‥」
 らいおんさんはその場を一歩も動いていなかったので、文月は釈然としないながらも前に向き直った。
 しかし、その後もらいおんはわざと変な音をたてたり、含み笑いをするため、文月は一時たりとも心休まる事がなかった。
(「この人ぜーったいわざとやってる。間違いなくわざとやっている。なんて底意地の悪い人なんだろう」)
 残りのアタッカーは小夜子と拓那、真琴と透夜、エレナとヴィンセントがコンビを組み、波状攻撃をかけて一気に白組の戦線を突破する作戦だ。
 一方の白組はシューターの移動限界ギリギリにやすかず、つばめ、リサの各シューターを等間隔で配置。
 さらにシューターの射程のギリギリ少し手前にアタッカーのメアリー、キョーコ、シーク、八神、リヴァルを配置。
 敵の進行をそこで完全に食い止め、殲滅した後、カウンターをかける作戦だった。
 ただし、足の遅いシークとリサがわずかに配置に付くのが遅れていたが、敵の第一波の小夜子、拓那ペアと衝突するのとほぼ同時に到着してくれた。

「ここは通しません!」
 つばめはまず小夜子を狙って第一球を放ったが、小夜子は半身をそらして避け、続く第二球をピコピコハンマーで打ち返そうと狙ってきた。
「はっ!」
 気合いと共に振り切ったピコピコハンマーは『ピコン』と快音を鳴らしながら見事つばめの白玉を捕らえ、競技場の観客席まで弾き飛ばす。
「おっ、ホームラーン!」
「やりました!」
 拓那の合いの手に小さくガッツポーズをして嬉しそうに笑う小夜子。
「まさか打ち返されるなんて‥‥」
 一方、打たれたつばめは飛んでいった白玉を呆然と見つめている。
 二人はそのまま紅組陣内を突破しようとしたが、今度はやすかずの白玉が小夜子に襲いかかる。
 やすかずの鋭い玉も辛くも避けた小夜子だったが、その時には既に左手で時間差をつけて放たれていたやすかずの第二球が眼前に迫っている。
「くっ!」
 それでも小夜子はなんとか顔を反らして避けようとしたが、白玉は小夜子の回避コースをまるで予想していたかの様に軌道を変えて曲がった。
(「当たる!?」)
 小夜子がそう覚悟した、その時。
「小夜ちゃん!」
 拓那が小夜子胸に抱くようにして身代わりになり、自分の後頭部に玉を受けた。
「拓那さん!」
「小夜ちゃん、無事かい?」
「はい、私は大丈夫です。でも、拓那さんが‥‥」
「いいんだ、俺は‥‥。俺は君が無事ならそれで十分だ。だって、俺にとって世界で一番大切な小夜ちゃんを守れたんだからね」
「拓那さん‥‥」
 瞳を潤ませる小夜子に拓那は優しく微笑みかけた。
「さぁ、俺の亡骸はここに置いていけ。そしてあのフラッグを無事みんなの元に届けてくれ。それが、俺の、最後の‥‥望み、だ‥‥」
 拓那は最後にそう言い残すとずるずると地面へ崩れ落ちた。
「拓那さん!」
小夜子は思わず拓那を抱き止めようとしたが、寸前でその手を止めた。
「分かりました拓那さん。アナタの最後の願い。私が叶えます!」
 そして決意を固めた表情でフラッグを見据え、駆け出した。
 しかし、結局小夜子は次々と襲い掛かってくる敵の弾幕を抜けられず、夢半ばで儚く散った。
「ごめんなさい、拓那さん。あなたの願い、叶えられませんでした‥‥」
 そして愛する拓那と同じように地面に倒れ伏したのだった。 

 パチパチパチ

 そんな小夜子達にフィオナが拍手を贈る。
『おー! 迫真の演技だったよ新条さん、石動さん。思わず見入っちゃった〜』
「あ、おもしろかった? 感動した?」
 拍手に合わせて今まで倒れていた拓那と小夜子が立ち上がる。
『うんうん、おもしろかったよ〜。いや〜、それにしても石動さんがあんなにノリがいいとは思わなかったね。やっぱり新条さんの影響? 恋人同士ってだんだん似てくるものなのかな?』
「あはは、そうかもしれないね。小夜ちゃん俺と付き合うようになってからけっこう変わったかも」
「私も、その‥‥なんだか雰囲気に飲まれてしまって思わず‥‥。うぅ‥‥冷静になると、なんだかすごく恥ずかしいです‥‥」
 小夜子は真っ赤になった頬を手で押さえた。
『いやいや、いいもの見せてもらってよ石動さん。じゃ、2人とも紅組の陣地戻ってちょっと休んでてね〜』
「はい。拓那さん、私、飲み物やお饅頭持って来てますんで、休憩している間一緒に頂きませんか?」
「いいねぇ〜。頂くよ」
「はい。じゃあ戻ったらすぐに準備しますね」
 拓那は嬉しそうに笑う小夜子と一緒に紅組の陣地に戻っていった。

 一方、真琴と透夜のペアはリサとシークに狙いを定めて進攻してきた。
「えいっ! えいっ!」
 リサはすかさず白玉を投げて迎撃を始めるのだが、透夜の巧みな足裁きの前ではかすりもしない。
 それでも多少は体勢が崩れたところにシークが襲いかかる。
「止まるのです! もう、誰にも猫の上を飛ばせたりしないのです!」
 シークは大上段に構えたエアーソフト剣を透夜の真っ向から振り下ろした。
 対する透夜はシークの剣の間合いを見切り、剣先ギリギリで止まって避けると、剣が目の前の通過するのに合わせてシークの懐に飛び込もうとする。
 しかし、避けられる事を予め読んでいたシークは振り下ろした剣を素早く引き戻し、今度は突きを放った。
 シークが武器にエアーソフト剣を選んだ理由は、3種の武器の中でこれだけが唯一突きもできて有利と考えたからだ。
 確かにその考えは確かに正しかった。
 だが、透夜の運動能力はそれを上回った。
 透夜はその突きさえも半身を反らしてギリギリで避けると同時に伸びきったシークの腕でハリセンで叩いたのだ。
「悪いなシーク。通してもらうぞ」
 透夜が不敵に笑ってシークの脇を抜け様とする。
「猫は死兵なのです。相手が猫だけなんて、貴方も思ってないはずなのです」
 しかし、何故かやられたはずのシークは満足顔で、横を通り過ぎてゆく透夜にそんな言葉を残す。
 そして

 ポコッ

 と、透夜の側頭部に白玉が当たった。
「なっ! いったい何処から?」
 驚く透夜が見たその先には、投球モーションを終えたやすかずの姿があった。
 やすかずは透夜とシークが対戦している間にシークの巨体を活かして透夜の死角に潜み、透夜がシークの脇を抜けて姿を表すタイミングを完全に見計らって玉を投げたのである。
「うまくいきましたね」
「作戦通りなのです」
 やすかずとシークは嬉しそうに微笑み合うと、偶然おそろいで付けていたねこぐろーぶをポンと打ち合わせた。
「くそっ! 行け真琴! 俺の死を無駄にするなっ!」
「任せて透夜さん! 仇はちゃーんととってあげるからねぇー」
 透夜が倒れた隙をついて真琴が飛び出し、一直線に駆け抜ける。
 だが、真琴の行き先に立ちふさがる一人の影があった。
 リサである。
「えっ?」
「うふふふ☆ リサさん、みーっけ♪ さぁー、覚悟は良いぃ〜〜〜?」
 いや、この場合は真琴がリサを餌食にしようと狙いを定めたと言うべきだろうか。
 真琴の目が怪しくギラリと光り、リサに照準をセットする。
「ひえぇぇー!」
 不気味に笑い、手をいやらしくわきわきと開閉させながら迫ってくる真琴に怯えたリサが玉を投げて抵抗するが、真琴はひょいひょいと避けてゆく。

 そんなリサの危機にリヴァルはすぐにでも助けに行きたかったのだが、彼の目前からはヴィンセントとエレナの2人が迫っており、下手に動けない状態にあった。
「エレナ嬢は先に行くといい。俺は奴と真剣勝負がしたくてな。ここは任せてもらいたい」
「は〜い。それじゃあ、ここはお任せしますね〜」
 エレナを見送ったヴィンセントはハリセンを上段に構え、鋭くリヴァルに打ち込む。
「はっ!」
「くっ!」
 リヴァルはエアーソフト剣で受け止め、返す刀でヴィンセントに斬りかかるが、ヴィンセントもハリセンで受け止める。
「ふむ。‥‥その程度、か」
「なに?」
 リヴァルがヴィンセントの言葉にピクリと反応した瞬間にヴィンセントは次の攻撃を繰り出してきた。
「うぉ!」
 リヴァルは辛くもその攻撃を受けた。
「動きが甘いな。‥‥隙だらけである」
「うるさい! 戦闘中にごちゃごちゃしゃべるな!」
「お前さん、意外と熱くなるタイプだな。だが、戦場で平常心を保てない者は死ぬぞ」
「くっ!」
 リヴァルは反論してやりたかったが、ヴィンセントの言うことはあまりに正論であったため、二の句がつけない。
「ところで、リサ氏がピンチみたいだぞ。助けに行かなくていいのか?」
「分かっている! お前を倒してすぐに助けに行くっ!」
 そしてヴィンセントの言葉でさらに平常心を乱すリヴァルだった。

 リヴァルがそうしている間に、リサはあっさりと真琴に懐に飛び込まれていた。
 だが、真琴はすぐにハリセンで叩いたりせず、まずリサのお尻を手でぺしっとはたく。
「きゃん!」
 さらに耳に息をふ〜。
「ひゃう!」
 本当はここで止めるつもりだったが、リサがあまりにもいい反応をしてくれるので真琴の悪戯心がむくむくと膨らみ始めた。
「むふふ〜♪」
 真琴はさらに後ろから抱きつくと胸を揉む。
「えぇっ? あの、真琴さ‥‥あっ! んんっ!」
「ふむふむ、大きさは私とおんなじくらいか‥‥。よしよし、もし私よりも大きかったら握りつぶしてたかもね〜」
「物騒なこと言わないでくださ〜い! それよりコレ反則じゃないんですか? フィオナさ〜ん!」
 絶体絶命の危機にリサはフィオナに救いを求めたが、
『え、なに? あ、ごめんね。今おやつ食べてるところなの、ちょっと待ってて〜』
 素なのか、わざとなのかは分からないが、フィオナは今、小夜子の所にわざわざマイクまで持って行って一緒に饅頭を食べている最中だった。
「えぇーー!? ちょ、ちょっとフィオナさん! ちゃんと仕事してくださいよぉ〜!!」
「フィオナさん、グッジョブ! これで邪魔者はいにゃ〜い。にゅふふ〜♪」
「あ! いや! ダメ、そこは! あふぅ、あぁ〜ん」
 そしてリサはなにやら艶かしい声を上げ始めるのだった。

「おい、なんだかリサ氏が凄い事になってるぞ」
「うるさいっ!」
 そんなリサの声を聞き、リヴァルの剣筋がますます鈍ってくる。
 そして遂にハリセンでエアーソフト剣を受け流され、隙だらけになった頭に一撃を喰らってしまった。
「勝負あり。俺の勝ちだ」
「くっ‥‥」
 こうしてリヴァルは無念の内に白組の陣地に戻る事となった。

「あーーたんのーしたぁ〜!! とーっても可愛かったわよリサさん」
 さんざんリサを弄んでほくほく顔になっている真琴は涙目になっているリサの頭をハリセンで軽く叩いてようやく解放した。
「やられちゃった‥‥。しかもあんな事までされて‥‥。うぅ‥‥もうお嫁にいけない‥‥。シクシク」
「いやいや。リサさんならどんな事があってもぜーったいお嫁に貰ってくれる人に心当たりがあるから、その心配だけ無用よ。ねーボス〜」
「な、なっ、何の事だ? 俺はべつに、そんな事は。あ、いやっ! だからと言って決して嫌な訳でなく、その、なんだ‥‥」
 白組陣地で待機中のリヴァルにそう呼びかけると、リヴァルは顔を真っ赤して思いっきり慌てだした。
 そんなリヴァルの姿を見て満足した真琴は
「あははっ! さー、今度は旗とるぞー!」
 と気合いを入れ直して正面に向き直ったのだが、その左右にはやすかずとつばめがニコニコと笑って立っていた。
「え?」
「すみません聖さん。少し卑怯かとも思ったのですが、あまりにも隙だらけだったので囲ませてもらいました」
「お誘いいただいた方に刃を向けるのは心苦しいですが‥‥勝負はいついかなる時も非情なのですっ、お覚悟!」
「ちょ、ちょっと待って!」
 もちろん二人は待つわけもなく、真琴はやすかずとつばめの集中砲火を喰らって撃沈した。

「ごめ〜ん、透夜さん。やられちゃった。えへっ☆」
 紅組の陣地に戻った真琴は可愛く笑って誤魔化そうとしたが、透夜は無常にもハリセンを振るい、真琴の頭の上でスパーンと景気良いの音を響かせた。
「俺の死を無駄にするなって言っただろうがっ! なのにあんな間抜けなやられ方しやがって!」
「だぁーってリサさんがムチャクチャ可愛かったンだも〜ん!」

「よし、敵のアタッカーはほとんど倒したわ。今から逆襲よ〜!」
 メアリーの合図でいよいよ白組が紅組陣地に進攻を開始する。
 だが、メアリーとキョーコの前にはすぐにらいおんさんと文月が立ちはだかった。
「そう簡単にここを通れると思ったら大間違いですッ!」
 気合満々な表情の中に少しだけほっとしたような安堵感を滲ませている文月。
 どうやらUNKNOWNの気が自分からそれてくれた事がよっぽど嬉しいらしい。
「キョーコさん、アレやるよ」
「OK、メアリー」
 キョーコはメアリーより先行すると、いきなり膝立ちになって座り込んだ。
「えっ?」
「いけっ!」
 不思議そうに目を丸くする文月の前で、メアリーはキョーコの膝を借りて大空高く舞い上がった。
「ジャンピング大上段アタッ〜〜クッ!!」
「えぇーっ!?」
 その攻撃はインパクトは十分で文月を動揺させる事には成功したが、如何せん大振りすぎるので文月には簡単に避けられてしまう。
 しかし、攻撃はそれで終わらなかった。
「まだまだ〜!」
 文月がメアリーの攻撃を避けている間に踏み台になっていたキョーコが文月に接近し、ハリセンを振りかぶる。
「くっ!」
 文月の顔に焦りが浮かんだ、その時。

ポコッ

 と、キョーコの顔に紅玉が当たった。
「あ‥‥。くそっ! UNKNOWNか」
「らいおんさんだ」
 悔しげに言うキョーコに、らいおんさんがすかさず訂正を入れる。
「アンタもこだわるね〜。でも、戦闘中もアンタの事はずっと警戒はしてたはずなのに何時投げたんだ? 投げるモーションすら見えなかったぞ、この化け物め!」
 変態な格好とは裏腹に、能力の高さは一級品なUNKNOWNの実力を改めて見直すキョーコだった。
 そうしてキョーコが退場する間もメアリーと文月は戦闘を続けていた。
「いただきですッ!」
「おっと!」
 文月の繰り出す斬撃をハリセンで弾くメアリー。
 前回の大会と時よりも格段に実力をつけてきた文月だが、相手はガーデンの隊長だ。
 こちらが攻め難い位置取りと、なかなか隙を見せない細かい太刀筋で攻撃してくるため、文月はずっと攻めあぐねていた。
「ならば、無理にでも隙を作ってみせます!」
 文月は覚悟を固めると、自身の持てる力の全てを剣に込め、最速の踏み込みで真っ直ぐメアリーに斬りかかっていった。
「はぁっ!!」
 だが、メアリーも文月の踏み込みに合わせて前に出ると、エアーソフト剣の振り切られる前に鍔元を抑えて弾き飛ばし、文月にも一撃を入れた。
「つッ‥‥不覚ッ‥‥」
 ガックリと崩れ落ちる文月の後ろで弾き飛ばされたエアーソフト剣が音をたてて落ちる。
「強くなったね文月さん」
「慰めなんていりません!」
 自分の全てを込めた一撃を封じられて負けたのだ。悔しさ以外の何物も胸の内からは出てこない。
「慰めなんかじゃない。ホントの事よ。もう少ししたら私じゃもう敵わないくらい強くなれるわ。きっとね」
 悔しげに身体を震わせながら跪く文月に、メアリーはとても優しい口調でそう告げ、背中を向けた。
 そしてメアリーはらいおんさんに向かって駆け出した。
 もちろん、キョーコを葬った神速の弾丸を警戒しての接近だったが、不思議な事にらいおんさんは撃ってこない。
 まるでメアリーが自分のもとに来るのを待ち構えているかのようだ。
(「UNKNOWNの奴なんで仕掛けてこない? いったい何を企んでる? まぁいい、向こうから仕掛けてこないなら先にこっちが懐に飛び込んで仕留めるまでっ!」)
 メアリーは相手との身長差を生かしてらいおんさんの懐に入り込むとハリセンで下半身の急所を思いっきり狙った。
 だが、らいおんさんも今はそこが自分の最大の弱点だと分かっており、メアリーがそこを狙ってくるだろう事も読んでいた。
 なので、急所を狙ってきたメアリーの手を掴んで防御する事も容易かった。
「しまった!」
「ふっ」
 次の瞬間、らいおんさんは嬉しそうに口の端を上げて笑うと、バニー服の谷間から取り出したマントを広げて、メアリーと自分を包み込んだ。
「うわっ!」
 そして数瞬後、再びマントが翻って開くと、そこにはランニングの上にジャージを着こんだ服装だったはずのメアリーの姿が『スクール水着』になっていた。
「な、な、なっ、なによこれぇーーーー!!」
 メアリーの絶叫が競技場中に響きわたる。
「ふむ、思った通りだ。とても似合っているよメアリー」
「あ、あ、あんたの仕業なの?」
「無論だ」
「‥‥見たの?」
「ん?」
「みーーたーーのーーかぁーー!?」
 羞恥と怒りで顔を赤くしたメアリーがわなわなと震えながら狂気の形相で詰め寄ってくる。
「あぁ、安心したまえ。私にしか見えないようにやった」
 らいおんさんがシニカルにふっと笑って、しれっと答えた瞬間、メアリーの顔がさらに真っ赤に茹で上がった。
「殺す! 絶対! コ・ロ・スっ!」
 メアリーが全身から殺意のオーラを放出した瞬間、彼女の額に紅玉がポコッっと当たる。
 もちろんそれはらいおんさんが神速の抜き撃ちで放ったものだ。
「アウトだ、メアリー。さぁ、自分の陣地に戻って、その素敵な姿をみんなにもお披露目してくるといい」
「キィィーーーーー!!」
 さらに激昂したメアリーはそのままらいおんさんに襲いかかろうとしたが、その前に係員の止められてしまい、そのままズルズルと自分の陣地まで引きずられていった。
「離せーー!! 殺すーー!! あいつを殺して私も死ぬーーー!!」
 そんなメアリーの姿にらいおんさんが満足気な笑みを浮かべた、その直後だった。
 不意にらいおんさんの足下に一陣の風が吹き、らいおんさんの顔に焦りが浮かぶ。
 なぜならその風は黒き焔をなびかせた双月を伴っていたからだ。
「勝負だUNKNOWN!」
 左サイドから独り敵陣に進攻していた八神は身体が地面に触れそうなほど伏せ、超スピードでらいおんさんの死角から接近すると、らいおんさんの手前で身を引き起こすと同時に右手のエアーソフト剣を逆袈裟に切り上げた。
 らいおんさんは咄嗟に身を反らし、首まで傾け、ギリギリその斬撃をかわしたが、八神はそこからさらに左手のエアーソフト剣で腹を狙って横薙に切り払ってくる。
 普段のらいおんさんならこの一撃すら避けて見せたかもしれない。
 だが、今日のらいおんさんはハイヒールを履いていた。
 それが僅かにではあるが彼の足並みを乱す事となった。
 その結果、らいおんさんは八神の胴を薙払われ、敗北を喫したのだった。
「らいおんさん!」
 エレナの悲痛な叫びが木霊する。
「メアリーに気をとられすぎたのが仇になったなUNKNOWN。いや、今はらいおんさんだったな」
「くっ‥‥だが、たとえ私が倒れても、第二第三のらいおんさんがいずれお前達の前に立ちふさがるだろう‥‥」
 なにやらカッコイイ事を言っているが、服装がバニーガールなので何処から見ても間抜けな姿にしか見えない。
「らいおんさん‥‥」
 それでもエレナは感動の面持ちでらいおんさんを見ている。
「後は頼んだぞ、子らいおんさん。さらばだ!」
 らいおんさんは登場した時と同じように高笑いを響かせながら瞬く間に姿を消した。

 そして、らいおんさんが敗れた時点で、勝敗は既に決したと言ってよかった。
 紅組には八神の進行を止められる者は既におらず、紅組のヴィンセントやエレナよりも旗に近い位置にいたからだ。
「来るなー!」
「あっち行けー!」
「取っちゃダメー!」
 と言う休憩中の紅組メンバーの目の前で八神が易々と旗を奪い、
「取ったぞっ! 僕達白組の勝利だー!!」 
「あぁ〜〜」
 うなだれる紅組メンバーの前で高々と旗を掲げた。
「やった〜!」
「また勝ったのです!」
「バンザ〜イ!」

 パンパーン
 
 そして白組メンバーが勝利の歓声をあげる中、試合終了を告げるピストルが競技場に鳴り響いた。



 その後の閉会式も無事終わり、所変わってここは紅白軒という名のラーメン屋。
「恒例の『打ち上げらぁ〜めん』食べに行くぞぉ〜〜〜!」
 と言う真琴に連れられて、試合に負けた紅組の面々が勝った白組にラーメンを奢るため、この店にやって来ていた。
 残念ながら諸事情があって参加できない者もいたが、決して広いとはいえない紅白軒の店内はカウンター席まで全て埋まり、ほぼ借り切り状態の様になった。
「試合は勝っても負けても恨みっこなし! って事で、みんな今日はお疲れ様でした〜!!」

『お疲れ様でした〜!!』

「なんだかデジャブを感じる光景ですね。今回は奢られる側になる予定だったのですが‥‥、残念です」
 メアリーの掛け声に唱和して、他のみんながそれぞれ手に持ったグラスを掲げる光景を目にして文月が呟く。
「白組のラーメンは俺達紅組の奢りだ〜。なんでも好きモノを頼んでいいぞ〜!」
 透夜がヤケクソ気味に言うと白組からは歓声が、紅組からは形だけのブーイングがおこる。
「じゃ、私はねぇ〜」
「フィオナは自腹だぞ」
 すっかり奢ってもらう気になっているフィオナにすぐさまリヴァルが釘を刺す。
「えぇーー!! なんでよ〜! 私にも奢ってよ〜。私だって司会がんばったじゃない!」
「どこがだっ! 途中から司会をほったらかして饅頭食べてただろう。あれが司会のする事かっ!!」
「まぁまぁ、いいじゃない。フィオナさんのは私が奢ってあげるよ〜」
「ありがとう、まこっちゃ〜ん。大好き、ぎゅ〜」 
「私も大好きフィオナさん。ぎゅ〜」
 なにやら変なテンションで抱き合うフィオナと真琴。
「ところでリヴァルさん。リサさんって抱き心地良かったよ〜。柔らかくって、良い匂いがして、感じ易くて」
「なっ!?」
 真琴の話を聞いてリヴァルの顔が真っ赤に染まる。
「あ、リヴァル今想像したでしょ! や〜らし〜な〜」
「ち、違う! 違うぞ!! 俺はそんなやましい事など考えていないっ!」
 そんな風にリヴァルが弄られている姿をリサが苦笑しながら見ている一方で、何故かエレナが拗ねていた。
「どうしたのエレナ。ご機嫌斜めじゃない?」
「だって、あんのんお兄様がメアリーさんにあんな事を‥‥。私だってしてもらった事ないのに‥‥」
「え‥‥」
 キョーコはアレを羨ましがる妹の感性が信じられなかった。
「アレはらいおんさんがした事だ。私は無関係だよ」
 何時ものダンディな装いに戻ってちゃっかりこの場にいるUNKNOWNがエレナに囁く。
「でも‥‥」
「なら、ここにあるブルマを履いてみるかい?」
「えっ?」
 エレナが驚きながらも嬉しそうに頬を赤く染める。
「冗談でも私の前でそういう事をするのは止めろ!」
 キョーコは試合中では叶わなかったハリセンの一撃をUNKNOWNに見舞うのだった。

 <おしまい>