●リプレイ本文
目の前で展開するHWとCWの編隊が強襲してくると同時に傭兵達の頭に猛烈な不快感と痛みが起こる。
「あたた‥‥いつだってこのCWからの頭痛は慣れないものですね‥‥」
「痛っ! なに、コレ‥‥。気持ち悪い‥‥」
CWの妨害波に比較的慣れているナナヤ・オスター(
ga8771)などは集中力がかなりに鈍るものの操縦不能にまではならないが、初めて喰らったリサ・クラウドマン(gz0084)はそうはいかず、機体がフラフラし始める。
「リサさん、こいつはCW妨害波だ。気をシッカリ持って、まずは機体を安定させる事に集中してくれ」
リサは鬼非鬼 つー(
gb0847)に言われたとおり機体を安定させるため操縦桿を固く握った。
「リサさん、すぐに迎撃隊が来ますし、状況も明るくなるはずです」
「救援が来るまで、私たちが盾になりますっ。クラウドマンさん、味方機の側から離れないで下さいね!」
「は、はい‥‥」
ナナヤと九条院つばめ(
ga6530)に励まされ、リサは頭痛に耐えながらどうにか機体を操縦し始める。
そうしてなんとか体勢を整えた所でHWからプロトン砲の一斉砲撃が始まった。
「アクセル・コーティング展開!」
後方の2機からの砲撃はアクセル・コーティングで装甲を強化したつばめのディスタンに集中し、前方の1機は同じくアクセル・コーティングを使用した鬼非鬼のディスたんに、もう1機はリサの岩龍に突き刺さる。
「キャーー!!」
プロトン砲を喰らったリサだが操縦桿はまだしっかりと握っており、特殊電子波長装置も機能させている。
だが、機体からは煙が吹き、動きもフラフラし始めていて今にも墜落してしまいそうだ。
「雷様のお出ましだ」
そんなリサから敵の注意を引くため、鬼非鬼は前方の2機のHWにそれぞれ一発ずつ試作型G放電装置を放った。
しかし、鬼非鬼が思っていたほどの放電現象が起こらず、HWにダメージを与えたように見えない。
「どうやらCWの妨害波が知覚にも及ぶというのは本当らしいな」
だが、2機のHWからは反撃のプロトン砲が撃ち返されてきたので、リサから敵の注意を反らす目的は達せられた。
「やっぱりCWを何とかしないと‥‥」
リサの負担を少しでも軽減するため、つばめは操縦桿を引き、機体を宙返りさせて後ろに向けた。
そしてHWからの砲撃に耐えながら、どうにか後方のCWを照準を合わせ、トリガーを引く。
軽い衝撃を伴ってディスタンから切り離された8式螺旋弾頭ミサイルが煙の尾を引きながらCWに向かって飛ぶ。
続いてスナイパーライフルRを装備し、CWに狙いをつけた。
CWに螺旋弾頭ミサイルのドリルが潜り込み、内部で爆発。
「当たって!」
ゲル状の物質を撒き散らしているところにスナイパーライフルがCWのど真ん中を撃ち抜く。
その一撃でCWはバラバラになり、湖に落下していった。
そして4人を苦しめていた頭痛もかなり軽減する。
「やったぁ!」
コクピットの中で思わずガッツポーズをとるつばめ。
その頃、鬼非鬼もCWを狙ってG放電装置を放っていたが、やはり威力が減衰していてCWの表面を焦がす程度のダメージしか与えられない。
「やはりダメか」
そしてCWを狙うために前に出た鬼非鬼のディスたんに2機のHWが殺到し、至近距離からフェザー砲を浴びせかけてゆく。
いくらアクセル・コーティングで強化した装甲とはいえ、至近から断続的に攻撃を加え続けられて耐えられるわけがなく、鬼非鬼のディスたんはじょじょに装甲を削られ、アチコチに穴を穿たれ、火を噴き、煙を上げ始める。
「こっから先は立ち入り禁止だ」
それでも鬼非鬼は一歩も引かず、H−112長距離バルカンで2機のHWの牽制し、リサの盾となり続けた。
「鬼非鬼さん! それ以上攻撃を受けたら危険です!」
目の前でボロボロになってゆく鬼非鬼のディスたんをリサは見ていられなくなって叫んだが、鬼非鬼はリサの岩龍の前から退こうとしない。
「つーさん! 直衛役を交代します! 一旦後ろに退って!」
リサの護衛として岩龍に張り付いていたナナヤが鬼非鬼を助けるために前に出てHWに127mm2連装ロケット弾ランチャーを撃ち放つ。
そうして1機はナナヤのウーフーに攻撃の矛先を変えたが、鬼非鬼は依然としてもう1機のHWと戦い続けている。
「鬼非鬼さん! もういいです! 私の事は放っておいて撤退して下さい!」
「リサさん。私は実は居酒屋『赤鬼』って飲み屋をやってるんだよ」
「えっ? 鬼非鬼さん、こんな時に何を‥‥」
戦闘中にも関わらず、いきなり世間話を始めた鬼非鬼にリサは不思議そうに聞く。
だが、鬼非鬼は構わず話し続けた。
「まぁ趣味でやってるような店なんだか、私の自慢の地酒が何本も置いてあってね。リサさんにはあとでそれをお酌してもらうから、ね」
鬼非鬼はモニター上で幾つものダメージランプが灯り、危険を知らせる警報が鳴り響くコクピットの中で、操縦桿を操りながらそう言ってニヤリと笑う。
「だから、」
鬼非鬼はそのまま話を続けようしたが、避けそこなったフェザー砲がディスたんのコクピットの風防をかすめた。
その衝撃でコクピットのガラスは全損し、その破片が鬼非鬼の身体に幾つも突き刺さる。
「ぐっ!」
真っ赤に焼けた鉄串を身体に突き刺された様な痛みを感じたが、鬼非鬼は悲鳴は極力飲み込んで歯を喰いしばる。
「鬼非鬼さん!」
誰かの悲鳴の様な呼び声が無線機から響いたが、コクピットに吹き込む風の音がうるさくてよく聞こえない。
「おいおい、こっちはまだ返事を聞いてないんだぞ。まったく、空気を読まない奴だ‥‥な!」
鬼非鬼は傷の痛みを無視してスロットルを全開まであけると、一気にHWの懐に飛び込み20mmガトリング砲をぶっ放つ。
曳光弾の光を伴った数十発もの銃弾が空薬莢を空に撒きながらHWの腹に吸い込まれてゆく。
そしてガトリングを撃ち終わった鬼非鬼のディスタンが通り過ぎた後ろでHWが炎を吹き上げながら地上に落ちていった。
「人の楽しみを奪うからこうなるんだ」
鬼非鬼は落下するHWを見ながら口元を歪ませて笑った。
一方、偵察班の救援を受けて出撃した迎撃班の5機は全速力で現場に向かっていた。
「なぜオペレーターのリサが偵察なんかに‥‥。くそっ!」
リヴァル・クロウ(
gb2337)は高速移動のGに耐えながら苛立たしげに吐き捨てる。
リサが敵に襲われたという一報を聞いたリヴァルは表面上は冷静を取り繕いながらも内心では酷い焦燥感に駆られていた。
しかも時間が経てば経つほど焦りは増大してゆき、それがストレスとなって彼の精神を蝕んでゆく。
そのストレスは出撃間近には限界近くまで膨らみ、普段はかけている眼鏡も外してきたぐらいだった。
「落ち着け、リヴァル。焦ってもどうにもならない。俺達が全力で助け出す。それだけを考えろ」
完全に気持ちが逸っているリヴァルを月影・透夜(
ga1806)はなんとか抑え様とする。
「分かっている月影! 俺は落ち着いている! 冷静だっ!」
まったく冷静でない声で返答してくるリヴァルに透夜は小さく溜め息をついた。
(「リサの運が悪いというか‥‥だが放って置くわけにもいかないからな。必ず助け出す」)
「あと1分で到着するぜ。現場ではお姫様が俺達の助けをお待ちかねだ。各機とも準備はいいか?」
「こっちはいつでもOKっすよ。リサさんを安全に撤退させるためにも、気合入れて頑張るっす!!」
「やっぱ傭兵は、KVで戦ってこそだよなァ! へへっ、テンション上がってきたぁ!」
ディアブロの試運転も兼ねて迎撃班に参加した河崎・統治(
ga0257)が無線を飛ばすと、KV依頼は初めてという巽 拓朗(
gb1143)が少し緊張気味に応え、同じくKV依頼は初の屋井 慎吾(
gb3460)が妙にハイテンションで応えた。
やがて5機の眼前に、まず2機のHWと、それを相手にしているディスタンの機影が見え始める。
「とーちゃく! よぅ、まだ生きてっか?」
迎撃班は偵察班に無線を飛ばしたが、CWの妨害波のためが雑音が返ってくるだけだった。
「仕方ない。んじゃ、始めるか!」
5機は統治の合図でブーストを発動、一気にHWとの距離を詰めた。
まずは透夜のディアブロが8式螺旋弾頭ミサイルを発射。
「そこを退け。目障りだ!」
少し遅れてリヴァルのR−01改と慎吾のディアブロが共にホーミングミサイルを発射。
螺旋弾頭ミサイルがHWの装甲を貫いて内部で爆発した直後にホーミングミサイルが爆発がHWを襲い、内部と外部の爆圧でHWを押し潰した。
「ハハッ、空で勝負ってのも悪くねぇ!」
初めて味わう空戦の感触に、慎吾のテンションがますます上がってゆく。
もう1機のHWは統治のディアブロが射程距離に入るとすぐにUK−10AAMを発射。
HWがAAMの爆炎に包まれた所を拓朗のS−01改が84mm8連装ロケット弾ランチャーでロケット弾をばら撒き、HWの周囲で更なる爆発を起こす。
そして爆発が収まる頃にはほとんど原型を失うほど潰れたHWが湖に落ちていった。
「やった! 1機撃破っす!」
初戦果に拓郎は拳を振り上げて喜んだ。
「待たせたな。騎兵隊の到着だぜ!」
「皆さん来てくれたんですね!」
ようやく無線の通話圏内に入ったらしく、統治が近くにいたディスタンに通信を送ると、嬉しそうなつばめの声が返ってきた。
「その声は九条院か? 九条院、リサは? リサは無事か?」
「その声、もしかしてリヴァルさんですか?」
リヴァルの問いに答えたのはつばめではなく、リサ本人だった。
「リサか? 無事か? 無事なんだな!」
「はい! 私は大丈夫です。ピンピンしてますよ」
「そうか‥‥」
本当に大丈夫そうなリサの声を聞いて、ずっとしかめっ面だったリヴァルの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
そしてリヴァルの身体に溜まっていたストレスも霧散していった。
「遅くなってしまった、すまん。だが、これ以上はやらせん。君は俺が護る」
「これより援護に入る。リサ、もう大丈夫だからな」
「透夜さんも来てくれたんですか。本当にありがとうございます」
知り合いが救援に来てくれた事でリサは本当に安心し、思わず涙を浮かべた。
「偵察班、ここは俺達に任せて退がってくれ!」
「了解です。つーさん、リサさんを連れて一旦退がりましょう」
「了解だ。さすがにこれ以上血が出たらまずいしね。お待たせ、お嬢さん」
統治の指示に従って、ようやく鬼非鬼がナナヤに連れられてリサと共に後方に退がる。
そうして偵察班が迎撃班と合流を果たす一方で、敵側にも4機のHWの増援が到着していた。
「全部で6機か‥‥これぐらいならなんとかなるな」
「マジっすか?」
拓郎にはけっこうな数に思えたのだが、透夜は事もなく言い切った。
「あぁ、後ろのCWは俺がなんとかする。後は各機の判断で行動してくれ」
透夜はそう指示を残すと、ブースト使用して弾丸のような勢いで敵編隊のど真中に突入してゆく。
HWから何発ものプロトン砲が飛んでくるが、透夜はまったくスピードを落とさず、機体を細かく左右に振り、時にはローリングさせて全て避けると、ソードウィングを展開してHWの1機に照準を合わせる。
「人の恋路を邪魔する輩は、ソードウィングに斬られて落ちて逝け!」
HWの脇を抜けざまにソードウィングで切り裂いた。
その手ごたえだけでHWの撃墜を確信した透夜はそのままCWに照準をセット。螺旋弾頭ミサイルを発射。
CWが内部に埋まったミサイルの爆発で四散した瞬間、皆を苦しめていた頭痛が嘘の様に晴れる。
これでこちらは岩龍とウーフーの電子援護を100%受けながら戦える様になり、形勢は完全に逆転した。
透夜に続き、スリーマンセルを組んで突入する各KV。
「さぁて、こっからは掃討戦だ!」
「やるっすよー!」
「こちらナナヤ、これから迎撃班への支援攻撃を行います」
拓郎とナナヤがロケット弾ランチャーでHWの足を止め、その隙に統治が一気に接近。
「ディアブロの真の力、見せてもらうぜ!」
近距離から『アグレッシブ・フォース』で威力を増したガトリング砲とレーザー砲を叩き込んでゆく。
完全に蜂の巣にされたHWはバラバラになりながら湖に落ちていった。
「こっから反撃タイムだぜ! どてっぱらに風穴あけてやんよっ!」
「俺は騎士でもなければ英雄でもない。だが、そんな俺でも護りたいと思う人がいる」
血気に逸る慎吾が飛び出し、普段はあまり前には出ないリヴァルもそれに続く。
「HWの気をこちらに引きつけておきます。その間に接近してください」
つばめのロケット弾ランチャーとスナイパーライフルの援護を受けながら慎吾はHWに近接し、ガトリング砲で弾幕を張りながら一気に肉薄。
「くらいやがれっ!」
すれ違いざまにP−115mm高初速滑腔砲を撃ちだ。
宣言どおりに胴体に大きな風穴は開けられたHWはしばらくフラフラと漂った後、爆発して墜落していった。
「ひゃっほーーっ! オレってKVも全然いけんじゃん!」
もう一機のHWには『アグレッシヴ・ファング』で一時的に威力を上げたリヴァルのR−01改が、まず残りのホーミングミサイルを全弾発射。
ミサイルの爆炎でHWが自分を見失った所で下方の死角に回りこんで接近し、照準に捉える。
「意地があるのだよ! 男にはなぁ!」
リヴァルは吼えながらトリガー引き、ガトリング砲とレーザーを次々とHWに撃ち込んでゆく。
無数の穴を穿たれたHWは炎を吹き上げ、小さな爆発を幾つも起こしながら落下し、湖に沈んだ。
残り一機のHWも透夜がバルカンでドッグファイトを仕掛け、最後はソードウィングでトドメを刺して撃墜。
こうして戦闘は無事終了し、リサの初偵察任務も完了した。
「怪我は大丈夫ですか、鬼非鬼さん?」
基地への帰路の最中、鬼非鬼の怪我を心配したつばめが声をかける。
「これぐらい平気だよ。この程度なら酒を飲めば治る」
「怪我してるのに酒なんか飲んで大丈夫なんっすか?」
「身体の中からアルコールで消毒するんだよ。ところでリサさん。お酌、してくれるよね」
「はい、鬼非鬼さんは命の恩人ですし、少しぐらいなら」
「よしよし、美人の酌に勝るものなしってね」
「あ! 鬼非鬼! 俺もその‥‥飲みに付き合わせてもらってもいいだろうか?」
「あぁいいよ。お客さんは多い方が嬉しいからね」
「なんだ、リヴァル。お前もリサにお酌してもらいたいのか?」
「ち、違う! そうじゃない!」
透夜にからかわれたリヴァルはすぐに否定した。
(「リサは酔うと抱きつきグセがあるからな。ちゃんと見張っておかないと‥‥」)
「他のみんなも来てくれて構わないよ。うちの店はノンアルコールも置いてるし、つまみも旨い物を揃えてるから未成年でも大丈夫だ」
こうして傭兵達は基地に戻るなり鬼非鬼に店に連れられ、酒に付き合わされる事になるのだった。