●リプレイ本文
第一回戦はシード権を獲得できなかった運のない8人の対戦から始まった。
第1試合
新居・やすかず(
ga1891):S−01H VS 瓜生 巴(
ga5119):雷電
「KVごとに頭部の形状が違うにも関わらず共用できるヘルメットなんて、無駄にすごい物作りますね」
愛猫ミルダへのプレゼントやお年玉のため、賞金目当てで参加したやすかずと、涼しい顔をしているが実は賞金目当てで参加し、愛機の雷電に万全のチューニングを施してやる気満々の巴との対戦。
初手は、やすかずがチョキ、巴がパーで始まり、次の瞬間
グシャ
と、鈍い音が会場内に響き、観客席からどよめきが起こる。
『おぉ〜っと、めり込んだ! やすかず選手の猛烈なハンマーアタックにより、巴選手の雷電の首が胴体にめり込みましたぁー! これは凄い! まさかのアクシデントです!』
「うわっ! す、すみません! ちゃんと力加減はできるようにセッティングしたつもりだったんですがミスったんでしょうか‥‥」
「‥‥」
やすかずはすぐに謝ったのだが巴はいきなりブラックアウトしたモニターを前に呆然としていて何も答えられない。
そして観客席にいる整備班からは悲鳴が上がり、やすかずに対してブーイングが起こる。
司会席の後ろでもFAXで呪いの言葉が送られ、抗議の電話も殺到したが、大会実行委員はもちろん無視した。
『ともかく、やすかず選手の勝利です』
「‥‥お見事でした」
リサの勝利宣言でようやく我に返った巴はそれだけを告げ、静かに会場を後にした。
ただし、雷電を降りた後、実行委員の一人を捕まえ、
「修理費はちゃんと出るんでしょうね」
冷静な顔をしつつも目では完全に怒りながら、そう問い詰めていたが。
第2試合
ナレイン・フェルド(
ga0506):アンジェリカ VS 時枝・悠(
ga8810):ディアブロ
前大会で一回戦で情けない負け方をしたため、リベンジに燃えるナレイン。
「お手柔らかにお願いね」
慢性的な資金難の折、偶然目に付いた大会の賞金を狙ってエントリーした時枝。
「先読みに回すほどの頭は無いのでな。力でゴリ押すとしよう」
初手は、ナレインがチョキ、時枝がグー。
ナレインは咄嗟にヘルメットに手を伸ばしたが、それを被るより先に時枝のピコピコハンマーが振り下ろされ、ナレインのアンジェリカの頭を直撃。
一瞬で勝負がついてしまった。
「あら、もう終わりなの? えー! これじゃあ前回とほとんどかわんないじゃな〜いっ!」
第3試合
ヴァン・ソード(
gb2542):ミカガミ VS 美環 響(
gb2863):S−01
「優勝しかないだろ。いや、俺が出場した時点で優勝は俺に決まった様なものか」
ジャンケンには絶対の自信を持ち、最初から優勝目指して参加したヴァン。
「勝負は時の運。僕にだって勝機はあるはずさ」
勝負は二の次、ただ面白そうだったから参加した響。
初手は共にチョキ。
続いて響が2連勝したが、ヴァンは軽々と防御。
続くチョキのあいこの後にヴァンがパー、響がグーを出した時点でヴァンのミカガミがあっさりと響のS−01の頭にピコピコハンマーを打ちつけて勝利した。
「俺が強いんじゃない、相手が弱かっただけだよ」
「今日の僕はツイてないようですね。もしよろしければ次の大会の時も勝負してもらえますか」
「いいぜ、その時にはもっと強くなってろよ」
負けてもさわやかな笑顔を浮かべている響の差し出した手をヴァンはガッチリと握り返した。
第4試合
篠原 悠(
ga1826):ウーフー VS 不知火真琴(
ga7201):ナイチンゲール
「ホントはポチで参加したかったにゃー」
愛機のワイバーンで参加しようとしたが却下されてショックを受けながらも代わりにウーフーで参加した篠原。
「こういう勝負事は正々堂々楽しくと! 正面からのガチ勝負です」
参加しているたくさんの知り合いと共に、とにかく楽しく騒ごうと参加した不知火。
初手は共にグーのあいこ。
その後、グーとパー、パーとグー、パーとチョキ、と攻守入れ替わりながら激しい攻防が続き、次いで4連続であいこになった。
「そう簡単には負けませんよっ」
「うふうふ。うふふふふふふふ」
そこで2人とも一旦間をとり、再び激しい攻防を始める。
「あちょーっ!」
「まだまだですっ」
「ふっ! 心眼!!」
「ひゃっ」
そして14回目のジャンケンで篠原がパー、不知火がグーを出した時、篠原のウーフーがピコピコハンマーを掴み損なって地面に落とす。
「えへへ、まだまだうちにも運が向いてるみたいですね☆」
そして15回目のジャンケンで篠原がグー、不知火がパーを出し、不知火のナイチンゲールが篠原のウーフーの頭にピコピコハンマーを叩きつけ、ようやく今大会中最多の勝負となった試合が終わった。
「えへへ、うちの勝ちですね♪」
「くぅやぁしぃいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
激戦を勝ち取って本当に嬉しそうな笑顔を浮かべている不知火と、本当に悔しそうに呻く篠原。
「惜しかったな、悠」
そんな篠原の元にレティ・クリムゾン(
ga8679)が慰めにやってくる。
「ごめ〜ん、レティさん。うち負けてもうた〜。せっかく準決勝でレティさんと戦えるとこやったのに‥‥」
「それは仕方ないさ。ま、私が代わりに悠の分まで戦って優勝してやるよ」
「ホンマ? ありがとう、レティさん!」
篠原は嬉しそうに笑うとレティの手を握ってブンブンと振った。
第2回戦。
第1試合
新居・やすかず:S−01H VS 鳥飼夕貴(
ga4123):S−01
「ちゃんとセッティングし直したし、今度は壊さないはずだけど‥‥」
いきなり頭部破壊を成し遂げたやすかずと、日本髪を結い和服を纏って完全に女形の装いで参加し、前大会での2回戦敗退のリベンジを狙う夕貴との対戦。
「フレ〜フレ〜夕貴ちゃ〜ん! ファイトよ〜♪」
観客席では夕貴を大の仲良しであるナレインがわざわざチアリーダーの格好に着替え、ポンポンを振って応援してくれた。
「ありがと、ナレインちゃん。お礼に俺がナレインちゃんの代わりに優勝してあげるからね」
初手はやすかずがグー、夕貴がパー。
「隙ありっ、お命頂戴っ!」
すぐさま夕貴の気迫のこもった一撃が繰り出されたが、やすかずはなんとかガード。
パーのあいこの後、再び夕貴が勝って攻撃を加えるが、やすかずの防御の方がやはり早い。
次のジャンケンでやすかずがチョキ、夕貴がパー。
「いまだっ!」
ずっと防御に徹していたやすかずが一転して牙を剥き、夕貴のS−01にピコピコハンマーを叩き付けた。
「ほっ。今度は壊さずに済んだ‥‥」
「俺に勝ったんならさぁ優勝してよ。そうすれば俺の負けも報われるし〜」
安堵の吐息をつくやすかずに、夕貴は悔し紛れの一言を残して格納庫へ戻っていった。
「うわ〜、惜しかったわね夕貴ちゃん」
コクピットから降りてきた夕貴を残念そうな顔のナレインが出迎える。
「あはは‥‥。ま、負けたものは仕方ないしね。この後はナレインちゃんと一緒に応援しようかな」
「うん、そうしましょ♪ はい、ポンポン貸してあげる」
こうして世にも奇妙なチアリーディングペアが誕生した。
第2試合
新条 拓那(
ga1294):ディアブロ VS 聖・綾乃(
ga7770):アンジェリカ
「ただのお遊びもKVを使うと物凄いインパクトがあるもんだな。いいね、何か燃えてきた!」
自身のKVの無骨さを隠すため、お祭りっぽいデコレーションや塗装を施したディアブロに乗って参加した拓那。
「みなさんに被害が及ぶ前にウチの『暴走突貫姉』を『強制終了』させます! ‥‥なンて☆ 実は私も、遊びたいンですぅ〜〜〜」
おそらく参加しているだろう姉の暴走を抑える事を口実にして自分も楽しく遊ぶために参加した綾乃。
「あれ? 綾乃ちゃんが相手なの?」
相手が知り合いの女の子だと分かり、拓那は少し困り顔で頬をかく。
「そぉですよ〜。だから手加減してくださいね、新条さん」
対する綾乃は可愛く笑ってみせた。
「げげっ! なんで綾乃がココにいンの?」
一方、妹が参加している事を知った姉の真琴は嫌そうな顔で尋ねる。
『もっちろん♪ ‥‥ストッパー』
綾乃は明るく言った後、急の真顔に戻って低く凍えるような声でボソリと言った。
初手は共にパーであいこ。
次手は拓那がパーで、綾乃がグー。
拓那が素早くピコピコハンマーを取って振り下ろした直後。
バキッ
と鈍い音が鳴って、綾乃のコクピットのモニターがブラックアウトした。
「アレ? アレレ? なにコレ〜? 故障ですか〜?」
それは拓那の一撃でアンジェリカの頭がもげたせいだが、それに気づかず慌てた綾乃が操縦桿を動かすと、偶然にもアンジェリカの足がもげた自分の頭を踏んでしまい、体勢が大きく崩れる。
「えっ? なになに?」
そしてそのまま後ろに盛大にすっころんだ。
「キャーーー!!」
もうもう土煙が上がり、不恰好にこけたアンジェリカから綾乃の悲鳴が上がる。
「おいしいぃぃーーー!! 美味し過ぎるよ綾乃〜!! こんな美味しいシチュエーションは私がやりたかったくらいだよぉ〜! 綾乃、グッジョブ!」
綾乃の醜態を見た真琴はお腹を抱えて大爆笑すると、笑いすぎて涙目になった顔で親指をぐっと突き立てた。
「私はマコ姉と違ってギャグでやったンじゃないもンっ!! 純粋な事故だもン! こんな事で羨ましがられてたってちっとも嬉しくないよっ!!」
綾乃はコクピットハッチを開けると、羞恥で顔を真っ赤にしながら姉に向かって怒鳴り返した。
そして試合後。
「ちゃんと手加減してくださいねって言ったのにぃ〜! 新条さんヒドいですぅ〜!」
「いや、ちゃんと手加減はするつもりだったんだよ。でも手元が狂っちゃったっていうか‥‥」
頭のもげたアンジェリカの前で女の子座りでへたりこみ、いやいやする綾乃を必死で宥める拓那の姿があった。
第3試合
聖・真琴(
ga1622):ディアブロ VS 文月(
gb2039):アンジェリカ
「むふふふぅ〜? KVでこぉ〜んな事やっちゃおうなンて‥‥実行委員のおっちゃん達も好きだねぇ〜♪ 実行委員のおっちゃん達ぃ〜。大好きよぉ〜〜〜ンCHU☆」
仲間達とわいわい騒ぐために参加した真琴が司会席の実行委員長に投げキッスする。
「ドラグーンが勝ち抜く事でKVの操作が不慣れという印象を払拭させられるかも‥‥」
遊び半分で参加した文月だが負ける事が嫌いなため上位を目指すと同時にそんな事も考えていた。
「おやおや〜ん、最初の相手は文月ちゃんか〜♪ いいよいいよ〜、かかっておいで〜♪ うけけけけッ」
「うっ‥‥。初戦から真琴さんと当たるとは‥‥」
なにやら怪しい笑い声を上げる真琴を相手にやり難そうにしている文月との対戦。
初手は、お互いにグーのあいこで次もあいこ。
続いて聖がパー、文月がグー。
「ちぇすとぉ〜!」
「くッ‥‥間に合えッ!」
真っ向から振り下ろしてくる聖のピコピコハンマーを文月は辛くも受け止めた。
「やるねぇ〜文月ちゃん。そうこなくっちゃ♪」
続くジャンケンはまたグーのあいこが2連続き、そこで真琴が一旦間を置いた。
(「思考を読まれている‥‥?」)
実はずっとグーしか出していない文月はそう思って焦ったが、
「よくあいこになるね。もしかして私達って相性いいのかなぁ〜?」
(「‥‥思い過ごしのようですね」)
聖の能天気なセリフで気づかれてはいないと確証を持った。
続いて聖がチョキ、文月がグー。
「いきますッ!」
ようやく反撃のチャンスの訪れた文月だったが、聖はあっさりとそれを防いだ。
そして次に聖がパー、文月がグーを出した直後。
「あ! らいおんさんがっ!」
聖が妙な事を叫んで文月の後ろを指差したが、文月は冷静にヘルメットを取ってかぶった。
「‥‥もぉー! 何でひっかかってくンないのぉ〜。かわいくないぞ文月ちゃん!」
「いや、そう言われても困るんですけど‥‥」
そんな幼稚な手を冗談ではなく本気で使ってきた聖に文月はこっそり呆れた。
「よ〜し、それなら次は本気だしちゃる!」
そして次のジャンケンで聖がパー、文月がグーを出した瞬間、聖の本気の一撃が文月の頭を捕らえていた。
「ふ‥‥手強い相手だった‥‥でも『幸運の女神』は私に微笑んだ訳だぁ〜♪」
聖はディアブロを跪かせ、ウイングをパタパタさせながら天に祈りを捧げるパフォーマンスをしてみせた。
「くッ‥‥私の鍛錬不足ですね。 ですが、次は負けません」
第4試合
時枝・悠:ディアブロ VS リヴァル・クロウ(
gb2337):R−01改
KV戦での訓練の一環と、データ収集のためと、司会のリサ・クラウドマン(gz0084)の実況が聞きたいための理由で参加したリヴァル。
「参加している実力者達と自力との差がどれほどになるのか、データ収集にはうってつけの舞台だな」
「がんばれボスー! これに勝てば次は私と対戦なンだから絶対勝ってよ〜!」
「なんか、今日のボスやる気満々だよね〜」
「きっとリサさんに良い所をみせたいのでしょう」
「必勝ですよ、ボス〜! そして決勝でうちと勝負です〜!」
仲間内から『ボス』の愛称で呼ばれているリヴァルに聖、夕貴、文月、不知火の声援(?)が飛ぶ。
「ぅ‥‥」
リヴァルはそんな仲間の声援(?)を受けて恥ずかしそうに顔を赤らめるとR−01改に乗り込んだ。
「気楽で良いな。これも戦闘には違いないのだろうが」
対する時枝は軽く皮肉を口にすると、淡々とした様子でディアブロに乗り込む。
初手はグーであいこ
次のジャンケンで時枝がチョキ、リヴァルがパーを出した瞬間、リヴァルがヘルメットに触れる間もなく、時枝のピコピコハンマーがR−01改の頭に命中していた。
「これが結論ということか‥‥」
負けた事は残念であったが、負けた場合リヴァルはカメラで各試合を撮影し、持ち帰って分析するつもりだったので悔いはない。
「あ〜あ、なんで負けちゃうかな〜‥‥」
「決勝でうちと戦う約束したのにぃ〜」
「リサさんもきっと呆れてるよ〜」
「くっ! し、仕方ないだろう。これが今の俺の実力なんだ。リサには、その‥‥いい所を見せなれなかったのは残念ではあるが‥‥」
ただし、仲間からの酷評され、弄られてしまうのは精神的に堪えた。
第5試合
石動 小夜子(
ga0121):岩龍 VS ヴァン・ソード:ミカガミ
「搭乗機は岩龍ですけれど、他の方達に負けないよう、頑張りたいと思います」
恋人の拓那と一緒にゲームを楽しむために参加した小夜子だが、最近知り合ったリヴァルとリサの仲が気になっていたので見学し、参考にしようなどという副目的も密かに持っていた。
「がんばれ小夜ちゃ〜ん。でも怪我だけはしない様に気をつけてね」
「はい、拓那さん。怪我しないようにがんばります」
拓那の声援を受けた小夜子は嬉しそうににっこり微笑み、コクピットに乗り込んだ。
「ここで勝ってベスト8。そして後2回勝って優勝だ!」
対するヴァンは1回戦を勝ち抜いた勢いのってやる気満々だ。
初手も次手もグーのあいこ。
3手目で小夜子がパー、ヴァンがチョキ。
小夜子は精一杯岩龍を操縦してヘルメットは手にしたのだが、
「チェェェストォォォォ‥‥!!」
かぶる前にヴァンのミカガミにピコピコハンマーの一撃を入れられてしまった。
「よっしゃあ! 2勝目だ!」
「あらら、負けてしまいましたね。でも楽しかったですよ」
負け惜しみではなく、純粋に勝負を楽しんだ小夜子は満足気に微笑んだ。
第6試合
ジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634):雷電 VS レティ・クリムゾン:ディアブロ
前大会ではベスト8までゆき、目の前にいるレティに破れたジュエル。
そして目の前のジュエルを破り、続く準決勝で破れ、4位に終わったレティ。
因縁の対決である。
「前回は惜しくも破れたが、KV相手なら顔は傷つけないし、遠慮なくやらせてもらうぜ?」
と言いつつも女性相手に本当に本気になれるか自分でも疑問がある、根っからのジェントリなジュエルだった。
「そうか。確かに前回は運が良かっただけだった。今度こそ、実力で栄誉を勝ち取ろう」
対するレティは本当に手加減抜きで戦う気の様である。
初手はジュエルがグー、レティがチョキ。
「喰ら‥‥え?」
ジュエルの雷電がピコピコハンマーを握り、振り上げた時には既にレティのディアブロはヘルメットをかぶり終えていた。
(「は、はえぇ〜‥‥」)
ジュエルはレティのディアブロのスピードに戦慄を覚えながらピコピコハンマーをテーブルに戻す。
そして次のジャンケンでジュエルがパー、レティがチョキを出した直後。
ピコッ
ジュエルはヘルメットに触れる前にピコピコハンマーの一撃を喰らって敗退した。
「私の勝ちだな」
「‥‥そうだな。俺の完敗だ。君なら本当に実力で栄誉を勝ち取る事もできると思うぜ」
涼しい顔をしているレティにジュエルはジェントリを保ちながら褒め称えたが内心では
(「くっそぉ〜! 1回も勝たずに負けたぁ〜〜!!」)
と、悔し涙を流していた。
第7試合
カルマ・シュタット(
ga6302):ディアブロ VS 最上 憐 (
gb0002):ナイチンゲール
前大会はベスト8で終わったが、今大会では更なる高みを目指しているカルマは
「俺は今回こそT・K・J王になる!」
と意気込んだものの、相手がとっても年下で顔見知りな憐だったので少々戸惑っていた。
「あ〜‥‥。正直闘いづらいですが、手加減はしませんよ」
一方、前大会ではシード枠から2回戦には行ったものの1度も勝てずに敗退したリベンジを目指す憐は。
「‥‥ん。りべんじする。頑張る」
相手が顔見知りのカルマでもまったく問題なさそうだった。
初手は、カルマがグー、憐がチョキ。
「せいやぁぁぁ!」
カルマが気合と共にピコピコハンマーを振り下ろしたが、惜しくもヘルメットに阻まれた。
「‥‥ん。当たらない。防御成功」
次はカルマがグー、憐がパー。
「‥‥ん。えい。とぉ」
まったく気合が入っていない様な掛け声で振り下ろされたピコピコハンマーだったが、そのスピードは尋常ではなく、見事、カルマのディアブロの頭に叩き下ろされた。
「‥‥ん。勝った。とりあえず。前回の雪辱。はらした」
憐はピコピコハンマーが気に入ったのか、それを持ったまま満足気に言う。
「あ〜今回もダメだったか‥‥。憐さん、頑張ってくださいね。俺の代わりにぜひ優勝を」
第8試合
ロジャー・ハイマン(
ga7073):ナイチンゲール VS 不知火真琴:ナイチンゲール
「シード枠で2回戦に上がったんじゃ意味がないんだ。とにかく1勝。ジャンケンだけでもいいから1勝しないと」
前大会で最多のジャンケン数を誇りながらも一度もジャンケンには勝てなかったロジャーは不知火の乗るナイチンゲールを見てわずかに眉をひそめた。
「ん〜やり辛いな‥‥。ナイチンゲールは個人的に好きな機体なので殴るのには少し抵抗が‥‥。まあ、やるしか無いんだけども‥‥」
そうして迷いつつもロジャーはテーブルについた。
初手は。ロジャーがグー、不知火がパー。
ピコッ
前大会では7回連続で防御を決めたロジャーだったが、今大会では1度も防御できず、悲願だったジャンケン1勝すらもできずに散った。
「‥‥俺って本当にジャンケン弱いなぁ‥‥まあ、いいか。はあぁ〜〜‥‥」
と言いつつもロジャーはかなりショックを受けている様に見えた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ははは‥‥大丈夫です」
なんだか勝った不知火の方が申し訳なくなってしまって声をかけると、ロジャーは乾いた笑いで応えてくれた。
「‥‥次の試合も頑張って下さいね」
それでも不知火のお陰で気を取り直せたロジャーは不知火に握手を求めて手を差し出す。
「あ、はい。ありがとうございます」
ロジャーが少し元気になってくれた様なので安心した不知火はその手を握り返した。
第3回戦
第1試合
新居・やすかず:S−01H VS 新条 拓那:ディアブロ
「拓那さん、じゃんけんの手とハンマーやヘルメットを取る手を別にした方が早そうだと思うんですけど。どうでしょうか?」
「うん、いいかもしれない。ありがと小夜ちゃん。小夜ちゃんの分もがんばってくるよ!」
小夜子からアドバイスを受けた拓那は嬉しそうに笑った。
「はい、がんばってください」
小夜子も嬉しそうに微笑み返すと拓那手のディアブロの背に手を振って送り出した。
初手はやすかずがパー、拓那がチョキ
「失礼、いただくよ!」
拓那のディアブロが素早くピコピコハンマーを掴み、刹那の動きで振り降ろされてくる。
「くっ!」
その予想より鋭い一撃に、思わず回避しそうになりながらも、やすかずはヘルメットを被った。
しかし、ヘルメットは頭ではなく、既に頭に打ち下ろされたピコピコハンマーに被さっていた。
「キミの出す手は読めている! な〜んてね?」
「はぁ、だめでしたか。仕方ない。買ったばかりの猫の写真集でも眺めながら応援に回りましょう」
試合後、やすかずはS−01Hから降りると、写真集「世界の猫(雑種編)」を手に観客席に向かった。
第2試合
聖・真琴:ディアブロ VS 時枝・悠:ディアブロ
「っしゃぁ! やったるぞぉ〜〜〜? Its a ShowTime♪」
「‥‥」
共に真紅のカラーリングのディアブロ同士だが、常にハイテンションな聖と、常に寡黙な時枝。
パイロットに関しては正反対とも言える対戦となった。
初手は共にグーであいこ。
「ほれ♪ 来なよ。ほぉ〜れほれ☆」
「‥‥」
聖がディアブロを斜に構えさせ中指をおっ立て、くいくいと倒すジェスチャーで挑発するが、時枝は無言のまま対峙している。
「ありゃ? 乗ってこないかぁ〜。ざ〜んねん」
聖はおどけた調子で言うと再びジャンケンの構えを取る。
そして聖がチョキ、時枝がグー。
「っらぁ〜っ!」
聖は雄たけびながらヘルメットに引っ掴んだ。
しかし、掴んだ時点で既に頭上からピコピコハンマーが迫っていた。
「えっ?」
ピコッ
そして聖はヘルメットをかぶる間もなくピコピコハンマーの一撃を受けて敗れ去った。
「く〜や〜し〜いぃ〜〜〜!! よりにもよっておンなじディアブロ乗りに負けちゃったよぉ〜! 拓那さん! 次に時枝さんと戦うの拓那さんなンだから、ちゃんと仇とってよ〜! 小夜子さんもこのポンポン持って一緒に応援しよ☆」
「えっ? 私もこれで応援するんですか?」
「ほら、こうやって。フレ〜フレ〜拓那♪」
「ふ、ふれ〜ふれ〜拓那‥‥さん」
「あら、小夜子ちゃんもチアしてくれるの? 嬉しい♪」
こうして聖が真っ赤になって恥ずかしがる小夜子を引き込んだ事により、チアリーダーは4人になった。
第3試合
ヴァン・ソード:ミカガミ VS レティ・クリムゾン:ディアブロ
レティのディアブロを前にしたヴァンの額を嫌な汗が流れ落ちてゆく。
レティはヴァンの知り合いの中でも指折りの実力者だ。
ハッキリ言って自分が束になっても勝てる相手ではない事は分かっている。
だが、ここで尻込みして引き下がっていては男がすたる。
「さて、顔見知りだからって手加減は無しだぜ? 寧ろ全力でやってやるよ!」
だからヴァンは大見得の啖呵を切った。
「そうか。ならば私も全力でやろう」
すると、レティも素直にヴァンの言葉に応じてくれた。
「え‥‥」
思わず言葉を失うヴァンだったが、今更『いやぁ〜ちょっとぐらいは手加減してくれた方が俺としては嬉しいかなぁ〜』などと言えるわけもなく、
「おっしゃぁ〜! やってやるぜぇ〜!」
無理矢理自分に気合を入れて戦いに望んだ。
初手はヴァンがグー、レティがパー。
ヴァンはすぐにヘルメットに手を伸ばしたが、ヘルメットに触れるより先にコクピットにまで響く程の衝撃がヴァンを襲う。
それはもちろんレティがヴァンのミカガミの頭にピコピコハンマーを打ち付けた衝撃だ。
「なっ! なんだコレ? すげー衝撃だよ‥‥! 加減って言葉知ってんのか?」
「望みどおり全力でやった結果だ。コレでも頭部は潰さないように加減はしたが、何か不満があるのか?」
レティは別に睨んだ訳でも凄んだ訳でもなかったが、その言葉には有無を言わせぬ迫力があった。
「くっそぉ〜‥‥。鬼だよ、アイツ」
所詮、敗者が何を言っても負け犬の遠吠えに過ぎず、ヴァンはベスト8で敗退した。
第4試合
最上 憐:ナイチンゲール VS 不知火真琴:ナイチンゲール
「お願い不知火さ〜ん。真琴’ずの相方の仇とってぇ〜〜!!」
「任せて聖さん。仇は決勝戦でバッチリとってあげますよぅ☆」
嘘泣きまじりの聖の声援を受けた不知火がコクピットから笑顔でVサインを返す。
「‥‥ん。お腹空いた」
対する憐は空腹を感じてカレーに思いをはせたりと、マイペースを貫いている。
初手は憐がパー、不知火がチョキ。
「えいっ」
「‥‥ん。まだまだ。大丈夫」
不知火の抜き打ちの様な一撃を憐がガード。
次はグーとパーのあいこが続き、憐がグー、不知火がパーで再び不知火が攻撃をしたが、またも憐が防ぐ。
「うぅ〜、この子って意外と鉄壁だ〜」
それからグーのあいこになり、憐がチョキ、不知火がパーでようやく憐に攻撃の出番が回ってきた
「‥‥ん。反撃」
だが、ピコピコハンマーを握り、振りかぶった瞬間、手からスコーンとピコピコハンマーが抜けて飛んでいった。
「うわっ! ラッキ〜☆」
「‥‥ん。お腹空いて。力でない?」
そうして難を逃れた不知火だが、次の攻撃の機会でも憐の防御を突破できなかった。
「‥‥ん。そんな。攻撃じゃ。ピコハンが。泣いてる」
そして10回目のジャンケンで憐がグー、不知火がチョキを出し、
「‥‥ん。お命頂戴」
ピコッ
とうとう憐の一撃を頭に受けて不知火は敗退した。
「むぅ、負けちゃいましたか。残念です‥‥。でも、いい勝負でした。うちの分も頑張って勝ち進んで下さいね♪」
「‥‥ん。行ける所まで。行ってみる」
不知火は憐のちっちゃい手を取って握手した。
こうして第1回戦から勝ち上がってきた不知火真琴はベスト8で散ったが、今大会の合計ジャンケン数、最多の26回の記録を残したのだった。
準決勝
第1試合
新条 拓那:ディアブロ VS 時枝・悠:ディアブロ
「拓那さん! 絶対私の仇とってよぉ〜〜!!」
「フレッフレッ、拓那♪」
「拓那さ〜ん、ファイットーー!」
「いっぱーーーっつ!!」
「‥‥なんだか崖っぷちの仲間を救いあげそうな応援ですね」
「いいのよ、こんな時はノリでなんでもやっちゃえば♪」
「あはは‥‥。みんなありがと、がんばるよ」
仲間達の熱の篭った声援を受けた拓那は照れくさそうに笑うと競技場に向かった。
対する時枝は相変わらず冷静で無表情に見えるが、実はもう少しで入賞圏内なため、内心では喜んでいた。
(「良い流れだ。調子に乗ってしまうな、これでは。表情に出ない様に顔だけはちゃんと引き締めておこう」)
それでも外面では冷静を装ってテーブルにつく。
そしてテーブルにつくと自然と心まで冷静になり、戦闘態勢もすぐに整う。
「お手柔らかに頼む。私は加減しないが」
「俺も手加減なしでゆくよ。どうやら手加減して勝てる相手じゃなさそうだからね」
『それでは準決勝第1試合、開始です!』
リサの合図と共に繰り出した手はお互いチョキであいこ。
次手は拓那がチョキ、時枝がグー。
「いただくっ!」
拓那は小夜子を真似て、じゃんけんの手とハンマーやヘルメットを取る手を別にする戦法をとったが、それでも時枝のディアブロのヘルメットに攻撃を阻まれた。
(「速い‥‥!」)
その一度の攻防だけで時枝のディアブロが想像以上のスペックがある事を見て取った拓那だったが、その後も果敢に攻め続けた。
しかし、どうしても時枝の防御を抜く事ができない。
そして6回目のジャンケンで拓那がグー、時枝がパー。
拓那は自分では迅速な反応でヘルメットを取れたと思った。
しかし、それをかぶる前に時枝のピコピコハンマーは拓那のディアブロの頭を打ち付けていたのだった。
「負けたか‥‥。う〜ん、ここは勝っておきたかったかな‥‥。まぁ良いや、次勝てば3位にはなれるし、次行こう」
負けた瞬間はけっこう落ち込んだ拓那だったが、すぐに気を取り直すと頭を次に待つ3位決定戦に向けて切り替えた。
第2試合
レティ・クリムゾン:ディアブロ VS 最上 憐:ナイチンゲール
「レティさ〜ん! これに勝てば決勝や! がんばってや〜!」
レティは観客席でブンブン手を振って応援してくれている篠原に小さく微笑みながら片手を挙げて応えるとコクピットハッチを閉じた。
「‥‥ん。あと2回。それ終わったらご飯」
憐は空腹のせいでちょっとフラフラし始めていたが、それでもちゃんとナイチンゲールにもぞもぞと乗り込むと試合会場に向かった。
『それでは準決勝第2試合、開始です!』
初手はレティがチョキ、憐がパー。
憐は幼い身体には不釣合いなコクピットの中で意外なほど正確かつ緻密にナイチンゲールを操りヘルメットを掴んだ。
しかし、レティの操るディアブロは憐のナイチンゲールよりも更に速く、緻密に動き、ピコピコハンマーを打ち下ろしてくる。
ピコッ
そして憐はたったの一撃で敗北した。
「‥‥ん。負けた。お腹空いたから。帰る」
『あぁーー!! 憐選手、まだ3位決定戦があるんで帰らないでくださいっ!』
「‥‥ん。分かった。もちょっと我慢する」
リサが大慌ててで引き止めると、憐はしぶしぶといった感じで引き返してきてくれた。
3位決定戦
新条 拓那:ディアブロ VS 最上 憐:ナイチンゲール
「ふれ〜ふれ〜拓那さん」
「もう負けちゃダメですよ〜」
「拓那さん! せめて3位には入賞して私達にラーメン奢ってぇ〜」
多少私情も混じっている仲間達から声援を受ける拓那と
「‥‥ん。お腹。ぐーぐー」
空腹がピークな所まできていてフラフラな憐との3位決定戦。
初手は拓那がパー、憐がチョキ。
「‥‥ん。これで。最後」
おそらく最後の力を振り絞ったと思われる憐の一撃が拓那のディアブロの頭部に迫る。
「間に合えぇ!」
拓那も素早く反応してヘルメットを掴んだが、
バキッ
と鈍い音が響き、何かが宙を舞う。
「‥‥ん。‥‥首が取れた。空を舞ってる」
憐がちょっとだけ楽しそうに宙を舞っている拓那のディアブロの頭を目で追う。
「うわっ! ちょっと! 頭は勘弁して欲しかったなぁ〜。トホホ‥‥」
拓那はブラックアウトしたモニターを前に苦笑を浮かべ、ガックリと頭を垂れた。
「‥‥きっと私のアンジェリカを傷モノにしたバチが当たったンですよ」
そんな拓那の様子を見て、口の端を持ち上げる様にフフフッと笑う、実はまだけっこう根に持っていた綾乃だった。
「なにやら綾乃さんが黒い発言を‥‥」
「あ〜、この子って実はけっこう腹黒だからね〜」
「そンな事ないよっ! 誤解される様なこと言わないでマコ姉っ! きっと最上さんは私のアンジェリカのために仇を取ってくれたのよ♪ 3位おめでと〜最上さーん☆」
決勝戦
時枝・悠:ディアブロ VS レティ・クリムゾン:ディアブロ
『さ〜て、会場の皆様。19試合行われたKVによる『たたいてかぶってジャンケンポン』も残すところ後1試合のみ。20体のKVの頂点に立ち、優勝を手のするのは、双刀の剣士、時枝・悠か? Faithful Bullet、レティ・クリムゾンか? 両者とも相手に一度も自分の攻撃を防がせた事がない神速の持ち主。そんな2人が激突する注目のファイナルバトルも間もなく開始です』
リサの合図に従ってそれぞれのテーブルにつく、共に真紅のボディを持つ、2機のディアブロ。
「とうとう決勝か‥‥。気紛れに参加しただけだったが、存外、何とかなるものだな」
時枝が少しだけ感慨深げに呟いた。
「前大会から自分がどれだけ進歩したのか‥‥、今こそ分かるな」
レティが口の端で小さく笑みを浮かべる。
『それでは、『第2回、たたいてかぶってジャンケンポン大会』決勝戦。はじめっ!』
静かに睨み合っていた両者が出した初手は
時枝がチョキ、レティがパー。
「っ!」
気合の篭った呼気と共に時枝のディアブロが風を切ってピコピコハンマーを振り下ろす。
ピコッ
だが、初めて時枝の攻撃がヘルメットに阻まれた。
(「やるな‥‥」)
十分な速さと重さを込めた一撃だったため、止められた事に時枝は軽い驚きを覚えた。
「防御成功、次は反撃だな」
レティがようやく対等に戦える相手と巡りあえたためか、嬉しそうな笑みを浮かべる。
対する時枝はすでに冷静になっており、次の手を出す構えを見せていた。
そして続く2手目。
時枝がグー、レティがパー。
時枝は一瞬の間も置かずヘルメットを取り、被ろうとした。
(「間に合う」)
ヘルメットを手にした瞬間に自分でそう確信する程、まったく無駄のない素早い動きだった。
しかし、
ピコッ
時枝のディアブロの頭にはヘルメットよりも先にレティのピコピコハンマーが打ち下ろされた。
(「‥‥馬鹿な!?」)
時枝は自分の目を疑ったが、間違いなく自分のヘルメットは頭まで届いていない。
「私の勝ちだな」
時枝の耳に満足気なレティの声が響く。
そこでようやく時枝は自分の敗北を確信した。
「その様だ。しかし、なんてスピードだ‥‥」
さすがの時枝も驚きを隠せず、素直に感嘆の吐息をつく。
「私のディアブロよりも、速い機体がまだ上には居る。お互い精進していこう」
レティはそう言って笑うと、時枝のディアブロに手を差し出しだした。
「あぁ、そうだな」
時枝も小さく笑い返すとレティのディアブロの手を握り返した。
『決まったぁ! 『第2回、たたいてかぶってジャンケンポン大会』の勝者はレティ・クリムゾン選手に決定ですっ!!』
2人の様子に見入っていたリサがそうアナウンスすると、観客席から歓声が上がり、たくさん拍手が起こる。
レティはコクピットハッチを開けて外に出ると、少し照れくさそうにしながら片手を挙げ、観客達に応えた。
閉会式
大会実行委員長からお立ち台に立つ レティ・クリムゾン 時枝・悠 最上 憐 の3人に賞金が手渡させる。
「おめでとうございます! それでは3人に今の気持ちを聞かせてもらいましょう。まず最上 憐さんから」
「‥‥ん。賞金いらないから。あの。超ピコピコハンマー欲しい。‥‥ダメ?」
「あ〜ごめんなさい。あれはあげられないんです。それでは次、時枝・悠さん」
「しっかり貰っといて言うのもアレだが、もっと別の事に予算回した方が良いと思う」
そう言いつつも内心では賞金が手に入ってニヤニヤしている時枝だった。
「あ〜‥‥何やら耳に痛い意見ですね。それでは優勝したレティ・クリムゾンさん。今のお気持ちを聞かせてください」
「楽しい大会だった。次回があれば、今度は王者として戦おう」
「はい、ありがとうございました。それでは、もし次回がありましたらまたお会いしましょう」
リサがそう締めくくると会場中から拍手が起こり、大会は終了した。
「レティさ〜〜〜ん!」
お立ち台から戻ってきたレティに篠原が駆け寄ってきて思いっきり抱きつく。
「おい、悠!」
勢いよく抱きつかれたので、ちょっとふらついたレティだったがしっかりと篠原を抱き止める。
「おめでとう、レティさん。ホンマにうちとの約束どおり優勝してくれたんやね。うち、嬉しいぃ〜!」
「悠との約束だからな、当たり前だろ」
「うぅ〜〜! うち、レティさんのこと大好きやぁ〜!」
感極まった篠原はレティにさらにきつく抱きつく。
「おいおい、痛いよ悠」
そう言いつつもレティの顔は嬉しそうだ。
「あ〜‥‥俺もいるんだけど、忘れられてるっぽいなぁ〜」
そんな2人をヴァンは所在無げに見ていた。
「綾乃さん。このあと、一緒に甘いものでも食べに行きませんか」
最後まで試合を観覧していた響が綾乃に声をかけた。
しかし不意に誰かの手が肩に伸びてきて掴まれる。
「いいよぉ〜。でも食べに行くならラーメンね。みんなぁ〜! 恒例の『紅白亭』行っくぞぉ〜〜〜☆」
「おー!」
響の肩を掴んだままニヤリと笑う聖が号令を上げると、何人もの人間が応えた。
「えっ?」
綾乃を誘ったはずが、何故か姉の真琴に引きずられる響。
「『紅白亭』いったいどんなお店なんでしょうか? 楽しみですね、拓那さん」
「お腹も減ったし、2、3杯は食べられそうだよ」
「お疲れ様でした、リヴァルさん。でも残念な結果でしたね」
「いや、貴重なデータが手に入ったし十分な成果はあった。それに‥‥またリサとラーメンが食べられるしな」
「見応えのある戦いが多かったわ〜見てるだけで満足しちゃった♪ ラーメンも楽しみ〜♪」
「マコ姉に話は聞いてますけど、おいしいんですか?」
「うちは行くのは久しぶりですけど、おいしいですよ」
「メニューも豊富だしね。餃子もけっこういける」
「私達すっかりあのお店の常連さんですね」
後にぞろぞろと付いて来る大勢の参加者。
(「なんで僕こんな事に巻き込まれてるの?」)
そして結局響も一緒にラーメンを食べる事になった。
「ま、ラーメンはおいしかったし、みんなの馬鹿騒ぎも楽しかったからいいけどね」
<おしまい>