●リプレイ本文
競技場に埋め尽くされた雪を挟んで睨み合う紅組と白組。
紅組メンバーは
石動 小夜子(
ga0121)
新条 拓那(
ga1294)
聖・真琴(
ga1622)
月影・透夜(
ga1806)
カルマ・シュタット(
ga6302)
九条院つばめ(
ga6530)
八神零(
ga7992)
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)
蓮角(
ga9810)
フィオナ・フレーバー(
gb0176)
レイヴァー(
gb0805)
神浦 麗歌(
gb0922)
ドッグ・ラブラード(
gb2486)
ハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)
空木崎・ひふみ(
gb4102)
猫屋敷 猫(
gb4526)
白組メンバーは
鳴神 伊織(
ga0421)
水鏡・シメイ(
ga0523)
ロジー・ビィ(
ga1031)
如月・由梨(
ga1805)
新居・やすかず(
ga1891)
漸 王零(
ga2930)
鳥飼夕貴(
ga4123)
エレナ・クルック(
ga4247)
UNKNOWN(
ga4276)
不知火真琴(
ga7201)
飯塚・聖菜(
gb0289)
東 冬弥(
gb1501)
リヴァル・クロウ(
gb2337)
依神 隼瀬(
gb2747)
美環 響(
gb2863)
リサ・クラウドマン(gz0084)
雪上での戦いという事で紅組は迷彩のため白っぽい服を着ている者が多かった。
対する白組は、ほとんどの者が動物に因んだ衣装を身に纏っており、何人かは異彩を放つ衣装な者もいた。
まず季節柄、とってもおめでたい獅子舞がいる。
被っている者は『天衝本隊』の隊長である漸 王零。
「隊長があんな格好するなんて意外だな」
「かわいいですわよ隊長〜」
どちらかと言えば堅物な印象のある王零の獅子舞姿に隊の仲間達は大喜びである。
そして被り物系では着ぐるみも二人いた。
やすかずが猫の着ぐるみ。
「新居氏が猫好きなのは知っていたが、そんなものまで持っていたのか?」
「はい。以前衝動買いしたものの着る機会に恵まれずにいたものです。着心地はもこもこですよ」
リヴァルの質問にやすかずは少しはにかみながらも嬉しそうに答えた。
兎の着ぐるみにうさ耳のヘアバンドを付けているのはエレナ。
「うふふっ、一見ただの兎の着ぐるみに見えますけど、それだけじゃないんですよ〜。楽しみにしててくださいね、あんのんお兄さま〜♪ ‥‥って、あれれ? またあんのんお兄さまがいないですぅ〜!」
エレナは何時の間にか姿を消しているUNKNOWNを探したが競技場内に姿はなかった。
伊織と水鏡は着物だが、この2人は普段から着物なので、特に意識して着てきた訳ではない。
ただし、伊織は周りの動物系の衣装に合わせるため頭にはウサ耳は付けている。
「雪合戦ですか‥‥何だか懐かしいですね。終わった後はラーメンが食べられるみたいですし‥‥勝利して美味しく頂く事にしましょうか」
そう言う伊織の手には普通より一回り大きく作ってある雪玉の他に、氷の柱という凶悪な武器まであった。
それは帯の中にこっそり忍ばせて持ち込んだミネラルウォーターで固めて作った伊織の切り札だ。
涼しい顔をして立っているが、意外に怖い人である。
水鏡は狐のもふもふ尻尾を着物につけ、頭には狐のフサフサ耳も付けていた。
そして手には法螺貝を持っており、これを吹いて『全軍突撃ッ!』と叫ぶつもりであった。
「私自身の目標は、決して目立たず地味に行動して白組を勝利に導くことです。頑張っていきましょう!」
巫女服も2人。
一人は小夜子で、彼女は家が神社であるため普段から巫女服を着ている。
「ふふ‥‥勝ち負けよりも楽しめれば良いですよね」
小夜子が隣にいる拓那に笑いかける。
「そうだね。めいっぱい楽しもう。いや〜、それにしても何年ぶりだろうな〜。こんなことして遊ぶのは♪ 子供のころは雪深いとこにすんでてさ。よくやったもんだよ」
拓那はすっかり今から始まる雪合戦に夢中なっていて、あまり小夜子の事が見えていない様だった。
もう一人は猫屋敷。
ただし、こちらは小夜子と違って単なる巫女もどきである。
「参加者の中で最弱な私‥‥自分にできることを一生懸命頑張るです!! 強者を倒し‥‥逆境を乗り越える‥‥突き進め王道‥‥白組には負けません!!」
だが、そのやる気は本物であった。
セーラー服は3人。
つばめは現役の女子高生なので普通に着てきたのだろうが、聖はたぶんネタだろう。
「雪合戦かぁ〜☆ ちっちゃい頃以来だな♪ 雪国生まれ雪国育ち(岩手出身)の『底力』見せたるっ!! そんでもって今度こそ白組にラーメン奢らせてやるぅ〜〜!!」
今回も負けた組が勝った組にラーメンを奢る約束を取り付けているため、今まで2連敗の聖は雪辱に燃えていた。
「私も雪合戦なんてやるの、いつ以来かな‥‥? 皆で盛り上がるのは楽しそうですけど、何だかこの大会、回を重ねるごとに色々とすごいことになってるような気がします‥‥」
その事に一抹の不安を覚えるつばめだった。
3人目の空木崎・ひふみはAU−KV『リンドヴルム』を纏っているため見えないが、カンパネラの学園制服を着ていて、これもセーラー服である。
「初めてだから、ルールよくわかんないけど頑張るからね! 紅組の皆、頑張ろう。あたしも、自分の役割はちゃんと果たすからね」
白いネズミ耳頭巾と短い尻尾を装着し、フェイクファーコート・ズボン・ブーツ等、全て白で統一しているのは冬弥だ。
「モチーフ動物はハムスターだ。某有名マスコットキャラなんて意識してないぜ。‥‥ホントだぞ」
「いや、誰もそんな事疑ってないし、つっこんでもいないよ」
自分で念を押して自分で墓穴を掘っている冬弥に麗歌がつっこんでくれた。
中世の貴族を思わせる煌びやか衣装に黒猫の尻尾と耳を付けているのは響。
「にゃお〜ん」
持ち前の中性的な甘いマスクをフルに活かしつつ猫っぽい仕草も加えて自分の魅力を目一杯アピールした。
「あら、響も可愛いですわ〜♪」
「へ〜、響さんは黒猫ですか。やっぱりうちも何か着てくればよかったですね〜」
「響さんってそういう格好も似合うんですね」
すると、ロジーと不知火とリサが近寄ってきた。
「ありがとうございます。ですが、僕など御三人の美しさと愛らしさに比べれば足元にも及びませんよ」
響は幼少からの英才教育と持ち前の性格から自然にこういう社交辞令が言える。
だが、今言ったセリフは決して嘘と言うわけでもなく、本心も含まれていた。
「あら、口がお上手ですのね」
それが伝わったのか、ロジーも自然と微笑み返してくれた。
そして一際人目を引いているのが5人の白いバニーガール達。
この寒空の下、魅惑的な薄着で頑張っているのはロジー、由梨、夕貴、聖菜、リサだ。
「衣装は別に構わないんだが、このウサ耳は恥ずかしいな‥‥」
「え? ‥‥あぁ、聖菜さんはバニー姿よりも普段の格好の方が薄着でしたね」
ウサ耳に照れている聖菜を見て、由梨は妙に納得してしまった。
(「一蓮托生で私も着ましたが、やっぱりこれは恥ずかしいですね。それに‥‥」)
由梨はチラリと聖菜の胸を見て、自分の胸を見下ろした。
(「‥‥どうしてラストホープには極端に胸の大きい人が多いのでしょう?」)
何かがおかしい。何かが間違っている。
決して妬んでいる訳でもひがんでいる訳でもない(はず)だが、そんな思いに駆られる由梨だった。
「どうして夕貴さんまでバニーガール姿なんですか?」
確かに女性と見紛うばかりの美貌でバニーも似合っている夕貴にリサが尋ねる。
「いや、最初は日本髪を真っ白に染めて肌も白塗りの完全保護色な白猫になろうと思ってたんだけど、防衛班の他のみんなが全員バニーだったら合わせたんだよ」
「皆さん、とっても可愛いですわッ♪ さぁ、5人でバニーの力を紅組に見せ付けますわよ!」
そう言ってロジーはぴこぴこハンマーをビシッっと紅組の方に突きつける。
『バニーの力って何?』というツッコミも通じないくらいロジーはノリノリだった。
そして最後は
「フフフフフッ、ハハハハハッ」
重々しい声の高笑いを競技場内に響き渡らせるこの人。
「なんだこの声は?」
初めて聞いた者は不思議そうに辺りを見渡すが、
「これってまさか?」
「はぁ‥‥またか」
「このお声は愛しの♪」
既に経験済みの者は溜め息をついたり、額を押さえたり、歓喜の表情を浮かべたりと、それぞれの反応をしめす。
「トウッ!」
そして観客席から競技場に向けて跳躍し、伸身3回転半捻りをガッチリきめたその人物は、腕を組み、斜に構えて格好よくポーズつけて
「――らいおんさん、参上!」
高らかに名乗りを上げた。
そして纏っていたマントを翻したその姿は、『らいおん』のお面を被り『ビキニパンツ』と『わらじ』のみを身につけただけの艶姿だった。
「な、なっ、なんて格好してるんですかっ! UNKNOWNさん!!」
やや顔を赤らめたリサがUNKNOWN(らいおんさん)を注意しに詰め寄る。
するとUNKNOWNはマントをばさりと翻し
皆を見て
リサを見て
その肩をポンっと叩く。
「そう言う君も素敵な格好だが――淑女なら慎みは持った方がいい」
「っ!」
そう言われた瞬間、リサの顔が真っ赤に茹で上がる。
そして身を縮こまらせながら腕で胸を隠した。
「こ、こっ! これは仕方なく着ているだけであって、好きで着ているわけじゃありませんっ!!」
だが、そういう仕草をした方が妙に扇情的に見えるため、余計に男性陣(特にリヴァル)の注目を集めている事にリサは気づかなかった。
ともかく、こうして参加メンバーは勢ぞろいを果たし、いよいよ試合開始である。
「行ってくる」
リヴァルは競技場まで持ってきていた月詠をベンチに置き、グラウンドに足を向けた。
その月詠は前回、前々回の紅白でリヴァルと共に戦った友から譲り受けた物だ。
今その友はラスト・ホープを去り、この地にはいないが、おそらくは今回も共に戦いたかっただろうと思い、持ってきた物である。
パーン
試合開始のピストルが鳴り
ぶお〜ん
と、水鏡の法螺貝が鳴り響いた直後に両者が一斉に駆け出す。
そして順当に競技場の中央が主戦場になるかと思われたが、白組は自軍の旗の周りに集結するとガッチリと防衛の構えを見せた。
「そうきましたか。‥‥相手はおそらく後の先のカウンターを狙っていますね」
紅組の作戦をほぼ一人で構築したレイヴァーは白組の作戦を読んだ上で、あえてそれを受ける事にした。
「よし、じゃあ行ってくる! 旗は任せたよ、フィオナさん、ひふみちゃん、猫ちゃん」
「うん! フラッグ防衛はあたしにど〜んっと任せて!」
真琴から任されたひふみは胸部装甲をど〜んと叩いた。
「私ってばつくづく紅白戦だと戦力外だから、援護と防衛くらいしかできないしね。でも応援だけはこっから精一杯してるよ〜」
フィオナがヒラヒラと手を振る。
「私もスキルは全部使えませんから頑張って応援するです。防衛もするです。そしてゾンビになって帰ってくる人がいたらお茶でおもてなしするです」
冗談を言っている様に聞こえたが、猫屋敷の目はマジだった。
紅組は自軍のフラッグの防衛役のフィオナ、ひふみ、猫屋敷以外を白組のフラッグに一番近い壁周辺に集め、そこで陣形を整える。
レイヴァーの作戦は部隊を3つに分け、第三派から順に突撃を開始し、前が全滅したら次が突撃という風に波状攻撃をかけ、さらにゾンビ化して戦線復帰した者にまで突撃を敢行させるというものだ。
「俺、この戦いが終わったらあの娘に‥‥」
「あの娘ってどの娘なんだ?」
神妙な顔で呟いている蓮角にユーリがつっこむ。
「え? あ〜えっと‥‥どの娘にしようかな?」
蓮角の指が紅組の女の子の間をフラフラとさまよう。
真琴も小夜子も恋人がいる。
なので指先は自然とつばめの方を向いた。
「えっ! 私ですか?」
驚いたつばめは頬が微かに赤く染まる。
「あ、いや! これ、ただの冗談ですから」
あまりに純な反応が返ってきたので蓮角は慌てて誤魔化した。
「そ、そうだったんですか? びっくりしました〜」
つばめがほっとした顔で安堵の吐息をつく。
とりあえず突入前にフラグを立てておこうとした蓮角だったが、あえなく頓挫した。
最初に突入する第三派は小夜子、拓那、真琴、透夜の4人。
「やはり向こうは手練が多いな。波状攻撃の最後の方で沈んでもらおう。復活するまで時間がかかるからな。確実に削っていくぞ」
「はい!」
「勝ち負けとにかく、スパーの借り返しちゃるっ♪」
透夜の指示に小夜子は神妙な顔で頷くが、透夜の指示とは違い標的を既に王零に定めている真琴は、うははと笑う。
「よ〜し、第三派。突撃だーー!!」
そして拓那と小夜子と真琴が『疾風脚』を発動させてスピードアップすると、拓那の合図で第三派の4人が白組陣地に突入を開始した。
対する白組はフラッグを囲むように紡錘陣形を取っており、紅組はその右翼から襲い掛かってくる。
「来たぞ! 迎撃準備!」
紡錘陣の先頭で待ち構えていた王零が叫ぶ。
「さあ、ゆくぞ」
最初に迎撃を始めたのは『狙撃眼』を使って射程を上げたUNKNOWNだ。
だが、UNKNOWNはまず斜め前にいる伊織の首に雪玉をひたっと押し付けてみた。
「ひゃあぁぁ!!」
伊織が身体をゾクリと震わしながら悲鳴を上げる。
「な、なっ! 何をなさるんですか!?」
「ふっ‥‥。フンッ!」
伊織が振り返って睨みつけてくるが、UNKNOWNは満足そうな笑みを浮かべるだけ、まったく取り合わず、腕を振りかぶって雪玉を投擲した。
狙いは先頭を走る拓那。
ポカーン
雪玉は見事に拓那の顔面に命中。
「やったなUNKNOWN!」
けれど拓那は妙に嬉しそうだ。
どうやら久しぶりに体験するこの雪合戦を純粋に楽しんでいる様である。
「簡単には近寄らせませんよ」
「相手の間合いの外から攻撃する。兵法の常套です」
続けて水鏡とやすかずからも雪玉が投擲され、何発かは避けたものの次々と拓那にぶち当たってゆく。
拓那は腕で顔を覆い、痛みと衝撃に耐えながらも全弾受け切った。
もちろん身体はボロボロのヨレヨレだが、反撃する力はまだ残っている。
「よ〜し! 反撃だぁーーー!!」
そしてこちらの間合いに入った所で小夜子と拓那が『先手必勝』を発動。
拓那は衣神を、小夜子は冬弥を狙う。
ポカン
ポカン
「‥‥え? 俺、まだ何もしてないよ‥‥」
AU−KVに覆われていない顔面を雪玉で強打された衣神がゆっくりと後ろに倒れこむ。
「うぐぅ! ‥‥くっそ‥‥ 覚えてや、が、れ‥‥」
同じく反撃する間もなくやられた冬弥が前のめりに倒れた。
だが、一方的にやられている白組ではない。
「これ以上やらせるかっ!」
「ゾンビになっていただきます」
王零と伊織が迎撃を始める。
「きゃ!」
「うぐっ!」
伊織の雪玉が小夜子の頭を捕らえ、王零の雪玉が拓那の頬に喰い込む。
「みんなゴメン、俺はここまでみたいだ‥‥。後は‥‥頼、む‥‥」
王零の凶弾を受けた拓那はそこで力尽き、雪の上に崩れ落ちた。
「拓那さんっ!」
小夜子が悲鳴を上げる。
「任せろ新条。真琴、突撃いくぞ!」
「OK拓那さん。仇は取ってあげるからね☆」
そんな拓那の屍を乗り越えて、今度は真琴と透夜が前に出る。
「石動さん。新条さん一人であの世に行くのは寂しいでしょう。アナタも一緒について行ってあげてはどうですか?」
「え?」
そう言われて小夜子が動揺した隙を突き、伊織はさらに雪玉をぶつけた。
「あぁ‥‥」
そして雪まみれになった小夜子は拓那の隣に倒れ伏した。
「ゴメン、小夜ちゃん。俺、久しぶりにする雪合戦が楽しくて、小夜ちゃんを守る事、ちょっと忘れちゃってたよ。ホントにゴメン」
「気になさらないでください。私は楽しそうにしている拓那さんが見れて嬉しかったですし、雪合戦も楽しかったですから」
小夜子は申し訳なさそうにしている拓那の冷えた手を取って自分の頬に当てた。
「小夜ちゃんのほっぺって暖かいね」
「ふふ‥‥こう見えても、体温は高い方なのですよ」
でも小夜子の頬が熱いのはそれだけが理由ではない。
小夜子はチラリと自分の指で光る拓那からのクリスマスプレゼントの指輪を見た。
「あの、拓那さん‥‥」
「なに、小夜ちゃん」
「こ、このゆ‥‥」
『この指輪は婚約指輪と思って良いでしょうか?』と聞こうとした小夜子だったが、その前に顔がボンっと熱くなる。
「小夜ちゃん! すごい熱だよ。もしかして風邪?」
「い、いえ! 違います! 大丈夫です!」
やっぱり今日も恥ずかしくて聞けない小夜子だった。
「覚悟しろ! UNKNOWN!!」
透夜は一番厄介だと思われるスナイパーのUNKNOWNに標的に定め、『流し斬り』で側面に回りつつ『急所突き』で左右の雪玉を投擲した。
ポカポカーン
しかし、雪玉が直撃する前にUNKNOWNは隣のリヴァルの襟首を掴んで引き寄せ、自らの盾とした。
「ぐはぁ!!」
リヴァルの眼鏡が飛び、鼻血が宙を舞う。
「おぉ、リヴァル。死んでしまうとは何事だ!」
「いや‥‥。これは全部お前のせいだろうUNKNOWN」
悲劇ぶっているUNKNOWNをリヴァルが鼻血を拭いつつ半眼になって睨む。
「色々な意味で恐るべし、UNKNOWN。だが、これでもう盾はないぞ!」
盾(リヴァル)を無くしたUNKNOWN目掛けて透夜は再び雪玉を振りかぶったが、
「させません!」
「ボスの仇、討たせてもらうよ」
「さぁ、僕の華麗な必殺魔球、七色の変化球を受けてみるがいい」
「まぁ、そんな人でも今は一応仲間ですから」
先に由梨、夕貴、響、リサから一斉に雪玉を投げつけられる。
「くっ!」
リサや夕貴の雪玉を避けれたし、響の回転の効いた雪玉はそれほど痛くはなかったが、由梨のだけは別格だ。
腹に喰い込み、顔面を強打し、身体に突き刺さる。
(「このままでは殺られる」)
どうせ殺られるのならば一人でも数を減らそうと透夜は最後の力でリサを狙った。
「え?」
「危ないリサさん!」
だが、その雪玉はリサを抱き寄せて庇った夕貴に当たり、結局誰も倒す事は叶わなかった。
「くそっ!」
「えいッ☆ 隙有りですの」
ボカッ
「くっ‥‥無念だ」
そして透夜は援護に駆けつけてきたロジーの雪玉を頭に受けて倒された。
「ありがとうございます、夕貴さん。大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと痛かったけど平気平気。それに役得もあったしね」
「役得?」
「ボス〜! リサさんって柔らかくて暖かいよ〜。羨ましい?」
「な! 何を言っているんだ君はっ!!」
「あっ!」
そこでリサはようやく夕貴に抱き締められている事に気づき、顔を赤らめながら慌てて離れた。
その頃、真琴は王零に勝負を仕掛けていた。
「王零さん! いつかのスパーの借り、ここで返させてもらうよ!」
真琴は『限界突破』を発動させ、さらなるスピードアップを図った。
しかし、
「そうはさせませんよ〜」
エレナが真琴に向かってバトルハタキを振い、『虚実空間』を発動。
真琴の身体が青白い電波に包まれ、スピードがガクンと落ちる。
「あれ?」
「隙あり」
その隙に王零の放った雪玉が真琴のアゴにヒットした。
「あぅ!」
「まだまだ!」
さらに側頭部にクリーンヒット。真琴の頭をクラクラさせる。
だが、そこで王零の雪玉が切れた。
「チャ〜ンス! ほれほれ〜、にゃははははははは♪」
真琴はニヤリと笑みを浮かべると、ここぞとばかり雪玉を投げつけゆく。
「くっ! ‥‥調子に、のるなっ!!」
王零は顔や頭に雪まみれにしながら猛攻に耐え、雪玉を作り上げると、真琴の鳩尾に思いっきり撃ち込んだ。
「ぐふっ!」
その一撃で真琴はガックリと膝をつき、倒れ伏した。
「聖、今度も我の勝ちであったな。また機会があればかかってくるといい」
王零が真琴の側に立って見下ろしながら勝ち誇った。
「うぅ〜〜〜〜‥‥。く〜や〜しぃぃぃーーーー!!」
真琴は倒れたまま歯を喰いしばり、雪を握り締めた。
そうして全滅した紅組の第三派だが、紅組の攻撃はそれで終わらなかった。
「第一波、突撃〜!」
続いて第一波のカルマ、八神、ユーリ、蓮角を投入したのである。
「迎撃ーー!!」
すぐさま王零は号令を飛ばし、自分も雪玉を作ってカルマに向かって投擲する。
「ぐっ!」
しかしその雪玉はカルマを庇った蓮角に当たる。
蓮角は自分では王零や伊織といった怪物クラスには叶わないと分かっていた。
だから自分は仲間を1歩でも深く敵陣へ送り込むための盾となる覚悟を決めていたのである。
王零の一撃で臓腑を抉る様な衝撃を受けた蓮角だが、まだ走れる。
「‥‥まだまだぁ!!」
そして今度は八神を狙う伊織の攻撃を受け止めるために飛び出した、
「顔面ディフェーーンスッ!」
しかし、顔面で受けたのは不幸だったとしか言いようがない。
なぜなら伊織が投げたのは雪玉ではなく、氷柱だったからだ。
ガツーン!
「グハッぁ!!」
雪玉ではありえない音を響かせながら蓮角が吹っ飛ぶ。
「いってぇぇーー!! なんだ今の? 今の絶対雪玉じゃないぞ? うわっ! 血が出てるっ!」
蓮角は痛みで雪の上を転がってもだえた後、額から血が垂れてきた事に驚いた。
「どうやら偶然にも氷が混ざっていたみたいですね」
だが伊織はまったく悪びれた様子を見せず、しれっと嘘をつくのだった。
「いや、偶然でも氷が混ざるっておかしくないか?」
「偶然ですよ」
蓮角は疑いの眼差しを伊織に向けたが、伊織のポーカーフェイスが崩れる事はなかった。
「雪合戦とはいえ、勝負は勝負‥‥。生憎と負けるつもりはない」
そんな犠牲を払いつつ最前部の王零と伊織を突破した八神がUNKNOWNに向かって1投目を放つ。
UNKNOWNは軽く避けたが、そこに併せて放っていたユーリの雪玉が迫る。
「敵は一人じゃないぞ!」
「っ!」
それもなんとか避けたUNKNOWNだったが、続く八神の2投目まではさすがに避けられずに命中。
「よし! 今だ」
「喰らえっ!」
そこから八神はユーリと共に畳み掛けるように雪玉を投げつけ、UNKNOWNを撃退した。
「くっ‥‥見事だ。こうなった以上は私もゾンビになるとしよう。ゾンビは‥‥脱がねばならぬ、か」
雪まみれになったUNKNOWNはすくっと立ち上がると、おもむろにビキニパンツに手をかけ、擦り下げ始める。
「係員さ〜〜〜ん!! 早くこの変態を取り押さえてくださーーーい!!」
リサが大声を上げて係員を呼ぶ。
「ハハハハッ!」
UNKNOWNは係員に追い立てられる様に、ビキニパンツを半分ずらしたまま競技場の外へと駆けていった。
「一人でも多く、一発でも当てる!」
一方、カルマは敵陣深くまで突入すると、まずエレナに向かって雪玉を放つ。
「きゃん!」
額に雪玉を受けたエレナは可愛い悲鳴を上げて雪の上に転がった。
「うぅ〜、やられちゃったです〜。でも、あんのんお兄さま同時だなんてちょっと嬉しいです〜」
エレナは痛そうに額を押さえながらもちょっと嬉しそうだ。
「それに、あんのんお兄さまが脱いだ以上、私もなりふり構ってられないです〜」
エレナは立ち上がると一気に兎のきぐるみを脱ぎ捨てた。
きぐるみの下から現れたのは、白バニーガール姿のエレナ。
「待ってくださーい、あんのんお兄さま〜〜!!」
そして身軽(?)になったエレナはUNKNOWNの後を追って駆け出した。
そんな気の抜けるような展開が起こっている間も当然試合は進んでいる。
エレナを倒したカルマが次に狙ったのは響。
「この僕の顔には天文学級の保険がかかっている。もし傷一つでもつけたら、君には多額の保険金を払って貰ぐわぁ!!」
もちろん、カルマはそんなハッタリ気にせず思いっきり顔面に雪玉をぶつけた。
(「あ‥‥空が青い‥‥」)
そして響は無駄にキラキラしながら吹っ飛んだ。
カルマはそこから身を捻り、背後にいた夕貴に向かって最後の雪玉で奇襲をかける。
「うわっ! くそっ、油断した〜! ゴメン、リサさん。後は頼むね」
その雪玉を喰らった夕貴はリサにパチリとウィンクして退場した。
「え? ちょっと待ってください。右翼私一人になっちゃってますよ〜」
そう、この時点で白組の右翼はリサを残して全滅してしまったのだ。
「リサさん、今フォローに行くわ」
そんな右翼の穴を埋めるために不知火が駆けつける。
「これ以上は行かせませんよ」
「ふふ‥‥この雪玉の威力を思い知るのですわ〜!」
そして雪玉を全弾使い切ったカルマには水鏡とロジーから集中攻撃を受けていた。
頭、顔、腹、胸に次々と雪玉が命中し、立っていられなくなる。
だが、3人倒したカルマは既に自分の役割を十分に果たしており、満足そうな顔で雪に沈んだ。
「俺は役目を果たした。みんな、後は頼んだぞ‥‥」
そして八神とユーリは如月、不知火、やすかずの3人から間断なく攻撃が加えられていた。
八神は数発は避けたが後が続かず、ユーリも『自身障壁』で耐えていたが、それでもガリガリと生命を削られた。
「俺達はここで朽ち果てるだろう。だが、これは決して無駄死にではない」
「さぁ、俺達の屍を踏み越えてゆけ!」
そうして2人が倒れ、ユーリの叫びを合図に紅組第二派のつばめ、レイヴァー、麗歌が動き出す。
「敵の玉はもう残り少ないはずです。一気にフラッグを目指します!」
「これが紅組の最後の足掻きだっ!! 踏ん張れーー!!」
白組も急いで雪玉を製造しつつ迎撃準備を始める。
だが、攻めてきた紅組は3人だけではなかった。
「うおぉーーー!!」
突然、白組陣地の左翼からドッグ・ラブラードが姿を現し、全速力で駆けて来たのだ。
ドッグは紅組唯一人の遊兵で、試合開始直後から『GooDLuck』を発動させ、雪上迷彩服の上から白衣を羽織り、ずっと伏せて行動をしていた。
そして、敵の目が完全に右翼に集中した今を狙って攻行動を開始したのである。
もし、この時『探査の眼』を使える響が生き残っていれば、この伏兵に気づけたかもしれない。
だが、カルマはその事も見越して響を倒していたのだった。
「あんな所に伏兵がいるなんて」
「させませんよ」
水鏡とやすかずが『狙撃眼』で迎撃し、ドッグの足を鈍らせる。
「死んでもここは通さない!」
次いで聖菜が攻撃。
1球目は頭に命中。ドッグはなんとか耐えた。
2球目、顔面命中。ふらつく。
3球目、再び顔面に命中。そこで力尽きた。
フラッグまでの距離は、ほんの数メートルだった。
「くぅ〜〜、ちっくしょうーーー!!」
その頃右翼では王零の放った剛球がレイヴァーの側頭部を穿っていた。
「ぐうっ!」
雪玉とは思えない程の衝撃がレイヴァーの頭を揺さぶる。
レイヴァーはあわよくば自分がフラッグを取って決着をつけようとも思っていたが、この消耗率ではそれは難しそうだ。
レイヴァーは自分は捨て石になる覚悟を決め、正面に立ちふさがろうとしているロジーに雪玉を投げる。
「キャ!」
雪玉はロジーの顔に命中。その隙につばめが『流し斬り』でロジーの横に回りこむ。
「お命、頂戴します!」
そして『急所突き』でさらに雪玉を浴びせかけていった。
「いや! ダメ〜! これでは雪兎になってしまいますわ〜」
そしてロジーは雪まみれのバニーガールになって退場した。
だが、その間につばめは伊織と如月に挟まれ、何発もの雪玉を受けて倒れた。
「うぅ‥‥ここまで来ておきながら倒されるなんて‥‥」
その頃にはレイヴァーも王零にトドメを刺されて倒れ伏している。
「う‥‥ゾンビは‥‥」
レイヴァーは地面に倒れたまま紅組陣地に目を向けたが、やられた者達はまだ復活していない。
第三派のゾンビ隊が自分達の後に続く事はない。
そして残ったのは、レイヴァーとつばめが戦っている間に『隠密潜行』で元々薄い存在感を更に薄くして、コッソリとフラッグに取りに行こうとしていた麗歌だけだった。
だが白組の全員に気づかれずに接近する事などできるわけもなく。フラッグの前で防衛していた不知火とバッチリ目が合う。
「‥‥え〜と‥‥あはは」
「惜しかったね」
不知火はニッコリと笑うと力一杯雪玉ぶつけて麗歌を倒した。
「よし! 凌いだぞっ!!」
『おーー!!』
王零が鬨の声を上げ、他のみんなもそれに応えた、その時。
バッ
と、フラッグ近くの雪が舞い上がり、そこからハイン・ヴィーグリーズが姿を現した。
そう、伏兵はドッグ一人ではなかったのである。
ハインは第二派が突撃を敢行するのに合わせて『隠密先行』で地面に伏せ、ジリジリとフラッグに接近していたのだ。
この時点で白組に雪玉を持っている者はほとんどいない。
ハインは『先手必勝』を発動すると一気にフラッグ目掛けて駆け出した。
雪玉のない者は慌てて作り始めるがもう遅い。
「えぇ〜い!」
まだ雪玉を数個保有していたリサが投げたが、当たっても痛くも痒くもなかった。
「喰らえぇーー!!」
そして最後の砦である不知火が渾身の力を込めて雪玉を投げる。
「がはっ!」
雪玉はハインの鳩尾を貫き、背中まで抜ける様な衝撃が身体に走ったが、ハインは耐えた。
そして、フラッグ目掛けて一気にダイブ、精一杯手を伸ばす。
「届けぇーーー!!」
全員が息を呑んで見守る中、顔から雪に突っ込みながらも、ハインはその手にフラッグを掴んだのだった。
「‥‥やった! 私達紅組の勝利ですっ!!」
ハインは自分の手の仲に握られたフラッグを確認すると、雪まみれの顔に満面に笑みを浮かべて仲間達に向かってフラッグを振る。
「やったのですよ〜ひゃっは〜♪」
その光景を反対側の紅組フラッグ近くで見ていた猫屋敷は嬉しさのあまり思わず隣にいたひふみに抱きついた。
「うん! 勝った勝った! やったぁ〜〜!!」
ひふみもリンドブルムにゴツイ腕で猫屋敷を抱き返す。
「うひょーーー!! 初勝利ーーー!!」
「あはは、私達、何にもしない内に勝っちゃったわ〜」
そこに真琴とフィオナまで抱きつき、4人は団子になって倒れた。
「ウギャー! 重いのです痛いのですっ!!」
そしてリンドブルムの下敷きになった猫屋敷が叫び声を上げたが、やっぱり笑顔だった。
パンパーン
そして試合終了を告げるピストルが鳴り、冬の紅白対抗雪合戦は終わりを告げた。
所変わって、ここは競技場近くにあるラーメン屋の『紅白軒』。
閉会式も無事終わり、
「さぁ、『打ち上げらぁ〜めん』食べに行くぞぉ〜! いざ『おっちゃん』トコへ!」
始終上機嫌な真琴に連れられ、試合に勝った紅組が白組にラーメンを奢ってもらうため、この店にやって来ていた。
「おっちゃぁ〜ん、おひさ〜。今日は私らが奢られ役で来たよ〜♪」
そして今回はほとんどの参加者がやって来たため、店は完全に貸切状態になった。
「じゃあ、試合は勝っても負けても恨みっこなし! って事で、今日は皆さんお疲れ様でした〜!!」
『お疲れ様でした〜!!』
レイヴァーの掛け声に唱和して、みんなそれぞれ手に持ったグラスを掲げる。
「勝った紅組のラーメンは全部白組の驕りだからな! みんな好きな物を頼んでいいぞ〜!!」
透夜の宣言に紅組の面々が歓声を上げ、白組からはブーブーとブーイングが起こる。
「本当に奢って頂いてもいいんでしょうか?」
「気にしなくても構いませんよ。最初からそういう取り決めですからね」
遠慮している小夜子に由梨が微笑む。
「小夜ちゃん。ここは断る方が失礼だろうし、奢ってもらおうよ。小夜ちゃんは何にする?」
「じゃあ、一番安いラーメンをお願いします」
「では私もそれで」
本当は研究所の強化やら何やらで常時金欠な由梨が小夜子にならう。
「本当に何を頼んでもいいんですか?」
「えぇ、遠慮せず。醤油でも味噌でも豚骨でも何でも構いませんよ」
嬉しそうに目をキラキラさせている猫屋敷に水鏡が勧める。
「じゃあ私は味噌坦々麺チャーシュー増し増しで大盛りをお願いしますです!」
そして猫屋敷は本当に遠慮なく頼んだ。
「運動した後のご飯はおいしいです〜」
エレナは窮屈な店内を活用してUNKNOWNにピッタリくっつきながらラーメンを食べていた。
おかげで身も心もポカポカしてくる。
「うー‥‥冷えた体にラーメンの温かさが身にしみます‥‥」
「雪で冷えた身体には暖かいラーメンは格別だな。しかも今回は驕りだからな」
おいしそうにラーメンをすするつばめの隣で、透夜が満足そうな顔でスープまで飲み干す。
「やっぱ、勝った後の飯は美味しいですよね」
作戦を立案し、おそらくは一番勝利に貢献したレイヴァーも満足顔でラーメンをすすっている。
「‥‥っぷは!勝利の後の一杯はまた格別ですねぇ」
味噌ラーメン全部載せを注文した蓮角は一気の食べ終えると満面の笑みを浮かべた。
「今日は楽しかったですね‥‥少し痛かったですが」
「いや、アンタがそれを言うのか‥‥」
まだ少し根に持っているらしい蓮角が伊織には聞こえないように小さく呟く。
「ところで蓮角。戦いは無事終わったが、愛しのあの娘には何時告白するんだ?」
ユーリがイタズラっぽい顔をしながらコッソリつばめを指差す。
「だ、だからアレは冗談ですってばっ!」
からかわれているだけだと分かっていても顔を赤くして慌ててしまう蓮角だった。
「そう言えば、結局誰もゾンビにはならなかったですわね。あたし、皆さんがそんなゾンビになってくださるのか、ちょっと期待していましたのに‥‥」
ロジーが残念そうに表情を曇らせた。
「僕は『うりぃぃぃぃ!』とか『がおーーー』とか言うつもりでしたよ」
「俺は『うぼあぁあぁー‥‥』と不気味な声をあげるつもりだったぜ」
「『俺は人間をやめるぞ! 白組ィィィ!!』って叫ぶつもりでした」
「俺は『ぞんび』と書いた札を首から提げるだけのつもりだったな」
「私は両手を前に出しながらゆっくり歩いて『うへへへ』とか『に‥‥人間に戻りたぁ〜い‥‥』とか考えてたなぁ〜」
「私は語尾にいちいち『バーニング』とつける、よ」
麗歌、冬弥、蓮角、透夜、真琴、フィオナの順で自分のゾンビ像を語ってゆく。
「うふふっ。語尾に『バーニング』って、どんなゾンビですの? あたしなら‥‥」
そうしてゾンビネタで盛り上がった。
「すまん文月。負けてしまった‥‥。不甲斐ない俺を許してくれ」
店の隅に座ったリヴァルは月詠に向かって謝っていた。
「なぁリヴァル。お前、今日はずっとその剣持ち歩いてっけど、それって誰かの形見か何か?」
隣で豚骨ラーメンを豪快にすすっていた冬弥が気になって尋る。
「いや、これは友人からの預かり物だ。もし彼女が今回も白組に参加してくれていたら、きっと勝利していたのは白組だっただろう」
「そうだな。リヴァルの最愛の人であった文月がいれば勝敗は違ったかもな」
「あぁ‥‥。ん?」
思わずUNKNOWNのセリフに頷いたリヴァルだったが、妙な言葉が含まれていた気がして首を傾げた。
「えっ? うちはてっきりボスはリサさんとって、思ってたんですけど‥‥。うわぁ〜全然気づかなかった。ボスって意外と隅に置けない人だったんですね〜」
不知火が驚いた声を上げる。
「えっ!?」
その声を聞きつけたリサが驚いた顔でリヴァルを見た。
「いや、違うぞリサ! これは誤解だ!」
「‥‥はい、分かってます。私、UNKNOWNさんの言う事なんて信じていませんから」
リサはそう言って微笑んだが、その眼差しはどこか冷めたい。
「リサさん、店主に頼んで杏仁豆腐を作ってもらったのですが、一緒に食べませんか?」
そこにひょっこり響が現れ、杏仁豆腐の入った小皿を差し出してきた。
「ありがとうございます、響さん。いただきます」
リサはニッコリと笑って隣の席を響に譲る。
「あ、おいしいですね。この杏仁豆腐」
「リサさんは甘い物はお好きですか?」
「はい、好きですよ」
「それは良かった。僕も甘いものには目がなくって。よければおいしいスイーツのお店を紹介しますよ」
「えっ、本当ですか? 嬉しいです〜♪」
「じゃあ、今度一緒に食べに行きましょうか?」
そしてリサはリヴァルを放って響と楽しくおしゃべりに興じた。
「‥‥」
リヴァルは見ていられなくなり、背中を向けてず〜んと暗い影を落とす。
「あらら、怒らせちゃったのかしらね〜。ま、私は何時でもリヴァルの味方だからね。これでも食べて元気出しなさいって」
そんなリヴァルにフィオナは焼きたての餃子を差し出した。
「‥‥すまんな」
リヴァルは力なく笑うと餃子を摘んで食べた。
その直後。
「かっ! 辛ーーーーーっ!!」
リヴァルは絶叫を上げて立ち上がった。
その餃子はフィオナが厨房を借りて作ったもので、中にはた〜っぷりとからしが仕込んであったのだ。
「水、水!」
「はい、お水です」
リヴァルは差し出された水を飲み、ようやく落ち着いた。
「ふぅ‥‥。くそっ! フィオナの奴‥‥」
リヴァルが毒づいたが、フィオナは既に安全圏に逃げており、そこで笑っている。
「あの、大丈夫ですか?」
「ん? リ、リサ!」
そこでリヴァルはようやく水をくれたのがリサだと気づいた。
「フィオナさんのイタズラにも困ったものですね」
そう言って笑うリサの目からもう冷たさは感じられない。
「リヴァルってば、ほ〜んと私がいないとダメなんだから」
そんな2人を見て、フィオナは苦笑を浮かべるのだった。
終わり