タイトル:HungryBeastマスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/07 01:40

●オープニング本文


「行け」
 静かに告げられた命に従って、獣達は一斉に山を駆け降り始めた。
 獣達は皆一様に目を血走らせ、口から涎の垂れ流しながら四肢で雪を蹴り、山を下る。
 その獣達が目指す先には村と言っても差し支えないほど小さな町があった。

「何だあれは?」
 町の住人達は最初それを雪崩だと思った。
 しかし、よくよく見ると違う。
 雪崩にしては規模が小さく、動きも不規則だ。
「お、狼だ! 雪狼の群だぁ!!」
 そう、それは白い体毛に覆われた狼の群だったのだ。
 その数があまりにも多かったため、あたかも雪崩の様に見えたのである。
 しかも、その雪狼はただの雪狼ではない。
 バグアによって人間を殺すために作られた、殺戮戦闘生命体であるキメラなのだ。
 雪狼型キメラは町の北側からなだれ込むと、近くにいた住人に手当たり次第に襲いかかり、噛みつき、喰いちぎり、咀嚼し、さらに食らいつく。
 そう、雪狼型キメラ達は皆飢えていたのだ。
「逃げろーー!!」
 町の住人達はたちまち恐慌状態におちいり、逃げまどい始めたが、雪狼型キメラの動きは速く、無事に逃げ延びられた者はほんの一握りであった。
 町の至る所から悲鳴があがり、肉が引き裂かれ、血が飛び散り、血と臓物と獣の匂いが町に満ちてゆく。

 だが、町が中央を流れる川を挟んで南北に分かれた構造をしている事が幸いし、キメラの凶行は主に町の北側に留まり、川を越えて南側まで来るキメラの数は少数であったため、南側の住人はには逃げるだけの時間が与えられた。
 しかしそれも北側の住人が喰い尽くされるまでの間だ。
 北側の住人が全滅すれば、キメラ達は南側にも襲いかかってくるだろう。
 しかし幸運はもう一つあった。
 それは、最近ロッキー山脈に墜落したKVが2機とも消失するという事件があり、その調査のために付近に軍が駐留していた事である。
 町がキメラの大群に襲われているという知らせを受けた駐留軍は直ちに町に急行し、町の中央に架かる橋の手前で部隊を展開。
 急造ながらも防衛陣を築いたのである。
 やがて北側での捕食を終えたキメラ達が南側へと向かってきた。
「撃てぇーー!!」
 部隊長の合図でズラリと構えられた大口径のガトリング砲が一斉に火を噴き、何十発もの弾丸がキメラに向かって飛来してゆく。
 橋は一本道、キメラはそこを真っ直ぐに駆けてくるため、撃てば嫌でも当る。
「キメラと言っても所詮は獣。この立地条件なら楽勝だ」
 そう言って口元に笑みを浮かべ、ガトリング砲の引き金を引き続けていた兵士の眉間に突如、矢が突き立った。
 その兵は自分に何が起こったのか分からぬまま即死した。
「‥‥え?」
 続いて隣で何が起こったのか分からず呆然としていた兵の頭にも矢が突き立ち、絶命する。
「て、敵襲だ!」
「いったい何処から?」
 二人死んだ事で部隊長はようやく事態を把握したが、敵の攻撃が何処からされたのかが分からない。
 そうしている間に3人目の犠牲となり、そこでようやく矢の放たれたの位置が判明した。
「あそこだ! あの建物のてっぺんに人がいる。アイツの仕業だ!」
 兵が指さしたのは川の対岸にある建物の屋根の上。
 そこにはバンダナで押さえた長髪を風になびかせながら弓を構える一人の男の姿があった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
ルシオン・L・F(ga4347
19歳・♂・ER
暁・N・リトヴァク(ga6931
24歳・♂・SN
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST

●リプレイ本文

「あの雪山に近いです‥‥もしかして、余程知られたくない物があの山にあるのでしょうか‥‥?」
 石動 小夜子(ga0121)は、以前友人が撃墜された山を横目に見ながら、東の橋に向かっていた。
 しかし今は街の住民が避難する時間稼ぎと兵にこれ以上の犠牲は出さない事が先決だ。
「お待たせしました。傭兵の石動 小夜子です。皆さんの手助けに参りました」
「アンタが増援の傭兵? アンタ一人か?」
 兵達はこんなに小柄で若い巫女が増援だとは想像もしておらず、訝しげに小夜子を見る。
「いえ、後方にまだ2人控えています。なので安心して、この橋の防衛に集中しましょう。私が前に出ます。皆さんは援護してください」
 小夜子は土嚢を飛び越え、着地すると同時に目の前のキメラの頭を居合いで斬り飛ばし、返す刀で隣のキメラの胴を薙ぎ払う。
 そしてS−01を抜くと、こちらに向かってくるキメラの足元に撃って、その進攻を止めた。
「これ以上、犠牲は出させません!」
「‥‥強い」
 瞬く間に2匹倒し、進攻まで止めた小夜子の力に兵達は一瞬呆然となったが、
「強いぞあの巫女さんっ! よし、巫女さんを援護だ! 撃て撃てぇー!」
 すぐに活気づいて援護射撃を始めた。



 西の橋に向かったドッグ・ラブラード(gb2486)も兵達の前に出て、『ファング・バックル』で威力を挙げた拳銃『アイリーン』で1匹ずつ確実に撃ち減らしていた。
「未だ貧弱なこの身でも、必ず生還する、生還させる」
 ドッグは目前まで迫ったキメラを駆逐するとスブロフを2本取り出し、キメラの手前に向かって投げた。
 そしてコンポジットボウに弾頭矢をつがえ、地面に広がったスブロフに向かって射る。
 スブロフが燃え上がって広がり、キメラ達が一瞬だけ怯んで足を止めた。
「その一瞬が命取りだ」
「今だ、火線を集中させろ!」
 ドッグと兵達はその隙にキメラに向かって集中砲火を浴びせかけた。
 重火器の弾丸がキメラの身体に無数に食い込み、ドッグの銃弾が頭を撃ち抜く。
 瞬く間に橋の上にキメラの死体の山が築かれた。
「必ず生きて帰ると、覚悟し、戦おう。貴方を待つ人達のためにも」
 そうして勢いの乗ったところで兵達を鼓舞する。
「おぅ、もちろんだぜ!」
「4隊は射線を傭兵の左右に展開してキメラを横に周り込ませるな。1隊は傭兵の援護!」
 そうして兵達と連携して陣を築き、キメラの進攻を完全に抑えこんだ。



 その頃、町外れの広場では住人達を守るため、兵達が必死の防戦を行っていた。
「くそっ! このままでは突破される!」
「させるかっ!」
 だが、駆けつけた月影・透夜(ga1806)がキメラ群の横手からSMGで銃弾が浴びせかけた。
 1匹のキメラが全身に穴を穿たれ、血を噴き出して倒れ、残りが怯んで足を止める。
「間に合ったな。綾乃、速攻で排除するぞ。広場の市民がパニックを起こさないようにな」
「はい、月影さん♪ 背中は任せて下さいネ」
 透夜と共に駆けつけてきた聖・綾乃(ga7770)は広場とキメラの間に割り込み、金色に輝く瞳に冷酷な影を宿してS−01を正射。
「食事の時間は終わり‥‥『おやすみ』の時間だ‥‥」
 1匹を銃弾の餌食にして仕留めたところで氷雨を抜き払って『ソニックブーム』を放ち、次のキメラの前足を斬り落とす。
 綾乃は朱鳳も抜きながら駆け寄り、足を失ってもがいているキメラの頭を蹴り飛ばして黙らせ、身体を捻って隣のキメラの眼を狙って朱鳳で横一文字に斬り裂き、左の氷雨を頭目掛けて斬り降ろし、完全に頭を潰す。
「お前達‥‥二度と這い上がれない『漆黒の闇』の底で、永遠に眠り続けろ!」
 そして足元のキメラの頭に朱鳳を突き立て、完全に息の根を止める。
 残りのキメラも透夜が仕留めており、広場の安全が確保できた。
「俺は今から中央の橋へ向かう。綾乃は」
「私はこの付近の住民の避難誘導と、もしものための護衛をしようと思います」
「そうか、気をつけろよ」
 透夜は恋人の妹として護りたい気持ち抑えて一人前として扱い、綾乃の頭を撫でた。
「はい! 月影さんもお気をつけて」
 綾乃は透夜を見送ると、広場に足を向けた。
 そこで怯えて震える小さな女の子の前でしゃがみこむ。
「大丈夫よ。私達が必ず護ってあげる‥‥だから、泣いたりしないでね☆」
 綾乃は女の子の振るえが止まるまで優しく抱き締め、暖かいココアを飲ませて落ち着かせた。



「絶対に頭を出すなっ! 狙い撃ちにされるぞ」
 ワニキア・ワナギー(gz0155)の狙撃を受けている中央の橋の兵達は積み上げた土嚢に張り付くようにして身を隠しながら防衛線を張っていた。
「しかし、これではキメラに突破されてしまいます」
 事実、今の布陣では土嚢を越えたキメラを後ろから攻撃する事しかできないため、どんどんキメラが町の南側に進入していた。
「今は耐えろ! すぐに増援の傭兵部隊がやってくる」
 そして彼らはやってきた。
「これ以上は行かせん」
 リヴァル・クロウ(gb2337)は防衛線を抜けたキメラに向かいながら月詠を抜き、『豪破斬撃』を発動。
 先頭のキメラの頭を叩っ斬り、返す刀で次のキメラの首を裂き、襲い掛かってきたキメラの口腔内に突き入れた。
「速やかに防衛線を下げて!  前は僕らが守るカラ!」
 防衛線まで辿り着いたラウル・カミーユ(ga7242)は兵達に指示を飛ばすと土嚢にジェラルミンシールドを立て掛け、それを遮蔽物にしながらサブマシンガンを迫り来るキメラに向かって掃射する。
「了解した」
 兵達は遺体や負傷兵を抱えて下がり、後方30mで新たな防衛線を築いた。
「赤いバンダナに長髪、ワニキアって奴か」
 暁・N・リトヴァク(ga6931)は土嚢の隙間から川の対岸の建物の上にいるワニキアを見た。
「言ってる事は間違ってない。だけどバグアも自然に敬意をはらっているようには見えない。外から来た奴に地球が守れるわけ無いだろうに‥‥」
 そう呟いて暁は『狙撃眼』と『強弾撃』を発動。
「ワニキアを抑えます」
 土嚢を飛び越えると素早くライフルを構えてワニキアを狙撃した。
 音速を越えて飛来するライフル弾はワニキアの頭をわずかに反れて、額をかすめた。
「っ!」
 続く2発目と3発目を避けたワニキアは弓を絞り、暁に向けて射る。
 空気を裂いて飛来した矢は暁の右大腿部を貫通。
「ぐぅ!」
 続く矢も左大腿部を貫通し、暁が体勢を崩した所で第三矢が胸に突き刺さった。
「ぐぁっ!」
 暁は両足と胸から血を噴き出しながら後ろ向きに倒れる。
「っ!?」
 その光景を見たルアム フロンティア(ga4347)が息を呑む。
「援護する。その間に助けに行け!」
 ラウルは魔創の弓を構えると『強弾撃』を発動し、『鋭覚狙撃』で『急所突き』の矢をワニキアに向かって放つ。
「少しでも手傷を負わせられたら‥‥」
「暁氏!」
 ワニキアがラウルの矢を屈んでやり過ごしている間にリヴァルは土嚢から飛び出し、暁を抱えて戻ってくる。
「ルークすぐ治療を!」
「‥‥うん」
 ルアムが険しい顔で暁の傷の具合を診る。
「‥‥よかった。矢は‥‥ギリギリ‥‥心臓外れてる‥‥」
 ルアムが少しだけ表情を緩め、矢に手をかけた。
「抜く、よ。‥‥痛いけど‥‥我慢して‥‥」
「‥‥はい。一気に、やって下さい」
 青い顔で脂汗を流して横たわる暁は歯をグッと喰いしばった。
「ぐぅっっ!!」
 ルアムが矢を引く抜くと、激痛で暁の身体が大きく跳ね、新たな血が噴き出す。
 ルアムはすぐに『練成治療』を始め、傷を治してゆく。
 その間にもリヴァルはSMGをキメラに向かって撃ち放ち。ラウルはワニキアに向かって矢を放ち続けていた。
「データの特徴と同じ男‥‥ワニキア・ワナギーか」
 リヴァルはSMGを撃ちながらチラリと建物の上のワニキアを見る。
 もしかすると、自分の愛する人を殺していたかもしれない敵だ。
 そのワニキアはラウルの矢を番える間に身を起こし、弓を引き絞って矢を放つ。
 双方の矢はほぼ同時に放たれ、ラウルの矢はワニキアの肩を突き刺さる。
 一方、ワニキアの矢はジェラルミンシールドを易々と貫いてラウルの身体に突き立った。
 更に2本目3本目の矢もジェラルミンシールドを貫通してラウルに傷を負わせてゆく。
「ぐっ! なんて威力だヨ‥‥」
 それでも急所だけは避けているラウルは再び矢をつがえ、ワニキアを狙う。
「ほぅ、タフだな」
 自分の矢を受けながらも反撃してきたラウルを見て、ワニキアは少し嬉しそうに笑った。
「なら、この攻撃は耐えられるか?」
 ワニキアはラウルの矢を避けると『鋭覚狙撃』で『急所突き』の矢を放ってきた。
 1発目の矢はジェラルミンシールドを弾き飛ばしてラウルの肩を貫通。
 次の矢は腹部に突き立ち、頭を狙ってきた3本目の矢は直撃は避けたものの側頭部を大きく切り裂いた。
「ぐぅ‥‥くそっ! やられた‥‥ゴホッ」
 顔半分を血で染め、腹部を押さえたラウルがその場にへたり込む。
 どうやら内臓をやられたらしく咳き込むと口から血が溢れた。
「しゃべっちゃ‥‥ダメ‥‥すぐに、治す‥‥」
 暁の治療を終えたルアムは今度はラウルの治療にかかる。
「さっきのお返しだ!」
 血を失った事で少し顔色は悪いが傷は完全にふさがった暁が再び土嚢から飛び出し、『影撃ち』でワニキアの虚をつく。
「なに?」
 ライフル弾はワニキアを貫き、服にじわじわと血の染みが広がってゆく。
 だがワニキアは自身の傷に構わず弓を引き絞り、暁に向かって反撃の矢を放つ。
 矢は両肩と腹を貫き、暁は再びその場で倒れこみそうになったが、ギリギリのところで両足を踏ん張った。
「ぐぅっ!!」
 そして気が遠くなりそうな激痛に耐えながらも今度は自分の足で土嚢の裏まで戻り、そこで倒れた。
「いてぇ‥‥。また死にそうに痛ぇ‥‥」
 気絶できていたらいっそ楽だっただろうが、暁は必死に意識を繋ぎとめ、気力を振り絞って痛みに耐えた。
「今の男は確かさっき倒したはずだが‥‥」
 訝しく思ったワニキアは土嚢をじっと観察した。
「‥‥なるほど、サイエンティストがいるのか」
 土嚢と土嚢の隙間からルアムが練成治療を行っている姿を見て取ったワニキアは弓をギリリと引き絞り、その隙間を狙って矢は放つ。
 矢は隙間をすり抜け、ルアムに腕に突き立った。
「あぅ!」
「ルーク!」
 狙撃されたルアムを庇ったリヴァルの背中に続く矢が2本突き立つ。
「ぐっ!」
「リヴァル!」
「いいから頭を下げろ!」
 リヴァルは自分を気遣って立ち上がろうとしたルアムの頭を押さえて自分と一緒に伏せさせる。
 そして矢が抜けてきた隙間を石で塞いだ。
 しかし、その間に接近してきたキメラが土嚢を飛び越えていった。
「上も抜かせナイ」
 咄嗟にラウルがサブマシンガンを上空に掃射して叩き落したが、次々に押し寄せるキメラ全てを倒す事はできなかった。
 後方にいた兵達も迎撃したが、1匹倒すのがやっとで残り4匹は取り逃がしてしまう。
「月影、綾乃。すまん、4匹そっちに行った」
 リヴァルが無線機に怒鳴る。
『あぁ、見えてる』
 すると無線機から透夜の声が返ってきた。
 次の瞬間、先頭を走るキメラの頭が不可視の刃で斬り飛ばされて地面に落ちる。
 それは透夜の放った『ソニックブーム』だ。
 透夜はそのままキメラの一群に突入すると、連翹でキメラの突進を右で流し、続くキメラを左で斬り弾き、集団を1本にすると『豪破斬撃』を発動。
「纏めて叩っ斬る!」
 薙ぎ払うように連翹を振り回し、並んだキメラの首を一気に斬り飛ばした。
「すまん、待たせたな」
「いや、グッドタイミングだヨ」
 ラウルは笑顔で透夜を迎えると魔創の弓を引き絞ってワニキアに牽制の矢を放つ。
 その隙に透夜は土嚢の影に駆け込むとキメラにSMGを正射。
 透夜を加えた5人で防衛線を再構築し、ワニキアからの攻撃を耐えつつキメラの迎撃を続け、
『住人の避難は完了した。総員退避。総員退避』
 遂に無線機から退避勧告が響いてきた。
「長居は無用だネ。僕らも撤退しよう」
「はい。これ以上痛いのはゴメンです」
 ラウルと暁が頷きあう隣でリヴァルが急に立ち上がった。
「ワニキア・ワナギーと言ったか、君に1点聞きたいことがある」
 ワニキアは弓を引いてリヴァルを向けたが、矢は放たなかった。
「先日この周辺で岩龍とS−01が墜落したという事例があった。‥‥やったのは君か」
「‥‥」
 ワニキアはただ薄く笑っただけで応えず、矢を射ってくる。
「くっ! それが答えか」
「退くぞリヴァル」
「閃光行きます!」
 透夜が矢を受けたリヴァルを庇うように前に出てルアムと共に閃光手榴弾を投擲。
 辺りに閃光と怪音が響き、キメラの眼と耳を潰す。
 だが、一度その手を喰らっているワニキアは眼と耳を塞いで防ぎ、すぐに弓を構える。
 しかし閃光が消える直後に放っていた暁のライフル弾がワニキアの腕に命中。
 放たれた矢は明後日の方に飛んだ。
「くっ!」
 その間に5人は速やかにワニキアの射程外まで撤退したのだった。



 東の橋では小夜子が兵達が完全撤退するまで殿を務め、蝉時雨を振るって何匹ものキメラを斬り裂く。
(「可哀想ですけれど‥‥これ以上被害を出さない為にも、心を鬼にしなくては」)
 斬リ捨てたキメラを群れの方へ蹴リ出して足を止めた隙に照明銃を抜いて発射。
 光で眼を眩ませている隙に背を向け『瞬天速』を発動させると一気にキメラを引き離して駆けた。



 西の橋ではドッグが用意していた食料を撒き、僅かでもキメラの足を鈍らせながら兵の撤退支援を行っていた。
「狩りより楽だぞ、食え」
 ドッグはアイリーンで向かってくるキメラ1匹ずつ確実にしとめながら、ジリジリと後退する。
 そして兵の撤退完了の報が入ると食料を全て撒き、一目散に走り出した。
 しかし食料で足止めできたのは一瞬で、すぐにキメラの気配が迫ってくる。
「くそっ!」
 ドッグは肩越しにアイリーンを撃ってキメラを仕留めるが、すぐに弾が切れる。
 後は必死に足を動かして1歩でも早く先に進むしかない。
 息がきれ、心臓が悲鳴をあげたが、どうにかキメラに追いつかれる前に集合地点の広場近くまで辿り着く。
 広場にいる仲間達から援護射撃が行われ、追いすがるキメラが次々と倒れていった。
「ドッグさん、早く早く!」
 広場に停車しているジーザリオの荷台から綾乃が手招きしてくる。
 ドッグは最後の力を振り絞って荷台に飛びついた。
「よし、いいぞ」
「行きます」
 暁がアクセルを踏み込み、ジーザリオのタイヤを軋ませながら急発進させ、一気に町を脱出した。



(「あの向こうに‥‥もしかしたら‥‥」)
 車中で揺られながら山を眺めていたルアムはある仮説を立てていた。
 だがそれは確証のない事だったのですぐに止め、代わりに死者へ祈りを捧げる。
 小夜子と綾乃も死者の安らかな冥福を祈った。
 ドッグは飢え、争うことしか知らず死に行く獣にも哀悼の涙を一つ零す。
 いつか‥‥安らぎを‥‥。