●リプレイ本文
「それでは傭兵の皆さん。クリーブランドの町の攻略。よろしくお願いします」
ルイス・バロウズ少佐は出発前の傭兵達にわざわざ会いに着てくれた。
「アメリカは私の母国だ。必ずバグアの手から取り戻してみせる。それに教会に巣食うなんて断じて許せない。必ず成敗してみせよう」
そんなルイスにサンディ(
gb4343)は強い意気込みを示して見せた。
「ルイス少佐や兵隊の皆さんも気をつけて下さいね。効果は判りませんが、布で素肌を覆ったり、酸が掛かった時はすぐに水で流す等、心掛けますよう‥‥」
「蟻型のキメラと戦うなら地中や木の上からの奇襲にも警戒しておいた方がいいよ。あと銃火器だけじゃなくって知覚兵器も使った方がより効果的に戦えると思うよ」
「ありがとうございます。肝に銘じておきますよ」
石動 小夜子(
ga0121)と蒼河 拓人(
gb2873)の助言を受けたルイスは嬉しそうに微笑んだ。
「では、お気をつけて!」
ルイスはピシッと敬礼した。
「うん。コンローの町の方はお任せしたよ、少佐さん」
拓人はルイスの真似をして敬礼を返した後ニッコリ笑い、みんなと共に高速移動艇に乗り込んだ。
クリーブランドの町に到着した傭兵達は敢えて堂々と蜂型キメラの巣くう教会を目指した。
(「敵に気付かれても構わない‥か、僕のやり方ではないけれど」)
そう思いながらウラキ(
gb4922)は目の端に捕らえた働き蜂に素早くライフルを構えて狙撃。
1発で体のど真ん中を貫いて撃ち落とす。
「この任務が開放に繋がる‥か」
愛用のボルトアクションライフルを慣れた手つきで排莢し、手早く次弾を装填した。
「勢力図を塗り替えるための第一歩‥確実に行こっか」
拓人もサブレッサーで消音性を増した番天印で蜂を狙い撃つ。
道すがら目に付いた蜂を片っ端から撃ち落し、教会の近くまで到着した傭兵達が物陰から様子を伺うと、教会の周囲では何匹もの蜂型キメラがたかる様に蠢いていた。
「ぅ‥‥」
虫が苦手な小夜子は思わず口元を押さえ、顔を青ざめさせる。
「大丈夫かい、小夜ちゃん?」
「は‥はい。ヒューストンの街を取り返す為の重要な作戦ですもの‥‥頑張ります」
新条 拓那(
ga1294)に気遣われた小夜子は気丈に振舞った。
「うん、じゃあ俺の背中は君に任せた! 君の背中は俺が預かる!」
「はい!」
拓那の力強い言葉に励まされた小夜子も力強く頷く。
「まずは雑魚の駆除といくか。町から逃して知られるわけにはいかないしな」
一行は月影・透夜(
ga1806)の合図で教会の周囲に巣くう働き蜂に突入し、それぞれ武器で攻撃を開始する。
火薬の炸裂音が連続して木霊し、蜂の体が銃弾で爆ぜ、体液が飛び散り、たちまち死骸が積みあがる。
しかし敵の数は多く、町に散らばっていた残りの蜂も戻ってきて包囲され始める。
「互いの背中を庇って全周囲に注意しろ!」
リヴァル・クロウ(
gb2337)が激を飛ばし、SMGを左右に振って銃弾をばら撒く。
「‥大した数だ‥」
リヴァルと背中を合わせたウラキは撃つ度に撃鉄を起こす手間をかけているとは思えないほど素早く正確な狙撃で主に蜂の羽を狙って機動力を奪っていた。
「銃は苦手だが。仕方がないか」
普段は近接戦を主体とするサンディはブラッディローズで味方が撃ち洩らして近づいた蜂を狙う。
「私たちが頑張ることで兵隊さんの負担が少しでも減るのなら、頑張らなきゃ、です」
サンディの背中を守る九条院つばめ(
ga6530)はショットガンによる面の攻撃で蜂の接近を防ぐ。
「こう数ばかり集められてもね。わらわら面倒くさいッたら! 殺虫スプレーで一網打尽に出来ないもんかなぁ」
冗談まじりの文句を言いながら拓那は後ろの小夜子を庇いつつ超機械γで電磁波を放って蜂を焼き落としてゆく。
そうして絶え間なく銃弾を放ち、無数の薬莢を地面にばら撒き、迫り来る蜂型キメラを確実に倒し続けること数分。
蜂の攻撃が絶えた頃、辺りには蜂の死骸の山ができ、虫の体液の匂いがむせ返りそうなくらい充満していた。
「これで働き蜂は粗方倒せたみたいだね」
拓那が油断なく周囲と地面に横たわる蜂を警戒しながら言う。
「そうだな。しかし襲撃してきた蜂の中に雄蜂は見当たらなかったな」
「たぶん雄蜂は教会の中で女王蜂を守っているんだと思います」
透夜の疑問につばめが答える。
「誰か怪我をした人はいる?」
サンディが救急セットを手に呼びかけるが、幸い怪我をした者は誰もいなかった。
「じゃあ、いよいよあの中にいる悪の女王を倒しにレッツゴーだよ」
拓人が腕を振り上げ、元気よく声を上げる。
「あぁ。確認されている雄の数から産卵期に入ったと推測できる。早急に対応しなければ後々面倒になる」
リヴァルの推測に一同は表情を改めると、慎重に教会に接近した。
「‥位置についた‥ここならよく見える‥」
ウラキが窓の下の狙撃ポイントに取り付き、こっそり中を覗く。
教会の天井付近には大きな蜂の巣がぶら下っており、その周りを雄蜂が飛び交っているのが見えた。
「随分趣味の悪い巣だ‥‥」
その巨大さと相まってグロテスクな概観の巣にウラキが不快そうに顔を歪める。
「1、2‥‥全部で9匹か。女王蜂の姿が見えないんだけど、巣の中にいるのかな?」
同じ様に別の窓に取り付いている拓人も敵の数と位置を確認する。
「おそらくはそうでしょう」
また別の窓から索敵を行っているつばめの位置からも女王蜂の姿は発見できない。
その事を正面入り口付近で待機している残りの5人に伝えた。
「了解だ。では予定通りに俺とウラキの閃光手榴弾が炸裂した後に突入だ。準備はいいか?」
「主よ。あなたの腕の中で剣を抜かんことを許したまえ」
透夜が確認するとサンディが小さく祈りを捧げ始める。
その祈りの終わりが作戦開始の合図となった。
「いくぞウラキ」
「了解‥」
透夜とウラキは同時に閃光手榴弾のピンを抜き、20秒待つ。
そして天井の巣の近くまで投げ入れた。
「今! 目を伏せろ!」
ウラキの声に合わせて皆目を伏せる。
その直後に教会内で強烈な光が放たれると同時に轟音が耳を打つ。
目と耳をやられた雄蜂達は教会内を荒れ狂った様に飛び回り、2匹が窓から飛び出した。
「逃がさないよ」
だが、すぐに拓那がエナジーライフルで狙撃する。
放たれた3発の不可視のエネルギー波が雄蜂の羽、頭、胴体を貫通。
雄蜂はそのまま体液を零しながら地面に落下し、動かなくなった。
もう一匹はつばめがショットガンで迎撃した。
しかし、放たれた弾丸は雄蜂には届かなかった。
射程が足りないのだ。
「そこで‥落ちるんだ」
しかし、ウラキの放ったライフル弾が2枚の羽を撃ち抜き、地面へと落下させる。
「ありがとうございます、ウラキさん」
つばめは礼を言いながら夕凪を抜き放ち、雄蜂に向かって駆けた。
雄蜂は針を放ってきたが、つばめは体の正面に立てた夕凪で弾いて避け、雄蜂を間合いに捉えると同時に『紅蓮衝撃】を発動。
「破っ!」
『急所突き』で腹を切り裂き、返す刀で更にその傷口を切り開く。
雄蜂は傷口から大量の体液が噴き出しながら倒れ、そのまま息絶えた。
一方、突入班は拓那と小夜子を先頭にして教会内部に突撃し、眼の眩んでいる雄蜂に攻撃を加えていた。
「行くよ小夜ちゃん」
「はい!」
まず小夜子がS−01で攻撃して雄蜂の気を引いている間に『疾風脚』を発動させた拓那が超機械γで羽を焼き払い、落ちてきたところを小夜子が蝉時雨でトドメを刺す。
2人のピッタリと息の合った連携攻撃でたちまち1匹撃破する。
「女王が出てくる前に倒せるだけ倒す!」
透夜は教会内を縦横に駆け、瓦礫や壊れた椅子などを遮蔽物にして針の攻撃を避けながらSMGを乱射し、雄蜂を撃ち落してゆく。
リヴァルも透夜と同じように瓦礫等を遮蔽物に使い、SMGで攻撃しながら雄蜂の観察も同時に行っていた。
すると、針を放った雄蜂が次の針を再生させて放つまで、かなりのタイムラグがある事が分かった。
「やはり連射はできないらしいな」
それを見越したリヴァルはまだ再生の終わっていない雄蜂に接近してみた。
すると予想通り、雄蜂は針の攻撃ではなく、体当たりを仕掛けてこようとする。
リヴァルは月詠を抜き、真っ正面からカウンターで斬り下ろした。
月詠は雄蜂の顔半分を切り落とし、胴体と羽も深く切り裂いて抜ける。
リヴァルは飛べなくなって地面でもがいている雄蜂にSMGを叩き込んでトドメを刺した。
そうして雄蜂を7匹まで倒したところで巣の中から女王蜂が姿を現した。
「‥出てくる‥本命‥!」
女王蜂に最初に気づいたウラキが皆に警告する。
「なに?」
「きたか!」
全員が頭上の巣を見上げる。
全長2mを越える女王蜂は巣の正面に取り付き、羽を広げて素早く振動させた。
そして教会内に『ブブブッ』と羽の震える音が響いた直後、
突然、小夜子、拓那、透夜の体が裂けた。
「キャア!」
「ぐぅ!」
「なにっ!?」
傷は深くはないが、どんな攻撃を受けたのかが分からない。
「散れ!」
透夜の指示で教会内の5人はそれぞれ遮蔽物に身を潜めた。
「透夜くん、これはたぶんソニックブームじゃないかな?」
自分の傷に具合を確かめた拓那はそう予想した。
「なるほど、あの羽から衝撃波を繰り出してるのか‥‥」
透夜は納得顔で少し思案すると、武器をSMGから連翹に持ち替えた。
「狙撃班、援護してくれ!」
「了解」
透夜は狙撃班が教会の外から攻撃して注意を引いている間に遮蔽物から飛び出し、連翹を片手ずつ構える。
「ハッ! セイッ!」
そしてお返しとばかりに左右の連翹から『ソニックブーム』を放ち、女王蜂の羽を切り裂いた。
すると、教会内に響いていた羽音も止み、女王蜂からのソニックブームも止む。
しかし女王蜂は今度は無数の針を撃ち放ってくる。
「くそっ! やはり上から攻撃されると厄介だ。どうにかして下に落とさないと‥‥」
リヴァルが苦々しげに巣にへばりついている女王蜂を見る。
「なら、自分に任せてよ」
拓人がエナジーライフルを女王蜂の掴まっている巣に放つと、巣が崩れて女王蜂も少し体勢を崩した。
「なるほど‥」
拓人の意図を察したウラキも同じ様に女王蜂の足元を狙う。
すると、今度こそ完全に巣が崩れて女王蜂は床に落下し、轟音と共に盛大に埃を撒き上げた。
「今だっ!」
透夜は連翹を繋ぎ合わせ、女王蜂が体勢を立て直す前に走り寄ると連翹を床に突き立て、棒高跳びの要領で飛び上がって女王蜂の背に飛び乗った。
「頭上を取ったぞ!」
そして『豪破斬撃』を発動させ、連翹を大きく振りかぶって『急所突き』で女王蜂の首に振り下ろす。
重い手ごたえと共に連翹は女王蜂の首の半ばまで切り裂いたが落とすまでには到らず、女王蜂は背中の透夜を振り落とそうと暴れ始める。
「おっと!」
透夜は連翹をまた二本に分け、女王蜂の背中に突き立てて踏ん張った。
「私の剣撃。あなたに見切れるか?」
サンディは暴れ出した女王蜂の正面に立ち、スパイラルレイピアをスラリと抜いて水平に構えた。
そして女王蜂の動きを冷静に見極め『二連撃』と『スマッシュ』を発動。
「一気に貫く! 螺旋の連撃(スパイラル・コンテニュアス)」
剣先が霞んで消える程のスピードで繰り出された一撃目の突きが女王蜂の頭部に突き刺さり、続く二撃目三撃目が両方の複眼を潰し、四撃目が胴体に深く抉り込む様に突き刺さる。
だが、サンディの攻撃はこれで終わらない。
「インテーク開放! スパイラルレイピア、イグニッション!」
スパイラルレイピアの回転力も利用した『円閃』で胴体を一気に切り裂いた。
「よしっ!」
サンディの攻撃で女王蜂は動きが鈍った隙に透夜は立ち上がり、再び連翹を女王蜂の首に振り下ろす。
「これで、終わりだっ!!」
そして今度こそ女王蜂の首が切り落とされ、切り離された首が転々と床を転がった。
それでも女王蜂はまだ生きており、しばらくピクピクと動いていたが、やがて完全に動かなくなる。
残っていた2匹の雄蜂も小夜子と拓那、つばめに退治されており、蜂型キメラの掃討は完了した。
「ふぅ〜数が多かったが何とかなったな。蟻の方は大丈夫だろうか?」
「‥軍の方も順調だといいが‥‥」
透夜と同じ心配をしたウラキがコンローの町のある方角の空を見上げた。
「女王蜂が卵を産んでいる可能性があるため施設内を検査する事を提案する」
「そうだね。じゃあ俺は女王蜂の体内をチェックするよ。体の中にも卵があるかもしれないからね」
リヴァルの提案を受けて、拓那が手を上げる。
「あぁ、お願いする」
「あの‥‥拓那さん」
女王蜂から受けた傷が一番酷かった小夜子がサンディの治療を受けながら顔を青ざめさせ、困った様に拓那に呼びかける。
「あ、小夜ちゃんは見ない方がいいよ。きっと気分が悪くなるだろうから」
「はい。正直、虫‥特に蜂は当分見たくないです‥‥」
小夜子は戦闘が終わった直後から決して蜂型キメラを見ようとしなかった。
戦闘中ならともかく、それ以外の時には虫を視界に入れたくないのだろう。
「でしたら石動さん。私と一緒に町を見回ってキメラがまだ生き残っていないか調べに行きませんか?」
つばめが蜂型キメラの死骸だらけのここにいるよりはいいだろうと気を利かせて小夜子を誘う。
「はい、お供させていただきます」
小夜子がほっと安心した様子で頷く。
「じゃあ、自分もお供しようかな」
「なら、私も一緒に行こう」
拓人とサンディも手を挙げる。
「いっそ町を調査する班と教会を調べる班で分けるか」
「そうですね」
そうして二手に分かれて調査を行ったが、幸い卵も生き残りのキメラも見つからず、キメラ殲滅完了の一報を後方の軍司令部に送った。
すると2時間後、ルイスが少数の部隊と共にクリーブランドの町にやって来た。
「皆さん、ご苦労様でした。無事に町のキメラを殲滅してくださって、ありがとうございます」
ルイスは満面の笑顔で敬礼し、傭兵達を労ってくれた。
「少佐、コンローの町の戦闘はどうなったのかな?」
拓那が皆が気になっていた事を聞く。
「はい。コンローの町でのキメラ殲滅作戦も無事成功しました。戦車隊で公園に榴弾での砲撃を仕掛けて歩兵1個中隊を突入させ、女王蟻も戦車隊の集中砲火で倒しました。兵隊蟻との戦闘で歩兵に何人か怪我人がでましたが、幸い死者は一人はおらず、大成功です」
「そうですか。良かったです」
つばめが安心した様子でニッコリと笑い、周囲の緊張も解けて和やかな雰囲気になった。
しかし、リヴァルだけは難しい顔で何か考え込んでいる。
「今回の作戦は上手くいったが、恐らくそう遠くない時期に気づかれる。さて、連中はどう動くか‥‥」
リヴァルはおそらく今回の戦いにもいずれ現れるだろうと確信している強化人間達の動向に思いを巡らせるのだった。