タイトル:紅白対抗ドッジボールマスター:真太郎
シナリオ形態: イベント |
難易度: 易しい |
参加人数: 30 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2009/05/08 03:29 |
●オープニング本文
小春日和の青空の下、ラスト・ホープの競技場は熱気に包まれていた。
それぞれ紅白のハチマキやたすきを付けた選手達がぞくぞくと競技場に入場し、紅白の能力者達は白線に囲われたコートでそれぞれ分かれ、不敵な笑みを浮かべながら互いに睨み合った。
彼らが手にする武器は直径20cm程の大きさのボールがただ1球。
そのボールを力の限り相手にぶつける。
攻撃手段はそれのみだ。
そう、彼らは今からドッジボールを行おうとしているのだ。
だが、ただのドッジボールと侮るなかれ。
それを行なうはいずれも常人離れした能力者。
たとえ、柔らかいボールを使用したとしても、それで戦車砲並の威力が発揮されてもおかしくはないのだ。
『皆様お待たせいたしました。只今より春の紅白対抗ドッジボール大会を開催いたします。ルールは簡単。相手陣地の内野にいる選手にボールをぶつけて、受け取れずに落とした者はアウトになって外野に退場。先に敵陣にいる内野の選手全員を倒した側の勝利です。なお、今回も勝利した選手全員に賞金2万Cが進呈されます。それでは間もなく試合開始です』
●リプレイ本文
紅組
内野
石動 小夜子
鳴神 伊織
聖・真琴
月影・透夜
UNKNOWN
レティ・クリムゾン
ユーリ・ヴェルトライゼン
楓姫
クロスエリア
真白
猫屋敷 猫
リサ・クラウドマン
外野
カルマ・シュタット
九条院つばめ
ユーリ・ヴェルトライゼン
山崎・恵太郎
白組
内野
新条 拓那
新居・やすかず
百地・悠季
最上 憐
朔月
依神 隼瀬
澄野・絣
冴城 アスカ
外野
ナレイン・フェルド
鳥飼夕貴
周防 誠
リヴァル・クロウ
美環 響
橘川 海
美環 玲
「‥‥え?」
拓那は小夜子の名が紅組にあるのを見て絶句した。
小夜子も最初は白組だったのだが、実は人数調整のため紅組に移ったのである。
だが、それは試合直前だったため、拓那には知らせる暇がなかったのだ。
「拓那さん。あの‥‥頑張りましょうね」
小夜子は気にしていない素振りで拓那に話しかけてきたが、その笑みはどこかぎこちない。
無理をしているのがバレバレだ。
「あ、あぁ、もちろん。お互いベストを尽くそう? なぁに、絶対避けてみせるから、遠慮せず投げちゃって♪ それなら問題ないだろ? 頑張ろ!」
なので拓那も勤めて明るく振舞った。
「朝早く起きるってのもいいものね〜」
試合が楽しみでドキドキし過ぎて、低血圧にも関わらず早起きしたナレインは集合時間より30分以上早く到着して準備をしていた。
髪をポニーテールのして青リボンで括り、青いアオザイ着て、最近お気に入りの伊達眼鏡を架ける。
「あれっ‥これじゃあ私、青組さん?」
鏡に写った青一色の自分を見て思わず苦笑を浮かべた。
そして続々と集まってくる選手達の中に、何故か猫の着ぐるみがいた。
「しまったぁ〜! 俺も何か着てくりゃよかったぁ〜〜!!」
それを見た着ぐるみフリークの朔月が悔しがる。
「だ、誰だ?」
リヴァルが胡乱な目を向けながら尋ねる。
「新居です」
「新居氏か。どうしてそんな恰好を?」
「マスコットキャラになって盛り上げてみようかと‥‥」
「暑くないのか?」
「暑いです。それにちょっと動き難いんですけど、頑張ります」
「そうか‥‥頑張ってくれ」
リヴァルは何とも言えない表情をしながら新居の肩を叩いた。
試合時間前になり、コートまで来た選手達はそこで奇妙な物を目撃した。
「コタツ?」
そう、紅組コートのど真ん中に何故かコタツが鎮座していたのだ。
コタツの上には蜜柑と熱燗とらいおんさんのお面が乗っており、延長コードを繋ぎ伸ばしたプラグがコート脇のコンセントに差し込まれている。
「何でコタツが?」
紅白大会に初参加の者達は困惑していたが、
「ほ〜、今回はちょっと捻ってきたな」
「これで動けるんでしょうか?」
「あったかそうですねぇ〜」
常連の者は既に誰の仕業なのか見抜いていて冷静だ。
「皆さん、気にしなくていいですよ。何時もの事ですから」
こんな奇行にもすっかり慣れてしまったリサは素でコタツを無視すると皆を呼び寄せた。
「こうして伊織さんと一緒に戦うのは初めてですね。今日はよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。以前からの約束ですし、一緒に頑張りましょう」
笑顔でペコリと頭を下げてくるつばめに伊織は微笑み返した。
「円陣組みましょー!」
「いいねぇ〜、やろやろ〜」
真白が紅組メンバーに向かって提案すると、すぐに真琴が同調してくれた。
他のメンバーも反対しなかったので、皆で集まって円陣を組む。
「まずは楽しもう。で、その先に勝ちを狙おう。お祭りみたいなものだからさ」
「はい、今回も頑張って行きましょう! 紅組ふぁいと、おー! ですっ!」
『ふぁいと、おー!』
透夜の言葉に続くつばめの合図で鬨の声を上げ、気合を入れた。
「いつぞやの借りをここで返させて貰います!」
「‥‥ん、リベンジ。リベンジ。今度は勝つ」
「紅組に連勝なんぞさせん」
そんな紅組に、というより以前バスケの時に紅組だった小夜子、真琴、レティに向かって、周防、憐、リヴァルが宣戦布告する。
「ふっ、バスケの再来、といこうか」
「はんっ! 今度もかる〜く捻り潰してやんよ。ケケケッ!」
レティと真琴は挑発で返したが、
「えっと‥‥勝ち負けはともかく、楽しめるといいですよね」
小夜子だけは戸惑った苦笑いを浮かべた。
「さ〜張り切っていくわよ」
「はい、勝利目指して頑張りますっ!」
「うん、カンパネラ三人娘の実力、見せてやろ〜!」
悠季が腕まくりをしてぶんぶん振り回し、一緒に誘った絣と海もやる気になっている。
「あ、伊織さんだー。おーいっ」
そして海は敵方に知り合いを見つけると手を振り、
「ナレインさんは味方だねっ。よろしくっ」
味方の知り合いにも笑顔で挨拶する。
そしていよいよ試合開始。
ジャンパーはカルマとナレインだ。
「ふふっ、速さは私の取り柄だもの‥負けられないわ♪」
ナレインが自信あり気に笑う。
「速さだけで勝負が決まるわけじゃないですよ」
対するカルマも自信満々だ。
ピー
試合開始のホイッスルが鳴り、ボールが上げられる。
2人はほぼ同時に飛び上がったが、ボールを制したのはカルマだった。
そしてボールは
「フンッ!」
コタツからにゅっと伸びてきた手が掴んだ。
「ゲゲッ!」
「あれで動けるのか?」
皆が度肝を抜かれた。
ボールはコタツに収納されて見えなくなり、コタツが高速回転し始める。
「おぉっ!」
「わ〜なんか凄い‥‥」
そして皆が注目する中、コタツからボールが吐き出された。
しかし、まったく当てずっぽうで投げたらしく、ボールは誰にも当たらず外野に飛んでいった。
「‥‥」
皆が白眼視でコタツを見るが、中の人はまったく気にしていないらしく、酒に手を伸ばして飲んでいる。
そして場外に飛んだボールはユーリの飼っている雪狼(ラグナ)がドリブルしながら取ってきてくれた。
「ほぉ、随分と賢い子だな」
リヴァルがボールを受け取るとラグナは得意気な顔で見上げてくる。
「頭撫でるだけで良いから褒めてやってくれ。そうしないと拗ねてしまうんだ」
「こうか、よしよし」
ユーリに言われたとおりにリヴァルが頭を撫でるとラグナは満足そうな顔をした。
その光景をコートの陰から怪しく見つめる人物がいた。
「ボールを拾えばリバルちゃんに撫でてもらえるのね。ぐふふふふふ‥♪」
その者の名は障子にメアリー。
敵に回すと厄介だが、味方にするとウザい事この上ない、と言われる少女だ。
良い男を影から覗いたり、見守ったり(ストーキング)する事に至上の喜びを感じるメアリーはどうやらリヴァルに目をつけた様である。
それはともかく、リヴァルが紅組にボールを渡して試合再開。
「いきます!」
小夜子が狙ったのはすばしっこくて厄介そうな憐。
「‥‥ん。避けるのは。得意」
憐はもちろん、その小さな体とスピードを活かして避けた。
「もう一つおまけだ!」
だが、すぐに外野のカルマがまた憐を狙ってくる。
それも避けた燐だが、更に楓姫が狙ってくる。
「たかが遊戯でも全力で挑むからこそ‥面白い!」
それも辛くも避けたが、ルールによりもう避ける事はできない。
「‥‥ん。当てるの? ‥‥本当に。当てるの?」
「あぁ、申し訳ないがやらせてもらう」
小首を傾げて可愛らしくお願いしてみたがユーリには通用せず、膝の辺りに取りにくい球が投げられる。
「‥‥ん!」
必死に手を伸ばした燐だがボールはバチッと手を弾いて地面に転がった。
そしてアウトになった燐に代わって周防が内野に入った。
「誰を狙おうかな‥‥」
「頑張れ悠季さ〜ん」
悠季が迷っていると外野の海が笑顔で手を振ってくる。
悠季は微笑を浮かべ、多分エースとして暴れそうなレティをまず被害が軽いうちに当てて放逐しようと決め、海と絣に連携してもらう様にアイコンタクトを送る。
「いくわよ!」
悠季はレティの体勢崩そうと、わざと受け難いが避け易いところに投げた。
しかし、
「おっと」
レティはその受け難い球でも捕ってみせた。
「えぇ!?」
「よし。反撃だな」
そして悠季が驚いている間にレティの剛速球が返ってくる。
「あぅっ!」
悠季は受ける事も避ける事もできず、その身にボールを受けた。
「間に合って!」
弾けたボールを追って絣が必死に飛びついたが、届かず地面に落ちる。
「よし、まず1人」
レティが満足気に笑う。
「ごめんなさい、悠季さん。捕れませんでした‥‥」
「絣が謝る事じゃないわよ。ありがとね」
申し訳なさそうにしている絣に微笑みかけて悠季は外野に向かった。
「ゴメン。あっさりやられちゃったわ」
「ううん。今度は私と絣さんで頑張るから、悠季さんは外野で頑張って」
「うん。頼むわね」
悠季は海とハイタッチをして交代した。
「さぁ! リベンジの1球を喰らえ!」
「よし、来い!」
周防はレティに球を投げる。
と見せかけて、クロスエリアを狙った。
「え? ちょっ!」
意表をつかれたクロスエリアはそのままアウトになった。
「あれ? 別の人に当たっちゃいましたか。次はちゃんと当てますよ!」
「嘘だぁ〜! 卑怯も〜ん! ブーブー! ちょっとは手加減してよ〜!」
しれっ嘘をつく周防に文句を言いながらクロスエリアは響と交代した。
「いきます」
再びボールを手にした小夜子が今度は朔月を狙う。
「うわぅ! あっぶなぁ〜」
朔月は辛くも避け、ボールはクロスエリアが受ける。
「うりゃ!!」
さっきの恨みをこめ、不器用ながらもスナップを利かせて回転もかけて周防を、ではなく、まだ当てやすそうな依神を狙った。
「よし捕った!」
しかしガッチリキャッチした依神は猫屋敷を狙って投げる。
「とうっ!」
「にゃんと!」
猫屋敷は避けてボールはナレインの手へ。
「真琴ちゃん! 私と勝負よ♪」
ナレインはウィンクすると、真琴に向かって思いっきり投げた。
「ヤバっ!」
思ったよりも伸びとスピードのある球を真琴はギリギリ避けた。
「避けちゃいやぁ〜! ちゃんと受けてよぉ〜」
「いや、今のはムリっ」
真琴は冷や汗をかきながらひらひらと手を振った。
次にボールを受けた響はレインボーローズ片手に優雅に微笑し、
「さぁ、僕のミラクルレインボーボールを受けてみるがいい」
大仰なモーションを加えつつ、楓姫に投げた。
一見マヌケな球に見えたが、実際に受け止めると意外なほど重く、楓姫は弾いてしまう。
「しまった!」
弾いた球をダイビングキャッチしようとしたが届かず、楓姫の目の前で地面に落ちた。
「くっそ〜‥‥」
悔しげに呻く楓姫はユーリと交代した。
「次はこちらの番だ。‥‥真琴、行くぞ」
「オッケ〜☆ いくよ透夜さん!」
透夜はコートに寝転がると膝を曲げ、足の裏を上空に向けて構え、ボールを持った真琴が透夜目掛けて疾走を始める。
「あいつらまさか!」
「あれをやるつもりなのか?」
真琴はそのままの勢いで跳躍、構えていた透夜の足の裏に乗った。
「飛べ、真琴!」
そして二人は同時に蹴り合い、真琴は高々と空に舞い上がった。
「あ、あれは伝説のぉ!」
そこから真琴は真下の周防目掛けて一気に投擲。
「いっけぇーーー!!」
周防は急角度で降下してくるボールの軌道を見極め、受け止めようとしたが、ボールは抱え込んだ両腕を突き抜けて地面を打った。
「くっ!」
「やったな真琴!」
「タイミングバッチリだったよ透夜さん」
着地した真琴は透夜に駆け寄り、笑顔でハイタッチをする。
「こんな技を使ってなんて‥‥まいったね」
周防は苦笑いを浮かべてナレインと交代した。
ボールを持った海はチラリとコタツを見ると、食べ終わったみかんの皮が吐き出されてきた。
(「あれって外が見えてるかな?」)
どうしてもそれを確かめたくなって海はコタツを狙った。
「トウッ!」
するとコタツはいきなりアクロバティックに飛び上がり、見事にボールを避けてみせた。
しかも、コタツの上に乗っているみかんや熱燗は落とさない、見事なバランス感覚まで披露する。
「コタツが飛び跳ねる姿ってすごくシュールだな」
「夢に出てきそうだ‥‥」
楓姫と恵太郎が変に感心した顔でコタツを見る。
しかし、そんなアクロバティックな動きをしたためコードがピンと張り、コンセントから抜けてしまう。
「おぉ、しまった!」
コタツの中から焦った声が聞え、動きが急に鈍くなる。
その隙に周防が投げたボールが当たった。
「あの‥‥アウトですよね?」
中の人には当たっていないので一応審判に確認する。
「ハハハハハッ! 諸君! また、冬になったら会おう」
コタツは高笑いを響かせながら、カサカサと移動して姿を消した。
「‥‥結局なんだったんだろう、アレ?」
コートには何とも言えない微妙な空気が流れたが、とりあえずコタツの代わりに恵太郎が内野に入った。
「さぁ〜前回は応援だけだったのですけど、今回はちゃんと貢献できるよう頑張るですよ!」
張り切っている猫屋敷は一番当て易そうな冴城を狙った。
「ほらほら、どこを狙っているの?」
それは避けた冴城だが、すぐにまた外野からつばめに狙われる。
「隙ありです」
「キャ!」
そしてボールを当てられたが
「美しい女性を救うのも僕の役目です」
響が地面に落下する前に受け止めてくれた。
「ありがとう、助かったわ」
「いえ、礼には及びませんよ」
響がキラキラと自分を輝かせながら恰好をつける。
「反撃いきますよ」
響は目立たない様にコートの隅の方でこそこそしていた恵太郎に目を付けて投げた。
「てえぇい!」
恵太郎は地面を転がってでも避けようとしたが、結局背中にボールを受けてアウトになった。
「汝の魂に幸いあれ」
響がくるっと背を向けてキラキラする。
「あ〜ぁ、さっき内野に入ったばっかりなんだけどなぁ〜‥‥」
恵太郎はカルマと交代してまた外野に戻った。
(「まずは数を減らすか」)
今は紅組が一人多く倒されているため透夜は絣を狙った。
「危ない絣さん!」
「あうっ!」
海が警告を発したが、絣は避けられずアウトになった。
「ごめんなさい、海さん」
「ドンマイ絣さん。外野にボール回すからね」
絣は海に見送られ、玲と交代して外野に向かった。
「さ〜て、次はどの子を狙おうかしら?」
ナレインは値踏みをすると猫屋敷に向かって投げた。
「にゃーー! 未熟な私をお許しください‥がく‥」
避けきれずにアウトになった猫屋敷はスローモーションでコートに倒れ伏した。
「どっこいしょ。はい、タッチなのです」
もちろん演技なので、すぐに起き上がってつばめと交代する。
「つばめさん、準備は宜しいですか?」
「はい、何時でもどうぞ」
つばめはコートの境目辺りで敵に背を向けて立ち、ボールを持った伊織に応える。
「いきます!」
伊織はボールを持ったまま全力疾走し、腰を落として組んでいたつばめの両手を踏み台にした瞬間、つばめは伊織を思いっきり上に向かって放り投げた。
「破っ!」
「破っ!」
ピッタリと呼吸のあった二人の連携により、伊織の体は天高く舞い上がる。
「受けなさい‥空中殺法――流星」
伊織は高高度から一直線に響を目掛けて投擲。
まさしく流星の様なスピードでもって響の胸に突き刺さる。
「くぅっ!」
なんとか受け止め様とした響だが、威力を殺しきれずに弾いてしまう。
「響さん!」
玲が懸命に零れたボールを追ったが間に合わない。
「やりましたね、伊織さん」
「えぇ、まさかここまで上手くいくとは思っていませんでしたけど、成功して良かったです」
眩しい笑顔を見せるつばめに伊織も微笑み返した。
「残念でしたわね、響さん。私達ならあの二人に負けない連携プレイを皆様にお見せできましたのに」
「それは次の機会にとっておくとしましょう。玲さん、後のことは頼みましたよ」
響はあくまでも優雅に振舞って夕貴と交代した。
「やっぱりちょっと投げにくいな」
新居は着ぐるみの具合を確かめつつ、真白を狙ってノールックシュートを放った。
ただし着ぐるみのせいで元々どこを見ているのか外からは分からず、ノールックの意味はあまりない。
「きゃぅっ!」
真白はいきなり飛んできたボールを顔面で受けて弾いてしまう。
「あきらめまへぇん」
だが、痛みを堪えて必死に手を伸ばす。
「とぉ!」
しかしボールを掴めず、また弾け
「はぁ!」
さらに手を伸ばして弾き
「どいて、どいて、どいてぇーー!!」
外野までボールを追いかけたが、結局落っことしてしまった。
「ここまで粘ったのにぃ〜〜‥‥」
真白は赤くなった鼻を押さえながら悔しそうに外野に向かった。
そして外野に転がったボールにまたラグナが走りより、取って来ようとしたのだが、
「それは私のよぉ〜〜〜〜〜〜!!!」
何処からともなく現れたメアリーがガッチリ抱きついて確保しようとする。
「ガウッガウッ!」
「これは私のモノよっ! 渡さないわぁ〜!」
そしてラグナとボールをかけて激しいバトルを始めた。
「なにをしているんだ!」
「待てラグナ!」
慌ててリヴァルとユーリが駆けつけ、一人と一匹を押さえた。
「どういうつもりなんだ障子氏」
「撫でて」
リヴァルが詰問すると、メアリーは期待で爛々と光る瞳を向けながらボールを差し出してくる。
「はぁ?」
「撫でて」(ズイ)
「いや、何故俺が君を撫でねばならん?」
「撫でて」(ズイ!)
「いや、だから‥‥」
「撫〜〜で〜〜〜て〜〜〜〜〜〜」(ズズイッ!)
メアリーが地の底から響いてきたような低い声で迫ってくる。
「‥‥」
リヴァルは薄ら寒いモノを感じながらも仕方なくちょっとだけメアリーの頭を撫でた。
「ぐふふふふふふふうふふふふふうふふ」
するとメアリーは口の端を上げた三日月の様な笑みを浮かべ、不気味な笑い声を響かせながら競技場を去っていった。
「な、なんだったんだ‥‥」
リヴァルは訳の分からない悪寒を感じながらコートに戻った。
しかしメアリーはいなくなった訳ではない。
今も何処かの影からリヴァルをジッと見つめているのだ。
「みんな〜! 【弾丸M】いくよっ!」
ボールを手にした真琴が仲間たちに呼びかける。
「弾丸M?」
「なんだそれは?」
白組に動揺が走る。
「何か仕掛けてくるわよ、みんな気をつけて!」
冴城が声を上げ、仲間達の気を引き締めさせる。
「にゅふふ〜。いくよ、ナレインさん!」
「私なの? や〜ん、こっちに投げないでよ〜」
「問答無用! てりゃ〜!」
「きゃん!」
腰下を狙って投げられたボールをナレインは身をくねらせて避けた。
「てぃ!」
しかしすぐに外野の真白が足元を狙ってくる。
「やん!」
それも飛び跳ねて避けたが、すぐにカルマが投げてくる。
「喰らえ!」
「ダメェ〜!」
避けきれなくなったナレインは受け止めようとしたが、手で上に弾くのが精一杯だった。
「ごめんなさい! 誰か取って〜」
ナレインの叫びに反応して玲がボールに飛びつこうとしたが、無常にもボールは地面を叩いた。
「あらら〜。ま、仕方ないわね。リヴァルちゃん、後は頼んだわ」
ナレインは微笑を浮かべ、リヴァルと交代した。
「美環家の者の力を魅せてあげますわ!」
そう豪語して玲が狙ったのはリサだった。
「キャア!」
思わず目を閉じて悲鳴を上げたリサだが、小夜子がリサの前に出て代わりに受け止めてくれた。
「大丈夫ですか、クラウドマンさん?」
「ありがとう、小夜子さん」
「いえ」
お礼を言うと小夜子はニッコリ微笑み、朔月に向かってボールを投げた。
「うわっ、危ねっ!」
なんとか避けた朔月だが、
「底見えぬ穴。奈落であっても伸びる手に油断するべからず。私、それを外野と言う‥!」
外野の楓姫が更に狙ってくる。
「なんのこれしき!」
それを避けると
「これが弾丸Mの恐ろしさだぁ〜」
今度は真琴が投げ、
「うひゃぁ〜!」
それも辛くも避けたが、
「ふっふっふっ‥。もう避ける事はできないのですよ」
「ちょっ! 待った!」
最後は猫屋敷が不敵に笑いながら当ててきた。
「くっそぉ〜4人がかりかよぉ〜‥‥」
「よっしゃ〜! ガンガンいきましょ〜!」
朔月を倒した猫屋敷は嬉しそうに腕を振り上げる。
「運動は苦手じゃないけど、みんなどこかで名前を聞いたことのある強い人ばっかりだねー?」
しかも今コート内に残っている人は特に凄腕の者達ばかりだ。
(「レティさんて、どんな人なんだろう? 悠季さんと同じダークファイターなら正面から堂々と戦ってみたらどうかなっ?」)
海はその中でレティに興味を持ち、標的に定めた。
「よしっ!」
海はボールを高々と上げると自身も飛び上がり、バレーのジャンプサーブの要領でレティ目掛けて打ち下ろした。
「いっけぇ〜!」
対するレティはボールを真正面から捉え、両手で抱え込むようにガッチリキャッチした。
「あらら、捕られちゃった」
「うん、いい球だ。では今度はこちらからいくぞ!」
剛速球の反撃が海に投げ返されてくる。
「くぅっ!」
海は真正面で受け止めたが、威力を殺しきれず身体ごと後ろ吹っ飛ばされた。
そして背中と頭を地面で打ち、ボールは手から零れてアウトになる。
「あいたたた‥‥。あ〜ぁ、やられちゃたか‥‥」
海は頭をさすりながら苦笑いを浮かべ、悠季と絣にいる外野に向かった。
「マズイなぁ〜。こっちが二人も負けてるよ」
拓那が苦い顔をしながらカルマにボールを投げる。
「甘いですよ」
カルマは軽く避けたが、後ろですぐにナレインがキャッチしてまたカルマを狙ってくる。
「ううん、甘くないわよ〜」
だが、ナレインが投げたのはカルマではなくユーリだった。
「くっ! フェイントか」
ユーリは咄嗟に受け止めようとしたが初動の遅れが災いし、弾くのが精一杯でアウトになってしまう。
「やったぁ〜! これで一人差よ」
ナレインが嬉しそうにウィンクする。
「え? 私が投げるんですか?」
ボールを持ったリサが困った様子で周りの仲間を見る。
「はい、もちろんリヴァルさんに向かってですよ」
「一気にやっちゃうのです」
そんなリサを真白と猫屋敷がからかう。
「でも、私の腕じゃリヴァルさんに当てられないですよ」
「ダイジョブダイジョブ。ボスならリサさんのボールを絶対避けたりしないって。ねぇ〜ボス♪」
真白がニヤニヤ笑いながらリヴァルに確認する
「いや、俺もさすがに試合中は私情を挟まんぞ」 <●> <●> ←(注:メアリーアイ)
リサにボールを当てる事はできないが、避ける事はできる。
「ちぇ、ケチだなぁ〜」
「そういう問題ではないだろう」 <●> <●>
拗ねた真琴にリヴァルがつっこむ。
「ではいきます。えぇ〜い!」
リサはさっき狙われた玲を向かって力一杯投げた。
「ふふっ、そんな攻撃では私のステップを止めることはできなくてよ」
玲は上品に微笑むが、セリフを言っている間にボールが当たった。
「あら?」
リサのボールは玲が思っているよりもずっと速かったのだ。
「やったぁ〜!」
リサが満面の笑顔で喜ぶ。
「よし! 見事だリサ」 <●> <●>
「ちょっとボス。気持ちは分かるけど、リサさん今敵だから」
そして同じように喜んだリヴァルに夕貴が苦笑いを浮かべながら突っ込んだ。
「あ、いや‥‥スマン」 <●> <●>
「リヴァルさんは恋人のリサさんには激甘ですわね」
外野に向かう玲にからかわれ、リヴァルは羞恥で顔を赤らめた。
「さ〜て‥‥狙うなら狙ってしまえホトトギス‥ってね」
夕貴は冷静に紅組メンバーを観察すると、敢えて厄介な強敵であるレティを狙った。
「とりゃぁぁーーー!!」
渾身の力が込められたボールがレティに迫る。
「フンッ!」
ガッチリ受け止めた。
そう思ったが、夕貴の球は予想以上に重く、レティの腕から弾け飛んだ。
「しまった!」
レティが弾けたボールを目で追う。
「間に合ってくれ!」
ボールはカルマが追ってダイブしたが、手に当たっただけでキャッチはできず、地面を転がった。
「やったわね、夕貴ちゃん!」
外野のナレインが我が事のように喜び、ブンブンと手を振ってくる。
「ありがと、ナレインちゃん」
夕貴も嬉しそうに片手を挙げて応えた。
「すみません、もう少し早ければ‥‥」
「いや、今のは油断した私が悪い。よく追ってくれた、ありがとう」
無念そうなカルマの肩をポンと叩くと、レティは微笑を浮かべて外野に向かった。
「いきます」
つばめは【弾丸M】に参加しているメンバーにチラリと目配せしてから、リヴァルにボールを投げた。
しかし、
「フンっ!」 <●> <●>
リヴァルは見事つばめのボールを受け止めてみせた。
「あれ、止めた?」
「えぇ〜〜嘘ぉ!」
「ボスの癖になまいきぃ〜!」
「こンなのボスのキャラじゃないよ〜!」
「ここはやっぱり顔面で受け止めて眼鏡を割ってくれないと盛り上がりませんよ」
何故か敵味方関係なく、今までで一番ブーイングが起こった。
「‥‥俺だって成長している。何時までもやられキャラ扱いするな。やる時はやる!」 <●> <●>
リヴァルが憮然とした顔で訴えると、つばめに向かって投げ返した。
「よっ‥と」
つばめは軽やかに避けたが、続いて響に狙われる。
「女性にボールをぶつけるのは僕のポリシーに反しますので避けてくださいよ」
「は? はい」
要求通りにつばめは避けたが、今度は拓那がボールを手にする。
「ごめんよ九条院さん」
そしてつばめを狙うと見せ掛けてノールックで透夜を狙った。
「おっと!」
しかし透夜はガッチリキャッチする。
「ありゃ、引っかからなかったか。さすがは透夜くんだ」
「ちょっと危なかったけどな」
苦笑いを浮かべる拓那に透夜は不敵な笑みを返した。
「それじゃあ、いくぞリヴァル。覚悟!」
透夜は助走を付けてボールを振りかぶるとリヴァルに投げると見せ掛けて、ノールックで依神を狙った。
「え?」
依神が気づいた時にはもうボールは目の前にあり
バチーン
と派手な音を響かせながら顔面にクリティカルヒットした。
「ぎゃふっ!」
その勢いで依神の身体は後ろに吹っ飛び、地面にぶっ倒れた。
「す、すまん! 顔に当てるつもりはなかったんだが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
依神が顔を抑えて身を起こすが、つつーっと地面に血が垂れた。
「あ、鼻血」
「うわっ! ホントにスマン!」
それを見た透夜が申し訳なさそうな顔をする
「いえ、 ホントに大丈夫です」
依神は顔の下半分を手で覆って隠しながら内野を出て、真白に鼻血の治療を受けた。
(「うわぁ〜また顔面で受けちゃったよ。みっともないなぁ〜‥‥」)
「よ〜し、透夜くん。今度こそ正真正銘勝負だ!」
「よし、こい!」
透夜はニヤリと笑うと腰を落として手を前に出し、受け止める構えをみせる。
「いくよ! とりゃあ!」
またフェイント入れてくるかと警戒してたが、拓那は真っ直ぐ投げてきた。
「捕るっ!」
しかしボールは透夜の手元でカクンと下に落ちた。
「ここでフェイント!?」
透夜は咄嗟に足を引いて避けようとしたが間に合わず、ボールは足に当たって地面に転がった。
「俺の勝ちだね。透夜くん」
拓那が得意気な笑みを浮かべる。
「くっ! ミスったか‥‥でもまだ外野から攻撃はできる。真琴、後は頼む」
「うん。ちゃ〜んと仇は取ってあげるからね☆」
「人数を減らしてまた差を広げておくか」
カルマはそう呟くと冴城を狙った。
「え、また私?」
と思った直後には顔面に当たっていた。
「ひでぶっ!!!」
目の前に火花が散った。
(「あ‥お星様が見えるわ‥‥」)
そんな事を思っていたら後頭部にガツンと衝撃がきて、また火花が散った。
どうやら身体が吹っ飛んで頭から落ちたらしい。
「っ!?」
あまりの痛みで声にならない悲鳴を上げて冴城が悶えていたら、つつーっと血が地面に落ちた。
「あ、また鼻血」
「す、すみません! だ、大丈夫ですか?」
「へ、平気れす」
本当は全然平気ではないけれど、冴城は鼻を押さえると、カルマに心配そうに見送られながら外野で真白の治療を受けた。
「なんだか怪我人が続くねぇ〜。紅組は白組に恨みでもあるの?」
「いえ、決してそんなつもりではないのですけど‥‥」
夕貴が冗談っぽく尋ねると小夜子が申し訳なさそうな顔をした。
その隙に夕貴は小夜子に向かって投げた。
「あ!」
一瞬反応の遅れた小夜子は咄嗟に避けようとしたが足をつまずかせて体勢を崩し、側頭部にパコーンとボールを受けた。
「あぅ!」
小夜子の身体がスローモーションの様に倒れてゆく。
「小夜ちゃ〜〜ん!!」
思わず拓那が小夜子に駆け寄り、抱き起こした。
「小夜ちゃん、小夜ちゃん!」
「ん‥‥拓那さん」
「ほっ‥‥。よかった小夜ちゃん。身体は平気かい?」
「‥‥はい。一瞬脳震盪を起こしただけみたいです。もう平気です」
「そうか。でも、もう少し休んでおいた方がいいよ」
拓那は小夜子の膝の下に手を回して抱き上げた。
「うわぁ〜! お姫様抱っこだぁ〜!」
「た、拓那さん! あの‥私、自分で歩けます」
小夜子が拓那の腕の中で真っ赤になる。
「いいから、このまま運ばせてよ」
「‥‥は、はい」
拓那にニッコリ微笑まれて諭された小夜子は緊張で身を硬くしながらも素直にお姫様抱っこで運ばれた。
「誰を狙いましょうか‥‥」
伊織は白組の残りのメンバーを慎重に吟味し、夕貴に狙いを付けた。
「破っ!」
渾身の力と鋭い回転のかかったボールは夕貴の手を激しく打って弾き、そのまま地面を落ちても更に跳ね上がった。
「いたたっ! ふぅ〜。なんてボール投げる子だよ。まったく‥‥」
夕貴はまだ痛みの残る手をプラプラと振りながら外野に向かった。
「さて、誰を狙ったものか‥‥」 <●> <●>
リヴァルはできれば回避の苦手そうな者を狙いたかったが、今の紅組にそんな選手はリサしかいない。
しかしリヴァルにリサにボールをぶつけるという選択肢はないので速攻却下である。
「リサ・シールド!」
「ちょっと真琴さん、止めて下さい」
それが分かっている真琴などはあからさまにリサを盾に使っているので、真琴も狙えない。
残る選択肢は伊織、カルマ、つばめ、の3人。
いずれも自分より実力者だ。
(「まだ九条院が狙いやすそうだな」) <●> <●>
そう決断して投球フォームに入った瞬間
「リサ・ボイス!」
真琴がリサのお尻をペチンとはたいた。
「キャア!」
そしてリサの悲鳴が上がるとリヴァルの視線は自然とそちらに向き、投球フォームが崩れる。
「しまった!」 <●> <●>
リヴァルの手から離れたふにゃふにゃの球をつばめは素早く掴み、すぐにリヴァルに投げ返した。
「えいっ!」
「ぐわっ!」 <●> <●>
まだ体勢の崩れていたリヴァルは受ける事も避ける事もできず、あっさりアウトになる。
「イエェーイ! 見たか私とリサさんのコンビプレイ!」
真琴が満面の笑顔を浮かべながらリサと腕を組んでピースサインを突き出す。
「え? 今のコンビプレイだったんですか?」
しかしリサには単なるセクハラにしか思えなかった。
「精神修行が足りていないみたいですね、リヴァルさん」
「くっ! 無念だ‥‥」 <●> <●>
伊織の言葉を背に受けながらリヴァルは外野に向かった。
「2対5ですか。まずいですねぇ‥‥」
新居が苦い表情で紅組を見据える。
「新居くん。とにかく確実に当てて数を減らしてゆこう」
「はい」
新居は拓那の言葉に頷くと、つばめに向かってボールを投げた。
右肩辺りに飛んできたボールをつばめは左に避けようとしたが、急にボールの軌道が変わって曲がり、避けたつばめの方に向かってくる。
「えっ?」
つばめは咄嗟に受け止めようとしたが間に合わず、手で弾いてしまう。
「キャ!」
「つばめさん!」
伊織が咄嗟に弾けたボールを拾おうとしたが間に合わなかった。
「よし! 上手くいきました。これで2対4ですね」
新居がねこぐろーぶを付けたふかふかの手でガッツポーズを作る。
「では、つばめさんの敵討ちといきますか」
伊織がボールを構えると、つばめがこっそり新居の対角線上の位置に付いた。
「破っ!」
伊織の剛速球を寸でで避けた新居だが、外野で受け取ったつばめがすぐにまた投げつけてくる。
「えぇい!」
「おっと」
しかし、後ろからすぐにつばめが狙ってくるだろう事を読んでいた新居はすぐに後ろを振り返ってつばめの球を受けた。
「えっ?」
「やりますね」
つばめが驚き、伊織が素直に感心する。
「えぇい!」
そして今度は新居が素早く振り返って伊織にボールを投げる。
だが、伊織はわざとバレーの様に腕で受けてボールを上空に打ち上げた。
そして助走をつけて飛び上がり、空中でキャッチするとそのまま投げ下ろす。
「うわっ!」
虚を突かれた新居は上手くキャッチする事ができず、取りこぼしてアウトになってしまった。
「あぁ〜‥すみません、新条さん。後は頼みます」
「うん。まぁ、何とか最後まで足掻いてみるよ」
とぼとぼと外野に向かう新居を拓那は苦笑いで見送った。
「とほほ、4対1か‥‥。じゃあ、まずはまこちゃん、君と勝負だ!」
「いいよ、拓那さん。バッチこ〜い!」
真琴がわくわくとした顔で迎え撃つ。
「いくよ! とりゃあぁぁー!!」
そして二人の勝負は
「あれ?」
真琴が普通に取り損なって終わった。
「なんじゃそりゃぁ〜」
注目していた者達から落胆の声が響く。
「真琴、仇をとってくれるんじゃなかったのか?」
「いや〜、力み過ぎたっていうか何というか‥‥」
真琴は笑って誤魔化しながら透夜の待つ外野に向かった。
「相手にとって不足はないな。喰らえ!」
「よし、捕った」
カルマの全力の球は真正面から受け止めた拓那はそのままカルマに投げ返した。
「おっと!」
それは避けたカルマだが、次は外野の憐が狙ってくる。
「‥‥ん。投げると。見せかけて。投げないと。見せかけて。やっぱり。投げる」
「くっ!」
フェイントを織り交ぜた憐の攻撃をカルマはなんとか受け止めた。
「よし、もう一度だ。喰らえ!」
「なんの!」
しかし今度も拓那に捕られて投げ返される。
だが、カルマもまた受け止め投げ返す。
けれど拓那もまた受け止めた。
「今度こそ〜!」
そして拓那の3度目の攻撃がカルマの足を捉え、ようやくボールを地面に零させた。
「くっ! やられたか‥‥後は任せます」
「ぜ〜ぜ〜‥‥。さすがはカルマくん。てこずったぁ〜」
カルマが悔しげに外野に去り、拓那が荒い息を吐く。
「まさか2対1にまでされるとは思いませんでした。ですがここまでです」
「どうかな。後2人でしょ。軽い軽い」
伊織の挑戦的なセリフに拓那が不敵な笑みで応える。
「強がっても無駄ですよ。先のカルマさんとの対戦でずいぶんとお疲れのようですからね」
伊織の指摘は事実を突いており、拓那は苦笑を浮かべた。
「リサさん、念のため私の後ろにいてください」
「はい」
伊織はリサを後ろに庇うとボールを構えた。
「これで終わりにします!」
伊織のパワーと捻りの篭ったボールが拓那に迫る。
「くぅっ!」
拓那は真正面から受け止めたが、今の拓那にはボールの威力を押さえ込めるだけの力は残されておらず、ボールは拓那の手の中から弾け飛び、宙を舞った。
「待てっ!」
拓那は最後まで諦めずにボールを追ったが、無常にもボールは拓那の目の前で地面に落下した。
その直後、
「やったぁーーーー!!」
紅組メンバーからは歓声が上がり、白組メンバーからは落胆の溜め息が漏れた。
「よし、勝ったぞ!」
「やった〜、赤組のみんなのお陰だよ。ありがとね♪」
「雪合戦に続いて2連勝か、素直に嬉しいな」
「勝てた事も嬉しいが、それを抜きにしてもやはり球技は楽しいな」
透夜がガッツポーズを決めたあと紅組メンバーとハイタッチをして回り、クロスエリアが仲間と喜び合い、カルマが感慨深げな笑みを浮かべ、レティが満足そうに微笑む。
「あぁぁ〜〜‥‥」
「負けた」
一方の白組はみんな残念そうな顔をしているが雰囲気は暗くない。
それはきっと、みんなが共に力を出し切って戦ったため、悔いが残っていないからだろう。
そして両チームはコートに並んで握手を交わした。
「いい試合ができたわ、ありがとう」
冴城は自分を流血させたカルマと握手した。
爽やかな汗を滲ませたその表情には恨みや辛みはまったく伺えない。
「リサちゃん、紅白戦がある時はまた参加させてもらうわね♪」
リサと握手したナレインも満足そうに笑っている。
「はい、その時はぜひお願いします」
締めはスッカリ恒例となったラーメン屋『紅白亭』での打ち上げ。
「みんな行くかいぃ〜? 行く人はこの指とぉ〜〜まれ☆」
「今回も打ち上げはあるんですね」
「一緒に行きますか、伊織さん?」
「はい、私も参加したいです」
「俺はとりあえず味噌チャーシュー大盛りで」
「拓那さん、ご一緒しませんか」
「いいね、行こうか」
「‥‥ん。お腹空いた」
「またラーメン店なんでしょうね」
「聞いたところによると、恒例らしいですわね」
指を突き上げた真琴の周りに伊織、つばめ、透夜、小夜子、拓那、憐、響、玲、などが続々集まってくる。
「行きましょうか、リヴァルさん」
「あぁ、行こう」 <●> <●>
そして打ち上げメンバーと共に移動を始めたリヴァルとリサの背後には『ぐふふ』と笑う影が最後まで出歯亀の様に見守っていた。