●リプレイ本文
●戦車隊拠点
「砲撃開始!」
前線指揮官のルイス・バロウズ少佐の号令でズラリと並んだ戦車から一斉に砲撃が開始された。
放物線を描いて飛来した砲弾は滑走路上空で弾け、無数の榴弾を雨のようにキメラに向かって降り注いだ。
FFを破れない非能力者がキメラを倒すにはとにかく数をぶつけるしかない。
一つ一つの榴弾はキメラに小さな傷しかつけられないが、それが数十、数百となれば話は別だ。
数百発もの榴弾を喰らい続けたキメラは徐々に傷つき、弱り、やがて次々と息絶えてゆき、無数の屍を滑走路上に晒す事となった。
なんとか榴弾を避けて弾幕を抜けてきたキメラもいたが、歩兵部隊の重ガトリング砲の一斉射によって接近する前に倒されてゆく。
しっかり陣地と陣形を築けば非能力者でもキメラと十分以上に戦う事ができるのである。
●ヒューストン空港上空
空港の上空では10機のKVが飛び、迎撃に上がってきたHWの射程圏内に入りつつあった。
「では俺達は地上に降下する。空は任せる」
リヴァル・クロウ(
gb2337)のシュテルンは空港の北西側へ。
石動 小夜子(
ga0121)のウーフー、如月・由梨(
ga1805)のディアブロ、九条院つばめ(
ga6530)のディスタンは空港の北東側に機首を倒して降下していった。
「あぁ、空は引き受ける。陸は任せたよ」
赤崎羽矢子(
gb2140)は降下した仲間を見送ると、視線を正面の敵に戻した。
「では、皆さん、始めましょうか。この戦いは人々に希望をもたらすための第一歩です。誰一人欠ける事無く、また、皆で帰還できるよう全力を尽くしましょう」
月神陽子(
ga5549)が無線で仲間達に呼びかける。
「作戦の最終確認をいたします。敵群を引きつけてK−02を一斉射、CWとHWを一掃した後、周防様と赤崎様が地上に降下、残りの者で全航空戦力撃退後、全機降下。よろしいですか?」
アルヴァイム(
ga5051)が皆に確認する。
「問題ないです。K−02の発射タイミングは陽子さんにお任せしますよ」
「はい、私もそれで構いません」
K−02を搭載している周防 誠(
ga7131)とハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)が頷く。
「さぁて、久しぶりの攻勢側だ。張り切っていくか!」
鹿島 綾(
gb4549)は不敵な笑みを浮かべるとスロットルを上げ、愛機、【モーニング・スパロー】のバーナーを噴かした。
●空港施設前
タートルワームと共に空港施設前で待機していたワニキア・ワナギー(gz0155)は新たな愛機であるS−01BC(バグアカスタム)のコクピットから身を乗り出し、空と地上の傭兵部隊を観察していた。
「高速機動型のディアブロと重装甲のディスタン、自分の阿修羅を倒したバイパーに実験機を潰した新型か‥‥。どうやらゾディアックを倒した奴もいるようだ。ずいぶんと大層な戦力を揃えてきたものだな」
ワニキアはコクピットに戻ると上空の中型HWとの通信回線を開く。
「愛子、敵は手練揃いだ。HWでは荷が重い。無理はするなよ」
『‥‥うるさい。あたしに命令しないでって何度も言ってるでしょ』
すると小野塚 愛子(gz0218)の不機嫌そうな声が返ってきた。
「とにかく赤いバイパーとディスタンには気をつけろ」
『‥‥』
愛子はワニキアの忠告に何の返答もせず通信を切ってきた。
「‥‥ふぅ」
ワニキアは溜め息をつくと、北東側に降下してきた3機のKVに目を向ける。
「まずは支援機を潰すか」
ワニキアは操縦桿を握るとS−01BCを北東方面へ走らせた。
●ヒューストン空港上空
傭兵達は敵を引きつけて叩くつもりだったが愛子はその手にのらず、他のHW部隊は散開させ、自分一人で編隊を引っ掻き回し、その隙にHWで遠距離から狙撃させるつもりでいた。
『‥‥まずミサイルを潰す』
愛子は単騎でKVの群れに突っ込み、まずはK−02を搭載しているハインのバイパーに狙い定めてプロトン砲を発射した。
プロトン砲は胴体部を融解させて貫通し、K−02への誘爆は免れたものの、ハインのバイパーは大きくバランスを崩す。
「くぅっ!」
操縦桿とフットペダルを操ってどうにか体勢を整えたが、機体はたったの一撃で3割以上のダメージを負ってしまった。
「大丈夫ですか?」
「はい、まだ飛べますし火器管制も正常です。いけます」
ハインは機体各部をチェックしながら周防に答えた。
「あの中型、デカイくせに小型より動きがいい」
「あれは無人機の動きじゃないね」
「ワニキアはおそらく地上のS−01に乗っているだろう。という事は中型のパイロットは小野塚 愛子の可能性が高いですね」
羽矢子と綾の疑問に周防が自分の見解を述べる。
「接近してきたのは中型だけで他は散開していますね」
「‥仕方がありません、こちらから仕掛けましょう。中型はとりあえず無視して後は予定通りに」
「了解」
戦況を冷静に分析したアルヴァイムの指示に従って各機が動き始める。
先陣を切ったのは陽子のバイパー【夜叉姫】。
ブーストを点火して散開する最左翼のHW編隊に一気に接近。
迎撃のプロトン砲は全て夜叉姫の装甲で弾きながら肉薄すると照準器に映る敵を視点移動でロックオンしてK−02の発射口を解放する。
「落ちなさい」
トリガーを引いた直後に500発の小型ミサイルが3機のHWと2機にCW目掛けて殺到し、空に盛大な爆炎の花が無数に咲いた。
爆炎の下からはボロボロになったCWが落下していったが、なんとか攻撃に耐えたHWは爆炎を突き抜けて出てくる。
「ちょっと頭痛が楽になったよ」
「俺から逃げれると思うな!」
だが、陽子とケッテを組んでいる羽矢子と綾がHWにAAMを発射。
ホーミングミサイルが煙の尾を引いてHWを追い、再び爆炎で包み込んで息の根を止める。
その頃、周防のワイバーンも右翼のHW編隊に肉薄し、K−02の発射態勢に入っていた。
「遠慮はいらん、全弾持ってけぇっ! ‥な〜んてね」
少しおちゃらけつつも発射された500発の小型ミサイルは2機のHWと2機にCWを巻き込み、その全てを破壊しつくした。
そして周防に少し遅れてハインが前に出る。
ハインは敵を1機でも多くK−02の射程に収めるため敵陣深くまで進攻し、1機の強化型HW、4機のHW、4機のCWをロックオンした。
「よし、最大レンジで発射します!」
K−02のミサイル発射口から500発のミサイルが矢継ぎ早に発射され、ハインのバイパーの周囲で次々で爆炎が生まれては消えてゆく。
しかし全ての爆炎が晴れた後にはボロボロになりながらも攻撃に耐えた敵機が現れた。
だが敵の陣形は完全に崩れており、今ならCWも無防備だ。
「今です!」
ハインの合図でアルヴァイムのディスタンが敵陣に切り込み、ロケット弾ランチャーで次々とCWを狙い撃つ。
発射されたロケット弾はいずれも正確にCWを捉えて爆裂し、CWをただのゲル状の物体に変えて撃墜してゆく。
こうして8機いたCWは全滅し、今まで脳裏で嫌らしく響いていた頭痛が綺麗さっぱりと晴れる。
「頭痛の種は排除したんだ。遠慮なく撃ち抜かせて貰うよ!」
羽矢子はスッキリとした表情で照準器を覗き、レーザーライフルで生き残りのHWを狙撃した。
光速で射出された高分子のレーザーはHWのど真ん中を貫く。
羽矢子が更にもう1発当てると、HWはしばらくフラフラと漂っていたが、やがて貫かれた穴から火を噴き、そのまま落下していった。
周防もスナイパーライフルでHWを狙撃し、アルヴァイムと連携しながら撃ち落してゆく。
そうしてHWも確実に撃ち減らされつつあったが、それを愛子は黙って見てはいなかった。
『‥‥これ以上やらせない』
綾のモーニング・スパローに後ろから強襲すると、荷電粒子砲は放ってくる。
プロトン砲以上の高熱量に晒されたモーニング・スパローはたちまち装甲が融解し、機体各所で小爆発を起こし、コクピットではダメージランプが幾つも点灯する。
「くそっ! こちとら空戦屋でね。空で負ける訳にはいかないんだよ!」
綾はスロットルを最大にまで叩き込んで機体を急加速させた。
すると思ったとおり中型HWが後を追ってくる。
「さて、お前はどれだけ疾いか見せて貰おうか‥‥!」
綾は中型HWを引き連れ、機体を左右に振って狙いを定ませない様にしつつ、わざと徐々に差を詰めさせる。
「‥‥今だっ!」
そして絶妙のタイミングでブーストを起動し機体を宙返りさせて中型HWの頭上をとった。
「喰らえっ!!」
綾はスラスターライフルを連射しつつソードウィングで斬りかかる。
『くっ!』
中型HWはライフル弾を喰らいながら慣性制御機能を発動し、機体を横にスライドさせてソードウィングを避けた。
そして、そのまま砲身を綾のディアブロ改に向け、荷電粒子砲を発射する。
「うわぁっ!」
粒子砲がモーニング・スパローを貫通し、機体が大きくバランスを崩す。
『トドメ』
そして荷電粒子砲に再び光が灯る。
だが粒子砲が発射される前に中型HWの横合いから陽子の夜叉姫が来襲し、ロケット弾を発射。
中型HWが爆炎に包まれる。
「今の内に離脱を」
「くっ‥‥すまない」
その間に綾は中型HWから距離をとった。
「周防様、赤崎様、今の内に降下してください」
綾が中型HWを引き付けてくれている間に最後のHWを螺旋弾頭ミサイルで倒したハインが二人を促す。
「了解です、後は頼みます」
「地上班、今から降下するよ。ワニキアの気を引いて援護を頼む」
羽矢子は地上班にそう無線を送ったが、
『こちら地上B班つばめです。現在私と如月さんはゴーレムと交戦中で援護は無理そうです。すみません』
『こちら地上A班サルファ。こちらも全員ゴーレムと交戦中です』
返ってきた返事は芳しくないものだった。
「了解。こちらはなんとか自力で降下するから気にしないでいい」
羽矢子は勤めて明るく言って通信を切った。
「敵のS−01のレールガンの射程はおよそ500mの様です。この地点ならば狙撃される心配はないと思いますので、ここに降下してください」
アルヴァイムから降下地点のデータが二人のコクピットに送信されてくる。
「空からの狙撃は俺達が煙幕でバッチリ援護してやる」
「後は私達に任せて下さい」
綾とハインからは頼もしい通信が送られてきた。
「頼む。行くよ周防」
周防より先行して降下を始めた羽矢子のバイパーの進路上に綾が煙幕を張ってくれる。
続く周防はチラリと陽子と交戦中の中型HWを見た。
「借りはまた別の機会に、あなたがステアーに乗ってきた時返させてもらいますよ」
そう呟くと周防はハインが焚いてくれた煙幕をくぐり、ワイバーンを地上に向けて降下させた。
一番厄介な中型HWを陽子が抑えてくれている間に2人を無事に降下させた3人は改めて残りのHWに攻撃を仕掛けた。
アルヴァイムのディスタンが先陣を切って盾となり、ロケットランチャー撃ち放ってダメージを与え、HWが弱ったところ
綾のモーニング・スパローとハインのバイパーがトドメを刺してゆく。
そうして次々と強化型HWも撃墜してゆき、残りは愛子の中型HW一機となった。
「‥‥一つ、提案があります。そちらが負けを認め大人しく撤退をするのなら、こちらとしても被害を受けてまで無理に追うつもりはありません。こちらの目標は空港の奪還であり、貴方の撃墜はそれほど優先順位は高くありませんから。――どうなさいますか?」
そこで陽子は静かな口調で中型HWに乗る愛子に向かって通信を送った。
『‥‥ふざけるなぁっ!!』
すると無線機からは激昂した愛子の声が返ってきた。
『人間があたしを見下すなっ! 蔑むなっ! 哀れむなっ! あたしはリリア様の親衛隊、トリプル・イーグルの小野塚 愛子! あたしはリリア様からもう誰にも負けない絶大な力を賜ったのよ。そんなあたしが人間なんかに負けるわけがない‥‥負けるわけがないわっ!!』
愛子はそう叫ぶと中型HWを最大加速させて陽子のバイパーに挑みかかった。
「‥‥そうですか、残念です」
「では仕方ないですね」
陽子は愛子を真っ向から迎え撃ち、アルヴァイムは後ろに回りこんでロケットランチャーを撃ち込んでゆく。
『あぅ!』
中型HWの装甲が弾け飛び、内部機構が剥き出しになったが愛子は構わず陽子のバイパーに突っ込み、荷電粒子砲を撃ち込んでいった。
粒子砲が夜叉姫の装甲を溶かし、各部で小爆発が起こったが、陽子は冷静に中型HWに狙いを定め、トリガーを引く。
スラスターライフルから無数のライフル弾が放たれ、2機がすれ違うまでの間に中型HWに穴を穿ち、抉り、破壊しつくした。
中型HWは炎の煙を上げ、破片をばら撒き、徐々に分解しながらフラフラと地上に向けて落下していったのだった。
●時を少し遡った陸上
道路を滑走路代わりにして着陸したは由梨はディアブロを人型に変形させて戦術レーダーに目を向けた。
レーダーはこちらに向かってくる5機の小型陸戦型ワームと2機のゴーレムを表示している。
「敵の数が多いですね‥‥。とは言え、やることは普段と変わりませんか。すべて、倒してしまいましょう」
由梨はブーストを発動するとスラスターライフルを構え、150m圏内にいる2機のワームにそれぞれ30発ものライフル弾を叩き込んで原形が残らぬ程の鉄屑に変える。
そして一旦スラスターライフルを地面に置き、スナイパーライフルRに持ち換えると次のワームを狙い撃つ。
正確に身体の中心を撃ち抜かれたワームはそのまま機能停止して、地面に倒れた。
「まずは最初の正念場。頑張ろうね、『swallow』」
つばめは愛機に声をかけると膝立ちにさせ、スナイパーライフルRを構えて狙撃。
ワームの身体の半分近くが弾け飛んだが動きは止まらない。
つばめは手早くリロードして次弾を発射。
2発目ライフル弾でワームを完全に破砕する。
「よし、1機撃破です」
「兵士の皆さん、キメラをお任せします。ワームとゴーレムはこちらで受け持ちますが接近されたら連絡をお願いします」
小夜子はウーフーのジャミング中和装置を起動させると、戦車隊と歩兵部隊に通信を送った。
『了解であります。そちらもお気をつけて』
すると、歩兵部隊の小隊長の一人が小夜子のウーフーに向かって敬礼を返してくれた。
小夜子もウーフーに敬礼させるとワームに向かって前進し、高分子レーザーを発射。
胴体部を融解されたワームは炎上して爆発した。
これで5機いたワームは全滅する。
だがその時、電磁加速された超音速の弾丸が小夜子のウーフーを撃ち抜いた。
「あぅ!」
右肩を貫いた弾丸は、その衝撃波でウーフーの胴体をも引き裂き、ちぎれた右腕が吹き飛んで地面に落下する。
続く第二射は左腰部に着弾。
胴体部が大きく抉られたため左足との回線が完全に断たれ、立っていられなくなったウーフーが地面に膝と手をつく。
「石動さんっ!」
つばめが小夜子のカバーに入ろうと機体を回頭させた。
「この距離を当ててくるなんて」
由梨が煙幕銃を発射し、小夜子のウーフーを煙幕で包みこむ。
しかし、第三射が衝撃波で煙幕を吹き飛ばしながら無常にもウーフーの胴体部を直撃。
「キャーーー!!」
動力部を破壊されたウーフーは爆発し、脱出ポッドが小夜子の悲鳴と共に射出される。
「すみません、石動さんがやられてしまいました」
つばめが無線機に向かって無念そうに報告する。
「あのレールガン‥‥!」
由梨の脳裏にアメリカ南部の森林地帯の敵拠点で出会ったレールガンを背負った土色の阿修羅の姿が浮かぶ。
その時は2機の味方が犠牲になったのだ。
今の砲撃を行ったのは阿修羅ではなくS−01だったが、おそらく搭乗者は同じだろう。
「あの時はゴーレムの相手で手一杯でしたが、今度は逃しません!」
由梨はディアブロに獅子王を抜かせると、正面から進攻してくるゴーレムに向かって走らせた。
対するゴーレムは接近させまいとガトリング砲で弾幕を張ってくるが、4基の高出力ブースターを装備した瑠璃のディアブロは易々と弾幕を潜り抜け、ゴーレムの懐に滑りこむ。
「ハッ!」
由梨はゴーレムの胴を横に寝かせた獅子王の切り裂きつつ横を抜け、後ろに回りこんで反転し、背後から袈裟切りにした。
胴を半ばまで断たれ、肩から背中まで大きく切り裂かれたゴーレムは膝をつき、そのまま前のめり倒れて動かなくなった。
もう一体のゴーレムは大剣を肩に担ぎながらつばめのディスタンに向かって真っ直ぐ突進してきていた。
つばめはゴーレムの動きを止めるためスナイパーライフルで足を狙撃してみたが、ゴーレムの装甲は思ったよりも厚く、足を止めるまでには至らなかった。
「いくよswallow。ハンマーボール、セット」
つばめはツングースカで弾幕を張りつつ、ディスタンの頭上で大きくハンマーボールを旋回させ始めた。
「えぇぇい!」
そしてゴーレムがハンマーボールの間合いに入ると同時に一気に投擲。
遠心力で加速されたハンマーボールは空気を切り裂き、轟音を伴って飛んだが、ゴーレムは身を反らしてギリギリ避けた。
「しまった!」
つばめはすぐにハンマーボールを引き戻そうとしたがゴーレムが間合いを詰めてくる方が早い。
「くっ!」
つばめは咄嗟にレグルスを構え、ゴーレムの大剣の横薙ぎの一撃を受け止めた。
そしてその衝撃を利用してディスタンをバックステップさせ、ゴーレムとの間合いを開ける。
「よかった、うまくいった」
ゴーレムはガトリング砲で追撃してきたが、『アクセル・コーティング』を発動させればレグルスで完全に受け止めきれた。
つばめはその隙に再び頭上でハンマーボールを旋回させる。
「でも普通に攻撃したんじゃまた避けられるかも‥‥」
そうしてレグルスを構えたままハンマーボールを旋回させてゴーレムを隙を窺っていると、不意にゴーレムの背中にライフル弾が命中し、大きく体勢を崩す。
ゴーレムを倒し終えた由梨がスラスターライフルで狙撃してくれたのだ。
「今だ!」
つばめはその絶好の機会を逃す事なく、ハンマーボールを投擲。
ゴーレムは大剣で受け止めたが、ハンマーボールは大剣をへし折り、更に胴体にもぶち当たって胸部装甲を大きくへこませながら後ろに吹っ飛んだ。
つばめはハンマーボールを引き戻すと大きく振りかぶって倒れたゴーレムの真上から叩きつける。
「いっけぇー!」
ハンマーボールはゴーレムの胸部を完全に押しつぶし、完膚なきまで破壊された。
「やったぁ!」
一方、北西部では陸上より進攻した月影・透夜(
ga1806)が長距離バルカンの掃射で2体の小型ワームを薙ぎ払って潰し、サルファ(
ga9419)がレーザーライフルで1体爆散させていた。
そしてシュテルンの垂直離着陸能力で小型ワーム部隊の後ろに着陸したリヴァルは着地の瞬間をTWに狙い撃たれ、いきなり2割近いダメージを受けた。
「くっ‥‥だがこの程度は予測の範囲内だ」
だが、すぐに機体を人型に変形させて立ち上がらせる。
するとファランクス・アテナイが自動的に起動し、秒間75発、計750発もの弾丸を小型ワームに向かってばら撒いてゆく。
そうしてボロボロになったワームにリヴァルは更にスラスターライフルを撃ち込んでトドメを刺した。
そのままスラスターライフルの銃身を移動させ、隣りのワームにも60発のライフル弾を叩き込み、ボロボロにして倒す。
「よし、ワームの掃討は完了した」
リヴァルは無線機にそう告げるとスラスターライフルをリロードする。
「ゴーレムも一気に叩くぞ。リヴァル、支援を頼む」
透夜はブーストを点火させ、リヴァルのシュテルンを追い抜くとヘビーガトリング砲で牽制射撃を行いながらゴーレムに接近する。
ゴーレムはガトリング砲に晒されながら自分も透夜のディアブロに向かってガトリング砲を撃ち放とうとした。
しかし、リヴァルが透夜のディアブロの後ろからスラスターライフルを掃射し、ゴーレムの射撃を妨害する。
その隙に透夜はディアブロにアテナを構えさせた。
「闘っ!」
まずアテナを下から振り上げ、石突でガトリング砲を跳ね上げる。
「破っ!」
そしてがら空きになった胴にアテナを突き入れ、
「征っ!」
そのまま胴体から脇腹まで斬り裂いた。
更にそこから1歩踏み込んで懐に潜り込み
「これで、トドメだっ!」
ソードウィングでその傷をいっそう深く斬り裂いてゆく。
胴体の3分2以上を切断されたゴーレムはそのまま仰向けに倒れ、動かなくなる。
その頃、もう1体のゴーレムはサルファが一人で相手をしていた。
サルファは雷電にアイギスを正面に構えさせ、スラスターライフルを掃射しながらゴーレムへの接近を試みていた。
対するゴーレムはスラスターライフルを受けながらも大口径の大砲で反撃してくる。
砲弾は全てアイギスで受け止めているものの、その衝撃はコクピットにまで響く程で、雷電の膝や肘も軋みを上げ、徐々にダメージが蓄積してくる。
「意外と重い砲撃だな。このまま受け続けてるとマズイかな?」
サルファは一瞬の隙を突いて砲弾を避け、ロンゴミニアトをゴーレムの胸部装甲に突き立てた。
「喰らえ!」
そして手元のスイッチを入れてゴーレムの体内に送り込んだ液体火薬を爆発させる。
内側から爆発でゴーレムの胸部装甲が吹き飛び、そのまま後ろに倒れこもうとしたがギリギリで踏みとどまり、手からビームサーベルを伸ばして斬りかかってきた。
「なに?」
サルファは咄嗟に避けようとしたが間に合わす、肩から胸部まで斬りつけられる。
浅い傷ではなかったが機動に支障はない。
「このぉ! 往生際が悪いぞ!」
サルファはロンゴミニアトを振るってゴーレムの腕をビームサーベルごと斬り飛ばし、もう一度胸部に突き立て、液体火薬を炸裂させた。
この一撃でゴーレムの胸部は貫通しそうなぐらい大きく抉れ、完全に機能を停止した。
そうして4機のゴーレムも討伐された頃、空から羽矢子のシュテルンと周防のワイバーンが降下してくる。
『新手か。やはり愛子のHWだけでは抑え切れなかったか‥‥』
それを見たワニキアはS−01BCを2機の降下地点の方に向かって走らせた。
シュテルンの垂直離着陸能力で一足先に降下した羽矢子は周防を降下を援護するため、レーザーライフルを構え、近くにいたTWを狙撃した。
放たれた高分子のレーザーはTWの甲羅を容易く貫いて切り裂き、傷口から大量の体液が噴き出す。
TWはプロトン砲で反撃してくるが羽矢子は避けながらレーザーライフルをリロードし、再びTWを狙った。
だがその直後に轟音と共にレールガンが羽矢子のシュテルンに向かって飛んでくる。
羽矢子は咄嗟にPRMシステムを起動して可変ノズルに防御形態をとらせた。
間一髪PRMは間に合ったが、レールガンは左肩に着弾し、肩ごと左腕が吹っ飛ぶ。
「くそっ! 左腕が‥‥」
羽矢子はワニキアのS−01BCにレーザーライフルを照射したが、しゃがんで避けられた。
だが、その間に着陸を果たした周防がワイバーンを獣型に変形させるのと同時にマイクロブーストを発動。
「ちっ‥この間の続きですか? あなたと戦うのは結構きついんですがね」
そこから一気に加速してS−01BCに接近しながらスナイパーライフルを発射する。
『その声は、あの時のスナイパーか』
ライフル弾はS−01BCの腕に命中したが、ワニキアは構わずレールガンで反撃した。
しかし周防はレールガンが放たれると同時にブーストを発動し、その加速力でレールガンを避ける。
「これなら‥どうだ!」
そしてS−01BCの懐に潜り込むと、至近距離からアグニを2連射した。
1発は胸部の装甲を抉り、2発目は腰部を貫通。S−01BCに深手を負わせる。
『やってくれたな!』
ワニキアはそのまま通過して間合いを取ろうとしている周防のワイバーンにレールガンを放つ。
周防は機体を左右に振って回避運動を行い、1発目と2発目は避けられたものの、3発目が背中に命中。
「うわっ!」
翼が吹き飛び、シートが激しく上下する程の衝撃がコクピットを襲う。
今の一撃で火器管制の一部に異常をきたす程のダメージを受けた。
「あんたにも守りたい人が居た筈だ。なのに何故バグアに与するっ!?」
羽矢子がワニキアの気を周防から自分に向けるため通信を送った。
『自分が守りたいのはこの地球だ。そのために自分はバグアに与したのだ』
するとワニキアからはそんな返答が返ってきた。
「どういう意味だ?」
羽矢子はワニキアと会話しながらレーザーライフルをなんとか片腕でリロードする。
『お前達は人類が地球の生態系の頂点に立つに相応しい生物だと思うか? 自らの欲望を満たすために大地を汚し続ける人類がこのまま増え続ければいずれ地球を喰い潰して自滅するだろう。だが、生態系の頂点にバグアを置き、人類の数を管理すれば地球の生態系は安定する。それこそが自分の望みだ』
「世界や人類などという大それた事を言うつもりはない。だが、君の提示するその人間じみた空論を俺は拒絶する」
そんなワニキアの理論に応えたのは羽矢子ではなくリヴァルだった。
「突貫する、支援を頼む」
リヴァルは透夜とサルファのそう告げるとブーストを発動し、ワニキアのS−01BCに向かって突っ込んでゆく。
「了解。あの偉そうな誇大妄想野郎に1発ぶちかましてやって下さい」
サルファはその場でレーザーライフルを構えるとS−01BCを狙撃した。
レーザーは避けられたが、その間にリヴァルと透夜が間合いを詰める。
「リヴァル、怒りは攻撃に込めろ。戦闘は冷静に攻撃は苛烈にだ」
「あぁ、分かっている」
リヴァルは透夜の助言に頷くとPRMシステムを起動。可変ノズルが命中形態をとる。
「君は、俺が討つ」
『出来るものならやってみろ!』
そしてリヴァルがスラスターライフルを連射するのとワニキアがレールガンを放つのはほぼ同時だった。
レールガンはリヴァルのシュテルンの右腕の命中し、スラスターライフルごと腕をもぎ取られた。
だが、リヴァルのスラスターライフルもS−01BCも胴体から頭部にかけて命中し、胴体に穴を穿ち、頭部を半壊させた。
そこに透夜のディアブロが迫る。
「全推進力タイミングを。行くぞ『ファントム』!」
透夜は『アグレッシブフォース』を発動すると、地面を蹴って前に出ながらブーストで機体を加速させ、そこから更にアテナの柄のブースターも点火して最大加速でワニキアのS−01BCに突っ込んでゆく。
「雄ぉぉーー!!」
『くっ!』
ワニキアは咄嗟にレールガンでアテナを受け止めたが、それでは透夜のディアブロの勢いを止められず、アテナはレールガンを突き抜けてそのままS−01BCの胸部に突き立った。
『くそっ!』
ワニキアは腕部から伸ばしたビームサーベルでディアブロの右腕を切断して後ろに下がり、胸からアテナを引き抜いた。
『機体の調整が完全ならこれ程の遅れはとらなかっただろうに‥‥』
ワニキアは悔しそうに呻くとS−01BCを跳躍させ、空港施設の屋根に飛び乗り、背中から機弓を抜いて構える。
その場から滑走路を見渡すと、ちょうどTWが羽矢子のレーザーライフルを受けて崩れ落ちるところだった。
もう一体のTWには由梨のディアブロが迫っており、倒されるのは時間の問題だろう。
そして空からはHW編隊の殲滅を終えた4機のKVが降下してこようとしていた。
『‥‥潮時か』
そう認めざるを得なかった。
『まぁいい。どうせお前達がこの空港を手にいれようとも市内に進攻する事は不可能なのだからな』
ワニキアはそういい残し、牽制の矢を放つと空港施設の裏側の滑走路の降り立ち、S−01BCを飛行形態の変形させて飛び立っていった。
最後に残っていたTWも由梨とつばめに倒され、ヒューストン空港の空からも陸からも完全にバグアが一掃された。
そして後方にいた戦車隊と歩兵部隊も空港内に進入し、空港施設の占拠が始まった。
「‥‥ようやくここまで来たな」
透夜がディアブロのコクピットから身を乗り出し、感慨深げにヒューストン空港を見渡す。
人類はこの瞬間、ヒューストンをバグアから解放するための確実な足がかりを手に入れたのだった。
●ヒューストン郊外
愛子の墜落予測地点周辺を低空で飛んでいたワニキアはすぐにボロボロになった中型HWの残骸を発見し、すぐ近くに降下した。
中型HWは近くで見ても酷い有り様だったが、歪んだ装甲を強引に引き剥がし、どうにかコクピットを開いた。
「生きてるか、愛子?」
声をかけながら薄暗いコクピットの中を覗くと、シートに上で膝を抱えて小さくなっている愛子の姿が目に入る。
一見したところ深い傷を負っている様には見えない。
しかし愛子は膝に顔を埋めたまま動こうとしなかった。
「なんで? どうして?」
不意に愛子がそう呟く。
「あたしはもう人間じゃない。もう誰もあたしを虐める事なんてできない、見下せない、蔑めない、侮蔑できない、哀れまない。それぐらいあたしは強くなったわ。でもなぜ? どうして? なんでなんでなんでなんでなんでなんで!! なんでまたこんな怖い思いをしなくちゃいけないのっ!? あいつらいったいなに? なんなの? どうしてまたあたしを虐めるのよぉぉーーーーー!!!」
愛子は勢いよく膝から顔を上げると、大きく頭を振った。
愛子の長い黒髪がバサバサと左右に揺れる。
「あいつら絶対に許さない! 殺す! 絶対に殺す! 殺す殺す殺すっ!!」
そう何度も繰り返す愛子の姿はワニキアには涙を流さず泣いている小さな女の子の様に見えた。
「愛子、一度総司令の元に戻ったらどうだ」
「え?」
愛子が意外そうな顔でワニキアを見る。
「そして再調整を受けてみろ。そうすれば今よりも強くなれるかもしれん」
「‥‥うん」
愛子はしばらく迷っていたが頷いた。
その表情は心なしか嬉しそうに見える。
リリアに会える事が嬉しくてたまらないのだろう。
(「これで少しは精神の不安定さが治るといいのだが‥‥」)
愛子の身を案じるワニキアは切にそう願うだった。