●リプレイ本文
マネキン型キメラに奇襲された傭兵達だったが、咄嗟にミア・エルミナール(
ga0741)とリヴァル・クロウ(
gb2337)が前に出て、キメラのサーベルを受け止める。
「爆弾巻きつけた人を囮にして奇襲か‥‥やり口が汚いね」
ミアはタバールで受け止めたサーベル越しにキメラの能面な顔を睨み付けると、タバールを振り上げてサーベルを弾き、そのまま上段から叩きつけた。
避け損なったキメラは左腕を切り落とされたが、かまわず残った右手で反撃してくる。
「くっ!」
ミアはタバールを盾にして受け止めた。
「このぉ!」
施設への誤射等を防ぐため『GooDLuck』を発動させたM2(
ga8024)がキメラの背後に回りこみ、イアリスで背中を斬りつける。
「堅そうですけど、超機械の攻撃なら関係ないのです♪」
M2の攻撃でふらついたキメラに向けて御坂 美緒(
ga0466)が超機械γで電磁波を発射。
強力な電磁波で晒されたキメラは全身を焼け焦げさせ、ぶすぶすと煙を上げて倒れた。
「コイツはコンローの町で戦ったものと同種か。ならば弱点はここだっ!」
リヴァルは『紅蓮衝撃』を発動させ、『急所突き』で下腹部を狙う。
キメラは一撃目は避けたものの、続く三撃が下腹部を貫く。
「やったか?」
しかし、キメラは倒れる事なくリヴァルに斬りかかってきた。
「なに?」
リヴァルはプロテクトシールドで防ぎ、その隙にフィオナ・フレーバー(
gb0176)がエネルギーガンを発射。
3条のエネルギー波に体を貫かれたキメラは完全に沈黙する。
「詰めが甘いわよ、リヴァル」
「‥‥お前の見せ場も残しておいてやったんだ」
意地悪く笑うフィオナにリヴァルが憮然とした顔で答えた。
「すぐに解体を行うわ。もう少し我慢していて」
藤田あやこ(
ga0204)が捕虜の前に跪き、腹の爆弾を仔細に観察してから慎重に蓋を外した。
「これは‥‥想像以上に複雑ね」
爆弾の内部構造を見たあやこの表情が険しくなるが、リチャード・ガーランド(
ga1631)から借りたエマージェンシーキットの鋏を使って慎重に解体を始める。
クラリッサ・メディスン(
ga0853)が残り8機の原油採掘機を見渡す。
「どうやら他の採掘機にも爆弾が仕掛けられているみたいですわよ」
確かに全ての採掘機の根元に縛られているらしい人影が見えた。
「では2班に分かれて解体に向かおう」
美緒、クラリッサ、フィオナ、リヴァルがB班として反時計回りに他の採掘機の調査に向かい、残りの者は解体作業中のあやこを中心にして周囲を警戒する。
『こちらB班。やっぱりこっちにもキメラがいました』
しばらくするとB班のフィオナから通信が入った。
『幸いキメラは1体だけだったからすぐに退治して美緒さんが爆弾の解体にとりかかったんだけど‥‥なんだか解体が難しい爆弾みたいです。そっちの様子はどうですか?』
「こちらA班。こっちもまだあやこさんが解体中です」
『‥‥了解です。じゃあ解体が終わり次第、次に向かいます』
M2が答えると、フィオナの少し残念そうな声を残して無線が切れる。
(「施設じゃなくて逃げられる人に縛り付けたのかー‥‥離れられたら爆弾仕掛ける意味ないし‥‥別な意味で離れられないようにしたのかな? もしそうなら、解体しないで動かすのは危険かも」)
そんな事を考えていたミアは縛られてる人の猿轡を外して事情を聞く事にした。
「ねぇ、どうしてこんな所に縛られているのか分かる?」
「‥‥いえ、自分はコンローの町で敵の捕虜になり、その後どこかに監禁されていたのですが、ある日牢屋から出されたあと眠らされて‥‥気づいたらここで縛られていました」
「そっか‥‥爆弾はすぐに解体してあげるから、もう少し動かずじっとしててくれ」
「はい」
兵士はまだ不安そうだったが、力強く返事をしてくれた。
そして解体開始から1分後。
爆弾に表示されていたデジタルカウンターが停止して消灯した。
「終わったわ。これでもう外しても大丈夫なはず‥‥」
皆が緊張の面持ちで見守る中、あやこは慎重な手つきで爆弾を兵士から外した。
爆弾は爆発する事なく無事外れ
「ふはぁ〜‥‥」
一同から安堵の溜め息が漏れた。
「よし、解体成功だ! 次行こう。次!」
リチャードが一同を急かす。
「あぁ。あんたはすぐにここから離れて何処か安全な所に隠れていてくれ」
「はい! 本当にありがとうございましたっ!」
兵士はピシッと敬礼するとミアの指示に従ってその場から離れていった。
その頃B班は
「今助けるので動かないように」
そう言い置いて解体作業を始めた美緒を中心にして残りの3人で周囲を警戒していた。
「これはダミーですね。こっちの配線もダミー‥‥こっちのダミーに見せ掛けているのが本命です。ふぅ‥‥随分と嫌らしい作りの爆弾でした」
そして解体開始から80秒後、美緒は動かしていた手を止めて顔を上げた。
「終わったのか?」
「はい、これで大丈夫ですよ。お待たせしました」
美緒は縛られている兵士にニッコリ笑いかけ、爆弾を外す。
爆弾は爆発する事なく外れ、兵士の拘束もすぐに解かれた。
「ありがとう! 本当にありがとう!!」
兵士は美緒の手を取ると目元に涙を浮かべながら感謝してくる。
「いえ、私も無事に助ける事ができてよかったのです♪ 私達はこれから他の人も助けに行きますので、アナタは何処か安全な所に退避しててくれますか」
「あぁ、分かった。他の奴らも助けてぜひやってくれ!」
「はい、任せてください♪」
そして4人はすぐに次の採掘機に向かって全速で移動を開始した。
「油田の爆破にしては回りくどいのです‥‥よほど人間に恨みを持つ者の犯行に違いないですね」
美緒が走りながら険しい顔で仲間達に話しかける。
「この状況を好むのは小野塚愛子だろう。恐らくは彼女の仕業だ」
美緒の言葉にリヴァルが答えた。
「もしかしてその人が何処かから見てるかも‥‥?」
「それは分かりませんけど、今は爆弾を解体して兵士を救ける事が先決ですわよ」
「はい」
クラリッサの言葉で美緒は意識を切り替えた。
そして採掘機に接近したB班だが、不意に地面が盛り上がってキメラが現れ、口からバルカン砲と電磁波を放ってくる。
だが、バルカンはリヴァルが盾で防ぎ、電磁波にはクラリッサを傷つけるだけの威力がなかった。
「その程度では私には通じませんわよ」
クラリッサは『練成強化』をリヴァルにかけると、超機械ζで攻撃を仕掛ける。
そこにリヴァルが飛び込み『紅蓮衝撃』の赤いオーラを纏いながら『急所突き』でトドメを刺す。
「私は解体に行きます」
「頼む」
敵が残りが1体になったところで美緒が爆弾の解体に向かう。
そこに少し遅れて皆よりも足の遅いフィオナが到着する。
「遅いぞ、フィオナ。はやく構えろ」
「言われなくてもわかってるわ! リヴァル、全力でいくわよ?」
フィオナは機械剣αを両手に持ってキメラに接近戦を挑んだ。
「お前、あれをやる気か? まったく。隙は俺が作る、遅れるな」
フィオナの意図を汲んだリヴァルが盾を小銃『S−01』に持ち替え、自分も接近戦を仕掛ける。
キメラはリヴァルに斬りかかってきたが、リヴァルは月詠で受け流し、鋭い斬撃を連続で浴びせた後にキメラの足に月詠を突き立てて動きを封じる。
その間にキメラの背後に回り込んだフィオナは『電波増幅』を発動。
「いらっしゃい‥今だけはあなたを歓迎するわ―――けど」
ゆっくりと舞うように機械剣αでキメラを切り刻み
「リヴァル!」
「‥そこだ」
リヴァルと同時にキメラを蹴って距離を取ると、すぐにエネルギーガンを構え
「エクスシア―――」
「―――ジャッジメント」
リヴァルのS−01と同時に撃ち放つ。
二人の連携攻撃によって無数の斬撃と弾痕を刻まれたキメラは成す術もなく崩れ去った。
「あなたの居場所はここにはない」
「それが結論だ」
二人は不敵に笑って決め台詞まで極めた。
一方、A班は2個目の爆弾も順調に解体し、3個目に向かっていたが残り時間はもう半分しかなかった。
「くそ! 急がないと‥‥」
逸る気持ちを抱えたまま次の採掘機に到着したが、キメラが現れる気配がない。
「ここにはキメラがいないのかな?」
M2が兵士の前で盾を構えて庇いながら周囲を警戒する。
「じゃあ、すぐ解体するわ」
あやこはが兵士に近寄ると不意に兵士が立ち上がり、腕からブレードを伸ばして斬りかかってきた。
「おっと!」
しかしあやこはしゃがんで斬撃を避けると素早くエネルギーガンを抜いて連射。
胴体に風穴を開けられた兵士はその場に崩れ落ちて動かなくなる。
ミアが兵士の頭を掴んで上向かせると、そこには能面なマネキンの顔があった。
「‥‥キメラが化けてたのか」
「じゃあ、ここに爆弾はないのかな?」
「‥‥ううん、あった。あそこだ」
辺りを探っていたリチャードが採掘機の上部の鉄塔の括りつけられている爆弾を指差した。
「あんな所で解体作業するの‥‥。やり難そう‥‥」
あやこが嫌そうな顔をする。
「じゃあ俺が代わりに行こうか?」
リチャードが手を上げる。
「‥‥ううん、私が行くわ」
あやこは少し迷ったものの、結局自分が鉄塔をよじ登った。
「でも、あんな高い所に仕掛けてて意味あるのかな?」
「もし爆薬にセムテックが使われていたらあの位置でも十分効果はある。なにせ、わずか250gでもジャンボジェット吹き飛ばせる高性能爆薬だからな」
M2の疑問にリチャードが答えてくれる。
そうして3個目の爆弾も無事に解体できたが、残り時間が後100秒になる。
そして時間が残り少ないというのに、次の採掘機には3体のキメラが待ち構えていた。
「突撃する! 援護を頼む」
ミアはリチャードのエネルギーガンの援護を受けながらキメラの放つ銃弾や電磁波の中をタバールで身を守りながら突撃。
キメラの懐に入ると『豪破斬撃』を発動させ、タバールを身体ごと大きく振り回して薙ぎ払う。
「喰らえーーっ!」
キメラはサーベルで防ごうとしたが、ミアは構わずサーベルにぶつけて叩き折り、そのままの勢いで腰にも喰らわせてへし折ると、分離した上半身にタバールを振り下ろしてトドメを刺す。
ミアに続いてあやこと共に突撃したM2はキメラにイアリスで接近戦を仕掛けた。
キメラはM2の攻撃を避けて反撃してきたが、M2はかろうじてイアリスで受け止める。
「今の内に解体を」
M2はその間にあやこを兵爆弾の元に向かわせた。
そしてイアリスでキメラを押し切って体制を崩し、弱点の下腹部に突き入れる。
だが、それだけではキメラを仕留めきれず、反撃の刃で肩から胸にかけて斬り裂かれた。
「くそぉ!」
M2はホルスターからラグエルを抜くと0距離から弾丸を撃ち込み、突き刺さっていたイアリスを胸まで斬り上げて裂き、ようやくキメラを倒した。
そして残り1体のキメラの相手をしていたミアは一瞬隙を突き、タバールで脳天から胴体まで斬り裂いた。
上半身が左右に分かれたキメラはぐらりと体制を崩したが、ギリギリ踏みとどまると、ミアの脇を抜けてあやこに襲いかかった。
「しまった! 危ないあやこ!」
ミアが咄嗟に警告を発したが、キメラのブレードはあやこの背中を斬り裂く。
「くぅっ!」
しかし、あやこは手元を狂わす事なく痛みに耐えた。
「このぉ!!」
リチャードはエネルギーガンをキメラに撃つ込んでトドメを刺すと、すぐにあやこに駆け寄った。
「大丈夫?」
「えぇ、でも痛みで気が散るから早く治して欲しいわ」
「分かった」
リチャードは『練成治療』であやこの傷を治し、解体が終わるまでの間にM2の傷も治療した。
一方、B班が3個目の爆弾を解体し終わった時には残り時間は1分を切っていた。
果たして間に合うのか?
そんな思いが去来したが誰もその事には触れず、全速力で次の採掘機を目指した。
次の採掘機では2体のキメラが待ち構えており、口からバルカンを放ってくる。
「邪魔するな! どけぇ!」
クラリッサから『練成強化』を受けたリヴァルが盾で防ぎながら突入し、その後ろにフィオナと美緒が続く。
クラリッサはその場から超機械ζで援護射撃を加え、リヴァルとフィオナで1体ずつキメラと対峙する。
「今の内です!」
「はい!」
そうしてキメラの足止めをしている間に美緒が兵士の元に駆け寄り、解体作業を始めた。
しかし爆弾のデジタルタイマーの残りは既に30秒しかない。
「大丈夫ですよ。必ず助けますからね」
美緒は縋るような目で助けを求めてくる兵士を安心させるために笑いかけたが、ちゃんと笑えていたか自分では分からなかった。
「間に合う、間に合う、絶対間に合う‥‥」
美緒はそう呟きながら手を動かし続けたが、デジタルタイマーは無常にもどんどんと数字を減らしてゆく。
「もう無理だ! 退けっ!」
そして残り10秒を切ったところでリヴァルが叫ぶ。
「ダメです! 絶対助けるんですっ!!」
作業工程はまだ半分しか進んでいなかったが美緒は手を止めず、叫び返した。
目の前で助けを求めている人がいるのに見捨てるなんて絶対にしたくなかったのだ。
(「爆弾を引き剥がしてすぐに抱え込めばこの人だけでも助けられるかも‥‥」)
そう思った美緒は爆弾に手を伸ばそうとしたが、
「美緒さんっ!」
その前にクラリッサが美緒を押し倒し、地面に伏せさせた。
「あっ!」
美緒は地面に倒れながら兵士を見た。
「うぅーーーーーーっ!!」
兵士の顔は絶望に彩られ、涙をあふれせた目は最後まで美緒に救いを求めていた。
そして爆弾は兵士を粉々に吹き飛ばし、その爆発はクラリッサと美緒も巻き込んだ。
爆発で二人は火傷を負ったが動けない程ではない。
「立てますか、美緒さん?」
「‥‥はい」
美緒が暗い表情でうなだれながら頷く。
だが採掘機は火に包まれ、その炎は辺りに類焼し始めている。
「では退きますわよ。ここはすぐに炎に呑み込まれるわ」
「‥‥はい」
クラリッサと共に走り出した美緒の目には涙が浮かんでいた。
(「助けられなかった‥‥。ごめんなさい、ごめんなさい‥‥」)
そして美緒の脳裏からは兵士が最後に見せた表情がずっと離れなかった。
一方、A班が4個目の爆弾を解体し終えた時、時間は後30秒しか残っていなかった。
残り時間で爆弾の解体は間に合うのか?
4人は口には出さなかったが、同様の疑問を内に秘めていた。
「無理よ‥‥。今から行っても間に合わないわ‥‥」
そんな中、あやこが静かに残酷な事実を口にする。
「‥‥B班と合流してここを離れよう」
ミアはそう宣言すると中央の採掘機に背を向けた。
残りの3人もミアに続く。
そして走り出した4人の後ろで爆発音が響く。
「くそ! ごめん‥‥」
リチャードは悔しげに呟き、静かに涙を流した。
こうして2名の犠牲者をだし、油田の一部は炎上したが、軍は燃料地を確保できたのだった。