タイトル:【Woi】空爆阻止マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/07 05:37

●オープニング本文


●某・北米バグア基地

「っ!」
 小野塚 愛子(gz0218)はリリア・ベルナール(gz0203)からの呼び出しを受け、リリアの元に向かっていたが、不意に襲ってきた鈍痛に顔をしかめ、額を押さえた。
 愛子はこの基地に戻ってきてすぐに強化人間としての再調整を受けたのだが、それ以来度々頭の奥で響くような嫌な鈍痛に感じる様になっていた。
(「くっ‥‥。本当にあたしは以前より強くなったのかしら? 頭が変に痛くなっただけで他には何も変わっていない気がするけれど‥‥」)
 ずっとそんな疑問が頭から離れないが、今からリリアと会うのだ。調子の悪い姿や不機嫌な顔は見せられない。
 愛子は壁に身を預け、鈍痛が治まるのを待ってからリリアの部屋に向かった。

「リリア様。愛子です」
『入りなさい』
「はい」
 愛子は部屋の外から声をかけ、許しを得てから司令室に入った。
 すると、司令席に座っていたリリアが椅子ごと愛子の方に振り向く。
「待っていましたよ愛子。調整を受けてすぐのところ悪いのだけれど、今から出撃してくれますか。実は最近敵の動きが活発になってきています。敵の動向から推測すると、どうやらまた五大湖に仕掛けてくる可能性が今のところ1番高い様です」
 リリアは愛子を隣りに呼び寄せ、戦術マップを見せながら説明する。
「は‥はい」
 愛子はすぐ傍にある美しいリリアの横顔に少しドキドキしながら聞いていた。
「また大規模な戦闘が起こる事は避けられないでしょうから、今の内に少しでも敵の戦力を割いておこうと思います。愛子には本星型ヘルメットワームを貸与しますから、爆撃仕様のヘルメットワームを率いてインディアナポリス周辺の前線基地を空爆してきて欲しいんです」
「はい! お任せくださいリリア様。人間の基地など完膚なきまでに破壊してご覧に入れます」
 愛子はピシッと背を伸ばし、リリアに応える。
「頼みます。‥‥あら、少し顔色が悪いようだけれど、大丈夫?」
 リリアは椅子から立ち上がると愛子の頬に手を添えた。
「ぁ‥‥」
 それだけで愛子の心臓がドキドキを早鐘を打ち始めり、瞳がうっとりと潤む。
(「リリア様の手‥‥暖かい‥‥」)
「愛子、もし身体が辛いのなら他の者に任せても‥」
「いいえ! 大丈夫です! あたしにやらせて下さい!!」
 本当はまだ頭痛は治まってはいなかったが、リリアから直々に指名された任務を他の者に譲るなど愛子には到底看過できない事だった。
「‥‥そうですか? でも、危なくなったら無理せず退きなさい。いいですね」
「はい」
 素直に頷く愛子の頭をリリアは優しく撫でた。
(「やっぱりリリア様はお優しい‥‥」)
 愛子は微かに頬を染め、大人しくリリアに撫でられた。




●インディアナポリス周辺地区、第三前線基地

『敵機接近! 敵機接近! 南西より敵航空部隊が接近中。数は中型ヘルメットワームが5、小型ヘルメットワームが11。緊急スクランブル願います』
 基地のレーダーが空から接近する敵編隊を捉えた直後、基地内に警報が鳴り響き、ハンガーでは急ピッチでKVの離陸準備が開始される。
「回せー!」
 パイロットが各KVに乗り込みエンジンを始動。
「管制室、S−01改、2番機出るぞ!」
『了解。グッドラック』
 続々と滑走路から飛び立ってゆき、それぞれの機種に合わせてロッテを組んで敵編隊の迎撃に向かう。
「全部で16機か。くそっ数が多いな」
 バイパーのパイロットの一人が愚痴る。
『司令部からKV各機へ。すぐに後方から増援の傭兵部隊も到着する。それで数の不利は補えるはずだ』
「了解。傭兵部隊にはできるだけ早く来てくれるように伝えてくれ」
 増援が来てくれる事に少し安堵したパイロットだが、最大望遠で捉えた敵編隊の先頭のヘルメットワームが通常の物と形が違う事に気づき、何か不吉なものを感じた。
「司令部! 敵の小型ヘルメットワームの中に本星型と思われる機体が1機混じっている。しかも真っ黒にカラーリングされていて妙に不気味な奴だ。傭兵部隊の奴らにも伝えておいてくれ。なんだかヤバそうな感じだ」
『了解した』
 パイロットは司令部との通信を終えると、今度は仲間のKVとの通信を開く。
「さぁて野郎ども! 傭兵さんばっかりにいい格好させる訳にもいかないからな。俺達も気張っていくぜぇ! スクランブルっ!!」
 基地から迎撃に上がった6機のKVは隊長機の合図で敵編隊に突っ込んでいった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG

●リプレイ本文

 基地からの要請を受けて出撃してきた傭兵達のKVの前方に基地からの迎撃機のKV6機が見え始めた。
「そちらは分かれて両翼の中型を頼む。こちらは敵前衛を突破し中央3機を狙う。撃墜後は別の中型へ。こちらも撃墜後はそちらの援護に向かう」
「軍の兵士さん。カッコいいところみせてよね?」
 月影・透夜(ga1806)と蒼河 拓人(gb2873)が基地の迎撃部隊に無線で指示を送る。
『了解だ。そっちこそカッコよく決めてくれよ。グッドラック』
 そう返信がきて、前方を飛んでいた6機のKVが3機ずつ左右に分かれ、中央部を開けてくれた。

「黒塗りの本星型か‥‥相応の実力者が乗っていると見てよさそうね」
 皇 千糸(ga0843)は敵部隊の中央にいる本星型HWに只ならぬモノを感じていた。
「戦力を分けている上、中型には護衛付きとはあからさまに怪しいですね」
「あの部隊編成と展開配置からすると‥‥あの中型は爆撃タイプかな?」
 新居・やすかず(ga1891)の疑問に、以前同じように『基地へHW編隊と強い機体』の組み合わせで襲撃された経験のある鈴葉・シロウ(ga4772)がそうアタリをつける。
「なるほど、敵の目的は基地の爆撃にあったのか。ならば、その阻止に全力を尽くさねばならぬか。先に爆撃機を片付ける。後のことは頼んだぞ」
 榊兵衛(ga0388)が透夜のディアブロ、新居のS−01H、拓人のフェニックスを引き連れて前に出る。
「何としても基地を防衛してみせるわ。いつぞやのアーバインのようなことは繰り返さない」
(「足の遅さで迷惑かけないように‥‥頑張ろうね、『swallow』」)
 その後に皇のS−01改と九条院つばめ(ga6530)のディスタンが続き、
「後方支援は任せてください。このままでは基地の人達が大変ですもの、頑張ります」
「怪我を得ている状態で申し訳ないが、出来ることは全力でやらせて頂きますぜ」
 ジャミング中和装置を発動させた石動 小夜子(ga0121)のウーフーと傷がまだ癒えていないため小夜子の護衛に回ったシロウの雷電が殿を勤める。
「行くぞ!」
 そして全機一斉にブーストを発動し、全速力で敵軍に突入した。


『‥‥撃たれる前に撃ち落す』
 対する小野塚 愛子(gz0218)はK−02を装備して先陣を切ってくる榊の雷電を標的に定め、一気に差を詰めると荷電粒子砲を3連射した。
 照射された粒子砲が雷電を直撃。超高熱で装甲が融解し、内部の電子機構まで焼き切れてゆく。
「やるな。だがこの程度で落ちはせん!」
 榊は操縦桿を小刻みに操ってK−02への直撃だけは避けると、本星型を中心にして視点移動で敵をロックオンしてトリガーを引く。
 K−02の発射管が開き、250発の小型ミサイルが次々と吐き出されて飛来する。
『!?』
 狙いはてっきり中型HWだと思っていた愛子は虚を突かれたが、なんとかミサイルは回避した。
 しかし他のHWはミサイルの餌食となり、無数の爆発に包まれる。
「今だ!」
 その隙に前衛の4機が爆発に紛れて中型HWに肉薄した。
『させない』
 愛子はすぐに追おうと機体の向きを変える。
「人間『なんか』に落とされて、機体を変えて再登場ですか。また落とされに来たんですか?」
 しかし、つばめが愛子を引きとめようと挑発した。
『‥‥あんな物とリリア様から授かったこの機体を同じに見るな』
 だが、つばめの挑発では愛子を振り向かせるまでには至らなかった。
(「あぁ〜ダメだ。私挑発って得意じゃないから‥‥」)
「そのリリア様ご自慢の機体も乗り手がアナタじゃ、ね。今から任務失敗の言い訳を考えておいた方がいいかもよ?」
『‥‥その機体、アーバインで独り尻尾を巻いて逃げた奴よね。いいわ、また相手してあげる』
 続く皇のセリフに愛子はそう答え、機体を方向転換させて皇のS−01改に仕掛けてきた。

 

 愛子を振り切った榊は全ての中型をK−02の射程に捉えるためギリギリまで接近しようとした。
 すると中型は機体の底部にあるレモンケーキの様な穴から『シュパパパパッ』と高速で爆弾をばら撒きだした。
 地表に落下するまでの間に広範囲に広がった爆弾は基地の外延部で次々と爆発して基地の滑走路を焦土と化し、その被害を徐々に基地中心部に広げてゆく。
「やはり爆撃機か。これ以上はやらせん!」
 榊は5機の中型をロックオンしてK−02を発射。
 250発の小型ミサイルが中型を襲い無数の爆発に包まれたが、依然として爆撃を止める様子はない。
 榊は『超伝導アクチュエータ』を起動させると、やや右手側にいる中型にスラスターライフルを発射。
 しかし護衛の小型が前に出てライフル弾を身代わり受け、中型を守った。
「ならば早々に護衛機を落とすまでだ」
 榊は小型からのフェザー砲を避けながら螺旋弾頭ミサイル、AAEM、AAMを順次発射。
 螺旋ミサイルが装甲を食い破り、そこにAAEMが着弾して傷を広げ、その穴にAAMを撃ちこんで内部を完全に破壊する。
「喰らえ!」
 そして改めて中型に照準を合わせ、スラスターライフルを放ちながら残りの螺旋ミサイルを全弾発射。
 ライフル弾で装甲をずたずたに切り裂かれたところに螺旋ミサイルを撃ち込まれた中型は完全なくず鉄と化して墜落した。


「基地被害減少が最優先だ。多少強引に抜けさせてもらう。それだけの堅さは持っているつもりだ」
 透夜はスロトッルを全開まで叩き込んでディアブロを最大加速させ、中型の護衛らしい小型にバルカン砲を浴びせて強引に進路をこじ開けると中型の下方に回りこんだ。
「好き勝手な破壊者には早々に退場願おうか」
 透夜は降り注ぐ爆弾の雨を巧みに避けながら『アグレッシブフォース』を発動。
「‥‥堕ちろ!」
 爆弾の発射口に照準を合わせて螺旋弾頭ミサイルを発射。
 螺旋ミサイルはHWの底部を突き抜けて内側から爆発。
 透夜は抉れた傷跡目掛けてヘビーガトリング砲を叩き込んで中型とすれ違う。
 中型はディアブロの背後で爆発し、四散した。
「1機撃墜! 次に向かう」
 透夜は追撃してきた2機の小型の攻撃を巧み避けながら機体を次の中型の方に向けた。


「負けられないんだ‥‥最初から全力で行くよ」
 拓人はブーストの上から更にオーバーブーストを発動させ、中型に向かって突撃した。
 すると中型を庇うように小型が前に出てフェザー砲を放ってくる。
「邪魔だよ!」
 拓人はフェザー砲を喰らいつつも機体をロールさせて弾幕を潜り抜け、スラスターライフルで反撃して小型を怯ませると一気に中型に肉薄してソードウィングで切り裂いた。 
「時間が惜しいので全速でいきます」
 新居も錬力の残量を気にしつつブーストを発動し、拓人とは反対側に回り込んでロケット弾ランチャーを発射。
 着弾して中型が爆炎に包まれたところを一気に接近して至近距離からリニア砲を撃ち込み、離脱する。
 中型はしばらくフラフラと漂っていたが、やがて爆発して墜落していった。
 だが、中型を倒している間に他の小型が新居の後ろに回りこみ、フェザー砲で攻撃してくる。
「くっ! 今はアナタ達の相手をしている時間はないんです」
 新居は執拗に攻撃を続けてくる小型を引き連れながら拓人と共に次の中型へ向かった。
 だが、現場に到着する前に目の前でS−01改が小型に撃墜されてしまう。
「兵士さーーん!!」
 叫ぶ拓人の視線の先でS−01改から脱出ポッドが射出され、基地の方に落ちていった。
「あれなら基地の人が回収してくれるでしょうけど、まずは爆撃を止めないと無理ですね」
「自分が仕掛ける、援護して」
「了解です」
 新居は小型をスナイパーライフルで狙撃して気を引き、更にAAMを発射して牽制する。
 その隙に拓人はブースト+オーバーブーストの超スピードで中型にスラスターライフルを撃ち込みながら突っ込んでゆく。
 そして中型を間近に捉えると空中変形スタビライザーを起動。
「空の王者、フェニックスよ。今こそ君の真価を見せてみろ!」
 『気流制御力場発生装置』のお陰で音速を超える速度の中でもスムーズに変形を遂げたフェニックスは大空で手足を大きく広げた。
「ホントに変形できたっ!!」
 初の空中変形に感動しながら拓人は中型をロックオンし、多目的誘導弾を発射。
 左右のファランクス・アテナイも自動的にバルカン砲を乱射する。
 誘導弾の爆発で開いた大穴に撃ち込まれたバルカン砲が内部の爆弾を誘爆させ、中型は炎を吹きながら基地の外へと落下していった。
「よし、兵士さんの仇はとってあげたよ」
 だが空中で人型でいては恰好の的であり、接近した小型のフェザー砲がフェニックスを撃ち抜いてゆく。
「くぅ!」
 拓人はフェニックスを飛行形態に戻すと急いで回避運動に入った。


「小型の相手は自分にお任せあれ。怪我は根性と機体性能でカバー‥‥できますかねぃ?」
 シロウは雷電の超伝導アクチュエータとブーストを起動し、K−02で傷ついた小型にAAMを発射する。
 だが、やはり怪我の影響は大きいのか半分が避けられ、反撃のフェザー砲が雷電に傷を負わせてゆく。
 けれどシロウに続いて小夜子がG放電装置を放ち、小型の動きを鈍らせて高分子レーザーでトドメを刺す。
「小夜子さん、アシスト感謝です」
「鈴葉さん、私も出来うる限りフォローをいたしますからあまり無理をせず身体に負担はかけない様にしてください」
「はは‥‥肝に銘じておきます。では友軍機の援護に行きますぜ」
 2機は基地迎撃機のS−01改が苦戦している小型に向かい、まずは小夜子が牽制でG放電装置を発射。
 次いでシロウがスラスターライフルで弾幕を置きつつ螺旋弾頭ミサイルを撃ち放つ。
 しかし致命傷を与えきる事はできず、反撃のプロトン砲がシロウの雷電を貫通する。
「くぅ〜! やっぱ怪我人にはちと辛いかぁ?」
 それでダメージが5割に達し、シロウは苦笑いを浮かべた。
「鈴葉さん、私の後ろへ」
 小夜子がシロウを庇うように前に出て高分子レーダーを乱れ撃つ。
 シロウも小夜子の後ろからミサイルを放ち、どうにか小型を撃破した。
「レディを守るのは男の役目なのに、とほほ〜‥‥」
「怪我をしているのですから仕方ないですよ。さ、次いきましょう」
 小夜子は落ち込むシロウを優しく慰めてから次の小型に狙いを定めた。
 


「出し惜しみしてる場合じゃないわね!」
 皇はブーストとブレス・ノウを起動させ、照準機に捉えた本星型をスナイパーライフルで狙撃。
 愛子はライフル弾は避けたが、その回避ポイントを予測して放たれていた螺旋弾頭ミサイルが本星型に迫る。
『っ!』
 1発は避けたが残りの2発が命中し、本星型が爆発に包まれた。
 愛子は敢えて強化FFは使わず爆炎を突っ切ると、皇のS−01改にポジトロン砲を発射。
 陽電子の対消滅によるエネルギーがS−01改に叩き込まれた。
 装甲が剥離して内部機構が弾け、翼が歪み、エンジンの片側が吹っ飛ぶ。
 火器管制は奇跡的に無事で飛行もギリギリ可能だが、ダメージは既に9割に達していた。
『さぁ、どうするの? 今度もまた味方を見捨てて逃げるの?』
 楽しげな愛子の声が無線機から響く。
「くっ‥‥」
 愛子はわざと皇に逃げる隙を与えてくれているが、背を向けた途端に攻撃を仕掛けてくるとも限らない。
「皇さん!」
 だが、そこに遅れて到着したつばめのディスタンがUK−10AAMを発射。
 愛子は機体を翻して避けたが、その間に皇が本星型の間合いから離脱する。
『コイツ、邪魔をして!』
 愛子は機体をつばめのディスタンに向けて突っ込ませ、至近距離から荷電粒子砲を照射。
 たちまちディスタンの装甲が融解し、機体のアチコチが小爆発を起こす。
「耐えてswallow!!」
 つばめは操縦桿を倒し、スロットルを全開にして荷電粒子砲から逃れた。
 機体を斜め一文字に溶かされたが、なんとか体勢を立て直して本星型を向き合う。
『意外とタフね』
「燕って、結構逞しい鳥なんですよ‥‥! まだ、落ちたりはしません!」
 つばめはそう啖呵を切り、螺旋弾頭ミサイルを放ったが、愛子に慣性制御で機体を横にスライドさせて避けられたどころか反撃のポジトロン砲がディスタンに撃ち込まれた。
「あぅ!」
 このまま攻撃を喰らい続けていては撃墜されかねないが、味方はまだ中型を倒しきっていない。
(「どうにかして時間を稼がないと‥‥」)
『あなたさっき‘また落とされに来た’とか言ってたはずよね。さぁ、早くあたしを撃ち落してみてよ』
 つばめが愛子から逃げ回りながら策を考えていると
「そうやって孤高を気取っていますが、あなた自身はいったい『何』のつもりなんですか? 自分が何者かなんて気にするのは人間くらいのものだと思いますけど」
 新居が愛子に通信を送って気を引いてくれた。
『‥‥』
 愛子は機体の向きを変え、新居のS−01Hをポジトロン砲で狙撃した。
 S−01Hの装甲が陽電子の対消滅で大きく抉れ、機体が爆発する。
「くぅ!」
 すぐに消火剤を噴射させて炎を消したが、機体は飛んでいるのが精一杯な状態になった。
『自問できるのが人間だけなどと考えること自体が人間の驕りなのよ。人間以上の知性体なんてこの宇宙には幾らでもいるわ。バグアはその筆頭。人間って本当に短絡で矮小‥‥』
 無線機から愛子の侮蔑と嫌悪のこもった声が響く。
 だが、
「驕っているのはバグアも同じであろう!」
 榊の雷電が愛子の本星型に迫り、AAMを発射。
『くっ!』
 愛子は咄嗟に回避運動に入ったが間に合わず、強化FFを発動させた。
 しかし2発目までは防げたがそこで強化FFは消失し、3発目の直撃で装甲が弾けた。
「人間を舐めるなっ!」
 榊が本星型と相対して吼える。
『エネルギーが‥‥なんて燃費の悪い機体なの‥‥』
 愛子は本星型の錬力の残量を見て眉をひそめた。
 そして後方のHW群に目を向ける。
 最後の中型HWも透夜のディアブロによって撃ち落され、残りは小型HWが6機。
 これだけの戦力があれば、たとえ錬力が残り少なくても敵を倒す事は可能だろう。
 しかし愛子に与えられた任務は爆撃機仕様の中型HWを使って基地を破壊する事で、それは既に不可能だ。
(「申し訳ありません、リリア様‥‥」)
 愛子は胸の内でリリアに謝罪すると本星型を方向転換させ、残りの小型HWを引き連れて離脱した。
 傭兵達も敢えて深追いは避けた。



「これでトリプルイーグル二人目とな。後一人にエンカウントしたらエミタ邂逅フラグですね、解ります」
 そう軽口を叩くシロウが今負っている傷はトリプルイーグルのアキラ・H・デスペアにやられたものなのだ。
「基地は大丈夫でしょうか‥間に合っていたなら良いのですが‥‥」
 小夜子が心配そうに空から基地の様子を伺う。
 基地は滑走路や倉庫などが半壊していたものの主要施設はほぼ無傷であった。
 これならばすぐに再建が可能だろう。
「ここに来たってことは、まだ本命はバレてないってことだな。盛大な囮だことで」
 透夜は今回の大規模作戦が本当に大々的な規模で行われている事を改めて実感したのだった。