●リプレイ本文
「通りがかった先でゴーレムとはついてないね。ま、戦車があるだけマシってもんか」
戦車兵に促されて60mm磁力砲を装備しているB車に乗り込んだ赤崎羽矢子(
gb2140)だが、まさかゴーレムと戦わされると思っていなかったので苦笑を浮かべて車長席についた。
「戦車で操縦して戦うのは初めてだけど、こうなったらやるしかないね」
アーク・ウイング(
gb4432)はまだ少し戸惑いながらも砲手席につき、磁力砲の具合を確かめる。
「まあ、SES接続すれば能力者の力で倍増されるし、判断としては妥当かしらね」
アンジェラ・ディック(
gb3967)が英国旧SAS・カナダ陸軍空挺部隊時代に培った経験を思い出しながら操縦席に座り、各部のチェックを始める。
「コールサイン『Dame Angel』、ご期待に応えて二体のゴーレムを倒すわよ」
そして何時ものコールサインを名乗り、戦闘準備を完了させた。
「ゴーレムと、しかも戦車で戦ってくれ、ですか? ふっ‥面白いじゃない。どんな難題だろうとやってみせるわ――戦車で実戦なんて初めてだけど」
智久 百合歌(
ga4980)は不敵な微笑みを浮かべ、140mmライフル砲を装備しているA車の砲手席についた。
「おお、これが噂のM1戦車‥‥KVが空陸両用の棺桶ならば、是は地べたの棺桶ですね!!」
無邪気な笑顔で縁起でもない事を言いつつ操縦席に芹架・セロリ(
ga8801)が滑り込む。
狭い戦車のシートも小柄なセロリなら十分に余裕があった。
「救援に来たはずなんだけど‥まさか戦車に乗ることになるとは思わなかったな」
車長席についた蒼河 拓人(
gb2873)は苦笑を浮かべると、上部ハッチから身を乗り出して周囲の状況を軍用双眼鏡で確認する。
前方からは岩に偽装していたロックゴーレムと樹木を模しているウッドゴーレムが地響きをたてながら迫ってきている。
どうやらウッドの方が足が速いらしく、傭兵達が戦車に乗り込んでいる間に距離は50を切ろうとしていた。
「さて、行こうかM−1戦車‥君の性能を見せて貰うよ! セロリちゃん、全速後退」
「了解です。いざや作戦開始ですね。ガンホーガンホーガンホー!!」
各戦車がディーゼルエンジンの甲高い駆動音を響かせながら一斉に後退を始める。
「うひゃあ! ムチャクチャ揺れますね。こりゃあ迂闊にしゃべってると舌噛みますデス。KVの乗り心地もイマイチでしたけど、戦車は史上最悪ですね!」
セロリがステアリングを操りながら揺れる車内でうまく舌を噛まずに喋り捲る。
「迫りくるゴーレム‥大迫力だね」
拓人が呟く。
車高の低い戦車に乗っているためかゴーレムが普段の何倍にも大きく見え、その迫力は満点だった。
「やっぱり、いつも乗っているKVとは勝手が違うね。でも、今戦えるのがあたし達しか居ないんだからがんばって撃退して見せないとね」
M1帯電子加速粒子砲を装備しているC車の香倶夜(
ga5126)も普段とは違う手ごたえと乗り心地に戸惑いながらも戦車を後退させてゆく。
「現在距離80。足はこちらの方が速いみたいね。KV以外でゴーレムと戦うなんて初めてよ。うふふっ、楽しみだわ」
車長席で鬼非鬼 ふー(
gb3760)が敵との距離を冷静に測りながら楽しげに笑う。
「どうやらこのM1帯電子加速粒子砲は自分達の錬力を使っても撃てる様です。威力は高そうですけど、本当に戦車でこんな高出力の粒子砲を撃って大丈夫なのか‥‥。ちょっと不安が残りますけど今はやるしかないでしょうね」
上下に激しく揺れる車内で苦労しながらマニュアルを読んでいた周防 誠(
ga7131)はやや不安気に眉をひそめた。
そして距離100まで引き離したところで全車停止させる。
「百合歌さん、大砲は?」
「OK、いつでもいけるわ」
「目標との距離、100m。ライフルの射程内でガトリングの射程外。撃っちゃいますか? あの日の様に」
あの日ってなに?
という疑問を3人で浮かべつつ
「よ〜し、目標ロックゴーレム。140mmライフル砲、発射!!」
「発射!」
拓人の合図で百合歌がロックゴーレムに照準を合わせ、トリガーを引く。
ドォン
と鼓膜を震わす轟音と共に車体までもが大きく揺れて、140mmのライフル弾がロックゴーレムに向かって飛び、腰部に命中した。
「足を狙ったのですけど、少しずれましたね」
百合歌が照準器をキリキリと動かして微調整を行う。
「次弾装填完了。次は当てますわ」
「よし、発射!」
「発射!」
再び車体を揺らして発射されたライフル弾は狙い通りロックゴーレムの足に命中し、バランスを崩させた。
「今度は命中しましたね。でもさすがになかなか硬いわね」
ロックゴーレムは体勢を崩しただけで転倒はせず、真っ直ぐこちらに向かってくる。
「とにかく皆でそれぞれの役割を果たす。自分達はロックゴーレムの足止めに勤めるよ。百合歌さん、次弾装填」
「はい。次弾装填します」
「発射後に全速で後退するよ。頼むねセロリちゃん。後ろに障害物があったら指示するから」
拓人がシグナルミラーを取り出して構えた。
「任せて下さい。ゲーセンでは車のゲーム、逆走しながら対向車全部避けましたから! チェストー!!」
「チェ‥‥発射」
頼もしいのかそうでないのか微妙なセロリの言葉に釣られそうになりながら百合歌が3発目を発射。
「全速後退。ヨ〜ソロー!」
その直後にセロリ急速後退をかけた。
「さぁ、ここにやつらの居場所なんてないって事、あたし達が思い知らせてあげようじゃない?」
羽矢子が不敵に笑い、前方のウッドゴーレムを見据える。
『粒子砲を使用するわ、援護をお願い』
M1帯電子加速粒子砲にエネルギーの充填を開始したC車のふーから無線がかかってくる。
「了解だ。でも、こっちで倒してしまっても構わないんでしょ」
『もちろんよ。仕留め損ねても粒子砲でトドメを刺したげるから安心して殺っててちょうだい』
「じゃ、遠慮なくやらせてもらうよ」
羽矢子はふーと軽口を叩き合って通信を終えた。
「エネルギー収束完了。磁場安定。磁力砲発射準備完了。何時でも撃てるよ」
「よ〜し、じゃあ小手調べに1発ぶちかましてみようか。磁力砲、てぇっ!」
「了解。磁力砲発射!」
羽矢子の合図でアークがトリガーを引く。
砲身の基部のコアで収束されたエネルギー弾が砲身内の磁界の反発力で加速され、ウッドゴーレムに向かって一直線に撃ち出された。
エネルギー弾がウッドゴーレムの表面で弾け、表面を覆っていた樹木を焼き、装甲を融解させる。
「続けて第二射。てぇっ!」
アークは羽矢子の指示に従って磁力砲を撃ち続けたが、ウッドゴーレムは攻撃を受けながら、どんどんと接近してくる。
「まだよ、十分に惹きつけて」
ふーは粒子砲にエネルギーをチャージしたままウッドゴーレムが射程距離に入るのをじっと待っていた。
「目標捕捉‥撃てますよ!」
「よし、Fire!!」
そして周防の覗く照準器がウッドゴーレムを射程内に捉えたところで発射合図を送る。
「発射!」
周防がトリガーを引いた直後、砲身内で加速され続けていた粒子が一気にウッドゴーレムに向かって照射された。
粒子砲はゴーレムの胸部に命中。身体を覆っていた樹木が燃え上がり、胸部装甲が融解したが、ウッドゴーレムは健在だ。
「まだダメか。第二射いける?」
「‥‥なんとかいけそうですね」
周防が錬力残量と砲身の内圧をチェックしながら答える。
「じゃあ第二射急いで! 発射準備が整うまで相対距離を保ったまま後退」
「はい!」
香倶夜がギアをバックに入れて、ウッドゴーレムとの距離を測りながら戦車を後退させる。
「こいつを連射するのは危なそうなんですけどね‥‥」
周防が砲身内の圧力に注意しながら錬力を注入し、慎重に粒子を加速させてゆく。
「‥‥エネルギー充填完了。撃てます」
「よし、停車」
香倶夜がブレーキを踏んで急停車させると、3人とも後ろにつんのめった。
「くっ‥‥目標捕捉!」
それでも周防は照準器に噛り付き、ウッドゴーレムを照準に捉える。
「Fire!!」
ふーの合図で再度粒子砲がウッドゴーレムに胸に照射し、粒子が胸を貫通して背中まで突き抜けた。
ウッドゴーレムはグラリと身体を傾かせ、前のめりに倒れ込む。
「やったか?」
しかし完全に倒れきる前に足を出して踏ん張ると、そのまま全速でB車に突っ込んできた。
「全速回避! 急いで!」
「はい!」
アンジェラは思いっきりアクセルを踏み込み、車体を跳ねさせながら全速で戦車を後退させたが、ウッドゴーレムから放たれたバルカン砲が戦車に降り注いでくる。
戦車の上面に撃ち下ろされた弾丸は易々と装甲を貫通し、車内で跳弾して3人の身体に喰い込んでいった。
「くっ!」
アンジェラはステアリングを思いっきりきってバルカンの射線上から逃れると、そのまま全速で後退を続け、アークが牽制攻撃を仕掛ける。
『3人とも無事!? 生きてる!?』
無線機から心配そうなふーの声が響く。
「ご心配なく、ちゃんと生きてるよ」
羽矢子が傷を押さえながら努めて明るく応えた。
「やっぱり装甲の薄い上面から狙われると辛いわね」
アンジェラがアクセルを踏み込んだまま自分の腿に喰い込んだ弾丸を除去して応急手当を施す。
アークも傷を負っていたが、手当てよりも先に磁力砲のリロードを行った。
「あちちっ! ‥‥ぅ、意外と重いね、コレ」
加熱したエネルギーパックとヒューズを交換し、コアを収束させてエネルギー弾の生成に入る。
「ふぅ‥‥リロード完了。これでも何時でも撃てるよ」
「敵との相対距離100。止めるわね」
アンジェラが磁力砲の最大射程で戦車を止める。
「よ〜し、反撃開始だ。倍返しにするよ! てぇっ!!」
「りょうか〜い! 磁力砲発射!」
アークは元気よく返事をして照準を合わせるとトリガーを引いた。
その頃C車は加熱したM1帯電子加速粒子砲の余熱の影響で車内の温度が急上昇しサウナの様になっていた。
「粒子砲はまだ撃てる?」
「あと1発ぐらいならなんとか‥‥」
周防が砲身を急速冷却させながら自分の目算を告げる。
「じゃあ代わって、今度は私が撃つわ」
二人は狭い車内でどうにか位置を入れ替わり、周防が車長、ふーが砲手になった。
「それじゃ、こっからは自分が指示をださせてもらいますよ」
周防は上部ハッチを開けて顔を出し、B車の交戦中のウッドゴーレムとの距離を測る。
「香倶夜さん、B車の右10の位置に移動させてください」
「ここかな?」
香倶夜が周防の指示通りの位置に戦車を移動させる。
隣りではB車がウッドゴーレムに向かって砲撃を続けていた。
「ふーさん。仰角を上げてください。‥‥はい、そこで止めて。後は自分の合図で撃ってください」
「わかったわ」
周防はじっとゴーレムの巨体を見据え続ける。
「香倶夜さん、車体をやや右後方へ‥‥止めて! ‥‥帯電粒子加速砲‥放て!」
「Fire!!」
ふーが周防の合図でトリガーを引く。
砲身から照射された粒子がウッドゴーレムの胸の傷穴に突き刺さり、そのまま首の下あたりを貫通して空へと抜けた。
「‥‥どう?」
ふーが照準器を覗いたまま慎重に様子を窺う。
ウッドゴーレムの首が横にグラリと傾ぎ、首に釣られる様に身体も横に傾ぎ、そのまま横倒しになって地響きと土煙を立て、動かなくなる。
「やった!」
香倶夜が満面の笑みを浮かべて歓声を上げる。
しかし、ウッドゴーレムが倒れた直後、ロックゴーレムがブーストでも使ったかのような急加速を駆け、C車に向かって接近してきた。
「緊急回避!!」
周防が慌てて指示を飛ばす。
「はい!」
香倶夜は咄嗟にギアをバックに入れ、アクセル目一杯まで踏み込む。
眼前ではロックゴーレムがハンマーの様な腕を大きく振りかぶっている。
「くっ!」
周防は素早く身を車体に押し込んで上部ハッチを塞ぐ。
「間に合って!!」
キャタピラが地面を抉るように猛回転し、車体が勢いよく後ろに下がると同時にロックゴーレムの拳が振り下ろされ、
ゴォン
と鈍い音を響かせ、寸前までC車がいた地面に打ち下ろされた。
「うわっ! 間一髪だよ‥‥」
香倶夜は眼前を通り過ぎたゴーレムの拳に肝を冷やしたが、アクセルは踏み続けて戦車を後退させる。
しかし、ロックゴーレムからバルカン砲が正射され、C車に車体に何発もの穴を穿ってゆく。
「キャア!」
「つぅ!」
車内の飛び込んだ弾丸が跳ね回り、3人の身体にも突き刺さっていった。
「くっ‥ダメージはどの程度ですか?」
「エンジンは無事です。まだ走れます」
周防の問いに香倶夜が戦車の状態を確認しながら答える。
「このぉ! 岩の塊のくせに生意気よ」
ふーは車外に飛び出し、大口径ガトリング砲に取り付いてロックゴーレムに撃ち放った。
『C車! それ以上は危険だよ。後は自分達に任せて退がって」
「いえ、自分達はこのままゴーレムを引き付けておきます。その間にA車とB車で倒してください」
拓人の無線に周防はそう応えた。
『‥了解だ。すぐに退治する。それまで頑張ってくれ』
『無理はしないでよ。危なくなったら逃げていいからね』
無線機から羽矢子と拓人の頼もしい声が返ってくる。
「という訳です、ふーさん、香倶夜さん。このままもうしばらく付き合ってもらえますか?」
「もちろんよ」
「任せてください」
申し訳なさそうに問いかける周防にふーと香倶夜は笑顔で答えてくれた。
C車は周防の指示の元、香倶夜のステアリングとふーの弾幕でロックゴーレムと絶妙な距離を保ちつつ引き付け、左右からA車とB車で砲撃を加え続けた。
「撃たせないよう壊せばいいのよ」
A車のライフル弾がゴーレムのバルカン砲に命中し、盛大な爆発を起こしてゴーレムをよろけさせた。
「よし、あそこに集中砲火だ」
その爆発を目印にしてアークも火線を集中させる。
「この一撃で穿つわ!」
そして最後は百合歌の放った一撃がロックゴーレムの胸部を完全に破壊した。
ロックゴーレムは地面に膝をつき、そのまま前にのめりに倒れて動かなくなる。
「終わった‥‥のかな?」
アークがまだ増援や伏兵がいないかと周囲を警戒するが、その様子はまったくなかった。
「任務完了のようね。よくやってくれたわ、皆さん」
ふーが無線機を手にしてみんなにねぎらいの言葉をかける。
その顔には疲労が色濃く出ていたが、表情は達成感に満ちていて穏やかだ。
「戦車対ゴーレム‥‥なんて洒落にならないわよ。こんなのは2度とゴメンだわ」
そう言うアンジェラも言葉とは裏腹に微笑を浮かべている。
「でも今後KVを使わずにゴーレム級と戦うこともあるかもしれないし、今回のことは今後の為になるのかもしれないね」
傷の痛みと疲労感を抱えている香倶夜もやっぱり笑顔だった。
「さぁ、帰ろうか」
それから9人は乗り心地の悪い戦車に閉口しながらも兵士達と合流し、ようやくラスト・ホープへの帰路につけたのであった。