●リプレイ本文
「まさか、キメラを食用として開発していたとは‥。しかもこの様にあからさまに発見できる状況とは。相変わらず連中の目的が分からない」
「見た処、普通のカニやエビと大差無い様だが‥FFが発生する以上、キメラである事に間違いは無いのだろう」
リヴァル・クロウ(
gb2337)と煉条トヲイ(
ga0236)が困惑顔で大量に水揚げされた食用の海産キメラを見る。
「まさか、食用キメラで攻めてくるは‥お、恐ろしい」
二人に同調しつつも、実は食用キメラの増加を願っているゲオルグ(
gb4165)。
「キメラ料理、ですか‥。ふふ‥珍しい食材を使えるなんて、滅多に無い機会ですもの、頑張りますね」
「捌くのはこの漁師の息子、ハリセン様にお任せあれ〜っ!」
エプロンを着けてレンタルしたアルティメット包丁を手にした石動 小夜子(
ga0121)がニッコリと笑い、右手に鬼包丁、左手にアルティメット包丁を構えた大槻 大慈(
gb2013)がやる気に満々な様子で張り切っている。
「兄上〜! お待たせなのであります」
大好きな兄である大慈に刷り込みされた小鴨よろしくついてきた美空(
gb1906)が手を振りながら駆けてきた。
美空は大きめのエプロンを着けているが、そこからは素手や素足が伸びている。
「なんだ美空、もう水着を着てきたのか。でも海で遊ぶのは料理をしてからだぞ」
大慈が微笑を浮かべて美空の頭を撫でる。
「これは違うのであります。これは以前兄上が期待されていた」
美空がクルリと後ろを向く。
「裸エプロンなのであります」
するとエプロンしか着けていない美空の背中やお尻が大慈に丸見えになった。
「ブーーーーー!!」
大慈が思いっきり吹いた。
「‥裸」
「エプロン‥‥」
「お前、妹になんて格好を‥‥」
「そんな趣味があったとは意外ですね」
「だ、大胆です‥‥」
「ち、違うっ!! これは美空が勘違いしてるだけで俺にそんな趣味はない!!」
「え? でも以前兄上は確かに‥」
「美空ぁーーー!!」
大慈は美空を小脇に抱え上げると近くの物陰まで猛ダッシュした。
「いつ俺が裸エプロンをしてくれなんて言ったよぉ〜〜? お前、いったい何処でどんな勘違いしたんだぁ?」
「う〜ん、おかしいのであります。美空は確かにそう‥」
「とにかく服か水着を着てきてくれ‥‥」
大慈がとっても疲れた顔で更衣室を指差した。
「あ、あはは‥。み、美空の勘違いにも困ったもんだよ」
皆の所に戻ってきた大慈は笑って誤魔化そうとしたが
「‥大丈夫。誰だって人には言えない趣味を一つや二つは持ってるから」
「いやっ! あれは俺の趣味と違うからっ!!」
南桐 由(
gb8174)に嫌な慰められ方をされたため、しばらく誤解は解けることがなかった。
「なぜか美空が料理すると、フードハザードとか言われるです。失礼しちゃうのですよ。でもここは空気を読んで喰専に回る美空はおっとなーなのでありますよ」
水着を着て戻ってきた美空はそう言って毒味役に回った。
「ただで‥海産物‥食い放題‥こんな‥美味しい‥仕事に‥我が‥参加‥しない事は‥ありえない」
海産キメラを見つめる九頭龍・聖華(
gb4305)は無表情だが声は期待に満ち満ちている様に聞こえる。
「一応つっこみますけど食い放題じゃないですよ。食べていいのは毒味用と料理用に貰った物だけですから」
「なに、水揚げされたモノを片っ端から食えば良いんじゃろ?」
しかし覚醒までして気合満々な聖華にゲオルグのつっこみは聞こえていない様だった。
「さて、海のモノは久しぶりじゃな‥‥マグロくんより旨ければいいのじゃがな」
聖華はまず毒味用の魚を包丁で刺し、そのまま齧り付いた。
「うむ、美味じゃ」
そうして次々と魚を平らげてゆく。
「む、次はタコか。こやつはまだ生きておるな」
聖華は鞘つきの蛍火で殴りつけて動きを止め、
「くくくっ、踊り食いじゃ」
そのまま足に噛りつく。
もちろんFFに阻まれるが、聖華の顎と歯は強引にFFを突破して足を食い千切った。
「おぉ、これもいけるぞ」
そしてそのままタコも1匹食いきる。
「ご、豪快なのであります」
ちゃんと包丁で身を選り分けて毒味をしていた美空はその光景を見て呆気にとられた。
一方、料理組は
「うりゃ〜っ! 俺の包丁捌きを見るがいい〜っ!!」
大慈が自前のアルティメットまな板の上で、カニのぶつ切り等の大雑把な作業は鬼包丁で行い、アルティメット包丁で細かな作業をして次々とカニやエビを捌いていた。
「カニやエビの場合、包丁よりもキッチンばさみの方が捌き易いんだが‥仕方が無いか。SES搭載のキッチンばさみ等、何処にも売っていないだろうし‥」
それらも将来でる可能性がないとも言い切れないのが恐ろしいところであるが、現状ではまだない。
仕方なくアルティメット包丁で捌こうとしたトヲイだが
「‥あ。アルティメット包丁で留めを刺してから、キッチンばさみで捌けば良いか」
すぐにその事に気づいた。
「さて、毒味をするか‥‥」
そして捌いたカニとエビの身を少し緊張しながら、とりあえず刺身で食べてみる。
「‥‥ん、うまい」
身はプリプリとしてて弾力があり、甘みもある。素材としては上質な部類に入るだろう。
(「しかしキメラだからな‥‥。後で腹にくるとも限らんが‥‥」)
その事は敢えて考えないようにしたトヲイだった。
そうしてカニとエビも捌き終わり、安全も確認されたところで調理開始。
小夜子は鍋を火にかけ、適当な小魚をぶつ切りにして大根と煮る。
「磯鍋、というのでしたっけ‥?」
大きめの魚を刺身にしたのだが、
「美味じゃ」
それはあっという間に聖華に食べられた。
次はカニの甲羅から身を取り出し、牛乳、小麦粉、バターを混ぜてカニの甲羅に詰め直し、それをオーブンヘ。
「数分焼けば、カニキメラグラタンの完成です」
トヲイはカニの足の太い部分を用意し、殻付きのままお湯に潜らせた。
そしてカニの足の殻を外し、身の回りの赤くなっている皮をむき、氷水に5分くらい泳がせる。
すると、十分に水を含むと花が咲いた様に身が広がり、見目も綺麗な『カニ刺し』が完成した。
「いい出来だ」
その出来栄えに満足した後は『冷たいエビと野菜のトマト和え』を作リ始める。
「鮮度も良い事だし、夏らしく、さっぱりと仕上げてみたが‥どうだろうか?」
「うむ、これも美味かったぞ」
少し試食させるつもりで聖華に与えたら、瞬く間に全部食べられてしまった。
「そ、そうか‥‥」
仕方ないので同じ物を作り直した。
大慈は事前にエビは適当な大きさに捌き、カニは甲羅から脚とはさみをばらし、蒸し器で蒸して下ごしらえをしておいた。
そのエビの身をほぐしてホワイトソース・塩コショウと合わせてオーブンで焼く。
「エビグラタン、一丁あがり」
続いて作るはカニチャーハン。
カニの脚の身をほぐし、ネギと一緒に軽く炒めたら一旦カニを避けておく。
「ほほぉ〜、いい匂いじゃな」
「美味しそうなのであります」
「後で食べさせてやるから、ちょっと待ってろ」
匂いに釣られてやって来た聖華と美空を待たせ、卵・ご飯をドワッと炒めてから、避けておいたカニを戻して塩コショウで味付け。
「よし完成〜♪ ほら食ってみろ」
美空には一口分。聖華には1人前与える。
「旨いかぁ?」
「うむ、とてつもなく美味じゃ!」
「やっぱり兄上の料理は最高なのであります!」
「そうだろそうだろ」
二人に褒められた大慈が満足気に笑う。
最後はヅケ丼。
適当な大きさにぶつ切りにした鮮魚を白身・赤身も構わず醤油とみりんの漬け汁に30分程つけ、丼に入れた酢飯の上に、漬けておいた魚を適当に散らして完成である。
リヴァルもカニチャーハンを作ったのだが、
「大慈が作った物の方が美味かったのぉ。もっと精進せい」
「くっ‥‥作り直す」
キッチリ平らげてた聖華にそう言われてしまったため、再びチャーハンを作り始めた。
「まだまだじゃな」
「一味足りんの」
「もう一回じゃ」
「くぅ‥‥」
それを聖華が平らげ、ダメだしされる度にリヴァルが黙々と作り直す作業が何度も繰り返された。
結局リヴァルは大慈のチャーハンを超える事はできなかったが、期せずして聖華をこの場に釘付けにし、他の料理を守るという役割は担う事ができたのだった。
「‥由、料理あんまり上手くないんだ」
そう言う由にゲオルグは少し料理を教える事にした。
「ではまず魚の捌き方から教えます」
「‥うん」
由は頷くとスラリと冴木玲の刀を抜いた。
「え〜と‥‥なぜ刀を?」
「‥冴木さんの刀の方が、よく切れそう‥」
「いや、確かによく切れるかもしれませんけど魚を捌くには不適切だと思いますよ」
「‥うん、分かってる。ただの冗談だったんだけど、うけなかったね、残念‥」
由はちょっと残念そうに言うと『抜刀・瞬』でアルティメット包丁に持ち替えた。
完全に能力の無駄使いである。
「えーと‥ここはこうやるのですよ」
「‥こう?」
由はゲオルグの手解きを受けながら魚を捌き、それを薄切りにしていった。
さすがに厚さはまちまちになったが、上出来な部類のものが出来上がる。
「次は握っていきましょう」
「‥うん」
それらを使って握り寿司を作ってゆく。
これも由が握った物は少し不恰好になったものの、ちゃんと寿司の形にはなった。
「‥できた」
「はい、上出来です。南桐さん筋がいいですよ」
「‥‥ありがと」
褒められた由が照れくさそうにする。
続いては海老フライと蟹フライ。
「エビは背ワタを取ってから4、5ヶ所ほど切れ目を入れてください」
「‥こうかな?」
「はい、そうすると揚げた時に真っ直ぐなエビフライになるんです」
「‥へぇ〜」
それから小麦粉、卵、パン粉をまぶして揚げてゆく。
「キツネ色になったら上げてください」
「‥うん。あ、ホントに真っ直ぐに揚がってる」
「では味見してみましょうか」
「‥うん。あ、美味しい」
「はい、上手にできてます」
「‥うん、なんか嬉しい」
由がはにかむ。
「じゃあ、最後にデザートを作りましょうか」
「‥うん」
こうして全ての料理が出来上がり、いよいよ食事タイムである。
「漁師の皆さんもどうぞ」
小夜子に御呼ばれした漁師もテーブルにつく。
「それではいただきます」
『いただきます』
そして食事が始まった。
「うまいな」
「あぁ、やはり鮮度が違う」
「いや、これは料理人の腕がいいんだよ」
「きっとその両方ですよ」
「暑い日に鍋もいいものですね」
「カニグラタンもエビグラタンも美味しいのであります」
「‥このエビフライ、由が作ったの、食べて」
「どれも本当に美味じゃのぉ〜〜」
参加した8人はもちろんの事、普段海の幸を食べ慣れている漁師達も満足そうな顔で食べている。
「いやぁ〜ご馳走さん。本当に美味かったよ。君達に来てもらえて本当に良かった」
「いえ、日頃漁師さんの取っている食材のお世話になっているのですもの。その恩返しが出来て嬉しかった、です‥」
小夜子が照れながら漁師達にお礼を言い、食事タイムは一人を残して終了した。
もちろんその一人とは聖華である。
「お〜い、ビーチバレーしようぜ!」
ビーチに来た大慈がさっそくビーチボールを持って皆に呼びかける。
「いいですね」
「美空はもちろんやるであります」
「‥由もする」
「では俺も参加しよう」
「では我も」
6人は3−3で分かれ、浜辺に線を引いただけのコートに入った。
「いくであります!」
美空が思いっきり助走をつけてジャンピングサーブを放つ。
「よし!」
「南桐さん」
それをリヴァルが受け、ゲオルグがトスを上げる。
「‥これで決める」
そこに由が走りこんでアタック。
「そこです!」
「兄上!」
しかし先読みしていた小夜子が受け、美空がトスを上げる。
「俺のアタックを受けてみろ〜♪」
そして大慈が力一杯アタックを打ち込んだ。
「くっ! しまった」
リヴァルはなんとか受けたがボールは後ろに反れる。
「‥落とさせない」
だが、由がボールを追って飛び、なんとかトスを上げる。
「リリカル〜‥‥アタック!」
そしてゲオルグのアタックが遂に相手コートに突き刺さった。
「よし!」
「‥やった!」
「くっそぉ〜、今度はこっちの番だ」
「いいぞ、来い!」
そうして意外と熱い勝負になったビーチバレーは6人がバテるまで続けられ、それからは皆でそれぞれに過ごした。
「何を読んでいるでありますか?」
「‥みてみる?」
木陰でBL本を読んでいた由は覗き込んできた美空に渡して見せた。
「こ、これは‥‥す、凄いのであります!」
その内容に衝撃を受けた美空は近くにいた小夜子にも見せにいった。
「こ、これって、どちらも男性ですよね」
小夜子が顔を真っ赤にして尋ねる。
「‥うん。こっちの子が受けで‥‥」
由は二人に詳しく解説し始めた。
「おぉ!」
「‥‥」
由が解説を深める度に美空は歓声を上げ、小夜子は顔を赤くした。
その頃、ビーチで日光浴をしていたトヲイは沖でうねる波間をサーフィンをするゲオルグを発見した。
トヲイは浜辺に上がってきたゲオルグに手を上げ、話しかけた。
「お前サーフィンなんてできたのか、意外だな」
「よければ煉条さんもどうですか。ここ結構いい波が来ますよ」
ゲオルグは防水段ボールをトヲイに渡した。
「‥‥まさかコレで波に乗ってたのか?」
「はい、いい感じに波を切れますよ」
「‥‥マジか?」
「もちろんです」
トヲイは完全に疑っていたが、やってみると本当に防水段ボールで波に乗れた。
「‥‥マジかよ?」
それでも信じられないトヲイだったが、実際に乗れてしまったのだから認識を改めざる得なかった。
やがて日が傾き、海が夕日で染まり始めた。
「クロウさんは、もしかしたらクラウドマンさんの手料理を食べられたかもしれないのに、残念でしたね」
「そう言う石動も新条と夕日が見れなくて残念なんじゃないのか」
「ふふっ‥実は少しだけ」
そう言って小夜子が微笑む。
「こうやって羽根を伸ばすのも、久方振りだったな‥いつまでも、こうしていたいが‥」
トヲイは夕日を見ながら明日からの戦いの日々に想いを馳せた。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
大慈が背中で幸せそうに眠っている美空を負ぶり直し、8人は帰路についた。
翌日、リサ・クラウドマン(gz0084)の元に聖華から『がんばって‥食べれ‥』とメモ付きのエビキメラの小包が届いた。
そして
「リサ姉ぇ〜。お土産〜♪」
「ま、まぁ、その、なんだ。大したものではないのだが良ければ食べて欲しい」
大慈とリヴァルは直接渡しに来た。
「うわぁ〜、皆さん本当にありがとうございます」
「これでメイドの件は忘れてくれよ?」
感激するリサに大慈はコッソリ耳打ちした。
それらの贈り物はクラウドマン家の夕飯として美味しくいただかれた。
さらに後日。
「どうぞ、お土産です」
「え! これって‥‥」
小夜子からはリヴァルの水着写真が手渡され、リサを喜ばせたのだった。