●リプレイ本文
ヒューストン解放戦線軍が多大な犠牲を払って切り開いたヒューストン市内の侵入口を12機のKVが疾走していた。
A班のベル(
ga0924)のシュテルン、霧島 亜夜(
ga3511)のウーフー、ヒューイ・焔(
ga8434)のハヤブサは街の西側の橋を
同じくA班の九条院つばめ(
ga6530)のディスタン、新居・やすかず(
ga1891)のS−01Hは中央の橋を
B班の月影・透夜(
ga1806)のディアブロ、赤崎羽矢子(
gb2140)のシュテルン、リヴァル・クロウ(
gb2337)のシュテルンはその隣の橋
C班の時任 絃也(
ga0983)のR−01改、飯島 修司(
ga7951)のディアブロ改、狐月 銀子(
gb2552)のフェニックス、依神 隼瀬(
gb2747)のロビンは東側の橋からぞれぞれ街に侵入した。
「市外、空港、そして今回の市街地‥‥解放作戦も佳境に差し掛かってきましたね」
つばめが感慨深げに呟く。
「Sealed Fate−逃れられぬ運命、か‥‥。ま、やれるところまでやってやるぜ。愛子には負けっぱなしだから、ここで頑張って、後に直接対決できる状況にしたいしな」
小野塚 愛子(gz0218)には2度も撃墜された亜夜がそう言って意気込んだ。
「あちらとしては街に罠は仕掛け放題です。KVに効果がありそうなのは、落とし穴とか爆破トラップや煙幕みたいな物でしょうか? 建物の側を通る際は、建物側に盾を構えて警戒するようにしましょう」
新居は仲間達に注意を喚起すると慎重に機体を進ませた。
新居とつばめが川を背にしたT字路に差し掛かったとき、道の奥から赤いゴーレムが疾走してくるのが見えた。
「向こうから攻めてきた!?」
「抑えます!」
敵は動かず防衛に徹するだろうと思っていた新居だがすぐに迎撃態勢に入り、つばめは機盾『レグルス』を正面に構えて突入を開始する。
赤ゴーレムの後ろにはライフルを持ったゴーレムが2機おり、更にその後ろには2機の小型陸戦型ワームがいた。
ワームは巨大な盾と大砲を装備しており、盾を地面に突き立て、その影から砲撃を始める。
ゴーレムも道の左右に建物に身を潜め、ライフルで狙撃してきた。
つばめは構わず『レグルス』で弾きながら赤ゴーレムに接近する。
新居はワームを狙ってシールドキャノンを放ったが盾に阻まれ、威力を減衰されてしまう。
「思ったより硬いですね」
赤ゴーレムは疾走してくるつばめのディスタンの動きにあわせて長剣を薙ぎ払った。
それを盾で受け止めたつばめだが、盾越しでも膝や肘等に多大な負荷がかかる程の衝撃を受ける。
そして続けて打ち込まれた斬撃がディスタンの装甲をも削り取ってゆく。
「えぇいっ!」
その攻撃を凌ぎきったつばめはヒートディフェンダーで反撃を試みる。
しかし赤ゴーレムは身を反らしながら長剣で弾き、大上段から長剣を振り下ろしてくる。
つばめを咄嗟に盾を頭上にかざして受け止めた。
「くぅ!」
全身に加重がかかって膝をつきそうになったが何とか堪え、ヒートディフェンダーで突いた。
だが、その攻撃も身をひねって避けられる。
「‥‥当たらない」
つばめは一旦距離をとり、相手を見据えた。
これがCWの影響下でなければ違っただろうが現状では赤ゴーレムと対抗できそうにない。
つばめは再び斬りかかってきた赤ゴーレムの長剣をヒートディフェンダーで受け止めて鍔迫り合いに持ち込むと、赤ゴーレムの肩越しに対空機関砲『ツングースカ』で後ろのワームを狙い撃つ。
こうしてつばめは赤ゴーレムの攻撃をいなしながら敵の数を減らす策に出た。
しかし不意に横合いからライフルの攻撃を受ける。
「きゃあ!」
見ると、道路を迂回してきた青ゴーレム部隊が横から接近してきていた。
「くっ! 挟み撃ちですか」
新居はすぐに青ゴーレムに向けて発砲したが避けられる。
「でぇぇいっ!」
だが、ヒューイのハヤブサが新居の横を駆け抜けてゆき、青ゴーレムにハンマーボールを投げつけた。
青ゴーレムはそれを避け、足を止めて迎撃体勢をとる。
「遅くなってわりぃ。あいつらの相手は俺達に任せろ!」
ヒューイに続いて亜夜も敵に突撃してゆく。
「‥新居さんは九条院さんの援護をお願いします‥」
最後にベルが合流し、スラスターライフルを構えて青ゴーレムの後方のワームを狙い撃ち始める。
「了解です」
新居は改めて正面に向き直り、ボロボロになった盾を持つワームを狙い撃って破壊した。
ヒューイは青ゴーレムが突いてきた槍をライト・ディフェンダーで受け流そうとたが槍の速度は想像以上に速く、ハヤブサは両肩を貫かれ、足を斬り払われた後に頭部を殴打されて吹っ飛んだ。
「くっ、はえぇ!」
青ゴーレムはハヤブサに追い討ちをかけに来たが、ヒューイはブーストを発動させて辛くもライト・ディフェンダーで受け止める。
「今度はこっちの番だ!」
そこから槍の間合いの内側に入りライト・ディフェンダーを薙ぎ払う。
青ゴーレムを身を引いて避けたが、ヒューイはバルカンを頭部に撃って目を眩ませ、ハンマーボールを叩き付けた。
「どうだ!」
衝撃で胴体をひしゃげさせた青ゴーレムだが、すぐに槍を構えて突いてくる。
ヒューイはライト・ディフェンダーでなんとか受けたが槍の一撃は重く、重要機関に当たらない様に軌道を反らすのが背一杯で、槍先は機体を切り裂き、装甲に穴を穿ってゆく。
「こりゃあ全力でいかないとヤバそうだな」
機体ダメージ9割近くになったヒューイはブーストに加えて翼面超伝導流体摩擦装置も発動させ、ハヤブサの機動を最大にまで引き上げて全速で突っ込んだ。
「行くぜ!」
青ゴーレムはその突進にあわせて槍を突き出してきたが、ヒューイはギリギリで避けて懐に飛び込み、ライト・ディフェンダーで袈裟斬りにする。
ライト・ディフェンダーを振り切って身を屈めたところで機体を旋回させ、ソードウィングで脚部を斬り裂く。
「喰らえぇぇ!!」
青ゴーレムが体勢を崩したところで脇を抜け、思いっきり遠心力をつけたハンマーボールを叩き込んだ。
その一撃で青ゴーレムの胸部は完全に潰れて吹っ飛び、ビルに埋没して動かなくなった。
2体のゴーレムを同時に相手している亜夜だが、ウーフーの電子戦能力を使って敵の位置を完全に把握し、常に自機とゴーレムの間にもう1体のゴーレムを入れて2対1ながらも1対1になる様に動いて戦っていた。
「おりゃあ!」
亜夜はビームコーティングアクスの長い間合いを使ってゴーレムを薙ぎ払った。
ゴーレムは銃で受け止めようとしたが、知覚兵器のビームコーティングアクスは銃ごと易々とゴーレムの腕を斬り飛ばした。
亜夜は手首を返すと今度は逆側から薙ぎ払う。
ゴーレムは胴体を切り裂かれつつも間合いを詰め、近距離から剣で突いてくる。
「甘い!」
しかし亜夜は機盾『シャーウッド』で受け止めていなし、手元に引き寄せて短く持ち直したビームコーティングアクスでゴーレムの首を跳ね、更に身体も斬り裂いてトドメを刺す。
「よし、あと1機!」
亜夜はゴーレムが撃ってくるスラスターライフルを盾で防ぎながら一気に間合いを詰め、2体目のゴーレムも易々と倒したのだった。
「俺を止めたければステアーでも持って来るんだな。アレ? でも負け犬がロスで壊されてたっけ?」
ワームを倒し終えた新居とベルは連携を組んで南側の2体のゴーレムと戦っていた。
新居が手足の関節を狙って作った隙でベルが接近し、ファランクス・アテナイの弾幕を牽制に使いつつ懐に飛び込んで機杭『エグツ・タルディ』を打ち込む。
しかし3本の杭を打ち込まれてもゴーレムを倒れず、反撃の刃がベルのシュテルンを切り裂いた。
「‥意外と頑丈ですね‥」
ベルは機体を後退させつつスラスターライフルを連射してトドメを刺したが、もう一体のゴーレムにライフル弾を撃ち込まれる。
「‥くっ‥」
「ベルさん!」
新居は機関砲で弾幕を張ってゴーレムを抑えると、その隙にベルは遮蔽物の影へ移動して身を伏せ、スラスターライフルで反撃を始めた。
そうしてベルがゴーレムに弾幕を張っている間に今度は新居がリニア砲の射程にまで接近し、シールドキャノンで両腕を撃ち抜いてガード不能にしてからガラ空きの胸部にリニア砲を叩き込んだ。
それでもゴーレムはまだ倒れなかったが、胸の大穴に更にキャノンを撃ち込むと、ようやく活動を停止した。
CWの影響で赤ゴーレムに対して防戦一方だったつばめだが先程その影響が消えたため、ようやく反撃の糸口を掴もうとしていた。
機関砲で牽制の弾幕を張って怯ませた隙に横に回りこんでスパークワイヤーを発射。うまく長剣を持つ腕に絡みつかせた。
「切り札は――最後まで、取っておくものですっ!」
そしてほぼ0距離から機関砲を撃ち込み、ひしゃげた装甲にヒートディフェンダーを突き立てる。
「これで終わりです!」
つばめはそのままヒートディフェンダーを斬り下げようとしたが、赤ゴーレムは左腕からレーザーソードを伸ばし、ディスタンの右腕をヒートディフェンダーごと斬り落とした。
「しまった!」
つばめはワイヤーを手放して距離をとろうとしたが、赤ゴーレムのレーザーソードがディスタンを斬り裂く方が先だった。
「倒れちゃダメswallow!!」
つばめは必死に操縦桿を操ったがその反応がひどく鈍い。
そして赤ゴーレムがレーザーソードをディスタンの胸部に深々と突き刺し、抉ると、そこから爆発が起こり、ディスタンは頭部と腕部を吹き飛ばしながら後ろに倒れた。
「九条院さん!!」
「つばめっ!!」
「この野郎っ!!」
赤ゴーレムは援護に駆けつけたヒューイのハンマーボールを受けて吹っ飛び、動かなくなる。
A班はすぐにつばめの救助に向かったが、つばめはコクピットの中で血まみれ傷だらけになって気絶していた。
A班が敵を引きついている間にB班は途中で羽矢子が地殻変化計測器を設置してからCWのいる野球場が見えるビルの間まで進行していた。
「ここからならブーストで突っ込めば一気にCWを狙えるな。前の戦闘で逃げたEQが何処かに潜んでいるはずだが、もし出てきたら対処を頼む」
透夜は羽矢子とリヴァルに確認をとるとブーストを発動し、最大加速でディアブロを野球場の入り口に突っ込ませた。
しかし中に入った瞬間、入り口に張ってあったワイヤーを切ってしまう。
その直後に周囲で爆発が起こり、野球場のエントランスが崩れ始めた。
「しまった! トラップか?」
透夜は逃げるか進むか判断に迷ったが、CWを発見したためスラスターライフルを向けて引き金を引いた。
放たれたライフル弾がCWを粉々に潰すと、頭に響いていた苦痛が和らぐ。
「よし!」
透夜はすぐに脱出しようとディアブロを反転させたが入り口は既に瓦礫で埋まっている。
「くっ!」
透夜はハイ・ディフェンダーを頭上に掲げて落ちてくる天井の衝撃に備えた。
野球場の入り口が轟音と共に倒壊する様は外の二人も驚かせた。
そして救援に駆けつけると突如倒壊した入り口からEQが飛び出してきた。
「EQ?」
「まさか月影は?」
IFF(敵味方識別装置)を確認すると透夜のディアブロの信号はEQの中から発信されていた。
「月影、今助ける!」
「さっさと吐き出せっ!」
リヴァルはスラスターライフルを乱射。
羽矢子は接近してハイ・ディフェンダーで斬りつける。
そうしてEQを倒すと口からは装甲をかなり削り取られたディアブロが出てきた。
「くそっ! まんまとワニキアの仕掛けた罠に引っかかっちまった!」
ディアブロは4割近いダメージを受けていたが、駆動系や火器管制に異常がないのは幸いだった。
「よし行くぞ。この借りは直接ワニキアに返してやる!」
少し時は遡り。
C班は高速道路を使ってMIとCWの破壊に向かっていた。
「CWが健在な間は知覚武器の威力が落ちるから、アリスシステム入れっぱなしでも構わないよね?」
依神が皆に確認をとってからロビンのアリスシステムを起動させる。
「すんなり高速で回り込めればいいが、何かしら仕掛けていると見るべきか‥‥」
「窮鼠猫を噛む、と言いますからね‥。まして、異星人連中です。何を仕掛けてくるか分かりませんし、警戒だけは怠らぬように参りましょうか」
時任と共に周囲を警戒していた修司は遥か前方で高速道路に飛び乗るワニキア・ワナギー(gz0155)のS−01BCを見咎めた。
「敵の鹵獲S−01です!」
修司はすぐにスナイパーライフルを構えて狙撃をしたが2機のCWの影響下にある上、距離もあるため避けられる。
そしてワニキアは修司にレールガンで反撃してきた。
修司はディアブロに防御体勢をとらせて後ろの仲間達の盾となった。
超々音速のレールガンの弾頭は高硬度の修司のディアブロの装甲でも防ぎきる事はできず、着弾の度に装甲が弾け飛び、コクピットが衝撃で激しく揺さぶられる。
「奴は私が抑えます。その隙にMIの元に向かってください!」
攻撃に耐えた修司は仲間にそう告げるとブーストを発動。ディアブロを加速させてS−01BCに迫る。
だが、ワニキアは修司に接近される前に手元のスイッチを入れた。
すると高速道路の支柱に仕掛けていた爆薬が連鎖的に爆発し、高速道路はバラバラに分解しながら倒壊を始めた。
「わっ! 崩れる!」
「このままだと倒壊に巻き込まれるわ! 跳んで!」
4人は咄嗟にバーニアを吹かして跳躍。一時人型のまま低空飛行する事で高速道路の倒壊から逃れた。
しかし
「その状態でこの攻撃がかわせるか?」
慣性制御で浮かび上がったワニキアは飛行中の修司に向かってレールガンを放った。
「っ!?」
空中ではろくに回避行動が取れない修司はバーニアを破壊されて落下し、地面の瓦礫に激突した。
更にワニキアはディアブロにレールガンで追い討ちをかける。
弾頭が装甲を砕き、胴体を喰い破り、頭部を貫き、腕部を引き裂き、ディアブロに深い傷を刻んでいった。
だがワニキアの攻撃はまだ終わらない。
「やれ」
ワニキアの命に応じて地中に伏せていたEQが瓦礫と共にディアブロを呑み込む。
甲高い切削音と共にディアブロが削り、抉られ、コクピットもシェイカーに掛けられたかの様に激しく振動する。
「おぉぉぉぉーーー!!」
その状態からでも修司はディアブロにロンゴミニアトを振るわせ、EQを内側から破壊していった。
そしてハイ・ディフェンダーでEQの腹を引き裂いて脱出を果たす。
ディアブロは頭部と片腕を失い、全身傷だらけの満身創痍な状態になっていたがまだ動く事はできた。
修司はすぐに索敵を行ってS−01BCの位置を割り出すとブーストとパニッシュメント・フォースを発動させ、最速の機動でS−01BCに肉薄する。
「接近してしまえばこちらのものです!」
そして必滅のロンゴミニアトをS−01BCに突き立てた。
だがS−01BCの眼前でFFを更に色濃くした様なバリヤーが展開された。
ロンゴミニアトはそのバリアーを貫いたが、修司に手元には予想以上の硬い手ごたえが返ってくる。
そしてステアーの装甲でさえ貫いた修司のロンゴミニアトはS−01BCの装甲に傷をつけるに止まった。
「なっ!?」
修司は続けてロンゴミニアトを振るったが、結果は同じだ。
「馬鹿な‥‥」
「次はこちらから行くぞ!」
ワニキアは機弓でディアブロの足を撃ち抜き、両腕に装備されたファングで胸部を引き裂き、そこにレールガンを押し付けて0距離から発射した。
衝撃波を伴って撃ち出された超々音速の弾頭は胸部を破砕して貫通、ディアブロの機能を完全に停止させた。
「その槍には1度痛い目をみているからな、真っ先に潰させてもらった。だが‥‥」
ワニキアはS−01BCの練力残量に目を向け、眉をひそめた。
一方、C班の残りの3人はMIを目指して進行を続けていた。
「此処からは止まってる時間は無い。一気に行くわよ」
銀子に急かされ高速で移動していた3人だったが、不意に時任の周囲の風景がロシアの極寒の大地に見えるようになった。
とうとうMIの影響圏内に入ったのだ。
「くそっ! 目が逝かれた。周りが雪景色に見えている。お前達はどうだ?」
「俺は今の所なんともないよ」
「あたしもたぶん大丈夫よ」
「そうか‥。なら、ナビを頼む」
「了解」
銀子と依神は時任のR−01改を左右から挟んで移動を開始した。
しかし大型展示場の真横のT字路まで来たところで遂にワニキアに追い付かれてしまった。
「くっ!」
銀子はワニキアが戦闘態勢をとる前にスモーク・ディスチャージャーで煙幕を炊いて自分達の姿を覆い隠し、ブーストとオーバーブースト、更にスタビライザーまで発動させた。
「ここはあたしが抑えるわ。二人はその間にMIとCWを倒してきて」
「待て一人じゃ無理だ!」
「悪いけど目の見えない時任さんがいても同じよ。それにどうせMIとCWを倒しておかないと勝ち目はないわ。さ、時間が惜しいわ。行って!」
「くっ‥すまない」
銀子は二人が煙幕に紛れて離れてゆくのを確認すると愛機のSilverFoxに双爪『ハート・オブ・ポウム』を構えさせる。
「‥吼えろSilverFox!!」
そして走輪走行でワニキアのS−01BCに突撃する。
ワニキアは機弓で迎撃してきたが銀子は双爪を身体の前で交差させてガードする。
だが放たれた3本の矢は双爪どころか腕まで貫通し、身体に突き立った。
しかし銀子はまったくスピードを落とさずS−01BCに接近。
武器を機槍グングニルに持ち替えて構えると、柄後部に付けられたブースターを点火。
機体のオーバーブーストにグングニルのブースターの加速力が上乗せさせる。
「ステアーをも貫いた必殺の一撃よ‥受けきれるかしら?」
銀子は自身の持てる最大最速の一撃をS−01BCに見舞った。
しかしS−01BCの眼前に例のバリヤーが展開され、グングニルの槍先を完全に受け止めてしまう。
「このっ!」
銀子はフェニックスのバーニアを全開にして押し切ろうとしたがビクともしない。
ワニキアは腕のファングでグングニルを横から弾き、SilverFoxの機体を前に流して体勢を崩すと、素早く側面に回りこむ。
そして腹部に深々とファングを抉り込み、そのまま体内を引き裂きながら胸部まで斬り裂いた。
「くそぉ! 似たような武器使ってぇ!」
銀子は腕を体内に埋め込まれた状態からS−01BCの顔面を狙って双爪を繰り出したが、ワニキアは腕を引き抜きながら身を引いて避ける。
腕を引き抜かれた胴体からは大量のオイルが噴き出し、それが機体が発したスパークで引火。
銀子のSilverFoxは炎に包まれた後、爆散したのだった。
その頃、時任と依神はMIのいる公園手前の十字路までやってきていた。
幸いここに来るまでの間に時任の目は回復し、今は普通に見えている。
「よし、ここからならMIを狙えるはずだ」
そう思って公園の様子を伺った依神だが、公園の周辺ではTWと黒いゴーレムがMIを取り囲んでガードする様に布陣を変えていた。
「くそっ! これじゃあMIが狙えない」
「依神、迷っている暇はない。TWを1体倒して射線を確保し、MIを狙うぞ」
「了解」
依神はマイクロブースターを発動させて命中率を上げ、高分子レーザー砲でTWを狙う。
「アリスシステムで知覚が下がってるのが悔やまれるけど‥‥」
それでも放たれたレーザーは易々とTWの装甲を貫き、体液が噴出する。
「この攻撃通るか。ガトリングナックル!」
続いて時任がガトリングナックルを放ち、飛来した30発もの拳型弾丸がTWを激しく殴打したが厚い装甲に阻まれたため倒すには到らなかった。
そして4体のTWは依神のロビンに狙いを定めると一斉にプロトン砲を発射してくる。
「うわぁ!!」
依神は建物の影に身を隠したがプロトン砲は建物を爆散させてどんどん削り、貫通した何発かがロビンにも命中してゆく。
さらに黒ゴーレムがポジトロン砲を依神に照準を合わせて撃ってくる。
陽電子の対消滅によって発生した膨大なエネルギーは建物を易々と貫通してロビンに直撃。
ロビンの装甲がたちまち融解してゆき、内部機構を剥き出しにされる。
そこに更に次弾が迫る。
「くぅっ!」
依神は咄嗟に身を捻り、左腕で胴体を庇ったが、左腕は完全に溶け落ちる。
そして続く第3弾が腰部に直撃、腰から下が融解。
伝達系が破損したため左足が動かなくなったロビンは地面を膝を付いた。
「まだだっ!」
依神は満身創痍のTWに高分子レーザーを連射。
TWはその攻撃で力尽きて動かなくなる。
そしてTWの巨体の影から僅かにMIの姿が視認できるようになった。
「今だ時任さん!」
「任せろ!」
時任は『アグレッシヴ・ファング』を発動させ、まるで針を通すような狭い射線に照準を合わせて残りのガトリングナックルを全て放った。
拳型弾丸に装甲を突き破られ何発もの大穴を穿たれたMIはそこで完全に沈黙した。
「よし!」
「やった!」
その光景に二人が喜色を浮かべた直後、黒ゴーレムの放ったポジトロン砲が依神のロビンの胸部を直撃。
内部機構が完全に融解してスパークを放ち、機体の動きが鈍くなる。
「くそぉ! 動けぇ!」
依神は機体各部のコントロールが次々と死んでゆくなか必死に操縦桿を操ったが、黒ゴーレムが放った次弾がロビンの息の根を完全に止めた。
「依神、お前の働き、無駄にはしない!」
時任はブーストを発動して潜んでいた建物の影から飛び出すと一気にCWの潜む大型展示用の入り口を目指した。
TWは時任を追って向きを変え始めたが、R−01改の機動の方が早い。
一度背中に黒ゴーレムのポジトロン砲を受けたが致命傷ではない。
「いける!」
時任がそう確信し、展示場前の公園に足を踏み入れた直後、いきなり地面が陥没した。
「うぉっ!?」
だが時任は咄嗟にバーニアを吹かし、ブーストジャンプでやり過ごすと一気に展示場に突っ込んだ。
入り口の扉を吹き飛ばしながら内部に侵入した時任はすぐにCWを発見する。
時任は『アグレッシヴ・ファング』を発動させ、大上段に振り上げたデモンズ・オブ・ラウンドを一気にCW目掛けて振り下ろした。
「はぁっ!」
左右に分断されたCWはゲル状の物体なって崩れ落ち、時任の頭痛が綺麗に晴れる。
「これで敵の支援機は全滅だな」
時任が安堵した直後、室内目掛けてプロトン砲が撃ちこまれて来た。
「奴ら自分達の格納庫でも構わず撃ってきやがる」
時任はスモーク・ディスチャージャーで煙幕を焚き、入り口脇に身を潜めて、そこからラスターマシンガンで応戦した。
煙幕と遮蔽物のお陰で敵の攻撃はほぼ避けられたが、ラスターマシンガンでは黒ゴーレムに軽傷しか与えられない。
「こちらC班時任、現在展示場内に篭城しながら敵と交戦中。狐月と依神もやられた。来援を請う」
プロトン砲の爆音が響くなか、時任はラスターマシンガンを撃ち放ちながら無線機に叫んだ。
そうしてMIとCWが倒される少し前。
ワニキアを倒すべく南下していたB班の透夜の視界が不意に自室に見えるようになった。
室内には恋人がおり、自分の作ったクッキーを美味しそうに食べている。
「くそっ! 戦闘中になんて光景見せるんだ‥‥」
「どうした月影、何が見えてる?」
「自室だ。どうやらMIの幻覚にやられたらしい。二人は大丈夫か?」
「あぁ」
「今の所はね」
「ではナビを頼む」
「了解だ」
そうして透夜が二人のナビに従って機体を進ませ、交差点を横断しようとした時。
「!」
不意に透夜が機体を捻り、横合いから放たれたレールガンを機体の重要機関以外の箇所で受けられたのは今までの戦闘で培った勘によるものだろう。
それでも透夜のディアブロは装甲を深く抉られ、後方に吹っ飛んだ。
「ワニキアだっ! 建物に隠れろ!」
リヴァルと羽矢子は透夜のディアブロを引き連れて建物の影に身を潜め、そこからワニキアの位置を探る。
「‥いた」
ワニキアのS−01BCは100m程先のT字路に潜み、武器をレールガンから機弓に持ち替えていた。
「俺が囮になる。目は見えないが奴の攻撃に耐えるぐらいは出来るだろうからな‥‥」
透夜が覚悟を決めたその時、不意に視界が元に戻った。
それは今ちょうど時任がMIを倒したためである。
「いや待った。目が治った作戦変更だ」
透夜は建物の影からスラスターライフルでS−01BCの潜む建物に狙いをつけて発射。
「罠を返すぞ。自分で受けてみろ」
破壊されたビルの破片がS−01BCと道路に降り注ぎ、周囲が粉塵に包まれる。
「お前はバグアに人口調整させると言っていたな。何様のつもりだ。人はそこまで愚かじゃない。お前の空論の犠牲はお前が償え!」
透夜はワニキアに通信を送ると道路脇の建物を擦るようにして粉塵で身を隠しながらブーストで突撃する。
「人が愚かでないという根拠がどこにある? 少なくとも自分の論理なら確実にこの大地を救う事ができるぞ」
ワニキアは建物の影から出て大きな瓦礫だけを避けると透夜のディアブロに向かって矢を射ってきた。
透夜はハイ・ディフェンダーで辛くも受け止めたが、それでも各部に多大な負荷がかかるほどの衝撃に見舞われる。
透夜は構わず一気に差を詰めると『アグレッシブ・フォース』でエネルギーが付与されたハイ・ディフェンダーで斬りかかった。
するとS−01BCの眼前にバリヤーが展開される。
ハイ・ディフェンダーはバリヤーを貫いたものの、やはり威力が激減された。
しかし粉塵の中から放たれたスラスターライフルがS−01BCに命中し、装甲を貫通する。
「なに?」
それは透夜がワニキアの気を惹いている隙に粉塵に身を隠してブーストで後ろに回りこんだリヴァルのシュテルンの攻撃だった。
「以前、岩龍を墜落した事例について話をしていた人間を覚えているか」
リヴァルはそう問うたがワニキアはその事を覚えておらず返事はない。
「名乗っておこう。リヴァル・クロウ、能力は君も知っての通り大した事のない唯の傭兵だ」
だがリヴァルは構わず名を名乗った。
「どうやらそのバリヤーは一方向にしか展開できないみたいだね」
続いてリヴァルと同じく後ろに回りこんでいた羽矢子のシュテルンがハイ・ディフェンダーで斬りかかる。
「くっ!」
ワニキアは咄嗟にファングで受け止めたが、羽矢子はその隙にスパークワイヤーを発射しS−01BCの腕に絡みつかせる。
「あんたは精霊を信仰してた筈だ。その精霊はバグアがこの星を救ってくれるとでも言ったのかい?」
「‥‥人間だった頃の自分は大地が汚されてもそれを止める術はなく、そこにバグアが現れた。そして自分はようやく大地を救う術を見出したのだっ!?」
ワニキアは羽矢子の問いには正確には答えず、ファングで攻撃を仕掛けてくる。
「インドでは報復に街をひとつ消し、世界中で野にキメラを放ち生態系を破壊する。そんなバグアが地球を真っ当に管理すると本気で信じてるの!?」
ファングがシュテルンの装甲を引き裂き内部機構まで抉ってゆくが、羽矢子はスパークワイヤーで巧みにS−01BCの体を崩し、ハイ・ディフェンダーで上手く受け止めながら致命傷だけは避ける。
「行くぞリヴァル!」
続いて透夜とリヴァルが同時にハイ・ディフェンダーでS−01BCに斬りかかる。
ワニキアはバリヤーは透夜のディアブロ側に展開し、リヴァルのハイ・ディフェンダーはファングで受け止めた。
しかし、リヴァルのハイ・ディフェンダーはファングごと腕を斬り落とし、返す刀が胸部装甲を切り裂く。
「こいつ、何時の間にこれ程の力を!?」
「一つだけ、君に教授しておこう。その傲慢に根差した力の本質を理解しない限り、君では大地を救う事など不可能だ」
「ちぃ!」
「させないよ!」
ワニキアはレールガンを構えようとしたが羽矢子がスパークワイヤーを引いてさせない。
「お前との因縁、ここで断つ!」
その隙に透夜は背面からハイ・ディフェンダーで×字に斬リ付け、その中心に機杭を打ち込む。
アグレッシブフォースが付与された機杭はバリヤーを突き破り、そのまま動力部をも貫いた。
「これでトドメだ!」
正面からはリヴァルがハイ・ディフェンダーでコクピットを斬り裂く。
そして二人が一旦距離をとるとS−01BCはガックリ膝を付き、動かなくなった。
「やったか?」
「‥あぁ、お前たちの勝ちだ」
紫電の走るコクピットの中でワニキアは静かに告げ、自身を見下ろす。
リヴァルのハイ・ディフェンダーはコクピットと共にワニキアの足も切り裂いたため、膝から下が無くなっている。
(「これでは逃げられんか‥‥。だがこいつの技術を人間にやる訳にはいかん‥‥」)
ワニキアは嘆息し、覚悟を決めた。
(「仕方ない、後の事は愛子に任せるか‥。少し不安はあるが、まぁ今の愛子なら何とかなるだろう‥‥」)
ワニキアは無線機に手を伸ばし、傭兵達に向けて回線を開いた。
「人間達よ。もしお前達が本当にバグアを退けるだけの力を持っているのなら、その力を破壊ではなく、この大地の再生と維持に使って欲しい。それが自分の変わらぬたった一つの願いだ」
ワニキアはそう言って自爆スイッチを入れた。
S−01BCは内部から爆散し、バラバラになったパーツが周囲に飛び散る。
もちろんコクピットも粉々に飛び散った。
「‥‥分かったよ」
羽矢子はもう聞く者のない返事を燃えるS−01BCに告げた。
その後、展示場前のTWは駆けつけたA班とB班に殲滅され、黒ゴーレムもリヴァルと時任によって倒される。
こうして市内のワームは全て掃討されたのだった。
バグアの司令部にいた愛子はワニキアのS−01BCのIFFが消えるのをレーダーで確認した。
「え? ワニの奴やられたの?」
愛子は呆れ顔で溜め息をついたが、ワニキアが死んだなどとは思っていない。
しかし愛子の傍らにいたワニキアの飼っている大型キメラのガルムは哀しそうな声で小さく鳴いた。
「ガルム? どうしたの?」
愛子にはその理由が分からず、不思議そうな顔でガルムを撫でた。
<つづく>