●リプレイ本文
傭兵達が現場に到着すると、敵の陸戦部隊は既に補給基地の1km手前まで接近していた。
「思っていた以上に接近されていますね。間に合ってよかったです」
愛機のウーフー『雲』のレーダーで敵の位置を見て取った佐倉・拓人(
ga9970)が安堵する。
「まさかいきなり実戦なんて思いませんでしたね。何もこのタイミングじゃなくても‥‥」
シラヌイに乗るリリィ・スノー(
gb2996)が苦笑を浮かべながら溜息をつく。
「そうですね。訓練のつもりが、いきなり実戦ですから‥‥。ですが、基地を守るためです。全力で参ります」
日ノ本・菊花(
gb8806)はシラヌイに機刀『陽光』と練機刀『月光』を抜いて構えさせる。
「ボクは新兵で、初めてだけど優しくしてくれるって聞いて、訓練は参加していて‥いきなり実戦なんて、ちょっと怖いな‥でも頑張らなきゃ‥!」
イビルアイズに乗る胡桃 楓(
gb8855)が恐怖を押し殺して自分に気合を入れる。
「少人数では初めてですからね、少なからず緊張してます」
大規模作戦を経験している蓮角(
ga9810)でもこの人数で、しかも半数がKV戦闘未経験者とあっては緊張を隠せない。
「俺もKVは大規模戦以外では乗ったことがないから不安がないわけではないけれど‥。現場に居合わせた以上、やるしかないな」
覚悟を固めた常 雲雁(
gb3000)がウーフーの操縦桿を握りなおす。
「そうですねっ。補給基地を守れるのは自分達しかいないのですから、KVに慣れていないなんて弱音を吐いている場合じゃないですねっ。KVに乗った自分の力とバグア機の力、この実戦で試させて貰うとしましょうかっ」
ナイチンゲールに乗る白蓮(
gb8102)が明るい声を上げる。
「前衛班は後衛班の射撃攻撃開始と共にブーストで突撃します」
「はい、前衛の皆さん、頼りにさせていただきます」
蓮角が作戦の最終確認を行い、今回の依頼が初陣の菊花も前衛に加わる。
「では後衛班、射撃の準備をお願いします」
「は、はい! 早く初体験を済ませて、一人前を目指します!」
雲雁の言葉に応えて、極度の緊張状態にあった楓が妙な事を口走ってしまう。
「‥‥ああっ! へ、変な意味じゃないですっ! ただ、その‥心構えを言っただけですからっ!」
楓はコクピットの中で顔を真っ赤にしながら慌てて弁解した。
女の子っぽい振る舞いが身に染み付き、支給された物だからとセーラー服を着ている楓だが、自身は早く一人前の男になりたいと願っているのだ。
「ふふっ、分かっていますよ。楓さん、援護射撃、お願いしますね」
佐倉が楓をやんわりと慰める。
「ところで何で陸地なのにタコを出してきたんでしょう‥‥って、どうでもいいですね。行きましょうっ」
そんな楓のお陰で皆の緊張感が少しほぐれ、リリィもそんな軽口を言った。
白蓮のナイチンゲールが膝立ちになり、スナイパーライフルRを構えて敵部隊の先頭を行くタコ型キメラに狙いを定める。
「こちら白蓮、これより敵との戦闘を開始しますっ」
そして操縦桿のトリガーを引いて発砲。
音速で発射されたライフル弾がタコに突き刺さり、表皮がたわんで穴が穿たれた。
着弾を確認した白蓮はすぐにリロードして薬莢を飛ばし、次弾を込める。
続いて楓が念の為にと試作型対バグアロックオンキャンセラーを起動させてからスナイパーライフルを構えてタコに狙いをつけた。
だが、残念な事にこの距離ではロックオンキャンセラーを発動させても遠すぎて効果がない。
「う、撃ちます!」
その事に気づく事なく楓は狙撃を開始。
ライフル弾が発射された反動の衝撃がコクピットに微かに伝わり、照準器越しに自分の放った弾丸がタコに当たる様が見えた。
「やった、当たりました!」
そうして後衛の二人が狙撃を開始した直後に前衛部隊がブーストを発動。
「往くわよ、不知火。これがわたくし達の初陣‥‥」
「鳥を駆る者、佐倉拓人! 参ります!」
6機のKVが猛スピードで敵部隊に迫る。
それで敵もこちらに気づき、ゴーレム、タコ、クモが前に出て迎撃体制をとり、ワームはその場からフォトン砲を発射。
放たれたフォトンは先頭を走る蓮角、雲雁の各ウーフーを直撃し、たちまち装甲が融解させたが、まだ戦闘に支障がある程ではない。
「当たりましたか‥でもダメージはそれ程でもない」
「この程度なら‥!」
自機のダメージを確認した二人は速度を落とす事なく前進を続ける。
そして距離150でリリィが足を止めてスラスターライフルを構えた。
「撃ちます! 射線を空けてください」
無線で前衛に注意を喚起してからタコに照準を合わせてトリガーを引く。
銃身から数十発ものライフル弾が断続的に発射され、振動でぶれそうになる銃を抑えながらタコに弾丸を叩き込み続ける。
タコの表皮が弾けて体液が吹き出し、足が数本弾け飛んだ。
しかしそれでもタコはまだウネウネと動いている。
「仕留め切れてない!?」
リリィは急いで弾倉を交換したが、その間にタコは口から墨を前衛部隊に吐き散らした。
蓮角は咄嗟に機盾『レグルス』で身を庇い、雲雁はヒートディフェンダーを翳して防いだが、佐倉のウーフーの頭部にはベッタリと墨が付着する。
「モニターが!!」
見えなくなった訳ではないが視界はほとんどない。
「あぁ! 間に合わなくてごめんなさい!」
リリィが佐倉に謝りながらリロードを終えたスラスターライフルで再びタコにライフル弾を浴びせかける。
着弾する度にタコの身体が弾け、徐々にボロボロの肉片と化して遂には動かなくなった。
だが佐倉には今度はゴーレムが襲い掛かってくる。
奇しくもゴーレムが振りかぶったのは佐倉のウーフーが持つウォーサイズに似た大きな鎌であった。
「くぅ!」
風を切って斬り払われた一撃目をほとんど勘だけで受け止めた佐倉だが、二撃目、三撃目がウーフーの装甲ごと内部機構も斬り裂いてゆく。
「佐倉さん!」
蓮角と雲雁はすぐに佐倉の救援に入ろうとしたが、クモ型キメラが吐き出したネットが機体に絡みつき、動きを止められた。
「くそっ!」
クモはネットに絡んだ2機に前足を振り上げたが、雲雁はネット隙間からガドリング砲を撃ってクモの牽制し、その間に蓮角がビームコーティングアクスでネットを切断して脱出する。
「このぉ!」
そしてビームコーティングアクスでクモの足を斬り払って体勢を崩し、更に大上段から振り下ろして頭部から胴体までを縦に真っ二つにした。
クモは体液を垂れ流しながらしばらくピクピクと震えていたが、やがて動かなくなる。
「余計な手間を‥‥。佐倉さん今いきます」
ヒートディフェンダーでネットを切断して脱出した雲雁は佐倉の援護に向かった。
一方ではイスル・イェーガー(
gb0925)がガトリング砲で足止めをしていたワームと菊花のシラヌイが相対していた。
菊花は超伝導アクチュエータVer.2を起動させて高分子レーザー砲を照射。光速の熱線がワームを貫く。
ワームの胴体に無数の穴が穿たれ小爆発を起こしたが、ワームは構わず菊花のシラヌイに接近し、格闘戦用のアームを伸ばして斬りかかって来る。
「遅い!」
菊花は右手に構えた機刀『陽光』でアームを受け止めると、そのまま受け流してワームの横に回り込む。
「破っ!」
そして左手の練機刀『月光』から白色に輝く導体のビームを伸ばして、ワームの胴体を薙ぎ払った。
月光のビームは易々とワームの装甲を切り裂き、胴体部を半分ほど抉ったのだがワームはフォトン砲で反撃してきた。
フォトンはシラヌイの胸部を直撃し、その衝撃がコクピットの菊花をも揺さぶる。
「くっ! あの傷でまだ動けるのですか」
幸いダメージは胸部装甲が融解しただけで済み、機動にはまったく支障はない。
菊花は再び超伝導アクチュエータを起動させ、ワームに挑みかかった。
ワームはフォトンを放ってきたが、菊花は身を反らしてギリギリ避ける。
続いてアームが振り下ろされてきたが、陽光を頭上で斬り払って潜り抜け、ワームの懐に飛び込んだ。
「これで終わりです!」
月光から伸びる白色の光剣をワームの胸に突き立て、そのまま一気に斬り上げる。
胸部から頭部までを真っ二つに斬り裂かれたワームは傷口から紫電を迸らさせながら倒れ、爆散した。
そしてもう一機のワームは前衛部隊をすり抜け、後衛部隊の方に接近してきていた。
「こ、こっちに来ましたよ!」
「ここから先は、通行止めだよっ」
楓と佐倉はすぐにスナイパーライフルで迎撃を開始したが、ワームは左右に機体を動かして巧みに避ける。
「もぅ! ハイマニューバまで使ってるのに何で当たらないのっ」
「仕方ありません。もっと接近しましょう」
二人はワームとの距離を詰めるため機体を前進させる。
そうして接近したため、ずっと楓が発動し続けていたロックオンキャンセラーがようやくワームに対して効果を表した。
その頃、後衛部隊の一番前にいたリリィはスラスターライフルを連射してワームの足を止めようとしていたが、ワームはガッチリと防御を固めて弾幕の中を突っ切ってくる。
やがてスラスターライフルの弾倉が空になって空転。
「接近戦はあまり得意じゃないんですけど‥ねっ!」
仕方なくリリィはシラヌイに機槍『ドミネイター』を構えさせて、ワームと対峙した。
対するワームは格闘戦用のアームを伸ばし、その先端に取り付けられたドリルで突いてくる。
リリィはドリルの動きに合わせてシナヌイを左右にヒラリヒラリと操り、時にはドミネイターでドリルを弾きながら攻撃を避ける。
そして攻撃を凌ぎきったリリィはドミネイターをワームの頭目掛けて突き出した。
「えぇぃ!」
ドミネイターはワームの顔面を貫き、そのまま頭部をもぎ取った。
しかし、ワームは頭を失ってもまだ健在で、再びドリルで突いてくる。
「緊急回避っ!」
リリィはドミネイターの柄に取り付けられているブースターを吹かし、機体を真横に移動させてドリルを避ける。
「今度は当てます!」
「逃げられない定めだから、せめて優しい夢を見せてあげるよっ」
そうしてリリィのシラヌイがワームの前から退いた直後、楓がG−M1マシンガンを、白蓮が20mm高性能バルカンを一斉に乱射。
断続的に発射された弾丸が命中するたびに度にワームの装甲が吹き飛び、内部機構が破壊され、アームがちぎれ、足がへし折れてゆく。
そして銃弾の嵐が止む頃にはワームは原型を留めぬ唯の鉄くずと化していた。
一方、佐倉はメインカメラの代わりにサブカメラやウーフーの電子装置を使ってゴーレムの位置の把握し、なんとか互角の戦闘を行っていた。
「ワシミミズクの鉤爪!」
ウーフーは『ワシミミズク』の事だと信じて疑わない佐倉はウォーサイズを鉤爪に見立ててゴーレムに振るう。
ウォーサイズはゴーレムの肩に突き立ち、そのまま貫通して胸部も斬り裂いた。
そこから手首を返して刃の角度を変えると一気に振り下ろし、大腿部も斬り裂く。
しかしゴーレムは自身の傷はまったく気にせず鎌を袈裟斬りに振り下ろしてくる。
佐倉はウォーサイズの刃を頭上に掲げて受け止めたが、ゴーレムの一撃は重くて鋭い。
「堪えて雲っ!」
佐倉は愛機に訴えたが、膝かかった負荷に耐え切れず少し体勢が崩れる。
ゴーレムはその隙を逃さす鎌を横凪ぎに振るってきた。
「くぅ!」
佐倉は咄嗟にウォーサイズの柄で受け止めたが、鎌の刃はウーフーに突き立つ。
だが、もし柄で受け止めていなければ胴体を真っ二つにされていたかもしれない。
こうしてギリギリで致命傷は避けているが機体のダメージは既に7割を超えている。
このまま1対1で戦っていれば、いずれ力で押し切られてしまうだろう。
その時、不意に無数のレーザーがゴーレムに突き刺さる。
それは救援に駆けつけてきた雲雁の高分子レーザー砲だ。
「佐倉さん、それ以上は機体が危険です。一旦下がってください」
続いて蓮角のウーフーがゴーレムにビームコーティングアクスで斬りかかり、佐倉に逃げる隙を作ってくれる。
「さぁ、今の内です」
「お二人ともすみません」
佐倉は二人の指示にしたがって後ろに退がると、そこからR−P1マシンガンを掃射して二人の援護を始めた。
ゴーレムはマシンガンの弾幕に晒されながらも鎌を蓮角のウーフーに振り下ろす。
蓮角はレグルスで受け止めると、ゴーレムの足を狙ってビームコーティングアクスを横凪ぎに振るう。
だが、ゴーレムは前に出て蓮角のウーフーに体当たりした。
そのためビームコーティングアクスはゴーレムの足を掠めるだけに留まり、切断するには到らない。
「くそっ!」
後ろに退がって体当たりの衝撃を逃がした蓮角のウーフーにゴーレムが鎌で追い討ちをかけてくる。
「させませんよ!」
だが雲雁はスパークワイヤーを放ってゴーレムの足に絡みつかせ、電撃を流してその動きを封じた。
そして赤熱化させたヒートディフェンダーの刀身をゴーレムの脇腹に突き立てる。
ヒートディフェンダーの超高熱が装甲を融解させ、刀身が易々とゴーレムの体内に埋め込まれてゆく。
「ふんっ!」
そして脇腹から背中までを斬り裂いてヒートディフェンダーを抜く。
そうして体内を深く抉られたゴーレムだが、まだ鎌を振り上げて戦おうとした。
「これでもまだ動けるのか!?」
「往生際が悪いぞ!」
蓮角はビームコーティングアクスを振るって鎌の柄を切断する。
「これで‥‥」
そして柄の一番下を握って大きく後ろに振りかぶると
「終わり!!」
遠心力も最大限に利用して大上段から勢いよく振り下ろし、肩から脇腹までを真っ二つの袈裟斬りにした。
二つ分かれたゴーレムの身体を別々に倒れ、その直後に爆発して粉々になったのだった。
敵部隊の殲滅を終えた一同は一旦、第13補給基地へとやってきた。
「ふぅ‥‥何とかなりましたね。どっちかというと精神的に疲れました」
「ホントですっ。流石に実戦は模擬戦よりも疲れますねっ」
機体から下りたリリィが苦笑いを浮かべ、白蓮も同意して苦笑した。
「ですが、模擬戦よりも今回の実戦の方が遥かに実力は付いたはずですよ」
「はい! ボクももっと実戦を経験して早く一人前の男になりたいですっ!」
蓮角の言葉を受けて楓が自分の抱負を述べたが、戦闘の緊張が解けて涙目になっている内はまだまだだろう。
「帰還したら‥‥皆でお茶を飲んで一息つきたいですね」
初の実戦で菊花の顔にも疲労が色濃く見えたが、その表情は晴れ晴れとしている。
「いいですね。帰ったらとびっきりのお茶を淹れますよ」
ゴーレムとの戦闘で怪我を負った佐倉だが、そう言って微笑んだ。
「では補給も済んだようですし帰還しましょうか。佐倉さんの淹れてくれるお茶も早く飲みたいですしね」
雲雁もそう言って微笑む。
そして一同は補給基地の兵士達に見送られながらラスト・ホープへの帰路についたのだった。