タイトル:秋の紅白対抗KV運動会マスター:真太郎

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 23 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/04 01:38

●オープニング本文


 ポン ポポン

 秋晴れの青い空に白い花火が打ち上げられ、軽快な音を立てる。
 花火はラスト・ホープ郊外にある演習場から打ち上げられており、その演習場内には白線で巨大な運動用のトラックが描かれていた。
 そしてトラックの周囲には何機ものKVがズラリと勢ぞろいしている。
 そう、今からこの演習場ではKVを使っての運動会が開かれようとしているのである。



「皆様おまたせいたしましたぁ〜!! 只今より『秋の紅白対抗KV運動会』を始めたいと思います。解説はわたくし、皆様のお耳の友、リサ・クラウドマンが務させていただきまーす♪」
 久しぶりにイベントの解説役ができて嬉しそうなリサ・クラウドマン(gz0084)の声が演習場に響く。
「それでは競技の説明をさせていただきます。
 まず第1種目は『棒引き』
 これはグラウンドに置かれた棒を掴み、自陣内に引っ張り込む競技です。
 より多くの棒を自陣内に引っ張り込めたチームが勝利となります。
 主にKVのパワーが勝負の決め手になる競技です」
 トラックの脇には10mの長さの棒が20本ほど並べられていた。
 棒の両端にはKVの手や、4つ足タイプのKVの牙でも掴み易いような工夫が施されている。

「第2種目は『障害物リレー』
 演習場内に引かれた白線で作られた一周1200mのトラックに配置された障害を乗り越えながらバトンを回して走る競技です。
 障害の種類は3つ。
 1つ目は最初の200mの直線で行われる敵の砲撃です。
 選手は正面から発射される敵の砲撃を避けつつ走ってください。
 もちろん装填されている弾は演習用の模擬弾ですが、当たれば足が鈍るのは間違いありません。
 2つ目の障害はカーブを曲がって100m進んだ地点にある壁です。
 この文字通りの壁を破壊してから先に進んでください。
 3つ目の障害は、最初の壁から200m先に用意された2枚目の壁です。
 実はこの壁は知覚攻撃でないと崩せない特注品です。
 これらの障害を乗り越えてようやく次の走者にバトンを渡す事ができます。
 そして最終的に先にアンカーがゴールしたチームが勝利します』

「第3種目は『騎馬戦』
 これは4機のKVで1騎の騎馬を組んで戦っていただきます。
 そして両者でぶつかり合って騎馬を崩し合い、敵の騎馬を全て倒した側が勝利します。
 なお、この騎馬戦に関しては整備班から『壊れるから止めろ!』『直す俺達の苦労も考えろ!』『余計な仕事を増やすな!』等の抗議文やメール、FAXなどが山の様に寄せられたのですが、大会実行委員はそれらを今回も完全に無視しました。相変わらず大会実行委員のイベントに対する情熱は計り知れませんね」
 リサは苦笑を浮かべて隣に座る大会実行委員長をチラリと見た。
 しかし、普段からほとんど表情を変える事のない大会実行委員長の横顔からは何も窺い知る事はできなかった。

「さて、競技に関する説明は以上ですが、その他の注意事項を今から読み上げさせていただきます。
 今大会中は安全のため全てのKVの出力を3分の1にさせていただきます。
 各機に搭載されている特殊能力やブーストの使用は禁止です。
 各自で所有する武装やアクセサリーの使用も禁止です。
 障害物リレーで使用する武器も、こちらで用意した物のみを使用していただきます。
 最後に、見事勝利したチームのメンバーには全員に賞金4万Cが進呈されます。
 それでは両チーム共、勝利を目指してがんばってください」

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / 空間 明衣(ga0220) / 鳴神 伊織(ga0421) / 新条 拓那(ga1294) / 月影・透夜(ga1806) / 新居・やすかず(ga1891) / 伊藤 毅(ga2610) / 漸 王零(ga2930) / セージ(ga3997) / 金城 エンタ(ga4154) / UNKNOWN(ga4276) / クラーク・エアハルト(ga4961) / アルヴァイム(ga5051) / 鐘依 透(ga6282) / カルマ・シュタット(ga6302) / 九条院つばめ(ga6530) / 百地・悠季(ga8270) / 最上 憐 (gb0002) / リヴァル・クロウ(gb2337) / 依神 隼瀬(gb2747) / 最上 空(gb3976) / 冴城 アスカ(gb4188) / ウラキ(gb4922

●リプレイ本文

 大会が始まる少し前、格納庫には自分のKVに趣向をこらす者達が集まっていた。
 石動 小夜子は組が分かるように頭部を白く塗り
 新条 拓那は頭と腕に白いタスキを巻きつけ、KVサイズの白旗も用意し
 月影・透夜は赤鉢巻を巻いて靡かせ
 クラーク・エアハルトは左右の肩を紅色に染め
 冴城 アスカは自分が着ている学ランと鉢巻をシュテルンにも着せ
 新居・やずかずは愛猫、シャルトリューのミルダの姿を前後にでかでかと描いて貰っていた。
「一度やってみたかったんですよね」
 傍目には完全にイタKVになっていたが、新居は満足そうである。



●開会式

 競技場の左右に20機のKVが並び、アルヴァイムが斉天大聖のカメラを使って撮影が行われる中、大会実行委員長が壇上に上がって訓示を述べ始めた。
 しかしこういうモノは大抵誰も聞いておらず、参加者も周りの者と談笑している。

「まさかKVにこんな使い方が出来るとはねぇ。改めて脱帽」
「私は拓那さんと一緒に白、です‥。ふふ‥一緒に頑張りましょうね」
「うん、一緒に頑張ろ。そして出来れば優勝もしたいよね」
 新条と小夜子がニッコリと微笑み合う。

「KVで運動会って壮観だなぁ」 
「‥‥さすがの迫力というか、競技中に頭や腕の1本くらい外れそうだ」
 空間 明衣と透夜は両軍並び立つKVを遠めに眺めながら感嘆の声を上げた。

「KVを使った運動会‥ですか。こういう事で使う機会もそうそう無いですし、良い経験になりそうですね」
 鳴神 伊織が微かに笑みを浮かべる。

「この角度かな。いや、こっちの方がいいかも‥‥」
 新居はミルダのペイントがカメラによく映って目立よう位置や角度をしきりに気にしていた。

「他のKVを使ったイベントには出てるけど、運動会は初めてですよ。やるからには優勝したいですね」
「あぁ、目指すは優勝のみ」
「そして優勝賞金は名古屋復興の為の募金に全額投資! だよな」
 クラークと漸 王零とセージは全く復興が進んでいるとの話が聞こえてこない名古屋の為に賞金は全額募金しようと考えていた。

「ここのところ俺が居る組は結構連勝しているし、この『ウシンディ』で今回も勝たせてもらいますか」
 カルマ・シュタットは『勝利』を意味する名を持つ愛機を撫でた。

「紅白戦もついにKVが使われるようになったんですね。だんだん壮大になっていくなぁ‥‥。思えば、自分のKVをこんなレクリエーションに使うのは初めての体験です。『swallow』には、いつも激しい戦いばかりさせていますから‥‥たまには、こういうのもいいよね?」
「うん、戦争以外でKVが使われるって、良いな‥‥」
 九条院つばめがそう言うと、隣にいる鐘依 透が同調してくれた。
「‥‥ふふ。今まで何回も紅白戦には参加してきましたけど‥‥今回は、今までで一番わくわくしているかもしれません」
 つばめが本当に嬉しそうな顔で透に笑いかける。
「‥‥うん、楽しもう。楽しみながら、勝つ勢いで!」
 透もつばめに笑いかけるとグッと握り拳を作った。

「どこぞの運営委員長も思いっきりな事をしたものね。まあ、こういうのも偶には良いわよね。それにしてもうちの旦那がカメラマンだなんて、相変わらず妙な事考えるわよね‥‥」
 カンパネラ学園ジャージを着た百地・悠季が苦笑を浮かべる。

「空は部屋で優雅に、ゴロゴロぬくぬくとして居たい所だったのですが‥‥」
「‥‥ん。勝利の。ラーメン。胃におさめるため」
 最上 空は妹の最上 憐が部屋にばかり居ると頭にキノコが生えるからと、強引に引きずられてここに着ていた。

 そうして雑談を交わしている間に大会実行委員長の話も終わり、いよいよ秋の紅白対抗KV運動会が開催された。



●棒引き

 【運動会委員】の腕章を嵌めたエンタのディアブロが競技場に7本の棒を並べてゆく。
「リサさん、準備OKです」
 そして棒を設置し終えたエンタが無線でリサに知らせる。
「はい。では只今より第一種目の『棒引き』を始めます。それでは、よーい」

 パーン

 リサの合図で審判がピストルを鳴らすと同時に14体のKVが一斉に棒目掛けて駆け出した。

 
 Fの棒には透夜と新条が向かっていた。
「相手は拓那か、よろしく頼む。全力で行かせてもらうぞ」
「こっちこそ、手加減はしないよ透夜くん!」
 2機は同時に棒に取り付き

 ズザザザーーー

 透夜のディアブロの圧倒的なパワーに負けた新条のシュテルンがあっと言う間に前のめりになって引きずられた。
「んぐぐ、この、棒は‥‥っ俺たちの、モンだって、ばっ!」
 新条はなんとかシュテルンを膝立ちにさせて踏ん張ろうとしたが、そこで透夜は棒をくるりと捻った。
 すると新条のシュテルンも回転し、今度は仰向けになって引きずられる事になる。
「あいたたたっ!!」
 コクピットに激しく上下し、その衝撃で新条は棒から手を離してしまった。
「よし、1本目だ」
「派手にすっぽ抜けたな、カッコ悪‥‥」
 透夜が奪取した棒を掲げ、新条は土埃まみれになった愛機を見て苦笑を浮かべた。


 Bの棒にはウラキとリヴァル・クロウが取り付いた。
「ウラキ、君が相手か」
「クロウか。相手がどうあれ‥僕は本気でやる」
「では俺も本気でいこう」
 ウラキはニヤリと笑い、リヴァルも応じる。
 そしてウラキはゼカリアの砲身を棒のデコイにしようと伸ばした。
 しかしリヴァルはそれがデコイだとすら気づかず普通に棒を掴んだ。
(「‥‥うん。まぁ、期待はしていなかったけれど」)
 ウラキはちょっと傷つきながら自分も棒を掴んで一気に引く。
「‥全力でやらせてもらうよ」
 しかし棒はまったく動かない。
 純粋にリヴァルのシュテルンのパワーがウラキのゼカリアを上回っているのだ。
 そしてウラキはずるずるとリヴァルに引っ張られた。
「行けるか。このまま一気に引きずり込む!」
「ふふ‥嫌いじゃないな、こういうのは‥‥まだやれるだろう、ライノ‥‥無限軌道の真髄‥‥今それを見せる!」
 しかしウラキも負けてはいない。
 ゼカリアの出力を全開にし、キャタピラを高速で逆回転させた。
 キャタピラが地面を深く抉り、猛烈な勢いで粉塵を吹き上げる。
「くぅ!」
 だがリヴァルは姿勢を低くして重心を下げ、1歩1歩確実に引いてゆく。
 すると、無限軌道の逆回転に逆らって超重量のゼカリアがジリジリと白組側に引きずられていった。
「やるなクロウ‥‥。だが棒は離さないぞ‥‥」
 そうして最後まで抵抗を続けたウラキだったが、結局棒はリヴァルに奪われてしまった。


 Dの棒にはクラークと伊織が駆け寄っていた。
「おや、自分の相手は伊織さんですか。お手柔らかにお願いしますね」
「こちらこそ、お相手よろしく願います」
 先に棒を掴んだクラークは一気に2mほど自陣に引き入れた。
 しかし伊織もすぐに掴むと足を踏ん張って足元を安定させ、引き手の勢いを殺して止めた。
 そして摺り足で少しずつ自陣内へと引き戻してゆく。 
「くっ‥」
 クラークは機体の重心を落とし、ガッシリと大地を踏みしめて引き返そうとするのだが、伊織のシュテルンは地面に根でも生えているかの様にビクともしない。
 それどころかこちらが余計な力を込めた途端に力を抜かれて体勢を崩され、棒を引かれてしまう始末だ。
「やはり手強い‥‥」
 結局クラークはそのままジリジリと引きずられ、棒は伊織に奪われてしまった。


 Eの棒にはつばめと新居が走り寄る。
「このディスタンは‥つばめさんですね」
「私の相手は新居さんですか。よろしくお願いします」
 2人はほぼ同時に棒を掴み、一気に引いた。
 すると両者のパワーほほぼ拮抗していたため、棒はどちらにも動かなかった。
「くっ!」
「これは‥‥」
 そのため勝敗の行方は主に相手の技の読み合いとなった。
 相手の呼吸を読み、力の配分を測り、フェイントを見抜く。
 技の多様さではつばめが上だったが、相手の動きを読む力は新居が優っていたため、棒はジリジリと白組陣地に引きずられて行った。
「堪えてswallow!!」
 つばめは最後まで踏ん張って耐えたが、結局は棒を新居が奪取した。


 Aの棒は王零と憐がほぼ同時に掴んだ。
「ふんっ!」
「‥‥ん!」
 王零は最初から思いっきり力を込め、一気に5m引いたが、そこで憐が踏ん張って止めた。
「‥‥ん。今日こそ。勝利の。ラーメンを。味わう」
 今日の憐は過去、全て白組に参加して全敗した汚名を返上し、勝利のラーメンを胃におさめる為に燃えていた。
 憐はナイチンゲールのパワーを全開にして引っ張り、一気に6m引き戻す。
「ほぅ‥この『闇天雷』と力で拮抗するとは、やるな!」
 王零は素直に憐のナイチンゲールのパワーに感心し、憐の動きに合せて緩急をつけ、揺さぶりをかけようとした。
 しかし憐の方は特に何も考えず、力の限り真っ向勝負で引きまくった。
 それが逆に功を奏したのか、憐はジリジリと棒を自陣に引っ張り込んでゆく。
「くっ! なんだこの力は!? この力の源は一体どこから来ている?」
 まさかその源が食欲とラーメンだとは王零も思うまい。
 王零もこの高出力でここまで小細工なしで引かれては自分もただ引き返すしか手はなく、勝敗は単なる力比べになった。
 王零は何度か引き返したものの、最後までまったく力を緩める事なく引き続けた憐が棒を奪取した。
「まさか我の闇天雷が力比べで負けるとはな‥‥」
「‥‥ん。1本。ゲット」
 王零が苦笑を浮かべ、憐が満足気に棒を抱えた。


 Gの棒は透と悠季が同時に掴んだ。
「握って、構えて‥‥Lets Go!」
 悠季はまずは腰をどっしりと落としつつ、透の様子を見る。
 透は右手と左手を間隔空けずにくっつけ握り、脇で棒を確り挟み、空を見るよう体軸を後ろに傾け、機体の全体重をかけて引いた。
 機体を通して悠季の手にも透のパワーが伝わり、グググッと機体が引きずられた。
「ん‥なかなかの力ね」
 しかし悠季は伝わってくる相手起動音に合わせてこちらもフルパワーで引き返す。
 更に駆動車輪にて横へ振れて揺さぶりもかける。
 そして透からの反応と息を合わせて棒そのものを回転させ、一気に後方へ引いた。
「あ!」
 虚を突かれた透は数メートル引っ張られたが、すぐに足を踏ん張りなおして拮抗状態にもってゆく。
「くっ‥棒は絶対‥放しません‥‥」
「う〜ん、これで放してくれれば楽だったんだけど‥‥」
 悠季は今度は機体を低く構え、棒を自身の機体に覆い被さる様にして片方の先端を抱きかかえて一気に起き上がった。
 すると梃子の原理で透の手から棒を引き抜かれる感じで力が伝わる。
「わっ!」
 透は棒は放さなかったが急に力の加減が変わったために大きく体勢を崩された。
「今ね」
 その隙を逃さず悠季は一気に棒を引き、そのまま自陣内まで引き入れたのだった。


 Cの棒には明衣と小夜子が取り付き、一進一退の攻防を続けていた。
 二人の力は完全に拮抗しており、勝敗の行方は如何に相手の力加減やフェイントを見抜き、体勢を崩すかにかかっていた。
 最初は小夜子が有利に運び、ジリジリと11mまで引き込んだのだが、そこで明衣が小夜子の一瞬の隙をつき、ジリジリと0mまで引き戻した。
 そこで二人はしばらく一進一退を繰り返していたが、やがてまた小夜子がズルズルと引き込み始めた。
 しかし9mラインでまた明衣が引き戻す。
 だが今度はすぐに小夜子の体勢を立て直し、そこから一気に15mラインまで引いた。
 そこで明衣がまた力を一時盛り返して9mまで戻したが、小夜子はそこからジリジリと18mまで引き込んでいった。
 しかし、そこで明衣が力を振り絞り、拮抗状態を作り出す。
 だがそれが明衣の最後の抵抗だった。
 小夜子は明衣の一瞬の隙を突いて棒を捻り、そのまま一気に自陣まで引き込んだ。
「ふぅ〜流石は石動殿‥‥強いな」
「いえ、空間さんこそお見事でした」
 二人は互いの健闘を称え合って微笑んだ。


 こうして『棒引き』は紅組が1本、白組が6本奪取し、白組の勝利で幕を閉じた。



●インターミッション

 エンタが使い終わった棒を片付け、荒れたグラウンドをヴァイナーシャベルで均している間、客席に向かってあるパフォーマンスが行われていた。
 それは、薄く化粧を施して髭を隠し、顔は上半分をサンバイザーで隠してチア服を着てスパッツを履いたアルヴァイムと、
 何故かメイド服を着ている最上 空と
 紅白大会公式マスコットキャラである三毛猫の着ぐるみ『紅白くん』の3人によるチアリーディングだ。
 3人が登場した際は、あまりにも異質な取り合わせに観客は引き気味だったが、3人が手に持ったポンポンをふりふり、息の合った動きでアクロバティックな動きまで見せると、次第に観客を魅了してゆき、最後には歓声と拍手でもって見送られたのだった。
 ただし
「あの人はいったい何をやってるんだか‥‥」
 アルヴァイムの変装を見抜いた悠季だけは苦い顔をしていた。



●障害物リレー

「鐘依さーん、頑張ってくださーい」
「頑張れ憐ちゃ〜ん」
「はい‥全力で走り切ります」
「‥‥ん。走ってくる。全力で走って。全力で。避けて。全力で。壊して来る」
 仲間達の声援を受け、紅組の透のミカガミと白組の憐のナイチンゲールがスタートラインに並ぶ。
 1周1200mのトラック。
 最初の直線の先では紅組は透夜のディアブロ、王零の雷電、ウラキのゼカリアが。
 白組は新居のS−01H、カルマのシュテルン、リヴァルのシュテルンが武器を構えて選手が来るのを待ち構えていた。
「それでは只今より第二種目の『障害物リレー』を始めます。選手の皆さん準備は良いですか?」
 リサが選手達の様子を伺い、審判に合図を送る。
「それでは、よーい」

 パーン

 と審判がピストルを鳴らすと同時に透と憐が猛ダッシュをかける。
「来るぞ!」
「砲撃開始!」
 その直後から砲撃役の6機が相手の選手に向けて攻撃を開始。模擬弾が音速を超えて飛来する。
「‥‥ん。避ける」
 ただガムシャラに真っ直ぐ走る憐は飛来する弾丸をほぼ反射神経だけでするすると避けてゆく。
「‥おっと! よし‥いける」
 透は機体を左右に振り、狙いを定めさせない様にしながら辛くも避けて走る。
 しかし13m地点で遂にリヴァルの放った1発が命中。若干足が鈍った。
「しまった!」
「今だ、集中砲火!」
 それを機に火線を透に集中させる。
「くっ‥まだまだ!」
 透は更に3発の弾丸を受け、機体をよろめかせながらも直線を走りきりカーブに差し掛かった。
 一方、憐は王零に1発当てられただけで直線を抜けていた。
 この時点で憐が10m先行。
 だが、カーブ途中で透に追いつかれ、カーブを抜けた所で追い抜かれる。
 しかし第二障害の壁で再び両者は並び、ほぼ同時に壁に攻撃を仕掛けた。
「‥‥ん。壊す」
 憐の一撃で壁全体にヒビが入り、二撃目で穴が開き、三撃目で砕け散った。
「えっ! は、早い‥‥」
 透の方は4発殴ってもまだ半分くらいしか壊せていない。
「‥‥ん。お先」
 憐はそんな透を尻目にさっさと先に行ってしまう。
「い、急がないと‥‥」
 透が慌てて壁を壊している間に憐は2枚目の壁に到着。
 今度は4撃で粉砕し、憐が走り出した後で透が2枚目の壁に到着する。
 そしてそれも壊し終わった時、憐は既にゴール手前にまで来ていた。
「うわっ! 差を広げられ過ぎた‥‥」
 そして透が必死に後を追いかける間に憐は第二走者の悠季のディアブロにバトンを手渡した。
「‥‥ん。後頼む」
「任せて!」
 悠季はバトンガッチリ掴んで猛ダッシュ。
 しかし、ダッシュをかけた直後に透夜と王零の攻撃が両足に命中し、体勢を崩される。
「え! いきなり?」
「よし、当たったな」
「この調子で敵の足を止めるぞ」
「了解!」
 3人は次々と悠季に攻撃を加え、更に2発当てた。

 その頃、透はようやく第二走者のセージのシュテルンにバトンを渡していた。
「遅れて‥すみません」
「気にするな。俺が追いついてやる」
 セージは不適に笑いバトンゾーンを目一杯使って受け取ると、猛ダッシュをかけた。
 だが白組の砲撃もすぐに開始され、さっそくカルマの弾が当たる。
「よし、命中!」
「この調子で百地を援護だ」
 続けてリヴァルの攻撃も命中する。
「こう一方的に撃ち放題にできるというのは何だか気分良いですね」
 新居もどこか楽しげに的の大きな胴体を狙い、唯ひたすら撃った。
「くそっ、意外と砲撃が激しいな‥‥」
 それでもセージは銃口の向きから射線を読み、フェイクや急激な速度変化を混ぜた機動で3発中2発くらいは避けながら走り続けた。

「このっ‥調子に乗るなっ!」
 一方の悠季は機体を捻り、フェイントをかけて攻撃を避けると、その隙にダッシュをかけた。
 しかし先に進むほど砲撃者との距離が詰まり、攻撃が当たりやすくなる。
 そのため悠季はカーブ手前でほぼ攻撃を避けられなくなり、模擬弾の衝撃に耐えながら少しずつ前に進む事しか出来なくなった。
 その間にセージは悠季まで90mに迫るが、セージも距離が詰まってきたため攻撃が避けにくくなる。
「ここまで来たら後は根性だ!」
 セージは避けられる弾にだけ回避し、他は根性で耐えながら前進を続けた。
 しかしその間に悠季が砲撃区間を抜け、一気にカーブを駆け抜ける。
 そして直線に入ると十分に加速をつけ、そのままの勢いで壁にタックルした。
「くぅ!」
 コクピットが激しく揺れたが壁は大きく窪んだ。
「よし、このまま一気に潰すわよ!」
 悠季は壁の窪みを中心に拳を叩き込んでゆき、壁を破壊した。

 その頃セージは砲撃区間を抜け、カーブを曲がりきった所だった。
 セージは壁に向けて一気にダッシュ。
「巨砲の零距離射撃。それは浪漫だ!」
 そう雄叫びながら模擬弾を0距離で壁に向かってぶっ放した。
 模擬弾が壁に穴をへこませて砕け散り、同じ場所にまた模擬弾が当たって砕ける。
 それを5度繰り返すと壁は遂に貫通した。
 セージがその穴を押し広げて無理やり通ると、その先に悠季のディアブロの背中が見えた。
「よし、背中が見えた。一気に追いつくぜ!」
「くっ‥少し距離を詰められたみたいね」
 悠季は後ろから迫るセージを気にしつつ、思いっきり壁に体当たりをする。
 そして1枚目の壁と同じようにナックルを叩き込み続けた。
 すると壁を壊したところで、ちょうどセージが追いついてきた。
「よし、あと少し!」
「マズイ!」
 悠季は壁に知覚弾を撃ち込み始めたセージを置き去りにして猛ダッシュをかけてカーブを走る。
 しかしカーブの途中でセージも壁を破壊し終わり、悠季を追い始めた。
 二人の差はおよそ160m。
「後お願い!」
 その差を保ったまま悠季は白組アンカーの小夜子のウーフーにバトンを渡す。
「はい!」
 バトンをしっかりと握った小夜子は全力で駆け出した。
「よし、止めるぞ!」
「小夜子、悪いが当てさせてもらう」
「ふふ、砲撃‥? 本職なんだよ、僕のね」
 しかし小夜子にはさっそく紅組の3機から砲撃が仕掛けられる。
 最初の砲撃を避けたものの、第二射で王零の弾が命中。その後は立て続けに弾が当たってゆく。
「くっ‥模擬弾の威力がこんなに凄いだなんて‥‥」
 そのため小夜子は砲撃の衝撃に耐えながらジリジリとしか前に進む事しかできなくなった。

「後は頼んだぜ!」
「任せて」
 その間にセージが紅組アンカーの明衣のフェニックスにバトンを渡す。
 バトンを落とすよりスタートが遅れる方がロスにならないと思った明衣はスタート地点でバトンを受け取ると、すぐにダッシュ。
「ここから先へは行かせられない、ここで足止めさせてもらう」
 白組砲撃班が一斉に攻撃を開始。
 明衣は狙いを定ませない様ジグザグに走行し、3発中1〜2発は避け損なうが、徐々に小夜子との差を縮めてゆく。
「急げ石動! このままでは砲撃区間を抜けられるのも時間の問題だ!」
「頑張れ小夜ちゃん!」
 カルマ通信を送り、新条が旗を振って励ますが、小夜子はカーブ手前70m地点ぐらいから集中砲火を避けられなくなり、ほとんど動けなくなっていた。
 時々砲撃の隙を突いて避け、その間だけ前に進めたが、その歩みは遅い。
 その間に明衣が小夜子を追いつき、遂に紅組が白組を追い抜いた。
「すまないな、石動殿」
 明衣は小夜子のウーフーの横を駆け抜け、自身も何発か砲撃を受けながらも遂に砲撃区間を抜ける。
 そして一気にカーブを走り抜け、第1の壁に迫った。
 しかし小夜子の方はまだ砲撃を受けながら這う様にジリジリと前に進んでいる状態だ。
「頑張れー!」
「頑張れ小夜子さん!」
「あと少しだー!」
 そんな小夜子に周囲から声援が投げかけられた。
「はい、頑張ります!」
 小夜子も声援に励まされ、前に進もうとする。
「‥‥なんだか攻撃しづらいな」
「だからと言って手を抜くわけにもいかないし‥‥」
 そのため白組砲撃班は少し肩身が狭くなったものの
「手加減は無用です。全力できて下さい」
 小夜子自身からもそう言われたため、手を抜く事なく攻撃を続けた。
 そして小夜子はウラキの砲撃の隙を突き、機体を転がして避けると、そのまま前に跳ねてようやく砲撃区間を抜けた。
「やった小夜ちゃ〜ん!」
「行け小夜子さん」
「走れー!」
 新条が歓声を上げ、白組の仲間達も喜びの声を上げる。
「はい」
 小夜子は皆の声に答えると、ウーフーを立ち上がらせて走り出す。

 その頃、明衣は1枚目の壁を破壊し終え、次の壁に向かっているところだった。
 この時点での小夜子との差は370m。
 既に勝敗は決していると言ってよかった。
 それでも明衣は手を抜くことなく、次の壁も全力で破壊した。
 それが全力で戦っている小夜子への礼儀だと知っているからだ。
 そして2枚目の壁も破壊し終えた明衣は一気にゴールを目指して走り、テープを切った。
「よし、勝ったぁ!」
「これで1勝1敗だーー!!」
 ゴールした明衣は紅組の仲間達に歓声と共に出迎えられた。

 そして明衣がゴールしてほぼ1分後、小夜子は最後の直線を皆の拍手で迎えられながらゴールした。
「ごめんなさい。私がなかなか弾を避けられないものですから抜かれてしまいました‥‥」
「ううん、いいんだよ小夜ちゃん。小夜ちゃんは頑張った‥‥」
 新条はコクピットから降りてうなだれる小夜子をギュっと抱きしめた。


 こうして『障害物リレー』は紅組の勝利で幕を閉じた。



●騎馬戦

 競技場の左右に全長7mを超えるKVで組んだ計4騎の騎馬が並ぶ。

 紅組のAの騎馬は前に透夜のディアブロ、後ろにクラークの雷電とつばめのディスタン、騎上に伊藤 毅のフェニックスを乗せている。
「みんな、こんな土壇場で言うのも何なんだけど‥‥。僕、陸戦は苦手なんだ‥‥」
 毅が爆弾発言をする。
「えぇっ!」
「ま、まぁ何とかなるだろう‥‥」
「とりあえず足回りは自分達でどうにかします。毅さんは攻撃のタイミングだけ指示して下さい」
「了解です」

 Bの騎馬は前にセージのシュテルン、後ろに透のミカガミと依神 隼瀬のロビン、騎上に明衣のフェニックスを乗せていた。
「つばめちゃん、やっと一緒に戦えるね」
 もともと勝負事には燃えるタイプの隼瀬がうきうきした口調でつばめに通信を送る。
「はい。やっと同じチームになれましたね。勝利目指して一緒に頑張りましょう!」
「うん、頑張ろう♪ で、騎馬戦での作戦は‥‥何だっけ?」
 今度は隼瀬が爆弾発言をする。
「全体としては2騎で協力して、まず1騎に速攻戦を仕掛ける」
「僕達は足として歩調を合わせ‥敵の動向を良く見て、回避に専念です‥」
 明衣と透が苦笑しながら説明してくれる。
「それじゃあ見せてやろうぜ。俺達の本当の力を!」
『オーー!!』
 セージに合わせて紅組が雄たけびを上げた。

 白組のAの騎馬は前に新条のシュテルン、後ろに小夜子のウーフーとカルマのシュテルン、騎上に伊織のシュテルンを乗せる。
「ふふ‥拓那さんと一緒で嬉しいです」
「うん、頼りにしてるよ小夜ちゃん。足回りはよろしく」
「はい」
 こんな時でもラブラブな新条と小夜子だった。
「‥なんだか、整備の人達からの視線が怖いけど‥気にしないでおこう」
 カルマには観客席の整備班からの恨みがましい視線が妙に痛く感じた
「出来れば側面など、体勢を崩し易い場所を狙いたいと思います。それと複数の騎馬に囲まれない様にお願いします」
 伊織が騎馬の3人に指示を出す。

 Bの騎馬は前に冴城 アスカのシュテルン、後ろに憐のナイチンゲールと最上 空のイビルアイズ、騎上にリヴァルのシュテルンを乗せた。
「良く考えたら空はKVに乗るのは初ですね。初KV戦が騎馬戦とは、中々マニアックな感じです。動かし方は‥‥こうでしたっけ?」
 空は周囲が不安になる事を言う。
「‥‥ん。あと1勝で。タダラーメン。じゅるり」
 憐が思わず出てしまったよだれをすする。
「さて、リサが見ている前で無様な姿は晒せないな」
 リヴァルは解説席のリサに目を向け、自分自身に気合を入れる。
「さぁ、今度こそ白組を勝たせるわよ! 白組ファイトーー」
『オーー!!』
 そして白組もアスカの声に合わせて雄たけびを上げた。

「皆様お待たせいたしました。只今より最後の種目である『騎馬戦』を行います。現在、紅組も白組も1勝1敗。この競技に勝利したチームが勝者となります。それでは、よーい」

 パーン

 審判がピストルを鳴らすと同時に4騎の騎馬が土埃をあげ、地響きを立てながら一斉に動き出す。
 両チームの作戦は共に2騎で1騎に当たる事。
 なので4騎は自然と1ヶ所に集まり、結局はA対A B対Bの戦いとなった。

「あんまり機体傷つけたくないし、速攻で決めるのがいいかな。せ〜、の、とっつげき〜!」
 白Aは真正面から紅Aに突っ込んでゆく。
「力比べか? いいぜ受けて立ってやる!」
 対する紅Aも陸戦だと口が悪くなる毅の指示で真っ向から突撃する。
「今だ小夜ちゃん」
「はい!」
 しかし白Aは両者がぶつかる寸前、真横に移動して紅Aの突進を避けた。
「フェイントか」
 そして紅Aの側面に回りこんだ白Aは思いっきり騎馬をぶつける。
 しかしその突進を主に受け止めたつばめのディスタンは小揺るぎもしなかった。
「え?」
「そんな‥‥」
「ぶつかり合いなら負けないですよ‥‥ウチの子、頑丈なのがとりえですからっ!」
 つばめは誇らしげに言うと、騎馬を回頭させ、
「今度はこっちの番だ!」
 透夜が強烈な体当たりを白Aに喰らわせる。
「うわっ!」
 KV4機分の加重のかかった体当たりを食らった新条のシュテルンの装甲がひしゃげ、整備班から悲鳴が上がった。
「もう一撃!」
 紅Aが更に突進してきたが、白Aはギリギリで避け、すれ違い様に新条がクラークの雷電に蹴りをいれたが、そのダメージも微々たるものだった。
「側面いける、ぶち当ててそのまま抜けるぞ」
 その隙に紅Aは白Aの側面に回り込み、突進をかける。
 ガツンと鈍い音が響き渡り、今度はカルマのシュテルンの装甲がひしゃげる。
 しかしカルマは騎馬を崩すことなく、ガッチリを大地を踏みしめて耐えきった。
「『将を射んとすればまず馬を射よ』ということわざもあるが‥このウシンディの馬は手ごわいぞ!」
 そしてその場で急速回頭し、近距離から透夜の脚部関節に蹴りを入れて一旦離れる。
「あと一撃喰らったら終わりですね‥‥」
 伊織が冷静に騎馬の状態を観察する。
「じゃあ、次の攻撃が最後になるかな‥‥。行くよみんな」
「はい!」
「全速でぶつけてやる!」
 白Aは再び真っ直ぐ紅Aに突っ込んでゆく。
「またか、今度はひっかからん!」
 毅はその場から動かず迎え撃つ。
 しかし白Aは今度は本当に真っ向から体当たりをしてきた。
 だが、体勢を低くし両足を踏ん張った透夜がガッチリと受け止めきる。
「惜しかったな」
 そして近距離から繰り出された紅Aの攻撃が新条でシュテルンの足をへし折った。
「くっ!」
「拓那さん!」
 新条はなんとか機体を制御しようとしたが叶わず、小夜子が新条を支えようとしたため更にバランスが崩れ、白Aの騎馬はそのまま分解した。

 一方、紅Bと白Bの戦闘はまず真正面からのぶつかり合いで始まった。
 ガツンと装甲と装甲が衝突し、鈍い音が鳴る。
 両者のパワーと装甲はほぼ拮抗していたため痛み分けに終わったが、白組のアスカは続けてセージのシュテルンの脚部にローキックを入れた。
「くっ‥やるな」
 セージも反撃の蹴りを繰り出したが、白Bは横に回り込んで避ける。
「腕を支えてて!」
 アスカは憐と空にそう頼むと地面を蹴って跳躍、
「‥‥ん。倒れそう」
「む、無茶しないでください」
 憐と空が慌ててアスカを支え、バランスをとり、アスカは隼瀬のロビンにドロップキックを喰らわせた。
「うわっ!」
 アスカのシュテルンの爪先、ロビンの腰部に突き刺さる。
「依神さん!」
「このぉ堪えろ!」
 その衝撃でロビンが膝をつき、崩れそうになる騎馬を透とセージが支えた。
 アスカは更に蹴りを放とうとしたが、セージが強引に向きを、その蹴りを自身のシュテルンで受け止める。
「反撃いくよ!」
「避けろ!」
 明衣とリヴァルがほぼ同時に叫び、白Bが一瞬早く後ろに退がったため、セージの放った蹴りが空を切った。
「足技は私の必殺技! 遅れは取らないわよ!」
 アスカはその隙を逃さず、セージの軸足を払う。
「うぉ!」
「危ない!」
「倒れるなぁー!」
 セージのシュテルンが前のめりになり、騎馬が崩れそうになったが、後ろの依神と透が慌てて支える。
 しかし、アスカはそこから更に足を高々と振り上げ、セージの頭部目掛けて踵落としを放つ。
「くぅ!」
 セージはなんとか身を反らして頭部への直撃は避けたが踵は肩部を強打し、片腕が動かなくなる。
「よし、体当たりだ!」
 その事を見抜いたリヴァルが指示を飛ばし、白Bが全速で紅Bに突っ込む。
「みんな踏ん張って!」
 明衣も咄嗟に指示を飛ばし、下の3機の防御態勢をとらせたが、白Bの体当たりの衝撃には耐え切れず、そのまま騎馬は崩壊した。

「残り1騎同士、一気に行くか?」
 紅Aが馬首を巡らせ、白Bと相対する。
「あぁ、雌雄を決しよう」
 そして2騎は全力で駆け出すと真正面からぶつかり合う。
 しかし紅Aは微動だにせず、白Bの方はアスカのシュテルンの装甲を抉られ、後ろに弾かれた。
「くぅ‥‥なんて装甲だ」
「このパワー‥まるで重戦車だ‥‥」
 アスカとリヴァルが紅Aのパワーと装甲に戦慄を覚える。
「よし、このまま一気に押し切れ!」
 毅の指示で紅Aが再度突進してくる。
「‥‥ん。避ける」
 しかし今度は上手く避け、紅Aの側面へと回り込んだ。
「どうやら機動力はこっちが上みたいね!」
 アスカはクラークの脚部関節の蹴りをいれ、すぐに離れる。
「くっ‥やりますね」
 紅Aは一旦距離を開け、改めて白Bと正対した。
「こちらが向こうに勝っている点は機動力しかなさそうだな‥‥」
 リヴァルが自己と敵の力を冷静に測る。
「となると‥‥敵の攻撃を避けながら一撃離脱を繰り返す。それしかないわね。憐ちゃん、空ちゃん、足回りは頼むわよ」
「‥‥ん。任せて」
「ふぅ‥馬の役って思っていた以上に大変ですね」
 作戦を決定した白Bは一気に紅Aに向かって突進する。
 そして紅Aのカウウターを掻い潜り、透夜の脚部で狙ってアスカが蹴りを放つ。
「やはりそうきたな」
 しかし蹴りを読んでいた透夜はガード。
 白Bはそのまま側面に回りこもうとするが、
「右40度旋回」
 毅の指示に従って白Bを常に正面に捉える様にクラークとつばめが騎馬を動かす。
「くっ‥やはり読まれているな」
「だからって他に手はない。次いくよ!」
 リヴァルが悔しげに呻くが、アスカは構わず再度突撃を敢行する。
 そうして白Bは何度となく一撃離脱を繰り返したが、そのほとんどが透夜に阻まれ、時々当たった攻撃も僅かなダメージしか与えられなかった。
 そして遂に透夜がアスカの蹴り足を掴んで止めた。
「しまった!」
「悪いが折らせてもらうぞ」
 アスカはすぐに足を引こうとしたが、透夜が砕く方が早かった。
「よし、体当たりだ!」
「了解!」
「これで決めます!」
 続けて紅Aの全力の体当たりが白Bに迫る。
「避けろ!」
「‥‥ん。無理」
「間に合いません!」
「衝撃に備えて!」
 白Bの4人が対ショック姿勢をとった直後にハンマーで殴られた様な衝撃がコクピットを襲い、アスカのシュテルンの前面装甲が完全にひしゃげた。
「つぅ!」
「‥‥ん。踏ん張る」
 憐は機体を操って騎馬をどうにか持ちこたえさせようとしたが、前面にアスカのシュテルンにはもう踏ん張る力はなく、そのままバラバラになって崩壊した。

 パンパーン

 試合終了を告げるピストルが鳴り響く。
 そしてこの瞬間、紅組の勝利が決定したのだった。



●閉会式

 紅組メンバーが整列し、漸 王零が皆を代表して壇上の大会実行委員長から賞金を受け取ろうした、その時。
「ハハハハハッ」
 何処からともなく重々しい声の高笑いが競技場内に響き渡り、『なんだこの声は』と観客達が騒ぎ始める。
「あ〜‥なんか懐かしい展開だな‥‥」
「えぇ、ホントに‥‥」
 その声に聞き覚えのある者はどこか遠い目をした。
 しかしそうでない者は声の出所を探し始める。
「――どこを見ている。ここだ‥‥!」
 そしてそんな声が響くと同時に艶消漆黒のK−111改が空から空中変形でドシンっと賞金の前に着地。
 コクピットからひらりと舞い降りたUNKNOWNが賞金を纏めて頂いてしまった。
「この金、有効に使わせて頂こう‥‥」
 そして競技場の外に向かって走り出す。
「‥‥ちょっと予定とは違ってしまったが我らも行くぞ。目標は玄関ホールの募金箱だ!」
「おう!」
「了解です」
 そしてUNKNOWNの後に王零、セージ、クラークも続く。
「え〜と‥‥」
「皆さん! 早くあの人捕まえてください!!」
 リサの叫び声で呆気にとられていた者達が我に返る。
「でも俺達なんかであの人を止められるかなぁ〜‥‥」
「多勢でかかれば何とかなるさ。とにかく追うぞ!」
 そうして残りの者達も4人を追った。

 UNKNOWNは人を小馬鹿にするようにヒラリヒラリと逃げていたが、やはり多勢に無勢、透夜と伊織の手で捕まえられる。
 しかしUNKNOWNが抱えていたマントの中に賞金はなかった。
「おいUNKNOWN、賞金はどこにやった?」
「賞金は漸とセージとクラークが持っていった。私は奴らに頼まれただけなのだっ」
 あっさり仲間を売ったUNKNOWNはその場で簀巻きにされた。
「くそっ、あいつらもグルだったのか‥‥」
「早く追いましょう」

 しかし向かった玄関ホールでは既に3人は募金を終えたところだった。
「ハハハッ、遅かったな」
「賞金は全額募金させてもらいましたよ」
「これも名古屋復興ためだ。悪く思うなよ」
 王零、クラーク、セージが不敵に笑う。
「くっ‥何を勝手なことを‥‥」
「なんの相談もなしにこんな事するなんて‥‥」
 皆が敵意と悲しみの篭った目で3人を見る。
「‥‥と、いうのは冗談でな。募金したのは我らの賞金だけだ」
 だが不意に王零がコロッと態度を変え、持っていた袋をこちらに投げる。
 受け取ったその袋の中にはほぼ全額の賞金が入っていた。
「これは最後のにぎやかし、というか余興だ」
「ちょっと悪趣味かとも思ったんですけどね」
「でもハラハラしただろ」
 3人は少し悪びれた様子で笑う。
「はぁ〜‥‥」
 そんな3人を見て、残りの全員が脱力したのだった。

 後に、アルヴァイムが撮影したフィルムを使って作られたDVDでは、この一連の模様がスタッフロールの場面で使われ、本編よりも面白かったと好評を博したという。



●賭け

 負けたチームは整備の手伝いをするという賭けをしていたため、白組は全員整備員を手伝っていた。
「勝負とはいえ悪いな。よろしく頼む。ちょっと張り切りすぎたかもしれない」
「激しい競技の後ですもの、お手伝いはあった方が良い、ですよね」
「整備は専門の方に任せているので、一度現場を体験するのも一興‥でしょうか」
「‥いつも苦労を掛けて申し訳ない」
 だが嫌がっている者はほとんどおらず、紅組でも手伝う者もいた。
 明衣は機材や部材などを運ぶ力仕事を手伝った。
「しかし、やった人間が言うのもなんだが整備士泣かせの運動会だな」
 つばめと透は互いのKVを嬉しそうに磨きあい、ウラキも積極的に整備を手伝っている。
 ただ、新居だけは名残惜しそうにペイントを落としていたが。


 整備が終わった後は白組が紅組にラーメンを奢る事になっていて、場所をラーメン屋『紅白軒』に移した。
「お疲れ様ー! 今回も盛り上がったわね♪」
 アスカの音頭で打ち上げが始まり、皆それぞれのラーメンを注文し始める。
「フカヒレラーメンをリヴァルの奢りで頼む」
 そこにはちゃっかりUNKNOWNの姿もあった。
「つばめさんは何を頼むの?」
 つばめの隣を確保した透が尋ねる。
「う〜ん、ここってメニューが一杯あるから迷ってしまうんですよね‥‥」
「我は何にするかな‥‥」
「自分はせっかくですから一番高いラーメンを」
「私は炒飯に餃子で〜」
「小夜ちゃんは何を頼む?」
「私は拓那さんと一緒なら何でも‥‥」
「‥‥ん。また負けた。また焼け食い」
「憐、焼け食いはいいですjけど、箸やどんぶりまで食べないで下さいよ」
「私は今回奢る立場ですから普通のラーメンで」
「勝った時はここぞとばかりに高い物を頼むつもりだったんですけどね‥‥」
 そうして皆で賑やかに飲み食いをしている間に、夜は更けていったのだった。