●リプレイ本文
「初の依頼でアースクエイクなんて大物が出るなんてツいてないね。私らでなんとかなるかしら? 飲み込まれたら死んじゃうんじゃないの?」
最後尾のトレーラーの側面にいたアングラ セツ子(
gb9966)はヘルヘブン250のタイヤを軋ませてその場でターンすると、迫ってくるアースクエイクの威容に息を呑む。
「うう‥初めての実戦だ。緊張するよ」
部隊の先頭を走っていたアルティ・ノールハイム(
gb9565)は敵の突然の奇襲に心拍数を早めながらも地殻変化計測器を設置した後にヘルヘブン250のハンドルを切る。
「僕も後方の援護へ回ります! そのまま前進して下さい!」
そして先頭のトレーラーにそう指示して自分はEQに向けてアクセルを踏み込んだ。
「初めてのKV、うまく操れるかな‥‥」
中央のトレーラーの側面にいたセシエル(
gb9731)はナイチンゲールでトレーラーに絡みついた大ミミズ型キメラを引き剥がしに行こうとする。
しかし初めての依頼で緊張しているのか、せっかく搭載してきた地殻変化計測器を設置するのを忘れてしまっていた。
「全員、無理に1対1で戦おうとしちゃダメよ? 多対1で確実にね。輸送隊、聞こえる? 動ける車両は全速離脱、絡まれてるのも解放され次第同様に。OK?」
部隊の最後尾に位置していた姫堂 麻由希(
ga3227)は自身も初依頼であるが、冷静に輸送隊や仲間達に指示を出す。
「戦闘モード起動、スタンディングモードにシフト」
そしてゼカリアのキャタピラで地面を抉りながらその場で180度回頭すると人型に変形。
「FCS照準セミオート、地殻変化計測器設置‥リンク開始」
全兵装をEQに向けて照準を合わた後に地殻変化計測器設置。他の装置ともリンクさせて地中の警戒網を形成した。
「さって‥一時的にでもアースクエイクとタイマンかな‥‥」
麻由希は適度な緊張感を感じながら照準器に映るEQを見据えた。
「安全なルートって聞いてたけど早々事はうまくいかないね」
先頭車両の側面にいた鳳 螺旋(
gb3267)はウーフーのジャミング中和装置を起動させて、地殻変化計測器を設置する。
そして機体を旋回させ、後ろから2台目のトレーラーに取り付こうとしているミミズに高分子レーザー砲を向けた。
「みみず‥嫌い‥‥」
鳳は照準器に映るミミズを見て不快そうに呟いてトリガーを引く。
発射された不可視のレーザーはミミズに穴を穿つと同時に超高熱で身体を焼いた。
「この蟲! 蟲っ! 蟲ーっ!!」
そう憎々しげに言い放ちながらレーザーを連射すると、ミミズは穴だらけでボロボロの死骸と化したのだった。
「ネージュさん、久しぶり」
「うん、久しぶり〜♪ お互いコレが初めてのKV依頼だね〜〜! 張り切って楽しも〜〜♪」
何度が実戦を経験している榊 那岐(
gb9138)とネージュ(
gb9408)は互いに挨拶を交わす余裕さえあり、ネージュなどは声がウキウキと弾んでいて緊張感は欠片もない。
「‥‥お前と出るのは初めてだよね。初めてのKV戦闘成功させる為に、行こう『火雷』!!」
榊は愛機のナイチンゲール『火雷』に呼びかけ、コンソールをポンと叩いた。
先頭の車両の側面にいたネージュは後ろから2番目のトレーラーに取り付こうとするミミズに90mm連装機関砲を放って牽制。
400発もの弾丸を喰らったミミズは体中から体液を噴き出しながらも構わずトレーラーに絡みつく。
「こらー! 無視するな〜!」
ネージュはヘルヘブン250のエンジンを噴かしてトレーラーの側まで走らせ、併走しながら絡むミミズの胴体をジェットエッジで真っ二つにした。
ミミズの下半分は地面に落下にして転がっていったが、上半分はまだトレーラーに絡もうとしている。
「しつこいな〜」
ネージュはジェットエッジでミミズを器用に摘んで切り刻むとポイッと捨てた。
「鳳さん。まだミミズはいそうかな〜?」
「ううん。5匹だけみたいだね〜」
鳳が地殻変化計測器設置から送られてくるデータを見て答える。
「よ〜し! じゃあ次はモグラ叩きだー♪」
ネージュは嬉しそうに言うと、今度はモグラに向かってヘルヘブンを加速させた。
セツ子はEQの元に向かう前に最後尾のトレーラーに更に取り付こうとしていたミミズの牽制のバルカンを放った。
すると、ミミズは目標をトレーラーからセツ子に変えて迫ってくる。
「よし、いい子ね。アンタの相手は私よ」
セツ子は機槍「宇部ノ守」を構えるとアクセルを踏み込んでミミズに『チャージ』を仕掛けた。
宇部ノ守はミミズを貫通し、胴体の3分の1を引きちぎったが、ミミズは残りの体で槍を伝ってヘルヘブンに絡みついてくる。
「く‥‥この!」
セツ子は咄嗟にミミズの頭部を掴んで完全に絡まれるのを防ぐと、KV小太刀を抜いて頭部を斬り飛ばす。
そして胴体に絡んだ部分も小太刀で引き裂くと、ようやく締め付ける力が緩み、ミミズの体がボトリと地面に落ちた。
「さぁて、次はミミズの親玉の番ね!」
セツ子は気合を入れ直すと、EQに向かってヘルヘブンを加速させた。
「まずはミミズさんを何とかしないといけませんの」
最後尾の車両の側面にいたシルフィミル・RR(
gb9928)も、すぐ真横でミミズ絡まれてミシミシと音を立てて歪み始めたトレーラーの様子に慌てたのか、地殻変化計測器を設置を忘れていた。
その事に気づかぬまま、シルフィミルはミミズをトレーラーから引き剥がそうとしたが、ソニックブレードでは超振動でトレーラーまで傷つけてしまうので、仕方なくアヌビスの頭部に装備したクラッシュホーンを使った。
しかし頭突きでは力加減が難しく、クラッシュホーンはミミズごとトレーラーも貫いた。
「‥‥あ。トレーラーまで刺してしまいましたのっ! ア、アカオニさん、どうしましょう?」
焦ったシルフィミルは覚醒時に現れる幻影の鬼武者『アカオニ』に相談するが、意思を持たないアカオニはもちろん何も答えてくれない。
「仕方ないですの‥。後で運転手さんに謝りますの」
そう結論づけたシルフィミルはアヌビスの頭を引いてミミズを強引にトレーラーから引き剥がした。
しかしミミズはアヌビスに酸を吐きかけ、身をくねらせて地面に逃れる。
「逃がしませんの!」
だがシルフィミルはミミズが地面に潜っている最中にソニックブレードに地面に突き立て、超振動を地中に放つ。
するとミミズは慌てて地上に戻ってきた。
シルフィミルはその隙を逃さず、ソニックブレードでミミズを切り刻んで退治する。
「ふふっ、うまくいきましたの♪」
そのトレーラーの反対側では駆けつけたセシエルが機刀「白双羽」の一刀でミミズを刺し貫いて動きを止め、もう一刀で斬り裂いていた。
ミミズは酸を吐き散らして抵抗するがセシエルは構わず剣を振るい続ける。
「いい加減離れてください!」
そうしてミミズが弱り、力が鈍った所で、ようやくトレーラーから引っぺがす事ができた。
セシエルは一刀でミミズを地面に縫いとめ、もう一刀もミミズに突き立てるとそのまま刃を滑らせ、ミミズを2枚に下ろして完全に息の根を止めたのだった。
だが、不意に横合いから放たれたモグラのバルカン砲がセシエルのナイチンゲールを襲う。
「あぅ!」
更にモグラは頭のドリルを回転させるとセシエルに向かって突撃してくる。
「危ないセシエルさん!」
しかし駆けつけた鳳が高分子レーザー砲で、榊がR−Pマシンガンで牽制攻撃を行ってモグラの足を止めてくれた。
「助かりました、鳳さん、榊さん」
「モグラってミミズの天敵だろう! 一緒に襲ってくるな!!」
そして榊はモグラのバルカンをストライクシールドで弾きながら接近し、ドリルをハイマニューバの擬似ブーストで避けると擦れ違い様にライトKVスピアで突いてダメージを負わせた。
そこに更に鳳がレーザーで、セシエルがバルカンで追い討ちをかける。
するとモグラは形勢不利と判断したのか地面に潜ってしまう。
「何処から仕掛けてくる‥‥?」
三人は背中合わせに立つと、周囲の地面を警戒する。
「ポイント3−8、来ます」
その間に鳳が地殻変化計測器のデータからモグラの出現位置を割り出した。
「ポイント3−8?」
「了解!」
二人はすぐにその場に急行し、モグラの出現に合わせてそれぞれの武器を振り下ろした。
するとセシエルの機刀がドリルを裂き、榊のスピアが頭部を抉ったが、モグラはすぐにまた頭を引っ込めた。
「く‥‥仕留めそこねた」
「次、ポイント5−6です」
「まるでモグラ叩きじゃない‥‥ちょっと面白いかも」
セシエルは嬉々として鳳が指示する次のポイントに移動する。
「今度こそ!」
そして榊がスピアで貫き、強引にモグラを地面から引っ込ぬいた所をセシエルが斬り裂いて完全に破壊したのだった。
その頃、もう一体のモグラはネージュとシルフィミルが相手をしていた。
「フレキシブルモーション、行きますの!」
シルフィミルはネージュが機関砲でモグラを牽制してくれている間に接近すると、アヌビスの腰部のブースターを噴射し、一瞬でモグラの側面に回り込んでソニックブレードで斬った。
モグラはすぐに向きを変えてバルカンを放ってきたがネージュは跳躍してモグラの頭上を取ると、腰部のブースターでバランスを取りながら空中でソニックブレードを振るって斬り、着地と同時に再度ブースターを噴射して旋回しながらソニックブレードを横凪ぎに払って更に斬り裂いた。
傷ついたモグラは地面を蹴って飛び、ネージュにドリルを回転させながら突っ込んでくる。
「甘ーい!」
だがネージュはジェットエッジでドリルを受け止めた。
ジェットエッジとドリルの間で激しい火花が散る。
「にゃろぉー!」
ネージュは5本の刃でドリルを鷲掴んで強引にドリルの回転を止めた。
そして左手の機爪「プレスティシモ」から伸びる3本の光の刃を閃かせ、モグラの胴体を真っ二つにした。
「いぇ〜〜い! ネージュ達の勝利〜♪」
一方、EQと正対していた麻由希は、まず強化型ホールディングミサイルを2発発射。
しかしEQはミサイルが着弾する寸前に体を横に転がして避けた。
「避けた? コイツでかいくせに動きがいいじゃない」
「僕が牽制します。その隙に大砲を撃ち込んで下さい」
驚く麻由希の横をアルティのヘルヘブンが駆け抜け、EQに向かってガトリング砲で牽制攻撃を始める。
「了解。頼むわね」
麻由希はEQに大口径滑腔砲を向けると、420mmの巨大な砲弾を装填する。
「今度は外さないわよ〜‥‥」
麻由希が覗き込む照準器の先ではアルティのヘルヘブンがEQの全身から放たれる生体バルカンの弾幕に晒されている姿が見えた。
「この程度の弾幕なら‥‥」
アルティは巧みなハンドリングでヘルヘブンの被害を最小限に留めて弾幕を掻い潜る。
そして弾幕の合間にできた僅かな隙を突いてアクセルを踏み抜き、全速でEQに突進する。
「‥‥突撃します!」
アルティはメトロニウムハルバードを両手で構え、全身で体当たりをする様な『チャージ』を慣行。
ハルバードの槍先がEQを刺し貫き、硬い手ごたえと共に槍が装甲を貫通する感触がアルティに伝わってきた。
しかしEQは体を回転させ、体表のブレードをアルティのヘルヘブンに叩きつけて弾き飛ばす。
「うわぁ!」
だが、その隙を逃さず麻由希がトリガーを引いた。
「ファイヤ!」
ドォンという轟音と共に反動でコクピットが揺さぶられ、420mmの砲弾が音速でEQに向かって飛ぶ。
そして着弾。
砲弾が激突する衝撃で装甲が弾け飛ぶ怪音と共にEQの体に大穴が開き、大量の体液が空に向かって噴き出した。
「まだまだー! 次弾装填」
まだ高熱を保っている薬莢が排出されて地面にめり込み、次の砲弾が自動装填されて発射OKのサインがコクピットに灯る。
照準器の先では身悶えていたEQが地面に潜り込もうとしているのが見えた。
「逃がさないわよ!」
そして再び反動と共に発射された砲弾がEQの身体を大きく抉り取って貫通する。
しかしEQは構わず地面にどんどん潜って行く。
「行かせないよ!」
体勢を立て直したアルティが再びチャージを敢行したが、それでもEQは止められなかった。
「潜られたか‥‥。でも想定内の事だわ。データ照合、進路予測‥‥逃がさない」
麻由希は地殻変化計測器から送られてくるデータに注目しEQの動向を探った。
「‥‥2時の方向か」
麻由希は砲弾を再装填するとゼカリアの向きを静かに変える。
「‥‥来る。3‥2‥1‥」
そしてEQが地表に顔を出す直前に全速で後退した。
すると、ちょうど自分がいた場所にEQが飛び出してくる。
「ビンゴ!」
麻由希はすかさずトリガーを引く。
至近距離から放たれた砲弾はEQの頭部を半分吹き飛ばした。
しかしEQはそのままその巨体でゼカリアを押し潰そうと圧し掛かってくる。
「マズイ!」
麻由希ゼカリアの両腕を頭上でクロスさせた。
ズゥーーンという地響きと共にコクピットが上下にシェイクされるような衝撃が麻由希を襲う。
「くぅ‥‥!」
ゼカリアの両腕はグニャリの曲がり、頭部は押し潰され、肩部と腰部には多大な付加がかかったが、まだ稼動は可能だった。
しかしEQの過重で今も機体各部がミシミシと悲鳴を上げている。
「このっ!!」
麻由希は至近距離から20mmガトリング砲を放ったがEQはビクともしない。
「その肥満体をどけなさいっ!」
そこにブーストで駆けつけたセツ子のヘルヘブンがチャージを仕掛けて、宇部ノ守をEQに突き立てる。
「麻由希さん、今助けます!」
そしてセツ子の逆側からアルティもチャージを仕掛け、ハルバードを突き刺す。
「セツ子さん、このまま持ち上げて下さい」
「分かったわ」
二人がそれぞれに突き刺した槍に力を込めるとゼカリアに掛かっていた過重が少しだけ減る。
麻由希はその隙にゼカリアを戦車形態にして更に隙間を作るとキャタピラを逆回転して全速で後退。
「ありがとう二人とも、もういいわ」
アルティとセツ子が槍を引き抜いて離脱するとEQの巨体が地響きを立てて地面に落ちる。
麻由希はEQの半分になった大口に滑腔砲を向け、徹甲散弾を装填した。
「散弾をそのでかい口の中に撃ち込んだら‥鉛弾一発ぶち込まれるより痛いわよ?」
そして、ドォンという砲声を伴って徹甲散弾がEQの口に撃ち込まれ、弾けた砲弾から飛び出した無数の散弾がEQの体内に喰い込み、抉り、ズタズタに引き裂いていった。
そうして内側からも大ダメージを負ったEQは完全に沈黙したのだった。
その後、輸送隊は何事もなくロスに到着し、補給物資は全て無事に運び込まれた。
「やれやれ‥なんとか終わった‥‥」
麻由希は疲れた顔でゼカリアの砲等に腰掛けて一服を始める。
「私達でもこの様な強力な敵もなんとかできるのね」
セツ子も疲労していたが、その表情は達成感に満ちていた。
こうして8人は護衛任務を見事完遂し、KVでの戦闘の経験と自信を身に付けたのだった。