●リプレイ本文
高速移動艇でヒューストンまでやってきた傭兵達は市内の公園に降下した。
そこから2班に分かれ、A班のノビル・ラグ(
ga3704)、九条院つばめ(
ga6530)、狐月 銀子(
gb2552)、依神 隼瀬(
gb2747)はA地点に向かう。
C班の弓亜 石榴(
ga0468)、終夜・無月(
ga3084)、藤村 瑠亥(
ga3862)、優(
ga8480)は現在地より南にあるC地点の公園に向かった。
「愛子・アルゲディ・アキラ――全員揃って癖の強い連中だぜ。ひょっとして、リリアの趣味なのか?」
ノビルが倒壊した展示場内を注意深く捜索しながら銀子に話しかける。
「どうかしらね? ま、一筋縄でいかない連中なのは確かね」
「ねぇ、つばめちゃん。愛子ちゃんを見つけたら‥‥どうするの?」
隼瀬は自分でも結論の出ていない事をつばめに尋ねた。
「――彼女をどうするのかは‥‥見つけてから、考えます。今はとにかく、キメラと合流させるわけには行きません‥‥」
「俺は‥できれば捕らえたいかな。何でも殺して終わり、は嫌いだから‥‥。愛子、と‥愛される子、と名付けたお母さんは、愛子ちゃんの事が大好きだった筈‥‥。苦しくて自分の事で手一杯で、愛子ちゃんを連れて行けなかったかもだけど、嫌いになった訳じゃ無いと思う」
「‥はい。私も、そう思います」
「でも、不幸なら他者を踏み躙って良い訳がない。怪我人なら許される訳じゃない。私は手加減抜きの真っ向勝負を仕掛けるよ。ま‥全力で何とかなるかって相手だしね」
銀子は二人に自分の決意を告げる。
「はい、それも分かっています。まずは小野塚さんに負けを認めさせないと、話も聞いてくれなさそうですし」
そして4人は念入りの捜索を行ったのだが、愛子を発見する事はできなかった。
C班も愛子は発見できず、一同はその2箇所での捜索を打ち切り、B地点の室内競技場に向かう事を決めた。
その頃、愛子は自分が司令部と使用していた室内競技場の一角で足の治療を行っていた。
「ガルムが近くまで来てくれている‥‥。少しでも動ける様にしておかないと‥‥」
そして足をバンダナでぎゅっと縛りつけ、具合を確かめると外の様子を伺う。
幸い周囲に敵の姿はない。
愛子は刀を杖代わりにして出来る限りの速度で移動を開始した。
そんな愛子の姿を室内競技場に向かう途中だった無月が「月読」で捉えた。
「小野塚 愛子を発見しました‥。彼女は現在、展示場跡を南下中です。至急急行されたし‥‥」
無月は「天照」でA班に伝えると、自分達も愛子の元に急行する。
「くそっ! 愛子はB地点かよ」
「急行するよ!」
「乗ってつばめちゃん」
「はい」
無月から連絡を受けたA班は銀子のバハムートにノビルを、隼瀬のリンドヴルムにつばめを乗せ、エンジン全開で走り始めた。
「見つかった‥‥」
愛子は敵の接近に気づいて足を速めようとしたが、『先手必勝』で先んじた無月が眼前に躍り出た。
「貴方の境遇は知っています‥。しかし貴女は既に剣を手に取ってしまった‥‥」
無月は『豪力発現』で明鏡止水を振り上げ『急所突き』を放ってくる。
「くっ!」
愛子は短剣でどうにか受け止めたものの、その勢いは殺せず、押し切られた刀身が体を裂く。
その間に瑠亥と優が退路を塞ぐ。
「やっほ〜、愛子ちゃん。約束を果たして貰いに来たよ〜♪」
そして石榴が笑顔で挨拶した。
「げっ! 石榴‥‥」
すると愛子が困り顔で嫌そうでマズそうな複雑な表情を浮かべる。
「さぁ、約束通り、撃墜したからメイド姿になって貰うよ♪」
「ぐっ‥‥そ、それは‥‥」
愛子が微妙に視線を泳がせ、悔しげに呻く。
「ほらほら〜♪ 友達との約束を破っちゃ駄目だよ?」
「‥‥へ?」
石榴のセリフを聞いて、愛子の目が点になった。
そして次の瞬間には顔がボンッと赤くなる。
「なはっ!? な‥な、なっ、なっ! だ、だっ、誰がと、とっ、友達にゃろほっ!」
愛子が真っ赤な顔でどもりまくり、セリフまで噛んだ。
「にゃろほ?」
「‥‥な、なのよ?」
愛子は更に顔を赤くして俯き、気まずげに言い直す。
「もちろん私と愛子ちゃん」
石榴が自分と愛子を指差す。
「ち、ちっ、違うわよ! あたしとアナタは敵同士っ!!」
「だからホラ、私達って少年漫画でよくある戦ったら友達って奴じゃん?」
「な‥なによそれ‥‥。訳が分からないわ‥‥」
愛子は恥ずかしそうに石榴から視線を外し、胸を手で押さえた。
その姿から愛子が石榴のセリフに焦り、戸惑い、動揺しているのは誰の目にも明らかだ。
「それともう一つ賭けをしよう。ここで愛子ちゃんを負かせたら大人しく投降してね♪」
「‥‥最初に会った時から思ってたけど。石榴、アナタって本当に変な子よね」
愛子は呆れた口調で、でも微かに笑みを浮かべて言った。
そんなやり取りの間にA班も現場に到着。
「あれが小野塚さん‥‥。考えてみればおかしな話ですよね。私、小野塚さんにあれだけ殺されそうな目に遭っているのに‥‥こうして顔を合わせるのはこれが初めてなんですから」
つばめは隼瀬のAU−KVから飛び降りて駆け出し、隼瀬もリンドヴルムを身に纏って『竜の翼』で後を追う。
ノビルは銀子のAU−KVから落ちると『隠密潜行』で近くの瓦礫に潜み、ドローム製SMGで愛子に狙いを定めた。
「トリプルイーグルの小野塚 愛子‥か。手負いとは言え、手加減なんかしてたらコッチが殺られちまう。本気で行かせて貰うぜ‥!」
「よ〜、約束通り正面からやりあいに来たわよ」
そしてバハムートを纏った銀子がエネルギーガンを愛子に向けて発射。
それが開戦の合図となった。
エネルギーガンの光線を避けられないと判断した愛子は咄嗟に左腕で受ける。
「ぐぅ!」
服の袖が燃え、剥き出しになった火傷の跡だらけの左腕が更に焼けてゆく。
その隙を逃さず石榴が後ろから盾を構えて接近。
「ごめんね愛子ちゃん!」
そしてレイシールドで『瞬即撃』を放ったのだが、SESが付いていない盾は愛子のFFで弾かれ、逆に石榴が手首を傷めた。
「んぎゃー! 手首ひねったぁ〜〜!!」
「‥‥石榴、アナタ何がしたいの?」
「ヒドッ! 私これでも精一杯やってるんだよ」
必死に言い訳する石榴を愛子が呆れた顔で見て溜め息をついた。
「いいから離れてなさい、怪我するわよ」
「うわっ! 愛子ちゃん今すっごく私のこと馬鹿にしたでしょ!」
愛子はとりあえず石榴を無視して無月に向き直り、明鏡止水の斬撃を短剣で受け止める。
無月は愛子が反撃してくる前に身を引き、今度は優が逆側から月詠で愛子に斬りかかる。
「くぅっ!」
愛子は咄嗟に左手で刀を抜いて防いだが、その衝撃が骨に響く。
優はそこから更に機械剣βで横凪の一閃を放ち、愛子腹部を切り裂いて一旦距離をとった。
愛子は優に追撃をかけようとしたが、その足元をノビルがSMGで貫通弾を『影撃ち』で牽制射撃を行う。
掃射された銃弾は愛子のFFを貫く事は出来なかったものの、その衝撃は重傷の足に響き、愛子の足を縺れさせた。
愛子が態勢を崩した瞬間に無月が間合いを詰め、明鏡止水で横凪の一撃を加える。
愛子は短剣で受けたものの、『豪力発現』で放たれた重い斬撃の衝撃を殺す事は出来ず、後方に弾かれた。
足の怪我で十分に踏ん張る事の出来ない愛子はたたらを踏んで倒れる。
愛子は直ぐに起き上がろうとしたが、それより先に優が間合いを詰め、月詠を突き立ててくる。
咄嗟に地面を転がって避けた愛子だが、腕を月詠に切り裂かれた。
愛子は構わずそのまま地面を転がり、3人の包囲を抜けたところで地面を叩き、その反動で身を起こす。
だが、そこにつばめが斬りかかる。
「行かせません!」
つばめは愛子の怪我をしている足を隼風の柄で払うと見せかけ、寸前で手首を返し、腰のホルスターの銃に突きを放つ。
しかし愛子は銃と隼風の刃先の間に短剣を差し込んで受け止める。
仕方なくつばめは一旦後方に飛びのき、そこからソニックブームを放った。
「破っ!」
愛子はその衝撃波を短剣と刀を眼前にクロスさせて受け止める。
しかし、それはつばめの誘いだ。
「依神さん!」
「よし、貰った!」
そこに隼瀬が走輪で迫り、がら空きの腹部を薙刀「昇龍」で薙ぎ払う。
昇龍は愛子を直撃したが、隼瀬の力ではFFを貫く事はできず、硬い手ごたえだけが返って来る。
「でえぇぇい!」
しかし隼瀬は構わず『竜の咆哮』で愛子を後ろに弾き飛ばした。
弾かれた愛子は足の傷のためうまく着地ができず、膝をつく。
その隙に愛子はまた包囲され、眼前に瑠亥の二刀小太刀「疾風迅雷」が突きつけられた。
「‥‥」
愛子が体の各所から血を流し、息を荒くしながらも敵意を剥き出しにした瞳で真っ直ぐ瑠亥を見上げてくる。
その瞳に瑠亥は既視感を覚えた。
「投降しろ、小野塚。おまえの存在は、人類には価値があり、必要でもある」
「‥‥笑えない冗談ね。あたしはリリア様の親衛隊トリプル・イーグルよ。人類に降る事など有り得ないわ」
愛子は瑠亥の投降勧告を鼻で笑ったが、瑠亥は構わず続けた。
「‥‥小野塚。俺にも戸籍を持たず、誰にも誰という認識も持たず、自分が誰にも必要とされていない、そんな世界を日常として生きていた頃があった」
愛子の表情から嘲りが消える。
「だが、何のきまぐれか、こんな俺に手を差し伸べる者が居た。俺はその時の事を決して忘れないだろう。その手を取ったから、俺は今の俺になれたのだから‥‥」
瑠亥は少しだけ疾風迅雷を引く。
「俺はおまえのやったとされる行為に対し、悪い事だと言えるほど善人ではない‥。だが、あいつが俺にそうしたように、俺もおまえにそうしてやる事はできる。‥‥掴むか払うかはおまえの意思次第だ。掴むなら、俺からもできる限りの事はしよう」
「そうだよ愛子ちゃん。こんな事続けても幸せにはなれないよ。皆に怖がられて嫌われて、本当に楽しい? もう終りにしよう」
瑠亥と共に隼瀬も愛子に呼びかける。
「‥‥ふふ。見かけよりも優しい男ね」
愛子が笑みを浮かべ
「でも」
瑠亥の疾風迅雷を短剣で弾いて立ち上がる。
「あたしはアナタよりも先にリリア様の手を取ったの‥‥。もう‥遅いわ‥‥」
そう言う愛子はどこか寂しげに見えた。
「愛子ちゃん‥‥」
「小野塚さん‥‥」
「やっぱりこうなったか‥‥」
隼瀬、つばめ、銀子が落胆する。
「でも私との約束はちゃんと守ってね。私達に負けたら大人しく投降するんだよ」
石榴はどこまでもポジティブだ。
(「リリアへの忠誠心は大したモンだ‥でも、その忠誠心は愛子の本心なのか? それとも――洗脳の結果‥なのか?」)
ノビルには今の愛子の姿からそれを判断する事はできなかった。
「そうか‥‥」
瑠亥が疾風迅雷を構えなおす。
その瞳に迷いはなく、愛子を完全に敵として捉えていた。
そして改めて全員で愛子に攻撃を仕掛けようと包囲を狭めた、その時。
『ウオォォーーーン!!』
高らかな遠吠えと共に3体のキメラが瓦礫を飛び越えて現れた。
「ガルム!」
ガルムの姿を見た愛子の顔が微かにほころぶ。
無月は咄嗟に閃光手榴弾を構えたが、発動にはまだ少し時間が掛かる。
「くっ! キメラを愛子と接触させてはいけない!」
無月は仲間達に指示を飛ばしつつ、自分はガルムに向かって駆ける。
ヘルハウンドは火球を放ってつばめと隼瀬の足止めをする。
「無駄です!」
しかし、つばめは隼風を眼前で旋回させて火球を弾いて接近。
ヘルハウンドを間合いに捉えた直後につばめの後ろを追従していた隼瀬が飛び出す。
隼瀬は昇龍を回転させて、その回転力を上乗せした突きを眉間に放ち、そのままの流れで足払いをかけて引っくり返すと腹部に刃を突き立てた。
ヘルハウンドはもがいて逃れようとするが隼瀬がそれを許さない。
「今だつばめちゃん!」
「はい!」
そしてつばめが隼風を振り下ろして首を跳ね、息の根を止めた。
オルトロスは瑠亥と優に炎のブレスを浴びせかけて足止めしようとする。
「優」
「はい」
二人は目だけで打ち合わせ、オルトロスの左右に回り込む。
オルトロスはブレスは優に吐いたまま尾の蛇で瑠亥に牙をむいた。
瑠亥は蛇の牙をスルリを避けて小太刀で斬り飛ばす。
そして一気に間を詰めると胴体を二刀を突き立て、左右に引き裂いた。
優はメタルガントレットで顔を覆い、身を低くして炎を潜り抜けると月詠で前足を斬り裂く。
そうしてオルトロスの体勢を崩した所で頭部に機械剣を突き刺し、月詠で首を斬り落とした。
オルトロスはもう1本の頭で至近距離から優にブレスを吐こうとしたが、瑠亥に頭の上下から小太刀を突き入れて無理やり口を閉じさせ、優が月詠で心臓を一突きにしてトドメを刺す。
「愛子ちゃんは渡さないよ!」
石榴はガルムに向かってハンドガンを撃ったが、ガルムは体毛を硬質化させて銃弾を弾いた。
「あれ?」
続いて、ガルムに接近した無月が大上段から明鏡止水を振り下ろす。
「はぁっ!!」
ガルムは肩甲骨から蝕腕を伸ばして受け止めようとしたが、明鏡止水は蝕腕を断ち、硬質化した体毛ごとガルムを斬り裂いた。
無月は返す刀で更にガルムの腹を切り裂き、体内に突きいれ、抉り、噴き出した血が無月の体を赤く染める。
しかしガルムは満身創痍になりながらも攻撃を耐え切り、口腔を大きく開いて闇を吐き出した。
闇はたちまちガルムの周囲に広がり、愛子と無月を呑み込む。
「これは‥いったい‥‥?」
無味無臭の闇に包まれた無月は自分の手さえ見えない。
だが殺気を感じ、咄嗟に明鏡止水を眼前に翳すと衝撃が無月を襲う。
「っ!」
それはガルムの体当たり攻撃で、無月はその衝撃で後ろに弾き飛ばされた。
そのお陰で闇から抜け出す事はできたが、外からも中はまったく見通せない。
「なにあれ?」
「黒い‥‥霧か?」
少し離れた場所からはガルムの周囲に黒い球が出現したかの様に見えていた。
「とにかく攻撃するぞ!」
銀子はエネルギーガンを、ノビルはSMGを闇に向かって放つが命中したかどうかさえ分からない。
「Fいきます」
無月は味方に合図を送ってから闇の中に閃光手榴弾を投げ込んだ。
すると閃光が闇を払ったが、ガルムは愛子を背に乗せて既にその場を離れていた。
「逃がしません」
無月は拳銃「ジャッジメント」で離れてゆくガルムに狙いを定める。
だが、愛子がガルムの背から先に発砲。銃弾が無月の大腿部に突き刺さった。
「ぐぅ‥」
無月はその場に膝をついたが、狙いは反らさず発砲。ガルムにも銃弾が突き刺さる。
だがガルムは足を止めない。
「逃すもんか!」
隼瀬が弾頭矢を放ってガルムの退路の左右のビルを破壊する。
しかしガルムは倒壊するビルを易々と避け、瓦礫も軽々と飛び越えた。
無月は今度は魔創の弓を構えたが、ガルムがまた闇を吐いて視界を遮る。
無月は構わず矢を放つが手応えはなく、闇が晴れた後にガルムの姿はなかった。