●リプレイ本文
ソフィア・バンデラスから出撃要請を受けた傭兵達はそれぞれの愛機をブーストで加速し、すぐさま追撃戦に入った。
「僕にとっての一番は変わりませんが、サイファーも良い機体ですね。価格差もあるとはいえ、S−01Hとは段違いの性能です」
サイファーでの初出撃となる新居・やすかず(
ga1891)が石動 小夜子(
ga0121)のサイファーと共に敵部隊を追う。
「追撃、ですね。今後の事を考えると、少しでも敵の数を減らせれば良いのですが‥‥」
「時間との勝負か。グローリーグリムを始め敵の数も少なくないが、むざむざ逃がす訳にもいくまい。まずは箱持ちムカデ全機の殲滅。ゴーレムとレックスは必要に応じて適宜排除、だな」
白鐘剣一郎(
ga0184)はシュテルンを変形させて垂直離着陸能力で浮かぶと、敵編隊の前方に向かった。
「天馬の駆け足、見せてやろう」
「ここで逃げの一手とは。さすがにグリムも猪という訳ではありませんでしたか。とは言え。それでこそ、ここに残った意味もあるというもの」
如月・由梨(
ga1805)はほくそ笑むと最後尾の箱持ちムカデで長大な斧を構えるゴーレムに向かってディアブロを走らせる。
「メデジン基地の攻略、上手く行くと思っていたらこんな隠し玉があったなんて‥‥。このままあっさり逃がすわけには行きません、急がなきゃ‥‥!」
「そうですね。時間が限られているので多少無茶をしてでも攻めていかないといけませんね。よろしくお願いします九条院様」
「はい、王さん。追いかけっこはあまり得意じゃないですけど‥‥『swallow』、頑張ろうね?」
九条院つばめ(
ga6530)のディスタンが王 憐華(
ga4039)のアンジェリカを守る様に前に立ちはだかりながら追撃する。
「いやいや、危なく埋もれる所だった、な」
そしてメデジン基地の崩壊から脱出したUNKNOWN(
ga4276)のK−111改が逃げる敵編隊をレーダーに捉える。
「ん? ああ、まだ敵がいるのか。では追掛けるとしよう」
こうしてUNKOUWNも追撃戦に加わった。
そして敵編隊に追いついた憐華のアンジェリカはM−181大型榴弾砲を構えると敵最前部に向けてトリガーを引く。
「初撃はもらいます‥あたって!!」
轟音と強烈な反動と共に発射された散弾が敵編隊に撃ち込まれる。
だが、ムカデの多脚も伊達ではない。
ムカデは憐華の予想以上に素早い機動で避け、外れた散弾が地面を抉って濛々と土煙を上げる。
「‥‥ん。一気に。前に出て。押さえ込む」
だが、その隙に最上 憐(
gb0002)のナイチンゲールが敵編隊の横を一気に駆け抜けて敵の前に出る。
そして敵の前で振り向いてハイマニューバを展開すると同時にファランクス・アテナイが先頭を走るRCに攻撃を開始した。
UNKOUWNも憐と同じ様に前に出るが、彼は敵編隊の横をすり抜ける際にソードウィングで3体のレックスキャノンを足を切り落として来ていた。
片足を失ったRCはもんどりうって倒れると、逃げる事を止め、その場からプロトン砲を放ってくる。
「おっと、これなら走らせていた方が良かったかな?」
UNKOUWNはあっさりプロトン砲を避けると機槍「グングニル」を振るって先頭のRCの首を刎ねた。
そして二人の後方に剣一郎のシュテルンが降下し、変形すると同時に機体を振り向かせると先頭を走る箱持ちムカデにハンマーボールを投げつける。
「全力移動ならば簡単には避けられまい」
ハンマーボールはムカデのコンテナをひしゃげながら吹き飛ばした。
後続のムカデはぶつかりはしなかったものの、その脚を鈍らせる。
「‥‥ん。時間との。勝負。迅速に。落とさせて。もらう」
その隙を逃さず憐がアテナイで牽制しつつ一気にムカデの懐に潜り込み、真ツインブレイドを旋回させてムカデの脚を纏めてたたっ斬り、そのままの勢いで胴体も真っ二つにする。
コンテナのゴーレムが重ガトリング砲を放ってきたが、憐は機体を僅かに引いただけで避けるとコンテナに飛び乗り、真ツインブレイドで銃身を斬り飛ばし、腕を切断し、胴体を両断して破壊する。
「良い一撃だ。続けて攻めるぞ!」
剣一郎は試作型「スラスターライフル」で次のムカデを蜂の巣にして破砕し、転げ落ちたゴーレムに憐が駆け寄り、真ツインブレードで滅多切りにした。
続いて剣一郎は敵編隊と併走すると、物理防御に特化したRCに高分子レーザーを連射。
RCの体に無数の穴が穿たれ、その度に体液が噴き出して地面を赤く染める。
それでもRCはしばらく走り続けていたが、やがてその歩みが遅くなり、遂には力尽き、息絶えて地面に倒れ伏した。
そこから剣一郎はスナイパーライフルを構え、憐に攻撃を加え様としていたゴーレムを狙撃。
更にスラスターライフルも掃射してゴーレムをムカデから叩き落とす。
「‥‥ん。ここで通行止め」
そこを憐が真ツインブレードでトドメを刺した。
「さて、少し踊ってみるか」
一方、UNKOUWNはするりとムカデの懐に入り込み、機体を捻ってソードウィングで脚を斬り落とし、ナックル・フットコートβを施された拳で胴体を粉砕し、コンテナのゴーレムにグングニルを突き立てると、そのまま一気に斬り裂いて真っ二つにする。
他のゴーレムがUNKOUWNに狙いを定めようとした時には既にそこに姿はない。
何時の間にかRCの側に移動していたUNKOUWNがRCを後ろからグングニルで串刺しにする。
ゴーレムは重ガトリング砲をK−111改に放ったが、UNKOUWNはRCを盾にして防ぐ。
そしてRCを蹴り飛ばし、ムカデの足元に転がして進行を妨害すると、体勢を崩したゴーレムごとムカデをグングニルで貫き、薙ぎ払う。
そうして敵中を水が流れる様に常に所定めず移動し、風に乗る様な流線を描いて攻撃を繰り出すUNKOUWNの通った後には累々と敵の屍が築かれてゆく。
「汝の信じる神の、恩寵あらん事を」
そうして敵編隊は3機のKVによって前方から瓦解を始めたのだった。
その頃、後方では
『お、今日は戦ってくれるのか?』
グリムが接近してくる由梨のディアブロを見て、嬉しそうに迎え撃つ構えを取った。
「えぇ。前々回はその力の前に不覚を取り。前回は他の対処に負われていましたけど。三度目の機会を易々と見逃すわけにはいきませんからね」
『じゃ、遠慮なくいくぜ!!』
グリムは斧を振りかぶり、上段から叩き落してきた。
由梨は半歩横に移動してギリギリで避けると、そのままのグリムの懐に入り込もうとする。
「これだけ長い斧です。懐に入れば使えないでしょう」
だが、不意に背後から殺気を感じ由利は咄嗟に機盾「リコポリス」のブースターを噴射して機体を横に流した。
その直後、先程まで自分がいた所を斧の刃が通過し、グリムのゴーレムの手元に戻ってゆく。
『ほぉ、よく避けたな』
どうやらグリムの斧は柄が伸縮自在な作りになっている様だ。
「‥‥ずいぶん変わった武器を使うのですね」
由梨は構わず更に間を詰め、グリムが突き出してきた斧を身を反らして避けた。
だが、グリムはそこから斧を横に薙払う。
「くっ!」
由梨は盾で受けると同時に斧を上に跳ね上げ、更に前に踏み込む。
そしてアグレッシブ・フォースを付与したグレネードランチャーをグリムの更に前を走るムカデに向かって放物線を描く様に撃ち放った。
グレネードはちょうどムカデでムカデの間で炸裂し、2機のムカデを破壊すると同時にゴーレムをもズタズタに引き裂く。
「やってくれたな。だが、もう余所見をする暇は与えねぇ!」
グリムは斧を上段に振り被りると、連撃を放ってきた。
「こちらも余所見をするつもりはもうありません」
由梨は高出力ブースターと盾のブースターを駆使して連撃をくぐり抜けると、練剣「白雪」をグリムの乗るムカデに突き立て、一気に斬り裂いた。
真っ二つにされたムカデは各所で爆発を起こし、その影響でコクピットにも紫電が走ってアチコチ小爆発を起こす。
「熱いニャーー!! 爆発するニャーーー!! グローリーグリム様助けてニャーーー!!」
ケットシーが自慢の毛皮を焼け焦げさせながら悲鳴を上げる。
『おら!』
グリムはムカデのコクピットに拳を叩き込んで貫くと、ケットシーを摘み上げてムカデから飛び降りた。
その直後、グリムのゴーレムの後ろでムカデが木っ端微塵に吹き飛んだ。
ケットシーは大慌ててでゴーレムの腕を伝い、グリムの開けたコクピットに飛び込む。
「し、死ぬかと思ったニャ〜〜‥‥。ありがとうございますニャ、グローリーグリム様」
「あぁ〜! うっとおしいから引っ付くな!」
グリムは半泣きになって擦り寄ってくるケットシーを振り払って操縦桿を握り直した。
後方の残りのメンバーは由梨がグレネードで倒したムカデの更に前のムカデを倒そうとしていたが、移動しながらなうえ距離も遠いため上手く命中させる事が出来ないでいた。
そのためもっと前に出たいのだが、ゴーレムやRCが立ち塞がるため距離を詰める事が出来ない。
「‥仕方がありません。先に目の前のゴーレムとRCを排除しましょう」
新居はそう判断すると敵の最も密集している場所にグレネードを撃ち込んだ。
グレネードの爆発で体勢を崩したゴーレムの1体に小夜子が高分子レーザー砲とアテナイで、憐華がスナイパーライフルD−02で、つばめが対空機関砲「ツングースカ」で集中砲火を浴びせかける。
しかしゴーレムは穴だらけになりながらも重ガトリング砲で反撃してきた。
「危ない!」
咄嗟につばめが機盾「レグルス」を構えて飛び出し、銃弾を受け止める。
「せっかく追いついたんですから逃がしませんよ」
憐華は後を追いながらスナイパーライフルをリロードすると、ゴーレムの脚部を狙撃。
脚を撃ち抜かれたゴーレムはバランスを崩して倒れ伏したが、その場で身を捻って重ガトリング砲を憐華に向ける。
「させません!」
しかし敵が撃つよりも先に小夜子がガトリング砲「嵐」を掃射。
数十発もの銃弾がゴーレムの腕をズタズタにし、内何発かが重ガトリング砲にも命中して暴発させた。
「今だ!」
つばめはその隙を逃さず駆け寄ると、ハイ・ディフェンダーでゴーレムの装甲を斬り裂く。
「これでトドメです」
その傷跡に新居が高分子レーザーを撃ち込み、ゴーレムの内部機構を焼き切って機能停止させる。
そうしてゴーレム1機仕留めた所で前方にUNKOUWNが片足を奪ったRCが見えてきた。
「新居さん、あれは?」
「どうやら動けない様ですね。プロトン砲だけ潰してトドメは後で刺しましょう」
小夜子と新居は高分子レーザーでRCの背中のプロトン砲だけ破壊してそのまま放置した。
一方、つばめが前面に立ってゴーレムからの攻撃を防ぎながら憐華がスナイパーライフルで狙撃していると、併走を続けるだけだったRCが不意に憐華に襲いかかってきた。
「!?」
憐華は咄嗟にスナイパーライフルで防ごうとしたがRCにパワーで押し切られ、強靱な爪で装甲を抉られる。
RCはそこから大顎を開いて、食らいつこうとしてきた。
「食べられるものですか!」
憐華は空戦スタビライザーを起動するとGFソード首に突き立てて押さえ込む。
だが、RCは首から体液を滴らせながらジリジリと大顎を力任せに近づけてくる。
「く‥やはり私の機体では接近戦は‥‥」
「王さん!」
そこにつばめが駆けつけRCの背後からハイ・ディフェンダーで斬りつけた。
そしてRCの力が緩んだ瞬間、憐華はGFソードで一気に咽を斬り裂くと同時に近距離からスナイパーライフルを放ち、RCの頭を吹き飛ばす。
「ありがとうございます九条院様。助かりました」
その頃、由梨とグリムはまだ戦い続いていた。
由梨は出来る限りグリムと間合いを詰め、斧をかいくぐっては練機刀「月光」で一撃を加える、後の先で戦っていた。
グリムの攻撃を避ける事は由梨にとっては難しくはないが、あの斧から繰り出される攻撃の破壊力はすさまじく、決して油断できる相手ではない。
由梨はここまでグリムの攻撃を全て避けきり、何度となくグリムに傷を負わせたが、ほとんどが軽傷で、大振りの隙を突いて叩き込んだ白雪での渾身の一撃でも致命傷は与えられなかった。
「ゴーレムに乗っていてもタフなのは変わらずですか‥‥」
『そういうお前は相変わらずすばしっこいな』
「グローリーグリム様、言い難い事にゃのですが、味方が全滅しそうですニャ」
「ん?」
周りを見ると、戦列が壊滅寸前になっていた。
「こりゃヤベェな‥‥。コイツとの勝負に夢中になりすぎたぜ」
「このままだと我輩たち袋叩きニャ。我輩まだ死にたくないニャ! 何とかして下さいニャーー!!」
「いててっ! コラッ! 爪立てんな!」
グリムはしがみついてくるケットシーの頭を掴んで引き剥がす。
「しかたねぇ、そろそろ終わらせるか‥‥」
グリムは斧を大きく振りかぶって肩に背負うように構え、一気に袈裟掛けに振り降ろす。
由梨は斧の機動を見切って避けると白雪をゴーレムの脇腹に抉り込んだ。
「破っ!」
それは今までで一番の深手だったが、グリムは構わずディアブロの腕を掴んで押さえ込む。
「なにを?」
『こうすんだよ!』
グリムはコクピットを開け放つと、正拳突きでソニックブームを放ち、ディアブロの頭部を破壊した。
「なっ!?」
そしてモニターが一瞬ブラックアウトを起こした瞬間、グリムがディアブロを蹴り飛ばして距離を取る。
「くぅっ!」
モニターはすぐにサブカメラに切り替わって復旧したが、目の前にゴーレムの姿がない。
すぐにレーダーを確認すると反応は上空にある。
見ると、グリムのゴーレムは空に浮かんでいた。
『もうちょっとやり合いたかったが、さすがにこの人数は相手にできねぇからな。今日は引かせて貰うぜ』
グリムはそう言い残して飛び去ってゆく。
「ふふ‥」
「ん、どうした?」
不意に笑みを漏らした由梨に剣一郎が不思議そうに尋ねる。
「いえ。グリムを逃した事は悔しいのですが、心の内で『これでまた次に戦う機会が生まれる』という期待もあるのが、自分でもまったくもって度し難いと思ったもので」
由梨は空の彼方で小さくなったグリムのゴーレムを仰ぎながら自嘲気味な笑みを浮かべたのだった。
その後、残敵も掃討した傭兵部隊は敵の残骸の捜索を行った。
しかし敵機の主要機関は今までの例に漏れず全て自壊しているし、有益そうな物も何も見つからない。
「どうやら基地の戦力を逃がす事だけが目的だったみたいですね」
状況から新居がそう予測する。
「何か有益な情報があるか、敵の関係者を捕まえられるかと思ったのですけど‥‥」
小夜子が少し落胆した様子で呟く。
「ともあれ、皆お疲れ様だ」
「ふぅ‥‥胸が苦しいです」
「‥‥ん。お腹。空いた」
「ふ‥」
剣一郎が労いの言葉をかけると、憐華はパイロットスーツの拘束を緩め、憐はぐ〜と鳴るお腹を押さえ、UNKOUWNはシニカルな笑みを浮かべてタバコに火をつけたのだった。