●リプレイ本文
リサ・クラウドマン(gz0084)の頼みを受けて満開の桜が咲き誇る公園に集合した8人はさっそく屋台を組み立て、それぞれ出し物の準備を始めた。
石動 小夜子(
ga0121)と新条 拓那(
ga1294)と水無月 春奈(
gb4000)が作るのは回転焼き。
「回転焼き」「今川焼き」「大判焼き」等々、各地方で呼び名の変わる食べ物であるため、名前の数だけ幟を用意して屋台の周りに立て、何処の出身の人でも分かる様にすると同時にお客の興味も惹ける様にした。
「うん。昔からこういう雰囲気は好きだね。お祭り男ってヤツ? ほっといても体が動くというか‥‥」
店構えを見た新条が身体をうずうずさせる。
3人が用意した具は、つぶ餡、白餡、ごま餡、うぐいす、カスタード、チョコ、ツナマヨネーズ、そして
「春奈ちゃん。この緑の具はなに?」
「東北の『ずんだ』です。あんこの代わりに入れてみたりしましたが‥どうでしょうか?」
春奈が試作品として作った物を3人で食べる。
「あ‥美味しいですね」
「うん、これなら十分売り物になるね」
そして全種類を幾つも焼き上げ開店準備が整った。
「さーぁ皆さんいぇらっしゃい! 桜にも勝る美女二人の作った美味しい回転焼き。食べられるのはこちらだけ♪ 早い者勝ちっすよー!」
新条が威勢のいい声を上げ、通行人の何人かが振り返る。
‘美女’という言葉に反応した者達は本当に美女が2人いたので、大半が屋台に喰いついて来た。
そうして順調なスタートは切ったが、売れ筋は、あんこ、チョコ、カスタードといった定番メニューで、ツナマヨネーズとずんだはまだ一つも売れていない。
「この2つがなかなか売れませんね」
「鯛焼きの中身の時は美味しかったですから回転焼きにも合うと思うのですけど‥‥食べてもらわないと美味しさはお客さんに分かりませんし‥‥」
そんな時にやってきたお客の一人が春奈の顔をジーっと見つめてきた。
「どうされましたお客様?」
「いえ、何処かで会った事ある気がしたんで‥‥」
変装しているため気づかれていない様だが、この客はIMPの春奈を知っている様だ。
「どこにでもある、ありふれた顔ですからね。それより、このずんだがお勧めですよ」
春奈はサラリとかわすと、ずんだを薦める。
「ずんだって何ですか?」
「枝豆を磨り潰した物です。美味しいですよ。騙されたと思って一度食べてみて下さい」
「じゃあ、それを一つ」
「ありがとうございます。じゃあさっそく食べてみて下さい」
「えっ、今ですか?」
「はい。ささ、遠慮せずどうぞ」
「じゃあ‥‥」
お客が春奈の押しに負けて食べた。
「‥あ、ホントに美味しい」
「ありがとうございます。こっちのツナマヨネーズも美味しいですよ」
「じゃあ、そっちも貰います」
「へぇ〜‥美味いのか」
「私も買ってみようかな‥」
そんな春奈とお客のやり取りを見ていた他のお客もずんだやツナマヨネーズを買っていってくれた。
「水無月さんは商売がお上手なんですね」
小夜子が感心した様子で春名を見る。
「いえ、それほどでもないです」
そして何時の間にか2人の美女がいる屋台の回転焼きが美味いと口コミで広まり、買い求める客が次々と訪れるようになったのだった。
フィオナ・フレーバー(
gb0176)とリヴァル・クロウ(
gb2337)とリサは焼鳥屋だ。
「リサさんこれに着替えてもらえるかな」
フィオナが前掛けに“やきとり”と描いてある和服をリサに渡す。
「わぁ〜、なんだか本格的ですね」
渋い顔をされるかもと思っていたフィオナだが、リサの反応は悪くない。
「私も着るから着替えに行こう」
「はい」
そして戻ってきた二人はすっかり旅館の女中さんの様な姿になっていた。
「ほぉ‥似合うな」
2人を見てリヴァルが感心した様子で頷く。
「どっちが?」
「それは‥‥2人ともだ」
フィオナが意地悪く尋ねると、リヴァルが困リ顔でそう答える。
「ま、そういう事にしておいてあげる。じゃ、焼き始めよう」
炭火を熾し、ある程度の本数が焼きあがった所で開店。
「炭火焼きの本格焼き鳥ですよ〜」
「1本いかがですか〜」
フィオナとリサが愛想を振り撒きながら呼び込みをし、リヴァルが黙々と焼き続ける。
売り子や匂いに釣られて買ってくれる人はいるが、売れ行き自体それ程よくない。
「胸肉なら高タンパク低カロリーで健康にもいいですよ。お一つどうですか?」
女性にはそう言って声をかけるが、思ったほど売れない。
「う〜ん‥あまり売れないですね」
「味は悪くないから問題は認知度だと思うの。だからちょっと出張販売してくるね」
フィオナは焼きたての串を抱えて花見の団体客の元に向かった。
そして1本まず食べて貰って、美味しかったら人数分買ってもらうという手法で売り歩く。
それを3回ほど繰り返すと、お昼時には大勢のお客で賑わうようになってくれた。
セシリア・ディールス(
ga0475)と九条院つばめ(
ga6530)と最上 憐 (
gb0002)はクレープの屋台担当。
「‥‥ん。屋台を。食べる為に。手伝い。頑張る」
「私、売り子さんって、一度やってみたかったんですよ。それに‥ディールスさんと一緒にお店ができるなんて、ますます楽しみです」
「私も楽しみです‥宜しくお願いしますつばめさん。私は主に調理を担当します‥。接客は‥笑顔無しにはむかないのでしょうから‥‥」
セシリアはさっそく下拵えにクレープ生地の元を作り、デザートタイプ用のフルーツ類を一口大にカットし、サラダタイプ用に野菜を切っておく。
そうしてトッピングの準備が出来たところで次はクレープの生地を焼き始めた。
熱した鉄板の上に生地の元を乗せるとヘラで丸く広げて焼く。
「ディールスさん、上手ですね」
「つばめさんも‥やってみますか?」
セシリアが横で見ていたつばめにヘラを渡す。
「それじゃあ‥‥」
つばめはセシリアを真似て焼いてみたが、歪な円の生地になってしまった。
「あらら、失敗しました。ごめんなさい」
「いえ‥大丈夫です。これは‥試食に使いましょう」
「‥‥ん。試食なら。私がする」
すかさず憐がズビシッっと手を挙げ、セシリアの作った試食品をペロリと食べる。
「どうですか、最上さん? 美味しいですか?」
「‥‥ん。とても美味。これなら。何枚でも。食べれる」
心配そうに尋ねるつばめに憐がサムアップして答えた。
つばめは練習を兼ねて生地を焼くと一通りのメニューを作り、全て試食した憐から美味とのお墨付きを貰う。
「最上さんも練習しますか?」
「‥‥ん。いい。私は試食。じゃなくて。客引き専門。大丈夫。100人位。連れてくる」
そして開店となり、ウサ耳&メイド服姿の憐が店の前に立つ。
「‥‥ん。そこの人。ちょっと。こっちに来て‥‥一名様ご案内」
憐が早々にお客を一人(多少強引ではあったが)ゲットしてきた。
「いらっしゃいませーっ! 種類豊富な美味しいクレープ、いかがですかーっ!」
つばめも負けじと声を上げて客引きを始め、セシリアが生地を焼いてクレープを作る。
ウサ耳メイドの可愛い女の子、明るく元気なスマイルの美少女、クールビューティー、と3拍子揃った看板娘のいるこの屋台はすぐに盛況になった。
売れ筋はやはりシンプルなジャムやソース、バナナやオレンジなどのフルーツ系、アイスクリームに生クリームをトッピングした物などの定番タイプだが、お昼時になるとレタス&ツナや、ドライカレー、じゃがいも&ベーコン&とろけるチーズなどを組み合わせたおかず系クレープも売れ始める。
3人はずっと休む間もなく忙しく働き続け、一息つける様になったのはお昼を過ぎた頃だった。
「やっとお客さんが引きましたね。今の内に交代で休憩にしましょう」
「‥‥ん。この時間を。待っていた。全力で。屋台を。食べて来る」
そう言って憐は園内の屋台を駆け巡り始めた。
「‥‥ん。面倒臭いので。鉄板から。直接。口に。放り込んで。欲しいかも」
「‥‥ん。もう。終わり?。そう。ご馳走様。次の。屋台に。向かう」
そして全ての屋台を梯子してきた憐は休憩時間内に食べ切れなかった分は手に抱えて戻ってくる。
「‥‥ん。店番。代わる」
「それでは‥お願いしますね」
隙を見ては物を食べつつ接客する憐に少し不安を覚えつつも、生地の作り置きを多めに作って休憩に入ったセシリアはゆっくりと花見を始めた。
「満開の桜‥花吹雪‥とても綺麗、です‥‥」
しかしセシリアの胸には一抹の寂しさが
(「どうせならあの人と、一緒に見たかったな‥‥その方が、もっと桜が綺麗に見えそう‥‥」)
そんな風に思ってしまう自分を不思議に思いつつ歩みを進めると屋台が見えてきた。
「ちょっと偵察していきましょう」
軽い気持ちで屋台を覗いたセシリアだが
「ふむ‥美味しそうな物‥色々、ですね‥あれもこれも強敵なのです‥」
結局ちゃっかりバッチリ色々食べ物買い込んでしまっていた。
次に休憩になったつばめは、まずリサ達の焼き鳥屋台の様子を見に来た。
「お疲れ様です。これ、差し入れです」
「コレ、つばめさん達が作ったクレープですか。ありがとうございます」
「ちょうど甘い物が欲しかったから嬉しいぃ〜」
3人は貰ったクレープをさっそく食べ始める。
「そうだ九条院さん。リヴァルとリサさんを休憩させたいから、ちょっとお店手伝って貰えないかな?」
「おい、フィオナ。九条院も休憩中‥」
「いいですよ。私もクラウドマンさんに日頃の恩返しをしたかったですし」
リヴァルはフィオナを嗜めようとしたが、つばめは快諾してくれた。
「そうか‥。すまんな、九条院」
「ありがとうございます、つばめさん」
2人はまず新条達の回転焼き屋にやって来た。
「お邪魔します」
「どうやら繁盛しているようだな」
「おや、いらっしゃい。二人で休憩かい?」
「お疲れ様です」
「丁度いいので食べていかれますか? 納豆入りの物などいかがでしょう?」
春奈が2人に回転焼きを差し出す。
「納豆‥‥ですか?」
「それは‥うまいのか?」
2人は表情を曇らせながらも受け取ったが食べる様子はない。
「‥冗談ですよ。流石に、そういう物は作っていませんから」
春奈が2人の顔を見て微笑を浮かべる。
それから2人は他の屋台で買った物を分け合って食べながら桜を眺めた。
「リヴァルさん。あの‥‥ちょっと甘えてもいいですか?」
やがて食べ終えたリサが少し恥ずかしそうにお願いしてくる。
もちろんリヴァルに断る理由などあろうはずもない。
「あぁ‥」
「ふふっ」
リサが嬉しそうに微笑んで身を寄せ、リヴァルもリサの肩に手を回す。
触れ合った所から互いの温もりが伝わってくる。
とても、暖かい。
「‥‥桜、綺麗ですね」
「あぁ‥綺麗だ」
そう言いつつ、リヴァルの目はリサに向いていた。
リヴァルは最近、自分の不注意でロクな事がなかったが、こうしてリサと過ごしていると心が安らいでくるのが自分でも分かる。
そうして2人は休憩時間のギリギリまで身を寄せ合って桜を眺めたのだった。
戻ってきた2人と交代し、新条達の所に来たつばめは今度は自分から手伝いを買って出た。
「いいんですか、九条院さん?」
「はい。3つの屋台で売り子さんが出来るっていうのも役得ですから」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「どうぞ、存分にラブラブちゅっちゅしてきて下さい」
「ラブラ‥‥」
春奈にからかわれた小夜子が顔を真っ赤にさせる。
「はは‥じゃあ店番は頼んだよ」
新条と小夜子は賑やかな場所を避け、静かに桜の見られる場所へと足を向けた。
「今度は‥私も二人で一緒に見に来たいな‥‥」
手を繋いで桜並木に消えてゆく2人を見て、つばめは少し羨ましく思った。
「もう桜が満開の時期なのですね‥」
小夜子が桜を見上げて目を細める。
「ふふ‥そういえば去年もこうして桜の並木道を歩いたでしょうか」
「そうだね。小夜子のお弁当食べて、今みたいに手を繋いで‥‥」
新条は小夜子に微笑みかけ、また一緒に桜が見られた事に心から感謝した。
「‥これからもずっと、一緒に歩いて行けたら、嬉しい、です」
小夜子が頬を染めながら繋いだ手にきゅっと力を込める。
「俺もだよ。こんな時代でも桜は変わらず綺麗で、小夜子も変わらず傍に居て‥。はは、これって最高の奇跡だね♪ ありがとな、ホント。大好きだよ」
小夜子への熱い想いが込み上げてきた新条は思わず小夜子を抱きしめる。
「あの‥私も‥‥大好きです」
突然の事に驚いた小夜子だが、自分もそっと新条を抱きしめ返した。
その後、どの屋台でも客足は絶える事はなかったが、徐々に店仕舞いの時間が迫ってくる。
「よし! ラストスパート」
フィオナが残っていた焼き鳥を次々に焼き始めた。
「おい、フィオナ。今からそんなに焼いて売り切れるのか?」
「だって残してもしょうがないでしょ。それに」
「ん?」
フィオナが指差す方に目を向けると、そこには獲物を狙う鷹の様な目で見ている憐の姿があった。
「‥‥ん。余った物は。私の胃が。処理するから。安心」
「‥‥分かった。存分に焼け」
憐の視線に負けたリヴァルが許可を出す。
もちろん、その焼き鳥の大半は売れ残って店仕舞いの時間となった。
「皆さんお疲れ様でした」
『お疲れ様でした〜』
皆、心身共に疲れ切っていたが、その顔には達成感に満ちた笑みが浮かんでいる。
「さぁ、お掃除を始めましょう」
そして片付けが終わると
「みんな、今からお花見しない?」
フィオナがそう提案してきた。
いや、缶チューハイと焼き鳥の乗った大皿を持っている時点で既に決定事項に近い。
反対意見が無かったので皆で桜の下で車座になり、屋台の売れ残りが置かれる。
「それではカンパーイ!」
『かんぱーい』
そしてフィオナの音頭で花見という名の宴会が始まると、憐がさっそく焼き鳥を食べ始めた。
「‥‥ん。おかわり。もっと。おかわり。どんどん。じゃんじゃん。おかわり」
「んー、仕事終わりのお酒っていいよね〜」
フィオナも缶チューハイをちびちび飲みながら焼き鳥を食べる。
「フィオナ。お前、日本文化を何か勘違いしているだろう。花見とは本来‥‥」
「まぁまぁ、細かい事はいいじゃない。ほら、リヴァルも飲みなさいよ」
リヴァルの手にも缶が渡された。
「私も飲みたいです」
「フィオナちゃん、俺にもくれるかな」
そしてリサや新条も飲み始める。
(「フィオナは酒がはいるといつもよりのんびりし始めるので、だらだらと長引く前に終わらせるつもりだったが‥‥」)
他の者まで飲み始めたなら仕方がないとリヴァルも飲み始めた。
もちろん飲んでいない者も桜を見て、食べて、今日の事を歓談して、それぞれに楽しい時を過ごしている。
「‥こういう状況が、ずっと続いていくと良いのでしょうね。この風景を守るためにも‥努力をしていかなくてはなりませんね‥‥」
春名は穏やかで、楽しげで、にぎやかに花見をする人達を眺めながらそう思うのだった。