●リプレイ本文
サンタカタリナ島に足を踏み入れた一行の目に緑に覆われた島、青い空、青い海、白い砂浜が渾然一体となった風景がパノラマで迫ってくる。
「うわぁ〜! 島も、海も、ぜーんぶ素敵な所で、一足お先に夏気分だねっ♪」
眼前の雄大な景色に鈴木悠司(
gc1251)が感嘆の声を上げた。
「‥‥こんなに南の島でのんびりと過ごせるなんて‥夢みたいですね。‥‥お仕事ですけど」
水無月 春奈(
gb4000)の言葉には暗に仕事でなければもっと良かったのにという響きがある。
「海‥‥か。何時もなら修行をしていたものですが、其れが今ではこうして遊びをしている。変われば変わるものです」
海を眺めていると昔の事が思い起こされる御剣雷光(
gc0335)だった。
「ここでハーニーくんとデートできるんですね! ホントなんですね! やったー!!」
去年のバレンタインにアルト・ハーニー(
ga8228)と恋人同士になったものの、今までデートする機会のなかったクリス・ディータ(
ga8189)は溜まりに溜まった鬱憤を盛大に晴らそうと今からハイテンションだ。
「俺もクリスとのデートをずっと心待ちにしてたから楽しみだ。でもその前に仕事を片付けないとな、と」
「うん、ちゃんとお仕事もするよ」
一行はリサ・クラウドマン(gz0084)にホテルまで連れられ、そこで昼食を食べながらスタッフと撮影の打ち合わせを始めた。
だがそこで問題が一つ発覚する。
リサと共に『カップルが良い雰囲気でいる写真』を撮る予定だったリヴァル・クロウ(
gb2337)がシチュエーションをカメラマン任せにするつもりで考えてこなかったのだ。
「‥‥リヴァルさん、いくらカメラマンさんがプロでも何も指定なしでは撮れませんよ」
「では‥テニスをしたり、海でダイビングや泳いだりする所を指定させてもらおう」
リヴァルはリサと遊ぶ予定の行動を挙げたが、カメラマンからそれでは指示された場面は撮り辛いとダメ出しされる。
「はぁ‥‥。アルトさん、クリスさん、すみませんが代役を頼めませんか?」
「え、俺達が?」
「えっと‥‥そういう所を撮られるのはちょっと恥ずかしいかな。‥‥でも、ハーニーくんがいいなら私はいいよ」
「俺も‥クリスがいいなら構わない」
「ありがとうございます」
2人から承諾を得られたリサはほっと安堵の笑みを浮かべた。
一行は水着に着替えると砂浜に集合し、まずアルトとクリスの2人の撮影を行う事になった。
アルトは埴輪柄のボクサーパンツタイプの水着で、クリスは黒のビキニだ。
「何かカメラの前でするのは微妙に恥ずかしい気はするが、まあ気にしなければどうということはないか」
「そうだね‥‥。椰子の木だとでも思って気にしない事にするよ」
カメラマンやスタッフを気にしてチラチラ横目に見ていたクリスだが、意識を目の前のアルトにだけ集中させた。
「それよりクリス、その水着なかなか似合ってて綺麗だぞ、うん」
「うん、ありがとう。‥‥嬉しいよ」
クリスが顔をやや赤くしてもじもじする。
アルトに喜んで欲しくてビキニにしたのだが、見られるとやっぱり少し恥ずかしい。
一方、アルトもクリスの水着姿にやや照れ気味だ。
「あの‥‥ハーニーくん、日焼け止めを塗ってくれる。わたし肌が白いから焼けちゃうと嫌だから‥‥」
「ん、日焼け止めか? それを塗るのか、了解だぞ、と」
「じゃ‥お願い」
クリスがビーチマットにうつ伏せに寝そべって、ブラ紐を解いて背中を露にした。
平静を装っているが、本当は羞恥と緊張で心臓が破裂しそうなくらいドキドキしている。
「‥‥(ごく)」
クリスの白磁の様に滑らかな背中やマットに押しつけられた豊かな胸を目の当りにしたアルトは思わず生唾を飲み込んだ。
全身から汗が噴き出し、咽が妙に渇くのは暑い日差しのせいだけではないだろう。
アルトは緊張しながらもクリスの背中にそっとオイルを塗り始める。
すると
「ひゃんっ」
オイルの冷たさでクリスが可愛い悲鳴をあげた。
「す、すまんクリス!! へ、変な所を触ってしまったか!?」
「ち、違うのハーニーくん! オイルが冷たかっただけだから、気にしないで続けて‥‥」
「そ、そうか‥‥」
アルトはバクバクと拍動している心臓を抑え、オイル塗りを再開した。
そしてどうにか塗り終わると、今度はクリスがアルトにオイルを塗る。
「はい、終わったよハーニーくん」
「サンキュー。よし、クリスせっかく海に来たんだ。水遊びするぞ。遊ばないと勿体無いしな」
「あ、待ってよハーニーくん!」
2人は海辺まで追いかけっこすると、今度は水のかけっこを始める。
「そーら、クリス!」
「キャ! 冷た〜い」
そうしてキャッキャウフフと水遊びをする様子もカメラマンが激写し、2人の撮影は終了した。
次にダイビングを楽しんでいる場面の撮影のため、船で少し沖へ向かう。
参加するのは白いワンピース水着の石動 小夜子(
ga0121)、黒いサーフパンツの新条 拓那(
ga1294)、顔が見えるようにと素もぐりに挑む春奈、オーダーメイドのセパレーツタイプのスクール水着の雷光、ウェットスーツ姿の悠司の5人だ。
ダイビングポイントに到着した5人は装備を付け、カメラマンと共にいざ海の中へ。
透明度が高く澄んだ海中には海底からジャイアントケルプがまるで柱の様に聳え立ち、鮮やかな蒼の世界が広がっていた。
その葉の間を様々な魚達が優雅に回遊し、更なる彩を与えている。
(「うわぁ〜‥‥煌く海、綺麗な魚達、凄く綺麗でサイコー!」)
その光景に興奮した悠司がさっそくケルプの間を泳ぎ、魚達を追いかけ始めた。
「海の中ってすっごいね、小夜ちゃん! ホントに別世界みたいでさ」
拓那が小夜子にそう言おうとしたが、シュノーケルを付けた状態ではそれは叶わない。
でも小夜子は言いたい事を汲み取ってくれたらしく、ニッコリ微笑んで頷いてくれた。
拓那も頷き返して『使い捨てカメラ専用防水ケース』を取り出すと、小夜子が照れながらもポーズをとってくれる。
(「小夜ちゃん‥まるで人魚姫みたいだ‥‥」)
思わず見とれそうになりながら拓那はシャッターを切った。
雷光が魚を呼び寄せようとエサを取り出すと、あっと言う間に魚が群がってきた。
(「こんなに集まって来るなんて‥‥」)
魚だらけで前が見えなくなる程だ。
しかもエサだけでなく体まで啄ばまれるのでくすぐったいが、雷光は気にせず魚と戯れた。
春奈は偶然見かけた海亀と一緒にのんびり泳いでいた。
(「本当に海亀に会えるなんてラッキーです」)
その光景のカメラマンが撮影しようとする。
IMPとして撮影には慣れている春奈だが、水中撮影はさすがに初めてだ。
それでもカメラを向けられればニッコリ笑顔を浮かべる事は忘れない。
(「海の中でもちゃんと笑えているでしょうか? でないと素顔で潜った意味がないですからねぇ‥‥」)
そうして5人が存分にダイビングを楽しんだ所で撮影終了。
「ご苦労様でした」
船に戻ると小夜子が用意していたタオルをスタッフに配る。
「あぁ、ありがとう」
「さすが小夜ちゃん、気が利くね」
「いえ、そんな‥‥皆さんもどうぞ」
小夜子は照れながら4人にもタオルを手渡した。
「皆さん、お疲れ様でした。後は夕食の場面の撮影だけですので、それまでは自由にして構いませんよ」
リサの言葉を聞いた春名はパーカーを羽織ってキャップをかぶり、釣り道具を手に取る。
「では私は釣りを楽しんできます」
そして岩場に移動するとさっそく釣り糸を垂らした。
「さて、バーベキューに使えそうなものが釣れれば良いのですが‥‥」
そう思った直後に引きが来た。
「この手応えは‥大物の予感が!」
こうして春奈は思う存分釣りを満喫したのだった。
「俺はイルカウォッチングに行ってくるよ。きっと凄く楽しい風景だと思うんだよね。ダイビングで海の中は満喫したけど、まだまだ楽しみたいからね♪」
悠司はイルカを求めて再び船に乗り込み、沖へ向かった。
「私は先に着替えて夕飯の手伝いをさせていただきます。一線を退いたとはいえ、常に技は磨いていおかなければなりませんから」
雷光はシャワーで海水を洗い流して髪を乾かし、下着であるスリーインワンを身につけ戦闘用メイド服を着ると、漢の鉄下駄を履いて食事場へ手伝いに行った。
そして厨房の者達はまず雷光の衣装に驚き、次いで包丁捌きや料理の腕に驚嘆するのだった。
「リサ、よければテニスをしないか?」
リサのテニス姿を是非とも見たいと思っているリヴァルはリサを誘った。
「テニスですか? う〜ん‥‥せっかく目の前にこんな綺麗な海があるんですから、やっぱり海で遊びませんか?」
「そ、そうだな‥‥。では海で泳ぐとしよう」
しかしリヴァルの邪な望みはあっさりと潰えたのだった。
「はは、懐かしいな、こういうの。トンネルとか掘るの好きだったっけ」
拓那と小夜子は海岸で砂の城を作っていた。
「ふふっ、私も小さい頃はよく砂場で山やトンネルを作って遊びましたびましたけれど‥ここなら本格的な砂細工も出来そう、ですね。ちょっと立派なお城を作ってみましょう」
最初は子供っぽくて思えて照れたが、次第に結構楽しくなった。
そして立派な尖塔を持つ見事な城が完成する。
「はは‥熱中している内に大きくなっちゃったね」
「でも、高い城に挑戦するのも楽しかったです」
「そうだね。出来ればずっと残るといいのにな」
夕食の1時間半前になると、春奈がバーベキュー会場にやってきた。
「すみません。これもお料理に加えてもらえますか」
「‥‥大漁ですね」
春奈が釣ってきたクーラーボックス一杯の魚を見て雷光が驚く。
「それと台所も貸してください」
台所で春奈はマンゴープリンとかぼちゃの冷製スープを作った。
「とりあえず、デザートとスープくらいですか」
「‥‥見事な手際です」
「いえいえ、本職のメイドさんには叶いませんよ」
続いて鮭のちゃんちゃん焼きの準備を始める。
「ちょっとだけ、隠し球を‥。こちらにお味噌なんてないでしょうしね」
それから自分で釣ってきた魚を雷光と共にシーフードバーベキュー用に捌いてゆく。
「あとは‥バーベキューですから臨機応変‥といったところでしょうか」
「そうですね」
そうして2人が準備をしている間に残りのメンバーも集まった。
「皆さん、これが最後の撮影になりますが、撮影だという事は気にせず、存分に食べて飲んで騒いでください」
そしてリサの合図で撮影を兼ねたバーベキューが始まる。
「水無月さんは以前ご一緒した時も料理上手でしたもの。今回も楽しみ、です」
「これ美味いぞ、と。クリス、食べてみろよ」
「どれどれ‥ホントだ美味しー! でもこっちも美味しいよ。はい、ハーニーくん、あ〜んして♪」
アルトとクリスはここでもイチャイチャと仲睦まじい。
「新鮮な海産物は生でも火を通しても美味しいね」
「その魚は全て水無月様が釣ってきた物です」
「そうなのか、凄いな水無月」
「実は穴場だったのか、凄く釣れたんですよ〜」
春奈が得意気に胸を張る。
「ところで悠司さん、イルカは見れたんですか?」
「うん、見れたよ。向こうから寄ってきてくれたんだ。みんな人懐っこくてさ。一緒に泳いだんだけど、それが楽しくってね。つい時間を忘れそうになったよ」
悠司が手振りも交えてその時の様子をみんなに聞かせる。
「うわぁ〜俺もイルカと泳いでみたかったなぁー。ね、小夜ちゃん」
「ふふ‥そうですね。あ、拓那さん、頬が汚れていますよ」
小夜子は拓那の頬についた食べカスをハンカチで拭ってあげた。
「やっぱり料理が美味しそうに見える事、それに集まる皆が楽しげな事がポイント、かな?」
悠司は皆が自然と笑顔を浮かべて食事をしている様子を見てそんな事を思い、その光景をカメラマンが撮影してゆく。
そうして皆が料理を口にしながら今日の出来事を談笑している最中、リヴァルはこっそり抜け出して海辺に行くと腰を降ろし、ただ海を眺めた。
「リヴァルさん」
「‥リサ?」
だが、リサには気づかれていたらしく隣に腰を下ろしてくる。
「‥‥小野塚さんの事、考えていたんですか?」
「‥‥どうして分かった?」
「分かります。リヴァルさんの事ですから‥‥」
何気に嬉しい言葉だった。
「‥‥あの時、俺がサイエンティストなら救えたかもしれない。もっと効率的に事を運んでいれば助けられた。結局何もしてやれなかった。どうしてもそんな事ばかり、考えてしまう‥‥」
「‥‥すみません。私には何と言えばいいのか分からなくて‥‥」
「いや、何も言わなくていい‥‥。ただ、そばに居てくれ‥‥」
リヴァルはリサの肩を抱き寄せ、リサもリヴァルに身を預けた。
(「俺には能力者としての資質は在ったが資格はないのかもしれない‥‥。それでもリサだけは護りたい。どれだけ蔑まれようとも護り抜く」)
こうして撮影は無事に終了したが、出港まで少し時間がある。
「クリス、出港まで少し散歩でもするか」
「うん♪」
クリスはアルトと腕を組むと海辺の方に向かった。
「拓那さん、私達も散歩しませんか?」
「いいね、行こうか」
拓那と小夜子も手を繋いで海辺に向かう。
「一年前は戦火にまみれた島に、今はバーベキューの火と夕日の赤かぁ‥‥」
夕日が水平線を照らし、赤く染まった海と空を眺めながら拓那が感傷的な事を呟く。
「拓那さん?」
「いや、何でもないよ。平和に出来たんだなって思って‥‥」
「そうですね‥‥。平和になったこの島で‥拓那さんとこうして居られて、幸せです」
小夜子は拓那の腕を取って寄り添い、普段言えない感謝の言葉を伝えた。
「今日は2人で一杯遊べて楽しかったね、ハーニーくん」
「あぁ、なかなか楽しい一日だったな。また一緒に依頼受けられるといいな、と」
アルトが甘えてくるクリスの頭を撫でる。
「でも、まだ一つだけやり残してる事があるの‥‥」
「ん、クリスのお願いなら可能な限り聞くが、何だ?」
「‥ねえ、ハーニーくん。キス、して‥‥」
頬を紅潮させ、少し潤んだ瞳でクリスがアルトを見つめてくる。
「‥‥分かった」
アルトも真剣な表情をしてクリスの肩に手を置く。
肩の添えられたアルトの手が熱い。
顔も熱い。
心臓が息苦しいほどドキドキと高鳴っている。
そんな想いを抱えてクリスは瞳を閉じた。
夕日に照らされたクリスは何時も以上に可愛く見える。
アルトは胸の内でクリスへの想いが高鳴るのが分かった。
「‥クリス、愛してるぞ」
アルトが身を屈め、クリスの唇に自分の唇を寄せてゆく。
「ん‥‥」
暖かくて柔らかい感触が2人の唇を繋ぐ。
互いの温もりが、想いが、唇から伝わるようなファーストキス。
「ハーニーくん‥‥大好き‥‥」
やがて唇を離したクリスはぎゅっとアルトを抱きしめ、アルトも強く抱きしめ返した。
こうして様々な思い出をそれぞれの胸に残し、船は港を出港したのだった。