●リプレイ本文
イベリコ豚キメラを求めてジャングルを分け入って進む傭兵達一行。
「我々、能力者探検隊は順調に進んでいた‥が、その時! なーんてナレーションが入りそうな感じ?」
先頭を進む新条 拓那(
ga1294)はジャングルの雰囲気に気分が高揚しているのか実に楽しそうだ。
「こうしていると私達、夫婦みたいネ」
弓亜 石榴(
ga0468)が新条の腕に自分の腕を絡めてポッと顔を赤らめる。
「いや、石榴ちゃん。夫婦は普通ジャングルで腕組んだりしないから‥‥」
石榴と付き合いの長い新条は何時もの冗談だと分かっているのですぐに腕を解く。
「‥‥なるほど、こうしてふざけている振りをして他の者の緊張をほぐすんですね」
傭兵経験のまだ浅いガーネット=クロウ(
gb1717)はベテラン2人のやり取りをそう分析したが、石榴は本当にふざけているだけである。
ただ、石榴は今日は少し無理して明るく振舞っていた。
なぜなら少し前に心を通わせた友人を失ったばかりで、その心の傷がまだ癒えていないからだ。
(「悲しんでたって何もならないもんね。今は私に出来る事をしよう‥彼女の分まで」)
「イベリコ豚って‥‥あの豚? 今更ですけど、キメラって何の為に作られてるんでしょうか?」
「俺が以前戦った奴は戦闘用だったみたいだがな」
イース・キャンベル(
gb9440)の疑問にベルギーワッフルを食べ終えた赤月 腕(
gc2839)が体験談を語る。
「ホント、バグアも時折ワケのわからんことをしますよねぇ。ま、折角だからとっ捕まえて捌いて食ってみたいですな、元は高級食材だし」
「そうですね。余分に持ち帰るなりその場で食べるなりしてみたいですね」
亜(
gb7701)の意見にセバス(
gc2710)が同意する。
「お弁当も美味しかったですし、よし江さんのイベリコ豚キメラ料理も期待大ですね〜」
高速移動艇で飯田 よし江(gz0138)のスタミナ弁当を堪能した御闇(
gc0840)が豚料理にも思いを馳せる。
程なくして一行は森を抜け、眼前には巨大な河が広がった。
「うわっ! 広いなぁ〜‥‥。これホントに川?」
「カヌーは‥‥あそこか」
一行は川岸に繋ぎ止めてあるカヌーに2人一組で乗り込み、対岸に向けて漕ぎ出した。
「私は周囲を警戒しますのでキミはオールは頼みます。その為に、短めの物を用意しましたので」
ガーネットはショートボウを構えて川面を警戒し、イースもオールを漕ぎながら水面下を警戒する。
「無事に渡りきれるといいですねぇ‥」
亜も漕ぐのは赤月に任せ、やや不安そうな面持ちで川面を警戒していた。
そして一行が河の中程まで来た時、不意に水面に魚が顔を出す。
「鉄砲魚だ!」
魚に一早く気づいた亜が仲間に知らせ、超機械「タコヤキ」からエネルギー弾を発射。
直撃を受けた鉄砲魚は体を焼け焦げさせて河に沈んだが、他の鉄砲魚が次々と姿を現してウォータージェットを放ち、傭兵達やカヌーを撃ち抜いてゆく。
「わらわらと出てくるんじゃねぇよ!」
赤月は覚醒すると長弓「彩雲」を引き絞り、手近な魚を狙い撃ってゆく。
「船上での戦闘は‥ホントにやりにくいですねッ!」
セバスは揺れるカヌーに苦労しながらもシールドでカヌーを守り、御闇も盾で自分の身を守りながらスコーピオンを乱射する。
「キミは右側の敵をお願いします」
ガーネットも盾で身を守りつつ、敵の攻撃の合間に魚を射抜いてゆく。
「電磁波も電気ですし。上手くすれば、すごくよく通るかも知れない‥‥そら、行けっ!」
イースが超機械「守鶴」で放った電磁波は普段と変わらぬ威力しか発揮しなかったが、魚を焼き払うには十分だった。
「新条さん、カヌーは私が守ってるから早く倒しちゃって」
「よしきた!」
新条は石榴がカヌーを操って攻撃を避けている間に超機械γで電磁波を放って次々と魚を焼いてゆく。
そうして鉄砲魚を殲滅した一行が対岸まで後少しの距離まで来た時、カヌーの真下を巨大な魚影がゆらりと横切った。
「今のはひょっとして‥‥」
「ピラルクー‥‥だろうな。なんてでかさだ‥‥」
表情を強張らせた亜の問いに赤月が額に汗を滲ませながら答える。
「みんな、気づかれないようにゆっくりと‥でも出来るだけ早く進もう」
「‥了解」
声を潜めた新条の指示に従い、息の詰るような緊張感の中、オールを静かに漕いで進む。
そして一行はどうにかピラルクーに悟られずに対岸に到着した。
「ふぅ‥‥とりあえず無事に渡れて一安心ですね」
セバスは大きく安堵の吐息をつくと皆でカヌーを岸に上げ、木の葉や草で覆い隠す。
「帰りまで安全に置いとけますよーに」
石榴がポンと手を合わせて祈る。
「これよりスニーキングミッションを開始する‥‥言えた」
そして噛めずに言えた事に満足した御闇の言葉を合図に一行はジャングルに足を踏み入れた。
イースはジャングルに入ると『GooDLuck』を再使用した。
「少しでも、嫌な敵とは‥‥会いたくありませんしね」
それが功を奏したのかジャングルで最初に出会ったキメラはカピパラだった。
「カピパラだ!」
「可愛いぃ〜!」
その愛らしさに興奮した新条と石榴の目がカピパラに釘付けになる。
「ただ大きいだけで安全だって話だけどホントかな?」
「う〜ん‥‥どうだろ?」
そうしている間にカピパラが2人に気づき、キメラの本能に従い攻撃の意思を示した。
「あ、こっちに来る」
2人は一応構えを取る。
そして
ポムッ
「お、コイツ擦り寄ってきた。人懐っこいんだなぁ〜」
「たぶんそれ、体当たりだと思うんだけど‥‥」
嬉しそうにカピパラを撫で回す新条に亜がつっこみを入れた。
そして次に現れたヌートリアも攻撃を仕掛けてきたが、
はむはむ
「甘噛みしてきた。可愛いぃ〜♪」
「いや、それは噛み付いて攻撃してるんじゃないのか?」
石榴の間違った認識に赤月が一応つっこむ。
続いて木の上にナマケモノを発見したが気にせず通過する。
「密林が生物の宝庫ってのはホントだな。色々な動物がいるもんだ。今までの癒し系キメラなんかは豚とは別にお持ち帰りしたいよ」
「戦闘力も何もなく、ただ、かわいい‥‥だけ? な、何を考えてるんだ。バグアって‥‥」
新条は上機嫌で歩いているが、イースはあれらのキメラが作られた意図がまったく分からず懊悩していた。
「ナマケモノの詳細は分からずか‥‥」
一方、御闇はどんなキメラでも研究のために詳細なメモを取っていた。
その後、新条がバクに眠らされたが倒れた時に頭を打ってすぐに眼を覚ましたり
カメレオンの舌の攻撃で奇襲を受けたり
オオアリクイが立ちはだかって本格的な戦闘になったものの、全員大した怪我もなく沼に到着した。
「イカダを作り始めるぞ」
赤月とセバスはハンドアックスを使って周囲の木々を切り倒し始める。
「樹はあちらの腐葉土に倒せば音が小さくなるでしょうか」
その際、ガーネットが色々と指示を出して周囲の警戒を怠らない。
そして切り出した木を御闇と赤月が持ってきたロープで繋ぎ合せる。
「‥こんな時に不謹慎ですが、誰か私を拾ってくれた軍人を知りませんか?」
その作業の最中、ガーネットが申し訳なさ気に皆に尋ねた。
「え? 名前は何ていう人?」
「それが‥顔も名前も知らないのです」
ガーネットは分かっている限りの事を全て告げたが知っている者はいなかった。
「役に立てなくてゴメンね」
「いえ、元々それほど期待はしていませんでしたから気にしないで下さい」
そしてイカダが完成間近になった時、不意に何処からか ブブブッ という重低音が響いてきた。
「‥‥あっちから鳴ってるね」
「鬼が出るか蛇が出るか‥‥」
石榴が指差す方に亜が注意深く音源の方に超機械を向ける。
そして草むらから何かが飛び出すと同時に牽制のエネルギー弾を発射した。
だが、それはエネルギー弾の避けると猛スピードで石榴の顔面に目掛けて飛んできた。
「うひゃあ!」
石榴が間一髪頭を下げて避けると、それは後ろの木の幹に突き刺ささる。
「ヘラクレスです!」
それの正体を看破したセバスが旋棍「砕天」で叩き潰す。
しかしヘラクレスは草むらから次々と飛び出してきた。
「いったい何匹いるんだよっ!?」
傭兵達はイカダ作りを中断して迎撃態勢を取った。
「くそっ! 速い」
「当たらない‥‥」
だが、ヘラクレスは動きが速くなかなか捉える事ができない。
「‥‥どうやらコイツは肌が剥き身になっている箇所を狙っている様です」
ヘラクレスの動きを注視していた御闇がそれに気づいた。
「虫のくせに狡猾ですね」
「でも、それなら動きは読み易いです」
ガーネットは顔目掛けて飛んでくるヘラクレスの動きに合わせてエーデルワイスを振るって羽を引き千切り、地面に落ちたところを爪を突き立ててトドメを刺す。
他の者もそれぞれ動きを読んで確実に仕留めてゆき、ヘラクレスの脅威を退けた。
「よし、イカダの完成だ」
「では出発しま‥‥」
そしてイカダが完成したその時、御闇は木に角が刺さって動けなくなっているヘラクレスを発見してしまった。
「ヘラっ!」
思わず手が伸びかけたが、今から小さなイカダで沼を越えるのだ。危険なキメラを連れてはいけない。
「‥‥くっ! が、我慢だ‥‥」
御闇は後ろ髪を引かれつつもイカダに乗り込み、沼へ漕ぎ出したのだった。
そしてイカダが沼の中腹までくるとヤドクガエルがアチコチから顔を出し毒液を吐きかけてきた。
「汁が降りかかるだけでも、毒ですからね。こいつらは」
イースは盾で毒液を防ぎながら超機械でカエルを焼き払う。
他に盾を持つ者は自分や仲間を毒液から守りながら各自の武器で応戦。
石榴はハゴイタソードの広い刀身で毒液を払いつつハンドガンを放つ。
「ハゴイタソードにはこういう使い方もあるんだよ」
そうして戦いながら前に進んでいると、不意の全てのカエルが沼に潜ってしまった。
「‥‥どうしたんでしょうか?」
「なんだか嫌な予感がするけど‥‥」
その亜の予感は的中する。
沼の泥が盛り上がる程の巨大な何かがイカダに向かって来たのだ。
「アナコンダか!」
傭兵達はすぐに盛り上がった泥に向けて飛び道具と超機械を撃ち放つ。
だが蛇のスピードは衰えず、イカダの手前まで来ると泥を撒き散らしながら大きく鎌首を持ち上げ、顎を大きく開いてセバスに迫る。
「くっ!」
セバスは『疾風脚』を発動して呑み込まれる事は避けたが、牙が執事服と皮膚を引き裂く。
だがセバスは自身の傷には構わず旋棍を蛇の頭部に叩きつけた。
「私達は食べられる側ではなく、食べる側で来たのですよ」
軌道を反らされた蛇の頭部はセバスの脇の丸太に激突。
「うわっ!」
「転覆するっ!?」
イカダの片側が一瞬浮き上がったが、丸太が蛇の過重でへし折れたためイカダは何とか均衡を取り戻した。
しかしイカダの面積は3分の2程になる。
「もう一撃喰らったらバラバラになるかも‥‥」
「できれば沼に落ちるのは避けたいですね」
だが蛇は再び鎌首をもたげて傭兵達に襲い掛かってきた。
「俺に任せてよ」
新条は蛇の前に立ちはだかり超機械γで攻撃。
だが蛇は体を焼け焦げさせながらも新条に牙を剥く。
「おっと!」
新条は超機械γで蛇の牙を受け止めると頭を抱えて抑え込んだ。
「今だ!」
「よし!」
その隙を逃さずイースと亜が超機械で蛇の胴体を焼き、焼けた表皮をガーネットが爪で引き裂き、御闇の雲隠と石榴のハゴイタソードが傷口を更に斬り裂き、セバスが棍棒で背骨を叩き折り、最後に赤月がハンドアックスで渾身の一撃を叩き込む、蛇の体を両断する。
蛇はのたうちまわってイカダから落ちると、分かたれた上下の体は沼の奥底へと沈んでいった。
その後はキメラの襲撃もなく無事に沼を渡り終えた一行が再びジャングルを進む事1時間半。不意に視界が開けて草地が目の前に広がった。
そして草地では何頭ものイベリコ豚キメラが暢気に草を食んでいる。
「やっと辿り着いた‥‥」
イースが思わず安堵の表情を浮かべる。
「どうやらここの豚は人を喰ってなさそうだな」
赤月は前回の豚キメラの事をまだ引きずっているらしい。
「じゃあ狩ろっか。私が向こうから豚を追い立てるよ」
そして石榴が傭兵達の方に追い立てた豚を一人一匹ずつあっさり確保する。
「本当にただの豚、ですね。これ、キメラと呼ぶ必要あるんでしょうか。ただの品種改良した豚じゃあ‥‥」
「それに何でこんな厄介な場所に有名な豚が沢山いるかも謎だね? まさかバグアの養豚場? だとしたら中々にグルメだね」
イースと新条がアレコレ想像するが真相は分かりそうになかった。
「さぁて‥やりますか!」
腕まくりしつつ気合充分な亜を筆頭に豚を新条、ガーネット、イース、セバス、赤月が捌く。
よし江に事前に教わった通り血抜きし、部位ごとに切り分ける等の作業は順調に進んだが、何時の間にか血の匂いに誘われたジャガーやピューマが周囲を取り囲んでいた。
「ちっ、来たか」
赤月が長弓を取って立ち上がる。
「どうやら調理している暇はないみたいですね」
赤月とセバスは時間があればこの場で料理をするつもりだったのだ。
「肉食獣の爪と、私の爪、どちらが鋭いでしょう。フフ‥‥」
ガーネットはエーデルワイスを構えて不敵な笑みを浮かべた。
「亜ちゃんはそのまま作業を続けて」
「分かった、できるだけ早く済ます」
新条は亜の返答を聞くと先頭のピューマの電磁波を放った。
それが戦闘開始の合図となり、他のキメラも一斉に襲い掛かってくる。
新条、石榴、ガーネット、セバスが前衛で抑え、イース、御闇、赤月が後衛から支援を行う。
電磁波が肉を焼け、剣と爪が肉を断ち、弾丸と矢が肉を貫き、血飛沫が舞う。
キメラの牙と爪が傭兵達に傷を刻む中、亜は黙々と豚を解体し続けた。
そして
「よし、終わった!」
「では長居は無用ですね」
「ちょっと勿体ないけどあげるよ」
亜の声を合図にガーネットと石榴が豚肉を周囲や遠くにばら撒き、キメラの気を反らす。
「今だ!」
「走れ!」
その隙に全員でその場を全速離脱。
「‥‥もう追って来ないかな」
そして追って来たキメラも全て撃退し、十分距離をとった所で足を緩めた。
「じゃあ、さっさと持って帰っておばちゃんやクラウドマンに食わせてやりましょ!」
「そうだね、鮮度が落ちる前に帰ろう」
亜が嬉しそうに皆を促し、新条も笑顔で先頭を歩く。
「この豚の料理、食べるの楽しみだね♪」
石榴はよし江の料理に思いを馳せて笑顔を浮かべたが、
(「‥私、ちゃんと笑えてるかな? 」)
内心では自分の笑顔に少し自信がなかった。
この後一行は帰路でも行きと同じくらいの苦労をする事になるのだが、目的を果たし終えた傭兵達の足取りは軽かった。
そしてLHの帰り着いた一行はよし江の感謝と歓迎を受け、イベリコ豚キメラ料理をたらふくご馳走になる。
その味は旅の疲れが吹き飛ぶ程の絶品であったという。