●リプレイ本文
工場から現れた4機のオストリッチに対して傭兵達はまず一番近くにいたO2へ集中攻撃を開始した。
「ワーム‥とはね‥」
ウラキ(
gb4922)は工場から150m後方の位置で『隠密潜行』で暗闇に潜み、『プローンポジション』で身を伏せ、アンチマテリアルライフルMk−2に装着したスコープ「スネークアイ」でO2にピタリと狙いを定める。
「搭乗者はハワード・ギルマンじゃない。最大出力での連携行動は無理なはずです」
国谷 真彼(
ga2331)が味方の武器に『練成強化』を施し、柿原 錬(
gb1931)が超機械「ラミエル」を、一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)が拳銃「ブリッツェン」を、三日科 優子(
gc4996)が小銃「S−01」をそれぞれ発射。
しかし傭兵達は怪音波の影響下にあるため、その射撃は精細さにかけていた。
O2は脚と機体各部のスラスターを駆使して銃弾や電磁波を全て避ける。
だがその隙にクラリア・レスタント(
gb4258)とレインウォーカー(
gc2524)が『迅雷』を発動、錬も『竜の翼』を発動。
O2の懐に飛び込んだクラリアは脚爪「オセ」で膝関節を引き裂き、体勢を崩した隙に錬が機械剣「莫邪宝剣」で斬りつける。
しかし怪音波の影響かレーザーブレードの出力が弱く、浅い傷しかつかなかった。
だが同じ箇所をレインウォーカーが黒刀「歪」で斬りつけ、アームを切断。
そこに遅れて駆けつけたエシック・ランカスター(
gc4778)が竜斬斧「ベオウルフ」を振り下ろし、脚を完全に破壊する。
「命の保障はします。ハッチを開けて出てきなさい」
エシックは降伏勧告したが、O2は構わずアームを振り上げる。
だが、ウラキの放った『跳弾』が胴体部を貫き、O2は活動停止した。
『あははははっ!!』
不意にネモが哄笑を上げた。
『これは傑作だっ!! 分散したら勝ち目がないと思って兵士を見殺しにしたよ! ねぇ、自分より弱い者を犠牲にして自分の命を守るってどんな気分? 君達って子供でも平気で殺すし、もしかして仲間以外の人間なんてどーでもいいって思ってる? だから兵士が何人死んだって平気なんだ。君達ってすっごく利己的で臆病者なんだね。あははははっ♪』
傭兵達はネモの勝手な物言いに怒りや悔しさを感じたが、今はそれらを押し殺してO3、O4、工場内へと向かう。
「マチュア、工場に行くで」
「いや、私は奴の相手をする!」
優子がマチュアの腕を引いたが振りほどかれる。
「怒るのはわかんけど、少しは落ち着かんと。出来ることも出来んくなるで。工場の探索にはマチュアの力が必要やねん」
「‥‥分かった」
マチュアは悔しげに歯噛みしながらも優子とクラリアと共に工場に向かってくれた。
『あれ、誰も僕とは遊んでくれないの? じゃあ僕はスナイパーさんと遊ぼうかな』
O1がプロトン砲を発射。着弾地点で爆発が起こる。
だが命中したのは『跳弾』が跳ねた鉄骨だ。
(‥残念、僕はそこには居ない)
ウラキが内心でほくそえむ。
『外れた? じゃあ次は銃声が聞こえた所』
今度は身を伏せたウラキの真上をプロトン砲が通過し、超高熱の余波が背中を焼く。
(くっ‥‥)
ウラキは『プローンポジション』を解くと『跳弾』を放ち、O1が跳弾箇所にプロトン砲を撃った隙にポイントを変えた。
しかし練力不足でもう『跳弾』が使えないため、次撃てば確実に反撃を受けるだろう。
O3に向かった国谷は自分と錬と蒼子の武器を『練成強化』した後、O3に『練成弱体』を施してエネルギーガンを発射。
「お前の相手は私達よ!」
蒼子もほぼ同時に銃を撃ち放つ。
光線と銃弾が装甲に穴を穿ち、O3が兵士の追撃を止めて振り向いた瞬間、錬が『竜の翼』で懐に飛び込む。
「フェザー砲さえ撃たせなければどうって事は‥」
そして莫邪宝剣でアームを斬りつけたが、剣の威力が落ちているため切断するには至らない。
O3はアームの先端部から伸ばしたビームソードで錬を切りつけた。
超高熱の刃が「アスタロト」の装甲を融解させ、錬の体も傷つける。
「くっ! どうって事‥有るか‥‥」
「柿原君、退がって!」
国谷が援護射撃をしている隙に錬がO3から距離を取る。
3人はO3を陽動し、O4の対応に向かった2人と合流するつもりだった。
しかしO3は追って来ず、フェザー砲を撃ってくる。
距離が開いても怪音波の影響下では避ける事はままならない。
蒼子は国谷をカバーするため前に出て『自身障壁』を発動し、マーシナリーシールドを構えたが、知覚兵器であるフェザー砲は盾では防げず直撃する。
「つぅ‥‥!」
「一ヶ瀬君! すぐ治療する」
国谷が『練成治療』で傷を治してくれたが、治ってもすぐにまたフェザー砲が錬と蒼子を襲う。
「く‥‥今までのパターンからして嫌な予感はしていたけど、案の定な展開よね。ああもうまったく‥‥! そろそろここらであのガキに一杯食わせてやらないと割に合わないわよ‥‥!」
怪音波の不快感と傷の痛みで蒼子の気分はもう最悪だ。
錬と蒼子は国谷をカバーして傷を治してもらいながら退がり続け、フェザー砲が当たらなくなった頃にようやくO3は動いてくれた。
レインウォーカーは兵士を追撃しているO4に迫ると『疾風』と『迅雷』を発動。超加速で勢いをつけると脚甲「インカローズ」で脚部を蹴りつけた。
「お前の相手はボクがしてやる。先に言っておくけど、投降するなら今の内にしておきなぁ。警告は、一度だけだぁ」
そう告げるとバランスを崩したO4に刀を閃かせる。
だがO4はアームで弾き上げ、頭上でビームソードを伸ばして振り下ろす。
避けられないと判断したレインウォーカーは刀で受けようとしたが光の刀身は刃をすり抜け、体を切り裂かれた。
「ぐぅ‥」
レインウォーカーは距離を取ったが、O4はフェザー砲で追い撃ちをかける。
怪音波の影響で動きの鈍いレインウォーカーは避けきれず、光の弾丸が体を貫く。
防御や抵抗の低いペネトレーターであるレインウォーカーは瀕死に近い深手を負ってしまう。
O4はトドメを刺そうとビームソードを振り上げたが、不意に飛来したライフル弾がアームを弾く。
「オォォォ!」
その間にエシックが割り込んでベオウルフを振り下ろす。
O4にはスラスターを噴かして避けられたが構わない。
「真彼さん達と合流しましょう。このままでは危険です!」
「‥‥了解だぁ」
レインウォーカーは苦しげに応じて退がったが、O4がフェザー砲を向けてくる。
「やらせない!」
しかしエシックが身を挺して守る。
光弾が体を焼くがエシックは『活性化』で治しつつ退がり、国谷達と合流するまでレインウォーカーを守り続けた。
工場内ではマチュアが『探査の眼』を発動して捜索を行い、発見した地下通路の奥へと進んでいた。
通路を進んだ先は少し広くなっており、先行するクラリアとマチュアが足を踏み入れた直後、他の罠を警戒して2人と少し間を開けていた優子の目の前で鋼鉄製のシャッターが下りた。
「わっ! なんや?」
調べるとシャッターは優子の側からロックが掛かっている事が分かる。
「ここはうちが何とかするわ。2人は先に行っとって」
シャッターは優子に任せ、奥へ進んだクラリアとマチュアは1台の大型トレーラーを発見した。
「どうやらアレに怪音波の発信源が積まれているみたいですね」
「そうらしいな。だがアレにも罠があるぞ」
マチュアの『探査の眼』がトレーラーに仕掛けられた爆発物を見抜き、2人で探し出す。
「解除できそうですか?」
「たぶんな。ただ、私はそういう細かい作業は苦手なんだ‥‥」
「私は手先は器用な方です。が、知識がありません。ガイドをお願いします」
「分かった」
2人は協力して罠の解除を始めたが、思いのほか時間が掛かってしまう。
もしサイエンティストやエレクトロリンカーがこの場にいればもっと早く解除できただろう。
合流を果たした5人は国谷の『練成治療』と蒼子の『蘇生術』を受け、完治には到らなかったがどうにか体勢を整える。
結局、怪音波の圏外には出られなかったが時間は稼いだ。
今は工場に突入した3人が怪音波を止めてくれると信じるしかない。
だが誤算はそれだけではなかった。
『スナイパーさんはやっつけたよ。次は君達の番だね』
5人の後方にO1が現れ、O3、O4と挟撃される形になった。
ウラキはレインウォーカーを助けるために放った弾でO1に発見され、倒されてしまっていたのだ。
「前に身勝手な論理で殺すのかと言ったなぁ。その通りだよ。ボクはボクの論理‥‥いや、エゴで人を殺す。それはお前も同じだろぉ?」
『はぁ? 僕はバグアだよ。そんなの論理やエゴ以前の問題でしょ』
レインウォーカーは時間稼ぎとネモの心理や情報を得るため挑発込みの問いをしたが、ネモには軽くあしらわれた。
「ネモ‥‥おまえはマチュアさんに何をさせたいの?」
『ん〜‥‥最初は自己保身と家族愛のどっちが強いか知りたかったんだけど、それは中途半端で終わっちゃったからね。だから今のマチュアお姉ちゃんにして欲しい事は‥‥しいて言うなら悔しがったり泣き叫んだり苦しんだりする姿を見せて欲しいかな。あははっ!』
錬の問いに答えたネモが嘲笑う。
『じゃ、そろそろ君達にも退場してもらうよ』
O1がプロトンン砲とフェザー砲を5人に向ける。
「させるものかっ!」
エシックが国谷を連れてO1に迫る。
放たれたプロトン砲とフェザー砲がエシックを撃ち抜く。
激痛で足が縺れそうになるが、すかさず国谷が『練成治療』を施す。
それで持ち直したエシックは一気にO1に肉薄し、ベオウルフでプロトン砲の破壊を試みる。
しかしO1は軽く避けると距離をとってフェザー砲を乱射してきた。
エシックはまた負傷したがすぐに治療を受けてO1に喰い下がり、果敢に攻撃を加える。
それは延々と激痛を受け続ける行為で、ある種拷問の様だったがエシックは耐え続けた。
レインウォーカーは蒼子と錬の援護射撃を受けながら『迅雷』でO3とO4の間に割り込んだ。
2機はそれぞれフェザー砲を向けてきたが、自分達にも当たるためか撃ってこない。
レインウォーカーは『円閃』でO4のアームを付け根から切断すると、破損部から胴体に刃を突き立てた。
刃から機体とパイロットの頭蓋骨を貫く手応えが伝わってくる。
「警告はしたよぉ」
だが刀を引き抜いた直後、O4がビームソードを薙ぎ払いレインウォーカーを切り裂く。
「なぜ‥‥だぁ?」
噴き出した血が地面を濡らし、急速に意識の薄れてゆくレインウォーカーはその場に倒れ伏した。
「レインさん!」
『竜の翼』で駆けつけた錬がO4に莫邪宝剣を膝に突き立て動きを止め、蒼子が銃弾を撃ち込むとO4は活動を停止した。
だが、O3がフェザー砲を乱射してO4ごと錬を撃ち抜く。
「かはっ!」
錬が血を吐いて膝をついたが、その直後に頭にずっと響いていた怪音波が消えた。
「蒼子さん、蘇生術を!」
蒼子の治療を受けた錬は力の戻った莫邪宝剣でO3の足を切断。O3傾き膝立ちになる。
錬は返す刀でアームも斬り落とし、胴体部のパイロットに当たらない位置に光の刃を突き入れた。
しかしO3は仕留めきる事はできず、O3は片足で地面を蹴って旋回。アームを振り回して錬に叩きつけ、弾き飛ばした錬にフェザー砲を乱射。
幾つもの光弾が体を撃ち抜き、錬はそこで力尽きる。
だが、その間に蒼子はO3に接近し、至近距離から銃弾を撃ちこんでアームを破壊。コクピット辺りに銃口を突きつけた。
「大人しく投降するならそれでよし。そうでない場合は‥‥君達の前に私達と戦ったお仲間がどういう末路を辿ったか、味合わせてあげましょうか?」
蒼子は脅し混じりで投降を促したがO3は構わず体当たりを仕掛けてくる。
「くっ‥‥」
蒼子は避けるとO3が停止するまで銃弾を撃ち込み続けたのだった。
爆弾を解除してトレーラーを破壊し、シャッターも開けて外に出た3人のうち優子はO2を乗っ取ろうと『瞬天速』でO2に登り、ハッチの開閉スイッチを探し始めた。
スイッチは見つからなかったので付近の留め金っぽい所を全て破壊して無理矢理ハッチを開ける。
「大丈夫か? 助けにきたで」
声をかけたがパイロットの少年は既に事切れていた。
だが外傷はなく、死因が分からない。
「どういうこっちゃ?」
ともかく優子は少年を降ろし、O2を動かしてみようとする。
しかしまったく動かない。
「あれ? この操縦桿ただの飾りやん。ホンマどういう事やねん?」
優子は首を捻ったがさっぱり分からなかった。
マチュアはO1に向かって駆け、クラリアは『迅雷』で先行する。
「あなたのエゴを鵜呑みにする気なんてない。所詮は平行線。なら、互いのエゴで殺し合うだけ!」
『それは違うよ。おねえちゃんが見たくない真実から目を反らして平行線にしてるのさ』
O1は迫るクラリアにフェザー砲を乱射したが、クラリアは『高速機動』を発動。素早いサイドステップを繰り返して弾幕を潜り抜ける。
「掻っ斬れオセ!」
そして『刹那』を発動し、回し蹴りを放ってオセで膝関節を抉り、更に体を旋回させ、後ろ回し蹴りで同じ箇所を更に抉って脚をへし折った。
「喰らえっ!」
O1が体勢を崩した隙にエシックが『猛撃』でベオウルフを振るい、プロトン砲を破壊した。
『くそっ!』
O1は片足で跳躍し、スラスターを吹かして距離を取ろうする。
「逃がすか!」
だがマチュアがGバスターキャノンでスラスターを破壊して落とし、O1に向かって駆け出す。
「ネモーーー!!」
『来るなーー!!』
O1はフェザー砲を放ち、幾つもの光弾がマチュアを貫いたがその速度はまったく衰えない。
「おぉぉーー!!」
そしてO1の懐に飛び込んだマチュアはGバスターの砲身を胴体に突き刺し
「くたばれーー!!」
『やめろーーー!!』
トリガーを引いた。
――ドォン
重く乾いた銃声が響き渡る。
放たれた銃弾はO1を貫通。
O1は動きを止め、大きく開いた弾痕から赤い液体が流れ落ちてきた。
「‥‥」
それを目にしたマチュアは無表情でO1に登りハッチを強引に引き剥がす。
コクピットには胸に大穴をあけ、血塗れになった少年が息絶えている。
もう、ピクリとも動かない。
「‥‥アーチェス」
マチュアは少年の名を呟き、腕を伸ばして抱き上げ、抱きしめた。
「‥遅くなってごめん‥‥ごめんね。痛かったよね‥‥辛かったよね‥‥情けないお姉ちゃんで‥ごめん、ごめんね。助けられなくて‥‥ごめん。うぅ‥‥」
マチュアの声が徐々に震え、瞳から涙が零れ出す。
「うわぁぁぁーーーーーー!!」
後は号泣だけが夜空に響き渡った。
こうして4体のオストリッチは破壊された。
兵士の死者は16名。重傷者は傭兵達も含めて9名だ。
後の調査でオストリッチはAIで動いていた事が判明する。
パイロットは全員死亡。
死因は戦闘機動での急加速などによる内臓破裂だと判明した。