タイトル:ロッキー山脈は極寒地獄マスター:真太郎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/20 01:22

●オープニング本文


「自分ら、不死鳥って知ってるか?」
 それが、今回の依頼人である飯田 よし江(gz0138)の第一声であった。
 よし江はUPC本部食堂の従業員の一人で、一部の者達からは本部食堂のヌシと呼ばれている。
 料理の腕は達人クラスで、本部食堂は安いに割りに美味しい事で評判である。
 料理に対する情熱は人並み外れており、その情熱が行き過ぎてキメラを使った料理を作る事にも熱意を燃やしている困った人でもあった。
「フェニックスとも呼ばれてる鳥の事や。その名の通り、不死身の鳥やねん。絶対に死なへんとか、一瞬で傷が治るとか、死んでも炎の中から蘇るとか、その肉を食うたり生き血を飲んだりしたら不老不死になれるとか、色々な逸話を持っとる大層な鳥なんや。その不死鳥がロッキー山脈で見つかったらしいねん。まぁ、このご時世やからキメラかもしれへんけどな。でもバグアの作るキメラは本物と寸分違わへんって噂もある。そやからその不死鳥がキメラやったとしても食うたら同じ効能が得られるかもしれへん。食うたら不老不死‥‥とまではいかんでも滋養強壮栄養補給の効果がある事は間違いない! 味も絶対うまいに決まっとるっ!!」
 よし江は何の根拠はないが自信満々断言した。
 しかし説明を聞いていた傭兵達の表情は懐疑的だ。
「という訳で、みんなにはその不死鳥を探してきて取ってきて欲しいねん。でも、バラバラにしたらあかんで、ちゃんと食べられる部分が残った状態で持ってきてや。まぁ、不死鳥やから死なへん可能性もあるけど、そん時は生け捕りにして持ってきてくれたらえぇわ。詳しい説明はリサさんにお願いしてるから、みんなちゃんと聞くんやで。ほんなら頼むでー」
 よし江は言いたい事だけ言って自分はUPC食堂に帰っていった。

「え〜‥‥ではここから先は私の方で説明させていただきますね」
 よし江の後を引き継いで、ULTのオペレーターであるリサ・クラウドマン(gz0084)が依頼内容の説明を始める。
「不死鳥を発見したのはロッキー山脈に設置されているレーダーの定期点検を行っている軍の人達です。目撃箇所は現在のところ、ロッキー山脈の西側の中腹、山頂付近、東側の中腹の3ヶ所です」
 リサがロッキー山脈の地図をモニターに表示し、3点を指さし君1号で指し示す。
「そのため皆さんには目撃地点を中心にロッキー山脈中をくまなく探してもらう事になります。この季節のロッキー山脈は深い雪に覆われており、気温は氷点下20℃から30℃位まで下がりますので十分な防寒をしていてもまだ寒いかもしれません。目標の不死鳥ですが、発見者の証言によると大きさは2m前後で、体が赤い燐光に覆われていたそうです。そして‥それ以外の事はまったく分かっていません。何故かと言いますと、発見者は皆遠目に目標を目撃しただけで交戦も行っていないため、ハッキリした姿形は分からず、その能力や攻撃手段なども不明なんです。なので‥‥飯田さんには悪いのですが、その鳥が不死鳥だと思われているのは単なる憶測だったりします」
 リサが困り顔で苦笑を浮かべる。
「飯田さんからは依頼料とは別に7日分の水と食料、3日分の非常食、それと携帯コンロと小型軽量片手鍋を預かっています。暖房具はありませんけど、いざとなればコンロで暖もとれますから、防風と防寒さえキッチリしておけば何とか凍死だけはせずに済むはずです」
 そんな命の保証のされ方をされても傭兵達は少しも嬉しくなかった。
「防寒着などは各自で揃えて下さいね。山中の寝床も自分達で確保して下さい。後は、そうですね‥‥。能力者ならコンロで溶かした雪解け水を飲んでもそれほど消耗する事はありませんので、飲み水の心配だけはありませんね。万が一食料がなくなっても1週間ぐらいなら水だけでも生きている事だけはできますから安心してください」
 そう言われて安心できる傭兵はやはり少なかった。



 飯田 よし江の無茶な要求とリサの意外と無慈悲な説明にも関わらず、不死鳥狩りを買って出てくれた勇気ある傭兵達はロッキー山脈中腹を目指して深い雪をかき分けて進んでいた。
 しかし、思わぬ不運が彼らを襲う。
雪に覆われて一見しただけでは分からないクレバスに、水と食料を積んだソリが落っこちてしまったのだ。
 人が落ちなくてよかったと安堵すべきところだろうが、水と食料が失われたという事実はやはり痛い。
 こうして彼らは7日分の水と食料を永遠に失った。
 彼らに残された食料は与えられた3日分の非常食と、各自で持ってきた食料だけとなる。
 暗澹たる気持ちが傭兵達の心に満ちてゆく。
 目の前の落ち窪んだ真っ暗な穴が、まるで彼らの未来を暗示しているかの様であった。

●参加者一覧

綿貫 衛司(ga0056
30歳・♂・AA
石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
イーリス(ga8252
17歳・♀・DF
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA

●リプレイ本文

 水と食料を失った傭兵達は一旦集合し、手荷物の確認を行った。
「冬山遭難一歩手前、という所ですか‥ね?」
 綿貫 衛司(ga0056)は苦笑を浮かべ、古巣の八甲田山で起こった雪中行軍遭難事件の事を思う。
 その知識と教訓を頼りなるが、自然を舐めるつもりは毛頭ない。
「命落とすよりもマシとはいえ、食料が消えたのは痛手ですね。残りは3日分の非常食と各々の手持ち分だけ‥‥」
「無くなった食料は仕方ない。俺らが無事なだけ儲け物だよ。しかし、何となく神がかり的な雰囲気があるね。気にしすぎ?」
 暗澹たる表情をしているイーリス(ga8252)を新条 拓那(ga1294)が励ます。
「こんなこともあろうかと食べ物仰山持ってきて良かったわ‥‥」
 荷物から大量のレーションと板チョコを取り出す桐生 水面(gb0679)も内心では先行きに不安を感じていた。
「‥どうやらお菓子を除くと1人1日3食食べたら5日でなくなりそうです」
「5日か‥‥無理はしない方が良いって事かな? でも、きっと大丈夫だよ、うん。みんな、がんばろー」
 弓亜 石榴(ga0468)は明るく振る舞って皆を鼓舞した。
「‥そう、ですね。弓亜さんの言う通り、がんばりましょう」
 石動 小夜子(ga0121) も石榴に倣って明るく振る舞う。
「そうそう、お菓子と合わせて節約すれば何とかなるよ。俺、お菓子もいっぱい持ってきたしさ。という訳で、さっそく節約のため今日の朝食はお菓子で済まそうよ」
 新条の提案で温泉まんじゅう5個、板チョコ6枚、トリュフチョコ3個、ハートチョコ3個、ショコラタルト1個が食べられた。
「節約のためとはいえ、甘いものばかりだとさすがに‥‥」
「口ん中が甘ったるーなるな‥‥」
 イーリスと水面が少し食傷気味という顔をする。
「さ、口直しのコーヒーです」
 衛司が支給品のコーヒーをポットセットで暖めて皆に配った。

 そして食事中に、探索は1日8時間。睡眠もちゃんと8時間とる事に決め、初日は小夜子、石榴、新条のA班が中腹の西側、衛司、イーリス、水面のB班が東側を探索する事となった。


●1日目

「見渡す限り銀世界‥‥。これなら何かあればすぐに分かりそうなもんだけど。く〜、冷えるなぁ」
 雪を掻き分けながら進む新条が体を震わせた。
 氷点下の世界ではしっかり防寒していても寒さが身に染みてくる。
「不死鳥狩り、だそうですけれど‥‥冬の雪山は危険ですから、気をつけていかねば、ですね」
 小夜子が周囲を用心深く伺いながら慎重の歩を進めるが
(拓那さんとご一緒‥嬉しい、です)
 こんな状況下でも恋人の新条と一緒なら幸せを感じられる小夜子だった。

 そして探索開始して1時間後、俄かに空が曇り、徐々に雪と風が強くなってくる。
「マズイな、吹雪いてきた‥‥」
「山の天気は変わり易いって本当、ですね」
「あそこ、風避けになりそうだよ」
 3人は石榴が見つけた窪地に身を潜め、吹雪が去るのをじっと待った。


 その頃、B班も吹雪にあっていた。
「せっかく『GooDLuck』使ったのに、いきなり吹雪やなんてついてないなぁ〜」
 毎日探索前に『GooDLuck』を使うと決めていた水面が恨めしげに吹雪を眺める。
「これで風を防ぎましょう」
 衛司がエマージェンジーキットから防寒シートを取り出し、3人で被る。
「あ、これだけでも結構あったかいやん」
「綿貫さんはサバイバルに慣れている感じですね」
 2年程前に雪山で遭難した事があるイーリスだが、その時のサバイバル経験はあまり役に立ちそうになかった。
「陸上自衛官の頃に雪中登山で訓練も行いましたからね」
 3人はそうして吹雪が過ぎるのを静かに待った。

 吹雪は2時間程で止み、A、B班共に探索を再開したが何の成果も得られぬまま5時間が経過すると、空が再び荒れ始めた。
「またかいな」
「‥仕方ありません。本格的に吹雪く前に野営しましょう」
 3人は探索を打ち切ってキャンプ用テントを張った。
 衛司はすぐにエマージェンジーキットからアルコールストーブを取り出して火をつける。
「暖かいです‥‥」
「生き返るわぁ〜」
 イーリスと水面が思わず安堵の笑みが浮かべる。
 その間に衛司はポットセットで湯を沸かす準備を始めた。
「あ、うち雪とってくるわ」
 水面が片手鍋を手に外に行き、綺麗な新雪を集めて戻ってくる。
「うぅーー寒ぅ〜‥‥ほら、えぇとこ取ってきたで」
「ありがとうございます。さて、夕食はどうしましょうか? まぁ、カレーとシチューの2択しかないんですが」
 雪を溶かしながら衛司は苦笑を浮かべた。


 一方、A班もテントを張り、テントの周りに雪を盛って風で飛ばされない工夫をし、小夜子のエマージェンジーキットのストーブで暖を取って、レーション「ビーフシチュー」 を食べていた。
「けっこう美味しかった、ですね」
「うん、これならカレーも期待できるかも」
「じゃ、俺は今からこの周りだけでも探索してくるよ」
 食事を終えた新条が立ち上がる。
「それなら私も」
「軽く見回るだけだから小夜ちゃんはここにいて」
 一緒に行こうとする小夜子を制して新条は1人で出てゆき、1時間後、成果のないまま戻ってくる。
「ふー寒い寒い!」
「お疲れさまです。拓那さん、これを」
 小夜子が暖めたウォッカを差し出す。
「ありがとう小夜ちゃん。うーあったまるぅ〜!」
 小夜子の気遣いに身も心も温まる思いがする新条だった。

 そして就寝前
「じゃ、私は別のテントで寝るから2人でごゆっくり〜」
 石榴がテントを出ていこうとする。
「え? いや! 変な気を使わなくていいよ石榴ちゃん!」
「そうですよ弓亜さん。3人の方が暖かい、です。一緒に居て下さい」
 けれど2人に引き留められたので引き返した。
「3人でだなんて‥‥2人ともやっぱりエロエロだね。ポッ」
「いや、そんな事しないって‥‥」
 わざと頬を染める石榴に苦笑を返す新条。
「でも、3人くっついて寝るんでしょ」
「え?」
「そ、そう‥ですね。暖まるのは人肌が一番、といいますし‥‥」
 小夜子が頬を赤めながらも反対しなかったので、保温のため3人で体を寄せ合って眠った。
 そのため新条はドキドキの夜を過ごす事になったのだった。



●2日目

 目覚めると外はまだ吹雪いていた。
「もしかしてずっと吹雪いてたんかな?」
「今日はA班と合流して頂上を探索する予定でしたけど、どうしましょうか?」
「仕方ありません。動くのは吹雪が止んでからにしましょう」
「それやとA班と行き違いないにならへん?」
「A班もきっと吹雪が止んで動くでしょうから大丈夫でしょう」
 B班は朝食に非常食を食べながら吹雪が止むまで3時間待ち、A班との合流地点に向かった。

「あ、来た来た」
 合流地点にはA班が先に居て石榴が元気よく手を振ってくれた。
「待たせてしまいましたか?」
「いや、吹雪で足止めされてたから俺達もさっき着いた所だよ」 
「あ、やっぱりそっちも吹雪いてたんや」
「そちらは何か見つかりましたか?」
「いえ、何も。という事は、そちらも何も見つかっていないんですね」
「はい‥‥」
 互いに情報交換を終え、全員で頂上付近の探索を行ったが、この日も何も発見できず日が暮れた。

「一つのテントに6人だと、ちょっと狭く感じますね」
「でも大勢いるとあったかいよ」
 小夜子とが身を寄せ合ってストーブにあたる。
「今日の夕食はカレーでいいでしょうか?」
「いいですよ。カレーは3種類ありますけど、皆さんどれがいいですか?」
 イーリスの提案を受けた衛司が3種類のカレー並べる。
「俺はグリーンカレーがいいな。実は貰った時から一度食べてみたいと思ってたんだよね」
 新条が自分が持ってきた『レーション「グリーンカレー」』を取る。
「わたくし、この『カレー党メイドカレーぎゅう』が気になります」
「じゃあ、うちもこの萌え萌えカレーにしよ」
 イーリスと水面が萌えパッケージのカレーを手に取った。
 すると残りの者達は自動的に『レーション「レッドカレー」』になる。

 夕食が終わると新条はまた1時間だけ外を見回ったが成果はない。
 でも小夜子が熱いコーンポタージュを用意していてくれたのは嬉しかった。



●3日目

 この日も朝から吹雪だった。
「なんでやねーん!」
 思わずツッコんでしまう水面。
 仕方なく吹雪が止むのを待ったが、昼食時になっても止む気配がない。
「今日一日ずっと吹雪いてるって事はないよね」
 非常食を食べながら石榴がポツリと漏らす。
「不吉なこと言わんといてぇな‥‥」
「でも、可能性がない訳ではないですよ」
 イーリスは3日間続く吹雪を経験した事があるのだ。
「山の天気は変わり易い、って言いますし、きっと、天気になりますよ」
 そして小夜子の言葉通り、昼食の1時間後に吹雪は止んだ。
「さっきまでの吹雪が嘘みたいに晴れたね」
 新条がスッキリした青空を仰ぎ見る。

 今日は全員で中腹西側を探索。
「雪がますます深なってるから、クレバスに注意するんやで」
 水面の注意を受けて慎重に歩を進めながら探索を開始して1時間。
「これは‥‥皆さん、こっちに来て下さい!」
 足跡や獲物の食べ残し、排泄物などを探していた衛司がある物を発見した。
「なになにー?」
 それは火の様に真っ赤な羽だった。
「これで不死鳥がいる事が証明されたね。よし! ここを中心に徹底的に探そう!」
 新条が嬉しそうに告げ、皆で手分けをして捜索したがすぐに日が落ちてしまい、この日の探索は終了した。

「ねぇ、明日は東側を捜索する予定だったけど、どうするの?」
 夕食時、石榴がビーフシチューを食べながら皆に尋ねる。
「羽が西側にあったのですから、やっぱり明日も西側を探した方がいいでしょうか?」
「でも、不死鳥が別の所に移動してる可能性もあるで」
「それに、羽が何処かから飛ばされてきた可能性も、あるかも、しれませんし‥‥」
 イーリスが意見を述べると、水面と小夜子が別の可能性を提示する。
「‥‥やはり別の場所にいる可能性も考慮して、予定通り行動しましょう」
 衛司の判断に異論を唱える者はいなかった。



●4日目

 この日は朝から快晴で、雪も多少降ったものの吹雪はせず、1日中探索を行えたのだが痕跡すら見つからず夜を迎えた。

 そして夕食はカレーだったが、レーションは5つしか残っておらず1人前足りない。
「だったら食後にこれを食べよう!」
 そこで新条が取り出したのが『チョコレートクリームケーキ』。
「何でこんな物が‥‥」
「普通、山にケーキは持ってこえへんで‥‥」
 イーリスと水面が奇異の目でケーキを見る。
「まぁまぁ、細かい事は気にせず食べようよ」
 石榴は嬉しそうにケーキを切り分けた。
「はは‥まさか雪山でケーキを食べるとは思いもしませんでしたよ」
 衛司が苦笑を浮かべてケーキを受け取る。
 ケーキへの反応は人それぞれだったが、辛い物の後に食べる甘いものは美味しく、お腹が膨れた事も確かだった。



●5日目

 この日も朝から快晴。
 残り2食分の非常食は今日明日の昼食用に残し、チョコレートで朝食を済ました。
「食料‥少なくなってきましたね」
 イーリスの呟きに皆が不安を感じながらも捜索を開始。
 お昼を過ぎた辺りから俄かに雲行きが怪しくなってくる。
 これまでの経験で1時間以内に吹雪く事が予測できたので、すぐに安全な所に篭った。
 だが、吹雪いた後は一向に止む気配がなく、結局そのまま日が落ち、そこでテントを張る事になった。



●6日目

 この日の朝食はカレー半人前にハムとサラミだった。
「お、今日は朝から豪勢やな〜」
「でも嫌な予感が‥‥」
「はい。実はこれがほぼ最後の食料で‥‥」
 小夜子がイーリスの予感を肯定する。
「今日は本命の西側探索だから、朝から力をつけて貰おうと思ってね」
 新条はそう言ったが、慣れない雪山生活で疲労が溜まり出す頃だと見越した衛司が食事を減らすのは危険だと判断したのだ。

 そして羽を発見した場所を中心に探索を開始。
 しかし昼になっても何も見つからず最後の非常食を口にする。
 これで残された食料は、板チョコ2枚とトリュフチョコが1個のみ。
 けれどその事は誰も口にせず、ただ黙々と探索を行った。

 しかし皆の心の不安を表すように空模様が徐々に怪しくなってくる。
「なんでやねぇ〜ん‥‥」
 水面が力なく突っ込み、空を仰ぐ。
「‥‥ん? あれ何だろ?」
 同じ様に空を仰いでいた石榴が薄雲の向こうの淡い光を見つけた。
「うりゃ!」
 目立つ色の長めの紐を括り付けた矢を放つと光に刺さり、雲を抜けて不死鳥が姿を現した。
「よーやく見つけたぞご飯のたね、もとい、不死鳥キメラ! 大人しくおなべ、じゃない、お縄につけ〜!」
「拓那さん、叫ぶと雪崩が‥‥」
 思わず叫んだ新条を小夜子がたしなめる。
「あ」
 幸い雪崩は起きなかったが、不死鳥が火炎弾を放ってきた。
 新条と小夜子は咄嗟に避けたが、石榴は雪に足をとられて命中。
「あちちちっ!!」
 服に引火した火を地面を転がって雪で消す。
「冷たいっ! 寒いぃ!!」
「どっちやねん」
 服に穴が開いて冷気に晒された石榴が身を震わせ、水面にツッコまれる。
「マズイですね。火炎で服が焼けただけでも凍死の可能性があります」
「それに、刀が届かない、です」
 衛司が戦況を分析し、雪崩を警戒して銃を撃てない小夜子が困り果てる。
「では、まず叩き落します」
 イーリスが超機械「ミスティックT」を嵌めた拳を不死鳥の羽に向けて電磁波を発射。
 新条も『瞬天速』で距離を詰め、『疾風脚』と『高速機動』を併用して超機械γで羽を狙い撃つ。
 すると羽が完全に焼け落ちて不死鳥が落下してくる。
「あ、手羽先なくなっちゃたかな?」
「新条さん、そんな心配してる時やないで」
 雪に落ちた不死鳥は今度は広範囲に火炎を放射し始めた。
 しかし衛司がライオットシールドを翳して皆の盾となる。
「私の後ろに!」
 そして火傷を負いながら前進。
 火勢が衰えた直後、小夜子が『瞬天速』で一気に近付き、蝉時雨で尾羽と足を斬って動きを封じた。
「これでトドメやっ!」
 水面は衛司の肩を借りて跳ぶと大上段に構えた明鏡止水を振り下ろし、不死鳥も首を斬り落とす。
 頭がボトリと雪に落ち、血が吹き上がる。
「あ、ちょうどいいや」
 石榴は不死鳥を確保すると体を逆さまにして血抜きを始めるが、すぐに身が冷えて血も凍り始める。
「さすがは−30度ですね」
「もうそのまま持って帰ったらえぇんとちゃう」
「そだね。寒いし早く下山しよう」
 石榴は不死鳥を衛司に渡すと防寒シートを体に巻いた。

「不死鳥って、どんな料理になるのでしょう‥?」
「薬膳スープみたいな感じかも?」
「なぁ、うちらも食べさせてもらえるんやろ」
 任務を終えて帰路に着く皆の表情は明るく足取りも軽い。
 ただ
(これは不死鳥ではなく朱雀ではないだろうか‥‥)
 衛司だけはそんな不安を抱いていたが口には出さなかった。



 そして持ち帰られた鳥は不死鳥として料理され、一時UPC本部食堂のメニューに並んで好評を博したという。