タイトル:幽霊船弾破壊命令:2マスター:塩田多弾砲

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/05 23:37

●オープニング本文


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 幽霊船弾の事件より、早半月の豊後水道。
 バグアによる同種の事件は、鳴りを潜めていた。
 
 UPC海軍。彼らは追っていた。行方不明になった艦を。
 幽霊船弾の事件が露見してから数日。幽霊船弾は見られないが、逆に変な事件が発生していた。今度は、航行中の船舶が行方不明になるというのだ。
 まったく問題無い船が、ある日突然消えてしまう。親バグア派の仕業かと思われたが、調査の結果それとの関連は見られなかった。
 そして調査の結果、行方不明になった船の一隻が、奇跡的に海上に漂っていたのを見つけた。しかし、調査隊が内部に入り込んだが、乗組員の姿は無かった。

 そして調査隊もまた、何者かの襲撃を受けた。唯一の発見は、調査隊員一名の死体。彼の残した最後の写真には、晴天の海上に、「濃霧」が写っていた。

 やがてまた半月。夏なのに濃霧が発生し、その内部へと入った船舶が行方不明になる事件が続発。乗組員もほとんどが行方不明で、わずかに数名が死体で発見。UPC海軍は捜索を強化するが、それでもやはり成果は無かった。
 二つの手がかり以外は。

 ひとつは、現在行方不明となった船舶からの、直前の連絡。
「濃霧発生、視界極めて悪し」
 行方不明になる直前、船からそのような連絡が入ってきたのだ。
「レーダーに反応、行方不明船と思われる船舶が‥‥」
「レーダー故障、反応なし! 通信システムに異常‥‥」
「システムダウン! 何が起こっているのか‥‥だめだ、沈む!‥‥」
 ひどい雑音とともに、通信士からそのような連絡が入っていた。これ以後連絡は途絶え、また一隻、行方不明船が増えてしまった。

 ひとつは、哨戒機からの証言。
 別の船舶の捜索中、発見したのだ。「濃霧」を。
 哨戒機は、霧が発生したのを空中から確認し、やはり捜索任務についているUPCの巡洋艦とともに内部へと侵入した。
 哨戒機もまた、濃霧内でレーダーに異常が発生した。直前に感知した水中の未確認物体を知らせようと、巡洋艦へと連絡をいれたが、通信できない。霧が晴れるのを待つと、そこには船が徐々に沈もうとしている光景が広がっていた。
 その乗組員は、襲撃されていた。船上に等身大のマシンが多数、それが乗組員を海上へと投げつけたたきつけ、殺戮している。マシンのデザインは爆弾とクモまたは昆虫を混合させたようなもので、水中から沸いては船に這い上がっている。
 救命ボートで海上に逃れた乗組員たちも、「クモ」に襲われ沈められた。
「一体、何が?」
 この状況を把握しきれず、哨戒機のUPC隊員たちはどうしたものかと躊躇していた。そうこうしているうち、沈みつつある巡洋艦から、ミサイルが発射された!

 数時間後、哨戒機のパイロットが一人だけ救出され、この事を伝えて息をひきとった。

「現在、UPCは幽霊船弾への対抗策が検討されている。が、残念ながら、具体策はいまだ出ずだ」
 作戦司令室で、司令官が君たちへと詳細を伝える。
「敵の爆弾を分析すると、以下の種類に分けられる」と、司令官はプロジェクターに映像を映し出した。
「‥‥幽霊船弾は、先日の時点で二種類が確認されている。
1型は、大型魚雷に酷似した外観。通称『水中モーター』または、『マブチ』。これは沈没した船舶の船底に複数が取り付き、そして船体を動かしている。
2型は、小型の多脚方自律移動式爆弾。通称『クモ』。これは1型が取り付いた船体内部に大量に入り、爆弾として、そして兵士としても機能する。追跡されるのを感知すると、水中に投下し陣形を組みつつ移動。敵を包囲し、攻撃を受けたら爆発する。陣形の張り方次第で、様々な攻撃が可能だ」
「更に加え、『クモ』が爆発した後は、レーダーやソナーを無力化する物質が水中に散布。それで電子機器がブラックアウトし、追跡が出来なくなる」
「もちろん、『クモ』のみならず、『マブチ』もそれ自体が巨大な魚雷であり爆弾だ。先日に、この1型が沿岸部に体当たりし、多大なる被害を与えた事は説明するまでもないな」
「対処法としては、とにかく遠方から攻撃し、爆弾を誘爆させてしまえば良い‥‥のだが、それもやりにくい。これを見たまえ」
 次にプロジェクターに映るは、再現CG。
「今までは、水中に沈んで、水中に2型爆弾『クモ』を散布され、それが爆発する事でレーダー、およびソナーに機能不全が起きた。今度は、海上・空中にもそれが適応されている。これだ」
 CGには、爆弾に取り付かれた船が映し出されていた。艦の底部には『マブチ』、艦の内部や甲板には多数の『クモ』。
 その多数の『クモ』の中から、色の異なる数体の個体が、身体を開き空中に霧を張っていた。
そして、クモの一体が割れ、内部から現れたまた別の一体。それはまるで、ミミズや寄生虫などのような長虫を思わせる姿。艦橋に蛇のように固く巻きつくと、艦橋の先端部に細長い針を突き刺した。
「更なる調査から、この新たな爆弾、2型亜種と3型の存在を確認できた。1型『マブチ』が機関部やエンジンで、2型『クモ』が兵士だとすると、2型亜種は工作員、3型は司令塔と言えよう」
 再現CGでは、3型が艦橋へとコードのジャックを差込む様子が描かれていた。それは体内に毒を注入する毒虫のようにも見える。
「2型亜種は、空中に霧を散布し、目視を狂わせる能力を持っている。通称『キリグモ』とでも言うべきか。こいつが作った霧は約10分で収まるが、霧に含まれる妨害物質でその間レーダーは使えない。霧の内部に入り込むのはたやすいがな。そして‥‥」
 一息おき、司令官は言った。
「3型、通称『パラサイト』。こいつは、艦のシステムへと強制的に侵入し、乗っ取ってしまう。こやつの攻撃能力は不明だが、おそらくはそれほど高くはなかろう。でなければ、こいつを最初から単体で運用するだろうからな。巡洋艦がミサイルを発射し、哨戒機を撃墜したのはこいつの仕業に違いあるまい」
 つまり今度の幽霊船弾は、海上を航行している船にも取り付き、傀儡にしてしまうというわけだ。
「バグアは、この幽霊船弾を現時点ではまだここ、九州周辺の、豊後水道付近でしか使用していない。おそらくは、まだ実験段階で、実践テストしているのだろう。これを遠隔操作しているならば、まずはそれがどこかを突き止めたい」
「こちらも、リモコンで動くダミーの艦隊を用意する。それにわざと、幽霊船弾を襲わせるのだ。そして、そこから無傷の『パラサイト』を手に入れたい。自律で作動するにしても、やはりどこからか指令が下っているはず。その地点を突き止める事が必要だ」
「諸君らの任務は、このリモコン船団の護衛、そして『パラサイト』の指令電波逆探知。もはや我々だけでは、対処しきれない。頼む、バグアを倒すためにも、この任務を受けてもらいたい」

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
マクシミリアン(ga2943
29歳・♂・ST
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
M2(ga8024
20歳・♂・AA
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
クレア・アディ(gb6122
22歳・♀・SN
美黒・改(gb6829
13歳・♀・DF

●リプレイ本文

 大海原を、巨大な鉄塊が波をかきわけて突き進む。
「もしも船に心と魂があるならば、この艦は今、最後の戦いに赴く老兵のような気持ちでありましょうな」
 海上をナイトフォーゲルにて飛びつつ、美黒・改(gb6829)は思った。
 彼女は既に、ナイトフォーゲルH―223B・骸龍を駆り、戦場となる海域の偵察の真っ最中。
 現在彼女とともに、
 ES−008・ウーフーを駆る篠崎 公司(ga2413
 CD−016・シュテルンを駆るゼラス(ga2924)、
 そしてXN−01改・ナイチンゲールに搭乗したクレア・アディ(gb6122)も、索敵に赴いている。
 しかし、見つからない。その事実が、美黒を不安にさせた。
「‥‥ふん、まったくえろい(えげつなく、ろくでもなく、いやらしい)兵器でありますな。バグアの性根が知れるというもの」
 空を飛びつつ、彼女は更なる下品な言葉が己の口から出てくるのを聞いた。

 ダミー艦隊は、大型空母が一隻、その両脇に中型巡洋艦が二隻。そして、小型艦が四隻。
 それらを操るのは藤田あやこ(ga0204)とマクシミリアン(ga2943)の二名。二人とも、愛機RB−196ビーストソウルのコックピット内で、支給されたリモコン装置とともにこの無人艦隊を動かしていた。
 現在、甲板上の人型に変形したビーストソウルのコックピットにて、マクシミリアンは空母を、リモコンにて操艦している状態であった。
「おもちゃのラジコンと違ってデケえんだから、引き波とかいろいろ難しいんだよなー」
『こっちも、動かすのは結構大変よ』
 マクシミリアンの操縦席内に、藤田の声が響き渡る。マクシミリアンは、旗艦の空母を、藤田は水中にてその他をそれぞれ操艦していた。
 突貫工事で取り付けたとはいえ、そのリモコン操縦装置はかろうじて目的を果たす程度には動いてくれた。
 藤田とともに、やはりビーストソウルで水中に待機しているのは、威龍(ga3859)。形意拳の達人たる彼は、ダミー船団の警護にあたっている。敵がいつ水中からやってきたとしても、即座に対抗しうるために、彼は気を張り詰めていた。

 この偽装艦隊を用い、「パラサイト」をあえて寄生させるように仕向けるのが、彼らの立案した作戦である。
 空母の甲板上には、偽装のために様々なものが置かれていた。その中には、カバーにかけられたナイトフォーゲル、ES−008ウーフーの姿もあった。見た目にはカバーをかけられており、そこにあるとは見えないが。内部にはM2(ga8024)が搭乗し、コックピット内で待機していた。
「えーっと、作戦内容は、っと‥‥。
フェイズ1:『霧』が発生したら、その中に艦隊を進ませる。
フェイズ2:『マブチ』が接近してきたら、水中から迎撃。そして、『クモ』の群れには、他のメンバーが攻撃。巡洋艦や小型艦を楯にして時間を稼ぎ、『霧』から空母を脱出させる。
フェイズ3:空母が脱出したら、その時点で『クモ』を襲撃させ、『パラサイト』を寄生させるように仕向ける。
フェイズ4:寄生させた時点で、甲板、そして別行動をとっていたメンバーが空母にとりつき、『パラサイト』を鹵獲。
フェイズ5:然る後に、残る全ての幽霊船弾を破壊する。
‥‥これで、間違いないよな」
 M2は、何度も行った作戦の内容、そのチェックを行っていた。
 その近くには、やはりヒューイ・焔(ga8434)が、愛機、G−43改・ハヤブサとともに待機している。周囲には偽装のためのガラクタ同然の兵器が積載されており、見た目にはそこにナイトフォーゲルが存在するとはわからなかった。
「俺も、彼みたいに別行動とった方が良かったかな。退屈で死にそうだぜ」
 M2が、コックピット内でぼやいた。ダミー艦はさらにもう一隻あり、それは沿岸部に潜伏している。それには、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が、XF−08D・雷電とともに待機していた。
「ぼやくなぼやくな、すぐにバグ公が出てくるだろうさ。もうしばらくの辛抱だって」
 などと言いつつ、ヒューイもまた退屈を覚えていた。豪快にあくびをしつつ、彼らは待った。幽霊が出てくるのを。

「こちらクレア・アディ。『霧』発生を確認! 艦に取り付いた様子、警戒されたし!」
 大空を飛ぶナイチンゲール。その高みからの眼は、白き闇を発見した。偵察に出ていた篠崎、ゼラス、そして美黒も、それを順次発見する。
「(‥‥全くいやな空気だな‥‥これであの中からお化けなんて出たら‥‥)」
 上空から見ると、『霧』はまるで、それ一個が巨大な生物のようにも見えた。それは徐々に濃くたちこめていく。本当に幽霊が出てきそうな禍々しさを、クレアはそこから感じた。
「‥‥馬鹿馬鹿しい! ‥‥何を考えてるんだ私は‥‥」
 自分に言い聞かせるようにつぶやいたクレアだが、篠崎の機体にはそれが聞こえていた。
「クレアさん、どうしました?」
「あ‥‥いや、何でもない。篠崎、レーダーはどうだ?」
「現時点では、霧の周辺空域には増援らしき機影は感知されていませんね」
「なら、中に入って出たとこ勝負の一発勝負ってとこか。海中の奴らには連絡入れたのか?」ゼラスの声が、割って入った。
「うむ、美黒が連絡したのである。それにしても‥‥この濃霧がレーダーを狂わせるでありますか」
 美黒から、何かを叩く音が響く。どうやら、自らの両頬を叩き渇を入れたらしい。
「ここからは‥‥美黒の目視のみが頼りであります」
 通信機から響く美黒の言葉に、クレアもまた同じく両頬を叩き渇を入れた。
 そうだ、ここから先はレーダーが効かない。己の技量と感覚、そして精神を研ぎ澄まして戦わねばならない。恐れに負けていては、バグアに勝つ事などありえない。
「クレア・アディ。これより霧の中へ突入する!」

「始まったようね」
 水中の藤田が、威龍とともに『敵』へ接近していた。
 既に、その存在を認識している。徐々に接近してくる、多くの兵器。
「‥‥似ているな、そっくりだ」
 威龍はそれを見て連想していた。幼少時に、玩具店で売られていた水中モーターを。
「こちら藤田あやこ、マクシミリアン、聞こえて?」
『こちらマクシミリアン、どうした!?』
「『マブチ』を確認したわ。肉眼では確認できないけど、ソナーには反応あり。これより、迎撃に向うから、船のコントロールはそちらでお願い」
『了解した、そいつらをぶっ飛ばして来い! 交信終了(オーバー)!』
 マクシミリアンの声援を受け、二機のビーストソウルが海中を突き進む。
水中カメラが、海中の様子をモニターへと映し出していた。見える、幽霊船弾『マブチ』の姿が。
「威龍さん、距離は?」
「大丈夫、船団と沿岸部にはまだだいぶ距離がある。あの爆弾をぶっ潰しても影響は無いだろう」
「ならば‥‥行きます!」
 決意を込めた声とともに、ナイトフォーゲルが前進した。藤田あやこの魂と精神とが乗り移ったかのように、機体に搭載されたスナイパーライフルD−06が、鈍い光沢を放つ。あたかもそれは、遠方から獲物を狙う猛禽の鋭い視線のよう。
「‥‥!」
 その引き金を引き、その一発が、一機の『マブチ』を貫いた。
 海中に、花が咲いた。爆裂し、暗き深海へと光をもたらしたのだ。
「‥‥来る!」
 威龍の言葉通り、爆発を逃れた爆弾が迫りつつあった。
 今の攻撃で、爆発の連鎖を起こした『マブチ』だが、それでも全ての爆弾を爆発させたわけではない。
 爆発の衝撃波とともに、新たな爆弾が迫り来る。数は減ってはいるが、それでもその数は少なくは無い。
「ならば、もっと減らしてやるぜ。発射!」
 威龍のビーストソウルから、ホーミングミサイルが放たれた。それは、熱源を感知し襲いかかる、追跡する悪魔。今まさに、『マブチ』の熱源を感知し、追尾する!
『マブチ』が破壊される衝撃波が、二機のナイトフォーゲルへと伝わってきた。

「お、どうやらお出ましのようだぜ。みんなしっかり頼むぞ!」
 水中から上がった水柱。それを見つつ、マクシミリアンの口から言葉が出た。
 それと同時に、ダミー艦周辺水域の海上にて。続々と現れる「クモ」の群れ。
 だが、「クモ」のいくつかは水上にて背中を展開すると、そこから霧を発生させている。間違いなく、「キリグモ」だ!
「なるほど、確かにこいつぁ見分けが付かないな」
「キリグモ」が発生させた「霧」内部に、すでに空中班は先行しているが、どこを飛んでいるのか皆目見当が付かない。
「‥‥なあに、景気の故障と視界不良が重なるなんて良くあることさ。みんな、こういう時は自分の目と耳、感覚が頼りだぞ。衝突や同士討ちにだけ気をつけようぜ!」
『こちら‥‥了解‥‥』
 篠崎からの連絡らしいが、雑音が多くて聞き取れない。
 しかし、不安は無かった。焦燥も無かった。恐怖はあるが、それほど強くは無かった。
 仲間への「信頼」があるのみならず、敵が何者かという「情報」を得て、なおかつ敵を殲滅する「対策」をも立てているのだ。そして、それに対抗できる「手段」を手にして、実行している。恐がる必要などない、あるわけがない。
「さーて、クモさんこんにちは。そして即座にさようならだ。とっとと出て来い、パラサイト!」
 甲板に取り付き始めた「クモ」、そして「キリグモ」の群れを前に、マクシミリアンの口が不敵ににやりとした。

「‥‥どうやら、始まったみたいだな」
 ホアキンは視線の先に、濃霧を捕らえた。
 そして、自らの機体‥‥XF−08D・雷電にて、自らが操舵する船の舳先に立ち上がる。その姿は、闘牛場で猛牛と戦う前のマタドールのような、決意と闘志に満ち溢れていた。
「霧から、寄生させる船が出てくるまで待たねば」
 この作戦、絶対に成功させなければ。それには焦りは禁物。
 ただ、待った。チャンスが来るのを、彼はひたすら待ち続けた。

「くっ、一隻やられましたか」篠崎はうめいた。
 小型の艦が一隻、「クモ」にたかられた。艦内に侵入した「クモ」の群れは、内部で自爆し穴を開け、あえて艦を沈没させたのだ。
 どうやら、「マブチ」が来ないために、艦の操舵が出来ないゆえの行動らしい。一度沈没させてから、あとで寄生しようという事なのだろう。爆発も最小限度のようで、すぐに離れると海上へと出てくる。
「敵も考えてるじゃあねーか。だったら、なおさら潰しがいがあるってもんだ!」
 巡洋艦の甲板へと、ゼラスのシュテルンが攻撃を仕掛ける。が、密集している「クモ」の群れを下手に撃てば、そのまま大爆発が起きてしまい逆にこちらが危ない。
 ましてや、濃霧の中。視界は思った以上に悪かった。まるで目隠ししているかのように、何も見えないのだ。戦うなど論外。
「‥‥っ! くそっ、また一隻!」
 今度は、船腹に取り付き、穴を開けられた。そのまま転覆し、海中へと沈んでいく。
 残る船は、あと二隻。しかしそのうち一隻は、彼らの見ている前で沈み始めた。残るは一隻、すなわち空母のみ。
「早く、空母を霧の外に‥‥!」
 焦燥に駆られつつ、クレアはナイチンゲールを濃霧の外、空中へと離脱させる。
 クレアの願いを聞き届けたかのように、やがてゆっくりと濃霧の中から、巨大な空母の影が姿を現し始めた。

「‥‥着たな! いいぞ、来い!」
 濃霧から脱出した空母、それに「クモ」が取り付き始めたのを、マクシミリアンは見た。
 そして、徐々に接近してくるもう一隻の、そして空母以外最後のダミー艦。
 ホアキンが乗る小型巡洋艦が、打ち合わせどおりに近づいてくる。
 やがて、彼らが見ている前で。「クモ」の一体が艦橋へと進み出た。
 だが、それを確認する前に、マクシミリアンのビーストソウルへと、「クモ」が攻撃を仕掛けてくる。
「畜生、限界だ!」
 空母から離脱するのと、「クモ」の一体の背中が割れるのとが、同時に発生した。
「! 見ぃつけ‥‥たっ!」
「クモ」内部から出てきたそいつに対し、待ちに待っていたM2のウーフーがシートをはぎとって立ち上がった。
「おおっと、逃がしゃしねえぜ! ‥‥クソッ、おとなしくしやがれ!」
 同じく、ヒューイのハヤブサもまた立ち上がる。おぞましいミミズのように身体をくねらせる「パラサイト」へと、ヒューイはスパークワイヤーを放った。細いが丈夫なワイヤーが、「パラサイト」を絡めとる。
「やったぜ! 作戦成功!‥‥って、なんだと!」
 ヒューイが驚きの声をあげた。いや、M2も、離脱し水上で「クモ」と戦っていたマクシミリアンや、上空から狙撃していたゼラスら四人もまた、驚いていた。
 別の「クモ」から、もう一機の「パラサイト」が出現したのだ。それは艦橋へと素早く接近すると、そのまま巻きつこうとする。
 空母のコントロールが奪われる。そう思った瞬間。
「はっ!」
 スパークワイヤーが、二匹目の「パラサイト」を絡めとっていた。あたかもそれは、インカの太陽神が不埒な小悪魔を捕らえ、神罰を与えているかのように見える。
 いみじくも「インティ(太陽神)」の名を与えられたナイトフォーゲル・雷電が、「パラサイト」を鹵獲したのだ。
「大人しくしろ」
 ホアキンが、静かにつぶやく。それに逆らい、「パラサイト」はワイヤーに絡められつつも悪あがきをしていた。
「目標、鹵獲完了‥‥後、すべき事はひとつ!」
 敵の掃射。
「総攻撃だ!」
 海上に、UPC戦士たちの雄叫びが轟いた。
「ミサイルアクティブ‥‥ターゲットインサート‥‥」
 クレアのナイチンゲールが、127mm二連装ロケットランチャーを構えて狙う。
「‥‥ゴー! シュート!」
 発射された破壊の力が、こしゃくな「クモ」の群れを一掃した。

 藤田と、威龍が全ての「マブチ」を破壊し、帰還した時。
 ダミー艦隊は全てが破壊されていた。しかし、同時に「クモ」と「キリグモ」もまた、全てが破壊されていた。
「おおっと、全てじゃあないぜ。見てくれ、俺たちが釣り上げた獲物をよ」
 ゼラスのシュテルンが鹵獲したのは、数体の「クモ」。
 自爆しようとしたらしいが、不発で、波間に漂っていたところを回収したのだ。
「寄生虫の他に、おみやげが増えましたね」と、篠崎。
「すぐに専門家に見てもらいましょう。豊後水道をクリアするために、がんばったかいがあったってものだわ」
「ああ、まったくだ」
 藤田の言葉に、マクシミリアンは相槌を打った。
「にしても、船に寄生するってのはどういう仕組みなんかねえ。興味あるぜ」
 そいつは、帰ったら科学者連中が解明してくれる事だろう。なんにしろ‥‥今夜はうまいビールが飲めそうだ。
 そして、こいつらを一掃する任務が与えられる事だろう。
「任務完了! 帰還するぜ!」
 その時にそなえて休息し、万全の調子を整えておかなければなるまい。
 次の、そしておそらく最後の戦いに備え、十機のナイトフォーゲルは基地へと向っていった。