●オープニング本文
前回のリプレイを見る 九州、鹿児島県。
ヘルメットワーム、ジャンク・バーサーカー(JB)を退け早一月弱。
枕崎の周辺は、今も警戒されていた。
以前、この周辺地域にヘルメットワームJB‥‥破損および廃棄寸前のヘルメットワームを修復、歩行ユニットを装着し、内部に爆弾を搭載。目標へと進軍、自爆するという無人兵器。
それらは海中を歩行し、枕崎市へ侵攻。上陸し自爆する事で同市を破壊せしめようとしていた。
幸いにも、それは勇敢なる能力者、および彼らの駆るナイトフォーゲルによって迎撃。枕崎市は破壊される事無く現在に至る。
が、当然ながら周辺海域のパトロールは欠かさない。海域のみならず、地上、そして空中からも襲ってくる可能性が高い。
それゆえ、UPCは枕崎市周辺をくまなく警備し、警戒していた。陸海空、侵入するものはアリ一匹見逃さないように。
そのかいあって、海中を歩行するJBを発見し、UPCの兵器で大事に至る前に破壊する事も少なくは無かった。いまのところ、JBが原因で軍、および九州の都市部などへの被害は出ていない。
だが、バグアは次の一手を伸ばしつつあった。
鹿児島県、池田湖湖畔。指宿市。
現在、この場所は燃料や食料などの補給物資を保管している補給基地が存在する。基地にはレーダーも完備しており、空陸両方からのバグアの侵攻をキャッチ、報告する事が可能だった。
が、提示連絡を入れた、次の日。連絡が途絶えていた。
そして、UPCの調査部隊が赴いたところ。‥‥破壊された基地の惨状を、彼らは見ることとなった。
調査部隊が到着したのは、朝の9時。
昨日、夜中の12時に連絡があった。そして、朝の6時に提示連絡が入るはずだった。
そして、連絡が無い事から異常事態と断定し、調査隊を募り派遣。調査部隊は、基地へと赴いた。
指宿市基地は、破壊されていた。何かの襲撃を受けたのは間違いないが、まるで「爆撃」を受けたかのように、基地施設が吹っ飛んでいた。
「‥‥これは、バグアの新たな攻撃に違いない。だが、どうやって?」
調査隊の隊長は、惨状を見て思案した。確かにバグアの仕業に相違ないだろうが、問題は「バグアはどうやってこのような攻撃を行ったのか」という事だ。
空から? だが、少なくとも周辺地域からのバグアの爆撃部隊の報告は無い。
陸から? それも然り。そもそもこれだけの基地を破壊するためには、相応の数と武装が必要。しかし、それは発見されず。
海から? それは考えられない。なぜなら指宿は海から離れている。指宿市そのものは、外洋からは離れた、内陸に位置している。海から上陸し、陸路で向かうしかない。
ならば、湖から?
‥‥ありえない。そもそも、湖に入るためには陸路か空路で赴かねばならない。そしてここ一月弱の間は、池田湖へのバグア、またはそれとおぼしき存在は、入り込んだ様子は見られなかった。
だが、どこから? そもそも、監視網を潜り抜けて内陸に入り込んだとしても、わざわざ湖に入る必要があるのか? 内陸部を攻撃するなら、湖に入る事無く、そのまま攻撃すればいいだけのことではないか?
隊長は、高空からの爆撃によるものと結論づけようとした時。
「隊長! 生存者です!」
部下が、瓦礫にうずまっていた生存者を発見した。
「しっかりしろ。おい、何があった?」
生存者は、一介の兵士。しかし、爆弾の破片を全身に浴び、瀕死の状態だった。
「‥‥ゆ、夕べは‥‥霧が‥‥」
そして、彼はそのまま事切れた。その場にいた全ての兵士が沈黙し、彼の冥福を祈っていた。
「‥‥兵士一名、死亡を確認。‥‥安らかに眠れ」
敬礼した隊長に、部下の一人が何かを差し出した。
「これは、この兵士が持っていたものです。何か手がかりがあるかと思われますが」
ハンディタイプのデジタルビデオカメラ。間違いなく、この兵士の命を奪った、そして基地の他のUPC隊員たちの命を奪った何かが、映っているに違いあるまい。
「すぐに再生しろ」
「というわけで、再生したのですが‥‥」
UPC基地内。
この件を担当するUPC担当官が、君たちへと事情を説明していた。
「映っていたのは‥‥いや、これは実際に見てもらいましょう」
かくして、部屋が暗くなり、その映像が壁の大画面に映し出された。
それは、ビデオメッセージ。非戦闘地域に避難している、兵士の家族と恋人へ当てたものだった。
もうすぐ、ここの任務も完了する。そうしたら、少しの間だけ帰宅できるだろう‥‥といったことを、若き兵士は画面に向けて喋っている。
撮ったのは、湖を臨む兵舎らしい。彼の後ろには、窓があり、窓からは星明りが見えた。
が、一分ほど経つと。
急に、外には霧が発生した。それは外の様子を、まるで全てを見えなくするかのように覆ってしまった。
一隊何事かと、窓に近づいた兵士。
霧の中から、巨大な水音が発生し、続いて霧に浮かぶ巨大なシルエット。
そのシルエットが近づき、次の瞬間。
兵士の絶叫、そして画面はめちゃくちゃに揺れて、爆発音がしたと同時に映像は途切れた。
「これが、カメラに入っていた映像の全てです」
苦々しい表情で、担当官が言った。
「あの湖に、何かがあるのは必至。しかし、なぜ湖に、それもいつの間にバグアが入り込んだのか。それが分からんのです。諸君には池田湖内へ潜水し、どのような状況になっているかを調査していただきたいのです」
「既に我々も、無人探査潜水艇にて内部を調査した。が、範囲が狭く、調べ方が悪かったためか、いまだ何も発見できていない」
担当官に続き、調査隊の隊長も述べる。
「‥‥どうか、池田湖に潜むバグアどもを見つけ出してほしい。よろしく頼む」
●リプレイ本文
:フェイズ1
鹿児島県、池田湖。
静かで、閑静な風景がそこにはあった。
だが、湖を見つめる開拓者たちは、緊張を隠しきれない。この平和に見える湖の底には、バグアのヘルメットワームが潜んでいるからだ。
「‥‥始めましょう」
篠崎 公司(
ga2413)が、口を開いた。そ
バグアの連中が仕組んでいる罠。
それは、外洋から攻め込むのみならず、内陸にもヘルメットワーム・ジャンクバーサーカーを上陸させ、奇襲攻撃を仕掛けるという事。今回のこの事件は、その第一歩に違いあるまい。
そして、湖から今回の「それ」は現れた。だとしたら‥‥。
「外海と、湖。トンネルを掘って、そこを通って現れた‥‥ってトコだろうな」
簡潔な言葉で現時点での推測を述べたのは、虎牙 こうき(
ga8763)。ナイトフォーゲルPD−020Sパラディンを駆る、熱き魂。彼の言葉は、通信機を通して仲間たちへと伝わっていた。前回の任務には不参加の彼ではあったが、他メンバーたちから事情を聞いて、状況は理解していた。
可憐なるメイド少女、リュティア・アマリリス(
gc0778)。愛機GF−Mアルバトロスのコックピット内で、彼女は虎牙に返答する。
「海底と湖底とを繋げた場所。それがどこかを、なんとかしてつきとめないといけません」
現在湖内部を、4機のナイトフォーゲルが潜航していた。目的は、敵の侵入経路発見。現在彼らは、池田湖南端付近を捜索していた。
篠崎をはじめとして、メンバーのほとんどが導き出した推測。
それは「バグアは、池田湖湖底と外洋にトンネルを掘削し、それを侵入経路とした」というもの。そして、かのジャンクバーサーカー(JB)は、そこから池田湖内へと侵入。湖から上陸し、攻撃したのだろうと。
外洋からの侵入者に対して監視するのに、内陸の湖へと目を向ける事は少ない。ましてや池田湖は海にも近い。何らかの方法で海と繋げてしまえば、ここを拠点にして、内陸部への侵攻が容易になる。
だとしたら、是が非でもそれを阻止せねばなるまい。
「‥‥まったく、なんて事をしてくれたのかしら。バグアのやつらは! そもそも指宿を襲うなんて、温泉グルメ愛好家の私に喧嘩売ってるに違いないわね。そっちがその気なら買ってやろうじゃあないの! たっぷり利子を付けてね!」
任務に対して、怒りとともに人一倍意欲を見せているのは熊谷真帆(
ga3826)。XF−08D改・雷電に搭乗する、長き黒髪の戦う大和撫子。
彼女の言葉からは、それだけで熱気と怒気が伝わってくるようだと、銀髪青眼の少年・オルカ・スパイホップ(
gc1882)は思った。
「ま、事前調査の結果はこちらの予想通りだったし。おそらく見つかるのも時間の問題じゃあないかな」
オルカの愛機も、リュティアのそれと同じくGF−Mアルバトロス。そのコックピット内部で彼は、湖底に入る前に得た調査結果のレポートに目を通していた。
「『湖南部湖岸一帯は、通常より塩分濃度が著しく上昇。および淡水湖には存在しないはずの水棲生物の生存を確認』『現在は、塩分濃度の上昇は収まり、通常のそれに戻りつつある』‥‥ったく、リュティアさんと篠崎さんが考えてた通りじゃあないか。こんなんで良く『調査したけど見つかりませんでした』なんて言えるよなあ」
担当官に対して、嫌味っぽさを最大限アピールしつつ言った言葉を、オルカは改めて口にする。
二機のアルバトロス、一機の雷電に一機のパラディンは、湖の南端部から徐々に、外周部を時計回りに沿って進んでいた。念のためにと、篠崎は単独で別の箇所‥‥襲撃を受けたUPC基地、ないしはその周辺水域の調査のために東側湖岸へと赴いている。
塩分濃度が特に上昇していたのは、この湖南西部周辺。ならば、海底トンネルはこの水域内に存在しているはず。
「‥‥にしても、ナイトフォーゲルに乗るってのはこんな気分なのか。やっぱり生身とは違うな」
オルカは自機のコックピット内を見回した。実を言うと、KVに乗ったのは今回が初めて。操縦に慣れるため、戦闘行為は正直まだ避けたいところ。
不安がオルカを苛み、そしてメンバーたちをも苛んだ。
「? ‥‥ソナーに反応。どうやら、見つけたかもしれないぜ」
虎牙のナイトフォーゲルが、何かを発見した。
「‥‥妙ですね」
池田湖南東部。指宿市基地の周辺水域にて。
RN/SS−001リヴァイアサンのコックピット内で、篠崎は思案にくれていた。
塩分濃度上昇現象は、こちらでも確認されている。だが、彼はたった今、異様なものを発見したのだ。
ナイトフォーゲルのカメラは、トンネルを映し出していた。隠された海底トンネルを、篠崎は発見したのだ。
だがそれは、小さかった。それはあまりに小さく、小型のヘルメットワームでも通り抜けられないだろう。
それが、目前に口を開いていたのだ。
:フェイズ2
「相変わらず、ですね」
シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)、PM−J8改アンジェリカに乗る、日本人のスナイパー。
「清々しい程のえげつない手を使ってくるところ。そんなところは、相変わらずです」
外洋、花瀬崎付近の海域を、シンは二人の仲間とともに潜航していた。
「しかし、本当にこのあたりに敵さんのトンネルがあるってのかい?」F−108改ディアブロに乗る、世史元 兄(
gc0520)が問いかける。飄々とした口調だが、その目に宿るは戦う者の決意溢れる光。
「おそらくはね。池田湖の南水域付近には、塩分濃度が上昇している場所がある。湖は淡水湖だ。ならば‥‥」
あとは言うまでもないと、和 弥一(
gb9315)はそこで言葉を切った。彼のKVもまた、世史元と同じくディアブロだ。
待機していた彼ら三名は、湖捜索班の虎牙たちから連絡を受け、水中へと潜航していたのだ。
虎牙たちの報告によると、池田湖湖底南西部に、穿たれた「穴」を発見したという。それは明らかに人の手‥‥いや、バグアの手で掘削されたものに相違ない。その手前の海底に積もる泥には、何かの痕跡が確認されたのだ。
そして、花瀬崎近隣の海域にて。世史元のKVが何かを捉えていた。
「ん? オイ和、あの穴怪しくねーやー?」
「確かに、怪しいな。あんな場所にあれだけの穴が開いていたら、既に海図に記載されていていいはずだ」
世史元が指し示したその洞窟は、巨大であった。海底に穿たれたそれはまるで、海底に潜む化け物が、巨大な口を開いて餌を待ち受けているかのよう。
「どうやら、間違いはなさそうですね」確信したかのように、シンがつぶやいた。
「あー此方海班、世史元。せびら自然公園沖の海底に、怪しい穴を発見、どうぞ」
『了解、こちら湖側からもこれより侵入する』
「こっちも、これから中に潜ってみるぜ。んじゃ、あとよっしく。‥‥和、見張りは頼んだ」
「ああ、まかしといてくれ。そっちも気をつけてな」
和に見送られるように、世史元、そしてシンのナイトフォーゲルは洞窟内へと進んでいった。
洞窟は、それほど広くは無い。ナイトフォーゲル、もしくはヘルメットワームが一機、ようやく入り込める程度の広さしかない。
しばらくトンネル内を進むうちに、シンは口を開いた。
「‥‥世史元さん、思うんですが」
「ん? なんだ? バグアの腐れ外道が彫ったこの糞トンネルがどうかしたか?」
「ええ、この糞トンネルなんですが‥‥確かに掘ったのは間違いないでしょう。けど‥‥果たしてこれが、奴らの作戦の本当の狙いでしょうか?」
シンは、納得がいかなかった。彼は、トンネル以外の可能性も示唆してはいた。いや、実際のところ、事前に調査した結果。UPCの監視網を潜り抜け、わずかではあるが陸上から密かに池田湖内部へ潜入したような痕跡も確認されたのだ。
今となっては、それが事実かを確認するすべはない。あるいは見間違いかもしれない。
‥‥が、心のどこかで何かが引っかかる。そもそも、バグアのJBを湖に入れるにしろ、こんな小さなトンネルで十分に通るのだろうか。
少なくとも、JBがギリギリ一機通る程度の穴しか穿たれていない。どうせ掘るのなら、もっと大きく、そして大型兵器も運び込めるくらいの大きさのトンネルを掘るべきだ。その方が、より多くのヘルメットワームやJBを湖に侵入させられる。
なのに、なぜこの程度の大きさの穴しか掘らない? こんな小さなトンネルで、事が足りるとでもいうのか? シンは、先刻から感じているその疑問を口に出すと、世史元もまた唸った。
「‥‥確かに、言われてみれば謎だな。こんなちまいトンネルじゃあ、ちっぽけなもんしか湖に送れねえしなあ‥‥って、なんだ?」
会話はそこで、中断された。
「どうしました?」
シンが投げかけたその疑問に、世史元は簡潔な言葉で答えた。
「ん?行き止まり?!!!」
トンネルは、そこで終わっていた。完全に塞がっては無いものの、穿たれているトンネルは余りにも小さい。少なくとも、小型ヘルメットワームが通り抜けるのはまず無理だ。
二機のナイトフォーゲルと、そのパイロットたちは、困惑したままでそこに停止していた。
:フェイズ3
真帆もまた、困惑していた。おそらく、同行していた虎牙にリュティアも同じだろう。
オルカを見張りに残し、彼女たちも内部へ進入したまでは良かった。良かったが。
すぐに、行き止まりになってしまったのだ。正確には、トンネルは細く小さくなっており、通常タイプのヘルメットワームも通り抜けられないほどではあったが。
人型に変形したKVで進入していたため、その穴をKVの頭部、ないしはそのカメラで覗いてみた。
真帆の雷電は、その小さなトンネルのはるか向こう側に、何かが光っているのを発見した。二人の‥‥シンと、世史元のKVの光に相違あるまい。
「‥‥ふ、ふふふ、やってくれるじゃあない、バグアのすっとこどっこいどもが! どうやら外れのトンネルに、私たちを迷い込ませたってところね!」
そんな罠にひっかかった自分が、どうにも許せない。ぎりりと歯をきしらせ、真帆は苦虫を噛み潰したかのようなしかめっ面を浮かべていた。
「あの、真帆様。とりあえず落ち着いてください」
リュティアにたしなめられたと気づくのに、真帆は若干の時間を要した。そうだ、ここでむしゃくしゃしたところで、バグアどもに痛手を与えられるわけではない。おちつけ、落ち着くのよ熊谷真帆。深呼吸すーはー。
「‥‥だが、確かにどうやら、一杯食わされたようだがな。ヘルメットワームが通れない小さな穴では、侵入路としては使えないだろう」
リュティアに続きシンの言葉が、通信機越しに真帆の耳へと届いた。
怒りの炎が胸の中で再燃し始めた真帆だが、そこでふと思い出した。
ソナーブイを申請したが、機材不足のために却下された、という事に。それを用いて、以前に出た「幽霊船弾」の特殊爆弾「クモ」あるいは「ミズグモ」を発見できないかと考えていたのだ。
そこで、彼女は思い出した事から、思いついた。
このトンネルは、ヘルメットワームでは通り抜けられない。当然、歩行するJBも同じく。しかし、もっと小さいものだったら?
たとえば、「ミズグモ」のような。
その程度の大きさのものならば、このトンネルでも十分だろう。そして何より‥‥海から侵入できる。
「こちら、篠崎。みなさん、応答してください」
真帆がそこまで考えたところに、篠崎からの連絡が入ってきた。
「『ミズグモ』を発見しました。現在、鰻池方面へのトンネルに潜入しています」
:フェイズ4
遠くで、そして大きな岩の陰に隠れ、篠崎のKVはそれを見ていた。内部の操縦者たる篠崎の目には、目前のそいつは小さいながらも、恐るべき強大な存在。そう、大きな災厄を与える小さな存在。
それらは、蜘蛛のごときデザインと動きを有していた。細長い八本足を、せわしく動かしつつ迫り来る‥‥たった今、篠崎が発見したトンネルへと。
篠崎がその小さなトンネルを発見した後、KVのソナーが接近する新たな存在を感知した。遥か後方から、多数の小型物体が徐々に接近しつつあるのを感知したのだ。
リヴァイアサンを変形させつつ、穴から離れ、近くの大岩の陰へと隠れる。篠崎は、KVの望遠カメラの映像にて、そこに「それら」を見た。
池田湖の中心部、その深淵から多数のマシンが表れ、そして穴へと向かい進行してくるのを。
それは、以前に篠崎が見た事のあるマシン。「幽霊船弾」において、「クモ」または「ミズグモ」と呼ばれているものに相違ない。多少のデザイン変更は成されているものの、間違いなくあの「クモ」であった。
十数機の「クモ」は、リヴァイアサンには気づかない様子だった。そして、まるで隊列を組んだアリのように小さな穴へと一体づつ潜り込むと、姿を消していった。
「‥‥どうやら」
後に残る、水中の平穏。再び静けさを取り戻した湖底を見て、篠崎は一人呟いた。
「どうやら、トンネルを通っていたのは‥‥奴らだったようですね」
そして、どっと汗が噴出すのを感じた。
「クモ」に多数でたかられたら、大型の軍用艦でもひとたまりもない。ましてやKVなど破壊するのは簡単。
そして、少なくとも今目撃した数は、結構な数があった。
冷や汗と脂汗を同時にかいた彼篠崎は、安堵のため息をつき、己の幸運に感謝した。
:フェイズ5
「つまり、こういうことか?」
指宿近く、UPC前線基地の粗末な食堂にて。オルカは、あまりうまくないうな重をかっこみつつ言った。
「最初に、小さなトンネルを掘って、そこをあのちっぽけな『クモ』とやらを通した。で、そのあとで、『クモ』の中でレーダーを利かなくさせる奴により、JBを池田湖へと動かし、潜伏させたと」
「ええ、おそらくはそういう事でしょうね」真帆がそれに相槌を打った。トンネルを通っていたのは、JBではなく『クモ』であったのだ。
「で、篠崎さんの話が正しいとすると、鰻池へとそいつらの一派は向っていったんでしょうね」リュティアが補足する。
そして、クモ内の「キリグモ」が湖の周辺に霧を散布。その助けがあって、JBの何体かが湖内部へと進入したと。
基地を壊したのは、そのうちの一体なのだろう。メインはJBではなく、「クモ」の方だったのだ。
彼らはこの事を、指宿に駐屯している司令官へと伝えた。そしてすぐに、池田湖、および鰻沼への大規模な『クモ』捜索作戦が実行された。
現在、多くの『クモ』掃討作戦が実行されている。池田湖からは、多くの爆発音が今も響いてきた。
ともかく、今回はなんとかして、この野望を阻止する事はできた。
だが、問題は、そしておそらく最後の決戦は、近づいている事だろう。
その日その時を思い浮かべ、篠崎は、そして皆は、背中にぞくりとするものを感じていた。