タイトル:忍び寄る危機:1マスター:塩田多弾砲

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/04 02:34

●オープニング本文


 宮崎県、日向灘。
 バグアとの戦闘が激しくなる昨今。日向灘に奇妙な報告が寄せられた。
 曰く、夜になると海岸付近で奇妙な何かが目撃される、というもの。
 かくして、UPCの一隊がそれを確認に赴いたが‥‥結果、何も発見できなかった。
 が、それが新たな火種となりて、UPCを、ひいては九州へと脅威となり迫るとは、その時に誰も思いもしなかった。

 宮崎港・空港整備事務所跡。
 現・UPC宮崎県宮崎港駐屯地司令室。
 司令官の坂本は、そこで部隊へ司令を下していた。ここ数日間、日向灘沖の海域に何かが見える。それも巨大な何か、恐ろしい光を放つ眼を持つ何かが。
 それは多数。それは群れていた。
 それが何者かは、いまだ不明。だが、ソナーには反応しない。金属反応も、また、マシンの起動音も探知できていないのだ。
 それは、決まって夜になると出現する。そして、付近の海域をパトロールしているUPC船舶の付近に出現しては、その姿をくらましていた。
 
 みやざき臨海公園。そこに隣接している、とあるマリーナ。
 かつては、高級ヨットやモーターボートを係留・保管・修理するために設置された、宮崎県唯一の本格マリーナ。
 しかしこの係留地は、現在はUPCが接収。軍の船舶が係留され、現在も使用されている。
 もちろん、係留されているのは巨大な軍艦の類ではなく、排水量50tクラスの曳船(タグボート)や運貨船(艦艇への物資補給船)、艦艇や基地間の人員輸送支援するための、排水量11tの交通船といった、いわゆる第一種支援船がほとんど。
 が、三日前。運貨船が近くを航行していた輸送船へ物資補給のために接近していったところ。
 隊員たちは、そこに見たのだ。「何か」の群れの正体、水面に光る多数の「眼」の正体を。

「で、貴様たちは何を見た?」
 坂本は、その様子を見て、そのまま帰還した隊員たちに質問した。運貨船の船員たちから報告を受け、船を沈められる前に帰還させたのだ。
「はっ、自分たちは‥‥目撃しました。巨大な蛇の群れを!」船長が進み出て、坂本の質問に答えた。
「蛇、だと?」

 彼らの報告によると、運貨船が輸送船の連絡を受けて、マリーナより簿球物資を積載し発進、輸送船へと接近していった。
 が、輸送船と運貨船との間に、「群れ」が出現したのだ。それは水上に出現すると、運貨船へと向かってきた。
「確認できた時点では、水面上に蛇のごとく鎌首をもたげ、そして襲い掛かってきました。頭部の大きさから推測して、最低3〜4m以上、ことによるともっと巨大かもしれません。複数の鎌首を目撃し確認したところから、最低五体はいたものと思われます。そのうちの一匹が運貨船へと攻撃してきたので、撃沈されないようにと反転し、そのままマリーナへと戻りました」
 運貨船には、攻撃用装備は搭載していない。そのまま輸送船へと進んだら、間違いなく撃沈されただろう。
 輸送船は、そのまま航行。そしてマリーナに戻った運貨船ともども、『蛇』の群れはそれ以上手を出さず、その場はそれで済んだ。
 
「というわけで、諸君らにはこの『蛇』の殲滅を依頼したい」
 かくして、能力者たちが招集された。
「最初に姿を現してから数日、何事も無かったが‥‥しかし、マリーナに連絡が入った。件の『蛇』が侵入し、小型の船舶を身体に巻きつけて沈めたとな。それだけではなく、冷気をともなった攻撃も受けている。すでにマリーナに停泊させていた船舶は、全滅だ」
 召集に応じた能力者‥‥君たちの前に、マリーナの様子が映し出される。その映像は、修復の仕様がないほどに破壊されたUPCの小型船舶の残骸。
「『蛇』‥‥いわゆるシーサーペントは、この映像からして全長役4〜5m。身体を巻きつける事で小型船舶を水中に引きずりこむ攻撃を行っているようだ。で、大型の船舶に対しては、体当たりと冷気を用いて撃沈する事すらも可能らしい。諸君らの任務は、このシーサーペントの発見と殲滅だ」
 なんでも、このマリーナへと接近する船舶には、シーサーペントは必ず出現しては襲撃するらしい。
 しかし、大型火器を有した大型船舶や、地上に程近い場所には決して出現しない。‥‥どうも、襲撃する相手を選んでいる様子なのだ。
「確認できている時点で、小型の運貨船が2〜3隻程度、あるいは中型の巡洋艦1〜2隻までの集団ならば、連中は出現し襲撃している。が、中型・大型の戦闘艦になると、とたんに逃げ出して姿をくらましてしまう。ナイトフォーゲルでもだめだ。こちらが大量の火器で攻撃した場合、勝てないと踏んでいるのだろう。ともかく、こんな怪物どもがこの周辺海域を泳ぎまわり船舶を沈めているようでは、今後の軍事活動にも支障が出るだろう」
 彼は話を続ける。
「やつらは、小型の船舶を水中に引きずりこみ、沈めるという戦法をとっている。そこで、こちらも小型船舶を数隻用意した。中古のものだから、最悪沈められても構わん。我々は現在、これに兵士を乗り込ませ、敵が出現したところで迎撃する‥‥という作戦を実行したのだが‥‥」
 うまくいかず、逆に返り討ちにされた、との事だ。
「しかし、諸君の能力ならば、この敵を倒す事も可能だろう。どうか、引き受けてはもらえないだろうか」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
美空(gb1906
13歳・♀・HD
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
海鷹(gc3564
20歳・♂・CA
愛甲 ヒロ(gc4589
23歳・♂・DF
弓削 一徳(gc4617
35歳・♂・SN

●リプレイ本文

 青空の下、青い海原をゆっくりと進む、一艘の船。それは湾内をゆっくりと、大きな円をえがくかのように回っていた。
 運貨船・YL9号50t型。
 全長27m、船幅7mのその船は、一見すると「海に浮かぶ鉄の果物カゴ」といった外観。前面はほぼ甲板で、左舷にはクレーン。当然ながら、武装はない。
 船体後方の操舵室。その窓から前部甲板を、そして前方を視認出来る。ディーゼルエンジン二基で動くこの船の本来の役割は、艦艇に対する物資補給。老朽船として解体すべく陸地に引き上げられていたのだが、今回の事件で駆り出される事となった。
 初めてYL9号に乗り込んだ能力者たちだが、彼らは感じ取っていた。この船が、大切に扱われてきただろう事を。
「この船、動かしやすいのであります」
 操舵室にて、舵輪を操る美空(gb1906)は、それをもっとも実感していた。
 彼女の傍らには魚群探知機、ないしはそのレーダー画面があった。美空自身の希望により、取り付けたものだ。今のところ、何も探知はしていない。
 現在は、異常なし。だがその時になったら、用意してある彼女の武器が、大口径ガトリング砲が火を噴くことだろう。
 美空が視線を甲板に向けると、この依頼を受けた四人の仲間達が、それぞれ過ごしている。
「‥‥うん、小さめだけど、良い形のアジだ。ドクター、お一ついかがですか?」
 甲板の右舷、釣りに興じている愛甲ヒロ(gc4589)は、隣のドクター・ウェスト(ga0241)へと問いかけた。
「うむ、もらおうか〜」
 白銀の長髪を有する彼‥‥ドクターは、見るからに若きマッドサイエンティストといった風貌。
 甲板に置かれた、携帯用のガスコンロ。それを用い、ヒロは釣ったアジを焼き始めた。魚が焼ける匂いが、美空のいる操舵室にも漂ってくる。甲板左舷に目を向けると、そこには救命用ボートがあり、そして面倒そうな顔で海原を見つめている海鷹(gc3564)の姿が。
 甲板の前方には、ハミル・ジャウザール(gb4773)。YL9号の甲板前方に座り、海原へ視線を向けている。その両足には、足ひれをつけていた。
 海岸には弓削 一徳(gc4617)が、援護するために待機しているはずだ。
「さあ、バグアのキメラ。いつでも来い、なのです!」
 魚群探知機には、未だ反応なし。舵輪を操りつつ、美空は未だ見ぬ敵へと呟いた。

 海岸。
 近くに係留されたボートが、波に揺られてゆらめいている。
 聞くところによると、上空にはヘルメットワームが出てくるとの事。ならば、それをまず攻撃しなければ。
 ライフルを手にした弓削は、海と空、二つの青色へと銃口を向けつつ警戒していた。今のところ、船は、YL9号の様子に異常は見られない。無線での連絡でも、異常なし。
 ただ、待った。撃つべき敵が出てくるのを、彼はひたすら待った。

 数時間が経過した。
 変化はない。太陽は天高く上り、容赦なく日光を浴びせかけてくる。弓削は何度も汗をぬぐった。喉がからからになり、水筒に口をつけようかと考えたその時。
 無線に、連絡が入った。
「こちら、美空! ソナー感! 何かが接近してくるであります!」

「‥‥来ます!」
 船の前方。目を閉じていたハミルは、目を見開いた。
 それとともに、安穏とした空気が一瞬にして戦場のそれ、戦いの場に漂う鋭いそれへと変貌した。
 間をおかず、船の後方の海面にうねりが生じる。小さかったそれは、徐々に大きく、はっきりとした形をとって、海面を、水面を歪ませていった。
「本船の後方に、正体不明の物体! 数3‥‥4! いや、5! 徐々に接近してくるであります!」
 美空の声が、更に場の空気を緊張させる。
「どうやら‥‥そろそろ出番のようであるね〜」
 ウエストが、自分の武器‥‥水陸両用のアサルトライフル、そしてエネルギーガンのグリップを握った。
 同じく、ハミルもまた自身の武装‥‥水陸両用の槍「蛟」、水中剣「アロンダイト」の柄を握り締める。
「‥‥お願いします」
「まかせるね〜」
 言葉を交わす二人をよそに、美空は更なる危機が自分たちを襲うのを目にした。
「ソナー感! 前方より接近する物体あり! 数5!」
 囮になり、誘き出す作戦は成功したようだ。ならば、次の段階に移行せねばならない。
 レーダーを見て、今いるちょうどこのあたりが、罠のポイントだという事を確認する。美空は、船をその場に止めた。
 ヒロと海鷹もまた、立ち上がり戦いに備えている。ヒロは刀を、海鷹もやはりアロンダイトにアーミーナイフを携え、いつでもそれが使えるように身構えていた。
「‥‥初めての任務、皆の足を引っ張らないようにしないと!」
 ヒロはすぐ訪れるだろう戦いを、緊張の面持ちとともにそれを待ちうけ、
「‥‥でかい蛇かぁ、食われないようにしねえとな」
 海鷹はいささか呑気な思考で、来るべきバグアのキメラを待ち受けていた。
 
「!」
 全員が、それらに目を奪われた。
 船の前方と後方から、複数の鎌首が出現したのだ。それらはまさに、伝説に出てくる大蛇の鎌首。大海魔をも髣髴とさせるもの。冷たく瞬きをしない目は、邪悪の宝石をはめ込んだかのようにきらめき、深い色合いを見せている。
 それらが首をもたげたのは、船から数mの場所。バグアのキメラ・シーサーペントどもの首は、威嚇するように口をかっと開いた。
「‥‥船は頼んだよ〜」
 その攻撃が来る直前、エアタンクを装備したウエストとハミルは海原へと身を躍らせた。
 そして、甲板上の二人は、盾の後ろへと身をかがめ‥‥攻撃に備えた。
 神話に登場するドラゴンがごとく、シーサーペントの口から強烈な冷気が放たれた。甲板の一部が凍り、霜を作る。
 冷気のブレスは、いくつもの首が連続してはきかけてくる。操舵室の美空は大丈夫でも、甲板上の二人は無傷では済みそうにない。
「やられるっ‥‥!?」
 ヒロがそう思った、次の瞬間。
 シーサーペントの一体が、目を撃ち抜かれていた。

「もう一発!」
 海岸線。そこでは、弓削がライフルを構え、その引き金を引いていた。
 狙撃眼にて、彼の持つライフルの性能は最大限に引き出された。延びた射程距離のため、弾丸はシーサーペントの頭部を打ちぬき、キメラへと引導を渡した。
「一匹撃墜。さっさとくたばっちまいな、蛇野郎」
 更に一発。現場のキメラが混乱しているのを見ると、弓削は笑みを浮かべた。
 味方へ、更に有利な一発を放とうとしたその時。
「さてと‥‥ん?」
 彼は見た。はるか遠くの上空に、何かが飛び去るのを。
「ヘルメットワームか? なぜあんなところを?」
 その答えに答えてくれるわけもなく、その飛行物体は、そのまま空のかなたに消えていった。

 キメラの一体が、脳天を撃ち抜かれて水中に没したのを境に。
 YL9号の船上の能力者たちは、機敏に動き始めた。
 シーサーペントの一体が、船の後部、操舵室へと尾を打ちつける。衝撃で、窓の強化ガラスが割れた。
 が、さらに一撃を加えんとしたその時。
「ずたボロに‥‥してやるであります!」
 操舵室の扉を開け放ち、小柄な少女が蛇の前に立ちふさがった。その手には、銃身を束ねた大きなガトリング砲。
 蛇の命運は、三秒で尽きた。美空は引き金を引き、一秒で銃身が回転し始め、一秒で銃口から弾丸が放たれ、一秒でそれはシーサーペントに命中し、粉砕し、爆裂させたのだ。
 小気味の良い破壊音とともに、キメラの一体はまさにずたボロな肉塊と血漿と化し、青き海を血で染めた。
 甲板の前部には、マーシナリーシールド、メトロニウム合金で作られた白銀の盾を構えた海鷹の姿。
 海鷹を見たシーサーペントの一匹が、その長大な身体をくねらせ、頭部を甲板へと入り込ませてきた。そのまま、一飲みにせんと口を開き、噛みつかんとする。
「‥‥ふんっ」
 が、彼はそんなものにひるまない。盾で大蛇の頭を弾くと、海鷹はその脳天にアーミーナイフの刃を振り下ろした。
 肉の切れる感触、命を突き刺す感覚が、ナイフの柄を通じて海鷹へと伝わってくる。そのままずいと脳天を切り開き、三匹目の蛇が屍と化した。
「くるがいいです、海蛇お化け! はーっ!」
 掛け声とともに、刃が一閃。その鋭き切っ先は、更に別のシーサーペントの頭部へと食い込んだ。一刀を打ち込むたび、シーサーペントの皮膚が切れ、一撃を切りつけるごとに、シーサーペントの肉が裂かれていく。
「とどめ!」
 ざくり、という音とともに、刀の切っ先が深く突き刺され、四匹目が昇天した。
ちょうど時を同じくして、船の後方から近づいた五匹目を美空はガトリングで撃ちぬき、ミンチにして海へと肉片をばらまいた。
 だが、それでも六匹目までには対処できない。
「しまっ‥‥た!」
「‥‥ちっ」
「まずい、のであります!」
 三者三様に驚き、そして戦慄した。別の一匹が、胴体を船に巻きつけてしまったのだ!

「さて〜‥‥どうやらまだ居るようだね〜」
 電波増幅により、ウエストの知覚は上昇している。それは水中でも同じ事。ダイバースーツにエアタンクを背負い、手に携えるはアサルトライフルとエネルギーガン。
 エミタにより高められた精神力によって、ウエストは感じ取っていた。
まだいる、水上に顔を出していないシーサーペントが、まだ何匹か居る。
 それを感じるとともに、外洋から二匹、水中をくねり進む悪夢が迫り来るのが視認できた。
「‥‥? ‥‥!」
 それに対処しようと身構えたとき、ハミルが指し示した。
 別の二匹が、深遠から浮かび上がってきたのだ。ハミルはそれに対し、向かっていく。どうやら、自分が受け持つらしい。
「なら、頼みましたよ〜」
 仲間へと視線をやると‥‥倒すべき敵へと、殺すべき獲物へと、ウエストは目を向けた。

「‥‥行きます」
 心の中で、静かに呟くと。ハミルは泳ぎだした。
「疾風」を用いても、それほど変わったようには思えない。ここは水中、水がまとわりつき、思った以上に動けはしない。刹那を用いて二匹へと攻撃しようとしても、おそらくは思うよりうまくは行かない、かもしれない。
 ‥‥いや、やってみせる。
 アサルトライフルを手にして、まずは狙い撃とうとするも‥‥一匹目がいない。
「‥‥下か!?」
 その通り、下部からいきなり迫っていた! そいつは下方から、ハミルに噛み付こうとしていたのだ!
 一瞬、彼は慌て、そして一秒で落ち着き、二秒かけて接近戦用の武装に持ち替えた。
「蛟」、水陸両用の槍。その柄を、ハミルはしっかりと握る。
「はっ!」
 声に出さぬ気合の声とともに、槍の穂先をシーサーペントの口、開いた牙だらけの口中へと突き刺した。ずぶり、という音が聞こえた気がする。
 口の中を貫き、大蛇の頭を貫き通した「蛟」は、その穂先を怪物の後頭部から覗かせた。
「‥‥くっ!」
 しかし、二匹目は既に接近していた。そいつは、自分の周囲をぐるぐると囲うように回っている。明らかに、巻きつこうとしている。
「蛟」を引き抜こうとしたが、中々抜けない。そうこうするうちに、そいつの鱗が見えるくらいにまで接近された。すぐに、ハミルは行動に移った。すなわち、「蛟」から手を離し、アロンダイトを手にしたのだ。
 水中剣「アロンダイト」。刃はなく、水中にて周囲の水を用い刃を形成する。水中でのみ使用可能な剣。
「刹那ッ‥‥!」
 水の刃が、接近したシーサーペントへと切りつけられ、その鱗の肌を切り裂いた。周辺の海水が、そいつの血で濁る。うまい具合に、蛇はこの攻撃を逃れんと水上へと向かっていった。
 逃がさない。先刻にしとめたシーサーペントの死体から「蛟」を引き抜くと、ハミルはアロンダイトと二刀流に構えつつ、そいつを追いかけ始めた。

「けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ〜〜〜爬虫類ごときが、この天才に一杯食わそうなどと百万年早いんだね〜」
 接近しつつあったシーサーペント。しかしそいつは、ウエストに接近する前に、ウエストの構えた水陸両用アサルトライフルにより、見事に頭部を打ち抜かれた。
 だが、二匹目が見当たらない。逃げたのか、あるいはどこかに潜み、不意打ちを食らわすつもりか。
「‥‥ふむ〜」
 周辺を見回し、そして何かを思いついたかのように。彼は水上へと向かった。

 シーサーペントに固く巻きつかれたYL9号は、その船体をきしませた。そのまま、水中へと引きずり込まれそうになる。
 だが、今甲板に居るのは、高い戦闘能力を有した能力者たち。
「必ぃぃ殺ぁっっっ!」
 気合とともに、ヒロはエミタを活性化させた。刃の周辺の空気に、鋭い気配がまとわりつく。
「『海蛇十字切り』! てぃやぁぁ!」
 気合一閃、己の力を込め、彼は刀をシーサーペントの胴体へと切り込んだ。
「斬」‥‥という音とともに刃は、空気を切り裂き、海風を切り裂き、そして怪物を切り裂いた。両断剣。更なる力を付与された刀は、大海蛇の胴体を両断したのだ。
 文字通り、真っ二つになった大蛇は‥‥のたうち回りながら海原に落ち、そして、己の身体から流れる血で海を汚した。
「ふう‥‥なんとか、なったみたいですね」
 安堵し、額の汗をぬぐうヒロ。力を抜いた、その時。
「‥‥! 伏せるであります!」
 美空が、ヒロへとガトリング砲を向けた。大慌てで、ヒロは伏せる。
 ヒロの後方には、海上に躍り出たシーサーペントの鎌首。そいつへ美空は、容赦なく ガトリング砲の洗礼を浴びせ続けた。先刻と同じく、肉塊になったそれは海原へと沈み‥‥肉片を海に撒き散らし、果てた。
「‥‥ふう。油断大敵でありますよ。ヒロ殿」
 微笑みつつ、美空が言葉をかけたが。
「‥‥おい、後ろだ!」
「なっ!?」
 海鷹の言葉どおり、美空の後ろにもシーサーペントの鎌首が!
 かわしきれない、冷気を浴びせられるか、あるいは噛み付かれるか‥‥!
 思わず目を閉じた美空だが、次の瞬間。そいつの頭部は撃ち抜かれていた。
「やれやれだ。油断大敵であるよ〜」
 顔を出し、エネルギーガン片手に得意そうにしているウエストの姿が、海上にはあった。

「なんだと?」
 ウエストが、疑問を口にする。
「間違いない。ヘルメットワームが、南の空へと飛び去るのを見た」
 海岸で弓削と合流した皆は、彼の口からそのような事を聞いていた。
「ふむ〜?‥‥予想が、外れたと言うのか〜?」
 ウエストは、見るからに意気消沈。シーサーペント殲滅後、周辺海域の海底を探るも、なにもそれらしいものは発見できていなかったのだ。
 何かを探しているのか、それとも隠しているのか。そのような目的があるものと思っていたが、どうやらその推測は外れたと言うべきか。
「‥‥ともかく、帰還して報告するでありますよ。目下の目的は果たしました。ですが‥‥」
 美空は言いよどんだ。まだ、この件はこれで終わるわけではあるまい。危機は既に、別の方向から忍び寄っているのかもしれない。
 それを予想し、そして戦慄する一同だった。