●オープニング本文
前回のリプレイを見る「危機」は、石の下に集まる地虫のよう。
知らぬ間に集まり、いきなり姿を現す。そして、予期や予想はしていても、それに対処できる者は稀。
日常生活においても「危機」の芽は伸び、それは根を張り蔓を伸ばし、葉を茂らせ、花を咲かせる。
が、花そのものは目立たなくとも、花が実らせる果実こそがより危険と言える。
危機の種が伸び、危機の花が咲き、危機の実が生る。今回のバグア軍が忍び寄った危機は、花を咲かせ、そして実を結ぼうとしていた。
宮崎港・空港整備事務所跡。
坂本司令官は、ここ数日で安堵と焦燥とを繰り返し味わってきた。次第に彼は、自分が「安心」できなくなりつつあるのを知った。なぜなら、安堵の後で襲い掛かってくる危機が、より強く自らにもたれかかってくるからだ。
状況が好転し、安心する。しかし、必ずその次に、以前以上の絶望的状況、危険と危機とが襲い掛かってくる。それを払っても同じこと。また同じく危機が忍び寄ってくる。
不安が消えて安心しても、それは更なる不安を増すためのものにしかならない。
ならば、どんなに状況が好転しても、「安心や安堵などしないほうがいい」。そのように変わりつつある自分を理解してはいたが、それに対し何も出来なかった。それもまた、彼自身の不安を増長させる。
休暇が欲しかった。自分が壊れてしまう前に。
だが、そんなものは与えられないし、与えられるわけもないのも分かっている。人員も時間も、なにより勝機も足りないのだ。自分は軍人だ。ならば、この身と引き換えに敵を倒してから壊れようぞ。
目前にうごめく敵の軍勢を見つつ、彼は悲壮めいた決意を固めつつあった。
宮崎県宮崎市、高丘町花見。
能力者たちの尽力により、敵戦力の総数を把握できた。ならば後は、敵に対して攻撃あるのみ!
かくして坂本は、十分に武装を整えた一個大隊の出動を要請。これに大攻勢をかける作戦を立案。これを実行したのだ。
敵はタートルワームが十機、および巨大なキメラ・ラージビートルが十体。
かなりの難物ではあるが、それでも倒せないほどの数ではない。ならば、自分らがこれに攻撃を仕掛け、敵戦力を殲滅させる事も可能ではあるまいか。
いや、そうすべきだ。彼らは様々な優れた能力を持っている。そんな彼らにこの程度の任務を依頼するのは、いささかもったいないのではあるまいか。
彼らには、もっと重要な任務がふさわしかろう。そも、何か困難があれば能力者に頼るというのは、あまりにも情けないだけでなく、彼らに対しても失礼ではないか。
我々もまた、地球を守りバグアと戦う者たち。ならば彼らに甘える事無く、一般の兵士である我々も努力し、死力を尽くさなければ。
そう、能力者たちのように、自分たちも他者に安心や安堵を与えられるようにならなければ。賞賛だの栄誉だのはこの際関係ない。
無論、それらに対し興味が無いといえば嘘になる。だがそれ以上に‥‥今まで助けてくれた能力者たちへ、恩返しのような事をしたかったのだ。
この作戦を成功させ、少しでも彼らの負担を軽減できれば。それは何よりの礼になるのではないか?
かくして坂本は、作戦を開始した。
地上部隊は首尾よく、キメラを倒した。そして空中攻撃班もまた、空からの攻撃、および爆撃により地上のタートルワームを数機撃破しつつあった。
状況は有利。勝てる‥‥、そう確信しつつあったその時。希望的観測は巨大な絶望に潰されてしまった。
地上に展開していたバグア側の戦力は、タートルワームだけではなかったのだ。
森林地帯に、偽装して潜伏していたヘルメットワームが十機。飛び立ったそれはUPC空中部隊の不意を付き、戦闘機をパイロットごと破壊した。
同じく、森林地帯に潜伏していた、歩く小型ヘルメットワーム。かつて「アームズオプション」と呼ばれた歩行ユニットを取り付けた機体。それがUPC地上部隊へと奇襲を仕掛けた。
歩兵は薙ぎ払われ、装甲車や戦車などの地上戦力は一掃された。
「退け! 一旦退却しろ!」
前線で指揮を取っていた坂本が命令を下すが、兵士たちにそれは伝わらない。
予想外の伏兵に混乱したUPC軍は、混乱のきわみにあった。
当初予想していた敵戦力ならば、十分に対処できた。そのはずだった。若干有利だった状況で、希望の光が見え始めたその時。さらなる暗黒により、いきなり絶望がおとずれたのだ。
そして、その絶望をさらに強化する存在が、地下から出現した。
「地震? いや‥‥これは!」
坂本の言葉は、ある意味正しかった。それは「地震」の名前を冠したワームだったからだ。
アースクェイク、大地を揺るがし、大地を蹂躙する巨獣。
凶悪な大蛇にも、邪悪な大ミミズにも似たそれは、市街地を破壊し、坂本の率いていたUPC軍ことごとくを攻撃、これを殲滅させてしまった。
坂本が気がつくと、そこは軍の病院のベッドの上。
味方の損害は大きく、助かった者の数は多くは無いという。
「‥‥俺は、結局のところ、無力ということか」
いや、無力なだけでなく、無能というべきだろう。功を焦り、兵士を無駄死にさせてしまった事にはかわりない。UPCに忍び寄ってきた危機は、まさか自分だとは。
それを思い起こし、彼は泣いた。声を上げず、静かに泣いた。
「‥‥そういうわけで、今現在坂本司令官は入院中です。自分は、代理の仙八副指令です」
坂本に比べてまだ若い男が、君たちの前に立っていた。
おなじみのブリーフィングルームにて、宮崎県宮崎市・高丘町花見に結集しているバグアについての対策にて。
仙八副指令は、能力者にこの解決を依頼し、事態の収拾を図ったのだ。
司令官である坂本が戦線離脱した事もそうだが、なにより以前に確認した敵戦力の増加が判明したのだ。これ以上は手をこまねいてはいられない。
「自分の依頼は、このバグアの戦力を殲滅する事です。我々としても、なんとかしてこの敵戦力を殲滅しなければと思うのですが‥‥我々が何を行ったところで今の状態ではなんともしがたく」
つまりは、君たちの手でこの敵を倒して欲しいというのだ。
敵の戦力は、タートルワームが十機、そしてキメラ・ラージビートルが十匹。それらのうち、二機と三匹は破壊した。
しかし、いまや航空戦力としてヘルメットワームが五機、歩行および格闘用ユニットを装着したアームズオプションが三機追加された。
さらに、アースクェイクが一機。これだけの戦力が、この地に集結しているのだ。
「間違いなく、敵はここを拠点にして宮崎を、ひいては九州を征服するものと考えられます。だが、それを阻止したくとも、もはや我々の戦力は残り少ない。そこで、君達に頼みたいわけです。どうせ我々は何も出来ないだろうし、後方支援くらいはさせてもらいますがね」
彼は、静かに言い放った。
「ともかく、参加してくれるならすぐにお願いします」
●リプレイ本文
空を進むナイトフォーゲルの一隊。
「こちら、ドクター・ウェスト(
ga0241)。皆、応答せよ〜」
ナイトフォーゲル・XF−08D改2雷電。そのコクピットに座った白髪の若者が、仲間たちへと連絡を入れる。
「はい。如月・由梨(
ga1805)、感度良好です」
美しい黒髪の美少女が返答する。彼女が駆るは、F−108ディアブロ。愛称「シヴァ」。
「ハミル・ジャウザール(
gb4773)。異常ありません」
彼の愛機はS−01H、愛称「ナイトリィ」
「リック・オルコット(
gc4548)、オールグリーンさね」
サングラスをかけた、ドラグーンの男。彼が操るはPT−062グローム。
仲間たちの返答を聞き、ウェストは空を見つめた。
敵戦力は確認した。これから自分たちは、空から敵を叩く。
「‥‥けひゃひゃひゃひゃ、覚悟するんだね〜」
彼はまだ見ぬ、そしてこれから遭遇する敵へ言葉をかけた。狂気めいた笑い声とともに。
「貴方がエシック・ランカスター(
gc4778)さんでありますか。噂は妹から聞いているのであります」
「こちらこそ、今回はひとつよろしくお願いします、美空(
gb1906)さん」
「よろしくであります。それで、妹とはどのように知り合ったのでありますか? 妹はいつも貴方のコトを話題に出しますので、いつも気になっていたでありますよ」
「こっちも、彼女からは色々と伺ってます。勇敢な姉だとね」
エシックと美空は、数時間前のこと、ブリーフィングルームにて言葉を交わしていた時のことを思い起こしていた。
今は、それぞれが互いのKVに搭乗し、やはり低空でウェストらと異なる方向から、敵地へと向かっている。
「うふふ、腕がなるでありますよ」
HF−031Ex破曉。機体の愛称‥‥「阿修羅・聖堂騎士団」の名に恥じぬ、力と敵への畏怖を漂わせた機体。多腕を備えた機体のコックピットに座る美空は、ウェストに似ていなくも無い印象の言葉を呟いていた。
その言葉を通信機越しに聞き、エシックもまた気を引き締め改めた。
「後ろは任せてください。‥‥少なくとも退路は確保しておきます」
DRM−1リンクスのエシックは、請合った。自身の機体‥‥「Black tailed Gull」の駆動音が、それに応えようとしているかのように頼もしく響く。
「エシックさん、そろそろ目標区域に到着するわ」
彼に言葉をかける海原環(
gc3865)。彼女が駆るのは、美空と同じHF−031Ex破曉。
「これより戦闘区域に突入する、各機遅れるなよ」
同じく、HF−031Ex破曉に乗るニコラス・福山(
gc4423)。彼の愛機、「大殺界」通りの状況が発生する事を考えると、エシックは武者震いめいたものを感じた。
「虫どもめ、ここで終いにさせてもらおう」
自分と同じ、DRM−1リンクスに乗った弓削 一徳(
gc4617)が、心情を呟く。KV戦闘は初だというが、物怖じしている様子など欠片も感じさせない。それがまた、誇らしく頼もしい。
「日常だろうが、戦場だろうが、それは関係ない。斎(
gc4127)は、自分にやれることをやるだけだ」
最後に響くは、少年の声。それはまるで、澄んだガラスそのものが音になったかのような印象を与える。
彼の乗機DE−011ワイズマン「蒼穹」もまた、ブルーダイヤのような蒼のカラーリング。
エシックは確信した。これだけの仲間がいれば、消してやることが出来ると。バグアと言う名の邪悪な炎を、消してやれると。
「こちら如月、戦闘区域に突入。交戦します!」
地上班の美空たちへと連絡をいれ、直後に彼女は戦闘を開始した。
「空中班、交戦開始!」
高丘町、花見。森林地帯にうずくまっているタートルワーム各機は、空中から猛襲する各KVの存在を受け止め、迎撃行動をとりはじめた。
プロトン砲が火を噴き、空を飛ぶ鷹や鷲を撃ち落さんとする猟師のように狙い撃ってくる。が、ナイトフォーゲル各機は、その砲撃を易々と回避した。
如月は見た。自分たちを迎撃せんと、ヘルメットワームが離陸し迫り来るのを。放たれた光線が空を切り裂き、空を戦いに染め上げる。
「来ます!」
ハミルが声を上げた。プロトン砲の死の光が「シヴァ」と、彼の機体「ナイトリィ」に迫るのが見える。
が、プロトン砲が死をもたらす前に、「ナイトリィ」は回避した。逆に、「ナイトリィ」の放ったライフルの狙撃がヘルメットワーム、ないしはその一体に命中する。
醜い甲虫が、小気味の良い爆発とともに果てた。得点1‥‥と、如月は心の中でカウントした。
負けていられない。如月は「シヴァ」のアグレッシブフォースを使用し、K−02ホーミングミサイルを放つ! 小型だが威力のあるその武装が、別のヘルメットワームを追撃し、ぶち当たる。得点2‥‥。
更なる得点を求め、「シヴァ」、そして「ナイトリィ」は、更なる追撃を開始した。
「さあ、動いてみせろよ‥‥プチロフ製!」
地上からの対空砲火を目にしつつ、彼‥‥リックは愛機グロームの操縦桿を操った。彼の期待通り、KVは見事に動き、目下の醜い亀へと強襲する。
一機のタートルワームが、威嚇するようにグロームへと頭部を向け、咆哮した。それとともに、巨大なプロトン砲で砲撃する。
それをぎりぎりで回避したリックは、反撃に転じた。
「空対地目標追尾システム、作動‥‥喰らいな、ロケット弾!」
放たれたミサイルが、亀を強襲する。甲羅の砲を破壊し、亀の頭部、口の中に直撃を食らわす。タートルワームの頭部が吹き飛び、そして甲羅全体も吹き飛んだ。
「やるなあリックくん〜、我輩も続くね〜」
けひゃひゃひゃひゃという個性的な哄笑とともに、ウェストがリックに続き攻撃する。ロケット弾ランチャーから放たれた、破壊をもたらすパワー。それがタートルワームへと向けられ、そいつらにたっぷりと味合わせた‥‥破壊、敗北と言う名の味を。
絶望を超えた魔性が、KVというマシンとともに能力者たちの瞳に輝く。いつしかリックは、感じ取っていた。‥‥戦場を飛び交う、戦いの高揚感を。
空中からの敵にてこずっていたバグアだが、新たな敵が地上の、真横から攻撃を加えてきた。
「煙幕弾発射! 弾着‥‥今っ!」
海原の破曉から放たれた煙幕弾、ないしは発生した煙幕が、バグアどもの視界を奪う。
パニくったかのように、タートルワーム数機が混乱した動きを見せた。そのうちの半分を空中班にまかせ、地上班がそれへの攻撃を開始した。
「直撃させるっ! 真スラスターライフル‥‥シュート!」
弓削のリンクスが持つライフルが、タートルワームを狙撃した。装甲の弱い部分へと打ち込まれたエネルギー弾は、目標内部に溜め込まれ‥‥内側から破裂したかのように爆裂し、タートルワームを破壊した。
「ふう。こいつは、また‥‥」
リンクスを動かし、弓削は感動に近い感覚を覚えていた。自分の手足としてKVを動かし操り、バグアを討つ。これで興奮せずにいられないわけがない。
「頼むぜ、相棒。俺と一緒に虫どもを狙い撃て!」
そして、ニコラス。
弾幕を張って、タートルワームの動きを鈍らせた後。彼は、「大殺界」の各部装甲を展開させた。
「装甲展開、確認。リミッター解除、出力上昇‥‥」
超限界稼動。リミッター解除し、機体性能を向上させる機能。枷が外れた力は、凶暴な奔流となりてバグアへ、タートルワームへと向けられる。
「行くぞ、これが私の全力全開!」
タートルワームの懐に入り込んだニコラスは、煙幕に守られて接近し、強烈な一撃を敵へと喰らわせた!
「レーダーに感知、美空さん、エシックさん。三時の方向から動体反応です!」
斎の「蒼穹」から、連絡が入る。
可憐さすら感じさせる斎の声ではあるが、この戦場においては何より力強い。
「蒼穹」のレーダーシステムが、煙幕の張られた地上で中継点となっていた。そしてそれに従い、地上班のKV各機は同士討ちをせずに済んでいる。
「了解。美空、『阿修羅・聖堂騎士団』。参るであります!」
「ラジャー。エシック、迎え撃つ!」
斎の連絡を受け、二人は攻撃を開始した。
煙の中、迫り来るは醜くも巨大な甲虫の群れ。甲殻に包まれた毒虫の群れは、ラージビートルと言う名を持っていた。
だが、生身ならば苦戦したそいつらも、KVという巨人の力を得た能力者たちにとっては敵ではない。
「叩き潰して‥‥やるであります!」
挑むように叫んだ美空と、
「害虫駆除‥‥開始だ!」
不敵に笑んだエシック。
美空の『阿修羅』が放った、高分子レーザー砲。それが死の光を放ち‥‥一度に数匹のラージビートルを地獄へと叩き落した。
同じく、エシックのリンクスからスナイパーライフルの一撃が放たれる。たちまちのうちに、ラージビートルはその全てが駆除された。
「へっ、他愛ないな」
「まだです! 次が結構難物ですよ!」
油断しかけたエシックだが、美空の言葉に気を引き締めた。そして、煙幕をかきわけ、そいつらが現れた。
「な、なんだ!?」
「アームズオプション(AMO)。歩く足と、殴る腕を持ったヘルメットワームです!」
奇怪なクモを思わせるそいつらが、格闘戦をしかけんと突撃してきたのだ!
しかし、『阿修羅』は物怖じなどしない。「真ルシファーズフィスト」‥‥巨大なトゲ鉄球に、巨大な掌に見える焔刃「鳳」を装備しているのだ。
四本腕の鉤爪の格闘ユニットを搭載したAMOが、『阿修羅』へと飛び掛った。
「はーっ!」
AMOが振り上げた爪と、トゲ鉄球とがぶつかり合う。爪と棘、砕けたのは爪の方だった。
ならばと、AMOが副腕でつかみかからんとする。が、それも「鳳」が逆につかみ、切り裂いた!
「とどめ、です!」
敵の腕を潰した『阿修羅』は、敵の胴体部へと一撃を食らわした。爆発とともに邪悪なクモが一匹滅んだ。
だが、まだ四機が残っている。そしてそいつらも、例外なく四本腕を兼ね備えていた。
そのうちの二機が『阿修羅』に向かっていったが、残る二機はエシックのリンクスへと攻撃を仕掛けてきた。
まだKVに習熟しておらず、そして機体に格闘戦装備を持たないエシックは、身構えたが‥‥次の瞬間に驚いた。
その本体へ、海原のKV‥‥破曉が携えたスナイパーライフルの一撃が撃ち込まれていたのだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。すまない!」
驚愕するエシックを尻目に、美空は二機のAMOを血祭りに上げていた。
「‥‥全く、対したもんだ。KVをこれだけ自在に操れるとは」
二人の女傑の活躍に、エシックは舌を巻く以外なかった。
「‥‥警告、異常な振動を確認しました。地下に何か居ます!」
斎の機体から、連絡が入った。
美空、エシック、海原が、ヘルメットワームAMO、およびキメラ・ラージビートルと交戦し、これを殲滅。
ニコラスと弓削が、タートルワームと交戦し、これを殲滅。
そして上空にて、ウェスト、如月、ハミル、リックが、ヘルメットワーム十機と交戦し、これを殲滅。空中班は降下し、地上班のサポートを行なわんとしたその時。
斎の、ないしは斎の乗る「蒼穹」のレーダーが、新たなる、そして最後の敵の存在を感じ取ったのだ。
上空の四機は、警戒しつつ高度を上げた。そして、地上の六機はそれ以上に警戒し、周囲を見回した。
戦場に一時、静寂と沈黙が漂う。
刹那、
「‥‥来る‥‥であります!」
美空の叫びとともに、森林地帯の一角が陥没した。それは森林のみならず、ワームの残骸、そしてバグアが建設しつつあった前線基地すらも飲み込むほどの、巨大な穴となっていた。
その中心から、巨大な長虫が現れた。先端部を開き、土を、大地を汚すかのように土砂を崩しては地上を蹂躙していく。まさにそれは、地獄が地上へ、邪悪と悪夢の子供を産み落とす様であった。動くたびに、地鳴りと揺れとが周辺を侵食する。
長大な身体の巨獣が、目前に出現していた。
全ての能力者たちは、それを見て言葉を失い、しばらく呆然としていた。
立ち直るのに、時間がかかりすぎた。五秒もかかったのだ。そしてもう一秒かけて立ち直り‥‥空中と地上からの猛攻撃を開始した。
ライフルで狙い撃ち、乱れ撃つ。ミサイルが飛び交い、着弾。さらにレーザーが表面の装甲を焼き貫く。砲撃がダメージを食らわせ、あらゆる兵装が叩き込まれる。
おぞましい巨大ミミズ、その表面装甲のいくつかが剥がれ落ちた。
「これだけの集中砲火ならっ!」
海原の破曉が、スラスターライフルとレーザーカノンで射撃し、
「とっととくたばりな、ミミズ野郎!」
弓削のリンクスのスナイパーライフルが、狙い撃つ。
攻撃を受けたアースクェイクが、先端部を開いた。あたかも苦しみ、断末魔の悲鳴をあげるかのように。
「‥‥それを待っていたぜ!」
エシックのリンクスが、テールアンカーで固定したR−703短距離リニア砲を構え、狙っていたのだ。
撃ち込まれた砲弾が、アースクェイクの口内から体内へと撃ち込まれる。強烈にして破格の威力を持つ砲弾を飲み込んだ巨大ミミズは、膨れ上がり‥‥巨大な花と化した。
爆発し、爆裂する花に。
「諸君。本当に感謝する」
なんとか退院できた坂本が、基地に帰還した能力者たちを待っていた。
「これで、本当に‥‥終わったのか?」
怪訝そうに呟く弓削に、坂本は請合った。
「ああ、大丈夫だ。今入った事後調査の報告書によると、奴らの目的はあの地点に前線基地を築き、そこを拠点として九州地方を占拠する事だったらしい。だが、その計画は、諸君らによって阻止された。バグアにとって、この損失は高くついたはずだ」
少なくとも、あの周辺地域に潜むバグア軍の戦力は殲滅できた。戦力の建て直しには、時間がかかるだろう。
「ともかく、今は休むがいい。それから、食堂に食事と酒を用意してある。私からの、ささやかな感謝の印だ」
食堂には、酒と食事が用意されていた。しかしウェストは、これを辞退していた。酒が飲めないのもあるが、
「それよりも今回の作戦で採取した、ワームのサンプルデータを早く解析したいんでね〜」。
かくして、彼以外の九名が相伴に預かることに。料理の大皿とともに置かれたドリンクカートには、様々な酒がグラスとともに用意され、飲まれるのを待っている。
「やはりウォッカは美味いね、仕事の後は格別だ」
酒を口に含み、リックはじっくりと味わいつつ飲み下した。充実した、至福の一時。
「あたしは、運が良い。また今日も‥‥生き延びた」
海原もまた呟き、グラスのワインを口に含んだ。芳醇な香りが、身体に染み渡る。
「俺もまた、生き延びた。明日の世界を、いまのところはまだ見られる」
自分の疲れた身体と精神を、ブランデーが癒していくのを弓削は実感した。
「‥‥明日は‥‥なればいいな」
シェリー酒で喉を潤していたニコラスが、一息ついて呟いた。
「‥‥皆が笑って暮らせる‥‥そんな世界になればいいな」