●リプレイ本文
「よし、もう一度作戦内容を確認する」
カルト山を臨み、ファファル(
ga0729)が皆へと目を向け、声をかけた。
既に基地より、車両や地図、各種機材・装備は借りている。なんでも、ここ数日のバグア軍との小競り合いで、基地のほうでもかなり消耗してしまっているらしい。借りたこれらの機材も、次の補給が来るまでは貴重なものであるため、大切に使って欲しいと念を押されていた。
彼女たちを乗せて国道210号線を走るのは、別府基地に配備されている軍用の大型ジープ。旧式ではあるが安定し、汎用性のある頑丈な車であった。その後部にて、ファファルは仲間たちとともに最後の打ち合わせを行っていた。
「作戦行動において、チームを二つに分ける。A班は篠崎 公司(
ga2413)、宗太郎=シルエイト(
ga4261)、ゴルディノス・カローネ(
ga5018)、それに私。B班は、白鴉(
ga1240)、真壁健二(
ga1786)、オルランド・イブラヒム(
ga2438)、崔 南斗(
ga4407)。
各自内部に侵入し、班に別れ行動。基地内では打ち合わせどおりにサインや手信号で、会話は極力控える。A班長は私が、B班長はオルランドが担当。
情報収集を優先、戦闘、及び無線連絡は極力回避。情報奪取後、互いに無線をいれ、基地を脱出し、UPCに連絡。安全圏へと離脱する。
以上、何か質問は?」
「ひとつだけ」挙手した宗太郎は、淡々とした口調で質問した。
「先生、バナナはおやつに含まれますか?」
「現時刻、17:00。ミッション・スタート」
魔女すら凍えるかのような印象を与える、冷静にして冷徹なファファルの声とともに、任務開始の幕があがった。
ジープは、10km後ろ、国道210号線で降ろしてもらった。撤退時に備え、近くにて待機はしてもらってはいる。が、それがかなわぬ可能性も充分にある。そのような状況にならぬようにと、篠崎はひそかに願った。
八名の戦士たちが進軍するその先には、緑がしたたる森林が立ちはだかっている。が、彼らにとってはそんなものは障害にはならない。このミッションが失敗した暁には、UPCが、ひいては人類がこうむる被害はどのようなものになるか。
「!!」
彼はいきなり、先行していた白鴉の肩を引いた。
「うわっ! な、なんすか‥‥」
篠崎は抗議する白鴉へ、指差す事で返答した。
そこには、旧式な赤外線探知装置があった。それは作動しており、皆はまさにそれに引っかかる直前だったのだ。
「回避しましょう。左からならば抜けられます」
周囲を分析し、篠崎はルートを指差した。
鬼がひそむ、地獄への顎。
基地入り口の様子は、まさにそれ。まばらではあるが、歩哨に立っているバグア人どもの姿も見える。だが、あまり人数を置いていない様子から、どうやら彼らはかなり安心しきっている様子だ。それが、こちらにとって有利に働いてくれればいいのだが。
そう考えながら、オルランドは目指す先‥‥小さな坑道への入り口をめざした。
バグアが二人、歩哨に立っているが、彼らは退屈しきっている様子で、なにやら話し合い、下劣さを感じさせる笑い声をあげていた。地球人類をネタにしたジョークでも言い合っているのか。
あそこは、なんとしてでも侵入しなければならない入り口。止むを得まい。
「(交戦を許可。一撃で倒せ)」ファファルは、声に出さずに指示を出した。
藪に隠れつつ、ゴルディノスはサブレッサーを取り付けたスコーピオンを向けた。ファファル、そして崔と、視線のみで会話する。
いきなり飛び出し、再び藪の中に消える崔。彼の姿を見て、二人のバグア人たちが接近してきた。ゴルディノスのスコーピオンが、消音機により押えられた銃声を発しつつも弾丸を放つ。瞬く間に血祭りにあげられたバグア人。
もう一人のバグア人は、その攻撃をよけたものの、後ろから宗太郎の接近を許してしまっていた。宗太郎の刃が、バグア人の絶望とともにきらめき、その命を奪い去った。
『行くぞ!』
バグア人の歩哨、ないしはその死体を隠し終えた後、ファファルのA班、オルランドのB班は、侵入を開始した。
篠崎、宗太郎、ゴルディノスのA班は、ファファルとともに鉱山入り口から内部へ。白鴉、真壁、崔のB班は、オルランドとともに別の入り口からやはり内部へと入り込んだ。
ファファルら四人は、坑道から基地内を進んでいた。鉱山の坑道、ならびにその内部図は頭の中に叩き込んである。坑道は天然の洞窟にもつながっており、その内部をバグア人は基地へと改装し用いている。
自分がバグアならば、どこにコンピューターを置くか。冷静沈着な彼女の頭脳が、計算しつつ基地内へと進んでいく。
同じく、オルランドたちB班もまた、別の地点から内部へと侵入に成功していた。
「はは‥‥なんだか、生きた心地がしないね」先行する白鴉が、小声で思わずつぶやく。
オルランドと真壁は覚醒し、特殊能力をいつでも使えるようにと控えていた。オルランドは瞳が赤くなり、真壁は横幅がさらに広がっていた。しんがりは、崔。彼は二人の覚醒が解けた時のための、覚醒はしていなかった。ひどくタバコが吸いたかったが、作戦任務中である事を思い出し、思い直す。
「はやいところ、終わらせて思いっきり一服したいもんだ」
タバコへの欲求を押さえ込み、彼は周囲を見回した。やがて彼の視線が、「コンピューター室」の案内板を見つけた。
「(落ち着け‥‥焦れば判断力が曇る)」
覚醒したゴルディノスたちは、バグア人の追及の目を逃れんとしていた。
基地内を、深く静かに侵攻中、バグアの警備員が立てる足跡を聞き取った。それを知ったA班は、すぐに手近な部屋の中へと入り込み、やり過ごそうと試みた。
幸い、内部はガラクタ置き場に使われているようで、隠れる場所には困らなかった。屹立する壊れた機械類と、鉄くずになった武器が、四人の地球人の存在を隠す。
が、二人のバグア人はそれらをかきわけ、自分たちが聞いた物音の正体を知ろうとしていた。
「(止むをえん‥‥戦闘行動に‥‥)」移ろうとしたファファルだが、一秒早く彼らはあきらめ、引き返していった。
緊張をといたゴルディノスに、安堵したため息をつく篠崎と宗太郎。(「まったく、ひやひやします」)と、宗太郎は心の中でつぶやいた。
「(? あれを‥‥)」
ふと、篠崎はあるものをみつけ、それにあごをやった。
そこには、開いた通風孔があった。ちょうど人ひとりが、かがめば充分に通り抜けられそうな通路。それが黒々と、口をあけている。
どうしたものか‥‥。ファファルは思案したが、すぐにその考えを改めねばならなくなった。
外に、再び音が聞こえてきたのだ。それは先刻の兵士が、新手を連れて戻ってきたのか。あるいは、別の兵士たちが、気配をかぎつけ調べにやってきたのか。
こうなったら、見つからないために行う事はひとつ。迅速に、全員が通風孔へと潜り込んでいった。
「くそっ!」
思わず、崔は言葉に出して毒づいた。
「コンピューター室」は、確かにかつては中にコンピューターが入れられて、稼働していたことだろう。実際そこは、鉱山内部の自動掘削機をコントロールするための施設であった。
しかし今は、そこにはPCなど一台たりとも置いてはいない。おそらくは、閉山する際に関係者が撤去したのだろう。替わりに置いてあったのは、各種の檻と、中に入っている奇怪な動物‥‥キメラ。まちがいなく、ここはキメラの置き場所として用いられている部屋だ。
だが、そのうちの大き目の折が、掛け金が外れて内部が空になっているのが発見された。
獣臭と、そして近くに転がっているものから、まず間違いなく中には何かがいたにちがいない。
「ひっ‥‥!」白鴉は、転がっているものの異様さに、おもわず息を呑んだ。
科学者か作業員らしきバグア人の死体が、そこには転がっていた。それは喉が食い破られていた。
そして、部屋の隅から、ひときわ大きい何かの足音が徐々に近づいてきた。
通風孔から降りた場所。
(「災い転じて、福となす、ですね」)
篠崎は思った。そこは、地球製のコンピューターが何台も置かれた、PCルームであったのだ。
バグアのテクノロジーが使われていないのは、意外であった。いや、ここから地球人のふりをして、地球の情報網に潜り込むことはたやすい。おろさくは、そういう事をも予定に入っているに違いなかろう。
「(すぐに取り掛かれ)」
ファファルが手振りで指示を出し、三人はすぐに端末に取り付いた。
この中に、探しているものがあればよいのだが。ファファルも自分でPCの端末に取り付きつつ、捜し求めている情報を検索し始めた。
オルランドは白鴉と、崔は真壁とともに、背中合わせになって襲撃に備えた。同時に、積まれた檻の陰より、何かの気配が漂ってくる。
全ての方向に注意を向け、全ての方向からの音を聞く四人。
そして、出し抜けにそれが襲ってきた。
「これは‥‥犬!?」
真壁の考えていた事は、半分当たっていた。犬ではなかったが、犬を連想させる姿の怪物がそこにはいたのだ。
「コボルト‥‥!」
オルランドは、それを見てふとつぶやいた。まさに、鉱山の中に潜む邪悪な妖精・コボルトを、それは連想させた。
全体は、犬と言ってさしつかえない。しかし、犬にしか見えないそれは、犬を必要以上に歪め、犬で無くしたものに換えてしまったようにしか見えないからだ。
全体のシルエットと体つき、姿は、犬に他ならない。が、そいつの全身には、赤銅色のうろこにおおわれており、体毛は無かった。
らんらんと光る目は、まるでホオズキのように赤く怪しく輝いている。
「コボルト」は犬のそれをさらにおぞましくしたような鳴き声で、吼え、威嚇すると‥‥襲いかかってきた。
彼らは、パニックに陥った。怪物に、キメラに出会うと予想はしていたが、実物を目にするとやはり混乱する。
そして、2秒でパニックから立ち直ると、もう1秒かけて戦闘準備を整えた。
最初に戦闘を開始したのは、崔。銀の髪、青き右の瞳、そして黒き肌となっていた彼は、キメラの攻撃に先んじ、携えていた弓より矢を放った。
活性化したエミタが発したエネルギーがこめられた矢が放たれ、コボルトの前肢へと命中。そいつに確実にして痛恨のダメージを与えた。
それを見て、真壁も行動に出た。
「!」瞬天速にて、一気にコボルトへと接近した彼。間合いを詰めた次の瞬間、エミタが発するエネルギーがこめられた両手のファングが、コボルトの胸を深く切り裂いていた。
『‥‥こちらA班 目標物確保。急ぎ撤退しろ』
「‥‥こちらB班、了解」
キメラとの戦闘を終えた直後。ファファルからの連絡が入った。
その場にいた四人に、その言葉は伝わり、そしてしかるべく彼らは行動に移った。
カルト山・外部。森林地帯。
「‥‥来たか」
オルランドたちB班の姿を認め、ファファルは安堵を感じさせる口調でつぶやいた。
「遅くなった。そちらの守備は?」
「上々だ、奴らには気づかれていない。奴らの移動砲台‥‥かなりの数と場所に展開していたが‥‥このデータを送れば、もう心配は要らないだろう」
移動砲台の数と、その展開地点。ファファルたちはそのデータを入手するのに成功した。
「任務完了、これより帰還する」
再び、10kmの道のりを徒歩で進んだ一行。
待機していたジープに拾われると同時に、ファファルたちは得たデータを手渡した。
同行していた通信兵により、データは本部へ送られ、そして数分後。カルト山周辺地域の移動砲台、ならびにカルト山へと、多量のミサイルが降り注いだ。
砲台は破壊、そしてカルト山そのものも崩落し、バグア前線基地は壊滅した。
「ふ‥‥いい湯だ」
温泉につかるファファルの顔に、久方ぶりの笑みが浮かんでいた。作戦成功の褒賞として、別府温泉に入れる事になったのだ。
他のメンバーも、湯につかり、それぞれ楽しんでいた。
「一度試してみたかったが、なるほど、これが温泉というものか」湯船に浮かび、ゴルディノスは満足げに堪能していた。
「ああ、学生時代に旅行して以来だが、やはり良いものは良いな」崔もまた、リラックスした表情を浮かべている。
「あー、寒い日に温泉‥‥極楽です」宗太郎もまた、湯を堪能。
「いやほんと、命が延びる気分ですよね。任務成功の後ですから、なおの事格別です」白鴉はそれに相槌を打ち、はしゃいでいた。
まだこれから、彼らは多くの戦いを行っていく事だろう。しかし、それに対する気力がみなぎり、充実していくのを、全員は感じていた。
これは、一時の急速にすぎない。しかし、明日への気力を充分に満たす事はできた。
バグアの手から、地球を取り戻すため。皆はその気持ちを新たにするのであった。