●オープニング本文
前回のリプレイを見る「諸君、招集が遅くなってすまなかった」
司令官が、君たちへと謝罪する。
「モバイル機器の破損がひどく、データの復旧にかなりの時間をとられてしまったのだ。だが、その間にも島浦島の上空に無人偵察機を飛ばして、偵察は行っていた。ともかくまずは‥‥復旧したデータを見てもらおう」
宮崎県、日向。
日向灘・島浦島。
ここに調査に赴いた部隊がキメラに遭遇し、それらを掃討するため攻撃部隊が派遣。交戦するも、部隊は音信不通に。
その調査、及び生存者救出の任務を受けた能力者たちは、現地に赴くも目的を果たせずに帰還した。否、たった一人の要救助者を収容はしたものの、彼は死亡。そして、具体的に島で何が起こったのか。何が調査隊に襲い掛かったのか。それらは未だ不明。
しかし、彼らは記録を持ち帰った。壊れたビデオカメラ、残されたメモ、カメラ。UPCは早速それらを分析、その結果驚くべき事が判明したのだった。
:記録1:相沢隊員が所有していたビデオカメラ。およびその内部に残存していた映像記録。
(注:機器それ自体がひどく破損していたため、映像内に乱れが発生)
:シーン1
小学校校舎前。キメラ・川太郎らしき影が校舎内に。
内部から、重い机を投げつけてくる。見え隠れする、十数匹ほどの川太郎の影。
隊長「状況は?」
隊員1「校舎内に潜伏している川太郎は、確認できるだけで十体。それ以上存在するものと思われます。」
隊員2「ですが、校舎裏から突撃すれば制圧および掃討は可能です」
隊長「よし、A班は前から注意をひきつけろ。その隙にB班が校舎裏から‥‥」
強烈な羽音。画面は空に。
隊員2「な、なんだ!?」
画面、大きくぶれる。何が映っているかはっきりしない。
一瞬だけ、空を飛ぶ甲殻類めいた影が。
画面、ひどく転がり、地面に横になって止まる。どうやら撮影者の手を離れ、地面を転がったらしい。カメラからはほとんど何も見えないが、何者かの襲撃音や兵士達の悲鳴、怒号が響く。
誰かがカメラを拾い上げ、次の瞬間映像が途切れる。
:シーン2
どこかの建物内部(小学校校舎内か?)。
映像は乱れがひどく、時折音声も途切れる。相沢隊員が、自分自身を写しているらしい。
相沢「‥‥今我々は、予想外のキメラの襲撃‥‥(画面がゆがむ)‥‥現在、確認できる範囲では半数以上の隊員が死亡。生き残っているのは我々だけかもしれない。他の二班への連絡は‥‥(ノイズとともに画面途切れる)」
:シーン3
(画面が映らない。ノイズ交じりに、音声が流れる)
「‥‥小学校からは逃れられない‥‥じきに、あいつらが‥‥‥」
(ひどく荒い状態で、画像が映る。屋内のようだが、あまりよくわからない)
「‥‥あいつらの事を、これに記録‥‥虫のような巨大キメラと、牛‥‥(判別不能)‥‥‥。甲殻類キメラは退散したが、あの‥‥(画面および音声が不明瞭に)‥‥のためにこちらの被害‥‥(画面不明瞭)‥‥(音声のみ)自分も重傷を負い、もう長くは無い。どうか、あいつらを‥‥(音声中断)」
:記録2:UPC・海野隊員が所有していたメモ帳。判読可能で、今回の事件に関係していると思われる点のみを抜粋。
「‥‥確認したところ、確かにキメラ同士が争った結果、このような事態になったと思われる。しかし、こんな話は聞いたことはない。バグアの連中、キメラを制するのにうまくいかなかったのか?」
「‥‥中学校の校舎内。内部にキメラの遺体を発見した。まだ暖かい。殺されたキメラはサーベルタイガーのような姿をした大型のものだ。こんなデカブツをここまでズタズタにした事から、犯人はかなりでかく恐ろしいやつに違いあるまい。充分注意しないとな」
「‥‥隊長が、死亡した。空を飛ぶあいつの、あの口でかまれ‥‥(判読不能)‥‥全員森林内部で‥‥全滅。森内部に奴らが‥‥(判読不能)‥‥に入ったら、確実に死亡‥‥」
「‥‥どうやら、犯人はあの虫野郎に間違いなかろう‥‥(判読不能)‥‥。足をひどく痛めてしまい、長距離の歩行は困難だ。通信機から返信が来ない。部隊は全員あいつらに‥‥(判読不能)‥‥」
「‥‥再び、あの虫キメラが襲ってきやがった。あいつら、一度は何かにおびえたように去っていったが、またしても‥‥(判読不能)」
「‥‥やつら、キメラが‥‥、我々はこの部屋に立てこも‥‥。やつの、‥‥(判読不能)‥‥仲間が助けを求めに‥‥(判読不能)‥‥連絡が途絶えた。おそらく‥‥(判読不能)‥‥意識を失う前にこの記録を‥‥」
:記録3:井口隊員が所有していたデジタルカメラ。その内部のデータより、関連あると思われる写真数点。
写真1:森林内部。遠距離からの撮影。木々の間から何かの影が。判然としないが、それは巨大な人間または類人猿を思わせるシルエット。しかし、その背部から何か翼状のものが伸びているようにも見える。
写真2:中学校舎内より、窓の外。窓に何か、巨大な昆虫めいたものが止まっており、その一部が見えている写真。ほかのUPC隊員が、その虫に対して発砲している様も同時に写っている。
写真3:窓の外へ、遠距離撮影。森林内部に動物の頭部が写っている。まるで何かの家畜、牛か何かのような形だが、判然としない。
:記録4:UPCが前回の事件後、無人偵察機より空撮した島の映像。
映像1:森林部上空を飛行中。巨大な虫めいたものがわずかに見える。すぐに水中に没し、視界より消える。
映像2:同じく、森林部上空を飛行中。木々の陰に、巨大な二足歩行の獣が歩いている様子が見える。シルエットのみで、細部は判然としない。
映像3:島の南東部。鼻熊と呼称される湾岸部付近の、森林地帯上空。墜落したヘルメットワームらしき残骸。空のコンテナがいくつも転がっている。
映像4:島の東南東上空を低空飛行中。画面の端に、「虫」とおぼしきキメラを捕らえるが、いきなり画面が激しく揺れる。その様子からして、偵察機自体が攻撃を受けて墜落している様子。その時、一瞬だけ空中を飛行する影らしきものが見える。それは、人型をしているように見える。
「最後の映像は、偵察機が攻撃を受けて墜落しているところだ」
司令官が説明を続ける。
「さて、ここからが問題となる。諸君らの報告とこれらの情報から、どうやら昆虫型のキメラが多数生息しており、それらの排除・殲滅が必要である事は理解してもらえた事と思う。しかし‥‥」
一息ついて、さらに説明を続ける。
「しかし、昆虫型キメラ以外に、別の何かが存在する可能性は極めて高い。時折出てくる『牛』という単語、人間型をしたシルエットの画像。おそらくは、それもまた掃討対象のキメラだろう」
そして、彼は君たちへと顔を向け、言い放った。
「改めて、諸君らに依頼する。島浦島に潜むキメラを、すべて殲滅せよ」
●リプレイ本文
島浦島、南東部海岸「鼻熊」。
五名は、実感していた。生命の存在を許さぬかのような静けさを。それが島を支配している。
「‥‥けひゃひゃひゃ。我は戻りぬ、化け物を討たんがために!」
ドクター・ウェスト(
ga0241)が着ているのは、ジャングル仕様の白衣。知恵で武装し、頭脳で戦う彼の戦闘服。
「なるほど、此処が噂の島ですか」
終夜・無月(
ga3084)が島浦島の土を踏むのは初めて。彼は敵の姿を見つけんと、周囲に目を向けていた。
「今のところ、敵の気配は無さそうだ。しかし‥‥」
同じく、島に上陸するのは初めての男。ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)。
「生物の気配が感じられないな」
「ああ、そうだね‥‥」と、ユーリの言葉に功刀 元(
gc2818)は、ゆっくりした口調で相槌を打った。
「これだけの島に、野生動物の気配がまったく感じられないってのは、確かに怪しいよ」
元の言葉にうなずくは、元の恋人、御剣 薙(
gc2904)。
「前回は退くしかなかった。‥‥けど、今回は全部片づける」
「ああ、もちろんだ」と、巳沢 涼(
gc3648)が相槌を打つ。
「調査隊の仇、とらせてもらう。救えなかった犠牲者たちのためにも、な」
「‥‥では、みなさん‥‥」
静かな口調で、ハミル・ジャウザール(
gb4773)が促した。
「‥‥行きましょう」小さいが、はっきりとしたハミルの言葉が、その場に染み入った。
UPCのヘリにて「鼻熊」へ輸送された能力者たちは、そこから徒歩でヘルメットワームの墜落地点へ向かっていた。その残骸より情報収集。然る後にキメラの掃討を開始する‥‥という計画を立てていたのだ。
「無人偵察機が墜落した地点も、この付近‥‥とか言ってたっけな」
探査の目を発動させたユーリが、ひとりごちた。能力者たちは陣形を張り、ユーリは前衛の一人として周囲へと注意を向けている。
ユーリの他、ハミル、薙、涼が半円状に展開し、全周を警戒。
そして、無月と元、その二人に左右からはさまれるようにウェスト。
全員が、仲間たちの死角を補うように陣形を展開していた。万が一襲撃されても、携えた武装、機械剣「ウリエル」に自動拳銃・クルメタルP−56により迎撃はできるだろう。‥‥無理は禁物だが。
ハミルはエナジーガンとクロックソード、薙はAU−KV、LL−011「アスタロト」、涼も同じくAU−KV、BM−049「バハムート」を着こんでいる。
加えて、黒鎧「べリアル」に両手剣・明鏡止水を装備した無月と、AU−KV、PR893「パイドロス」を装着した元、エネルギーガンを携えたウェストがいる。これだけの攻撃力を有していれば、強力なキメラといえども苦戦はするだろう。
森林内部を、七名は踏み込んでいく。漂う雰囲気は死臭ただよう不吉な静寂。風のせせらぎも、不吉さを払拭するには至らない。緑の煉獄にしばし響くは、七名が歩き土を踏む音のみ。
しかし、その一時も終わりが訪れた。
「? ‥‥あれを」
最初に見つけたのは、ハミル。彼の言葉に、全員が身構えた。
が、すぐに緊張はとかれた。そこにあったのは墜落したUPC無人偵察機。それはカメラ部分も含めて、修理も修復もできないくらい、徹底して破壊されていた。
「でも、妙だね」
見分していた薙が、ある事を発見し指摘した。
「この翼の部分を見てよ。これ、ボクには‥‥溶かされたように見える。強烈な熱を用いてね」
確かに、翼の一部は「酸で溶けた」のではなく「熱で溶けた」ように、部品が変形していた。
「ふむ〜、これが不時着したヘルメットワームかね〜」
偵察機の残骸を発見してから、さらに数刻。
森林地帯を更に進んだ奥。そこに一行は到着した。
そこは小高い丘の麓で、高い木々が茂り、空が見えにくい。そこに転がるヘルメットワームの残骸は、まるで巨大な甲虫の死体のよう。それとともに、バグアやキメラの腐乱死体も転がっていた。
「クリア‥‥よし、それじゃあ調査にかかろうぜ」
涼が、周囲の脅威が無い事を確認する。そののち、能力者たちはヘルメットワームへと向かった。
「‥‥まだ中身がありますね」
ハミルが、コンテナ内部に残った死体をあらため、つぶやいた。
「川太郎に、サーベルタイガー。そのほか諸々‥‥」
それらを調べたのち、彼はより強烈な腐臭が漂う大きなコンテナへ足を運んだ。
内部から出てくるのは、腐った甲殻類や昆虫の死骸のような悪臭。鼻と口元をハンカチで覆いつつ、ハミルは悪臭の元を調べた。
「‥‥これが‥‥虫型のキメラ、ですね」
ハミルはそいつの姿を確認した。内部にあるのは、装甲を施した巨大な芋虫に見える甲殻類‥‥の死体。背部には羽根。地球上の動物で似たものを探すと、古代カンブリア紀に繁殖した、アノマロカリスという古代生物が最も近いだろう。
それと同型のコンテナが、周辺に転がっている。十個以上あるそれらは全て、空だった。
さらに、形状は異なるも、同程度の大きさのコンテナ。五つあるそれらも全てが空。内部にどのようなキメラが入っていたか、定かではない。
「いや、どうやらわかりそうだ〜‥‥」
ウェストが、神妙な面持ちでヘルメットワームのコックピットから降りてきた。
「データを調べてみた〜。皆、集まってくれ〜‥‥」
「つまり、こういう事か? あの空のコンテナ五個に入ってたのは、いわゆる人型のキメラだと?」
「うむ〜。それは間違いなさそうだ〜」
涼に、ウェストがうなずきつつ答える。
皆を集めたウェストは、データから判明した事実を説明していた。
「推論も入っているが〜‥‥バグアの企みはこういう事と思われるね〜‥‥」
ウェストが予測した、バグアの企み。
それは、ここ島浦島を『キメラ牧場』とする作戦。
ここにキメラを多く放ち、繁殖させて島浦島を占領。ここを拠点として九州本土に、ひいては日本列島へと進攻する作戦‥‥だというのだ。
「つまり‥‥この島でキメラを増やし、ここから本土へと出撃させるつもりだった、と?」
薙が問いかける。
「左様〜‥‥そして、川太郎やサーベルタイガー。これらは‥‥」
餌だ、とウェストは告げた。
「キメラに共食いさせるとはね‥‥待てよ。まさか、犠牲になった兵士たちを襲ったのも?」
今度は、元が問いかける。
「‥‥うむ〜。故意か偶然かわからんが、餌とするために襲ったと考えるのが妥当だろうな〜」
「でも、それじゃあ目撃された『人型キメラ』は? そいつらも島で増やそうと考えていたのか?」
涼もまた、疑問を呈した。
「いや〜。そやつらだけには、コントロール装置がヘルメットワームの操縦席に内蔵されていた〜。おそらく連中は、そいつら五体を、ほかのキメラが暴走した時に抑えるために用意したと思われるね〜」
「‥‥人型キメラを猟犬として用いて、逆襲された時の護衛に使う予定だったって事か」と、無月。
「ここからは吾輩の仮説だが〜‥‥おそらくは、何らかのトラブルでこのヘルメットワームは墜落し、このような状態に。生き残ったキメラは逃げ出し、そして人型もまた勝手に起動し、『他のキメラを抑えろ』という組み込まれた命令に従ったのではあるまいかね〜」
「‥‥‥‥」
ユーリは、何か口にしようとしたが、何も言えなかった。
その時、彼は生命の気配を感じ取った。おぞましい敵意、恐るべき害意を。
続き、厭らしい羽音。
「! 敵!?」
ユーリの声を聞いて、皆は円陣を組んだが‥‥やがて少しだけ、緊張を緩めた。
木々の先に広がる空。そこを、たった今口にしていたキメラが数匹飛行していたのだ。それは幸か不幸か、こちらには気づかずそのまま通り過ぎて行った。
「あの方向は‥‥中学校の校舎方面です!」
ハミルが言い放った。間違いない、あれは未確認のまま退散した時に聞いた羽音、その主だ。あの羽音を聞いた彼は‥‥同時に兵士たちの事も思い出した。助け出せなかった、兵士たちの事を。
その思いは、ほかの者たちにも伝播したかのようだ。ハミル以外にもウェスト、涼、元と薙。前回この島の土を踏んだ者たちは、立ち上がる。
それに続き、ユーリと無月も立った。
自然の楽園を、地獄に変えた怪物ども。それらを討ち取らんと、七名の胸中には闘志がわきあがっていたのだ。
「‥‥行くぜ」
涼のひとこと。それ以上の言葉は必要なかった。
市立中学の校舎。
二度目の者が五名、初めての者が二名。
そしておそらく何度も来訪している怪物どもが、ざっと見て十匹以上。
校庭を臨む木々の物陰より。能力者たちは、校舎にて殺し合っている化物同士の姿を目の当たりにして、それを見つめていた。
数匹の虫型「アノマロカリス」が、校舎を巣がわりにしていたのだ。
それに対抗しているのは、人型キメラ。
「人型? ‥‥いや、それよりも」
悪魔だと、ハミルは思った。身長は2mくらいだろうか。たくましい人間の体躯だが、その頭部は猛牛めいた怪物のそれ。それのみならず、背中にはコウモリの翼。
二匹のアノマロカリスが、人型キメラに襲撃する。が、人型キメラは翼を広げて空中へと逃れると、光球を作り出し‥‥アノマロカリスへと放った。
それを頭部にまともに受けたアノマロカリスは、そのまま焦げ臭い悪臭とともに焼かれ、果てた。二匹目が、円形の口を広げて飲み込まんと、噛み砕かんと迫りくる。
人型キメラが、片腕にかみつかれた。が、そいつは逆にアノマロカリスの口に手をかけると、強引に引き裂いた。
体液を空中にまき散らし、二匹目のアノマロカリスも果てた。
「‥‥悪魔(バフォメット)だ」
無月がつぶやく。が、それとともに空中のキメラが、能力者たちの方を向いた。
キメラ「バフォメット」は、吼えた。それとともに、他のバフォメットもまた咆哮し‥‥瀕死の状態のアノマロカリスを放置し、能力者たちへと向かい来る。
「全部で五体‥‥いいだろう、かかってきやがれ!」
瞳を琥珀色に輝かせ、涼が不敵につぶやいた。
まずは、二匹のバフォメットが光球を作り出し、放つ。
涼と元、ユーリ、ハミルは、その攻撃をすんでのところで回避した。
そのまま、空中から襲撃せんと急降下するバフォメット。剛腕がつかみかからんと迫るが、
「なめるなっ!」
ユーリのクルメタルP−56が、怪物の身体に弾丸を叩き込んだ。
空中でバランスを崩したバフォメットは、そのまま地面に落下。すかさず、アスタロトを着込んだ薙が、電光石火の攻撃を繰り出した。
バフォメットの腕が殴りかかるも、薙はそれを回避し‥‥脚部の超機械を作動させ、跳躍とともに片足を蹴り上げた。
「はーっ!」
気合一閃。脚部装甲、ないしはその踵部ブースターが噴出し、薙の足が一瞬消える。
美しい半円を描きつつ、強烈な蹴撃。胴体から顎部分へと放たれた空中回転キックは、キメラの胴を縦に蹴り上げ、顎を熟れた果物が如く砕く。
放物線を描き、地面へと叩き付けられた怪物は、そのまま立ち上がることはなかった。
二匹目のバフォメットには、涼が立ち向かっている。バイク形態に変形したバハムートが、校庭を疾走し怪物を翻弄していた。
そのスピードで、怪物の後方へと回り込むと‥‥同時に人型へと変形。SMGターミネーターを抜き放つ。
引き金を引くとともに、頼りになる強力な弾丸20発が放たれる。その心地よい感触が腕に伝わると同時に、キメラの翼と肩へ、弾丸を撃ち込んだのを確認した。
続き、ハミルのエナジーガンが眉間を打ち抜き、二匹目のバフォメットもまた引導を渡された。
「あと三匹‥‥どこだ?」
ユーリが、後ろに気配を感じ取る。無月、元、二人に挟まれたウェストの後ろから、一匹が襲い掛かるのを見た。空中からでなく、牛頭の角で頭突きし突き上げるつもりらしく、地上を突進してくる。
振り向いた三名は、考えるより先に行動に移った。ウェストは下がり、無月と元とが進み出る。
黒き鎧べリアルを着た無月は、「明鏡止水」‥‥曇りなき刃の両手剣を構え。
パイドロスに身を固めた元は、拳銃「黒猫」、脚甲「望天吼」を携える。
「!」
迫りくる牛頭へ、元の「黒猫」から弾丸が放たれ、体を貫いた。
だが、それでも進撃は止まらない。無月、金色の瞳となった銀髪の美丈夫がその進撃を止めんと、突進し、力強い一閃をすれ違いざまに抜き放った。
「はーっ!」
闇をも切り裂かんとする鋭い一斬、金色の狼王の一閃が、怪物の頭部を斬り飛ばす。
牛の頭部を失った悪魔の身体が崩れ落ち、三匹目も果てた。
だが、すでに至近距離まで接近した四匹目と五匹目とが、前後から挟み撃ちしてきた。
四匹目が前方から、ユーリに殴りかかる。ステップを踏んで距離をとると、ユーリは機械剣「ウリエル」を抜き放ち、切りかかった。
内蔵されたエミタがユーリに応え、射出されたレーザーが剣の刃と化す。怪物の両こぶしによる攻撃を見切り、一瞬の隙をついて、ユーリはウリエルを突き出した。
光線の刃が分厚い筋肉の胴体へと深く突き刺さり、肉が焦げるにおいとともに怪物の心臓と命とを貫き通した。
後方からは、空中より飛来し強襲するバフォメット。だが、薙のエネルギーガンが翼と下半身とを狙撃する。ダメージを受けて地面に転がったバフォメットに、元は反撃する時間を与えず躍り出た。
「これで‥‥終わりだ!」
「竜の咆哮」とともに、元は腰の入った重たいキックを放った。脚部の脚甲「望天吼」の龍の爪が、キックとともにキメラの身体を切り裂く。
衝撃波と脚甲とが、怪物を後方へ蹴り飛ばした。それでも立ち上がる怪物だが、そいつが最後に感じたのは己の身体を貫く弾丸や光線の衝撃だった。
UPC正規軍のヘリが、何機も飛び交い、周辺を哨戒している。
そして、そのうちの一機は着陸し、能力者たちを収容していた。
「不幸中の幸いと言うか‥‥キメラとキメラとが互いに殺し合いしてくれていた事が、こちらに幸いしたわね」
薙の口調には、若干の疲れが含まれていた。が、その口調は明るい。
バフォメットを倒したのち、皆は中学校の校舎内、そして周辺を一通り調査した。
その結果、瀕死のアノマロカリスが数匹いたのみで、あとは全てバフォメットにより掃討されたと判明。ヘルメットワームの残骸にあったコンテナ、その数と照らし合わせ、アノマロカリスとバフォメット、および前回の任務のキメラと合わせ、掃討完了と判断したのだ。
「‥‥もうこれ以上‥‥この島に現れない事を祈ります」
ハミルもまた、静かにつぶやく。
「うむ〜‥‥細胞サンプルも多くとれたし、島浦島のキメラも一掃できた。めでたしであるな‥‥」
ウェストもまた、満足げにつぶやいた。
ヘリがローターを回転させ、空中に舞い上がる。
ふと、ウェストは窓の外に小鳥が飛んでいるのを見かけた。
キメラが今までいた校舎、そこに舞い降り巣作りを始めた小鳥を見て、ウェストは更なる満足を覚えるのだった。