タイトル:鳥を見たマスター:塩田多弾砲

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/01 21:38

●オープニング本文


 大分県、竹田市。
 数日前。ヘルメットワームらしき影が、ここ竹田市付近の木原山上空にて目撃された。その際に何かを投下したことも、確認が取れている。
 すぐさまUPCの部隊が調査にあたったが、投下したそれは発見されず終わった。
 
 数日後。木原山近くの村落にて。
 そこは、小さな村。竹田市の中心部からは遠く、周辺はまだ自然に囲まれた状態。住民は数十名程度の、小さな村。村のメインストリートは、わずか数十メートル。立ち並ぶ店もわずか。食料品店『スーパーひらまつ』など、少数の店舗が立ち並んでいるのみの、小さな商店街。
 しかし、物資の面では不便でも、住民たちは暮らしには満足していた。少なくともここでは、バグアからの侵略を忘れることができるのだから。

 竹田市内の、市営小学校。とある日、この学校のとあるクラスでは、ちょっとした事件が起こっていた。
 この学校に通う小学生、平松晶男が、無断で欠席した。担任教師の小森絹子は正午、そして放課後に保護者へ電話をしたが、連絡がつかない。
放課後に絹子は、スクーターで村まで飛ばした。二時間ほどかけて辿り着いた村には、人の姿は無く気配も無い。その代わりに、漂っていた。‥‥説明がつかない、殺気めいた雰囲気が。
「誰か? 誰かいませんか!?」
 声をかけたが、返答するものはいない。改めて周辺を見回すと、家屋の網戸は壊れ、ガラスは割れている。店の看板は落ち、店先には商品がぶちまけられている。この様子を見ると、ハリケーンがあったのかと錯覚してしまう。
絹子は交番へと向かったが、半壊していた。当然、中には警官の姿など無い。
代わりにあったのは、床の乾いた血痕。その血の量からして、流した者は出血多量に陥っているに違いあるまい。
 彼女は、携帯を取り出し、警察に電話を入れた。が、つながらない。有線電話をかけてみたが、繋がらない。
 電話線が切れているため、優先電話が通じないのは分かる。しかし、携帯の電波が届かないというのはどういう事か? この周辺は圏外にはならないはずなのだが。一度、学校の家庭訪問でやってきた時に、それは実証されていた。
 背筋に寒いものを感じつつ、絹子は生徒の家へ、この村唯一の食料品店、『スーパーひらまつ』へと向かった。
 入り口のシャッターは下ろされていたが、無理やりこじ開けられていた。そこから入り込んで内部を見渡すと、やはり内部も荒らされ、食品はその多くが床にぶちまけられ、食いちぎられている。ついている歯型からして、既存の生き物とは異なるものに違いない。
 がたり。何かが倒れるような音がした。二階から、生徒の家族が住む家屋から、それは聞こえてきた。
 絹子は二階へと上がっていった。二階もまた、内部がめちゃめちゃになっていたが、当然ながら人の姿は見当たらない。
「誰か? 誰かいない? 平松君?」
 絹子が問いかけると、再びがたりという音が。
「!」
 遅かった。それが出てきて、飛びつくのを阻止できなかった。それは、台所下の収納内部に潜んでいたのだ。絹子は思わず叫んだ。
「平松くん!?」
 彼女に飛びついたのは、欠席した生徒、平松晶男だったのだ。
「落ち着いて、平松君! 大丈夫、大丈夫よ! ‥‥よしよし、もう大丈夫‥‥」
 寝巻き姿である事から、彼は夕べ、おそらくは夜中に何かが起こり、ここに隠れ‥‥そして今までおびえていたのに違いない。
 落ち着いたのを見計らうと、絹子は問いかけた。
「平松君、何があったのか、先生に教えて? お父さんとお母さんはどうしたの?」
 彼はしばらくして、ぽつりと答えた。
「‥‥鳥‥‥」
「鳥? 鳥がこんな事をしたというの?」
 こくん、彼はうなずいた。
 絹子は困惑していた。この生徒はおそらく、とてつもない恐怖に遭遇したのだろう。
「!」
 その時。
 二人の時間を切り裂くかのように、静寂を破る奇声が聞こえてきた。
「鳥だ! あいつらが!」
 平松少年が、絹子にしがみつく。絹子は窓ガラスが壊れた窓へ、奇声の持ち主を見つけんと視線を向けた。
 夕焼けの空。雲ひとつ無い状況で、空は赤く染まっていた。それを背景に、影が舞っている。鳥だ。数羽の、何かの鳥らしきものの影が、そこにはあった。
「!? ‥‥何、あれ‥‥!」
 絹子は、続いて困惑した。影は次第に接近していたが、それは思った以上に大きく、普通の鳥には在るはずの無い特徴を持っていた。
「顔‥‥? 牙‥‥?」
 その「鳥」は、人の顔を持ち、口には牙が並んでいた。
「鳥」は、絹子の様子を見て、一目散に部屋へと突っ込んできた。が、絹子もそいつが接近するまで、そこに突っ立っているようなタマではない。
 すぐに困惑から立ち直ると、彼女は平松少年を連れ、階下へと逃げたのだ。
「鳥」は二人を追い、翼を広げつつ襲い掛かろうとする。が、狭い室内に突っ込んだところ、動きがとれず、思うようには動けない。
 怖がる生徒を連れ、絹子は走った。死にそうなくらいに恐かったが、恐怖にすくんでいる暇など無い。生徒はもっと恐がっているのだから。
 それに、ここで立ち止まったらおそらく本当に死ぬ事になる。その方がずっと恐い。
 絹子は店を出ると、店のすぐ近くに止めたスクーターにまたがる。後ろに少年を乗せ、エンジンをかけた。
「先生! あいつだ! 鳥だ!」
 上空からは、二人に襲い掛かった「鳥」の同類が数羽、まさに襲い掛かるところだった。
 反射的に絹子は、スクーターに取り付けたライトを点灯した。この間、整備した時に新調したもの。明るすぎないかとも思ったが、その明るさが彼女を救った。
 ライトの光は、悪霊や吸血鬼に対する十字架のごとき効果を「鳥」たちにもたらした。「鳥」たちは、強い光に怯んだように身をよじったのだ。
「しっかりつかまって!」
 もしも光を当てなかったら、二人は確実に死んでいただろう。絹子は、スクーターを走らせ続けた。
 後ろからあいつらが、「鳥」が存在するのを感じる。しかし、光を受けたためか、あるいはそれ以外の理由があったせいか、それ以上は追ってこなかった。
 竹田市内の交番までたどり着き、絹子はようやく安堵する事が出来た‥‥。

「事態は、切迫している」
 UPCの将校が、脂汗をたらしつつ君達に言う。
「小学校教諭からこの通報を受け、調査隊が向かったところ‥‥発見した。村の近くで積み上げられた、人骨の山をな。
『鳥』は、バグアのキメラに違いなかろう。調査隊は、近くに展開した状態で停止しているカプセルを発見・回収した。内部には何も無かったが、何かが入っていた事はまちがいない。そして、カプセル先端部にはドリルが、内部には妨害電波発生装置が内蔵されていた。
 おそらくはカプセル投下後、地中を潜行し村近くに出現。内部のキメラを解放したのだろう。諸君らには、このカプセルで運搬されたキメラを殲滅してもらいたい。方法は問わない、やってくれるな?」

●参加者一覧

ラン 桐生(ga0382
25歳・♀・SN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
オットー・メララ(ga7255
25歳・♂・FT
御凪 由梨香(ga8726
14歳・♀・DF
紫藤 文(ga9763
30歳・♂・JG

●リプレイ本文

 13:00、日中。
 竹田市近隣、木原山山中。富沢村。
 現時点での、キメラの存在は確認されず。UPC能力者はそれを確認し、村内部へと侵入、その破壊の跡を改めて確認した。
「今夜はハリケーン‥‥が起こるわけはないケド、嵐になるのは間違いないカト」
 惨劇の舞台となった富沢村、同・「スーパーひらまつ」の惨状を見つつ、ラン 桐生(ga0382)はひとりごちた。お菓子売り場に置かれているバブルガムやキャンデーの陳列棚も倒され、それらもまた床に散らばっている。
 他にも散乱している商品は、肉や魚などの生ものは次第に腐りはじめ、腐敗臭とともに蝿がたかり始めている。納豆や豆腐がぶちまけられているのを見て、オットー・メララ(ga7255)は悲しさと悔しさとを混ぜた表情を浮かべた。
「ここにも、罪無き者たちの生活の場があり、日常があったに違いなかろう。それを、このような無残な様相にするとは‥‥許せぬ、倒すべきはキメラ、憎むべきはそれを操るバグア!」
「ひええっ、あわわわわっ」
 オットーの決意の声とは真逆に、腰の抜けた驚いた声。スーパーの奥にある雑貨コーナーにて、紫藤 文(ga9763)は延長コードを見つけたのだが、その時に「それ」を見つけたのだ。
 食いちぎられた、人の手首を。
「キメラのしわざ? ‥‥勘弁してください」
 しかし、情けない声を上げた彼だが、次第に使命感めいたものが己の中に満たされていく感覚は否定しきれなかった。大きさや指の形などから、それが年端も行かない子供のものだと分かったのだ。後でわかった事だが、それは平松少年の妹、美智恵の手首だった。
 知らぬ間に、彼は誓っていた。
 こんな勘弁な事は、もうこれっきりだ。他の場所で起こさせるものか。

「光に弱い、これが我々にとっての有効打になる事は間違いないでしょう。ですが‥‥」
「その分、夜になったらヤツらの時間。‥‥絶対に、成功させないと駄目ですよね」
 綾野 断真(ga6621)の言葉を受けて、リゼット・ランドルフ(ga5171)が言葉をつむいだ。
 富沢村の作りは簡素。村の商店街を中心に、周囲には小屋や住居が閑散とした様相で建っている。商店街をそのまままっすぐに進むと、その先にあるのは榊原神社。
 神社内部も荒れ果て、宮司や巫女らの姿も見当たらない。打ち破られた扉や窓、破壊された内部の様子から、その原因の予測は容易に出来たが。
 断真、リゼットとともに、御凪 由梨香(ga8726)は榊原神社にて、仕掛けの準備していた。村唯一の電気店にて、電球と延長コードとを失敬し、雑貨店から頂戴した針金を使い、周囲にすえつける。
「照明、配置よし。障害物、配置よし。遮蔽物、配置よし。配線、よし。あと他にするべき事は‥‥っと」
 一息ついた由梨香は、思い出した。平松少年と会った時の、彼の顔を。小森教諭の話によると、普段の彼は周囲を笑わせるのが大好きな子供だったと言う。
 それが今や、笑顔どころか、怯えきり話も出来ない状態。幸い身体は小さなかすり傷のみだが、心のほうはそうでもない。キメラを倒したところで、彼の心に負った傷は確実に残るだろう‥‥と、彼を診た医師は診断した。
「‥‥いろんな意味で、きっちり退治しないとね」

 16:40
 日が傾き、隠れつつある。夏が近づき、昼間も長くはなったが、それでもこの時間になると、周囲が暗くなってしまう。
 徐々に、怪物の時間が近づきつつあった。キメラが動き出す時間が。
 神社の境内、大きな御神木の影で周囲を見張っていたランと断真、紫藤は、戻ってきたリゼット、オットー、由梨香を出迎えた。
「どうだッタ? なにかアッタ?」
「‥‥吐きそうだよ、あたし。しばらくは‥‥忘れられそうにないかも」
 ランの言葉に、リゼットとオットーは沈黙し、由梨香のみが答えた。
 仕掛けを終えた後、三人は村の地図を手に、周辺にキメラの隠れ家や、犠牲者の遺体、まだ生き残っているかもしれない被害者や、キメラが入っていたカプセルが他にないかを確認せんと、調査に赴いたのだ。
 そして、すぐ近くにて「それ」は見つかった。それを見つけたとき、リゼットは鼻で息がまともに出来なかった。リゼットだけではなく、由梨香やオットーでさえも、その凄惨な光景に慄然し、しばらくは言葉が出なかったほどだ。
 市役所で入手した地図で確認し、村から約500mほど離れた地点にあった洞穴に向かった三人は、そこに犠牲者たちの成れの果てを発見した。
 犠牲者のほとんどは、肉をむしりとられた骸骨と化していた。能力者たちはそこから、垣間見た。キメラどもの嗜好を‥‥単なる殺戮とも違う、まるで殺戮という行為そのものを楽しんでいるかのような、おぞましい嗜好を。
「‥‥ひとつだけ」リゼットが、自らに言い聞かせるかのように言った。「もしもこの世界に生きる事が害悪であり罪な生き物がいるとしたら、私たちが討つべき敵がまさしくそれです!」

18:00
 日が完全に傾き、周囲は茜色に染まった。六人の勇敢なるUPCの戦士達は、戦いの時を迎えんと、まさに戦々恐々とした状態で、神社の境内において待っていた。
 一人が囮になり、前衛が飛び出して、キメラを討つ。後衛は、逃げるキメラを狙い打つ。
 逃げられそうになったら、仕掛けておいたライトやストロボで強烈な光を放ち、無力化させる。
 これがうまくいくかどうかは分からない。だが、この時点で殲滅できなかった場合、バグアはこれ幸いと同様の作戦を立案し、実行。日本の、そして世界の主要都市に同様の攻撃を仕掛ける事だろう。
 待った。ただ待ち、狩るべき鳥の姿が出てくるのを待った。
 フォーメーションは組んである。あとは、「鳥」がやってくるのを待つのみ。
 前衛はリゼット 紫藤。境内の中心部にて、板切れを立て、周囲を守っている状態に。リゼットの手にはバスタードソードが、紫藤の手にはハンドガンが握られている。
 後衛はラン、断真 由梨香。ランは古木の陰に、断真は神社の本殿に、由梨香は本殿脇の、小さな祠の陰に隠れている。ランと断真の武器は、それぞれLv3と4のライフル、由梨香はS−01だ。
 遊撃はオットー。由梨香のすぐ近くに身を潜めている。武士にふさわしい彼の装備は、両手に刀剣「蛍火」を握った二刀流。
 リゼット、紫藤の二人が前衛となり、囮になり誘い出す。後衛のランがペイント弾を撃ち、印をつけ、断真、由梨香が狙撃。
 狙い撃ち落下させたところで、リゼットと紫藤が止めをさす。
「鳥」が逃走しようとしてきたら、仕掛けておいた照明のスイッチを入れ、強烈な光で周囲を照らす。
 後衛側に直接攻撃を仕掛けてきたら、オットーがそれを迎撃する。
 フォーメーションは、全員の頭の中で完璧に組み上げられている。そのはずだ。
 虫の鳴き声や、近くを流れる小川のせせらぎ、風が草木を凪ぐ葉擦れの音。声を潜めつつ、「鳥」を待つ能力者たちはそれら自然の音を聞き流し、狩るべき獲物がやってくるのを待ち続けていた。
 刻々と、時間が過ぎていく。それと同時に、皆の心は緊張により磨り減っていく。
 六人の心の中に、一つの疑い‥‥「鳥」は、来ないのでは‥‥が浮かんだ時。
 静寂が、訪れた。風がやみ、草木を凪ぐ音が消え、小川のせせらぎの音すら怯えたように低くなる。
 それと同時に、虫たちの鳴き声がいっせいにやんだ。
 神社の頭上、高くそびえる木々の枝葉が悲鳴を上げた。そして、茜色に染まった空に、そのシルエットが浮かび上がったのだ。
 ふたつ‥‥みっつ‥‥少なくとも、四羽はいる。それは翼を備えた人の姿をしているように見えるが、歪みきった四肢とむき出した牙は、明らかに人のそれではない。手足には、猛禽のそれを思わせる巨大な爪。肩から背にかけては薄汚れた羽毛の翼。ギリシア神話における人面鳥身の怪鳥・ハーピーを思わせる姿は、まさしくUPC本部のデータにある、キメラ・ハーピーに相違ない。
 が、こいつらの顔つきは、確認されている個体よりも凶暴そうに見える。新型か、あるいは同系か。
 それを推測させる暇もなく、そいつらのうち三羽が急降下をしかけてきた。脚の爪が、残酷に引き裂かんとリゼットと紫藤とに向かってくる。
 キメラ、ナイトハーピーは牙をむき、餌にありつかんとリゼットに肉薄した次の瞬間。
「‥‥狙い、撃つ!」
 覚醒したランがペイント弾を放ち、付着した蛍光塗料を頼りに断真と由梨香が狙撃した。蒼い瞳に金髪となった断真と、翼骨の模様が体表面に浮き出た由梨香。二人の放った弾丸が、三羽のナイトハーピーの身体を貫き、翼を撃ち抜いた。ランもまた、胸が一回り大きくなっている。
 痛みよりも驚きが先に来たかのように、おぞましき三羽の鳥は地面に落下した。しかしそれでも、息の根を絶ったわけではない。すぐさま体勢を立て直し、目前の二人の男女‥‥リゼットに紫藤へと目標を定めた。飛行能力を失ったとしても、戦闘能力まで失ったわけではない。
 牙だらけの口をかっと開き、キメラはちょっと前に食い殺した村人たち同様、リゼットを食らおうとした。
「はあーっ!」
 キメラの首が、放物線を描いて飛んでいった。続けて、二体目のナイトハーピーの体中が穴だらけになる。
 覚醒したリゼットと紫藤による攻撃。金髪を黒く変化させたリゼットが、手にしたバスタードソードにてキメラの首を切断したのだ。剣を握る左手の甲には、蝶のタトゥのような紋章が浮かんでいる。
 紫藤もまた、変化していた。右目が赤くなり、右半身に幾何学模様が浮かび上がっている。
「‥‥これ以上、好き勝手されるわけにはいかないんでね」
 紫藤のハンドガンが再び火を噴き、三体目のナイトハービーを貫いた。怪物の肉体を、弾丸が切り裂き、打ち抜いていく。後ろざまに吹っ飛んだキメラへと、リゼットが襲い掛かった。
 鋭い刃に胸を貫かれ、三体目の怪物も断末魔の悲鳴をあげ、事切れた。
「来るぞ! 奴だ!」
 オットーの声で、由梨香へと襲いかかろうとした別のナイトハービーの存在が明らかに。そいつは樹間を通り抜け、後ろ側から襲いかかろうと企んでいたのだ。
 が、そこにはオットーがいた。熱血の武士は既に覚醒し、右手から煙を上げつつ、両手の双刃を振るって怪鳥へと切りかかっていった。
「貴様の相手は拙者だ!」
 獅子奮迅の、怒りの一撃。ナイトハーピーはそれに怯む様子も無く、両脚の鉤爪でつかみかかり、引き裂かんと迫り来る。
 が、勇敢なる若きサムライは、異形の異様にして邪悪なる力に対し、一歩も引かず。否、引くはずも無く、引くつもりも無い。すれ違いざまに、右の蛍火を一閃させ、必殺の一撃をそれに食い込ませた。
 片方の翼が完全に両断された。斬られたナイトハーピーは地面を転がり、ドス黒い体液をぶちまける。
「塵と成り果てよ!」
 振り向き、左の剣を振り上げ、ふかぶかと刃を身体に食い込ませる。狂い悶えつつ、四羽目が片付いた。
 どこだ、残りはどこにいる。
 もうこれで終わりか、あるいは、まだ他の奴がいるのか。
 全員が、周辺へと感覚を向ける。まだいる。まだ、どこかに奴らの残りがいる。
「!!」
 いた。二体のナイトハーピーが、樹間を縫うようにして飛行している。オットーと由梨香のいる場所とは反対の、ランと断真とが近い場所からの襲撃。そいつらは、リゼットと紫藤のみならず、ランや他のメンバーも血祭りにあげようとしている。
 しかし、皆はあわてず、あきらめなかった。
「いけえっ!」
 リゼットに襲い掛かろうとしたナイトハーピーは、リゼットの一声とともに、強烈な光の奔流に逆に襲われた。電気屋のライトや照明器具、それにカメラ屋のストロボ。
 それらが放つ光は、ナイトハーピーへと想像以上の働きを発揮した。まるで十字架を突きつけられた吸血鬼のように、そいつらはもだえ、暴れ周り、周囲の木々へと身体をぶつけた。
「逃がさないよ! 絶対ここで倒すんだから!」
 由梨香の声とともに、S−01が火を噴く。五匹目が沈黙した。
 残る六羽目が、翼を翻して逃げようと企む。が、既に時は遅かった。周囲の者たちから攻撃を受け、たちまちのうちに地面に転がる。
「!!」
 リゼットが、猛攻のうちに止めをさした。こうして、人の姿と鳥のそれとを合体させた、醜い怪物たちは全部が滅ぼされる事となった。

 そして次の日。
「もうこんな悲劇が起こらぬ事を‥‥祈るで御座る」
 オットーとともに、村にあった塚へと祈り、手を合わせる一行の姿があった。
 調べたところ、このキメラの痕跡は無く、早いところ帰りたいと思っていた。
 リゼットもまた、手を合わせ、そして願っていた。犠牲者たちの冥福を。
「二度と、二度とこういう悲劇を繰り返してはだめよ。そうよね?」
「左様。拙者は本当の平和が訪れるまで、戦い続けるで御座る」
 リゼットの言葉に、オットーは答えた。それは、決意ある答えだった。
 二度と、このような「鳥」が出ないで欲しい。そう思う一行だった。