●リプレイ本文
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「オレンジキメラ‥‥炬燵の上には乗せたくないな」
現地へ向かう機内の中で御山・アキラ(
ga0532)がぼそりと呟いた。
確かに人食いオレンジなんて乗せたくは無い。
「でも」
そこに口を挟めるのはアズメリア・カンス(
ga8233)。ドローム製のSMGのマガジンに弾丸を装填しながら言葉を続ける。
「オレンジ型とは、また妙なキメラね‥‥」
「オレンジジュースも好きなんだけど。倒すのはやだなぁ」
隣に座っていた青海 流真(
gb3715)が足をバタつかせながら口を開く。ちなみに少女みたいに見えるがれっきとした男である。
彼らが口々に開くオレンジという単語。
そう、今回のキメラはオレンジの形をしているらしい。
「人食いオレンジなんて、何処のB級ホラー映画よ」
彼らの後ろの席に居た智久 百合歌(
ga4980)が物騒な事を言いはじめる。
「けど、被害が出ている以上、放置してはおけませんし」
そう窘めるリゼット・ランドルフ(
ga5171)。でも彼女も同じことを考えていたのは秘密だ。
「あのオペレーター、きっとオレンジキメラの親玉に違いない」
そんな会話をぶった切るかのように最後尾に座っていたレディオガール(
ga5200)が突然口を開いた。
「見た目は人間だが流れている血は100%オレンジジュースなんだ」
あまりにぶっとんだ内容に全員がレディに振り向く。
一同の視線を受けたゴシックロリータの少女は一呼吸おいて、言葉を続けた。
「という冗談」
その言葉に全員が嘆息をもらす。
「でもミカンを食べ過ぎると肌が黄色くなるのは、ミカンに汚染されてミカン人間になる兆候なんだと思う」
残念ながら違います。
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「エンブレムにも使ってる身としてはオレンジのキメラはどうにも見過ごせなかったんだよね」
村に着くと諫早 清見(
ga4915)は自らのエンブレムを横目で見ながら口を開く。
「それに、幸せに過ごす家族を引き裂くことも‥‥」
呟く彼の瞳に宿るのは強い意志の光。
「これ以上悲しむ人を増やさないように、一個も残さず、殲滅する!」
そして決意。
「そうだな‥‥だが、感情にはとらわれて冷静さを失うなよ」
そう言ってアキラがサブマシンガンを手渡す。
清見はそれを受け取ると力強く頷いた。
「よし、じゃあボクはA班だね?」
月森 花(
ga0053)は持参したゴーグルを装着し、確認をとる。
同意を得ると彼女は百合歌、アズメリア、流真の方へと歩いていく。
「なら、こちらはB班になりますね」
事前に貰った村の地図を開くリゼット、他の3人も彼女の傍に寄り地図に視線を向ける。
「二手に分かれて捜索。見つけ次第、他の班にも連絡」
地図を見ながらアキラが作戦を確認する。清見も横で同じように口を開く。
「極力、家屋の損傷は避けて、外で戦闘ですね」
「そしてぐっちょんぐっちょんにすればいいんだね」
「そうです‥‥ね」
レディに対し、困った表情で返答するリゼットであった。
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「オレンジの香りでもすれば見つけ易いのに‥‥しないのかしら?」
既に覚醒を済ませた百合歌が鼻をクンクンとさせながら匂いを探し当てようとする。
しかし屋外ではそれも難しいようだ、特にそういうものは感じられない。
「まず家の中とか探してみませんか?」
花の提案に4人は一軒の家のほうへと入って行く。
「小さいから隙間とかも危ないかもね」
ドローム製のSMGを構えながら、家具の隙間とかを覗いていく花、他の3人も彼女に習って探っていく。
「数十個のオレンジ型って、マーケットのオレンジの山みたいなものよね」
キッチンに入り込んだ百合歌がオレンジの山を想像しながら冷蔵庫などを探っていく。
「そっちはどうかしら?」
オーブンを覗き込みながら、他を探している仲間に呼びかける。
「こっちはないよー」
「こっちもだ、テーブルに果物があるくらいだな」
「そう‥‥果物?」
流真とアズメリアからの返答に振り向く百合歌。視線の先のテーブルには籠があり確かに果物が置いてある。
「大丈夫かな?」
バナナやリンゴ、そしてオレンジの入った果物の籠に顔を近づける花。
その中にあったオレンジの一つに切れ目が入り、口のようなものが開く。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
視線を交わす(?)花とオレンジキメラ。いくばくかの沈黙の後、オレンジは口を大きく開けて花に飛び掛ろうとした。
「えい」
そこをアズメリアが月詠を振り下ろしキメラを串刺しにする。
びくびくと痙攣した後、動かなくなるキメラ。
それを見て花はほっと胸をなでおろす。
「あ、ありがとうございます」
「かまわないさ。それよりまだ他にもいるかもしれない」
言って周囲を警戒するアズメリア。
気がつけば室内で何か音のようなものがする。
「‥‥この感じ‥‥近いんじゃない?」
物音と窓の振動にスコーピオンを構え、警戒する百合歌。
一瞬、音がやんだと思った瞬間、別の扉からオレンジキメラが大挙して押し寄せてきた。
「来るぞ、外へ!」
アズメリアの声に全員が従った。
「あっちは始まったようだな、今のところ大丈夫みたいだが」
トランシーバーを耳に当て、アキラが言った。
アキラ達B班は現在、最初に事件の起きたサマンサの家に居た。
彼女の言葉を聞き、心配そうな表情を浮かべるリゼット。そこに別室を調べていた清見とレディが戻ってくる。
「どうでした? ジョニーさんとマイケルさんは?」
リゼットの言葉に清見は首を振った。分かっていたことだが空気が重くなる。
「‥‥とりあえず他を当たろう、状況によってはA班に対して援軍が必要かもしれない」
アキラに頷く一同。敵が見つかっていない以上、やらなければいけないことがある。
警戒しつつ外に出る一同。
「‥‥あ」
外に出たところでレディが声を上げる。
何だろうと清見が彼女の方を向く。レディはさっきまで居た家の屋根のほうを指差した。
「上にいっぱい、みかんキメラ」
屋根一面に乗っている大量のオレンジキメラ。
ポポポーン!
大量のオレンジが一斉に跳ね上がり、傭兵達へと降り注いだ。
「これは」
「走って逃げないと」
「だめですわね」
「神の領域くらい」
4人は降り注ごうとしているキメラから逃れるために一斉に走り出した。
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家の中でキメラに遭遇したA班。
何とか外に出ることに成功した彼らはすぐに戦闘態勢を整える。
流真は身に着けていたAU−KVをバイク形態にし、それに乗り込む。残りの3人は銃を構えて迎え撃つ。
「よし! いっくよー!」
オレンジキメラの大群が外に出てきたのを確認すると流真はアクセルを捻る。
一度、前輪を浮き上がらせるとそのまま一気にキメラの大群を轢きにかかった。
キメラの上を通り過ぎるAU−KV
「へへー! どうかな?」
流真はアクセルターンで180°に切り替えして戦果を確認する。
バイクで轢いたことで、FFの上からもそれなりにダメージを与えられたものの。
ぴょーん! かぷかぷかぷ!
「いたぁー!!」
致命傷には至らず、案の定、噛まれた。
一方、その頃。
空から降ってくるオレンジに対しランニングを余儀なくされた4人。
「そろそろ大丈夫だな」
アキラがその場に立ち止まり、疾風脚を発動する。そして近づいてきたキメラにファングの一撃を見舞った。
切り裂かれるオレンジ色の球体。それを確認するとアキラは3人と別方向へと走り出す。
アキラを追いかけるために、方向を変えるキメラ。
そこへ清見がサブマシンガンを撃ち、リゼットのソニックブームを放つ。
舞い上がるオレンジ。さらにレディがレイ・エンチャントで威力を上乗せられたトルネードのスイッチを入れる。
「それにしても」
竜巻を見つめながら口を開くレディ。
「あのキメラの中身は果汁なのだろうか、それとも肉汁なのだろうか?」
「しょうがない、援護お願いね」
花にウィンクをすると流真を助けるためにアズメリアがキメラに向かって走る。
キメラの数個いや数体が彼女に飛び掛ろうとするが、狙撃眼を発動させた花のSMGが発射した弾丸によって全て射抜かれる。
流真まで近寄るとアズメリアは土竜爪を振るってキメラを引き剥がし、仲間達の下へと連れて行く。
「大丈夫か?」
「大丈夫!」
アズメリアの問いに答えつつリンドヴルムを身に纏う流真。傷ついてはいるが致命傷には至ってはいない。
「なら反撃するわよ」
そう言うとアズメリアもSMGを抜き、キメラに向かって発射した。流真、そして百合歌もそれに習う。
キメラの群れに降り注ぐ無数の弾丸。
「オレンジって、剥くの失敗すると汁が目に沁みるわよね」
ゴーグルをかけた百合歌がそんな事を言いながらスコーピオンの引き金を引く。
花もだがゴーグルをもってきた理由はそんなことだったりする。
一方キメラも少しでも避けようと変則的に跳ねたりしてみるが、避けることは叶わず、見る見るうちに数を減らしていく。
「オレンジは人を襲うんじゃなく、人に美味しく食べられるのが運命なんだよ」
SMGの弾丸を撃ち尽くし、アラスカを抜き撃つ花。
理屈は変だがその口調は冷たく、冷酷だ。
45口径弾が銃口から吐き出され、肉厚なシリンダーが回転する。
彼女の行動を契機に他の3人は一気に駆け出し数を減らしつつある群れの側方に回り込む。
「ポンポンと鬱陶しいのよ」
自分に襲い掛かろうとしたオレンジに鬼蛍による横薙ぎの一撃を振るう。円を描くような一閃が次々とオレンジをカットしていく。
「はい、オレンジのハーフカット出来上がり!」
その一撃を脅威と感じたか、別のほうへと動くキメラの群体。だが‥‥
「一体も逃しはしないわよ」
反対側からアズメリアと流真が圧力をかけていく。
花も即射を発動し、リボルバーの弱点である装填を補い、間断なく銃撃を加えていく。
三方よりじわじわと数を減らすキメラ。
「食べられるキメラは多いけど、流石に‥‥人食いオレンジは、ねぇ‥‥」
最後の一体を八個に切り分けて、百合歌は呟いた。
一方B班も同じように攻めていった。
間断なく注がれる無数の銃弾。そしてトルネードによって生み出される竜巻。
次々とオレンジの形をしたものが宙を舞い、穴を開け、弾け飛ぶ。
「それにしても」
数が少なくなったのを見計らって駆け出すアキラ。
「ファングでオレンジを切るなんて妙な気分だ」
「それは言いっこなしだよ」
彼女の言葉に苦笑しつつルベウスを振るう清見。
「そうですよ! これでもキメラなんですから!」
そう言いながらベルセルクを振り上げるリゼット。豪破斬撃を発動させた刀身を一気に振り下ろし一度に数体のキメラを叩き潰す。
黒色に変化した刀身からオレンジ色の液体がしたたり落ちる。
「ねー、果汁? それとも肉汁?」
トルネードを発動させながらなおも問いかけるレディ。その光景を見て、アキラはボソリと呟いた。
「アップルジュースでも飲むか‥‥」
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「とりあえず、全てのキメラは倒したみたいだね」
村を一通り回って清見が言った。
「こっちも大丈夫です」
救急セット使って流真の傷を治療しながらリゼットが答える。
「あれ? そういえばアキラさんは?」
アキラの姿が見えないことを問う清見。
「掃除だそうです」
代わりに答える百合歌。
「散らかっていると掃除したくなるようで」
場所は変わってサマンサの家。
散らかっていたキッチンを軽く清掃し、一息つくアキラ。
――ゴトッ
「!?」
突然の物音に振り向くアキラ。
視線の先にあったのはオレンジ色の丸い果物。
武器を構えてゆっくりと近づいてみる‥‥が
「グレープフルーツか」
ふう、と嘆息を漏らしてグレープフルーツをテーブルに置くと彼女はドアを開け、キッチンを出る。
誰も居なくなった部屋。
テーブルに置かれていた果物がまるで生き物のように痙攣し、そして皮に切れ目が入ったかと思うと隠されていた口を開く。
新たに現れたグレープフルーツキメラは犠牲者を求めて胎動し――
「念のためだ」
戻ってきたアキラの爪により、その命を終えた。