●リプレイ本文
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アンデス山脈を抜けた、広い大地。
緑のあるこの土地は今、地獄絵図と化していた。
彼方より迫撃砲弾が降り注ぎ、空を舞うヘリが12・7ミリ弾と対戦車ロケットを大地に向かって吐き出す。
その中を進むのは総勢30体の異形の猛獣。
鉛と爆炎の雨の中をキメラはその俊敏なる体躯を以って駆け抜け、そして人間達が作り上げた防御陣地に襲い掛かろうとした。
「やっこさん、おいでなすったな」
戦車中隊を率いるノゲイラ大尉が日焼けした顔に笑みを浮かべる。
「全部隊に連絡! 小隊単位でキメラを狙え、型落ちのパットンの力見せてやるんだ!」
彼の意に沿い、防御陣地に布陣した戦車がキメラを狙う。
「よし‥‥撃て!」
号令一下、主砲が火を吹き、次々とキメラに叩き込まれる。
猛烈な射撃に次々とキメラは傷つき、何体かは死に至る。
「こちら汎用ヘリ『色恋』。敵、キメラ部隊撤退しています」
「‥‥これで終わりですかね?」
ヘリからの通信を聞き、上司に問いかけるホジェリコ准尉。
「態勢の立て直しだろう。見ろ、奴ら横隊陣形を作ってやがる」
ノゲイラの言うとおり、キメラは一度下がると獣とは思えない統制された陣形を組みはじめた。
「誰かがキメラを指揮しているんだろうが‥‥こればっかりは傭兵頼みだ」
苦渋な表情を浮かべるノゲイラの耳にキメラのものと思われる遠吠えが聞こえた。
「遠吠え?」
キメラと戦車部隊との戦場から離れた場所で天城(
ga8808)が口を開く。
「そう言えば、戦車部隊の人たち大丈夫かなぁ‥‥っとと、目の前に集中しなきゃ」
独り言を続けたあと、それを振り払うように頭を振る天城。そんな彼女に斑鳩・眩(
ga1433)が後ろから声をかける。
「大丈夫みたいだよ、意外に持ちこたえているみたい」
その言葉に安堵の表情を浮かべる天城。
「時間との勝負だな、事は迅速に行うべきか」
無線で戦況を確認しつつ時任 絃也(
ga0983)が注意を促す。
「そうですね、できるだけ早く決着をつけましょう」
柊 香登(
ga6982)が同意し、全員が頷いた。
「なあ、作戦なんだけどさ」
キョーコ・クルック(
ga4770)が前を歩いている翠の肥満(
ga2348)に確認を求める。
「‥‥んあ? それなら早坂さんの案で行くんでないの?」
細身の身体を持った肥満は一度キョーコの方を向いた後、早坂冬馬(
gb2313)の方を顎で指した。
「見えてきましたよ」
彼らの言葉を遮るように新居・やすかず(
ga1891)が全員に注意を促す。
視線の先、そこには人の形をした異形が隊列をなして進んでいた。
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「ヒューッ、敵の多いこと多いこと」
敵陣を遠くから見やり、肥満が軽口を叩く。
「ちょい無理してコイツも持ってきたのは正解だったぜ。あー、重」
視線を背中に移すと、そこにはM−121ガトリング砲が。
いざとなったらこれで制圧射撃を仕掛けることも考えていたのだろう。
「ですね」
苦笑しつつ隣に並ぶ新居。その手には猫乱舞と名づけられたSMGがあり、やはり同様のことを考えていたようだ。
「それじゃ、そろそろ行きますか。みんな、がんばっていきまっしょい」
眩の言葉に全員が頷いた。
先行するのは肥満に新居、香登に天城の4人のスナイパーだった。
隠密潜行を駆使し、見つかりにくい場所を選んで場所を確保、そして残りの4人を誘導するというやり方で、少しずつ敵部隊との距離を詰めていく。
「久方ぶりに己が身一つでの戦闘か、訛っていなければ良いんだが」
久しぶりの生身での戦いに実戦の勘を失ってはいないか?
絃也が思わず不安を口にする。
すぐ後ろに居たキョーコの表情も真剣そのものだった。
かつて戦い、託された土地を守る、その決意が彼女の美しい顔に厳しさを求める。
やがて彼らは敵の部隊を自らの射程圏に捉え、そして奇襲の準備を整えた。
先行していた4人のスナイパーは各々の得物を用意し、キメラ部隊へのターゲティングを始める。
残りの4人もすぐに飛び出せるように覚醒を済ませ、武器を構える。
「正直、熱血とかは勘弁だけど。まあ、人助けは別」
香登がドローム製SMGを構える、肥満も斜面を盾にライフルを構え新居もそれに習い、そして天城は弓の弦を引く。
爆音が響く戦場に沈黙が漂い‥‥そして銃声が鳴った。
最初に駆け出したのは絃也であった。
視界の中に人間形キメラが2体倒れるのを捉えつつ、瞬天速で一気に距離を詰める。
「この先は通行止めだよ!」
キョーコと眩がそれに続く。
「さてはてド派手にいきましょうか」
冬馬もそう呟くと、一気に距離を詰めた。
「よし、あとは早坂さんの作戦通り、任せたよ!」
次の獲物を探しつつ肥満が冬馬に言う、その言葉に彼は動きを止め、振り向いた。
「え? 全体の方針に準拠じゃ?」
その言葉に全員の動きが止まる。
集団戦闘をするに辺り、ここでの役割を認識するのは勿論、全体としての方針も頭に入れるべきであろう。
今回、数人が冬馬の作戦に任せる形を取ったが、冬馬自身は全体の方針に準拠するという認識しか持っておらず。また全体の方針と言うのも明確には決められてはいなかった。
それは誰かが担当すべき事ではない、全員が認識し、頭に入れるべきものであった。
結果、傭兵達の動きは統制の取れたものとは言えず、まさに烏合の衆と呼べるものになってしまった。
そしてそれは奇襲で得た優位を失わせることになった。
「『犬笛』! 後方の予備部隊を呼べ、総員射撃体勢! 目標、そこに突っ立っている抉れ目。撃て!」
指揮官と思われる男が指示を出すとキメラ達は持っていた銃を構え、冬馬に向けて一斉に射撃した。
無数の弾丸が冬馬を貫き、彼を地に倒す。
「次! 制圧射撃だ。接近してくる人間の動きを止めろ!」
異形の軍隊に下される指示、それは即座に実行されようとしていた。
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「くっ‥‥」
自分達に向けられる銃口に対し、即座に距離を詰める絃也。こうなっては自分に出来ることに全力を注ぐしかなかった。
瞬天速のアドバンテージにより銃を構える人形の前に立つと、相手が引き金を引くより早くその拳を打ち込む。
防御することが不可能な瞬即の一撃がキメラの急所を貫き、その命を奪い取る。
だが残ったキメラは味方の死に怯まずに、指揮官の命令を実行に移す。
銃声が鳴り、遅れてキメラに接近しようとしていたキョーコと眩に弾丸が命中する。
「さーて、この数‥‥十秒持つかしら」
致命傷には至らないも、その衝撃に息を吐く眩。だがその歩みが止まることは無い。
「だけど、その無理、私の無茶で押しのける!」
キョーコも被弾した身体を引きずり、キメラの一体に肉薄。そのまま流し斬りに持ち込む。
「あんたらが指揮してるのかい? だったら‥‥さっさと片付けさせてもらうよ!」
血に汚れ、光を失った蛍火を掲げながらキョーコが言った。
個々の力量では傭兵達はキメラに対して勝っていた。
だがキメラを率いる指揮官は自ら率いる部下をまるで手足のように使い、確実に戦力を削りにかかっていた。
「これだけ数が多いと狙う必要ないんでないのっ!?」
肥満がガトリング砲を構え大量の弾丸をキメラに注ぎ込み、そこにキョーコが豪破斬撃を込めた刃を突き立てる。
新居や天城の援護の下、絃也も残り少ない錬力からひねり出した一撃を急所に叩き込み、もう一体を死に至らしめる。
だが‥‥
「攻撃を集中しろ!」
指揮官の命令によりキメラは絃也に向けて一斉に攻撃を仕掛ける。
集の力を活かした攻撃は経験ある戦士に次々とダメージを与える。
「全く‥‥君が誰だか知らないけど、やり方ってものがあるだろ? スマートじゃないよね、ホント」
キメラの攻撃から絃也を引き離すべく、香登が挑発をかねて攻撃を加える。
その言葉が聞こえたのか指揮官の顔が嘲笑に彩られる。
「これは驚いた。戦争って言うのはスマートにするもんなんだ? 初めて聞いたよ」
キメラを指揮する男は自らの手を高く掲げる。
「じゃあスマートに行こうか。キメラ部隊、再度集中攻撃」
振り下ろした先に居たのは絃也。再び襲う集中攻撃に彼は耐える事ができなかった。
「さて‥‥」
倒れ行く仲間に凍りつく傭兵達を見て、笑みを浮かべる男。
「次は彼らの相手をしてもらおうか」
怒号とともに後方に控えていた10体のキメラが傭兵達に向かって襲いかかろうとしていた。
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「ちっ、邪魔が入ったか」
援軍を見て、キョーコが舌打ちする。
後方より来た猛獣形のキメラに対し、傭兵達は即座に対応に移った。
天城が弾頭矢を放ち、眩が瞬天速で距離を詰め、先頭のキメラに疾風脚を叩き込む。その後瞬天速で下がったと同時に新居が援護の射撃を行う。
しかし出鼻をくじくには傭兵達の数は少ない。後方キメラ部隊は怒涛の勢いを持って傭兵と指揮部隊の間になだれ込んだ。
敵味方入り混じっての乱戦。キメラの指揮者はそのチャンスを見逃さなかった。
「それじゃ、ごきげんよう」
皮肉の混ざった挨拶。
援軍を盾にし、指揮官は自らの手勢と後方キメラ部隊の一部を連れ、その場を離れだす。
傭兵達はそれに気づくも、援軍に動きを止められ対応することができない。
何とか追撃しようと乱戦の中、奮戦するキョーコと眩。肥満たちスナイパーも後方に距離を置き、援護を続けていく。
特にキョーコと肥満は自らの持てるスキルを総動員し、この戦局を打開しようとする。
「リズィーにもエルドラドの民を頼むって言われたんでね!」
託された思いを豪破斬撃と成し、キョーコは剣を振り上げる。
1体、また1体と倒れるキメラ。
このまま行けば敵を蹴散らし、追撃を試みることが可能かもしれない。
誰かもそう思ったその時、ヘリのパイロットから無線が入った。
「『色恋』より各位へ。敵増援部隊接近!」
「くそ!」
居ても立っても居られなくなった肥満がライフルを持って防御陣地へと走り出す。
それに習おうと動く傭兵達、だが残ったキメラが間に立ち、彼らを分断した。
「通してくれないかしら?」
軽口を叩く眩。
「無理でしょう‥‥やるしかないです」
たしなめつつSMGを構える新居。
無線からは援軍の到来により敗戦への道を辿る戦車部隊の状況が報告されている。
彼らが全てのキメラを倒したとき、無線から戦況が聞こえることはもう無かった。
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肥満は走った。
味方を助けるため、全力で。
無線からは仲間がやられていく状況が伝わっているが、間に合えば何とかなるかもしれない。
いくばくかの希望を抱き、むせ返るほどの硝煙の匂いの中駆け抜ける。
やがて犬の遠吠えのようなものが聞こえ、周囲が開けると戦車部隊が布陣していた防御陣地へとたどり着く。
「‥‥!」
そこで彼が見たのは、鉄屑となった戦車と燃え上がるヘリの残骸。そして地に伏せる死体。
「‥‥早かったね」
背後から聞こえる声、肥満が声の方向へ振り向くより速く、男は銃の引き金を引いた。
乾いた火薬の音、2発の銃弾が彼の胸を貫き、ヘルメットを砕く。
「奇襲されたときはヤバイと思ったけど」
倒れゆく肥満を見据えながら男が言う。
「君達が相手で助かったよ。お陰でここは突破できた」
立ち上がろうとする肥満。だが胸に走る灼熱感と痛みがそれを阻む。
その様子を見て男はさらに言葉を続ける。
「本当ならここで止めと行くところだけど、生憎とね忙しいんでね。これでオサラバとさせてもらうよ」
激痛で薄れゆく意識。キメラの指揮官は翠の肥満の耳元に顔を近づけると。
「それじゃ‥‥バイバイ」
そう言い残し、彼を置いてその場を去って行った。