●リプレイ本文
●模擬戦闘試験
「攻撃隊のお出ましだ!」
ハードポイントには、敵を葬り去ることを目的として強力な武装が据え付けられ、威圧感にあふれている。
敵として現れた5機はある意味、通常のヘルメットワームよりも強力な敵とも言えた。
EF−006の直近に位置する煉条トヲイ(
ga0236)が冷や汗を流しながら言う。
「敵は五機。R−01×3、G−43×1、XN−01×1。R−01の3機が先導し、XN−01が殿を務めている模様です」
「我を狙ってきているのは承知だ」
麓みゆり(
ga2049)の報告に漸 王零(
ga2930)が緊張気味に応える。
刹那、王零はXN−01への射撃を開始するが、ほぼ同時期にソード(
ga6675) も射撃を開始していた。EF−006、XN−01の双方が被弾する。
「わかっています! 僕が敵を牽制するから、あとはよしなに頼むよ」
敵を射程に捉えた嶋田 啓吾(
ga4282)はG放電装置を作動させる。放たれたそれはソードの機体に命中する。
「新型機との撃ち合いか‥‥面白いなあ」
被弾判定を示す警報の赤ランプが続々と点灯する中、呟くソード。
続けてトヲイの短距離高速型AAMが、さらには、みゆりのホーミングミサイルG−01が命中し、一挙にダメージを重ねる。
テスト空域の外周部を飛行するP3Cの中でブレアをはじめとする評価チームは試験の様子を観察する。
P3Cは電子戦や情報収集に必要な装備が搭載されている大型機である。
「偶然かもしれないが、はじめに敵のアウトレンジを潰しておく作戦のようだな」
傭兵達の戦いを見たプチロフの担当者が言うと、ブレアが応える。
「オーソドックスな戦法ではあるが、問題は対ヘルメットワームの場合では距離の維持が難しいからな」
ワイバーンは格闘戦を苦手とするわけではない。しかし、格闘戦に特化した機体に遅れを取ってしまうことは先のテストで判明している。その対策は装甲の形状変更による、重点区画の防御力を高めるという内容で、他に特別の対策は行われていない。
モニターに映し出される、R−01を示す3つの光点が急速にEF−006を中心とする編隊に接近してゆく。そして、それらとは別にG−43が単独で別コースへと逸れてゆく。
「5対4ですか、実験機の分が悪いようだな」
「ええ、普通にやり合ってしまえば、勝利は難しい状況でしょう」
実戦訓練の様子をみながら2人は会話を重ねている。
「試作機に対して一斉射撃しちゃえば一瞬で勝負はつきそうですが、それじゃあテストになりませんしねぇ」
平坂 桃香(
ga1831)は言う。確かに攻撃を集中させれば、短期での目的達成は容易な場合もある。
反面、その作戦を敵に予測され、回避された場合、無駄に初手を使用した側は不利になる危険もある。
「こちらeihwaz。回避に専念しながら、攻撃をかけてゆきますよ」
「GET READY GO!!」
明確に編隊を組む訳ではないが、先頭から接近を試みるラルス・フェルセン(
ga5133)がホーミングミサイル放つと、雪村・さつき(
ga5400)が後に続く。ラルスのR−01にはスナイパーライフルも装備されているため、遠距離からの射撃も可能である。
「させるかっ!」
2方向からのミサイルが接近した瞬間、王零の瞳が赤く変じ文様が浮かび上がる。マイクロブーストを作動させたEF−006は急加速し、一気に戦域を離れることに成功する。
「本気モードの全力で来い! ってことですかね」
桃香の頭髪が青白く光を放った刹那、彼女のR−01も急加速を開始する。強力なGが肉体を圧迫する。しかし、そんなことはかまわずにEF−006を追撃する。
「なんだとっ!」
すかさず桃香に追いつかれたは王零は驚きの声を上げる。
「‥‥同じ踵は踏まん。模擬戦とは言え、護衛機の存在を忘れて貰っては困る!」
金色に右目を輝かせたトヲイが圧倒的な機動力で王零と桃香の間に割って入ると、すかさず高分子レーザーを桃香のR−01に命中させる。ブースト空戦スタビライザーのもたらす圧倒的な攻撃である。
ポーン、ポーンと命中判定を示すアラームが鳴り響きコックピットの内部が警告ランプの赤い光で染まる。
「やってくれるじゃないですか!」
お返しとばかりに8連装ロケットを放つ桃香。盛大な爆煙が王零とトヲイの機体の周囲に広がる。しかし、見た目の派手さにも関わらずダメージを与えることが出来ていなかった。逆に王零の放った20mmバルカンの火線が桃香を捉える。
「ドロームの秘密兵器ですか‥‥あの機動力で攻撃できるとはな」
プチノフの担当者はブースト空戦スタビライザーの性能に驚きの声を上げる。
「パイロットと機体への負担も相当であるようですが、味方とするならば頼もしいものだと思いますよ」
ブレアはバイパーを防御向けの機体と分析している節があった。
体勢を大きく崩した桃香のR−01に、遅れてやってきたみゆりが追い打ちをかけるようにホーミングミサイルG−01を叩き込む。ここで、桃香の被弾ダメージが規定値を超え戦線離脱となる。
「えーーちょっと早すぎなのではない‥‥ですか?」
被撃墜を示すメッセージを眺め、桃香が無念の言葉を漏す。
「長距離射撃における命中精度のよさがウリのようだが‥‥そんなもので決着がつくのは面白くないな」
太陽の方向を意識し、機を窺うのは須佐 武流(
ga1461)のG−43である。
しかし、EF−006の目はすでに、G−43の方角を探知していた。
戦いは尚も続いている。期待されたソードのXN−01によるEF−006への長距離射撃は、啓吾の執拗なマークに遭い完全に封じられていた。
回避性能で上回るXN−01であったが速度で勝るS−01が着実に距離を詰めてきている。
「ふふふ‥‥遠くから狙い撃とうたってそうはいきませんよ」
「攻撃できないのはつらいな‥‥」
鋭い目つきとなったソードはハイマニューバで巻き返しを図る。
「お前の動きは見きった!」
ハイマニューバの使用に合わせて啓吾がブレス・ノウを加えたレーザーを放つ。
すでにダメージを重ねていたソードの機体も規定のダメージを超え、戦線を離脱することになる。
「意外だな。攻守が逆転したぞ」
「攻撃側が格闘戦に持ち込めなかったところが誤算だったようですね」
戦いの推移を見守るブレア達。
ポーン! ポーン! 武流の機体に被弾のアラームが鳴り響く。
EF−006の放ったスナイパーライフルの弾丸が命中したのだ。
「なにっ!」
奇襲を試みようとしていた武流の動きは探知されていた。
仮にIRSTが無くとも周囲に注意を払っている集団に対して、単独で気づかれずに近づく事は困難な事であり、成功させるには敵の隙を作りだすために僚機との綿密な連携が必要であったのかもしれない。
「桃香さんがやられちゃいました! でも、あたしはまだ戦えます!」
さつきがお陽さまの様な声でいうと、UK−10AAMミサイルを放つ。ミサイルはライフルを放った直後のEF−006を捉え体勢を崩させる事に成功する。
「きゃああっ!」
刹那、被弾するさつき。タッチの差で放たれたトヲイのホーミングミサイルである。
EF−006の一瞬の隙に、別方向から飛来したUK−10AAM再度命中する。
「この程度で音を上げるわけは無いよな!」
全身を金色のオーラで輝かせた武流が一気に距離を詰めて攻勢に出る。
「さて‥‥瞳は開きそうですか〜?」
ラルスの放った弾丸がEF−006にさらにダメージを刻む。
攻撃チームは残された攻撃のソースの全てをEF−006に集中させてくる。
何とか体勢を立て直した王零は二度目のマイクロブーストを発動させ、戦域を離れる。
「‥‥逃げ切ったか?」
息を荒げながら呟く王零。二度目のマイクロブーストは王零の肉体にも負担をかけており、三度目の使用が出来るかどうかは微妙な状況だ。
「よぉ! そろそろ親鳥の真似をして空を飛ぶ仕草ぐらいはするようになったか?」
武流の通信。力が残っていたG−43がブーストで一気に距離を詰めてきたのだ。
「THE ENDだ!」
「させません!」
武流がUK−10AAMを放った刹那、ブースト加速でみゆりのR−01が射線に割りこんでくる。
被弾するみゆりの機体。
「我はまだまだいけるぞ!」
王零は見え透いたやせ我慢を口にすると、武流のG−43にミサイルを放つ。
「俺も限界を超えてみせるぜ!」
刹那、ありえない機動を見せミサイルを躱す武流。しかし、直後に機体のコントロールを失う。翼面超伝導流体摩擦装置の副作用であった。
「ここまでみたいですね」
エメラルドグリーンに変じた瞳にモニターのG−43の機影が映っていた。間もなくアグレッシヴ・ファングの力を加えたガドリングがG−43に命中する事になる。
そして、G−43のコックピットに被撃墜を表す赤ランプが点灯するのだった。
EF−006のダメージは撃墜寸前ではあったが、結果は攻撃チームの被撃墜4となり模擬戦は終了する。
●射撃試験ついて
ここで時間を遡る。
「ジャミングにECCMか‥‥それはちょっと難しいな」
啓吾とみゆりのジャミング環境でのテストにブレアが難しい顔をする。
ジャミングは、電波を妨害することで敵の探知能力を低下させる目的で使われる。
P3Cの能力を使用すればレーダー等に制限を加えることも不可能ではないが、予想されている空戦の範囲が半径20km程度と狭いこともあり、有用なデータを得ることも難しい。
その他にもシーカーを備えた対レーダーミサイル開発等の事情もあり‥‥。
「あなたたちとの打ち合わせの時間を取るべきでした‥‥、申し訳ない」
そう言ってブレアは頭を下げる。こうしてジャミング環境での試験は、見送られる事になる。
尚、試験の方では、命中性能そのものには大きな違いは生じないが、IRSTによって敵探知のタイミングが早まり、結果として命中精度が向上するという結果になる。
●試験を終えて
再び元の時間に戻し、模擬空戦を終えた9機のKVがクランウェル基地に着陸する。
王零に疲労している様子が見られる以外は、誰にも身体の異常は見られない。
「やれやれ、してやられてしまいまいたね‥‥。戦いは適材適所といったところなのでしょう」
ソードがのんびりとした口調で感想を述べる。
「今回の依頼には、休暇も付いてくるのですよね?」
桃香が言うと、
「それじゃ、メシにでもしようかね?」
と武流はそう言うと、みゆりと桃香の2人を食事に誘う。
基地の食堂では、ラルスが早速、お茶を入れ始めていた。手慣れた様子で注がれた紅茶は機械の作るそれよりもずっと良い香りで、周囲にも幸せな香りを漂わせる。
「わー上手なのです!」
さつきも素直そのお茶の味に感心する。
「確かに、自動で淹れたものとは比べものにはならんな」
適切な温度とタイミングで淹れられたその良い香りはぽかぽかとした暖かさも手伝って王零の身体を癒す。
ちなみに基地に置いてあるココアやコーヒー、紅茶は自由に飲めるようにはなっており、機械で自動に作成できる。しかし、機械で淹れたそれらは同じ材料であるにもかかわらず、ラルスの淹れるものの味には遠く及ばない。
暫く間を開けて、ブレアをはじめとする評価チームが搭乗するP3Cが基地に到着しする。
そして、少しの休憩の後に、テスト評価の為の会議が開始される。
そこでは実際に操作した王零に質問が集中したが、みゆり達のフォローの力もあり、問題なく評価の為の情報が伝えられる。
評価の概要はIRSTによる命中精度の向上は敵を先に発見できた場合の優位を活かせるかどうか? にかかっているとされており、パイロットの行動内容や技量により、効果に大きな違いを生じる可能性が高いものであると結論づけられていた。
●ネーミング
個人的には『テンペスト』に一票を、バグアとの戦いに嵐を巻き起こして欲しいからかな? ‥‥次点としてワイバーンもいいかな?」
トヲイが言う。能力者の出現により改善しつつある戦いも、大局でみれば劣勢である事には違いない。
「俺は『ワイバーン』だな、一番強そうだからだ」
と、武流が続けると、白板に書かれたワイバーンの文字の下に『ー』の線が書き加えられる。
意外な事かもしれないが、基地のなかの会議室の打ち合わせでコードネームが決められようとしていた。
「私は『エアリアル』を推します。束縛を嫌う風の精霊なら、どんな敵からも逃れられるのではないでしょうか?」
と、桃香の言葉。確かに逃げ切る事が重要な時も多い。
「そうですね、私はRAFの最高速機に相応しい『テンペスト』を推薦しますね」
みゆりはそう言うと、素敵な機体となりますようにと祈りを込める。
何かが決まるときに特別な儀式が必要ではない、多少不格好であっても、結論に至る課程が分かりやすければ良いとブレアは思っていた。
「我は『ワイバーン』が良いと思う、一番強そうだしな」
と、王零。武流と同じく強さが重要ち言う意見である。
「シェークスピアの戯曲の戯曲とかつての名機のダブルネーミングだから相応しいのではないかと」
啓吾が推すのは『テンペスト』である。歴史や伝統を重んじることも重要だ。
「風を従え人を護る、強き優しさに願い込め、『エアリアル』」
ラルスが機体への願いを込めて言う。願いや祈りの実現は口に出すことから始まる。
「私のイメージに近い気がする『ワイバーン』に一票です」
と、さつき。
「エアリアルを推します。とりあえずお茶のも‥‥」
最後にソードが言う。直感やイメージも重要な動機である。
エアリアル×3票、テンペスト×3票、ワイバーン×3票
すべて同数票の結果にブレアはしばらく頭を抱え、そして言った。
「機体のコードネームだが、『ワイバーン』とすることにします」
最終的にはトヲイの次点発言をが一押しを加えた形となる。
こうして、ブレアは少しやつれた顔でそう言うと、『ワイバーン』と書いて試作機の提出用データを仕上げる。
「中将には是非、正式採用に向けてご尽力いただきたいですねえ」
「私も、是非こいつが世界中を飛ぶ姿を見たい物だが‥‥ここから先は祈るしかないな」
そう声を掛ける啓吾にブレアは応えるのだった。
ラルスの提案により、エンジンのチェックに来ていたアグネスを交えて、試作機をバックに全員での記念撮影が行われる。
空を見上げるとどこまでも続くような淡い青が続いていた。