●リプレイ本文
「本職のファイターとして、正しい姿を人々に伝えたい‥‥と思った。ファイターの正しい姿を観客に伝えることが目的だったのだが」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は後に語る。
●ファイターとは
「神崎・リサ・ヴァイス(
ga5887)です。宜しくお願いしますわ♪ 今日はみなさまに‥‥?」
『わーわー☆ キャー!!』
客席に歓声が沸く。
「ウマウマーン! ヒヒーーンッ」
怪人戦闘員に扮した馬人間が観客席から舞台への花道をひた走る。だが、二足歩行。脇には子供の人形を抱えている。人形の外観はスカイブルーの上着にペールイエローの朝顔帽。パッチリとした瞳が可愛い日本製の逸品である。
「やられ役はすでに映画で経験済み! 俺に恐れるものはない!」
リュウセイ(
ga8181)は自信たっぷりの態度で言い放つと、段取りよく、予め舞台に用意されていた人形の中に運んできたそれを加える。人形には『ひとじち』とかかれたゼッケンが付けられており、とてもわかりやすい。中には白熊の人形まで混じっているようだ。
ステージの隅で、遊馬 琉生(
ga8257)がウインクすると親指を立てる。花道といいなかなかの段取りじょうずだ。
良い汗をかいたと、爽やかに振り返る馬顔のリュウセイにリサの鋭い声が響く。
「それじゃ、遠慮はいらないわね!」
「と‥‥まて! それは」
問答無用でリサの髪は赤く染まり腕は金色に輝き、繰り出される一撃は電光石火のごとく。
「くらえ! 必殺・流し斬り!」
「ぐぼあっ!」
段取りが違うじゃないかと内心思いながら、リュウセイは膝を付く。そして、腹部に染み渡る痛みを必死にがまんする。
そんな様子を不敵な笑みで満足げに眺めるリサが勝ち誇ったように言う。
「安心なさい! みねうちです、ふふふっ」
突然、舞台が暗転し、スポットライトの光が灯る。
光の中には身体に対して大きめの白衣を纏い、巧みに身体の線をを秘匿したスレンダーな少女。
巨大なハリセンを持った要 雪路(
ga6984)が堂々胸を張って立っていた。
「ぬぅふははははぁ、ウチらはバグアっちゅーねん! 愚かで脆弱な地球人類よ、ビビって、チビってまうがええねん!」
そう言うと雪路はハリセンの先を観客席に向け、左右に弧を描く要領で往復させる。次に何が起こるのか? 高まる期待に会場が静寂に包まれる。一呼吸の沈黙の後に、ビシッ! 空を切る音を立てリサにハリセンを向けると、
「そこの黒いノースリーブの娘! ちょっとぐらいナイスバディだからって調子に乗るな! 今、倒したリュウセイは我々の中でも一番の小者! 勘違いしてもらっては困る!」
雪路はアンテナのよう立ったアホ毛をコクコクと動かしながら遠い目をすると間もなく、コンチクショウな表情を浮かべ腹を押さえているリュウセイに向かって叫ぶ!
「羨ましくなんてないもん! ゆけっ、ウチらが科学力によって生み出されたキメラ、ウマウマン!!」
「ウマウマーン!!」
リュウセイは雄叫びを上げるもおなかのダメージが残っている。
「む、見るからに怪しいヤツ。よーしそのままだ、そして手を上に上げてゆっくりこちらを向くんだ‥‥」
前振りも無くリュウセイの背後に現れたのは兵隊役の鈴葉・シロウ(
ga4772)である。
そして、おもちゃのアサルトライフルを構えゆっくりと近づく。
「ウマウマーン!!」
ようやくダメージから回復したリュウセイがむくりと立ち上がる。そして潤んだ瞳でシロウを見る。
「げ、げぇ−キメラ!!」
おもちゃのアサルトライフルが派手な音と光を響かせる。
「弾が届いていない!? 駄目だ、全く歯が立たない!、あれがフォースフォールド?!」
赤い照明がリュセイを照らし、弾丸の弾ける音がスピーカーから流れる。
さり気なく、フォースフィールドが全てのバグアの兵器に搭載され、バグアのみが持つバリアー技術であり、対象を完全に破壊しない限り、どんなにダメージを与えても消えることはないとの内容が解説される。
リュウセイはゆっくりした足取りでシロウに近づく。
「くっ来るな! 俺、この勤務が明けたら、あの娘に告白するんだ!!」
自分でフラグを立てながら逃走を図ろうとするシロウ! 大ピンチ。
照明が再び暗転しスポットライト。明かりの中には阿木・慧慈(
ga8366)が手を振って現れる。
兵士に扮した慧慈の腕にはバズーカ砲のような筒状のものが抱えられている。
「相棒! 待たせたな! 今日、支給されたばかりのSES搭載銃だ!」
そう言うと慧慈はリュウセイに向かってそれを放つ!
『バシューン!!』
赤い壁の照明効果がリュウセイの前に現れる。威力を増したそれは力づくで赤い壁を破ったように見える。リュウセイが反動を受けるリアクションで、後方にジャンプし、舞台から消えてゆく。
1996年に実用化されたSES機関の力は新たな可能性を人類に与えた。まるでエンチャントのようなその力はバグアへの切り札となり、一時は地球上からバグアを一掃するかの勢いでバグアを打ち破ってゆく‥‥ように見えた。そして、地球上からバグアを駆逐できる、人類の勝利まであと僅かだと思われた1999年。
「よーし! 慧慈! あいつもやっつけてしまえ!」
「イエッサー! えいっ!」
シロウの声に応えるように慧慈が雪路に向けてそれを放つ。
あと少しで兵士達が子供達(人形)を救助できそうだ! 会場が期待がふくらむ。
しかし、雪路はひらりとそれを避けるとハリセンで肩を叩きながら、
「ぬふふっ、そんな攻撃、無駄無理無謀!! その程度の攻撃じゃあ、ウチらの科学力の結晶『フォースフィールド』はやぶれんのやー」
「んなアホなっ!? 我々の武器が効かないのか?! 壁っ壁なのか?!」
怯えておもちゃの銃を放つシロウにハリセンを振り下ろす雪路。
「女の子に壁とか言うなーー!!」
『シュパコーン』
癒されることのない悲痛な叫び、乙女の怒りを乗せて、乾いた音が会場に響いた。
「シローーー!!」
慧慈の叫び。
「お前もだ!」
そして、2回目の音が響くと慧慈の声もとぎれる。
尚もハリセンを振り下ろそうとする雪路に、通常状態のリサが駆け寄ると懇願するように叫ぶ。
「もうやめて! 2人の体力はとっくに尽きているわ!」
恐怖の大王が降ってくるイメージソングが流れ、陰鬱で重厚感溢れる音響が劇場を支配する。照明は限りなく低く抑えられ闇が劇場を支配した。ステージの逆方向から声が響く。スポットライトが灯ると声の男の動きをトレースする。
「てこずらせたな」
マフィアのような風貌のその男は、自信に満ちた表情で、観客にウインクを投げ、そして、スポットを浴びることが当然とばかりにコートをはためかせながら、ゆっくりとステージを目指して歩む。
「ふっ‥‥この子も。連れて帰ればいい兵士になりそうだ」
そう言うと、こんな事もあろうかと席に座らせてあった子供の人形を脇に抱え、軽々とステージに登る。
ビッグBOSSのUNKNOWN(
ga4276)の登場である。
1999年。‥‥それまでに無かった数のバグア軍が侵攻を開始しました。スピーカーが神妙な声で語ると巨大な赤い月の模型にスポットライトが当たる。2年前の2006年10月9日、人類科学象徴であり最重要の砦、メトロポリタンXが陥落しました。誰もがこのとき人類の希望が潰えたと思いました。
「ふっ‥‥脆弱な人類諸君。今日は能力者とやらがが来るそうだ‥‥返り討ちにしよう。我ら、バグアがな」
派手な音楽が響き、長身で割と豊満な黒髪の女性が不敵な笑みを浮かべて現れる。
「私達が来たからには好きにはさせないわよ」
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行」
緋室 神音(
ga3576)は口早に呟くと、全身から虹色の光を発生させる。背中に一対の羽が幻のように浮かび上がり‥‥その派手な変身に観客の注目が一斉に集まる。
「ソニックブーム」
刹那、高速で飛来した衝撃波が雪路の足下で弾け木片を飛び散らせる。
ゆっくりと振り向いた神音の黄金の瞳が雪路を睨む。
2006年10月10日エミタを人体に埋め込む技術が発表される。その技術はSESと連動し人間の能力を飛躍的に向上させるものだった。『能力者』の誕生である。世界各地でエミタを肉体に埋め込みバグアに戦いを挑む者が現れたのだ。ちょうどその頃フロリダ半島からラストホープ島がゆっくりと出発する。そして人類反攻の礎として、人類最後の希望を乗せて。
「んなアホなっ!? フォースフィールドがっ!?」
雪路がアホ毛をプルプルと震わせながら、仕込んであったケチャップを額から流し悪役っぽく言うと膝を地面に突く。
「‥‥待たせたな、星の悪魔ども」
そう言うとホアキンは複雑な表情を浮かべ、やや迷いを見せながらも、颯爽とした身のこなしで剣をぬく。
「ふっ‥‥ホアキンか? お前との付き合いも長いな。だが、だ」
そう言葉を投げた先に銃口を向けるUNKNOWN。
「またお前か?」
呆れたような表情を浮かべホアキンは肩を竦める。が、すぐにピリッとした大人の表情に戻る。そして、持ち上げた剣の刃面を指先ですーっとなぞると、高らかに唱える。
「パラダイム・シフト!!」
手袋に覆われた左手の甲に変化を感じながら剣を構えると、目にもとまらぬ速さでバク宙! 前宙、側宙とファンサービスといわんばかりの豪華な身のこなしでUNKNOWNとの距離を詰める。先手必勝のスキルであった。
「星の悪魔を燃やし尽くせ、紅蓮衝撃っ!」
続いて、必殺の一撃が繰り出される、迫り来る剣を銃身で受け流し、後方にひらりと跳躍し間合いを取る。
‥‥僅かな間、静寂の後に、膝を突くUNKNOWN。
ムードを壊さない程度に、紅蓮衝撃と先手必勝の特殊能力の解説が行われ、劇は続く。
「私は飽きた」
UNKNOWNはそう言うとひらりと後方にジャンプする。そして、不思議なポーズのまま固まっている雪路を両手で抱え上げるようとする。
次の瞬間、『はっ』と我に返った雪路が大きなお世話や! と言わんばかりにハリセンの一撃をUNKNOWNの顔面に決める。クリーンヒットであった。
「‥‥今日の所は見逃してやろう」
そう言うとUNKNOWNはダンディさを維持しつつ、颯爽と花道を出口に向かって駆ける。顔面の痛みを我慢しながらもイメージを崩さない姿はダンディの鏡である。
「あ、まってや! あれっ! ふぎゅっ!? う、うにゅうぅぅぅ‥‥」
着用していた白衣の裾を踏み盛大に前のめりに倒れる雪路。こちらは胸を押さえながら涙目で去るのだった。
「こ、これで勝ったとおもうなよーーー!!」
雪路の声が遠く響く。
舞台の照明が戻り、劇場は明るさを取りもどす。
下がった緞帳の前に出演者一同が並ぶ。
「能力者とはエミタと呼ばれるパーツ身体の一部とすることで、超人的な力を発揮できる人間の事です。だからといって能力者の力だけでバグアとの戦いが全て解決できる訳ではありません‥‥。バグアのせいで悲しい思いをすることを無くすために、皆さんの力を貸して欲しい! 少しだけもいいから! 私たち貴方たちと同じ人間です。できることにも限界があることを知っていて欲しい」
列の一歩前に出た、ジーン・ロスヴァイセ(
ga4903)がそう語ると、数秒の沈黙の後、拍手が起こった。
頭を下げ退場する一行の背中は、盛大な拍手で見送られ、『ファイターとは』の劇は終了するのだった。
劇が終わるのを見届けると、ループ・ザ・ループ(
ga8729)は静かに客席を立ち帰路につく。
●ふれあい広場
用意されたふれあい広場の会場は、劇場に併設された大ホールである。
ジーンが提案し、リーフがチケットを販売して費用から捻出して手配したらしい。
用意されたパーティ形式の交流会はそれなりに良いものであり、どうやら能力者のために‥‥との寄付もあったらしい。そんな様子にジーンも目を細める。
スーツ姿に戻った慧慈が、にこやかに、そして、紳士的な態度で質問に答えていく。年上の婦人から投げられる微妙な質問にも、地を出さずに、笑顔で爽やかに、そして礼儀正しく応えてゆく。
「他に、質問などはありますか?」
疲れてきた慧慈がそう言うと、『はい!』と、一人の少年が手を挙げる。
「結局『ファイター』ってなんだったのですか?」
確かに、『能力者』について、『スキル』については語られていたが、肝心の『何故、ファイターの道を選んだのか?』や『ファイターならではの仕事』といった観点が少なく、補足が必要であった。
あごに手をあてて、少し考えた慧慈は本職のファイターが語るのが適切だろうと判断し、ホアキンに回答を求める。
「ファイターは、能力者の中でも先頭に立って敵と戦うクラスだ。正直言って俺も怖いけど、それでも大切な役割だ。誰かを背中に護るためには、誰かが勇気を奮い起こして前に立たなきゃならない。正体不明の敵とも戦えるよう、様々な武器を使いこなす‥‥その努力をしているんだよ」
ホアキンはそう言うと、目を細くして微笑んだ。
能力者を交えて交流する会場の雰囲気は明るかった。
少なくともここでは能力者のことを嫌う者などは居なかった。
派手な変身を見せた神音の周りには、専門用語の解説などを考えていた本人の意図とは異なり、年頃の女性が集まり、浮いた話題に花が咲いている。
「私は全ての人間の女性と子供の味方です」
覚醒し、練力が続く限りずっとふわもこターン。ふわふわ、もこもこ、キューティクル! と豪語するシロウの周りには老若男女を問わず様々な人があつまり談笑していた。
そんな空気の中を琉生は疑問を持って見つめていた。
(「少なくとも、俺は故郷であまり人間扱いされた覚えは無かった」)
能力者がこの世に出てから19ヶ月。
理解できない力への畏怖や嫉妬の感情を持つものも確かにいるだろう。
地域によってはそうした傾向が強い事もあるかも知れない。
しかし、自ら志願し、エミタを受け入れ異星の侵略者に立ち向かう能力者が蔑まれる必要など無い筈だ。
(「ヒーローなんて、何処にも居ない。だから、人はヒーローを求めるのかもしれないけど」)
琉生は静かにそう思う。
「能力者になることは、人間を辞めると言うことだ」
「だったら、人間って何かしら?」
誰かが言った。
その答えは琉生の胸の中にしか無い。
「‥‥そうだな、能力者は決してヒーローじゃないんだ」
ホアキンが琉生の側に近づくと、静かにそう言った。
楽しい雰囲気の中、リュウセイも嘗ての東京を思い出してしまう。
そして、悲しい表情を他人に見せまいとマスクを被るのだった。
能力者は普通の人間と同じように、泣きもするし、笑いもする。恋や失恋もするのだ。
目の前で楽しそうに過ごす人たちは能力者を同じ人間として接しているようだった。