●リプレイ本文
●集合
「フム‥‥ハイエラさんの依頼に参加するのは何ヶ月ぶりか」
疲れすぎない程度にがんばろうと、翠の肥満(
ga2348)は言う。服装はタンクトップにチノパン、デザートコンバットブーツでミリタリーな雰囲気を醸し出している。そして、その隣には鍛え上げられた肉体を持つ男が立っている。
(「作業自体がトレーニングになる上、普段鍛えている自分の体力が直接活かせる仕事ならばやりがいもある」)
増田 大五郎(
ga6752)は思う。作り込まれた肉体は重い物を運ぶなら任せよという威容に満ちている。
「人類の記録を大切に保管するために喜んで手助けさせていただきます」
木花咲耶(
ga5139)は微笑むように言う。彼女の着衣は日本の伝統的な袴であり、動きやすそうだ。
翠の肥満や大五郎の様子を一瞥。そして、メンバーの着衣を確認すると、瓜生 巴(
ga5119)はリーフに鋭い視線投げかける。
「‥‥まぁいいでしょう。分類側で薄着すぎる人には、館から白衣かなにかを都合してもらいましょう。手袋も。汗がつくとカビのもと。ただでさえ海上で湿気が多いんだから!」
「まぁ、とりあえず古い本も多いかと思うので、扱いには注意したほうが良さそうです」
メガネがよく似合う奉丈・遮那(
ga0352)も割と細かいところを考えてくれている。
‥‥もっともである。
的確なツッコミに大粒の汗を流しながらもリーフは冷静を装う。彼女は聞かれるまで忘れている事が多いのだ。そして、倉庫の鍵をジャラジャラと開けると、照明を灯し能力者の一行に向き直った。
「これが今回のミッションです」
倉庫の中の荷受け場にはコンテナが並び、中には表面の痛んだジュラルミン製のケースがある。どうやら荷受けと内容確認だけ行われている模様。
そんな沢山のケースを興味津々といった表情で眺めているのはステラ・レインウォータ(
ga6643)である。物静かな性格の彼女であったが未知の知識に対する好奇心は相当なもののようだ。
「そうですね、私も昔から本の虫ってよく言われました」
ジャージにこだわりの水上・未早(
ga0049)も無骨なケースの観察をしている、よく見るとケースには何らかID番号が振られており、運び先は既に決められているようだった。
「‥‥この季節、黒い羽を持った平らな‥‥Gがでるかもしれませんが」
薄暗い内部の様子に、アリス(
ga1649)が静かな調子で、懸念を述べる。
アリスの指摘にリーフは多分大丈夫だと応えるが、確信までは持てていなかった。
「‥‥妙なことは言わないでおこう。うん」
まるで、前からそこに居たかのように、鳳 つばき(
ga7830)は指を突き合わせながら上目遣いで呟く。実際、誰よりも早く、そう集合時間よりも早く到着して待ち受けていたらしい。
「こうして多くの本に直に触れられる機会なんて滅多に無い事ですし、喜んでお仕事に掛からせて頂きますね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)は豊かな胸を支えるように腕を組むと不敵な笑みを浮かべる。
リーフは何故か冷や汗を流しながら頷き返す。そして、作業の段取りをメンバーに説明しようとしたその時。
「ケースを運び込む搬入班と搬入されたケースを開封・分類する分類班に分かれま〜す」
きっぱりと言うつばきが急にテキパキとした口調でメンバーの意思確認を行う。
「体力には自信があるからね。任せて」
「重いものの移動を受け持つ」
にこにこした表情で言う遊馬 琉生(
ga8257)に大五郎も続く。
「そうね、書籍搬入で少し汗を流そうかな」
胸部が強調された色々な意味でショッキングな衣装をを纏ったナティス・レーヴェル(
ga8800)も言う。
つばきの言葉に一気に分担が纏ってゆく。
次々と表明される役割の希望を慌ただしくメモするリーフに、咲耶が助け船をだす。
「それでは、纏めさせて頂きますと、搬入班は、わたくしと『瓜生様・増田様・シェスチ様・遊馬様・阿木様・和泉野様・ナティス様、』計8名ですね」
「そ、そうですね。あとの、『水上様・奉丈様・メディスン様・アリス様・翠の肥満様・瓜生様・鳳様』の7名が開梱作業って事でよろしいですね」
なんとか整理の着いたリーフがそう言うと、
「ああ、‥‥わかった」
と、和泉野・カズキ(
ga8382)も首を縦に振って同意する。
備品の台車は経が20cm程の車輪がついており、あまり丁寧にには扱われていないようだった。新しく見える施設にも関わらず細かいところは驚くほどいい加減らしい。
そんな様子を憂いたつばきが各台車の状態を手早く確認する。間もなく内1台の車輪が痛んでおり調子が極めて悪いことが分かる。無理に使えば途中で完全に動かなくなったかもしれない。
「壊れた台車は使用すべきではありませんね」
阿木・慧慈(
ga8366)が冷静な調子で言う。事故などの不慮の事態を懸念しての事だ。
「クジみたいでいいんじゃない?」
軽い調子で楽しそうに呟くのはナティスである。彼女にとっては些細なアクシデントなど取るに足らないものなのかもしれない。
「ちょっと待って!」
つばきが性急に結論を出そうとする話の流れにストップを掛ける。
一瞬、切なげな表情を見せた彼女が近くにあった工具で手早く応急措置を施すと、斜めにしか進めない事を除けば普通の台車と同様に使えるようになる。使えないと断じるよりも、どうしたら役立てるか? と考える事は重要だ。
「これでだいじょうぶかな?」
分量から見積もると台車5台なら40回往復、4台ならば50往復ぐらいで運び込みは完了できそうであり、どちらがお得であるかは明白であった。
「そうですね、台数が多い方が作業がはかどりそうですね」
修理という選択肢があったと慧慈は感心すると、全ての台車を使うことに同意する。
40回×10分で約6〜7時間ぐらいで搬入は終えられそうだ。割とギリギリである。
「そうだ‥‥確か救急セットに湿布があったはずだから‥‥怪我したり、筋肉痛とかになった人は言ってね」
シェスチ(
ga7729)がさり気なく申し出ると、ご配慮に痛み入りますと、リーフが礼を述べる。
ちなみに今回、事故が発生すると責任は依頼主である彼女が被る事になってたらしい。
●搬入
カズキの要請で作業用の軍手が搬入班の全員に配布された。意外に忘れがちだが、手で触れて物を運ぶときに滑り止め付きの手袋は必須である。気づいてくれたカズキにも感謝である。
「まずは、持ち上げるときは身体を痛めないように注意しましょう、重量があり重いケースはみんなで。なるべく身の丈の近い方と一緒に作業‥‥」
咲耶は自らにも言い聞かせるように注意事項を反芻する。それらは過酷な任務を控えた仲間達への思いやりであるかのようでもあった。
「はははっ! ややこしいことは任せた! だが身体を使うことなら任せておけ」
柑橘類のような芳香を漂わせながら、大五郎があっさりと、かなり重そうなケースを持ち上げると静かに台車の上に下ろす。そして、今度は手頃なケースを持って書庫へと歩き始めるのだった。
「おっと、無理して腰痛めるなよ? 協力してやろうぜ」
そう申し出る慧慈に、1回でコツを覚えた大五郎は台車なしでも大丈夫だと言う。
「運び先はわかってるのか?」
その問いに首を横に振る大五郎、慧慈が運び先を伝えると『なるほど』と納得した様子で再び歩き始める。『こんな事もあろうかと書庫の配置図とケースの内容照らし合わせて置いたのだ』と慧慈は後に語る。
台車と行き先を関連づけた方が効率的ではないかと思っていた琉生も紐づけられるのは荷と行き先であるべきだと気づく。そして、慧慈の方針にあわせるのであった。
「これは重そうだから、手伝って貰える?」
言うのは、ナティスである、実は力持ちな彼女ではあったが作業には慎重を期している。
「ああ‥‥」
と頷いたカズキが覚醒し、やすやすとケースを台車に載せる。
「ありがとう」
と、ナティスは応え、斜めに進む台車を斜めに向けると、軽快な足取りで、まっすぐに書庫に向かって進んでゆく。
作業自体は覚醒の必要は無かったがポイントポイントで覚醒した能力者ならではの活躍があり、昼前には8割方の運び込みが完了していた。これは想定していたよりも速い。
戦闘能力にばかり目立つ能力者だが、人類が自ら獲得した新たな力と見れば違った可能性も見えてくるようだ。覚醒するだけで身体能力が飛躍的に向上する意味は大きい。
●整理
「リストに照らし合わせながら、分類すればいいのですよね」
未早はそう言うと、手早く開梱を開始する。刹那、表情に驚きの色が広がってゆく。クラリッサとステラそんな未早の様子に疑問を感じリストをのぞき込む。
「えぇっ、なんでこんな所にっ」
思わず声をあげてしまうステラ。其処に書かれていたのは貴重な古書や歴史的に重要な文献資料ばかりであった。
この図書館っていったい何? これじゃまるでノアの‥‥と疑問を抱くクラリッサ、ステラ、未早の3人。
フリーズしている3人を尻目に、次々と運び込まれるケースの置き場所をテキパキと指示する巴のお陰で着実に搬入は進んでゆく。だが、分類は滞りがちであった。
「これは‥‥真面目な本。これも‥‥やっぱり真面目な本。うーむ、えっちぃ本の1冊ぐらいはないものか」
真顔で呟きながらの作業する翠の肥満。視線は台車を押して姿を見せるナティスの方をちらちらと向く。
当然の事であるが作業進捗が極めて悪い。
「医師免許はありませんから、本格的な治療はできませんけど」
あまりの進捗の遅さに巴が事務的な口調で言う。どうやらナティスへの熱っぽい視線を体調不良と勘違いしたらしい。
「ヒィィィッ!! 大丈夫であります!」
突然掛けられた言葉に驚いた翠の肥満が気を付けの姿勢で返答する。冷や汗をダラダラと流し。
「そうそう、汗は本に付けないように気を付けてくださいね!」
的確なツッコミを入れると、新たに持ち込まれたケースの確認に慌ただしく向かう巴。恐らく彼女が居なければ分類作業は大幅に時間が超過していただろう。後にリーフが感謝する事になる。
「ひとつ仕分けては父の為、ふたつ仕分けては母の為」
某河原で石を積む年でも無いだろうとツッコミが入りそうな台詞を口ずさみながら作業を進めるのはつばきである。やや疲れ気味の表情でそんなつばきを見る巴であったが、意外に早いつばきの仕事に気づきやや安堵の表情を見せる。
アリスもまた着実に作業を進めている。Gと呼称される大型昆虫の一種が現れなかったのが大きいのかもしれない。文献の内容に驚愕していたクラリッサ、ステラ、未早の3人であったが、
「ノンビリしてたら終わりません」
と、目の前の現実を前向きに語る未早の言葉に『はっ!』とクラリッサとステラの2人も我に返るのだった。
ラストホープでなら貴重な情報も手に入れることができる。そう前向きに考えれば良いのかも知れない。
作業が進むにつれて、書庫は国や地域の大きな項目の下のジャンルが分類されており、全てものが何処から来ていつ搬入されたのかの履歴を追える仕組みになっていることを見抜く巴。
「従来の蔵書に割り込ませるわけじゃないですよね‥‥つまり、返還を考えたやり方でやるんですよね」
巴が周到に用意された施設を不審に感じたのか? 腑に落ちない表情で言う。確かに寄贈元の図書館が再建されることがあれば必要になる事もあるだろう。
複雑な思いを胸に秘め、リーフは『その通りだと思います』という表情で、巴に頷き返す。それ以上は何も言えなかった。
人類がバグアに討ち滅ぼされかねない現在、果たして再建が‥‥。それが希望という言葉だけに終わらない事を祈るしかない現実。18年のバグアとの抗争は様々な場所に真っ暗な翳を作っていた。
●昼休み
図書館の近くの広場にはお昼時ということもあり、露店やサンドイッチを売り歩く者の姿も見られる。
休憩中に見つけた本を読みたいと思っていたステラであったが、モノがモノだけ無理だろうと言うことが予測された。
「どんな本が好きなんだ?」
木陰のベンチで自分の書物を広げるステラに話を振る慧慈。
「ああ、これですか」
と少し驚いた様子で読んでいた本のタイトルを見せるステラ。明日を信じて勉強を続けるステラの様子に、近くで休息していたアリスも大規模作戦で戦場となる故郷に思いを馳せ‥‥ため息をつくと瞼を閉じる。
「僕はこれだな」
そう言って『赤い3倍〜』と書かれた包み紙を見せる遮那。本じゃなくて近くで売られていた珍しい食べ物らしい。中身は本当に真っ赤でとても美味しそうな‥‥気がするサンドイッチ。
丁度そこへ、つばきに連れられたリーフがやってくる。
『れっつちゃれんじ』と、それにかぶりついた遮那の顔色がみるみる真っ青に変化してゆく。数秒後、覚醒なしに遮那の全身は赤く紅潮してゆくのであった。動かなくなった遮那の安否が気遣われる中、偶然に通りかかった巴が何気に遮那の脈を診る。
「ほっとけば治りますね‥‥能力者ですから」
その言葉に誰もが安心し納得するのだった。
一方、芝生であっさり味のサンドイッチにキリマンジャロコーヒーの香りを楽しみながら休んでいるのは、シェスチである。
クラリッサもまた、近くで起こる惨劇など気づかない事にして、に木陰で涼を取っている。
「え、えーと‥‥ナティス? サンドイッチでも、い、一緒に食べましょうか? いや、食べませんか?」
緊張気味に言う翠の肥満に特に用事もなかったナティスは2つ返事でOKを返す。
暫し2人で雑談を交えるが、休憩時間も程なくして終わり、
「お互い作業が大変だけれど、頑張りましょうね。ふふ‥‥」
ナティスはそう言うと持ち場に戻るのであった。
●平和な午後
午後からの作業は驚くべき程の段取りの良さで進行する。夕方を待たずして、搬入は完了し、空になったケースを倉庫に片付けて搬入班のミッションは終了する。間もなく分類班も本を所定の位置に並び置き終えミッションを完了するのであった。
予定より1時間ほど早く完了したため余裕をもって家路につく一行。
「ここには、過去の理想や理念が集まってくる。‥‥一日中居ても飽きないね。これからも、お邪魔させてもらおう」
琉生は言う。理想だけではなく実は人間の身勝手さも一緒に記録されている。負の行為からも学ばなければ行けないことを人類は知っているからだ。
午後の爽やかな風と共に何処からともなく笛の音が響く。咲耶が吹く龍笛であった。
「なんだか楽しかったなぁ‥‥。こんな仕事ばっかりだったらいいのになぁ」
と、痛む節々を押さえて呟くつばき。
「この疲れが明日の筋肉になる。目指す肉体に一歩近づける!」
大五郎の何処までも前向きな言葉が帰路につく一行の背中に響くのであった。