タイトル:【HD】異変する空マスター:加藤しょこら

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/21 00:13

●オープニング本文


●夏の終わり
「飛行型キメラが接近中です。住民のみなさまは速やかに建物の中に避難してください、繰り返します‥‥」
 パトロールカーが拡声器で警告を告げながら走る。
 千歳市の上空は真っ黒な雲に覆われ、雷鳴が響いている。
「キメラ警報だってさ、うん。今すぐ帰る‥‥あれ?」
 突然、携帯電話の電波が途切れた。電話に語りかけていた男が表示パネルを確認すると『圏外』の文字が表示されている。
 瞬間、空気を切り裂く音が響く。
 店じまいを急いでいた屋台がへしゃげ、火を噴いた。垂れ下がった電線が路面に落下して踊るように火花を散らす。
「なんだぁ?」
 瞬間、パトロールカーのフロンのガラスが粉々に砕け、中から2人の警官が飛び出る。
 キュン! キュゥィン!
 上空から不気味な音が響きその音はどんどん大きくなってくる。大人の拳ほどもある大きさの氷の塊が弾丸のように降り始めた。
「お巡りさん!」
「痛い! 誰か助けて!」
 ドンドンと扉を叩く音、普段はあり得ない音が街を支配し、尋常ではない悲鳴が飛び交った。
 不安定な天候は止まる所をしらず、続けて発生した4本の竜巻が街を破壊してゆく。
 昼間であるにも拘わらず、空は黒く、空には赤いオーロラが現れた。
 どこからとも無く琴を弾くような音が響いていた。
 その日千歳市周辺を襲った、過去に類を見ない異常気象は3時間以上にも及び大きな被害を及ぼした。

●自然の意図?
「これはひどいな」
 滑走路上の2機のハヤブサが穴だらけの無惨な姿を晒していた。
 バンカーへの避難が間に合わなかった機体はどれも大きな損害を受けていた。
「大自然の驚異‥‥か?」
 誰かが呟いた。
 街に接近してきていた飛行型のキメラはハーピーであったが、道路の上で叩きつぶされるように息絶えているものが多数発見される。
 千歳市西部支笏湖の湖岸に位置する気象研究所が一連の気候変動を気象レーダーで捉えており、データが公開されていた。データには雷雲の発生から、竜巻が発生する過程が克明に記録されていた。
「このデータは変です」
 千歳周辺の気象データとキメラ接近データを画面の上で重ねたリーフ・ハイエラが違和感を発見する。
 気象災害はまるでキメラを狙ったかのような動きを見せていたのだ。

●災害支援依頼
 北海道千歳市でこれまでに無い自然災害が発生しました。
 現地のUPC軍・有志のの民間人によって復旧作業が行われていますが、瓦礫の中から現れるキメラに難儀している状況です。
 負傷者の救出とキメラの掃討の同時進行が必要で能力者の皆様の力が必要な状況です。

●参加者一覧

ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
皆城 乙姫(gb0047
12歳・♀・ER
篠ノ頭 すず(gb0337
23歳・♀・SN
トリストラム(gb0815
27歳・♂・ER
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
ドリル(gb2538
23歳・♀・DG

●リプレイ本文

●ただ一生懸命に
「大丈夫ですか!? 今‥‥瓦礫をどかしますから、もう少しがんばって‥‥」
 シャーリィ・アッシュ(gb1884)が崩れた鉄骨を力強く持ち上げると、篠ノ頭 すず(gb0337)が素早い身のこなしで婦人を隙間から引きずり出す。
 一行はA班B班の4人ずつに分かれて救助作業を開始した。場所は商店街の中の大型ショッピングモールの周辺。
「痛っ!」
 突然、すずの淡く白銀に輝く髪は鷲掴みにされ引っ張られる。婦人の顔色は急速に血の気を失い蝋のように白く変化してゆく。
「生きたい‥‥助けて」
 救いを求める婦人の下半身は押しつぶされて原型を留めて居なかった。
「気を確かにもて、後のことは任せろ‥‥」
 すずがぼそぼそとした口調で言う。婦人はそんな強がりに一瞬、ほほ笑えみ‥‥髪を握ったまま息を引き取った。弛緩した腕が重力のなすがままになり垂れる。
 何が正解で何が間違いかは分からない。運命の徒を呪いたくなることもある。
 トリストラム(gb0815)が無言で首を横に振る。誰の目にもあらゆる救命処置が間に合わないことは明白だった。
「災害救助は直後の72時間が勝負と聞きます。‥‥一刻も早く助けなければ」
 シャーリィは胸で十字を切ると、名も知らぬ婦人に祈り込める。そして、自分に言い聞かせるように言った。
 まだ助かる命はある。気持ちを前に切り替えなければならない。
 すずは丁重に遺体を担架に乗せ胸の上で手を組ませると、小さな花を供える。
 今日、この土地で何人が犠牲になるのだろうか? その全貌はわからない。
 商店街へ非戦闘員が集まるのは常だった。家庭を預かる者は日々の糧を手に入れるため、或いは刹那の娯楽を求めて街へ繰り出す。勤労に従事する者よりも訪れる者の数が多い。商店街はそんな人の営みを支える台所だ。
「こんな瓦礫の下にまだ沢山の人達がいるかもしれないなんて‥‥」
 斜めに崩れているショッピングモールを柊 理(ga8731)は切ない表情を浮かべて見る。
 自力で脱出した人たちは、まだたくさんの人が残っていると口々に語った。
 折り重なった瓦礫は救助を阻み倒壊が進行する建物は新たな犠牲者を生みだしていた。
 救助された者の多くが一面の瓦礫を見て絶望の表情を浮かべる。ここは彼等・彼女等の街なのだ。
 助けることが出来なかった人たちが覆いのついた寝袋に収められて、1人づつ担架で運ばれてゆく。
 何人の死に立ち会えば、どれだけの人々の悲しみに立ち会えば、この悔しさは我慢出来るようになるのだろうか?
 刹那、瓦礫の中から2羽のハーピーが飛び出し、担架の運び手に襲いかかる。
「‥‥外さな、い」
 すずの放った矢が敵を捉える。矢はフォースフィルールドの赤い壁を突き破ると、真っ直ぐにハーピーの胸に突き刺さる。ハーピーはそのまま後方に押し飛ばされて動かなくなる。
「くそっ!」
 続いてトリスラムが衝撃波がもう一体を捉える。だが、一瞬の差でハーピーの足爪は男の背中を深々と切り裂いていた。男は倒れ地面に紅い染みが拡がってゆく。
「こんなの嫌だよ」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)が切ない表情を浮かべる。キメラから人を守ろうと強く思っていたヨグの眼前で次々と命が失われてゆく。
(「ただの1人でも、救える可能性が1%でもあるのならば‥‥そこに全てを懸けるのが自分の能力者としての矜持です」)
 充分な警戒を持って事に挑んでいたはずだ。トリストラムの顔に苦渋が浮かぶ。こんなはずではないはずだ。
 キメラ達は突然に現れては弱い者を狙うように襲い掛かった。
「がんばって、一人でも多く助けよう!」
 皆城 乙姫(gb0047)は気持ちを前に向け、折り重なった倒木へ向かって走る。
 犬が忙しなく倒木の周囲の匂いを嗅いでいるのだ。力仕事なら任せてくださいといった様子でドリル(gb2538)も乙姫の後ろに続く。
「右側の瓦礫の中にハーピー×1! 飛び出そうとしています」
 警告が飛ぶ。理の鋭い感覚が今まさに2人に襲いかからんとしていたキメラを発見した。
 瞬間、砂埃が舞い上がり、耳をつんざく奇声が周囲に響き渡る。
 姿を見せたハーピーは乙姫に向かって荒々しく羽ばたくと急速に距離を詰めようとする。
「させないよ!」
 理の警告にいち早く反応したドリルが、乙姫とハーピーの間に割り込み思い切り刀を振るう。
 惜しくも刃は掠るに留まるが、出鼻を挫かれたハーピーは体勢を崩し瓦礫に激突する。
「大丈夫か?」
 ヒューイ・焔(ga8434)が駆けつけると淡黄色を帯びた槍を土埃の舞う中のハーピーに向ける。
 見ると、ハーピーの身体は戦う前から傷ついており、弱っている様子。それでもヒューイに対して旺盛な敵意を露わにし、殺気に満ちた爪を輝かせている。
「私は問題ないよ、早くやっつけよう」
 乙姫が言った。瞬間、軽い動きでスパークマシンの電撃を飛ばす。それは命中と同時に閃光を発生させた。
 後には黒こげになったハーピーが瓦礫の中に横たわっていた。
 人は見かけによらない。ヒューイは乙姫の戦闘力に少し焦った。
 先ほど犬が折り重なった倒木の周囲の匂いを嗅いでは吼えつづけている。
「そこの倒木の中に何かありそうだよ」
 理が犬の動きに注意を促すと、よしきたとヒューイとドリルの2人が倒木を動かす。
 大抵の能力者は覚醒すれば一般人に比べて遙かに強力な腕力を得ることもできる。
 工作機械を持ち込めない場所でのデリケートな作業や、機材が不十分な悪条件下であっても身一つで活躍する事が可能だ。
「それはひょっとして避難用の壕じゃない?」
 倒木が移動されると崩れた砂袋で埋もれた地下へと続く入口が見えた。
「聞こえますか!? 今助けます!」
 耳を澄ますと微かに返事が聞こえた。やった、希望が見えてきた。壕は沢山あるはずだ。ヒューイが崩れた砂袋を取り除くと、中に閉じこめられた人達が出てくる。
「ありがとう! 助かりました」
「能力者様ありがとう!」
 ヒューイがショッピングモールの反対方向を見ると、鉄筋コンクリートの外壁が抉られて折れるように倒壊したホテルが数棟確認できた。
「こりゃ洒落になってねえぞ」

●絶望の中の希望
 ある者は食事に手をつける事も能わず、ある者はこんな時でも腹が空くのかと自らを責めた。
 昼食の炊き出しに集まった者の作り出す風景は人間の感情が作り出す絶望と希望が入り混じっていた。
「すず、ご飯たべる?」
「ああ、乙姫は大丈夫なのか?」
「私は一人でも多く助けたい! ただそれだけ」
 駅を中心とした地域は壊滅し北東方向への被害が大きい。自力で脱出できる者・軽度の要救助者への対応は完了し活動はより困難な者への対応へシフトしてゆく。
「どこから手をつければいいんだろ?」
 ヨグが呆然とした表情を浮かべる。頼まれる事をこなすだけではより大きな成果を上げることは難しい。
 3階建てのショッピングモールはマッハに近い強風に見舞われたと推測されていた。屋上部分が剥がされて吹き飛ばされ、側壁は抉り取られている。
「こんなビルまで崩れるなんて‥‥」
 外壁が抉られたことで、建物は自らの重みに耐えきれなくなった。
 しばらくの時間を置いてから被害をうけたビルは階を押しつぶすように倒壊が始まったらしい。
「これは下手に扱うと倒壊が進みかねんな」
 倒壊を察して脱出した者も多かったが、降雹の恐怖が人を危険な屋内に止まらせてしまった。
「瓦礫を取り除いたら‥‥隙間が潰れちゃうね」
 作業を行う人の列の中央に砂塵が上がりハーピーが姿を現す。瓦礫に埋もれていたのだ。
「貴様らバグアどもに助かった命を奪わせはしないっ!」
 シャーリィが竜の翼に力を込めると素晴らしい跳躍力を見せる。
 間一髪、シャーリィの一突きがハーピーを打ち滅ぼし、作業者の命を救った。
「今のところ、空に変わった様子はありませんね」
 トリストラムが空を見上げて言う。再度の降雹があれば今度は逃れる場所が無かったが、降雹から一昼夜が経った現在、天候は安定している。
 つぶれかけたショッピングモールの外壁からぽろぽろとコンクリート片が落ち、亀裂が大きくなっていることに理が気づく。
「ぼやぼやしていられません! でやるしかない!」
「私が、扉を切断します」
 くの字折れ曲がった従業員口をシャーリィがバスタードソードで切り開く。そこには僅かな隙間がみえた。陽光がコンクリートを白く照らし奥に続く影との強いコントラストを作り出す。小柄なものだけが中に入れそうだ。
「どうする?」
 乙姫が耳を澄ますと、助けを呼ぶ声が微かに聞こえた。
「私が行く! 迷ってる暇はない」
 こんな瓦礫の下で死にたい人などいないだろう。救い出してあげたい。乙姫はそんな気持ちを言葉に込める。
「これならば、しばらくは‥‥」
 ドリルとヨグが通路に丸太の支柱を立てる。ミシミシと不気味な音を立てているが、脱出の時間を稼げるかもしれない。確信はない。だが、できそうなことは全てやっておきたい。
 建物の自重による破壊の進行は残った壁面へ亀裂の伸びという形で顕在化していた。
「これを!」
 すずが乙姫に命綱をわたす。いつ潰れるかはわからない。本当なら危ない所には行かせたくない。
 シャーリィが、ヨグが、ドリルが必死に崩壊を食い止める。A班B班の全員がいつしか集まり、乙姫の帰還と救助の成功を祈って行動する。
「まだなのか?」
 トリストラムが亀裂の進行が危険な域に達していることに気づく。
「あっ!」
 1人‥‥2人、3人、5人の人たちが隙間からしゃがみ歩きで出てきた。救助成功だ。
「急げ!」
「まって! あと一人」
「もう限界だ!」
 天井を押さえているドラグーン達もアーマーを装着していても限界は近い。
 すずがロープを引っ張ると重傷者を抱えた乙姫が身体を引き摺るように出てきた。
 手を離すと支柱の丸太はメキメキと潰れてゆく。
 残された壁面も横倒しになり崩れるところは遂に無くなった。
 全員を助け出せたかどうかはわからない。いま、6名を救ったのはたしかな事実だ。
 土埃が舞い上がりハーピーがまたしても現れる。
「そう簡単、に‥‥仲間は、襲わせな…い」
 すずの矢は常に正確にハーピーを射貫いた。戦いとなれば常に能力者側が有利であった。
 ヒューイは民間人を庇ってでも護ろうと決めていた。
 僅かな人数で全てをカバーする事は至難であり、間違えて掘り出されたキメラは作業者の命を奪った。
 8人の能力者は再び4人ずつの班に分かれキメラの掃討に瓦礫の除去にと忙しく活動する。
 そして、そのかいがあってか、夕方前には新たなキメラによる被害は発生しなくなった。
 道路の瓦礫が片付けられ、車両の通行が可能になると、トリストラムはようやく動かせるようになったジーザリオを操る。
 モールの近くには2つの学校があり、広い敷地は避難所として機能している。
 校庭にはテントが並び、イロコイスと呼ばれる軍用ヘリが離発着を繰り返している。
 そのテントの中には理やすずが提供したものも含まれていた。
 不思議な噂が流れていた。市の東部の一部地域ではあらゆる物が凍結してるらしい。
 周囲は封鎖されており、だれも様子を見ることが出来ないらしい。
 消える寸前に4つの竜巻は合体しさらに巨大な渦をつくっていた。噂される地域は竜巻が消滅した地点。
 事実ならば竜巻との因果関係があるのだろうか?

 夜間も作業を行いたいというトリストラムやすずの申し出は、能率の問題で控えるように説得される。
 覚醒状態の維持に不可欠な練力の回復には安心できる場所での充分な時間の睡眠が必要だ。
 例外的なアイテムが希に存在する事もあるが、通常、きちんと休まないといけない。
 夜になると、急激に気温が下がり始めた。
 廃墟の中に被災を免れたアンテナが建っており、赤いランプを灯らせている。
 西風が吹くと不思議な音色が聞こえた、
「この変な音はWHY?」
 ドリルが疑念を抱く。
「あそこみたい」
 アンテナが風を切る音だ。アンテナは携帯電話のための電波塔ひとつだと言われている。
「もう大丈夫なので‥‥えと」
 あまりの寒さにヨグが熱いお茶を淹れる。
 初秋にしては寒すぎる。凍結現象の噂は本当なのだろうか? 
 シャーリィの72時間という言葉どおりに、3日目になると救出される生存者はほとんど居なくなった。
「もう、充分に頑張られました。今が引き時です」
 地味に活動していたリーフ・ハイエラが皆に合流した。
 ラストホープでは傭兵達に助けを求める依頼で溢れている。いつまでも同じ場所に留まっている訳には行かなかった。
 鉄道の軌道や道路・軍施設は機能を回復しはじめていた。
 しかし、街を復興させるための資材は少なく、わずかな住民と軍人のみを残し住民の多くが街を去った。
 そんな中、この地域で初めての反攻作戦が発表される。内容は函館方面への攻勢作戦だ。
 実際の攻撃目標は旭川であったが、バグアの目を欺くための発表であった。

 千歳市西部、支笏湖近くにある気象観測所の周囲には数年がかりで大量のアンテナが立てられていた。
 アンテナの間を吹き抜ける風が時々琴のような音色を響かせることを近辺の住民は知っていた。
「貴様らが作った状況だろう!」
 観測所のオペレーションルームで声を荒げ怒る男が居た。
 男の名は箱田。戦時下に急成長を遂げた石狩鉱山開発(株)の社長でありCEOである。
「実質上停止していたプロジェクトに資金を出されたのは貴方です。既にHARPは稼働状態にあることを理解して下さい」
 ひげ面の所長は腰掛け、顔の前で手を組むと無責任な言葉を返した。
「防衛研の暴走とは言わせないぞ! この代償は払わせるからな」
「気象データの改竄が露見するのは時間の問題でしょう。詰め腹を切らされる前に責任は果たしますよ」