タイトル:【HD】機械仕掛けの嵐マスター:加藤しょこら

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/12 01:53

●オープニング本文


●人災
 9月末以来データと記録に埋もれていたリーフが結論を導き出した。
「千歳のトルネードは人災‥‥」
 支笏湖湖畔を撮影した画像に映る百数十本のアンテナ群、塔型の屋外型高電圧発生装置は気象観測装置とは明らかに異なるものだった。
「とんでもなく迂闊(※1)でした‥‥海鮮丼、いいえイクラに目を奪われている場合ではありませんでした」
 3月下旬、リーフ・ハイエラ(gz0001)はその場所‥‥支笏湖を訪れていた。
 能力者の適性のある児童達の合宿のへの帯同。同じ場所で起こっていた異変の意味に気付く者は誰も居なかった。
 異変の足音は日常に潜んでいる。そして疑問を感じなければ見逃してしまう。それはサイエンティストにとって致命的なミスだ。
 リーフはかつて支笏湖で観測された赤いオーロラの記憶と画像のアンテナ、過去の千歳周辺の気象データの3つから、写真の施設の装置が電離層へ何らかの干渉を行うものであると結論づけた。あとは真実を確かめるだけ。
「真実を見つけなければいけません」
 かつて旧航空自衛隊千歳気象隊の管轄だったその施設は民間企業の石狩鉱山開発‥‥俗称、箱田財閥に所有権が引き継がれていた。にも関わらず、現地のUPC軍の管理下に置かれていることが判明した。
 しかし、UPC軍の記録は途中からとぎれており、推測以上の情報を見いだすことは出来ない。
 見落としていた多くの事実への後悔は小さな胸にしまい込み今は先に進むしかない。
 決心したリーフは千歳への出張を申請するのだった。

※1とんでもなく迂闊:オーロラが通常観測されるのは緯度が大体65度から80度の範囲であり、北緯42度付近の千歳周辺でオーロラが観測されることは異常事態である。サイエンティストとしてこの見落としは致命的である。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
ドリル(gb2538
23歳・♀・DG
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD

●リプレイ本文

●雪
「誰の物語なのでしょうかネ?」
 赤霧・連(ga0668)は車の窓に向かって息を吐く。
 何のために生きているのか? 自分にしか出来ない事は何だろうかと思いを巡らせる。
 天が凄惨な戦いを見たいと望むことはない。人の世界の物語は間違いなく人の手が作り出すものである。
 そして絵空事ではなく、自分にも出来る事の中に世界の命運を左右する何かが隠されている事がある。その鍵は小さく目立つことは無い。
 9月に千歳で発生したハリケーン被害の救助活動に駆けつけた柊 理(ga8731)は目的地の施設が持つ意味に、心を痛めていた。
 確かに救助活動は全力で行われ、多くの命が救われた。だが、街の復興は断念され、少なくない犠牲が発生した。
 大切な家族や住処を奪われた人が沢山いる。そして、残された基地も今やバグアの暴力の前に屈した。
「今回はよろしくお願いします」
「三沢に荷物届けたら、今度はリーフ姉さんのお迎えか‥‥。いつから傭兵は運送屋になったんだい?」
 おどおどした調子で言う理に、伊佐美 希明(ga0214)はここぞとばかりに言う。
 瞬間、車が止まった。
「検問だ。とにかく丁寧な対応を心がけないとな」
 木場・純平(ga3277)とクリス・フレイシア(gb2547)はジーザリオを停止させる。
 進もうとしていた山へ向かう国道の入口は軍によってバリケードが作られており、隊員が振る赤い誘導灯は引き返すよう命じる動きを見せている。
 規制はバグア軍の千歳侵攻の影響である。加えて、降雪と強風により天候が悪化し始めていた。
 純平がジーザリオを降りると、道路を通らせて欲しいと交渉を始める。
 ドリル(gb2538)が道路を封鎖していた軍人達に先行して支笏湖に向かったリーフ・ハイエラ(gz0001)の関係者であることを告げると、意外な程に軍は協力的になり、この場所で先方に連絡取らせてくれると言う。
「まぁ、リーフも単独で行くとはまた無茶をやったもんやなぁ‥‥一応サイエンティストやけどさ」
「私も少し軍人の事色眼鏡で見てた事、謝るわ♪」
 烏谷・小町(gb0765)がほっとした調子で言うと、狐月 銀子(gb2552)も協力的な隊員達に目を細める。
「よし、話は通じた。お待ちしていますだってさ」
 希明は黒い軍用電話の受話器を置くと短く告げる。
 施設への立ち入り許可も傭兵達が来ることも伝わっているらしい。
 リーフ自身が特別な権限を持っている訳ではないが、人脈とテクニックの一つとして駆使したのだろう。
「なんかやってきたぞ、ハーピーみたいだが」
「任せて下さいなッ♪」
「皆さん、援護します!」
 いち早く敵を発見したドリルの警告に反応して、連が薄緑色の弓を取り出し、理も小銃S−01を構える。
 戦いの構えを見せる一行を応対していた隊員が制止し、厳しい声で移動を促す。
「ここは我々に任せて先を急ぎなさい!」
 刹那、87式AWと呼ばれる自走式の高射機関砲の砲塔が回転し砲身が角度を変える。バシ、バシ火花が見え、数発の弾丸が放たれた。瞬間、空中で火球が弾け、飛来したキメラは燃えながら落下する。
 キメラに遅れを取るような弱小な軍ではない。
「時間が惜しい。急ぐぞ!」
「日が暮れる前にもどらないと、危険だ」
 純平とクリスの言葉に促されて、一行はジーザリオへと急ぐ。雪が激しくなってきた。
「うぅ‥‥。山猫さんは、寒いの苦手なんだよね‥‥。早く終わらして、熱燗できゅっと一杯引っ掛けたいもんだ。そうだよな! 銀子!」
「まぁ、仕方ないんじゃないの?」
 どこかから『16歳は未成年だろう』と、ツッコミを入れられそうな台詞を宣いながら、背中を叩く希明に銀子が笑い返す。戦時とはいえ今の時期の苫小牧は海産物に恵まれている。
「確かに、こういうときドラグーンって損だな」
 ドリルはリンドヴルムに跨ると氷点下の中、雪を全身に浴びながら進まなければならなかった。
 実際、アーマーを装着し相当な無茶をすれば2人はジーザリオに乗ることもできたが、嵩張る武器や携行品を考慮して‥‥2人は同乗を断念するに至った。
 こうして木場のジーザリオに希明、理が乗り、クリスのジーザリオには小町、連が乗り込んで移動を再開した。

(「事故の線もあるわね。隠すのは悪いけど、真相が解るまでは疑わないでいたいわ。同じ人間だもの♪」)
 理の心の中には銀子の言葉が刺さった棘のように残り疼き続けていた。
 だが、間違いや勘違いで大切な人を奪われた者の無念や憤りはどこにぶつければ良いのか?
「一人で先に行くとはよっぽど急いどったんやろうな」
「相手が少将じゃ正論でどうにかできる相手じゃなかろうに‥‥何を考えてるのだか」
 小町の言葉に頷くようにクリスが続ける。
 距離にして約30kmを2台のジーザリオと2台のリンドヴルムは2時間ほどで駆け抜ける。
 途中6箇所の検問があった事を除けば、驚くほどあっさりと施設に到着した。
 時間は昼前であったが、空を覆う雪雲のせいで暗い。降雪は続いているものの周囲の様子はまだ充分に見える。
「本当にアンテナがあるのですネ」
「むこうに続いているのは送電線か?」
 連が周囲を見やると山肌に森のように建てられた格子状のアンテナ群。
 湖を越えた対岸には恵庭岳から札幌岳方向の尾根に沿って高圧送電用の鉄塔のようなものが一定間隔で続く。
 工兵隊が雪の中で慌ただしく高射砲の陣地の構築を行っており緊迫した空気が漂っている。
「お疲れさん、北海道は長いのですか?」
 純平がそう言って身分証を見せると、守衛は電話で確認を取る。返事を待つ間、自分たちが地元出身の部隊である等と雑談を交わす、やがて開門の許可が下りる、ランプの色が赤から緑へと変わりゲートの遮断桿が斜めに上がって行く。
「こんなに大きなものやったんか」
「これが天候を操れるとなると、下手な銃火器よりも脅威となり得る兵器だな」
 呆れたといった様子で言う小町にクリスが続ける。
 各々の金属柱は高さが20メートルを超えており、そんな巨大な柱が約2キロ四方に渡って森のよう建てられていた。各々の柱の先端部では地面と平行に伸ばされた枝が格子状に結ばれて、金属の森全体が一つのアンテナとなっているようだ。
 アンテナの森を通り抜けてさらに数分走ると、遂に一行は施設の管理エリアに到着した。
「いよいよ着いたね」
「全てはこれからだ」
 銀子の言葉に頷くと、ドリルはジャケットに付着した雪を払いのけ襟を正す。
「それじゃ、みんな行きましょうッ」
 連はそう言うと小さな胸に手を当てる。頷いた傭兵達は決意を胸に扉に向かうのだった。

●それぞれの仕事
 ガラス扉の軋む音に、新米能力者の山本少年が入口の方に目を向けると、連絡のあった傭兵達の姿が見えた。
「ようこそいらっしゃいました、こうしてラストホープの傭兵さんにお会いするのも9ヶ月ぶりですね」
 そう穏やかに言う山本を意外に思いながら木場が用件を手短に伝える。
「どうぞ、此方へ、その前に物騒な得物はこちらでお預かりさせていただいて宜しいでしょうか?」
 と、藤井と名乗るツンとした雰囲気の少女が一行の武器にネームタグをつけると得物を持ってゆく。
 だが、穏やかな受付のやりとりとは対照的に、中の方では緊迫した様子で所員が動き回っている。
「‥‥まったく関係無い事なのだが‥‥希明さんが半ズボン云々言っていたが、どうやら必要なさそうだな」
「いや、リーフが素直に帰るなら、クリスが半ズボンはいてくれるとか言ってねぇし」
 若年の能力者が意外と多いことに気づきクリスが言うと希明は言い訳するように言う。
「しかし、やけに若いのが多いな‥‥」
 山本少年がただならぬ視線に声を上げビクッと身体を震わせる。

 案内されたのは資料室。
 リーフはそこで過去の記録を確認していた。
 大西少将との交渉により、資料の閲覧の許可を貰う代わりになにか頼まれ事をされたらしい。
「色々判明しましたよ‥‥これからが、大変そうです」
 一行が扉を開けると、リーフはプレゼン資料作成の手を止めて意味深に言う。
「あぁ大西少将ですか、実はああ見えてとても楽しい方なんですよ」
「ちょ‥‥リーフなに言ってるんだよ! 心配して来てやってるのに!」
 空気を読まずに言い放つリーフに、やれやれを通り越し怒りが湧き上がる希明。
「今回はあなたの意志を伝えるだけに留め、施設長の意見を重視した方が良いと思うが」
「上が綺麗だろうが汚かろうが、やり方というものがあるからね。今は正面から通すのはお門違いというものだ」
 純粋な気持ちで心配して言ってくれている事は充分に理解したが、やりかけた事を投げ捨てて帰る訳には行かない。リーフはそんな決意を込めて、答えなければと思う。
「でも、その少将が私たちに意見を求められているのですよ、清濁はどうでしょうね‥‥純真な方のようですし」
「俺たちに‥‥意見だと」
 正論だと説得しようとしたクリスと純平はリーフの意外な返答に目を丸くする。
 少将ほどの地位の者が一介の傭兵に意見を求めるなどとは想像だにしていなかったが、実際は上に立つ者ほど正しい判断のための材料を欲する。タイミングと聞き手のニーズを満たしていれば喜んで聞いて貰える。
「安心してください。知ってることは伝えますから」
 リーフによると、一連の施設は気象現象をコントロールして地域を防衛システムで『HARP』と呼ばれる。
 赤いオーロラは電離層で人為的に発生させたプラズマであり、竜巻や降雹もその副産物だった。
 だが、気象操作はENMODに違反する可能性が高く、旧航空自衛隊では開発を放棄せざるを得なかった。
 やがて来るバグアの脅威に備えて秘密裏に施設と研究を民間に引き継がせたのが、大西をはじめとする北海道出身者のみで構成されたプロジェクトメンバーだった。
 大西と石狩鉱山開発CEOの箱田が中心となって完成させたシステムであったが、先の千歳事件にみられるようにコントロールが困難で、必要以上の被害を生み出す欠点があった。
「あの惨状が人為的な物だったなんて‥‥」
 目を閉じると理の瞼の裏には瓦礫の野となった千歳の記憶がはっきりと蘇る。
 言い訳をするならば、何もしなければ、市街を壊滅させる程ではなくても被害が発生していただろう。
 今や北海道はバグアの勢力下へと完全に塗り替えられようとしていた。
 危険きわまりない施設がバグアの手に渡ればさらなる悲劇の発生する可能性もあるだろう。
「で、リーフはどう思うんだい?」
「私ですか? 考えがあったとしても判断はしてあげられません。‥‥でも事実と可能性を示すことはできます」
 そもそも誰のミッションだったのか? 忙しそうに言うリーフだったが、瞳は静かな怒りを湛えていた。
「そうか‥‥リーフにもいろいろあったのだな」
 そんな言えない思いを察したのか、それとも直感か‥‥リーフを思わず抱きしめるドリルだった。

●会談
「‥‥ボクは千歳の惨状をこの目で見てきました。忘れたくても忘れられません。少将は、あの日あれが起こることを知っていたんじゃないですか?」
「貴様は箱田やリーフ君と同じ事を言うのだな」
 理の言葉に大西は手を組んだまま、眉間にしわを寄せて言う。
 怒りにまかせて、不測の事態が発生しないかとドリルは身構える。最悪の場合は身を盾にする覚悟もできていた。
 少しの沈黙の後、連は一礼しゆっくりと口を開く。
「私は一介の傭兵でしかありません。軍の決定権は上層部にあり私に発言の権限はありません」
「‥‥」
「リーフさんを信じて下さい」
「話にならんな、信じてどうしろ言うのだ?」
「それは‥‥」
 背中に嫌な汗が伝うのを感じながら、言葉を詰まらせる連に、大西は言葉を続ける。
「意見がないのは確信が無いということかな?」
「ボク達はリーフの迎えに来ただけだよ、他の意図はないよ」
 ドリルが丁寧な調子で言い切る。
「良いことを教えてやろう。三沢の司令部から撤退命令が出た」
「え? 撤退ですか? それじゃみんなで帰るのですか?」
「だがそうもいかん。既に我々はUPCとは別の意志で動いている」
「それって、クーデター‥‥いや叛乱ですか?」
 連が驚きを隠せない様子で言った。
「叛乱だと! いまは人間同士がどうのこうのやってる場合じゃないだろ!」
 希明が机を叩く。
「どうした? 今、ここで私を殺せば、すべてを止める事もできるぞ」
「いえ、私たちの目的はリーフさんを連れ帰ること。それは許して貰えますね」
 毅然と応えるクリスはゆっくりと口を開きながらも、退路を求めて気配を窺った。
 部屋の周囲が武装した兵士達に固められており、下手を打てば全員が射殺されるか捕らえられてしまうだろう。
「それはできん相談だな」
 大西の拒否が、険悪な空気を醸し出す。
 ならばと、純平は言い回しを変えてみる。
「分かった。日をあらためさせて欲しい。リーフ氏は熱心な研究員ゆえ無理なお願いをしたかもしれないが‥‥一度、持ち帰って検討させて頂けないかな?」
「残念だが、彼女の用事はまだ済んでいない」
「リーフ! 何故、黙って居るんだ!」
 希明がやりきれない気持ちをぶつける。
「用事が終わったら帰してくれるん‥‥ですか?」
 このままでは帰れない。小町は大西の表情を窺いながら、僅かな譲歩を期待して言った。
「大丈夫だ。最後まで付き合わせるつもりはない」
 今ではないが、リーフ帰還の口約束だけは貰った。現状でこれ以上の要求を通すことは無理だろう。
「少将‥‥最後に教えてください。この施設は本当に人のためになるものなのでしょうか?」
「無慈悲なものかもしれないがな、結果が最悪になるとは言い切れん」
 大西はそう言うと、大きく息を吐き出す。
「理君、君は自由だ。誰も強制はしない。後は自分で考えて決めろ。自分が何をすべきなのか?」
 畏まった様子の理に、大西は意味深な言葉を返すと、会談の終了を告げるのだった。
「ボクたちにしかできない、ボクにも出来ることですか‥‥」
「少将さん。疑念は不信を生んで、謝罪は信頼を生むわ! 次は笑って逢いたいものね♪」
 銀子は苛立ちを隠しもせずに笑うと、部屋を後にする。

 大西は窓際に立ち、激しさを増す雪の中を去ってゆく傭兵達を目で追う。そして、眉間を指で押さえると、8人の帰路の安全を保証するようにと指示を出す。
「ひとまずは天候が味方したな、使えるKVは何機だ」
「苫小牧沖、空母艦載機が12機のみですね」
「リーフ君。どうやら君は、私が期待した通りの人みたいだな」
 義憤の叛乱軍の考えることなど、少し考えればおおよそ見当がつく。
「‥‥迷惑な話です。ぜんぜん嬉しくなんかありません。でも、確かに私が戻れば報告義務がありますからね‥‥」