●リプレイ本文
●北へ
雲海を突き抜けながら、北を目指す傭兵たち。
雲の間から見える遥か下方の海面は暗い紺色である。
「こちら、ヤタガラス6『ホワイト・アイ』、『Raven』へ、海面近くに、飛行物体を視認! 方位200、距離20,000」
ロッテ・ヴァステル(
ga0066)は、短く言葉を切って言う。
「こちらヤタガラス5『Raven』、飛行物体を確認。時速約30kmで、方位270°(東)に直進中‥‥飛行型キメラだ!」
ロッテに続けて、UNKNOWN(
ga4276)が警告の言葉を発する。
扇状の編隊を、何層にも組んで飛行するキメラ。渡り鳥のように見えた。
数は正確にはわからないが、100は居る様子である。
此方に気づいている様子は無い。
「ヤタガラス1『Crow』編隊に戻ります」
『岩龍』の癖を掴みたいと、単独で低空を飛行していた緋霧 絢(
ga3668)も、キメラの群れに気づき、編隊の中に戻ってくる。
(「この機体‥‥、S型に比べて、運動性、スピードともに、かなり劣りますね」)
彼女は静かに思う。
「こちら『Schee』。戦闘は避けて、先に進もう! 今は情報収集に留めるべきだと思う」
ファファル(
ga0729)が言う。キメラに対して、『ヤタガラス』の編隊は上空のポジションを飛行中だった。
今、上空から奇襲を掛ければ、キメラに大損害を与えることのできる可能性はあった。
同時に、ここで戦うことを選択すれば。新たな敵を呼び寄せる可能性もある。
そして、キメラの数から考慮しても、きつめの戦闘になることも予測できた。
「『ゴースト』です。敵の能力ははっきりわかりません! 消耗を防ぐためにも、交戦は極力避けるべきです。でも、判断はみゆりさんお任せ♪ ですよ」
平坂 桃香(
ga1831)は、ゆっくりした口調で言う。今、消耗するわけには行かなかった。
「と、ともかくは! 無事にウラジオストックに到着するのが先決よ!」
麓みゆり(
ga2049)が、心の中で(「何で私にお任せ♪ なのよ」)とツッコミを入れつつ、今は一瞬の時間も無駄にするべきではありませんと説き、会話を繋ぐ。
「こちら『スサノオ』だ。相手のほうが数が多いようだし。無理に攻撃することねぇんじゃないの?」
須佐 武流(
ga1461)も、今は戦うべきではないと判断している様だった。
その時!
「前方の雲の中に、なにかいます! 距離3,000! 近いです!」
みゆりが慌てた声を出す。
白い雲の中から姿を現す巨大なキメラ、龍のように細長い身体。背にトンボのよう生えた羽根を羽ばたかせながら飛んでいる。1匹だけか‥‥?
「群れからはぐれたのかしら‥‥?」
みゆりは静かに呟く。
「結構な大きさですねぃ」
桃香が続ける。
「気づかれる前に、このまま駆け抜けましょう」
ロッテが早口で言うと、一行は、同意する。そして、キメラを避けるために、速度を上げるのだった。
敵の姿がある以上、機動性に優れたヘルメットワームがいきなり現れる可能性はあった。
ロッテの脳裏に初めての空戦の苦い思い出が蘇る。
「私達は水先案内人‥‥。絶対に墜とさせはしない‥‥人類の希望を!」
ロッテは、恐怖を振り払うように、静かに呟く。
なぜバグアが攻めてきたのか? その原因を正確に知るものは居ない。人類の存続の為と、誰もが当然の動機を持ち、確信をもって戦う。そして、絵空事のような特殊兵器を操り戦いに身を投じてゆくのだった。
一行は戦闘を避け、北を目指した。任務は始まったばかりだ。
●ウラジオストック
小松から離陸して、約1時間。
「お迎えが来たようだ」
UNKNOWNが言う。
極東ロシアの軍の識別圏に入ったらしい。
機体のレーダーが近づいてくる機影を捉え、モニターに光点で示す。
「貴殿らはロシアの領空に居る、所属・目的を明らかにせよ!」
そして、通信が入った。
数秒の後に、その機影は肉眼でも確認できるようになっていた。
「こちら、ラストホープの傭兵です。日本の小松基地より来ました」
ロッテが名乗ると、前方からやってきた戦闘機は『ヤタガラス』の編隊にさらに接近する。
機体はSU27のように見えた。
近づいてきた戦闘機は、大きく弧を描くように反転旋回する。
どうやら、敵ではないことを認識したらしい。
「ガリーニンの移動の護衛及び偵察任務の為、ウラジオストックに向かっている。コードネーム『ヤタガラス』」
フォーカス・レミントン(
ga2414)が、さりげない口調で、目的を告げる。
「こちら極東第23防空軍。我が祖国ロシアへようこそだ! ウラジオストックへ誘導する」
所属と目的が明らかになると、通信の言葉に色がこもる。
『バグアを倒す!』彼等にも自分たちと同じ目的がある。だから、戦友なのだ。
そして、主翼を左右に振り誘導のサインを示す。
こうして『ヤタガラス』の編隊は、ウラジオストックの空港に到着する。
「昼間でも氷点下なのだな」
事細かに天候や風向き、その他の細かい事もまでも見逃さずに、チェックしていたUNKNOWNは、静かに呟く。
積雪が景色の到るところを白く飾っていた。この時期のウラジオストックでは日常の風景だ。
「うっわー、コレが噂のガガーリンですかー。すごい大きさですねーコレ本当に飛ぶんでしょうかー?」
桃香は呆れたような声を上げる。
その声がひょうきんに聞こえたのか? ロシア側の担当者がクスクスと笑いを見せる。
固い空気がほぐされて、少しいい雰囲気になる。
ガリーニンは、黒い山と形容してよい大きさである。確かに周囲の風景の中で異彩を放つ巨大さであった。燃料を供給するホースがつながれ、周囲では、整備員達が忙しく動き回っている。
「数は100前後といったところでしょうか? キメラの群れが東に向かっている様子が見られました」
真面目な顔をして、そう言うと、UNKNOWNは往路でのキメラの出現状況等を記したデータを渡す。
「先だって、北海道の南部にバグア軍が大挙襲来したそうだが‥‥」
ロシア側の担当も、真面目な顔で言葉を交えつつ、データを受取ると分析担当にそれを引き継ぐ。
情報の分析は30分程度で済むという。
その後はすぐに出発だと、ロシア側の担当は言う。
「本当に遊ぶ暇もないのですねぃ」
桃香がぷぅとした表情を浮かべる。
一行は、ロシア流の軽い食事と珈琲を取っている間に、データの分析の結果が出る。
日本海で活動中のキメラの活動域は低空であることが多いこと、高高度まで至るキメラは少なそうだという事が伝えられる。
そして、数パターンのガリーニンが日本に向かう飛行プランが伝えられる。
予測される最大の脅威は、やはりヘルメットワームであった。
「みんな生きて帰ろうな。『次』があるんだ」
フォーカスが言う。
「『みゆみゆ』も『モモ』もよろしく頼むな!」
武流が軽い調子で言う。
みゆりと桃香は、複雑な笑みを浮かべている。
ちなみに『みゆり』だから『みゆみゆ』、『桃香』だから『モモ』であるかららしい。
「さぁてと、身重のガリーニンさんを安全に運びましょ!」
武流は、微妙な空気に大粒の汗を流す。
「そうだな‥‥、さて、ここからが正念場だ‥‥」
ファファルが決意をもって言い。
誰もが、様々な思いと戦う理由を胸の内に込めていた。空へ駆け上ってゆく。
●南へ
『ポーン』敵機の接近を示すアラームが鳴る。
「先行した部隊は大丈夫だろうか。いや、まずは自分らか‥‥」
フォーカスがぼそりと呟く。
「方位45°(北東)、距離18,000! ワームが急速接近中‥‥! ひぃっ!!」
刹那、ワームの放つビームが、絢の乗る「岩龍』を掠ると、一瞬で装甲の半分が削り取られる。
編隊の真横を、飛び抜けてゆく、数機のヘルメットワーム。
「おいでなさったようだよ」
「『Clock』より、『Crow』へ大丈夫ですか? 回避行動を取ってください! 狙われています!」
みゆりが悲鳴のような声を上げると、救援に向かう。
「‥‥新手だ!」
武流が先程までと違った冷徹な口調で言う。
「いまは、目の前のワームを何とかするべきです! 私たち自身も危ない! きゃあっ!!」
別のワームの放った一撃がロッテの機体に命中する。
「損害は軽微! 巻き返すわよ! 『ホワイト・アイ』よりヤタガラス全機へ‥‥反撃開始! 幸運を!」
ロッテは負けられない! という気持ちをこめて言う。
「『Raven』!! そっちに向かった回避してくれ! 援護する!」
ファファルが厳しい口調で言う。
「ぎゃああっ!!」
刹那、UNKNOWNの乗る『岩龍』がワームの放つ光線の直撃を受ける。
装甲の殆どが一気に吹き飛んだ。
ヘルメットワームが最初に狙ったのは『岩龍』であった。
「‥‥捉えた。墜ちろ!」
ファファルがヘルメットワーム火線に捉える。
『カチッ』
バルカン砲のトリガーに指をかけると『バリバリ』という震動で指から腕に伝わってくる。
「当たった! 行けるか!?」
命中した弾丸は、確かにワームの装甲の一部を砕く。
ダメージに慌てたのか、ワームは『岩龍』から距離を取ろうと動く。
その隙を見逃さずに、フォーカスの放ったミサイルが、白い筋を曳いて、ワームに追い討ちを掛ける。
「手ごたえありだな」
爆発に包まれたワームは装甲を飛び散らせて、態勢を崩す。
連続した攻撃が、明らかに大きなダメージを与えている。
「了解‥‥行くわよ!」
ロッテがその隙を活かして、アグレッシブ・ファングで強化された、レーザーを放つ。
ふらついたワームにレーザーが命中すると、大爆発が起こる。バラバラに砕けたワームが、灰色の煙の筋を残して下方に落下して消える。
「よそ見しているとやられるぞ!」
武流の発射したミサイルが『Crow』を襲っていたワームに命中する。
続けて、みゆりがレーザーを放つ。
しかし、発射態勢を察知されたのか? ワームの絶妙な機動によりレーザーは大きく外れる。
「仕方ないですね、これでも喰らってくださいな」
桃香はけん制のつもりで撃ったミサイルであったが、ワームの機体に吸い込まれるように命中し爆発する。意外に効いているようだ。
「『スサノオ』から『モモ』へ! やったな! この調子ならいけそうだな」
武流は軽口を叩きながらワームの追撃を開始する。
その直後、ワームは向きを変えて光線を放つ。
「ぐわわわっ!!」
光線は武流の機体に命中すると、装甲の半分近くを一挙に剥ぎる。
機体の損傷を示すアラームが一斉に鳴り響く。
「だっ! だいじょうぶなのですか!」
桃香が慌てて声を上げる。
そして、援護のミサイルを放つ。
「なぁに、掠っただけだ! ノープロブレムだ! 『モモ』」
意外な大ダメージに内心焦ってはいた武流。しかし、軽い口調で応える。
「ここは、確実に当てなければ‥‥」
みゆりが第2派のミサイルを放つ。
ヘルメットワームは、度重なる攻撃に相当の結構なダメージを蓄積しているようだ。
「駄目! 掠りもしない!」
収束レーザーは、強力な威力を備えて居たが、運が悪いのかみゆりが放つそれは、何故か当たない。
しかし、こちらのワームも長くはもたなかった。
意外にも、桃香が妨害にと放ったバルカンが止めを刺すことになったのである。
こうして、『ヤタガラス』隊は2機のヘルメットワームを撃墜する事に成功する。
ガリーニンは今のところ無事であり、南へと飛行を続けている。
名古屋に到着するまでは、もうしばらくの時間が必要だ。