タイトル:【HD】絡み合う糸の行方マスター:加藤しょこら

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/17 00:42

●オープニング本文


●北海道富良野市
 壁には人の形をした血の染みがこびり付き、床上には炭化した人体から炎が上がっている。
「知らない! 本当に知らないんだぁ!」
「怯える事はないのですよ。あなたも私に勝てば家に帰してあげましょう」
 ルメイは後ずさる男に向かって、言うと口から炎が吐きだした。
 炎に包まれた男は一瞬で動かなくなり、炭となって床の上で炎を揺らめかせる。
「おや、仲間を見捨てて逃げるとはよろしくないですね」
 全力で出口の扉に向って走る男達を認めると、ルメイは気合いを入れる。
 直後、筋肉が盛り上がり、身体中が銀色の光沢を帯びてゆく。
 ‥‥断末魔の叫びとほぼ同時に轟音と何かがつぶれるような音が響いた。
「ふぃーっ、またやってしまいましたね。それにしても私の命を狙ったのは、何処の何者だったのでしょうね」
「すばらしいです。流石でございます。もはやルメイ様に敵う者など居ないでしょう。この建物なら防御は万全でしょう」
 ルメイの言葉に続けて、腰巾着のように振る舞っていた男――カールは言うと、私の出る幕はもうありませんと告げ、近況報告の為に旭川に向かうと言った。

●カールの離叛
 水中宮殿の一室を訪れたカールの頭上には、継ぎ目のない透明なドームが広がっている。
 そこには魚の群れが泳ぎ、その奥にシーサーペント型キメラの群れ、また100メートル近くはあろうかと推測される巨大なエイの形のキメラも悠然と漂っている様子も見える。
「これがバグアの科学力なのか‥‥? すばらしい」
 旭川市全域を含む盆地に琵琶湖規模の人造湖が作られていた。
 2年前ロシアから来た戦略爆撃隊の特殊ミサイルの攻撃によって灰燼に帰した旭川市は、その後、水没させられその水面下でバグアの超科学によって別名クリスタルミラージュと呼称される科学要塞都市に生まれ変わっていた。
 呆気にとられるカールの前にリリアン・ドースン(gz0110)が姿を現した。
 カールは富良野市の報告を話はじめると、リリアンは退屈そうな様子だった。
「という訳なんです。ルメイ様は私など居なくても充分にお強いですし……」
 退屈そう‥‥つまりは変わった事をリリアンが欲していると踏んだカールは、早々に報告を終えると、人類支配地域の宮城に出かけたいと切り出した。
「治安部隊『甲鉄』の隊長で中島というのですが、こいつが面白い男で、久しぶりに酒でも飲みたいと思っていまして‥‥」
 これ以上ルメイの元にいても碌な事は無いと踏んだカールは、のし上がるチャンスを探していた。
「ただの酒飲み友達じゃないね。積もる話もあるだろうから行っておいでよ」
 カールに何か策があると察したリリアンは、上機嫌な様子で応えると自分は飲まないからと、ビールのケースを持たせてくれるのだった。

●依頼
「仕事の話なんだが、手すきの方がいたら、聞いてくれないか?」
 ドロナワ(gz0074)は、そう呼びかけると話しはじめる。
「場所は北海道富良野市。詳しい者なら知ってるかも知れないが、微妙な情勢の地域だな」
 そう言うと、この北海道はUPC軍が青森での日本本土水際防衛の戦略のために犠牲になったのかもしれないな‥‥とぼつりと呟いた。
「この街で好き放題やっている奴の名がルメイで、こいつを暗殺するのが今回の任務だ」
 そう言うとドロナワは戦果拡大を狙う華やかな戦場ではなく、大規模な逆上陸作戦も現在の所無いが、日々苦しんでいる人の事にも目を向けてくれないか? と静かな口調で言った。
「ルメイは本拠地の砦の中にいて、戦闘力を高める為の肉体改造とトレーニング三昧の日々を送っているという情報を手に入れた」
 ドロナワはそう言うと、苦い表情で、ルメイはトレーニングと称しては罪の無い人々を捕らえては殺害していると続けた。
「ルメイを秘密裏に抹殺できるのは、おまえ達のような純真で気力あふれる戦士だけなんだよ」
 影響力を保持したいお偉方の隠れた意図も見える事があるかもしれない。
 ドロナワは巨大組織の思惑に左右されず、自分の信じる仕事を手がけてゆこう‥‥そんな起業当時の事を刹那に思い出しながら、富良野に向ってくれる者を募るのだった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
フィオナ・フレーバー(gb0176
21歳・♀・ER
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

●潜入
「北海道ですか、こちらへ出向くのも随分と久しぶりですね‥‥」
 鳴神 伊織(ga0421)は、昔から持っている懐中時計に目をやると、嘗ての強力なキメラと繰り広げた戦いに思いを巡らせた。富良野は千歳の北東へ約100km。当時の戦線よりもさらに東側ある街だ。
 富良野駅近くに作られた砦は四方を壁に囲まれたピラミッド型で街の中で大きな存在感を示している。
「これは‥‥不味いみたいですね」
「何も不味いことなんて無いです。こんな綺麗な女性とご一緒出来るなんて光栄です」
 お陽さま好奇心・フィオナ・フレーバー(gb0176)が漏らすと、ロマンスチェイサー・ジョシュア・キルストン(gc4215)が、イレギュラーは修正すればよいのですと、軽い調子で言葉を返す。
 砦に近づく車両は必ず街中を通る。見咎められずに車両を奪うには遠く離れた郊外で襲撃するしかない。
「やはり怖いものですね‥‥いつまでも慣れません」
 銀色の護衛・セレスタ・レネンティア(gb1731)は呟く。
 夜陰に乗じての潜入といった常套手段ではなく車両の強奪を計画したため任務の困難さは格段に上がっていた。
 こうして一行は帯広方面からの物資輸送車両を襲撃する事とし、市街から離れた嘗て国道38号線と呼ばれた道路の樹海峠付近で待ち構える事とした。

 かくして一行が襲撃に成功した帯広方面からの車両――銀色の特殊トラックには、運転手と助手、兵隊が4人。物資の他に捕らわれた人々が4人乗せられていた。
「安心しろ、ルメイは我らが倒す。その代わりと言ってはなんだが‥‥」
 総て血を厭わず・月城 紗夜(gb6417)は、砦について知っている事を洗いざらい話せと迫る。
 情報によると壁面に囲まれた敷地の内側、巨大なピラミッド状の建物の内部は空洞に近い。ルメイはピラミッド内部の中央にある部屋でトレーニングと称して殺戮を繰り返していると言う。
「運ばれる人にすり替わった方が怪しまれそうもないですね」
「それじゃ、全員服を脱いで貰おうか? いや、全部脱ぐな、上着だけでいいぞ」
 銀色の護衛・セレスタ・レネンティア(gb1731)は囚われていた人々の枷を破壊しながら提案すると、勇敢な小心者・桂木穣治(gb5595)が要求を出す。
「なるほど、運ばれる人間の身元までは、確認しないだろうからな」
 車がルメイの部屋への直行便であることを知り、優しき護り手・木場・純平(ga3277)は、乗せられていた人がトレーニング相手として殺される運命にあったと直感した。
「知っている事はそれだけだな。後は寝ていろ」
 そう言うと、伊織は首の後ろに手刀を打ち込んで男を気絶させる。
「気絶させただけか?」
 セレスタが確認すると、伊織は頷いた。
 こうして一行は運転手と、護衛、捕らわれた人になりすまして、ルメイの砦を目指す事となった。

●突破
「ごくろうさん‥‥ん?」
 運転手が持っていたカードをジョシュアが何食わぬ顔で差し出すと、守衛はカードの名前とセレスタの顔をチラリ見比べて、電話を掛け始めた。
「なかなかゲートが開きませんね」
 帽子を深くかぶったフィオナの額にいやな汗が流れる。定期便の車両なら門番と運転手は顔見知りの可能性もあるのでは無いかと。
「やっと中に入れるな‥‥何!?」
 開き掛けたゲートの向こうには、銃を構えた衛兵が並び、トラックの後ろにも兵隊が回り込んでいる。
「車から降りて、全員手をあげて出てきなさい!」
 拡声器から、投降を促す声が響いてきた。
「相手は一般人、このまま押し通るぞ」
 克己の誓い・アンジェリナ・ルヴァン(ga6940)が相手の装備を見極めると、ジョシュアに声を掛ける。
 逃亡は容易にできそうだが、今が伸るか反るかの状況であることは、誰もが理解していた。
 紗夜はAUKVを装備すると、密かに閃光手榴弾のピンを抜いて、ゆっくりと車の外に踏み出す。
「強いんだろう、ルメイと言う者は。通せ、興味がある!」
 隠密潜入が失敗した以上、ルメイと戦うには、強行突入しかない。
 取り囲んでいた衛兵の間に失笑に似たどよめきが広がり、衛兵の銃口が紗夜に向けられる。瞬間、一帯に閃光が広がる。閃光手榴弾が炸裂したのだ。トラックも急発進した。
「こうなったら、ルメイの部屋に直行ですね」
 アクセルを強く踏みこんだジョシュアは、巧みなギア捌きで加速すると、開き掛かったゲートを打ち破って突入。
「ま、まて、貴様ら!」
 銃の乾いた音が響き、手回しのサイレンの音が、高く、低く、鳴り渡った。

●戦闘
「何事ですか? 騒がしいですね‥‥」
 扉からゆっくりと出てきた山のような大男が、強引に走るトラックに視線を向ける。
「あれがルメイですか?」
 ジョシュアの問いに、そうですとフィオナが頷きを返すと、さらにトラックの速度が上がる。
「このままぶつけてみます!」
 行儀良く戦いを挑む義理はない。ジョシュアは咄嗟にアクセルを踏み込む。迫るトラックに向けてルメイは気合いを入れて息を吸い込むと炎を吐き出す。だが、車はそのままの勢いで突っ込んで行った。
 瞬間、鈍く重い衝撃が二度車体を揺らし、直後、激しい衝撃に揺さぶられる。
「急げ、爆発する」
 トラックは火炎放射を浴びて燃え始めていた。ルメイを巻きこんで大破したトラックから全員が大急ぎで脱出する。刹那、激しい爆発を起こした。
「や、やりましたか?」
「そんな簡単に済むはずありません!」
 楽観的な観測で綻んだジョシュアの表情に、フィオナが全力で否定の言葉を投げかける。フォースフィールドを備える敵には挨拶程度にしかならないだろう。直後、炎が渦を巻いて巻き上がると、トラックが吹き飛ばされ、強力な火炎放射となって一面を薙ぎ払った。
 無茶な威力の火炎だ。長くは続かないはず、そう踏んだ伊織は、伏せて炎を躱しながら閃光手榴弾のピンを抜く。
 火炎放射が止むと周囲は炎の壁に包まれていた。トラックを制止しようと迫っていた兵隊達は憐れにも炎を浴びて、物言わぬ黒い塊と化して炎を上げている。建物からも火の手が上がっている。
「貴様の目的は? 何が欲しい、力か?」
 火の粉を帯びた熱風が外部への隙間を目指して気流を巻き起こす。
「はっはっはっ、能力者の皆さんがいらっしゃるとは、丁度良いですね。お前らを倒せば、私の肉体も完成したと言えるでしょう」
 熱を感じながら紗夜がルメイに問いかけ、小銃S−01の引き金を引くとルメイの顔面に色鮮やかな塗料が付着する。ダメージの無い攻撃にルメイは呆れた様に言葉を返す。
「これは、何の冗談ですか?」
 ルメイは付着した塗料を軽く拭い去る。
 瞬間、後ろから投擲された閃光手榴弾が空中で炸裂し、閃光が広がる。
(今度こそ、ルメイを‥‥)
 白い隠密・石田 陽兵(gb5628)が必殺の思いを込めて、SMGターミネーターの引き金を引くと、続けてセレスタがライフルを放つ。
「確かに体は頑丈なんだろうが、顔はどうなんだろうな‥‥っ」
 塗料よりも実弾の方が効果的である事は明らかだった。穣治は機械本ダンタリオンを発動する。小麦色の指を本に描かれた不思議な顔の上に這わせると、電磁波がルメイの頭部の周囲で煌めき雷の如きスパークを発生させる。
「逃がしゃしねーゼ? おデブちゃん?」
 一拍の呼吸の後に、小銃「S−01」を取り出したドS無双・ヤナギ・エリューナク(gb5107)がルメイの目を狙って引き金を引くと、弾丸は顔面を捉える。そこに流れるような動きで、ルメイの側面に回り込んだ純平が電磁波で煌めく拳を打ち込んだ。
 瞬間、ルメイは硬質化させた腕を薙ぎ払う動きで純平に打ち込んで、弾き飛ばす。刹那、身を屈めてその攻撃を避けた伊織が間合いを詰め、赤い輝きを放つ直刀――鬼蛍をルメイの足元を目がけて水平に振るう。直後、刃を受けたルメイは後ろに蹌踉めく姿勢から地を蹴ってサマーソルトキックを伊織の胸に食らわせた。
「今のは少しびっくりしましたよ。なかなか度胸がありますね」
「危険な人物がいると聞いてきたが、なるほど」
 純平が口腔にこみ上げてきた血液を吐き出すと、身体のダメージを確かめながら言葉を返す。一撃のダメージは相当なものだ。
「確かに体は頑丈なんだろうが、顔も関節も何もかも頑丈なんて反則だろう‥‥」
 どの部位、どんな攻撃が効いているのかを観察し続けていた穣治が漏らした。電磁波を伴う知覚攻撃のみが若干良い効果を上げている他は目立った弱点は無い。明らかにどちらかが倒れるまでの持久戦の様相が強かった。
(手早く片付ける事はできないようですね‥‥)
 伊織の額に汗が流れる。ルメイの一撃は半端無く強烈だ。ダメージを分散させないとすぐに各個撃破されてしまう。
(私が招いたことだもの。責任は持つわ)
 練成治療を発動させながら、フィオナは思う。射撃と瞬発的な動きへの対応力に優れているのは、同じ手は二度と喰わないとルメイが自らの肉体に施した成果だとすぐに分かったから。
「遅い! どこを狙っているのですか?」
 直後、ルメイの身体が銀色の輝きを帯びる。
「気をつけろ! このまえのルメイとまるでちがう!」
 陽兵もルメイの危険な変化に気づいていた。
 素早い動きで武器を持ち替えたエリューナクは、迅雷を発動すると迫るルメイとの間合いを広げた。
「はぁん? たかが、超おデブちゃんの強化人間ねェ。何かふざけてンのか?」
 楽勝で回避しきったかのように見えた。だが、ルメイは壁に両足を着くと向きを変えて弾丸の如くにエリューナクに迫る。回避不能。そう悟ってエリューナクは円閃を発動させると、全身の骨が砕けるが如き激痛に耐えながら激突するルメイをイアリスで切り裂いた。
「今のはなかなか効きましたね。あなたがしたかったのはこういうことでしょう?」
 ルメイは厭らしい笑みを溢すと、エリューナクの利き腕の肘を踏みつけてじわじわと体重を掛ける。
「ふはははは、せめてひと思いにトドメをさしてあげましょう」
「おっと、そんな事をしている場合なのかな?」
 ルメイが笑い声を上げて、腕を鋭い刃に変化させて振り上げると、突然に肉薄した純平が、電磁波で輝く拳をルメイの顔面に叩き込んで注意を逸らす。
「あなたの様な者に、好き勝手はさせません」
 銃声が響き、ルメイの顔面に貫通弾が命中すると、陽兵の放つ銃弾が逆方向からも飛んでくる。さらにはフィオナの放つエネルギーガンが撃ち込まれる。
「ふははははは! お前らもあの男の様にぺたんこにしてあげましょう!」
 絶え間ない火線に曝されたルメイは苛立ったように言うと、瞬間、再び身体を硬質化させ、セレスタを目がけて走る。連続して銃声が響き、火線もルメイを捉え続ける。だが、ルメイの勢いは衰えること無くセレスタを直撃した。

 射撃と接近戦。遠近の攻撃を巧みに織り交ぜ、ダメージを分散させてきた一行の体力も限界に近づき始めていた。
 ジョシュアが慎重にタイミングを計りながら弾丸を放ち続けていた。
「そろそろ、限界かもな」
「最期‥‥まで、気持ちを落ち着けて行きましょう」
 穣治は何度目かの錬成弱体を発動すると呟く、残り回数が僅かになってきた練成治療をフィオナも発動させる。
「そこまでですか‥‥次は誰ですか?」
 壁に叩きつけられた純平が、前に一歩を踏み出そうとして、そのまま前のめりに倒れた。
 ルメイと目が合ってしまったジョシュアは、全力で首を横に振る。
「未だだ! 我々は貪欲だ、理解している、故に貴公とは相容れない」
 紗夜はそう言い放ち、竜の血を発動してルメイに迫る。 
 瞬間、ルメイの頭部が雷光の如きスパークで包まれると、続けて陽兵の放った弾丸が身に刻まれる。
「なんて、贅肉だよ」
 呆れたような絶望を陽兵が口にすると、一気に距離を詰めた紗夜が淡く光る刃で切り裂く。ルメイは躓いたように揺らめく。そこにアンジェリナが走り込んで来る。金色の太刀を横薙ぎに振るって追い討ちを掛けると、ルメイは身体を回転させて振り向きざまの体当たりをアンジェリナに食らわせる。
 直後、再び紗夜の斬撃がルメイの腹に一条の軌跡を刻む。
「こざかしい真似を!」
 紗夜の背中に刃と化した腕を振り下ろす。
「これが貴公の力か」
「キメラとは違うのですよ、キメラとは!」
 向き直った紗夜が中段に蛍火を構えたまま一歩を踏み込んで前進する。ルメイの刃と化した腕と蛍火の刃が重なりあって火花を散らす。瞬間、ルメイが繰り出した足払いに紗夜は仰向けに押し倒される。
「ここまでですね」
 更に、胸を踏みつけにしたルメイが刃と化した右腕を喉笛目がけて振り下ろす。その右腕を紗夜は辛うじて蛍火の刃で受け止めて必死の抵抗を見せる。
「あれは?」
 この時、穣治がルメイの首筋から肩に掛けての皮膚が泡立つように伸縮しているのに気づく。 
「頼む!」
 吹き飛ばされて来たアンジェリナに、ルメイの異変を耳打ちすると、穣治は練成超強化を発動した。
 刹那、地を蹴って天高く舞い上がったアンジェリナが、ルメイの頭上から渾身の力を込めて金色の大太刀――如来荒神を突き立てた。
「上からとは迂闊ですな! そのスキこそが、命取りですよ!」
 瞬間、ルメイがアンジェリナを狙って突き上げた左腕が、自らの腹を切り裂く。同時に、紗夜が突き上げた刃がその裂け目に突き刺さっていた。
「は? あれ? 何ですか」
 制御不能の身体の異変。ルメイの顔に焦りと怯えの色が広がって行く。
 そこに、伊織が渾身の力を込めた鬼蛍を上段の構えから振り下ろすと、横薙ぎに刃を操り斬り抜ける。
 諧謔的な感情を誘う光景だった。
 ルメイは、言葉にならない叫びを上げる。身体中の肉が沸騰したように伸縮し、全身に刻まれた傷口から一斉に白い湯気が上がり始める。直後、断末魔の叫びを残して、ルメイは木っ端微塵に爆発した。

●脱出
「‥‥作戦終了、帰還しましょう」
 セレスタが静かに告げる。火災は砦の内部全体に延焼してもはや手の付けられる状態ではなかった。
「これなら使えそうですね」
「ちゃんと全員、生きて帰りますよ!」
 フィオナが置き去りにされた軍用トラックが動く事を確認すると、ジョシュアが明るい口調で呼びかける。
 命に関わる傷を負った者は居らず、一行はトラックに乗り込むと砦を脱出する。
 外は夜になっていた。砦の火事は誰にも消されないまま燃え続けて、富良野の空を赤く照らしている。
 幸いにもルメイの砦は高い壁に囲まれていたため、街への延焼の可能性は低いだろう。燃える物が無くなれば、やがて鎮火すると判断できた。
「ありがとう」
 ルメイを討ち果たし撤退して行く一行の背後に、誰彼となく感謝の言葉を投げかけた。
 その言葉を直接耳にすることは無かったが、暴虐者から人知れず街を救ったヒーロー達の噂は語り継がれて行くのだった。