●リプレイ本文
●静かな空
「『ホワイト・アイ』より大隊各機へ、間もなく木古内です。敵の姿は、現在、見えません!」
蒼髪の戦乙女 ロッテ・ヴァステル(
ga0066)の口調には真剣さが籠っている。無茶な任務だった。それでも彼女がここに居るのは能力者の可能性を信じていたからだ。
先行隊の4機が木古内に近づくと、同行する『岩龍』の効果もあってか、CH−47Gチヌーク部隊と救助対象の第13大隊との間でやり取りが可能になる。両者の間で軍事特有の単語を交えた会話が始まる。
そんな無線のやりとりを聞いた吾妻 大和(
ga0175)はボソリと言葉を漏らす。
「国民の身命と財産を守る為、例え火の中水の中ってか? 大変だねー軍人さんは‥‥、他人事じゃない? たっはー‥‥」
軽い口調ではあったが、彼の表情は道化の表情では無い、真摯な表情が漲っている。
「ああ、敵地の中、大輸送部隊をたった8機のKVで護衛せよ‥‥か。上も無茶を言ってくれるな。しかし、やるしかないな‥‥」
フードファイター 煉条トヲイ(
ga0236)は大和の軽い声に応えるように言う。彼もまた心の中で静かに闘志の焔が揺らめいていた。
第13大隊によると、市内各所に浮遊タイプのキメラが潜んではいるものの、現状は落ち着いているという。
今回はバグアの侵攻が急だったこともあり、利用価値が低いとみなされた木古内にはキメラの群れをけし掛けるだけの攻撃に留まっていたと思われ、それが第13大隊にとっては幸いしたと言える。運が良かったと言っても、部隊の死傷率は高く、ほぼ全滅に近い打撃を受けていたと言ってもよいかもしれないが。
(「聞いてしまった以上、そのままで、サヨウナラでは、寝覚めが悪いものでな‥‥」)
チヌーク部隊による回収ポイントを聞きながら、綿貫 衛司(
ga0056)は思う。能力者の傭兵にとって、依頼は1回限りのものではあるが、たまたま依頼の外側にある世界が垣間見えてしまうことはある。そして、彼は再び出撃した。 回収作戦は海岸沿いの国道で行うことが、決まったようだ。最初に民間人を搭乗させ、続いて第13大隊が乗り込む段取りとなる。搭乗開始は10分後。早速、避難所に集められた人達が海岸方向に向かって移動を始めると無線の声が言う。危険な時間が始まった。
ここに到着するまでの海上では、若干のキメラによる砲撃があったものの、先の大規模戦闘や海上のキメラに対する攻撃が行われていた事もあり、その数は予測よりも少なかった。そして、棗 当真(
ga3463)やトヲイの装備していたロケットランチャーの攻撃が、低速で浮遊するキメラに対しては有効に働いていた。また、CH−47Gチヌーク部隊は高度を高めにとっていた事もプラスに働いていた。
「なんとかたどり着いたみたいだね!」
ジーラ(
ga0077)が善行を褒めてもらいたい子供のような声で言う。もし、たどり着く前に1機でも撃墜されれば、乗せられる人数が足りなくなる。彼女はそんなシビアな現実に耐えていたのである。乗る人間の状況によって多少のアバウトさはあるものの、30機というCH−47Gの機体数は全員を回収するにはギリギリの数であった。
「こちら『Tsukuyomi』市街地で発砲煙を確認! 始まったようです!」
皇 千糸(
ga0843)が声を上げる。どんなに戦いなれた者でも戦闘の開始には複雑な感情を抱くものである。
(「普通に考えたら、無謀な話だと思ったけど‥‥ここまで来れているじゃない!」)
彼女は薄い胸にそっと手をあてると洗い清められたような表情を浮かべ、頷く。
「‥‥戦えない者達の為に戦う、か。だが、悪くは無い」
崎森 玲於奈(
ga2010)がどこか翳のある強い口調で言う。乾いた大地が水を求めるように、彼女の心もまた潤いを求めているのかもしれない。そして彼女の場合は剣にそれを求めている。
CH−47Gは2機づつが1単位となって、海岸近くの国道に向かって降下を開始する。眼下に見える道路には人が集まり始めたいた。
今回の能力者の作戦は先行する陽動チームとCH−47Gを直衛するチームに分かれて、護衛と索敵を同時に果たそうと言うものだった。戦力が分散しがちであった為、敵の出方次第では各個撃破される懸念もあったが、強力な敵部隊の出現が無かったことから、能力者側にとって理想的な展開を見せることになる。
●危険な時間
人々の移動が始まると市街地に潜んでいたキメラがふわふわと浮かび上がり市街地に姿を見せる。
そして、第13大隊の攻撃がキメラを引き寄せる呼び水になっていた。それはまるで彼等が囮となって民間人の搭乗を援護しているようにも見えた。
「俺達が成すべき事は制空権の確保だ‥‥、すまない。後少し、何とか持ち堪えてくれ‥‥!」
トヲイは歯ぎしりする。そして、浮かび上がっくるキメラにミサイルを撃ち込む。飛行型のキメラは一撃で、爆発し燃える細片となって落下してゆく。
「頑張れ兵隊さん! 負けんな兵隊さん! こっちはこっちで頑張るからさー」
戦場には不釣り合いなさわやかな声で言いながら大和は市街地に浮かび上がっているキメラにガドリングを撃ち込んでゆく。キメラも光弾を撃ち返しては来るもののR−01の機動性の前に弾を掠らせることもできない。この地域に投入されていたキメラはKVに対するには力不足であるようだ。
「当たれぇッ!」
千糸が放つスナイパーライフルの弾丸も、一体、また一体と確実にキメラを墜とす。
こうして、民間人の搭乗は迅速に終了し、続いて後退してきた隊員が搭乗を開始する。
傭兵たちの支援によって救われた隊員もいた。しかし、どんなに努力したとしても隊員全員を助けると言うことはおそらく出来なかっただろう。そして、撤退ポイントの海岸道路にたどり着く前に力尽きる第13大隊の隊員も少なくはなかった。そして、殿となっていた隊員たちが、弾の切れた装備を捨てながら掛けてくる。
「急げ! 脱出するぞ!」
そう通信すると、綿貫 衛司(
ga0056)は煙幕弾を放つ。
煙幕が敵キメラとの間に目くらましの壁をつくる。わすかな時間を活かして、最後の一人の隊員が乗り込むとCH−47は離陸する。そして、高度を上げながら南に進路をむけ移動を開始するのだった。
●ヘルメットワーム来襲
「来ます! 小型ヘルメットワーム、数3! おわっっ!!」
上空で待機していた『岩龍』からの通信。そして被弾!やはり、まっ先に狙われたのは『岩龍』であった。随行の『岩龍』改良タイプではあったが、一発で3分の1ほどの装甲をはぎ取られる打たれ弱さは相変わらずである。
ヘルメットワームは2手に分かれ1機は『岩龍』へ、そして、2機がチヌーク部隊へと一直線に向かってくる。
「早く! 早く! うわあぁぁぁ!!」
ジーラが慌てた口調で、しかし、真剣な声で呼びかける。そのジーラの機体に向かって虹色に輝く2筋の光線が伸びて行く! ジーラの機体は大きな衝撃を受け体勢を崩す。ここを突破されればチヌーク部隊を護る盾は無い。護衛隊はそんなジーラの無事を祈ることしかできない。
(「く、まだ足りない‥‥もっと速く! もっと鋭く! もっと強くッ!!」)
千糸が先手必勝の祈りをこめて、ブレス・ノウで命中精度を高めたロケットランチャーを放つ、ヘルメットワーム(1)に命中すると盛大に爆煙を上げ、敵はわずかに弾き飛ばされるような動きを見せる。幸先よく1機目の足止めに成功!「『ホワイト・アイ』より大隊各機へ‥‥私達が護る!」
ロッテは先行部隊の間をすり抜けてくるヘルメットワーム(2)に、アグレッシヴ・ファングで威力を加えたミサイルを放つ、救いの揺り籠には掠り傷1つ付けさせない‥‥思いを込めたミサイルは吸い込まれるように敵に命中する。さらに、追い討ちをかける形でもう一発のミサイルが命中する。
「絶対近づけさせないからね」
ジーラが言う。彼女の機体は2発の直撃を同時に受けながらも、損害は装甲の4分の1程度を失うにとどまっていた。故に即座に体勢を立て直しての反撃が可能だった。非常に幸運であったとも言える。
2発目が効きヘルメットワーム(2)もチヌークに向かう動きを止め、護衛部隊の各機を敵と認識したようだ。
こうして、チヌーク隊へ敵の接近は寸前で阻止される。
一方、被弾した『岩龍』は必死の回避行動を行っていた
ヘルメットワームが第2撃が放とうとした刹那、盛大な爆発が起こり、ヘルメットワームは大きく体勢を崩す。当真の放ったロケットランチャーであった。もし、当真が『岩龍』に気をとめていなければ、高い確率で撃墜されていただろう。僅かの意識の違いではあったが、この戦いの局面においては大きかった。
「だっ! 大丈夫ですか? あわわっ!!」
当真が少年らしい声で言い始めた瞬間、ヘルメットワームの放った紫色の光線が彼の機体に直撃する。機体のダメージは予想外に大きく、損傷を警告するアラームが一斉に鳴り響く。
先行部隊が抑止力にならなかった事で、護衛隊はたった4機で3機のヘルメットワームに対峙しなければならなかった。2機1組で敵に当たることができたのも、ジーラとロッテだけであった。
後に振り返ったとき、戦闘開始からの10数秒が今回の任務の最大の危機となっていた事が判明する。
●反撃
「うわっ!!」
回避し切れない攻撃に悲鳴を上げる当真。唯一『岩龍』を援護を行っていた当真の機体の損傷は60%を超え危険な領域に近づきつつあった。
(「やり遂げて見せますよ、最後まで」)
思いを込めて懸命にミサイルを撃ち返し、戦い続けてはいたが、誰の目にも撃墜されるのは時間の問題である。
「一人にして悪かった‥‥、よく頑張ったな」
トヲイの放ったレーザーがヘルメットワームに直撃する。
「‥‥よくも、この私を、出し抜いてくれたな。報いを受けてもらおうか‥‥!」
さらに、玲於奈が駆け付ける事で、形勢は一気に逆転する。3対1の戦力比となった時点で既にヘルメットワームは3人からの攻撃をその身に受けることしかできなかった。頑張って出来ることとできない事は確かにある。それは能力者であっても‥‥である。
ロッテ、ジーラ、千糸たちもまた苦戦を強いられていた。
特に1対1の戦いをせざるを得なかった千糸の機体は、損傷が激しく、ダメージは70%を超えていた。
「一気に叩くぞ! こんな所でやられてもらっては、目覚めが悪いものでな」
ヘルメットワームと千糸の機体の間に割り込んだ衛司が滑腔砲を放つ。当たり所が良かったのかヘルメットワームは大きく体勢を崩す。そこに大和の放ったミサイルが命中し、ヘルメットワームはあっけなく煙を吐いて墜ちて行く。
「悪ぃね、これもお仕事だからさぁ!」
大和は爽やかな口調で言う。
「絶対にやらせない! 絶対にやらせないぃぃぃ!!」
ロッテの救いを求めるような叫びは、本能的な恐怖を呼び覚まさせるようであった。
「絶対にはずさない!」
ジーラもスナイパーのプライドという思いをこめて撃ち続ける。
他の2機のヘルメットワームが撃墜された時点で、残る1機には勝ち目は残されていなかった。
こうして、最大の脅威であったヘルメットワームの襲撃を退ける事に成功した一行は一路南を目指す。
奇跡は2度起こった。
そして、今は誰もが、この成功を賞賛し、喜んでいた。