●リプレイ本文
●立入禁止区域
「鍛えているし、なぁに、場数は踏んでいるからな。立派に囮と誘導役をこなすとしようか」
「全国の眼鏡ファンと解決後のグルメの為に、いざ!」
榊兵衛(
ga0388)の言葉に、リュイン・カミーユ(
ga3871)が、力強く応える。
『ブーン』
猛烈な羽音を響かせながら巨大蜂が1匹、∞の軌跡を描く要領で飛び回っている。
「1匹だけしかみえませんが‥‥さすがに大きいです。残り3匹はどこにいるのかしらね」
と、言う雪野 氷冥(
ga0216)の声に
「誰も居ない事も分かっておる! 細かいことばかり気にしても、仕方無かろう、よって行くぞ!」
リュインは黒のベレー帽を被り直して気合いを入れる。
戦いが、始まろうとしていた。
●聞き込み
作戦は、『囮班』と『待ち伏せ班』に分かれて蜂キメラを撃破する段取りとなっている。
工場等の施設への被害を抑え、尚且つ短時間でせん滅するという目的のためである。
少し時間を遡って述べると。
寿 源次(
ga3427)は、町のまとめ役の方に連絡をとり、『周囲に人が居ないか』『電気施設の状況』『キメラを見たのは建物の中か外か?』などの確認のため数人と共に町のまとめ役の方を訪ねていた。
「クリスマスの頃に、不審な音と、巨大な蜂をみたものが、何人もいたので、周囲を立入禁止にして、ラストホープに依頼を出したと言う訳でして‥‥」
「ということは、詳しい情報は一切無しなのかね?」
知識の探求者 ドクター・ウェスト(
ga0241)は、皮肉っぽく問うと、町のまとめ役の方は素直に頷く。
「天才と名高い君に、能力者しか対抗できない現在の状況について感想を聞いてみたいね〜」
「キメラの発生件数も、増加傾向にあるようですし、仕方無いのではないでしょうか〜?」
ウェストの言葉に、リーフ・ハイエラ(gz0001)はあっさりと答える。
SESの開発された1996年以降は、人類側でキメラ等バグアの戦力に対して、有効に攻撃する手段は開発されている。
もし、対抗できていないのであれば、2006年に能力者が誕生する以前に人類は完全に打ち負かされていたであろう。未知生物からの攻撃という人類存続の危機、それまでの人類の常識を超える事態に対して、多少の情報の混乱や錯綜が起こる事は自然なことである。すべてが正確に把握されている事の方が稀であるかもしれない。
今の時代は、能力者では無くても、多くの人が武器をとり、人類の存続と自立の為に、厳しい戦線を支えている。
「下手に手を出して死者がが出たら悔やんでも悔やみ切れません。‥‥そして、私達も眼鏡を作らなければ、生きて行くことができません。無茶な物言いかもしれませんが、よろしくお願いします」
「眼鏡の生産が停滞‥‥忌々しき事態ですよ‥‥」
頭を下げる町のまとめ役の方に、ラマー=ガルガンチュア(
ga3641)は穏やかな口調で言う。
「こんな状況を見過ごすわけにはいかないよねっ! 今回の任務なんとしても成功させなくちゃ!」
「住民の方の避難とかは、終わっているみたいですし‥‥後はキメラを倒すだけですね」
白鴉(
ga1240)が前向きに話すと、橙識(
ga1068)が続け、情報収集は完了する。
能力者の一行は、最後に作戦の概要を町の取りまとめ役の方に伝えると、キメラ退治のため立ち入り禁止区域へと向かうのだった。
●戦い
「花を持っていたところで、役に立つわけではないようだな」
リュインは持参していたセージ(サルビア)の花をそっと地面に置くと、蜂キメラに向かって駆けだす。頭髪が揺れ、黄金色の軌跡を残すように、軽快に。両者の距離は急速に詰まってゆく。
気配に気づいた蜂キメラが、動きを止める。リュインは、これ幸いとばかりに一撃を加える。
命中の瞬間、蜂キメラは赤く光るフォースフィールドを展開するが、盛大に吹き飛ぶ。
しかし、すぐに空中で体勢を立て直すと、『ブーン』という耳障りな音を一層高く発する。
刹那、建物の陰からと3匹の蜂キメラが姿を現す。
そして、一斉にリュインをめがけて襲いかかるのだった。
危ない! 誰もがそう感じた時、迫りくる蜂キメラの1匹が吹き飛んだ。そして、飛来した拳は持ち主の元に戻ってゆく。
「‥‥当たれば儲けものってね!!」
氷冥が放ったロケットパンチβであった。
「我の計算通りだな!」
素早く後方に戻ったリュインが言う。
実は、彼女の被る黒い帽子が、非常に効果的に蜂キメラの注意を刺激して居たりする。
「考える必要もなさそうだな! 駆け抜けるぞ!」
兵衛が促す。
4匹の蜂キメラは盛大な羽音を立てながら、囮班の3人の方に向かってくる。
もし、このまま戦い続ければ、数の上で3対4。少し分が悪い。
3人は当初の手筈通り待ち伏せ班との合流を目指して駆け始めるのだった。
「確かにここなら、工場にも近いし、周囲への被害もあんまりなさそうだね」
橙識が感心したように言う。
白鴉が選んだ場所は、立ち入り禁止区域内の水田である。工場からも近い位置であり、しかも民家はまばら、さらには集落までも充分な距離がある。ここならば存分に戦うことができるだろう。
「ドクター、超機械同士で電撃の相乗作用などの論文は無いのかい?」
「うーむ、我の研究の中にか?」
源次の問いにウェストは考え込んでいる。
「やって来ましたよ!」
「ほぇっ? もう現われたのですか?」
会話を切るようにラマーが言うと、橙識は振り向いて見る。
「眼鏡を愛する者たちの為に僕は戦う!!」
白鴉が長剣のヴィアを構えると、表情はみるみる険しくなり、腕に暗黒の蛇の文様が浮かび出る。覚醒である。
「我を走らせるな! 死を以て償え!」
「ちょ‥‥そうじゃなくて、リュインさん! これ作戦ですし!」
頭髪から青白い光を放ちながら走る氷冥が言うと、
「もう少しだ! 纏めてお返ししてやるとしよう」
「ええい! 我に余計な事を言わせるな! 早く片付けてしまわんか!」
ロングスピアを担ぎ直して走る兵衛に、命令形を目下大増量中のリュインが言う。
「けひゃひゃひゃ、待たせたな! 諸君! 我が輩がドクター・ウェストだ〜」
刹那、雷のような発光体が飛来すると巨大蜂のうちの1匹に命中する。命中の瞬間には、体表付近に赤いフォースフィールドが現れるが、源次の練成強化による支援も加えた圧倒的な破壊力の前には全く意味がない。一撃で黒こげになって落下するキメラ。1匹目は即死である。
「ナイスです。ウェストさん! 次は私たちの番ですよ」
氷冥は、身体の向きを変えると、蜂キメラに対する。
そして、素早い動きで鞘から抜いた白雪をワン・ツーのリズムで刃を振り上げる。刃は一筋の線を蜂キメラに刻む。
一瞬の間‥‥、空中で静止したかのように見えた蜂キメラは真っ二つに割れて落下する。2匹目撃破。
「くっ! 何で我ばかり狙われるのじゃ! いい加減にしろーーっ!!」
自分めがけて急降下してくる蜂キメラをリュインは寸前で交わすと、漆黒の爪を振るう。
それはクリーンヒットとなり人の腕ほどもある蜂キメラの脚を二本、半ばから切り離していた。
動きが大きく乱れる蜂キメラ。
「榊流古槍術の神髄その身に味わうがいい。覚悟を極めやがれ!」
兵衛はその隙を見逃さない。間髪を入れずに蜂キメラの胴の付け根を目掛けて槍を突き刺す。
刹那、蜂キメラは痙攣するような動きを見せると‥‥、兵衛に向かって尾部の針を大きく突き出す。しかし、それも虚しく空振りに終わり、その形を留めたまま動きを停止するのだった。3匹目撃破。
残り1匹。
「飛んでる的ってちょっと難しいかな‥‥? あぁ、そうだ! 落とせばいいんだ」
橙識のフォルトゥナ・マヨールーから放たれる弾丸が蜂キメラに命中すると羽根の一枚がちぎれて宙を舞う。
大きく体勢を崩し高度を落とす蜂キメラ。動きにも機敏さは無い。
「ふむ、これまでかな」
敵への間合いを詰めたラマーはバトルアクスを振り下ろす。高められた力を加えた一撃は蜂キメラの防御を完全に打ち破っていた‥‥。『グチャッ』と潰れるような音が響く。
「なんだか、すごく早く決着がついたね」
戦闘の終了を確信した白鴉が剣を鞘に仕舞う。
不快な羽音は完全に消え、風景は静けさを取り戻していた。
その後ウェストが自身の研究のためと調査を行うが、目的のものはみつからなかった事を付記する。
●勝者の宴
蜂キメラ撃破の報は、瞬く間に町を駆け抜け、誰もが、大したもんやと能力者たちを絶賛した。
戦闘が事のほか早く終結したため、時間に余裕がある。
能力者の一行の為に用意された宿には贅をつくした料理がずらりと並ぶ。
「越前と言えば、カニ、蕎麦、若狭牛! 全制覇だ♪」
リュインが目を輝かせて言う。
「これは、すごいな。うんうん、生き返るね!」
ラマーもまた、珍しい料理のラインナップに舌鼓を打つ。
「おや? あれがミズヨーカンかな?」
ラマーが見つけたのは葛饅頭である。
「もぐもぐ…」
葛饅頭の甘味は彼好みであっただろうか?
グルメを堪能した後は、眼鏡コースである。
そんな一行を尻目にこそこそと抜け出す者も居る。
「せっかく冬の越前に来たんだ。旬の海の幸もよいが、やはりコレが重要だ」
兵衛が手でくいっとポーズを取り、小声で呟くと、にやりと笑う。それを理解した源次も、
「自分も、お供させて貰おう」
と、連れだって離脱。静かな男だけの世界も時には重要だ。
越前の眼鏡は世界に名が知られている。創業100年を超えるM社のブランドをはじめ、この地域の技術力と品質の確かさは突出しておりそれ故に高い評価を得ることができるのだ。
「目が‥‥燃えてますね‥‥」
橙識が珍しいものでもみるようにぼそりと言う。
「でも! 見てください! これはかなりすごいですよ!」
リーフが感心してみているのは液晶搭載の眼鏡。視界を塞ぐことなくレンズ部分に映像を映し出す事が出来る。テレビの視聴から各種のモニタリングシステムなど組み込みの可能性は無限大だ。
「うーん、たしかにこれは凄い眼鏡だね」
ラマーもその眼鏡の映し出す映像の精細さに感心しているようだ。
「やっぱり眼鏡は大事ですよね!」
白鴉が言うと、リーフは静かに頷く。
「我は視力は良い方で、度入り眼鏡の世話にはならんが、眼鏡はファッションアイテムとしても重要だぞ」
リュインも言うように眼鏡は道具であると同時にファッションでもある。
故に工場の方を見終わると、次はショップの物色である。
「ん〜フレームは派手なものよりも、シンプルな方がいいかな? 代わりに、色は派手なものでもいけそうねw」
そう可愛らしく言う氷冥に、相変わらず『う〜ん』という表情を浮かべているリーフ。
「我も汝に似合いの品を探してやろう」
ドピンクの眼鏡を差し出すリュイン。
「えーと、これは随分鮮やかですね‥‥。あ、そう言えば‥‥リュインさん、忘れ物ですよ。今の季節には珍しかったので持ってきちゃったのですが」
リーフがどこからともなく取り出したのは、リュインが戦闘の際に置いてきた花であった。