●リプレイ本文
●あわただしい夕刻
落ち着いた光沢を感じさせる上品な赤地に伝統的なあしらい。艶やかに優雅に現れたのは、鯨井昼寝(
ga0488)である。後髪をかき上げるように結った首筋の生え際の白い皮膚、襟のから首筋に至る空間が見る者の目を奪うようだ。
「甘いわね。人生すごろくで勝てない者が、どうして実際の人生で勝てると言うの?」
発せられる言葉には勝負師のような激しさが籠もっている。
「‥‥ま、私の人生はギャンブルのようなものだから、な」
そう言うと、紫煙の助言者 UNKNOWN(
ga4276)は、ふぅんと鼻を鳴らす。悠然とした肉食獣のような気配を漂わせ、グラスを傾けている。
ブラックのベスト、パンツ。白い立襟のシャツにワインレッドのアスコットタイ、そして、白シルクのマフラー、黒のボルサリーノ帽という統一感のある着衣のセンスが光る。
「気にしないでくれ――ただ、賑やかに楽しみを表現するのが苦手なだけで、な」
極道とマフィアの共演かと間違えそうな光景である。
「はじめましての方が多いみたいだな。オッス! 俺は蓮沼千影。こういうボードゲーム、よくやったぜー!! よろしくたのむぜっ!!」
空気を読まないのは、蓮沼千影(
ga4090)である。服装は紋付き袴である。とても正月らしい。ああ、口さえ開かなければクール系美形で居れたのに。
「ここは、のんびりと双六を楽しみましょう。折角の年明け、嫌なことなんぞ忘れなければ〜」
陽気な声で言うのは、翠の肥満(
ga2348)である。
「あ、でも、勝負は勝負。勝利は誰にも譲りませんよ?」
「今年もあと少しだな、皆さん、どうぞ、お手柔らかに」
物腰柔らかに、ラマー=ガルガンチュア(
ga3641)は言うと、持参したケーキバーをトレーに並べて行く。かなり几帳面に。
「わお、この蜜漬けイチゴのバーとかも、ラマーさんが作ったのですか? すごく甘くておいしそうですね」
やたら具体的なところばかり見ているのは、リーフ・ハイエラ(gz0001)である。
「さてさて、どうなのかな?」
と、はぐらかすラマー。ちょっと気になるところであるが、ナイショらしい。
「さぁ、みんな! パーッとやってくれ!」
遊び人 アッシュ・リーゲン(
ga3804)イキイキとした様子でトレイに食べ物を並べて行く。鉄火・カッパ・カニマヨ等の巻き寿司から、ハムやチーズのそして卵などなどを挟んだサンドイッチ。実においしそうである。ちなみに、食材はこんな事もあろうかと、用意されていたらしい。
「ウヒャヒャヒャヒャ♪」
そして、何故か? 怪しい笑い声を発すると餡子と蜂蜜中をトレイの脇に置くのだった。
「わぁ、すごく‥‥おいしそうだね。すごろくで‥‥作られる人生‥‥か。望んだ訳じゃなく‥‥傭兵稼業とかやってる‥‥けど‥‥。ゲームで‥‥違う人生を楽しむのも‥‥悪く無さそう‥‥。これで年忘れも‥‥いいよ‥‥ね?」
ドキドキした様子で、サンドイッチに手を伸ばしながら言葉を紡ぐのは幡多野 克(
ga0444)である。
あ、そういえばと、遠慮気味に、和風のおせちを差し入れてくれる克だった。
勝負はまだ始まっていない。
「おっと、煎餅ありませんか? お茶受けにはこれが無いとさみしいですからな」
「うーん」
赤村 咲(
ga1042)が言うとリーフは少し悩んだ後、ぽむと手を叩き、四角の缶をどこからともなく取り出す。
「日本の友人から貰ったM吉っていう、おかき‥‥多分、お煎餅の事ですよね。これでいいかしら?」
そう言うとリーフは奥の部屋に向かう。お茶にココア、ミネラルウォータやグレンモルトのウィスキーや氷。さらには、クッキーとホットケーキまで。曰く、コーヒーと牛乳以外の飲み物や一部の食べ物は、微妙なツッコミにも負けずに、調達してきたらしい。
「まっ、まだ参加はできるかな?」
息を切らしつつ、最後に訪ねて来たのは、永劫の探求者 ランドルフ・カーター(
ga3888)である。
「ええ、大丈夫ですよ。でも、ナイスなタイミングなので、お茶汲みなど手伝ってくれませんか?」
と、リーフはにこやかに依頼する。
●人生すごろく!!
「新年初の運だめし! 楽しませていただくぜ!」
えいやとサイコロを振るのは千影である。サイコロはドンブリの中で転がると
『チンッ‥チロリン』
と、微妙な音を立てる。
『6‥‥弁論コンクールで優勝する+$1000』
「よっしゃぁ!!」
なかなか幸先が良い。
うんうんと盤面を眺めているのは昼寝である。
『人生すごろく!!』はすべてのコマに何らかの仕込みがある。終盤には分岐がポイントが1ヶ所あり、強烈な±が発生するコマが複数、仕込まれている。しかも、他人を巻き込むコマまである。
サイコロに不審な重心の偏りが無いかを十分に精査した昼寝は気合いを入れて賽を振る。
『チンチロロリンッ』
再び微妙な音が響く。
『2‥‥初任務が大成功! 10000$もらえる』
「よし」
と、静かに一言。絶好の滑り出しである。
「サイコロを振って、自動車の形をしたコマを手で動かすのですよ」
ランドルフが、穏やかな口調で耳打ちする。
「いや、こういう遊びはあまり経験がないからな」
目元も剣呑な光を浮かべつつ、軽くサイコロを振る。口元は僅かに微笑みを浮かべているようにも見える。
『2』
10000$プラスである。気前の良い賽の目が続く。
続いてカーターが賽を振る。
『4‥‥麻雀大会で優勝10000$もらう』
「おや? ラッキーですな」
3人続けてよい目が出すぎである。
「うわぁ‥‥みんな‥‥すごい‥‥な‥‥、僕は‥‥なにが‥‥でる‥‥かな‥‥?」
サンドイッチをもごもごとしながら、克はサイコロを投げる。
『6』
プラス1000$である。
「僕‥‥も、6かぁ‥‥千影さんと‥‥同じだ‥‥ね」
そう言うと無警戒に、アッシュの作ったサンドイッチを頬張る、表情がみるみる険しくなる、とても辛いものが混入されていたらしい。
「よしっ! おれの番だな」
そう言うと、結構真剣な表情を浮かべ、アッシュは、
「えいっ」
と、賽を投げる。
『4』
アッシュも10000$プラス。
「よっしゃ! いいぞ!」
「ちょっと! シメイさん! 覚醒しちゃってますよ!」
身体から白銀色のオーラを浮かべるシメイにリーフがツッコミを入れる。
「まさか、双六でまで、道には迷わないでしょう。えいやっ!」
『4』
またしても、プラス10000$。一体どうなっているのか?
「何が出るかな〜」
煎餅をガリガリと噛み砕きつつ、咲もサイコロを振る。
『4』
「また4が出たね」
「ええ‥‥4人も麻雀大会の優勝者が出るなんて‥‥、いきなりシュールな展開ですよね」
リーフが大粒の汗を流しながら咲に応える。そして彼女の一応、賽を振る。
『2』
確かに同じ目が続くような気がする。みんなきちんと振っているはずなのだけど。
大きなマグカップになみなみとココアを入れて挑むのは、ラマーである。
『1‥‥保険に入る 1000$払う』
「うんうん保険? とは安心を買ったのかな? 縁起がいいね!」
補足すると、保険に入れれば、入れた分の回数分、アクシデントが補償される。
「これでもサイコロとは相性が悪くありませんのでね。では、いざッ!‥‥失礼、クッキーを1枚」
翠の肥満は、気合いを入れてサイコロを振る。
『3‥‥風邪をこじらせて、仕事を休む8000$払う』
「ぐわっ! 」
最初の1歩目で不幸になったのは、彼だけである。しかし、勝負はまだ始まったばかりである。
●年は明けて2008年
少し時間は巻きで進める。ここまで、一人10投程度行っている。
メイド喫茶やメガネ喫茶、鉄道模型にはまって10000$払ったり、埋蔵金を発見したり、あるいは頑張った自分にご褒美と高価な乗用車を買わされたり、一部にマニアックな出費を重ねつつ誰もが第二の人生を歩んでいる。
『6‥‥で43コマ目‥‥子供がいなければ、男の子を出産。祝儀として10000$×『サイコロの値』を全員からもらえる』
千影が着いたコマは、出る目によっては莫大な収入を得ることができる。しかもライバルの財布の中から。
「よっしゃぁぁぁ!!! みんな悪いな! 頼むぜ、サイコロ!」
『2‥‥10000×10(人)×2=200000プラス』
全員が所持金から20000$づつを、千影にお祝儀として支払う事になる。この時点で借金を抱えていたシメイやUNKNOWNにさらに借金を重ねさせる凶悪さであった。
ちなみにこの時点での千影の双六内所持金は207000$。
その他にこの43コマ目に止まることが出来たのは、克(プラス100000$)、ラマー(プラス600000$)、カーター(プラス300000)であった。特にラマーが、賽の目に恵まれた。
「やるわね。でもまだ勝負は終わってないわ!」
ここまで比較的、特殊なコマを踏まずに進んできた昼寝が、終盤の分岐で波乱のコースに入る。
水で口を湿す以外は、何も口にせず、勝負を続けてきた彼女に振りかかった不幸であった。
『2‥‥で46コマ目‥‥配偶者が勝手に世界一周旅行にでかける100000$払う』
(「よりによってこんな所で!」)
下唇を噛み締めると、
「くっ」
と、吐息を漏らす。昼寝の優勝の可能性が一気に遠のく。
しかし、波乱のコースに迷い込んでも恵まれる者もいた。
「波乱‥‥ですか? 痛いですね」
咲は軽い調子でサイコロを投げる。
『4‥‥48コマ目‥‥旅行で行ったラスベガスでスロットが大当たり。400000$もらう』
「こんなにぐうたらして、儲かっても良いのかなぁ‥‥幸せだけど。そうそう、ボクも子供の頃はこういうボードゲームで遊んだものなのですよ」
咲はこの後、長年のよい行いが認められ全財産の半分を寄付をするなど、マイペースで終了することになる。
その他に、波乱のコースに入ったのは、アッシュ、カーター、UNKNOWNであった。
順調コースに進んだものにも、人生の落とし穴に落ちる時はある。千影はなんと、−540000$のゲーム内最大のマイナス下げ幅を叩き出していた。原因は家族旅行であった。
こうして、さまざまな理不尽なドラマに喜び、また、溜息をつきながら全員がゴールを果たす。
同じコース、同じサイコロであったにも関わらず、各プレイヤーの明暗ははっきり分かれ‥‥。
最終結果は以下の通りとなる。(双六ゲーム内で獲得の株券、保険は清算済み)
(優勝)1位 ラマー=ガルガンチュア 総資金 725000$
2位 水鏡・シメイ 総資金 396000$
3位 ランドルフ・カーター 総資金 302500$
4位 赤村 咲 総資金 301000$
5位 リーフ・ハイエラ 総資金 146000$
6位 鯨井昼寝 総資金 69000$
7位 アッシュ・リーゲン 総資金 65000$
8位 幡多野 克 総資金 ▼5000$
9位 UNKNOWN 総資金 ▼303000$
10位 翠の肥満 総資金 ▼331500$
11位 蓮沼千影 総資金 ▼416000$
まだ、外は暗かった。
翠の肥満と、咲は勝負の疲れを風呂で癒し、腰に手を当てながら、牛乳で乾杯を楽しんでいる。
「もう1回やりましょう!」
「ちょっ‥‥ウソだろ? ‥‥、あ。ねぇ、もう一回戦しねぇか?」
昼寝と千影の2人の迫力に押されて、ラマーと克、ランドルフ、リーフ、そして手持無沙汰の様子のシメイを加えた7人は再ゲーム中である。昼寝の勝負はまだまだ続くのだった。
「――幸せな人生、だな。ここにあるのは‥‥実に羨ましいもの、だ」
UNKNOWNはソファーにゆったりと深く腰掛けると、紫煙を吹かして呟くのだった。
太陽が水平線の間に顔を覗かせ、外の風景は明るくなり始めていた。
外の風景の変化に気づいたアッシュが窓を開ける。
「Happy New Year!! 夜明けだ! 新年はパーッと楽しく行こうぜ!?」