タイトル:新入生に救いの手をマスター:周利 芽乃香

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/04 23:09

●オープニング本文


 えと、その、あの‥‥
 私‥‥何すれば、いいんでしょう‥‥

●ここはどこ
 カンパネラ学園内だという事はわかっていた。自分が此処の学生だという事も。
 しかし、高城ソニア(gz0347)は自分が今どこにいるのかわからなかった。

 自分がエミタ適合者だと知ったのは編入前の学校、健康診断での事。
 世界の脅威と戦う能力者なんて、自分とは無縁の世界での話だとばかり思っていた――のに、あれよあれよと編入用の書類が届いて、やって来たのは能力者ばかりの学舎。
(「私は‥‥学業と能力者訓練を受けて、実戦に臨めばいいのよね‥‥?」)
 言葉にすれば単純明快だが、いざ何をすべきかとなるとこれが難しい。
 書類を手に、編入手続きをしようとしたソニアは、職員に搭乗機体を問われて固まった。
「き、機体ですか‥‥?」
 正直、どれも同じに見えた。
 だが魚屋の店先じゃあるまいし「今日のお勧めはどれですか」などと言う訳にもいかない。
 困って立ち尽くしていると、受付の上司と思しき職員が翔幻を勧めてくれた。
「じ、じゃ‥‥それで」
 結局、アジを買うのと同じ感覚で、何故勧められたのかもわからぬまま、ソニアはナイトフォーゲルHA-118翔幻を搭乗機に登録した。これで手続きは完了ですと受付に言われて、慌てて廊下に飛び出してゆく。
「あの生徒、大丈夫でしょうか?」
 あまりに頼りないソニアの姿に、受付が嘆息した。
 ここ最近、新規能力者が増えており、学園にも編入者が増えているが‥‥先ほどの生徒は、他の新入生とは段違いに不安定だ。大丈夫でしょうと救いの手を差し伸べた職員が微笑む。
「能力者の自主性に任せましょう」
 折りしも、初心者支援の依頼が出たばかりであった。

 ‥‥で、最初に戻る。
 廊下の隅っこに佇んだまま、ソニアはまだ悩み続けていた。
(「私は、これから何処へ行って何をすればいいのかしら‥‥?」)

●参加者一覧

絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
ジェームス・ハーグマン(gb2077
18歳・♂・HD
ロジーナ=シュルツ(gb3044
14歳・♀・DG
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
ニュクス(gb6067
15歳・♀・DG
亜(gb7701
12歳・♀・ER
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER

●リプレイ本文

●あなただれ
 明確な意思も目的も定まらず、廊下で固まっている新入生ひとり。
 最初に見つけたのは甲冑の戦士だった。絶斗(ga9337)、日々戦闘に明け暮れる戦士である。
「何をしている‥‥」
 一瞬怯えた様子のソニアを気遣い、面を外すと青年の顔が現れた。寡黙で言葉少ない絶斗だが、途方に暮れている新米能力者に手を差し伸べるだけの情を持ち合わせているようだった。
「え、あの‥‥」
「絶斗だ‥‥よろしくな‥‥ここで会ったのも何かの縁‥‥いくつか助言を送ろう‥‥いずれな‥‥」
 遠くに新たな救出者を認めた絶斗は、再会を約束すると面を被り直す。それ以上は話そうとせず、ソニアの許を離れた。
「‥‥あ、はい。また‥‥」
 おどおどと見送った少女に近付いてくる男子学生は、如何にも成績優秀優等生を絵に描いたような品行方正な佇まいをしている。後ろに付いていた少女が満面の笑みで声を掛けてきた。
「そこなお嬢さん、どうかしたんですかー?」
「登録を済ませた新入生ですね。学園施設を案内しますので、私についてきてください」
 亜(gb7701)がソニアを呼び止めると、きびきびした動作でジェームス・ハーグマン(gb2077)が案内に立つ。慌ててソニアは集団に紛れ込んだ。
「あなたも新入生‥‥?」
「‥‥ん?」
 自分より明らかに年下と伺える少女に話しかけると、亜は首を横に振る。
「俺は学園生じゃないですよ。経験豊富な傭兵から色々教えてもらえるって聞いて来た至極適当、どこにでもいるサイエンティストです」
 飄々とした自己紹介にソニアは少し解れたようだ。カンパネラ学園に通うのは、学園生だけではなく聴講生もいるのだと、その時初めて知った。
「私達も聴講生なんですよ。私達、今日はもう講義が無いので、良かったら学園案内してあげましょうか?」
「ありがとうございます!」
「私も初心者なの、よろしくね」
 諌山美雲(gb5758)に同年代の親近感を覚えたソニアは、美雲のまろやかに膨らみかけたお腹に目を遣った。自らを初心者だと言う春夏秋冬立花(gc3009)、二人とも歳が近いのに何てしっかりしているのだろう。
「学生は立ち入り禁止になっているところもありますから、絶対に離れないように!」
 ぼーっと物思いに耽りかけたソニアは、慌てて集団を追いかけた。

 その頃、ニュクス(gb6067)は学園散策中だった。
 大規模作戦も終わり、久々にできた時間だ。フリルレースの黒い日傘を差して、のんびりと中庭を歩いていると、向こうから見かけぬ集団が近付いて来た。
「いいお天気ですわね、絶好のお散歩日和です」
 微笑で迎えたニュクス、時間もありますしと同道を申し出た。
 明らかに登録したばかりの新入生ソニアに「学園へようこそ」と声を掛けた。通ってはいないものの同じドラグーンだというニュクスに、ソニアは学園について尋ねた。
「そうですね、私の印象ですとカンパネラは変わった授業のある普通の学校だと思いますね」
「変わった授業?」
 カンパネラ学園は本部の依頼を請ける事で単位を取得できるのだと説明し、ニュクスはそれを面白いシステムだと言って微笑んだ。
「自分の意思で依頼を受けるかを決められるのがいいと思いますね」
 学生達の意思を尊重し委ねる――自由な校風という事だろうか。
 武器は決まりましたかと問われて、いいえと答えるソニア。同じクラスの能力者はと物問いたげに視線を向けた。
「私はアサルトライフルを使っています」
「私は片手用の槍を主に使っていますね」
 それぞれ色々のようだ。
 スキルもまだ修得していない新入生には、武器さえどれが自身に適しているのかがわからない。困惑しているソニアに、ニュクスが苦笑して言った。
「ドラグーンはAU−KVさえ装備していれば、武器に制限がありませんから選ぶのが逆に難しいかもしれませんけど」
 色々試してみるのも良いかもしれない。ちなみにニュクスは趣味で選んだとか。
 それでは武器の説明に訓練施設へ案内しましょうと、ジェームスが言った。

●きいろのぶんぶん
(「なんだありゃぁ‥‥」)
 引率旗の幻が見えるような一団を見つけたレインウォーカー(gc2524)、彼自身はAU−KVの試験場を探していたのだが。
「放っておいたら死ぬな、あいつ」
 集団の最後尾でオロオロうろうろしている女子学生は明らかに危うかった。実戦を重ねた経験から来る勘で言わせて貰えば、あれで戦場に立てば瞬殺だ。
 場所を尋ねたついでに、レインウォーカーは集団に合流する事にした。
「高城って言ったなぁ。ボクの名前はレインウォーカー。レインでいい。よろしくぅ」
 一番頼りなさげな新入生に挨拶して、一行が向かうは訓練施設。今日はKVに乗り込みはしないけれど、見学するだけでも知識になるだろう。

 ――と、先客がいた。

「‥‥ふぇ?」
 訪れた集団が新入生の案内をしているのだと聞いたロジーナ=シュルツ(gb3044)は、ソニアの顔を不思議そうにじっと見つめた。
「‥‥ボクに教えられることそんなにないけど」
 ――などとは言うものの、彼女もまた学園の先輩であり優秀な能力者だ。銃器や爆発物などが保管されている倉庫を案内したロジーナは、不用意に触れようとしたソニアを制して説明した。
「これ、ここがぶんぶんして怖がってるからこれを外してから投げるの、そうしないとボクたちまで夕焼け色になっちゃう」
「ぶんぶん‥‥?」
 ロジーナが指差したのは手榴弾‥‥だっけ。手榴弾が怖がるの?
 混乱しかけたソニアに、柿原錬(gb1931)が優しく微笑みかけた。
「うん、最初はわからないよね‥‥僕も最初は、よく分からなかったな‥‥」
 考え考え、一生懸命伝えようとしている錬。ロジーナ特有の比喩がわからなかったソニアだけれど、錬の誠実な態度に少し落ち着いたようだ。
 一応実戦経験はあるものの、学生能力者の感覚が新鮮で、亜は心底感心した相槌を打つ。
「ほーほー、ぶんぶんですかーこれはどうなんですかー?」
「ここね、すごくぶんぶんしてるでしょ。外したらすごくまっ黄色になるけど、そうしないと撃てないの」
 相変わらず独特の比喩で説明するロジーナ。ソニアは精一杯付いてゆこうと懸命に耳を傾けた挙句あっぷあっぷしている‥‥
 美雲は優しく助け舟を出した。
「そろそろお昼にしましょう」
 集団の何名かがほっと息を付いたとか。

●ごはんだいじ
「ここが食堂です。50分後に食堂前に集合、その間は自由時間です」
 一時解散を告げるジェームスの声に、皆の腹が鳴った。
 食事は生命維持の基本、まして食べ盛りの学生達が集中する食堂は大層賑やかだ。寧ろ戦場と言っていいかもしれない。
 小さな身体の何処にそれだけの食料が入るのか。白銀の髪をさらりと傾け、ひたすら食べ続ける幼女ひとり。
「‥‥ん。食べる事は。生きる事だから。大事。重要。大切」
 最上憐 (gb0002)、話す端から皿を空けてゆく。ソニアは呆気に取られてみているばかりだ。
 だが、これも能力者には大切な事。豪快にパスタを掻き込んで、憐は心構えを語る。
「‥‥ん。能力者でも。腹が減っては。戦は出来ず。お腹を満たすのは大事」
 そう、臨戦時には食事の時間すらままならぬ事があるのだ。だから食事できる時に全力で食すべしと憐。しかし凄まじい早食いである。
 錬が大盛りのカレーを運んできた。彼の昼食ではない、憐の昼食だ。
「‥‥ん。速さを上げるには。飲み込む事。出来るだけ噛まずに。胃に押し込める事」
 消化不良を起こさないのかと尋ねるのは禁句のようだ。何せ傭兵の心構えである。
 言うなり、憐は大盛りカレーの皿を両手で持ち上げて一気に嚥下した。
「‥‥ん。練習には。カレーが。お勧め。カレーは。飲み物。飲む物。慣れれば。直ぐ。飲める様になる。ソニアも。やる」
 皿大盛りのカレーを飲み干したのに憐は平然としている。標準量のカレーをソニアの前に突き出した。
 スプーン握って暫し逡巡、意を決してスプーンを置くと、ソニアは皿を両手で持った。
「‥‥!?!!!!」
「‥‥ん。ちなみに。慌て過ぎると。鼻から逆流するから。気を付けて」
 残念ながら、忠告は遅かったようだ――

「私、月見うどんお願いしま〜す」
 美雲にお勧めを聞いてざるそばを選んだ立花は、月見うどんをトレイに乗せた美雲と並んで空き席へと歩いていると。
 人混みが、割れた。
 さながらホテルや黒服のお出迎え、二人の目の前に幻のレッドカーペットが敷かれたかのようだった。
(「美雲さんは有名人なんですね‥‥綺麗で淑やかで、お嬢様で‥‥」)
 都合よく誤解した立花を他所に、両脇の学生達は恐れ慄いているようにも見える――と、その時。
「零さないように、転ばないように、そおっt‥‥きゃあ!!」
「美雲さんっ!」
 美雲がこけた!溢れんばかりの汁を湛えたうどんの椀が宙に舞った!
 助けようとした立花は自分がトレイを持っていた事を失念していた!ざるそばも宙も舞う!
 食堂の床は麺にまみれてしまうのか!!
 ――と、そこに現れた絶斗。
 月見うどんもざるそばも、汁も余さず上手にキャッチしたネタ殺し‥‥もとい器用な絶斗は、無言でトレイを二人に返すと食堂から立ち去った。
 ありがとう絶斗!食堂の平和を守ってくれて!!

●わたしなりに
 さて、食事を済ませた一同は、食後のお茶を手に四方山話。鼻を通った刺激から漸く解放されたソニアが大人しくバニラアイスをつついている。
「まったく‥‥お前ら、食い物を大事にしろよぉ」
 大食、早食い、トレイ飛ばし‥‥昼食ひとつで大騒動の有様に、ド天然なら仕方ないかと思わずレインウォーカーの口から苦笑が漏れた。

(「良かった‥‥皆さん気さくな人達ばかりで‥‥」)
 少し緊張が解けてきたソニアを交え、誰からともなく新入生案内の続きになるのは自然の流れだ。
「私が傭兵になった理由ですか?う〜ん、飛行機に乗りたかったからかな‥‥?」
 元々は航空高等専門学校生だったのだと美雲。
 家族の勧めや大切な人を護る為など、皆それぞれに事情や理由があるようだ。偶々適正が見つかっただけのソニアには少し羨ましく感じたりもする。
「ところで、KVは何を選ばれたんですか?」
 ニュクスの問いに翔幻だと答えるソニア、勧められたまま登録したとは言い出せぬ。私も予備機として使っていますとニュクスは微笑んだ。
「積載量が難点ですけど、スキルで周囲の機体を支援できるでなかなかいい機体だと思いますよ」
 そっか、いい機体を勧めて貰ったんだ。やっぱり機械の事はさっぱりわからなかったけれど、何となく嬉しくなった。
 漸く顔の筋肉が緩んできた新入生に、先輩達からの暖かい言葉が重なる。
「来たばっかりなんだから、迷うのは悪くないと思うよ‥‥流され過ぎなければさ」
「あのね。ボク達、すごいことなんて何もしてないんだよぉ?普通にしてるだけ。たまに黄色くてぶんぶんするから、そういう怖いのはどけちゃうだけ」
「まあ、怖いのはみんな一緒さぁ。もちろん、ボクもねぇ。けど何もしないで死ぬよりは恐怖に抗って戦う方がずっといい。死んだら後悔もできないしねぇ」
 錬にロジーナ、レインウォーカー。それぞれ独特の口調で語る励ましは新たな戦士に向けた餞の言葉。
 山盛りのイチゴかき氷を一気飲みしてなお、憐には頭痛の様子もない。一滴残らず飲み干して、憐はさらっと言った。
「‥‥ん。キメラは。意外と。食べられるのが。多いから。依頼では。貴重な。栄養源」
 憐にそう言われると、敵も怖くなくなってくるから不思議だ。
 最後に亜が笑顔で結んだ。
「ま、どう生きるかなんて自分次第だと思いますよ。やりたいように、一生懸命生きれば良いんじゃないかな」
「はい!」
 いつしかソニアは自然に笑えるようになっていた。

 その後軽く学園内を回って自由解散。
「立花さん‥‥どうかなさいましたか?」
 何事か、物言いたげな様子が気に掛かってソニアが尋ねると、二人きりで話がしたいとの事。
 やがて立花は、静かに話し始めた。
「皆さん色々言ったけど、私は自分の心のままにしていいと思う」
「心のままに?」
「ええ、私は意思の疎通ができる相手とは解り合えると信じてるわ。人間かどうかなんて、喧嘩する切っ掛けにはなっても、仲良くなれない理由にはならない。と私はおもうんだけどね?」
 バグアとの共存。それはある意味危険思想と言えた。だが今のソニアに判断の術はない。
 困惑するソニアに、ふ、と微笑んで立花は補足した。
「勿論、自己中心的とか怠けるわけじゃなくて、自分の心の天秤が重きを置いたほうを選んでいくって事なの」
 自分の信じる道を選んでゆく。だから信じる道の為に、信じる道が見つかった時の為に学び訓練する。
 思想や目的を明確に持って能力者となった立花の考え方だった。

 伝えるべき事を伝えて去る立花を見送るソニアの様子を見ている影があった。
(「力を求めるのは悪い事じゃない‥‥だが、力に飲まれる人間にはなるなよ‥‥」)
 少女達の話を隠れて聞いていた絶斗は、心中で呟くと自らも学園を後にしたのだった。