タイトル:Howlingマスター:風待 円

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/05 23:39

●オープニング本文


「人狼は、人に化けて、そっと近くに忍び寄るんだ。そして、相手が気を許した時に──」

 おばあちゃんが言ってたっけ。
 まさか、あたしがこんなのの相手をする事になるなんてね。
 連絡を受けた時には、村人の殆どは襲われた後だった。
 一緒に任務に就いた傭兵達とも通信が繋がらない‥‥

「四面楚歌って奴、ですか。通信機が生きてたから、救援は呼べたけど‥‥救援部隊が到着するまで生き残らないと──」

 タリアは自分の無力さに絶望し、溜息をつく。
 傭兵としての初任務で、おそらく自分を残して他は全滅。
 逃げ惑う街の人々の声が、まだ時折聞こえてくる。

「助けたい‥‥けど‥‥っ!」

 ぐっと拳を握り締める。
 あまりの悔しさに、傷の痛みなんて気にならないくらい。
 自分一人ではどうにもできない。先程までの戦闘で、それが身に染みて解ってしまった。
 出来る事。たとえ、敵わなくても。戦う以外に、救援部隊が来るまでに出来る事。

「せめて、一人でも多く助けられる様に‥‥っ!」

 自分でも悪い癖だと解ってはいても、やはり体は動いてしまう。
 タリアは、茂みの中を身を潜めて走る。
 心の中で『きっと、また怒られるんだろうな』などと考えがよぎりもするが。

 それでも、私は助けたい。
 それでも、私は生き残りたい。
 矛盾した二つの物を欲張りに手に入れる為に必要な物は──勇気。

 ‥‥それが、人から見て無謀だったとしても。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
アリオノーラ・天野(ga5128
17歳・♀・EL
鍋島 瑞葉(gb1881
18歳・♀・HD
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
ルーイ(gb4716
26歳・♂・ST
雪待月(gb5235
21歳・♀・EL
鷹谷 隼人(gb6184
21歳・♂・SN

●リプレイ本文

 現場に急行する高速移動艇の中、焦りを隠せない傭兵達が依頼の資料を確認する。
 キメラに急襲され、街の人々の避難も完了していない。
 ‥‥何より、能力者が七名。おそらくやられている。

 早く、早く。
 助けられるなら、少しでも助けたい。
 タリア達傭兵の安否も気になる所だ。

 藤田あやこ(ga0204)は格納庫で怪しい単語を呟きながらジーザリオの整備中だ。

「人狼か‥‥外見は‥‥程遠いようだけど‥‥ 安否が‥‥気にかかる‥‥ 急ごう‥‥」
 タリアからの通信を元に作られた簡易資料を手に呟くのは幡多野 克(ga0444)だ。

「8人の能力者を3匹で撃退、か‥‥ 何だか厄介な相手みたいだね」
 幡多野の持つ資料を横から覗き、ルーイ(gb4716)が呟く。
 やはり、能力者8人が音信不通というのが気に掛かる様だ。

「タリアさん達の事も気になりますが、まずは民間人の保護を優先ですわね」
 無線機の周波数をチェックしながらアリオノーラ・天野(ga5128)が呟く。
「彼女たちも立派な能力者。簡単には死なないと信じておりますわ」
 己に言い聞かせる様に、そう繋げる。

 高速移動艇内にパイロットから通信が入る。
『後10分ほどで現場に到着です。 ──準備はよろしいですか?』

 ──傭兵達の表情が引きしまる。



「人に化けて人を喰らう‥‥か。 寝首をかかれない様に気を付けないとね」
 愛銃の最終チェックを行いながら冴城 アスカ(gb4188)がぼそりと呟く。

「一つでも‥‥多くの命を助たい‥‥その為には‥‥盾にでもなろう‥‥」
 周囲に比べて一際軽装な鷹谷 隼人(gb6184)がそう漏らすと、冴城が言葉を返す。
「人を救う為に盾になって死んじゃだめだよ。」
「‥‥わかってます‥‥ 死は、大嫌いですから‥‥」
 鷹谷の言葉に安心したのか、冴城は苦笑を浮かべる。

「ではみなさん、2班に分かれて町の捜索という事でよろしいですか?」
 バイク形態のミカエルに跨って声を上げるのは鍋島 瑞葉(gb1881)だ。
 無辜の人達を傷つけるキメラ を許せない。
 物腰柔らかな鍋島の目は強い意思を秘めていた。

「藤田さんのお車に、私と鷹谷さん、鍋島さんはAU−KVで私たちに随伴でよろしいですね?」
 雪待月(gb5235)が最終確認を傭兵達に向けて行う。
 静かに頷き合い、傭兵達は街へ足を向ける──



 ●惨劇の舞台

「さてと‥‥まずは逃げ遅れた人を助けなきゃね。 タリアさんとの通信は?」
 冴城がルーイに問いかけると、彼は首を捻っている。
「それが、どうも繋がってるみたいなんですけど、応答が無いんです。 衣擦れの音がするので、生存しているか──」
「──お食事中か‥‥ね」
 最悪の事態を思い浮かべ、傭兵達は顔をしかめる。
「あまり想像したくありませんわね‥‥」


 ‥‥────ッ


 街の広場で傭兵達を出迎えたのは、遠くで月夜に響く獣の遠吠え。
 そして、街に広がる凄惨な光景の始まりだった。

 街の石畳には黒々とした血痕が残り、何か‥‥おそらくは襲われた人が、引き摺られた跡。
 不思議な事に、見当たる死体は無く。夥しい血痕のみが街のいたる所に残っていた。

「‥‥これだけの‥‥血痕が残ってるのに‥‥死体が無い?」
 幡多野が引き摺られた血痕を眺め、それを追って行く。
 後に続き、3人も周囲を警戒しつつ血痕の行方を追う。
 そして、血痕は風車小屋の前で────血溜まりになっていた。

 一人の物ではなく、複数人。沢山の人の物であろう血が。
 文字通り水溜りの様に道の窪みに溜まっている。
 独特の鉄臭さが鼻を衝き、思わず口を覆ってしまう。

 口を押さえ、壁を伝う血痕を目で追う、その途中。



 ぼとり。


 石畳に何かが落ちる音。


 それは、かつて人であった物の一部。


 見たくない物。


 その先には、大量の人であったものと、それを肉塊にした犯人──人狼。



 闇に光る赤い目が傭兵達を眺めるが、人狼は屋根伝いにすぐに姿を消してしまう。
 後を追おうと体が自然に動きかけるが、ルーイが声を上げる。
「みなさん! さっきは気付きませんでしたけど、これ!」
 無線機を3人に向けて音声のボリュームを上げる。
 聞こえるのは──
「‥‥遠吠え?」
「そうです。遠吠えが、ほら。ボリュームを下げるとあっちから聞こえてきます」
「つまり、遠吠えの聞こえる方角にタリアさんがいるという事ですわね。通信が出来ない以上、そちらに向かうのも手でしょうか」
「行こうか。考えていても仕方ないだろうしね」
 冴城の言葉に頷き、遠吠えの方向へ向かう傭兵達だった。



●似て非なる物

 ジーザリオとミカエルによって、街の奥まで足を運んだ者が見た物も、やはり別行動した物達と同じ物。
 かつて人だった物。
 そして、生気の感じられない空間。

「やぁ諸君、私は正義の味方だ。助けに来たぞ!」
 メガホンで叫ぶ藤田の言葉に返答は無い。
 それでも生存者を探し、傭兵達は走り回る。
 人の隠れられそうな場所を虱潰しに周り、幾人かの生存者を確認。
 ジーザリオを藤田が運転し、雪待月が後部で怪我人の治療を行いながら高速移動艇までピストン輸送を開始する。

 鍋島と鷹谷はその場に残り、引き続き生存者の捜索に当たっていた。
 ──その時。


 気配も無く鷹谷の首元に当たる冷たい感触。
 おそるおそる首元に当てられた手を見ると、そこには獣の様な腕。
 声も出せず、身動きも取れない。

 殺られる。

 そう思った刹那、鍋島の声が響く。
「鷹谷さん? そちらはどうです?」

 その時、鷹谷の背後の影から一つの言葉が漏れた。
「あなたは、本物?」
 ぶんぶんと首を縦に振り、擬態でない事を示す鷹谷を開放し、人影は明るみに出た。
 そこには──ビーストマンとして覚醒した姿のタリアが居た。
「あなたがタリアさん? 通信は?」
「ええ、あなた達が救援部隊? 来てくれてありがとう。通信に出られなくてごめんなさい。追いかけっこばかりでね」
 タリアは自身の腕の傷を指差し苦笑する。
「現状は合流した傭兵が、あたしを含めて3名。 残りの二人は負傷してるから、実質動けるのはあたしだけです。 覚醒するとこの姿だし、狼男相手に被害を受けた人達の前に居るわけにもいかないしね」
 タリアは寂しそうな溜息を短く吐き、言葉を続ける。
「生存者は纏めてそこの建物の地下。残りの二人が護衛してくれてます。あたしは生き残りを探しながら鬼ごっこの途中だった訳です」

 状況説明は鍋島が通信機で別班にそのまま通している。
 合流するのにはさほど時間はかからないだろう。
 その後の細々とした状況質問を行っている、その時。

 フラフラとよろめき、路地から倒れこむ女性が一人。
 そして、そのすぐ傍の屋根には──手負いの人狼。

 鷹谷が駆け寄り、女性を抱き上げて路地へ。

「待って! 信じちゃダメ!」
 タリアの叫びが届くよりも早く、鷹谷は行動する。

 そして手にした【OR】秋月で、屋根にいる人狼へ急所突きと鋭角狙撃を使用した攻撃。
 それは、人狼の体に当たる事は無かった。
 鷹谷の体が宙に舞い、民家に向かって吹き飛ぶ。
 鷹谷の抱き上げた女性が人狼の擬態だったのだ。
 ミシミシと嫌な音を立てつつ人狼の姿へと変化していく女性。
 全身に毛が逆立ち、胸部や頭部等に鎧の様な外殻が現れる。

 タリアが咄嗟に鷹谷を抱き止め、民家への激突を免れる。
 そして鍋島が鷹谷を弾き飛ばした人狼の元へ。

 完全に不意打ちを食らい、しかも軽装だった鷹谷は意識も無く、それを抱き止めに入ったタリアもかなりの傷を負ってしまった。
 実質、鍋島一人で人狼2体を相手にする事になってしまう。
 鍋島が覚悟を決めてイアリスの柄を握ったその時。
 屋根の上の人狼が叫び声を上げる。
 
「お待たせしましたわ」
 そこにはエネルギーガンを構えて不敵に微笑むアリオノーラの姿。
 そしてそれに続き幡多野が跳躍し月詠を人狼の外殻の隙間へ突き刺す。
「外殻を強化した人狼‥‥か? さすがに通り難いな」
 返す刀で人狼の爪を受け、呟く。

「大丈夫‥‥じゃないですね‥‥ とにかくこちらへ。治療しますっ!」
 ルーイが人狼に練成弱体をかけ、鷹谷とタリアの元へ駆け寄る。
 鷹谷は返答する力も無く、タリアもぐったりとしている。
「‥‥建物に入る前に言ってね、覚醒、解かないと‥‥」 
「了解ですよ。喋らないで下さい。傷が開きますよ。今、僕の仲間が人狼と戦っていますから」


 一方、鍋島はイアリスを片手に人狼と一対一になっていた。
 防ぎ切れない攻撃で、ミカエルの装甲に傷が入っていく。
「っく‥‥!」
 ギリギリとイアリスで受けた人狼の爪が鍋島の眼前に迫る。
 押し切られるかと思ったその時。乾いた銃声が連続して人狼の背後から響く。
「はぁい。そこの素敵な狼さん。私とワルツを踊って下さらない?」
 おどけた口調で人狼に声をかけるのは冴城だ。【OR】シルバー・チャリオッツ と【OR】ゴールド・クラウン の二挺を構え、眼光は鋭く人狼を睨み付ける。
 
 冴城に注意が向いた隙に、鍋島は距離を取り、体勢を整える。
 キュッとスキッド音を鳴らし、ターン。
 そして、龍の爪を乗せた攻撃を外殻の無い部分へ。
 人狼の肩口に突き刺さったイアリスを引き抜き、鍋島は次の態勢に移る。
 冴城の射撃により注意を逸らされた人狼の腋へ深々と突き刺さる剣。
 これが致命傷となり、一匹目の人狼は絶命した。

「後一匹、居るはずですよね?」
 乱れた息を整えつつ、鍋島は冴城に声をかける。
 向こうでは幡多野とアリオノーラが未だ交戦中だ。
「その筈ね。一体どこに‥‥」
 その時、ピストン運送を終えた藤田のジーザリオが戻ってきた。



●もう一つの影

 藤田と雪待月がジーザリオから降り、即臨戦態勢に入る。
 冴城、鍋島、雪待月と共に幡多野達が戦う人狼の元へと駆けつけたその時。
 手負いの人狼が藤田たちの下へと飛び掛る。
 そして、アリオノーラの背後に、もう一匹の人狼が音も無く現れた。
 幡多野はすかさずアリオノーラの援護に入り、彼女を下がらせる。
「そちらはお任せしますわね」
 アリオノーラはすぐに援護の態勢を取り、藤田達へ声をかける。

「ほら、もっと楽しく踊りましょう?」
 冴城の放つ弾丸は、手負いの人狼へ容赦なく降り注ぎ、仲間の攻撃チャンスを作っていく。
 赤い瞳で交互に銃を撃ち舞う姿は、まるで本当に踊っているかのよう。
 リロードの際に攻撃を受ける姿も、そのダンスの一部のように。

「藤田さん、援護をお願いします!」
 次々と撃ち込まれる弾丸の雨の中、雪待月がファング・バックルを使用し、蛍火で人狼に切りかかる。
 そのインパクトの瞬間、藤田の練成強化が雪待月の蛍火にかかる。
 そして、外殻に邪魔されながらも致命傷を与える事になった。
「ほら、ドンピシャリだ」
 藤田はなにやら満足げだが、戦闘はまだ続く。
 
 アリオノーラと藤田のエネルギーガンによる援護の中、幡多野は攻撃の機会を探る。
「さっきので、通り難いのは解ったからな」
 一撃目は、先程と同じく急所突きを使用した外殻の隙間を突く攻撃。

 ──そして、金の瞳が残光を残し、揺らめく。

「おぉッ!!」
 そして、二撃目。
 外殻の隙間を狙った、豪破斬撃 と流し切りを使用した渾身の一撃。
 幡多野の月詠は深々と人狼の肉体を切り裂いた。
 二歩、三歩とよろめき後退する人狼。

「幡多野さん! いきますわよ!」
 アリオノーラから声が飛ぶ。
 幡多野が素早く身を離したそこに、レイ・エンチャントを乗せたアリオノーラが放つエネルギーガンの一撃が止めを刺したのだった。



●惨劇の終焉。そして──

 ULTの後処理部隊が、黙々と作業を続けている。
 結局、助かった街の人々は、元の人口の10分の1にも満たなかったという。
 今回、傭兵達は救援部隊として駆けつけたのだから、起こった後の惨状は問題ではない。
 むしろ、生存者救出に関しては大きな功績を挙げたと言っていい。

 ──ただ、やはり、被害が大きい事を目の当たりにすると、気は沈んでしまうものだ。

 今回のチームで鷹谷が戦闘不能になったのは、注意不足、準備不足が重なった物だろう。
 事前の情報を整理し、準備を行う事で回避できた事である。
 当の鷹谷は、先程高速移動艇で病院へと搬送されていった。
 傭兵達の暗い顔を見回し、冴城が声を上げる。
「ふぁぁ〜‥‥早く帰って一杯引っ掛けたいわ‥‥ね、みんな付き合わない? 勿論未成年はジュースだけど」
 彼女なりに気を使っての言葉だろう。皆が顔を上げる。
「そうですね。状況報告も終わった事ですし、僕達も付き合いますよ。ね?」
 ルーイが周囲を見回し、微笑みかける。
「そういえば、タリアさんは‥‥?」
 鍋島が周囲を見回すと、包帯まみれになりながらも、元気に歩いてくるタリアの姿が目に入った。
「やー、いっぱい怒られちゃいました。 あたしのチームの残り5名も、重症ながら何とか生き延びていたので、お咎め無しです」
 タリアが生存者から聞いた話によると、人狼による急襲は昼間に人に擬態した姿から始まったとの事。
 ふらりと現れた一団が、人狼に変化。虐殺の限りを尽くしたという話だ。
「同じ手で壊滅寸前まで追い詰められたあたしが言うのも何だかなー‥‥なんですけど」
 苦笑しながらタリアが続ける。
「ただ、気になるのは──最初に目撃された一団って、7人居たそうなんですよ。 この町にはもう居ないみたいですし、ULTの方で周辺への警戒と捜索をかけて貰っていますけど。 また、似たような被害が出るのは防ぎたいところですよね‥‥」

 その通りだ。
 目的はハッキリとしないが、同じ様な虐殺は未然に防げるにこした事は無い。
 ひょっとしたら、これはまだ序章に過ぎないのかもしれない。
 高速移動艇に向かいながら、傭兵達はそう胸に予感を感じるのだった。