●リプレイ本文
(アフリカの開放か)
蒼河 拓人(
gb2873)はこれまでロシアや中国、東京など色々関わってきた。
「それじゃあここでも礎のひとつになろうか」
そう呟き、眼前に展開する無数の敵に目をやった拓人の頭上を、KVの編隊が行き過ぎる。
後方で光が炸裂し、爆音が轟いた。
「うわ、すごいな‥‥」
双眼鏡でその様子を見ていたクラフト・J・アルビス(
gc7360)は、感嘆の声を上げた。
「あれじゃ、俺達の出る幕ないかもね。ついでに、そこのキメラも倒してくれると良いんだけど」
そういう訳にもいかないかと、双眼鏡から目を上げて仲間達を見る。地中に潜っているという大トカゲ型キメラを探してみたが、相当注意深く探さないと無理な様だった。
「ですが‥‥怪しい場所は、見当がつきます、ね」
同じ様に観察を続けていたキア・ブロッサム(
gb1240)が言い、注意を促した。銃の射程に入ったら、突入前にまず確かめておく必要があるだろう。
「で、作戦は? このまま勢いで行っちゃっても良いけど‥‥何かあるなら聞くよ?」
アネットの言葉に、キアは自分の立てたプランを告げた。
「傭兵と、同様に‥‥前後衛に別れ‥‥互いに左右前方、各々に展開するのが‥‥理想、ですね」
一方が崩れる際は後衛同士援護を借り合い、バランス調整が出来れば尚良し。
「ん。じゃあそれで行こうか」
指揮官の仕事を放棄している様に見えるが、これで良いのだ。実戦経験の豊富さで言えば、傭兵の方がずっと先輩なのだから。
やがて爆撃を終えた空戦部隊が高空へと舞い上がると、地上部隊はゆっくりと進軍を開始した。
空からの攻撃を受け、一時は統率を失っていたかに見えたキメラ達も落ち着きを取り戻し、こちらに向けて進み始める。その回復ぶりを見ると、どこかに指揮官がいるらしかった。
(久々ですね、こうして戦場に立つのは)
湊 影明(
gb9566)がこうして戦場に立つのは、殆ど一年ぶりだった。
(預かった武装は使い込まれた散弾銃と無銘の刀、どうにもやり辛い)
自分の物ではないのだろうか。影明はそれらの武器をしげしげと眺めると、刀を鞘に収めて腰に帯びる。銃は片手に持ったまま、バイク形態のリンドヴルムに跨がった。
(何方の武器も使いやすい訳ではないが手入れはされているか。ならばこちらが武器に合わせるのみ)
そのまま一人先行し、先程キアが確認したトカゲの潜伏場所へ向かう。
途中のキメラを突き飛ばし、蹴散らしながら、真っ直ぐに。その音と振動に反応したトカゲ達が飛び出して来た。走り抜けるバイクを追って次々と、まるで地雷が炸裂する様に。影明は走りながら、飛び出したキメラの大きく開けた口に向かってショットガンをぶち込んだ。
砂にハンドルを取られ転倒しそうになるが、何とか踏ん張る。転んだら、そして恐らく止まっても、頭からパックリやられてしまうだろう。武器を持ち替える余裕もない。接近される前に距離を取り、撃つ。
そのうちに、仲間達が追い付いて来た。
「悪いけど今回は後に友達との約束があるかんね。手加減はできないよ」
足音を忍ばせて近付いたクラフトはキアルクローで背後から斬り付ける。
「あれ、結構固い」
ならばと、横に回って脇腹を蹴り上げ、ひっくり返した。砂から飛び出す動作は素早いが、一度出てしまえば動きは鈍い様だ。無様にさらけ出した腹に向けて爪を突き刺し、裂く。
と、クラフトの足下が崩れ、鮮やかな色が現れた。囮に釣られずまだ地中に隠れていた一頭が、大口を開けて飛び出して来たのだ。しかし、クラフトは瞬天速で距離を取る。体勢を立て直し、再び潜る前に刺す。
「今回お前らに傷つけられるつもりはねーよ」
絶対無事に帰るんだから。そのためにも、本気で叩いてやる。
ある程度の数を誘き出すと、影明はAU−KVをアーマー形態に。潜っているキメラはまだ居そうだったが、これ以上増やすと対処の手が足りなくなる。それに、周囲には他のキメラも混在していた。
影明はショットガンを菫に持ち替え、近付く敵を薙ぎ払う。他の動きの素早いキメラの攻撃は受け流し、返す刀で斬る。常に敵が視界に入るように心がけ、数的優位を保てる様に――とは言え、キメラは次々と押し寄せて来る。
しかし、実際に囲まれる状況に陥る事はなかった。気が付けば、自分の背後を狙うキメラが崩れ落ちている。遠くから聞こえる、雷鳴の如き銃声。キアの援護射撃だった。
「我はカルブ・ハフィール 。汝らを狩る猟犬なり!」
名乗りを上げると、カルブ・ハフィール(
gb8021)は狂戦士と化した。
一声吠えると、キメラの群れに突っ込んで行く。獅子や虎などは以前にも戦った。同じやり方で対処すれば良いだろう。それに今回は守るべきものもないから、背後を気にせず存分に戦える――とは言え、逃すつもりはないが。自身の速度とバグアに対する憎しみを力に変えて、大剣に込める。
迫り来る大型の敵を円閃で迎え撃ち、絡み付こうとする蛇は蹴散らし、踏み潰した。近付く事は許さない。時折混ざる蠍は側面に回り込み、スマッシュで叩き潰す。
「さぁ、前哨戦だ。勝たせてもらおうか」
追儺(
gc5241)は足の速い虎型キメラから狙って行く。足さえ止めれば、もう構わない。余裕があれば自ら潰すが、トドメを刺す事には拘らず次の標的へ。
(ようやくここまでだ‥‥お前らはここに残っていけ。邪魔などさせはしないさ)
頭の上を超えて背後に回ろうとした時、晴れた空に雷鳴が轟く。殆ど同時に、空中で虎の体が跳ねた。
「キア、か」
どさりと落ちた虎の動きを封じ、追儺は新たな敵の前に立ちはだかる。
「逃がすか‥‥ここを墓場に決めて逝け」
影明の囮作戦であらかた炙り出したかに見えた地中のトカゲだが、戦場の所々にはまだ地雷の様に埋まっているものが残されていた。それ単体ならまだしも、他の敵と連携されると厄介な事になる――特に、動きの素早い狐の集団に取り囲まれた時など。
その尾から飛ばして来る太い刺の集中砲火を避けながら足下も警戒し、僅かでも動きが見えれば先手を取って攻撃を畳み掛ける。その間は防御が疎かになるが、そこは仲間の援護に任せた。
それに応え、カルブが群を外側から切り崩す。大剣を盾の様にかざして走り込み、間合いに入った個体から円閃を見舞う――が、なかなか当たらない。接近する前に素早く体をかわされ、攻撃のタイミングを外される。小型でちょこまかと動き回る相手とは、このスタイルは相性が良くないのかもしれない。
だが、そんな時こそ制圧射撃の出番だ。キアはそろそろと近付くと、得物をスコーピオンに持ち替える。
同時に後方で援護に徹していた拓人も制圧射撃の態勢に入った。
群がる狐達の頭上に弾丸の雨が降る。まともに喰らうものは少ないが、多方面からの攻撃を受ければ自ずと隙が出来るものだ。
そこを狙い、カルブと追儺が斬り掛かった。拓人の援護射撃を受けて命中の上がった攻撃は、一撃で相手を黙らせるのに充分だった。
拓人はその間にも押し寄せる他のキメラ達には足元を狙った攻撃で動きを阻害し、仲間の攻撃から逃れた狐に弾丸を撃ち込む。多くの動きを止める事に重点を置き、トドメは仲間に任せておいた。
「四の五の言っている間は御座いませんね‥‥。お退きなさい」
ウルリケ・鹿内(
gc0174)は戦闘開始と同時に覚醒、手近のキメラから屠っていく。牽制攻撃で注意を引き、カウンターで獅子の眉間を叩く。力を温存しながら手数は少なく、確実に。本命はまだ後ろに控えていた。ここで手間取っている場合ではないのだ。
「ソラノコエ、言う‥‥『‥‥裁ク者‥‥罰ヲ穢レニ‥‥死ヲ以テ‥‥』‥‥血河屍山‥‥を築く、まで。殺す‥‥殺して‥‥やる」
大量の敵を前にただ一つの感情、業火の様な殺意を滾らせていた、不破 炬烏介(
gc4206)が動いた。
敵の注意を引き付けて味方の攻撃を援助しながら、横合いからの攻撃も狙って行く。だが、彼もまた蓄えた力を出し切ってはいなかった。
彼等の標的は、別にある。
「来たか」
無線機に飛び込んで来た声に耳を傾けると、拓人は二人に目で合図を送った。
本命が来る。
キメラの対処は仲間に任せ、三人は走り出した。キメラと交戦している、その同じ場所で大型の敵に対処するのは危険だ。彼等が飛び出す事によって、戦場を分けられれば。
真っ先に目に入ったのは、こちらに向かって突進して来る赤いレックスの姿だった。
「ソラノコエ、言う‥‥『死シテ尚罪重ク‥‥使エ』」
炬烏介はレックスの足を止めるべく、手近なキメラの死体を思い切り投げつけた。
そのやや後方から、拓人の援護を受けたウルリケが足を狙って斬り付ける。流し切りに急所突きを組み合わせた、渾身の一撃。
「ぐ‥‥う、とまれぇぇぇ‥‥」
押し殺したような気合で押さえ込みにかかった。だが、その足は止まらない。尾の一撃でウルリケを弾き飛ばすと、レックスはそのまま三人の間を抜けて走り去る。
と、その背から何かが飛び下り、そのままの勢いで上空から襲いかかった。炬烏介の腕に鋭い痛みが走る。
「‥‥強敵、きた、な‥‥ならば、全身全霊で‥‥往く、ぞ‥‥!」
強化人間だ。だが、三対一ならそう苦労する相手ではない‥‥と思ったのも束の間、後方からの援護射撃を受け、その数はあっという間に五人に増えていた。
五人の強化人間と、プロトン砲による後方からの攻撃。どうやら、ゴーレムとレックスが何体か残っているらしい。だが機動力は失われているのか、それが近付いて来る気配はなかった。
どうする。先に砲撃を潰すか、それとも強化人間の対処が先か。だが、敵は考える時間を与えない。五人の強化人間は、一斉に躍りかかってきた。
「‥‥埒、あかない‥‥<カミナリサマ>‥‥だ」
仲間達に合図を送り、炬烏介は閃光手榴弾のピンを抜く。数十秒の間、敵の猛攻に耐え――
強烈な閃光と爆音が炸裂した。
追い撃ちをかける様に、拓人が制圧射撃で手数を削り取った。
今のうちに、出来るだけダメージを与えておかなくては。拓人の射撃で牽制した所に、ウルリケと炬烏介が波状攻撃をかける。ウルリケは相手の攻撃を封じる為に腕を重点的に狙い、温存していた力を叩き付けた。
怯んだ所に炬烏介がスマッシュに豪破斬撃を乗せた必殺技を叩き込む。
「死ね‥‥よ‥‥虐鬼王拳」
手榴弾の影響は、長くは続かない。無力化した強化人間は放置し、すぐさま次の標的へ。
命中率の下がった攻撃をかわし、拓人は相手の眉間に銃口を押し当てる。そのまま、引き金を引いた。これで二人。
三人目の攻撃を受け流したウルリケがカウンターを見舞い、背に回った炬烏介が脊椎を目掛けて拳を叩き込み、崩れ落ちた所で襟首を掴む。引きずる様に立たせると、そのまま敵の砲火が飛来する方向へ突き出した。上手い具合に、その体を淡紅色の光線が突き抜けた。死体でなくても、盾には使える様だ。
そろそろ効果が切れる頃合いだが、残るは二人。全力で当たれば何とかなるだろう。
「‥‥どうした‥‥おら‥‥来いよ‥‥」
炬烏介が挑発する。だが、二人の強化人間はじりじりと後ろに下がると――逃げた。
逃げるものを深追いはしないが、未だに砲撃を続けるゴーレム達を放っておく訳にはいかない。
三人は砲撃をかいくぐり、敵陣深くへと斬り込んで行った。
その頃、走り抜けて行ったレックスは制御を失った様に走り続けていた。背中の砲台は空爆で失われたのか、その傷跡からは体液が流れ出し、砂に跡を残している。
「Arret‥‥近寄って良いの‥‥そこまで、かな」
キアはバラキエルを一発。距離が詰まった所でエネルギーガンに持ち替えて、もう一発。
鼻面を撃たれて立ち止まった所に追儺が回り込んだ。振り回す尾をかわし、死角へ回り込む。両手に持った剣を足の付け根に突き刺した。
そこへ一気に間合いを詰めたカルブが円閃を見舞う。
断末魔の叫びを残して、レックスの巨体はその場に崩れ落ちた。
まだ爆撃の熱が残るそこは、ゴーレムとレックスの墓場の様だった。
解けかかったゴーレムの合間に、体を硬直させたレックスが転がっている。殆どがもう使い物にならない有様だったが、何体かはまだ機能を残し、与えられた命令を忠実に実行し続けていた。
「全部喰らい尽くしてやる」
砲撃の射線へ入らないよう、ジグザグに緩急をつけて射程内まで接近した拓人は、固定砲台と化していたゴーレムに貫通弾を装填した銃を向ける。砲身が自分に向けられた瞬間、その発射口に向けて引き金を引いた。
中で誘爆でも起こしたのか、派手な音を立てて機体の一部が吹き飛ぶ。スクラップがまたひとつ増えた。
炬烏介も砲台だけが生きているゴーレムを見付けると、それを壊しにかかった。
足を潰されたレックスを見付けたウルリケは、まだ動く尾や牙の攻撃を避けながら背中に登り、砲と本体の接続部を抉る。
これで前線を押し上げたとしても、味方が砲撃に曝される事はないだろう。
しかし、味方の消耗は限界に近かった。
「命‥‥Betするには‥‥分が悪いです、ね。手仕舞いの時間‥‥かな」
「‥‥だね。結構暴れたし、こんなもんか」
アネットの了承を得て、キアは合図の照明銃を打ち上げた。
それに応じ、仲間達は撤退を始める。
(任務完了)
影明は残った敵には構わず、さっさと背を向けて歩き出した。
「‥‥限界か‥‥ソラは言う。『善シ』‥‥了解、退く」
キメラの掃討に回っていた炬烏介も、それに応じる。殺し尽くすのが目的とは言え、深追いはソラの意思ではなかった。
「今日はもう終わりだよ」
しつこく纏い付く狐達を蹴散らし、クラフトも包囲網を抜け出した。
ウルリケは撤退支援の制圧射撃に呼応し、薙刀で敵の追撃をいなしつつ殿に付く。
いや、まだ最後にひとり残っていた。全体がある程度退却するまで戦線を持たせるべく粘った追儺は、頃合いを見計らって目の前の地面を叩き土煙を上げる。煙幕の要領でそれを隠れ蓑にし、瞬天速で離脱した。
「キメラ達も戻って行くね」
コーヒーで一休みしながら、クラフトは再び双眼鏡を覗く。
だが、その場から動かないものの方が多い。敵の総数を考えれば上々の結果だろう。
「‥‥奴等、全て。殺す‥‥に、は‥‥まだ。遠い、な‥‥」
怪我の治療をしながら空を眺め、炬烏介が呟く。
「少し休んだら、奴等の尻を追っかけるからね」
ここで取り零した分はその時にでも狩れば良いと、アネットが応じた。
次は市街に入り、司令部を叩く。この分なら、多少は楽が出来るかもしれない。
「いつになれば‥‥ゆるり御茶の時間‥‥取れる、かな」
キアが呟いた。
首都を取り返せば、一段落になるのだろうか。しかし、それでも毎日、世界のどこかでは戦いが続いている。
心の底からゆっくりとティータイムを楽しめるのは、まだ先の事になりそうだった。