タイトル:ひまわりの迷宮マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/23 03:35

●オープニング本文



 なだらかな丘陵地帯。
 その一面に、黄色いひまわりの花が咲き誇っていた。
 右を見ても、左を見ても、地平線の向こうまで、どこまでも続くひまわり畑。
 一面の黄色い大地にさんさんと降り注ぐ太陽、そして青い空。
 それはそれは、絵になる光景だった。

「今年も良い具合に咲いてくれたなあ」
 畑の持ち主であるオジサンは、一面の黄色い絨毯を見て満足げに頷いた。
 この畑はヒマワリ油を採る為に育てているものだが、種が程よく熟すまでの間は村の観光名所にもなっていた。
 畑の一角には、観光客の為に作った迷路や展望デッキまで用意され、満開時の休日にはジュースやアイスクリームの屋台も出るという。

 そして季節は過ぎ、ひまわり畑は今年も大勢の観光客を迎え、様々な思い出を作りながら、その役目を終えようとしていた。
 そろそろ、刈り取りの時期なのだ。

 ‥‥その筈、だった。

 しかし、今年は花の保ちが良い。良すぎる。いつまで経っても、種が熟する気配がない。
 黄色い花畑は黄色いまま、陽の光を浴びて風に揺れていた。

「どうなってるんだ、こりゃあ?」
 ひまわり達の様子を見る為に、オジサンは畑の中に入ってみた。
 間近でじっくり観察してみる。
「‥‥どう見たって、普通のひまわりだよなあ?」
 造花でもなければ、色を保ったまま立ち枯れている訳でもない。
 天候のせいか、それとも肥料か?
 しかし、全ては去年と同じ繰り返し、もう何年も続けて来たそれと、変わりない。
 なのに、何故‥‥?

 もっと奥に植えたものも見てみようと、オジサンはずんずん歩を進めた。
 規則正しく等間隔を置いて、真っ直ぐに植えられたひまわりの間をずんずん歩く。
 ふと後ろを振り返った。
 首をひねる。
 何か様子がおかしい。
「道が‥‥塞がれてる?」
 そう、今まで通ってきた道がない。
 ひまわりは、人が楽に通れる程の間隔を開けて植えられている筈なのに。
 気が付けば、右も左も、そしてうしろも、みっしりと高く伸びたひまわりに遮られていた。
 前に向き直る。
 そこだけは、何も変わらなかった。
 もう何歩か、先に行ってみる。
 振り返ると、そこにはやはり、ひまわりの壁。
「まさか‥‥ひまわりが動くなんて、なあ?」
 そんな馬鹿な。
 気のせいだ。
 このひまわりは、たまたま植える位置がずれたんだろう。
 オジサンは持っていた鎌で、行く手を遮る一本のひまわりを切った。
 何やらひまわりとは思えないほど固くてゴリゴリした茎だったが、何とか力任せにねじ切った。
 すると‥‥

 ざわわわっ!

 切られて開いた空間に、別のひまわりが滑り込んで来た!

 ひまわりは動くと、よく言われる。
 太陽を追いかけて東から西へ、その向きを変えると。
 しかし、このひまわりの動きは、そんなけなげで慎ましやかなものではない。
 もっと大胆に、アグレッシヴに。
 地面にしっかりと根を張っている筈のひまわりが、走る。根を張ったまま、走る。それも、結構なスピードで。
 ざわざわ、ざわざわと、風を切って走る。

 オジサン、流石に身の危険を感じた様だ。
「こりゃ、普通のひまわりじゃねえ!」
 一目散に逃げようとする、が‥‥どこへ逃げれば良い?
 右も左もひまわりの壁。退路は断たれ、切り開いてもすぐに塞がれる。
 進めるのは、ひまわりが意図的に作った道だけ。
 それも、分かれ道や行き止まりがあったりと、まるで迷路の様になってはいるが‥‥
 どうにも、そこを進むしかなさそうだ。
 それは侵入者を畑の奥へと誘い込む罠だった。
 導かれるまま誘われるまま、仕方なく道なりに進んだ先に待ち受けていたのは‥‥

 花の直径が2メートルはあろうかという、巨大ひまわりだった。
 ラフレシアの如く大地にへばりつき、青空を見上げ白い歯を見せてニカッと笑っている。
 そう、顔がある様に見えたのだ。
 その巨大な顔が、マンホールの蓋の様に跳ね上がった。
 上を向いたまま、その下に付いた茎がするすると伸び上がる。
 たちまちオジサンの背丈を追い越したかと思うと、一転、顔が下を向いた。
「ひいぃぃぃっ!」
 大きく開けた口がオジサンの頭上から迫る。

 ――ばっくん!!

 食われた。
 頭から、丸呑み。

 しかし‥‥

『‥‥ぺっ!』

 暫く後、オジサンは吐き出された。
 体液でベトベトネトネトになってはいるが、とりあえずは無事らしい。
 どうやら、オジサンの味はお気に召さなかった様だ。

「どうせ俺はオッサンだよ! 加齢臭が気になるお年頃だよっ!!」
 オジサンは泣きながら逃げ帰った。
 もう、妨害はない。
 走って走って、へとへとになる頃‥‥畑から抜け出した。

 オッサンが嫌なら、何が良いんだ?
 妙齢の御婦人か、女子高生か、それとも少年少女か。
 いや、バケモノの趣味嗜好など知ったこっちゃないが‥‥
 このまま放置する訳にはいかないだろう。

 オジサンはその足で、村の駐在所へ駆け込んだ――

●参加者一覧

秘色(ga8202
28歳・♀・AA
南 日向(gc0526
20歳・♀・JG
エリーゼ・ラヴァード(gc0742
14歳・♀・PN
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
パステルナーク(gc7549
17歳・♀・SN
ルーガ・バルハザード(gc8043
28歳・♀・AA
ジョージ・ジェイコブズ(gc8553
33歳・♂・CA
エイルアード・ギーベリ(gc8960
10歳・♂・FT

●リプレイ本文

「一面のひまわり畑‥‥ふん、抒情的だな」
 抒情的と書いて、リリカルと読む。ルーガ・バルハザード(gc8043)は、視界を塞ぐひまわりの壁を右から左へと眺め回して言った。
「で、キメラはどこだ?」
 その言葉に、一斉に振り向いた仲間達の視線が‥‥ちょっと痛い。
「‥‥え? ‥‥これ、全部‥‥だと?!」
 そう、これ全部。倒し甲斐がありそうでしょ?
「面妖なひまわりじゃの」
 秘色(ga8202)がぽつり。
「未だ被害らしい被害が出ておらぬのが幸いじゃが‥‥」
「いや、被害は出ている」
 握った拳をふるふると震わせ、ジョージ・ジェイコブズ(gc8553)が言った。
「オジサンが負った心の傷を被害と言わずして何と言う!」
 ふむ、確かに‥‥食われなければ良いというものではないか。
「未来のオッサンとして! オジサンの笑顔を守るッ!」
 やたらに「未来」を強調した叫びには、ちょっと切迫した響きと妙な説得力があった。

 そんな訳で、まずは銃の試し撃ち。
 結果次第では銃使いであるジョージの存在意義が危うくなりかねない訳だが‥‥果たしてどうなるか。
 ジョージはGooDLuckを発動させて30mほどの距離を取り、花を狙ってみる。
「これは普通に当たるな」
 当たってはいるが、種が弾け飛んだだけで、本体がダメージを受けた様には見えなかった。
「ならば、これはどうじゃ?」
 秘色が一度に三発の弾が撃ち込めるショットガンを試してみるが‥‥
 花は吹っ飛んでも、茎は残っていた。枯れる事も萎れる事もなく、しっかりと道を塞いでいる。
 ならばと、ジョージは次に花と茎の境目を狙おうとするが、花がこちらを向いている限り、その部分は隠れて見えない。そして、ひまわり達は揃いも揃って正面を向いていた。
 仕方なく、茎の部分を狙ってみる。すると‥‥
 茎が曲がった。ひょいっと曲がって銃弾を避けた。
 その様子をじっと見ていた秘色が、徐にパンパンと手を打ってみる。
「‥‥踊らぬのか」
 拍手では動かない様だ。
 だが、銃弾を浴びればクネクネと踊る。そのつもりはないのかもしれないが、そう見える。
 結果‥‥
「俺とはなんだったのか」
 ジョージはがっくりと膝を突き、頭を垂れた。
 やはり植物は、刃物で刈り取るものらしい。
 いやでも、銃撃だって威嚇や牽制にはなるだろうし、もしかしたらボスには効くかもしれないし‥‥ね?
 元気出そうぜ、未来のオジサン!

 そして一行は、改めて敵の全容を確認すべく展望デッキへ。
「位置把握が勝利の鍵っと」
 パステルナーク(gc7549)がオジサンから貰った、地図と言うには余りにもシンプルかつ大雑把な図面を広げて現在位置と照らし合わせてみる。それによれば、展望デッキは畑の南端、東西を均等に見渡せる位置にある様だ。
 幸いそこまでの道はひまわりによる浸食を受けておらず、一行は暫しそこからの眺めを楽しむ事にした。
「綺麗‥‥でも、全部キメラなんだよね」
 どこまでも広がる黄色い絨毯を見て、トゥリム(gc6022)が呟く。
「うん、キメラじゃなければ向日葵見て回るのも楽しかったのに‥‥残念」
 それに応えてパステルナークが頷いた。
「ひまわり畑、ね‥‥本物なら、もっと綺麗なんでしょうけど」
 エリーゼ・ラヴァード(gc0742)は、そう言いながら双眼鏡を目に当てた。いつまでも景色を楽しんではいられない。こうしている間にも、この広い畑の何処かに迷い込む者がいるかもしれないのだ。
 しかし高い場所から見ても、整然と並ぶひまわりの列がどこまでも続くばかりで、ボスらしき姿は見当たらない。
「オジサンは畑の真ん中辺りって言ってたけど」
 パステルナークが地図を見る。それが本当なら、このデッキから真っ直ぐ北に向かう線上にいる筈だ。
 それを聞いて、探査の眼を使ったトゥリムが双眼鏡を北に向けた。ひまわりの密度が薄い部分はないか、列が乱れた部分はないか‥‥
 直接その姿を見る事は出来なくても、ボスは恐らくそこに、台風の目のように鎮座している筈‥‥なのだが。
 デッキに上がってさえ、畑の全容を視界に収める事は出来なかった。どこまで広いんだ、このひまわり畑。いくら何でも広すぎじゃないのか。
 ‥‥などと、文句を言っても始まらない。
「面倒だな‥‥」
 溜息をつきながらデッキから降りたルーガは手近なひまわりに手を伸ばし、その顔‥‥いや、花をつんつんと突っついてみた。
「ふん、貴様らのボスはイキのいい獲物が喰いたいのだろう? とっとと私たちをそこに連れて行くことだな」
 するとどうだろう、目の前に広がるひまわりが左右に分かれ、真っ直ぐな道が現れたではないか!
 トゥリムが咄嗟に双眼鏡を向けると、その遙か彼方には豆粒の様なボスの姿が!
 しかし、それも一瞬の出来事。道はたちまち塞がれ、目の前は再びひまわりの壁で塞がれる。
「でも場所はわかりましたよ! さあ進めやひまわり畑! 目指すは中央!」
 南 日向(gc0526)の元気な声に背中を押され、一行は畑の中へ足を踏み入れた。

 そこから先は、ひたすら肉体労働。
 迷子防止の命綱を片手に持ちながら、行く手を塞ぐひまわりを斬って斬って斬りまくる!
 まず最初に秘色が迷路の壁を10m程を斬り進み、そこでぴたりと動きを止めた。仲間達が安全圏に居る事を確かめた次の瞬間、ひまわり畑に巨大な十字架が刻まれる。
「今じゃ! 皆、走れい!」
 命綱を手にしたまま、合図で一斉に駆け出す仲間達。だが‥‥
「まままま待っ!」
 約一名、最後尾で引きずられている。両手で銃を持つ為に、縄を腰に結び付けたのが拙かった様だ。
 道が塞がれる前に出来るだけ距離を稼ごうと走る若い女の子達の勢いに、気持ちの上では引けを取らない外見年齢33歳だったが、気持ちだけではどうにもならない事もあるのだ。
 そして気が付けば、一人ぽつんと取り残されていた。いや、一人ではない。日向も一緒だ。
 目の前には壁、振り向けば「お帰り下さい」と言わんばかりに道が出来ている。
 何故だ。ジョージだけなら理由もわかる気がする。悔しいが、それが現実だ。しかし日向の様な若い女性まで弾かれるとは。
「あ‥‥もしかして、このせいでしょうか」
 実は日向、オジサンの上着を拝借して来ていた。ちょっと匂いが気になっても、声には出さないのが大人の対応というものだ。なのに、このキメラ達ときたら‥‥
 しかし、このまま黙って引き下がる訳にはいかない。幸い、命綱は無事だった。
「これを辿れば皆と合流出来ますよ」
 日向は壁の向こうの仲間達と声を掛け合い、バトルスコップで邪魔な茎を斬り倒し‥‥いや、豪力発現でぶった切りながら進む。スコップだからといって馬鹿にしてはいけないのだ。
 やがて無事に合流を果たした仲間達は、今度は離されまいと互いの距離を近く取り、一団となって進んだ。
 トゥリムはノコギリアックスを振り回しつつ、左手でしっかりと縄を掴んでいる。縄を胸元にたぐり寄せる様にして握っているのは、盾を持つ癖が付いているせいか。盾がないと、どうにも手持ち無沙汰になる様だ。その盾は今、背中にある。銀の髪を赤いリボンでポニーテールにして帽子を被り、白いワンピースを着た少女の姿はひまわり畑に良く似合っていた‥‥背中の盾さえ気にしなければ。
 それにしても、さっきから少しも前に進んだ気がしないのは何故だろう。
「完全直進じゃのうても、力温存に多少は迷路に沿うても良いとも思うぞえ」
 腰に縄を巻き付け、二刀流で突き進んでいた秘色が言った。
「逸れ過ぎる前に方位磁石頼りに切り開けば良いからのう」
 流石に少し疲れたし、喉も渇いたし。

 という事で、迷路の端で一休み。
 水分補給の用意をしてこなかった仲間に、トゥリムがお茶やスポーツドリンクを配って歩く。
「沢山あります」
 大きな盾を背負った上に、人数分よりも多いドリンク類を持ち歩いていたのか。それは、荷物を軽くする為にも遠慮なく頂かなくては!
「いやあ、絵になりますなあ」
 ちびちびと水を飲みながら、ひまわり越しに空を見上げたジョージがオッサンくさい呟きを漏らす。未来はもう、目の前かもしれない。
「本当、夏らしいキメラですね!」
 キメラで季節を感じるのもどうかと思いつつ、日向が微笑む。こうしてのんびり休んでいると、まるでピクニックに来ている様だ。
 いや、それよりも‥‥
「この状況は、迷路とオリエンテーリングが混ざった感じかなぁ」
 方位磁石を確認しながら、パステルナークが言った。
 地図に現在位置を書き込んで‥‥さあ、そろそろ出発しようか。

 その頃、もうすっかり忘れ去られた感のあるもう一人の仲間、エイルアード・ギーベリ(gc8960)は‥‥
「わわっ大変! 遅刻だああ!」
 走っていた。ゴスロリワンピのリボンが千切れて飛びそうになるくらい、必死で走っていた。
 どうやら、恋人の買い物に付き合わされていたらしいリア充は、ひまわり畑に着くなり覚醒。
「ふはははは! 妾はリンスガルト・ギーベリ!」
 ‥‥元は男の子だけど、今はどう見ても女の子。それ以外の服は覚醒時に脱いでしまうという、ゴスロリワンピが良く似合う。そして覚醒後には名前も変わるらしい。
「これはよいぞ、どっちを向いても敵だらけじゃ! 狙いをつける必要もない! 振り回せ ば敵に当たるぞ!」
 言葉通り、大鎌を滅茶苦茶に振り回してひまわり達を斬り進む。余り進んでいない様にも見えるが、とにかく進む。
 しかし、暫くすると息が切れてきた。ぜーはーと肩で息をしているのは演技だが、半分くらいは本気で疲れているかもしれない。
「ぬう‥‥もう動けぬ‥‥」
 覚醒も維持出来ない程に疲れ果てたふりをして、様子を見る。ひまわりに背を向けて、足を引きずりながら一歩踏み出してみた。
 すると‥‥ここまで消耗していればすぐにでも餌に出来ると思ったのか、ひまわりが道を開けた。
「‥‥?」
 訝しみつつ、しかし内心ではほくそ笑みながら、エイルアードは奥へと進んで行った。

 一方、仲間達は何度かの休憩を挟みつつ、ボスとの距離を着実に縮めていた。
 ひまわりの補充速度に負けない速さと勢いで武器を振るい続けること‥‥何時間、だろう。そろそろ腕を上げるのもキツくなって来た頃。
「やっと着いたぁ‥‥」
 パステルナークが魂の抜ける様な声を出す。その目の前の地面には、白い歯を剥き出して笑う巨大ひまわりが貼り付いていた。
「ボスひまわり覚悟っ」
 もう命綱は必要ない。出来る限りの距離をとり、パステルナークは洋弓アルファルで顔面を射た。
 しかしボスは顔面に矢を突き立てたまま、動きもせずにニタニタ笑っている。面の皮が厚いとはこの事‥‥いや、それは意味が違う気がするが。
 それはともかく、かくなる上は予定通りに囮作戦を決行するしかない。
 エリーゼが一歩、前に出た。その途端、巨大ひまわりが地面から立ち上がる!
「そう簡単に食べられる訳にはいかないわ」
 大木の幹の様に太い茎の脇を迅雷ですり抜けざまに斬り付けると、エリーゼは背後に回り込んだ。が、生半可な攻撃ではビクともしない様だ。ボスはその巨大さに似合わぬ素早さで後ろを向き、獲物をひと呑みにしようと大口を開ける。
 しかし、それこそが傭兵達の狙いだった。
「ふん、人間で言えば‥‥斬首刑、とでもいったところかッ!」
 紅蓮衝撃で攻撃力を上げたルーガが強刃を発動させ、斬る。
 スパーン! 勢い良く、巨大なひまわりが宙に飛ぶ‥‥筈だった。ルーガの脳内イメージでは。
 だが実際には半分も切れてはいなかった。何という固さ。
「しかし、良い目印が出来た様じゃの」
 傷口を狙い、秘色が月詠でソニックブームを叩き込む。と、標的を変えた大口が頭上から迫って来た。背後に逃げる余地はない。左右も似た様なものだ。となれば‥‥
 秘色は流し斬りで身を翻し、渾身の一撃を打ち込んだ。
 耳障りな声が頭上から響く。巨大ひまわりは大口を開けたまま茎を直立させ、わなわなと震えていた。
 この機を逃す手はない。
「矢弾頭の味はどうかなっ」
 パステルナークは開けっ放しになっている口の中へ、鋭覚狙撃で弾頭矢を撃ち込んだ。
 そこに追い打ちをかける様に、エリーゼが弾頭矢を投げ付けると同時に斬り付け、無理やり爆発させる。
「火薬の味は如何?」
 ――ぼふん、ごふん
 ボスは咳き込んでいる様だ。白い歯が黒く染まり、その間から黒い煙が漏れている。
 だが、それで終わりではなかった。寧ろそこからの攻撃が激しかった。顔に付いた無数の種を四方八方に飛ばし、無差別攻撃に転じたのだ。
 図体が大きいだけに、種もデカい。しかも当たると爆発するとあっては、容易に近付く事も出来なかった。
 しかし――
「この瞬間を待っていたっ」
 今こそ銃使いの出番だと、ジョージは飛び交う種を片っ端から狙い撃ち。そこに拳銃パラポネラを手にしたトゥリムと、洋弓タランチュラを構える日向も加わり、さながら射的大会の様相になる。
 ボスの顔いっぱいに付いていた種は、あっという間に撃ち尽くされ‥‥とても情けない顔になった。心なしか茎も萎れて来た様に見える。
 そこへ漸く、最後の一人エイルアードが現れた。
 再び覚醒してリンスガルトになると、彼は颯爽とケブラー・ジャケットを身に纏う。
 でも、なんかクサイ。何を隠そう、そこにはハムスターの敷材(使用済)が貼り付けられていたのだ。
「ハムスターはヒマワリの天敵! きっと嫌う筈じゃ!」
 ‥‥まあ、確かに‥‥ボスは顔を背けている。理由はどうあれ、これはチャンスだ。
 リンスガルトは茎に向かって大鎌で豪破斬撃を叩き込んだ。
 続いて日向が充填射で傷口を狙う。
「とっとと塵に還ることだな‥‥趣味の悪い、哀れな被造物!」
「私の存在、忘れないで貰いたいわね」
 ルーガが斬り付け、エリーゼが二連撃を放ち‥‥最後にノコギリアックスを両手に持ったトゥリムが瞬天速で間合いを詰め、紅蓮衝撃アタックで樵フィニッシュ‥‥!

 広大なひまわり畑は、瞬く間に消え失せた。
「ふーむ」
 一面の茶色い大地を前に、ルーガはひとりごちる。
「ひまわりの花畑か‥‥ふふ、私も幼かった頃は、夢中で駆け回ったものだ‥‥」
 それ何十年前、などと言ってはいけない。年齢の話にはひときわ敏感なエースアサルト、今年で28歳。何やらリリカルな古い記憶を思い起こしているらしい彼女はそっとしておくとして‥‥
「さて、畑のオジサンとこへ麦茶をおごられに行こうか」
「わしは炒った種を肴に飲みたいのう」
 ジョージの提案に、秘色がお猪口を傾ける真似をする。
「私は普通のひまわり畑を眺めてみたいですね」
 ひまわりは、日向の一番大好きな花だった。残念ながら、この辺りのシーズンはもう終わってしまったが‥‥
「来年に期待だねっ」
 パステルナークが言った。
 頑張ったから、来年はきっと綺麗なひまわり畑が見られる筈だ。
 その時を楽しみに‥‥