タイトル:【Null】臨戦マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/23 01:52

●オープニング本文


 長く続いたバグアとの戦い。
 その決着が、間もなく付こうとしていた。
 人類とバグア、どちらが勝利を手にするのか、それはまだわからない。
 だが、恐らく人類の勝利で幕を引く事になるだろうというのが大方の見方だった。

 そして、バグアの中にもそれを望む者がいた。
 同胞の敗北を望む者が。

 彼、レイモンド・ヴァーノンは地球に潜伏するバグアだ。
 同胞が滅び去るのを良しとし、本星と共に主だった者達が消え去るのを待っている。
 異星人を撃退した人類がその喜びに浸り、平和に酔い始めたその時を狙って、姿を現そうとしているのだ。
 本星に残る同胞は、知識も経験も、戦闘力においても、彼を遙かに上回る者が多い。
 だが、それが全て姿を消せば、彼にもチャンスが巡って来る筈だ。
「この惑星は、今までの戦いで既に疲弊している。例え今は各地で我等を追い落とし、良い気になっていたとしても‥‥これ以上の戦闘継続は厳しかろう」
 人類が本星攻略に乗り出した理由はそこにあると、彼は見ていた。
 地上での戦闘継続は困難と見たからこそ、人類にとっては「土俵の外」である宇宙空間に打って出る事にしたのだろう。
 人類にとって、それはかなり危険な賭けだったに違いない。
「運命の女神とやらは、番狂わせがお好きな様だ」
 ならば、自らが新たなるバグアの首領となり、新たな時代を開く‥‥この試みも、女神はお気に召すに違いない。

 今はただ、待てば良い。
 人類が旧き者どもを綺麗に片付けてくれる、その日を。
 何か感付いた人間達もいる様だが、そう気にする事もないだろう。
 連中の戦いぶりは、この身体が知っている。以前の身体で見てもいた。
 何かを仕掛けて来たとしても、脅威ではない。

 奴等の相手など、キメラで充分だろう‥‥


――――――


 その頃UPCでは‥‥
 オペレーターがひとり、資料の山に埋もれていた。
「‥‥どうしよう‥‥」
 セオドア・オーデン(gz0421)は頭を抱える。
 かつては自らをNullと名乗っていた男、レイモンド・ヴァーノンはその身体をヨリシロとされたバグアである事に間違いはない。
 各種鑑定の結果、その身体がレイモンド本人のものであり、近頃あちこちに出没している「再生バグア」なるものではない事は判明していた。
 そのバグアは今、本人になりすまして「レイモンド」である生活を楽しんでいた。
 人間の中に溶け込み、何か行動を起こす気配もない。
「でも、だからって‥‥このまま動き出すのを待ってるのも‥‥うーん」
 ある程度のキメラや強化人間は、戦後も残っていていくばくかの脅威をもたらすだろう。まして、異星人そのものとなると‥‥
「下手したら、この地球が奴等の新たな母星に、なんて‥‥ね」
 地球に残った彼等は、すぐには姿を現さず、当面は何事もなく平和な時が続くかもしれない。
 しかし相手は異星人だ。寿命も、彼等が感じる時間のスケールも、人類とは違う。
 人類がこの戦いを忘れ、戦いの技術さえ忘れ去った頃‥‥水面下で数を増やした彼等が一斉に溢れ出す、などという事が、ないとは言えない。
 残された芽は、完全に摘み取る必要があった。
 それも、なるべく早いうちに。
「‥‥あの拠点は、どうやらまだ生きている、か」
 レイモンドは定期的にどこかへ出掛ているらしい。行き先は掴めなかったが、それはかつてNullと老人が住んでいた街ではないだろうか。
 それ以外に、彼等が拠点を持っていたという情報はなかった。
「相手が自分から戦いを仕掛けて来ないなら、こっちから動くしかないよなぁ‥‥」
 少しばかり卑怯な気はするが、次にレイモンドが「療養」に出掛ける所を待ち伏せて、叩く。その手が良さそうに思えた。

 今までのパターンからすると、彼が次に家を空けるのは数日後の筈だった。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

 その街に警報が鳴り響くのは、殆ど一年ぶりの事だった。
 人々は避難勧告に従い、郊外へと逃れて行く。
 海岸に設置されたスピーカーからも、アナウンスが繰り返し流されていた。
 その音割れのひどい音声に、波打ち際をぶらぶらと歩いていた男は眉を寄せて不快感を露わにした。
 自分が作ったキメラ達は、プラントの中で大人しく命令を待っている筈だ。ならば、はぐれキメラでも迷い込んだのだろうか。
 迷惑な事だと、男は思う。
 何か事件があれば、当然UPCが動くだろう。彼等がこの街に入れば、何かの拍子にプラントの存在が露呈しないとも限らない。
 いっそ自分が片付けてしまおうか‥‥そう思って町の方を見る。
 それで、合点がいった。
「‥‥なるほど、そういう事か」
 こちらに向かって来る人間達の姿を認め、男はウンザリした様子で肩を竦めた。
 この警報は、これから始まる戦いのお膳立てという訳か。
「今はまだ、そんな気分じゃないと言っただろう」
 だが、彼等――傭兵達にとっては異星人の気分など知った事ではないし、準備が整うのを待ってやる義理もない。
「気分じゃないなら、こんな所で何してんのよ?」
 刃霧零奈(gc6291)が尋ねる。この街は、男がレイモンドとなる前に拠点としていた場所だ。まさか本当に、温泉で療養という訳でもないだろう。
(何をコソコソやってんだか‥‥男ならドカン! っと来いっての‥‥全く)
 零奈は心の中で苛立たしげに舌打ちをする。
 その様子を見て、男は口の端に笑みを浮かべた。
「なるほど、痺れを切らしたという訳だ。良いだろう、相手をしてやる‥‥相手になるとは思えないがな」
 男は手の中で小型のナイフを弄ぶ。まさかこんな所で襲撃されるとは思わず、武器と言えそうな物はこれしかないが、問題はあるまい。それに、キメラの性能を試す良い機会にもなる。
 その態度は、完全に相手を見下していた。だが‥‥
「レイモンド・ヴァーノン。一年前のあの時と、同じだと思うなよ!」
 カミツレを抜き放った那月 ケイ(gc4469)が、真っ正面に立ちはだかる。

 さあ、決着を付けよう――


 その少し前。
「んー、遂にこの時が来たーって感じ!」
 作戦会議の席で、エレナ・ミッシェル(gc7490)が両手の拳を高く突き上げて叫ぶ。
「まぁそこまで深く関わってるわけじゃないんだけどね?」
 しかし、こういう事はノリと勢いが大事なのだ。
 この勢いのまま、レイモンドを倒――せれば、良いのだが。
「最低でも手足の数本はもらっときたいよねー」
「そうだね、手傷を負わせれば治療の為に拠点に戻るかもしれないし」
 ケイが言った。その時点でこちらの消耗が激しいなら、追い討ちをかけるのは難しいだろう。しかし、追跡は出来るかもしれない。それで拠点が分かれば、次に繋げる事もできる筈だ。
「ん、りょーかい」
 拳銃にペイント弾を仕込みながら、夢守 ルキア(gb9436)が言う。これで足下を狙えば、追跡の目印になるかもしれない。
「敵の力量を探りつつ、倒せないと判断すれば負けたフリ。隠密潜行で後を付けるってカンジかな」
 エレナとケイ、そしてルキアは主にレイモンドを担当する。
「じゃ、あたしはキメラ対応でいくよ。あとは‥‥」
 零奈はそう言うと、ちらりと友人のクレミア・ストレイカー(gb7450)を見た。
「了解、キメラの方は引き受けるわ」
 残る一人、辰巳 空(ga4698)もキメラ対応に専念する様だ。
 ここで確実に倒すなら、彼と戦うのはこれが最後となる。出来れば自分もレイモンドの方に回りたいところだが、如何せんベネトレーターはエースアサルトとは相性が悪かった。
「戦場諸々は皆さんにお任せして‥‥私はその支援に回ります」
 これで役割分担は決まった。
 後は戦場で、それぞれが今の自分に持てる力を尽くして戦うだけだ。


「これは、蹴散らし甲斐がありそうじゃない?」
 岩陰から姿を現した無数のキメラを見て、零奈は舌なめずりでもしそうな調子で妖艶な笑みを浮かべた。
「久々に憂いなく暴れられるんだ‥‥返り血と断末魔で、精々あたしを楽しませてねぇ‥‥♪」
 人払いは既に終えている。戦場も海岸なら、周囲への影響はさほど考えなくても良いだろう。それに相手がキメラなら、余計な感傷が入り込む余地もない。
 零奈はキメラの群れの中に真っ先に飛び込んで行った。頭の中では余り出過ぎない様にと注意を払っていたが、いざ戦闘になるとリスクを楽しむ感覚の方が勝って来る。
 敵の注意を全て自分に引き付け、敢えて囲まれる様に誘って自ら逃げ道を塞ぐ。その上で、高速機動を駆使したぎりぎりの回避、そこからカウンターに繋げて――
「これこれ、この感じ‥‥ゾクゾクするねぇ‥‥♪」
 目に入りそうになった返り血を無造作に拭い、薙刀「静」を構え直す。大型でも小型でも、地上に蠢くキメラなら、この調子でいくらでも片付けられそうだ。
 しかし、低空とは言え飛んでいる相手には少々分が悪かった。
「‥‥んー‥‥」
 ふと閃いて、小型のキメラを薙刀で打ち上げてみる。大型キメラに下からぶち当てれば、バランスを崩して落下したり‥‥
「‥‥しない、か」
 流石に爆発物でも当てない限りは難しい様で、その思いつきには頭上からの炎弾の雨という有難くないお返しを頂いてしまった。
 しかし、自分の手が届かなくても問題はない。手の届く仲間に頼れば良いのだ。
「わかった、私が撃ち落とすわ!」
 背後に控えたクレミアが、貫通弾を装填した拳銃「ヘリオドール」で頭上を飛ぶ大型キメラに狙いを定めた。どこが急所なのかはわからないが、翼やその付け根を狙えば飛ぶ事は出来なくなる筈だ。
 地上に落とせば零奈が始末してくれるだろう。
「任せたわよっ!」
 クレミアは自分が撃ち落としたキメラには目もくれず、次の標的に向かって銃弾を撃つ。見なくても結果はわかっていた。零奈に任せておけば、きっちり始末を付けてくれる。
 任された零奈は落ちて来るキメラの下に回り込み、真上に向かって突き刺す様に薙刀を振り上げた。ずしりとした手応えを感じると同時に、空を切り裂く様に思い切り振り下ろす。
 頭上から鮮血の雨が降り注ぎ、千切れた臓物がボタボタと降りかかった。
「カ・イ・カ・ン‥‥♪」

 零奈とクレミアが派手に暴れる傍らで、空はひとり奮闘していた。
 ただでさえ邪魔くさいキメラ達に、レイモンド対応班の邪魔をさせる訳にはいかない。空は迅雷でレイモンドの近くにいるキメラの群れに踏み込み、高速機動で動き回って牽制気味に攻撃を仕掛けてみた。
 何頭かのキメラがその動きに気を取られ、空に意識を集中する。頃合いを見計らって距離を取ると、キメラ達も釣られて追って来た。
 ある程度離れたら、ほしくずの唄を使って混乱状態に陥れたい所なのだが‥‥空を取り囲むキメラ達は矢継ぎ早に攻撃を仕掛けて来る。それを避けるのが精一杯で、とても技を仕掛ける余裕はなかった。
 どこか、安全な場所はないだろうか。
「‥‥あの上が良さそうですね」
 空が選んだのは、何と大型キメラの背中だった。確かにそこなら他のキメラの攻撃は受けないだろう。
 必死で振り払おうとするキメラの首にしがみつき、ほしくずの唄をの歌う。混乱したキメラは、まるで主人に忠実な馬の様に、空を乗せて走り出した。
 その背の上から、周囲のキメラの翼や足を狙う。足りない手数はこの機動力で補えるだろう。
 ただ、攻撃の決め手に欠ける為、相手の数を減らす事に関しては殆ど効果がなかったが‥‥自分の役目はキメラを引き付けておく事と割り切って、ひたすらに掻き回す。長期戦も覚悟の上だった。

「さーて、相手が相手だし、今回は真面目にやんないとね!」
 岩陰に隠れたエレナは、両手に構えたSMG「ターミネーター」でレイモンドに狙いを付ける。
 しかし、このまま撃っても恐らく当たりはしないだろう。仲間が隙を作る、その一瞬を待つのだ。
「こっちだ、レイモンド!」
 一気に間合いを詰めたケイが、仁王咆哮で相手の注意を引く。
 元エースアサルトのレイモンドが接近戦を得意としている事は承知の上だ。
(前に戦った事があるから手の内は知られているかもしれない。けど、だからこそ‥‥以前と同じだと高を括っているならそこに隙があるはずだ)
 以前は防御重視の戦いだったが、今回は攻めに転じる。その違いに相手が気付けば、注意を引く事が出来るかもしれない。
「‥‥一年前と同じだと思うな‥‥か」
 レイモンドが口の端に笑みを浮かべた。
「その言葉、そっくりお返ししよう」
 言葉と同時に、ケイの盾を持つ手に電撃を喰らった様な衝撃が走る。
「く‥‥っ」
 今のは強刃か。しかし、以前の経験から技の発動は予測出来た。これなら行けそうだと、そう思った瞬間――
 今度は怒濤の連続攻撃が叩き込まれる。反撃に転じる隙さえなく、ケイはただ盾を構えて耐えるしかなかった。
 だが、攻撃の機会を伺う仲間達にとっては、それは絶好のチャンスだった。
 その機を逃さず、エレナは相手の死角から頭部を狙って両手のSMGを連射する。しかし、攻撃が効いた様子はなかった。FFを強化しているのだろうか。
 背後に回ったルキアも、岩影に隠れつつ超機械「カルブンクルス」で攻撃を加えるが、レイモンドは火炎弾を浴びながら笑っている。
 しかし、強化FFで攻撃を防げる回数にも限度がある筈だ。それを超えればダメージは通る。それまで何度でも、攻撃を繰り返すだけだ。
「笑っていられるのも今のうちだ!」
 ケイは再び仁王咆哮で相手の注意を引こうとした。
 が、二度目は通用しない。レイモンドは岩陰から狙いを定めるエレナに向けて、その身を躍らせた。エレナは防御に備えて片方の銃を盾の様に構えつつ、もう片方で跳弾を放ちカウンターを狙う。
 だが、エレナへの攻撃は間一髪の所で防がれた。
「そう簡単に通してたまるかっ!」
 盾を構えて飛び出したケイが、その足を止めようと四肢挫きを放つ。だが、まだ何ら有効打を与えられていない相手の勢いを止める事は難しかった。
 ならばと、不動の盾で思い切り弾き返す。
 後退を余儀なくされたレイモンドは、標的を変えた。狙われたルキアは隠密潜行で気配を消し去り、そっとキメラの群れに紛れ込む。
 だが、レイモンドはキメラごと粉砕する勢いで攻撃を加えて来た。たまらず、ルキアは疾風で回避を上げる。
「どうした、逃げるだけか?」
 挑発されてもルキアは動じない。ひたすらに機会を待つ。
「お陰でキメラを片付ける手間が省けたかしら」
 得物を小銃「S−02」に持ち替えたクレミアは、制圧射撃で残ったキメラ達を一気に撃ち抜きながら、零奈に向かって目で合図を送った。
 ここは大丈夫――そのサインを受け取った零奈は、瞬天速を使ってレイモンドの目の前に飛び出した。
「約束通り、錆になって貰いにきたよぉ‥‥♪」
 予想外の出現に虚を衝かれたのか、ほんの一瞬、レイモンドの集中が切れる。
 その機を、傭兵達が見逃す筈もなかった。
 ケイの四肢挫きはその名の通りの効果を発揮し、レイモンドの足をその場に釘付けにした。背後に回った零奈が血塗れの薙刀を振り下ろす。殆ど同時にエレナのSMGが火を噴き、ルキアの超機械から火炎弾が降り注いだ。
「‥‥ちっ」
 レイモンドが苛立たしげに舌を打った瞬間、猛烈な衝撃波が彼を中心に膨れ上がり、炸裂した。
 近くに居たケイと零奈は受け身を取る間もなく吹き飛ばされる。
 爆風が収まり、二人が体勢を立て直した時にはもう、そこにレイモンドの姿はなかった。
 しかし‥‥

「大丈夫、ちゃんと見てたよ!」
 爆発から離れた場所にいたエレナは、彼が瞬間移動をした訳でもなく、空を飛んで逃げた訳でもない事をしっかり見ていた。
 更にルキアはその瞬間、レイモンドに向けてペイント弾を放っていた。これで追跡が可能になる。
「ちょっと、周辺見てくるよ」
 ルキアはそう言うと、まだキメラの残る戦場を離脱して、点々と残るペンキの跡を隠密潜行で辿り始めた。
 もしレイモンドが向かった先に拠点やプラントがあるなら、この機に破壊してしまいたい所だが‥‥
 そう簡単に事が運ぶなら苦労はない。
 それに、レイモンドが足下からポタポタと垂れる派手な色のペンキに気付かない筈もない。それが意味する所に考えが及ばない筈も。
「探し物は見付かったか?」
 海岸線の岩場に沿って暫く追跡を続けた頃、頭上から声が降って来た。
「俺の拠点を探してるなら、入口はこの岬を回った向こうだ」
「教えてくれるんだ?」
 ルキアの問いに、レイモンドは鼻を鳴らした。
「この辺りを調べれば、いずれわかるだろう。だが俺は、コソコソと嗅ぎ回られるのが嫌いでね」
 それならば、いっそ明かしてしまった方が面倒がなくて良い。
「それに、知ったところで手出しは出来まい」
「それは‥‥生きて返さないってコト?」
 それとも、攻め込まれても守れる自信があるのだろうか。
 返事の代わりに、岩陰からキメラの群れが現れた。その後ろには強化人間らしき姿も見える。
 この数を相手にするのは無理だと悟ったルキアは、咄嗟に閃光手榴弾を投げ付けた。音と光が炸裂する中、その混乱に乗じて身を隠す。

 ルキアが仲間達の許へ戻った時、残りのキメラ達は既に一掃されていた。
 仲間の働きをねぎらった後、自分が得た情報を伝える。
「あそこに突き出た岬、あの向こう側に入口があるみたいだよ」
 レイモンドが流した情報を信じるなら、だが。
「あの老人の家は、岬に続く高台にありましたが‥‥」
 前回その場所を訪ねた空が言った。
 何か関係があるのだろうか。いや、この位置関係からして無関係とは思えない。
 傭兵達は高く聳える岬を見上げた。岬のこちら側は砂浜になっているが、向こう側は切り立った岩場で、人が下りられる様な道もない。
 何かを隠し、守るには絶好の場所だろう。
 だが、そこを攻め落とせなければ、そこを根城としたバグアはますます力を蓄え、やがては侵略に乗り出して来るだろう。
「お楽しみは次回に‥‥か、精々いい断末魔聞かせてねぇ‥‥♪」
 零奈の笑みは、見る者の背筋を凍らせる程の凄みを帯びていた。
「バグアに与した以上、もはや帰るべき所は存在しない事はもう覚悟の上でしょうが、せめて安らかな終末を‥‥」
 空が呟く。
 だが、あのレイモンドの事だ。明日には何事もなかったかの様に、父親の許へ戻っているかもしれないが――