●リプレイ本文
●どうしてこうなった
シャルロット(
gc6678)は大きな溜息をついた。
「やっと停戦になって‥‥音楽の勉強を再開できると思っていたところなのに‥‥」
故郷への状況報告の為に一時帰国していたのは、ほんの数日間だった筈だ。しかしその数日の間に、演劇部の部室は粗大ゴミ置き場と化していたのだ。
これは何だ。もしかして、この片付けは自分がする事になるのだろうか。そう思って軽い目眩を覚えていた所を、例によって部活のメンバーに強制的に拉致され‥‥訳もわからないまま、今ここでこうして愛機ツークンフトの操縦桿を握っている訳なのだが。
目の前にいる、あの巨大な半裸の人達は何?
しかも何で、アオちゃんがそこに立ってるの? 青いドレスなんか着て‥‥
「なにかに影響されてる!?」
うん、何かそんな様なアニメは見た事があるけど‥‥
月居ヤエル(
gc7173)はぐるぐるしていた。
「終戦が終わって、やっとお芝居の稽古とか解禁ー‥‥と思ったのに!」
まだ暫くは傭兵兼業なんだね。
「このままじゃ、クリスマス公演にも間に合わないし、サクっと倒して、合宿に入るよー!!」
それで、何を倒せば良いの?
ぼっち?
ぼっちって、アレ‥‥クリスマスにでる人達の事?
時期的に、まだ早いんじゃないの?
‥‥って、キメラなの?!
それに、アオちゃんが何かアニメの影響受けてるし!
でも、ここは同じ演劇部員としてフォローすべきだよね。
バッチリしっかりツッコミを入れつつ、対応してあげる!
星和 シノン(
gc7315)は‥‥動じなかった。
だって振り回されるのはいつもの事だから。
作業着と安全第一と書かれたヘルメットを身に付け、作業開始。
「とにかく、町から引き離さないとっ」
え、なに? アオカが歌うの?
だったら一緒に歌ってみようか。
そして日下アオカ(
gc7294)は美しい青のドレスを身に纏い、キャノピーを解放した愛機のコックピットに立っていた。
両腕を広げ敵意がない事を示しながら、半裸の巨人達に語りかける。
「ふふ、もうバグアとの勝負はついていますわ。こちらとしても、貴方たちに手荒な真似はしたくありませんのよ?」
さあ、山へおかえり。
慈愛に満ちた歌声が、山間の町に満ちる。
「ほら、怖くない‥‥」
そこにシノンの優しく語り掛ける様な歌声が重なった。
通じる、かなぁ‥‥?
●そうしてこうなった
旭(
ga6764)は現在、私立高校の教師となっていた。
しかしこの新人教師、就任早々に授業を休んで来ているらしい。しかも内緒で。
(まぁ、生徒のためにもお土産はしっかり買って帰ろう。そうしよう)
そんな事したら何処で何をしていたのかと質問攻めに遭いそうな気もするが、まあ良いか。
KVは既に返却してあるので、ジーザリオでぼっち達の足下に乗り付ける。
(ぼっちぼっちって、可哀想に。あんまり虐めてやらない方が‥‥)
とは思うものの。
(‥‥ま、誘い出すのに有効だし素晴らしいアイディアだから仕方ないよね!)
すっかり乗り気だった。
KVに乗ってる皆が楽しそうでいいなぁとか、そういうのはあんまり関係ない。関係ないのだ!
‥‥と、言い張ってみる鎧の一寸ぼっち。
頭上から流れる歌声に、力一杯声を合わせてみた。
豪力発現で強化した腹筋・声帯をフル活用してハモる。たったひとり、地上でハモる。ハモる仲間がいるなら大丈夫、ぼっちじゃない。多分。
しかし、彼等の心を込めた歌声がぼっちの琴線に触れる事はなかった様だ。
「まぁ、当然だよね」
シノンは苦笑いを浮かべつつ、冷静に感想を述べる。
が、アオカは違った。まあ、すぐにかっちーんと来るのは、大体いつも通りなのだが。
「‥‥シャルロットさん、あれ、レーザーでなぎ払っていいですわよ」
「は、はいっ!」
アオカの要請に、シャルロットは半ばヤケ気味で軽くキレつつフィーニクス・レイをぶっ放し、三体纏めて薙ぎ払った。
これも多分どこかのアニメの影響なんだろうと思いつつも、その我侭には条件反射的につきあってしまう悲しいサガ。
「って、アオカ? 落ち着いて?! Σまさかシャルまで‥‥!」
町のど真ん中でのレーザー照射に、シノンが慌てて止めに入る。
「わ、わかってますわよ! 街を巻き込まないよう、まずは誘導からですの!」
さっき「やっぱり」みたいな事を言ったのは誰だとシノンの方をちらりと振り返りつつ、アオカは操縦席に収まった。
さあ、誘導開始だ。
●ぼっちさん、こちら
「久々の‥‥獲物だ‥‥虎白‥‥大丈夫か?」
西島 百白(
ga2123)は愛機虎白のコンソールに手を置いて呟く。
そこから伝わる微かな唸りが、獲物を目の前にして逸る心を伝えている様に感じた。
「‥‥さぁ、狩りの‥‥時間だ‥‥行こうか」
まずは東に回り込みながら、高分子レーザー砲で赤ぼっちの頭を狙う。
「さて‥‥当たるかな?」
大丈夫、この位置なら外れても後ろは山だ。
「命中‥‥さすがだな‥‥虎白」
かすっただけでも、当たりは当たり。寧ろこちらに注意を向けるには、一筋の血の跡を付けるくらいが丁度良い。
『んごー!』
赤は怒っている。よくも俺の顔に傷を付けたな、とでも言っているのだろうか。
「‥‥フッ」
その顔でよく言ったものだと、百白は鼻で笑う。
更に、ジーザリオで正面に回り込んだ旭が車の屋根に乗り、上を指差しながら全力で笑い転げた。
『んごごー!』
乗ってきた乗ってきた。さあ逃げろ!
ビリティス・カニンガム(
gc6900)は、ビルの影に身を隠しながら事の成り行きを見守っていた。
(「ぼっち」なぁ‥‥人恋しいんじゃねぇか?)
だったら、それを利用しない手はない。
「ふにゃあ〜ん♪ テラりんだよぉ〜♪」
――ずずーん!
媚び媚びのキャラ声と共に、黒髪ツインテールの巨大美少女が現れた!
‥‥って言うかそれ、ニェーバだよね、どう見ても。
それは巨大な板のお面を被っていた。板には、どこかで見た事がある様な萌えキャラの笑顔を大きく引き延ばした画像が貼り付けてある。
体には白地にロイヤルブルーの騎士風マントを貼り付けて、ドレスの様に見せていた。前だけだけど。
その胸の部分には、パンパンに膨らませた大きなアドバルーンが仕込まれている。
どう見ても無理がある。と言うか、ありすぎて何処からツッコミを入れて良いのかわからない。が、これもやっぱり痛KVに分類されるのだろうか。
(‥‥大丈夫、無理があるのは分かってる。後は演技次第だ)
巨乳美少女テラりんは、可愛く手を振りながら不自然な横歩きでぼっち達の目の前に躍り出て、足音も重々しくステップを踏む。
だって、横や後ろを向いたら流石にバレるし。
「テラりん、逞しいヒトだぁい好き♪ 三人共、あたしと向こうでぇ‥‥いいコトしようよ♪」
強調する様に両手で持ち上げると、不安定な丸い胸がぶるんぶるんと揺れた。
「おっぱいボインボインだよっ?」
すると‥‥
『ぶごーっ!』
黄色いのが釣れた! 釣れちゃったよ!
前を向いたまま内股の女の子走りで後ずさる巨大な巨乳美少女を、赤くなった黄ぼっちが追いかける。
その一部始終を、旭は全力でカメラに収めまくった。ついでにムービーも全力撮影。
もう「このヒト何しに来たの」状態だが気にしない!
残るは青いのが一体。
挑発にも色仕掛けにも乗ってこないクールな青を待っていたのは更に苛酷な運命だった。
その非情な作戦を「鋼鉄の心切り裂く無慈悲の剣」と呼ぶ。名付け親はアオカだ。
「足場の悪い砂地よりも郊外の荒地がいいね。そこへおびき出そう」
そう言いながら、シノンは青の足下に銃撃を浴びせた。
「踊れや踊れ♪ 踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損損♪」
足元を蜂の巣にされた青ぼっちは、じわじわと荒野に向かって追い詰められて行く。
「さぁ、この隙に伝説の腰ミノを‥‥!」
シノンの声に、アオカは一生涯三度しか抜けない伝説の剣の名を冠した剣を抜き放ち、ぼっちの腰ミノを一刀両断!
「‥‥またつまらぬものを斬ってしまいましたわ」
そして、はらりと落ちたそれをがっつりキャッチ。
「わーい、全裸だゼンラー!」
「あらあら、赤くなったり青くなったり。案外かわいいキメラさん達ですのね」
はしゃぐシノンと、悪魔の笑みを浮かべるアオカ。
騎士の情けで返してやらなくもないが‥‥とりあえずは「ここまでおいで」と腰みのを振りかざして逃げるしっぽの女王。
●さよなら、ぼっち三兄弟!
愉快な仲間達が繰り広げる大騒ぎを、一歩引いた所で冷静に見守っていたラーン=テゴス(
gc4981)は、愛機輝4号の照準最適化機能を起動させた。
(半裸の巨人とはな)
誘導されて来たぼっち達を半ば呆れ気味に見る。しかも中の一体は半分どころではない脱ぎっぷりだ。
こんな連中が相手かと思うと、溜息のひとつも吐きたくなる所だが‥‥
「ほらほら、足を止めると痛いぞ?」
仲間の誘導中に足を止めたぼっちを、奉天製の20mm長距離機銃や20mm機銃で撃って移動を促す。
目的の場所まで来ると、ラーンは最初に走り込んできた赤ぼっちに向けて滑腔砲オブイェークトをぶっ放した。
まずは足下の地面に一発。そこに足を取られて転んだ所で、倒れた背中にもう一発。
「そう言えば、落とし穴を掘る様な事を言ってた様だが‥‥」
これで代わりになるだろうか。
「上等‥‥」
ぽつりと呟いた百白がH12ミサイルポッドを撃ち込んだ。
「射撃は‥‥苦手だが‥‥これで‥‥当たるだろ」
至近距離の動かない的。これで外したら虎白に申し訳ない。
「‥‥」
よし、当たった。その弾みでぼっちの体が跳ね上がり、少し上体を起こした形になった。
高速装輪走行で素早く背後に回り込んだラーンが量産型機刀「凪」を足の間に突っ込み、股から尻へとそのまま斬り上げる。
すさまじい悲鳴と共に、その巨体は穴の中へ崩れ落ちた。
一体、撃破。
「次を‥‥喰らうぞ‥‥」
百白は次の獲物に狙いを定める。
‥‥が、何故か気になる痛KV。百白は思わずその動きに見入ってしまった。
鼻息も荒く追いかける黄ぼっちの前で、それはぴたりと足を止める。
「巨乳美少女だと思った? ざぁーんねん♪」
ちっちっち、と指を振った次の瞬間。
「余はテラドゥカスである!」
野太い濁声が荒野を震わせた。そして露わになる、鏖殺大公テラドゥカスの真の姿!
『ごぶっ!?』
精神に絶大なダメージを受けた相手が呆然としている間に、ビリティスはリーヴィエニAを併用したファランクス・ソウルで弾をバラ撒きながら背後に回る。
背中にぴたりと貼り付いて、愛の言葉を囁いてみた。
「先程まで余に心奪われていたではないか‥‥照れるでない‥‥我が愛を受けよ!」
ぶっすうぅぅ!
機杭「ヴィカラーラ」をぶち込んだ!
何処にって‥‥まあ、それはともかく。
ぶち込まれて昇天したぼっちは‥‥合体して大きくなった。腰みのも赤青黄色の三分割カラーとなって復活している。
「巨大化した!? 罠が効果ないなら突撃してもいいよね!」
相対的に更に縮小した旭が、巨大ぼっちの足下でぴょんぴょん跳ねている。
その理屈はどうかと思うが、この際そんな事はどうでも良い。
旭はナイフを投げつつ接近し、届く範囲に聖剣「デュランダル」を突き刺していく。
攻撃力の点ではKVにも劣らないのだが‥‥見た目はまさに一寸法師と針の剣で、どうにも強そうには見えないのが困ったものだ。
「行くぞ‥‥虎白‥‥」
敵の機動力を削ぐべく、百白が動く。
「大物を‥‥喰らうぞ‥‥」
旭とは反対の足に回り込み、足の関節にストライクファングを、バランスを崩した所に今度はクラッシュテイルを叩き込んだ。
「生身で‥‥コイツは‥‥キツイだろう?」
確かにキツい。
だが、その時彼が別方向から受けていた攻撃は、更にキツいものだったのだ。
「‥‥こ、これも‥‥剥ぐの?」
ヤエルの視線が彷徨っている。
「‥‥と、とりあえず、腰みの‥‥剥ぐなんて、そんな破廉恥な! 乙女のする事じゃないと思うの!」
代わりに長距離バルカンで腰みのを狙う。
銃の乱射でボロボロにするのは乙女がやっても良いのだろうか。
バルカンの掃射を浴びて飛び散る腰みの! このままカメラを回し続ける事は出来ない!
と、その時‥‥ぼっちの股間が光った。ヤエルがヤケクソで照明銃を撃ち込んだのだ。
眩しくて見えないそこに、巨大なハンマーが迫る!
下段から思いきり振り上げ、そのまま振り下ろす最凶の攻撃。名付けて黄金砕く最強の鎚。
「‥‥いえ、カメラが随分と見苦しいものを捉えましたもので」
アオカが極上の笑みを浮かべた。武士の情けって、何の事?
その直後、スライディングで脚の間に滑り込んだビリティスが上に向けてライフルを連射した。
「レッツパァリィ! ブルァァアア!」
――ぼとり。何かが落ちた。上から絶叫が聞こえる。
しかし、流石に巨大化の後は体力も半端ないらしい。股間から血を流したまま、ぼっちはヤエルに迫った。
「全世界の乙女に代って、痴漢撃退だよ!」
ヘビーガトリング砲で弾幕を張りつつ、ミチェーリで全力粉砕! しかし、敵もしぶとい!
「右いって左いってストレート‥‥右いって左いってストレート‥‥」
ぶつぶつ言いながら殴り続け、最後は全力凹殴り!
「早く倒れてよ! ばかぁ!!」
暴れるヤエルの隣では、シャルロットが自棄を起こしていた。
「この依頼が終わったら‥‥掃除とか! 洗濯とか! 溜まりに溜まった家事がたくさんあるんだから‥‥さっさとバグア遊星にでも帰れぇぇぇ!」
6本の腕を使った怒涛のオラオララッシュが炸裂する!
更に背後からは、シノンが大事な腰ミノのヴェールに隠されていた大事な場所を掘削していた!
「ドリルッ! ドリルッ! 掘る! 掘る! 掘リルッ!」
それを見て、アオカがぽつりと呟く。
「シノンてやっぱりそういう趣味‥‥」
幼馴染としてそれはないわー、という表情をしているが‥‥それはお互い様という気も、しないでもない。
そして、掘られて暴れるぼっちの足に百白が追撃を加える。
「暴れるな‥‥面倒だから‥‥」
動きを止めた、その真上から一寸ぼっちが降って来る!
ラーンの手で垂直に投げ上げて貰った旭は、そのまま上から両断剣・絶で大ぼっちの脳天に一撃!
「これぞ友情パワー的な何か!」
ぼっちに効果は抜群‥‥だったらしい。
「ガアアァァァァァ!!」
百白が吠えた。
それは、戦闘終了の合図。
「残りの戦場でも‥‥頼むぞ‥‥虎白」
ぼそりと相棒に語りかける。
その向こうでは演劇部の集団が互いを労っていた。
「今回もいい仕事したねっ!」
アオカの呟きなど知らないシノンが爽やかな笑顔で言う。
シャルロットも憑き物が落ちた様に晴れやかな表情をしていた。
「さぁ、クリスマスに向けて演劇部の稽古の準備をしよう♪」
お題は、一人ぼっちのクリスマス?